退職金

 通常、退職金は、3つの性格を併せもつと解釈されております。
 ① 賃金後払いの性格
 ② 功労褒賞的性格
 ③老後の生活保障的性格

 どの性格が強いかは、個々の実態に即して判断することになります。

 一般的に、「自己都合退職」や「懲戒事由」によって退職金を減額するケースが多いのですが、「勤続年数を基礎とした支給率」によって支給している場合、勤続年数に応じて増加する支給率には「①賃金後払いの性格」が、また、勤続年数に応じて逓増する支給率には「②功労褒賞的性格」が認められる根拠となります。Fotolia_30314181_XS

 争われた場合に何も対策を採らないと、② 功労褒賞的性格が認められ「過去の褒賞を打ち消すほどの理由がない」として減額が認められないことになります。よって、退職理由などによって減額を規定するという場合には、退職金規定に退職金の定義・目的を明確に記載するなどの対策をすべきです

 退職金は、労働基準法上は「臨時に支払われる賃金」とされており、退職金制度を設けるかどうかは事業主の任意です。法律で支払いが義務付けられてはいませんので、払わなくでもよいものなのです。

  労働基準法89条は、就業規則の記載事項として「退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」をあげています。ここでいう退職手当とは、労使間において、労働契約等によってあらかじめ支給条件が明確になっており、その受給権が退職により在職中の労働全体に対する対償として具体化する債権であればよいとされており、支給形態が退職一時金であるか退職年金であるかは問いません。

 就業規則等に退職金規定が明文化されていない場合であったとしても、過去に退職金支給の実績が複数回あり、退職金支給の慣行があると認められる場合は、それは「賃金」にあたり、退職金の支払義務が発生することとなります。今後就業規則等に定めるべきです。

 就業規則や労働協約等によって予め支給条件が明確である場合の退職金については賃金と認められますが、口頭での約束や恩恵的に支給されている退職金に対しては、賃金とは認められません。

 退職金は金額が大きいだけにトラブルに発展し、最終的に裁判沙汰になることも少なくありません。慎重に規定する必要があります。

 賃金と同様に、就業規則本体で詳細に定めるのではなく、別規程を作成しておくのが一般的です。 (附属規程「退職金規程」)

 パートタイマーに対しては、退職金を支払わない場合や別の方法により支払う場合には、その旨を定めておかなければなりません。パートタイマーを適用除外にしておかなければ、正社員と同様の退職金を支給することにもなりかねません。

 退職金について就業規則等に定める場合には、賃金に関する事項と同様に、
 ① 適用される労働者の範囲
 ② 退職手当の決定、計算及び支払いの方法
 ③ 退職手当の支払い時期
の3つについて定めておかなければなりません。

退職金制度

退職金の支払時期

 退職金は賃金に該当し、労働基準法23条1項「労働者の退職の場合に労働者から請求があれば7日以内に支払わなければならない」とされています。

 ただし、退職金は、支払期日を就業規則で明示していれば、その期日に支払うことが認められます。支払期日がない場合には、本人からの請求があれば、7日以内に支払わなければなりません。

 就業規則や退職金規程で退職金について定める場合は、退職金の支払い期日についても必ず定めておかなければなりません。

 なお、必ずしも支給月日まで特定しておく必要はなく、例えば退職金は、原則として退職の日から1ヵ月以内に支給する」などのような定め方でも差し支えありません。

退職金の支払期日を遅らせること について

 

退職金の分割支給

 退職金の分割支給について、就業規則や退職金規程などに退職金の分割支給に関する定めがあれば、分割して支給することができます。

 退職金を分割して支給するためには、分割支給することがある旨を定めるだけでなく、「退職手当は、原則として退職の日から1ヵ月以内にその2分の1を、6ヵ月後に残りの2分の1を支給する」などのように、分割する回数、それぞれの支払時期等について、あらかじめ就業規則や退職金規程などに定めておく必要があります。

 

退職理由によって支給率に差をつけること

 自己都合退職会社都合退職の場合で、支給率に差異を設けることについて、特に法律上問題はありません。

 退職金制度の有無や、制度を設けた場合の退職金支給率、算定方法その他の支給条件をどのようにするかは、企業の自由とされています。
 また、自己都合退職と会社都合退職の場合とで、支給率又は金額に差異を設けることは通例であり、法的な問題は特にありません。
 一般的に、退職金の支給率や支給金額は、定年退職及び会社都合による整理解雇等の場合には優遇され、懲戒解雇又は諭旨解雇する場合には不支給又は減額するという内容のものが多くみられます。

 ただし、企業の従業員構成によっては、例えば、特に女性が多い職場は定年退職するような通常退職が稀にもかかわらず、基準率を通常退職に設定している場合等は、従業員側からすると不服とする制度となる場合もあります。退職理由によって基準率が異なる場合、削減率や割増率等を用いて調整を図ることも一つの方法と思われます。

退職金の不支給、減額、返還

退職金制度を廃止

(判例)

宇田工業事件 大阪地裁判決(昭和60年12月23日)
江戸川製作所事件 最高裁第3小(昭和44・9・2)
大室木工所事件 浦和地裁熊谷支部決定(昭和37年4月23日)
神奈川信用農業協同組合事件 最高裁第1小(平成19.1.18)
久我山病院事件 東京地裁判決(昭和35年6月13日)
久保商店事件 最高裁第2小(昭和58.9.9)
興栄社事件 最高裁第1小(平成7・2・9)
小倉電話局事件 最高裁第3小(昭和43・3・12)
三基産業事件 東京地裁判決(昭和60年2月5日)
日本高圧瓦斯工業事件 大阪地裁判決(昭和59年7月25日)
日本赤十字社事件 東京地裁判決(昭和45年11月30日)
パリス観光事件 山口地方裁判所宇部支部(平成9年2月25日)
平和運送事件 大阪地裁判決(昭和58年11月22日)
前田製菓事件 最高裁第2小(昭和56・5・11)
三菱自動車執行役員事件 最高裁第2小(平成19.11.16)
森島事件 最高裁判所大法廷(平成5年3月24日)

 

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