人事考課
人的資源管理は、経営資源管理の蓄積であり、目に見える形で計測し定量化する必要があります。企業は、評価(人事考課)により従業員の習熟度やモチベーション、さらには成果を正しく計測する必要があり、その結果により適切な処遇や教育を行わなければなりません。
一方、評価(人事考課)を行うのは人間であることから、日常からの人間関係による情や相性など、個人の主観の一切を除外するのは容易なことではないと言えます。こうした個人の主観による心理的誤差が生じないよう、人事考課者の意思統一や訓練を行うことが重要だと言えますが、近年では被評価者自身が参画する自己申告制度や、人事考課者以外を参加させる360度評価制度(多面評価制度)も広く採用されています。
人事考課とは、「労働組織上の配置、昇給・賞与額の決定などのために、労働者の日常の勤務や実績を通じて、その能力や仕事ぶりについて成績評価し、それを賃金、昇進、能力開発等の諸決定に役立てる手続」をいいます。
人事考課
従業員を一定の基準で公平に査定し、公正かつ適正な処遇を行うことを目的とします。
会社への貢献度や職務遂行能力、業績やスキルなどの成果に対し、個人の主観による心理的誤差の生じないよう査定を行い、給料、昇格、配属・配置などの人事に反映していきます。貢献度の高い従業員には昇給や昇格など待遇を改善し、さらなるモチベーション向上を図ります。自己評価と他者評価に大きな誤差が生じるようであれば、面談などを通して課題の共有や意識改善を促します。
人事考課で重要なのは、従業員が会社に対し、不信感や不満を抱くことなく円満な関係を築くことにあり、企業の目指す方針や方向性を共有するとともに、従業員のモラル向上を促す仕組みが「人事考課」であると言えます。
人事考課の目的
(1)従業員の指導・育成の指針とする。
従業員に必要としている職務や課題と本人の能力や実績を比較・分析し、指導・教育、または自己啓発のための指針とする。
(2)公正・公平な昇給・昇格の査定を行う。
従業員の能力や実績を一貫した方法で評価し、公正で公平な昇給・昇格に結びつけ、処遇に対する納得感を持たせる。
(3)安心して働けるルール作り
就業規則もそうですが、給与体系や人事考課制度作成し、従業員にオープンにすることにより安心感や公平感、納得感が得られ、従業員の定着化が図れます。
人事考課の目的は単に昇給・昇格を決めるだけでなく、従業員の能力開発と育成を基本として、処遇に納得感がありやる気のある生き生きとした組織作りと、安心して働ける、即ち従業員の定着化を目指す制度であり、その観点に立った運用が求められます。
人事考課には次の2つの要素があります。
(1)単年度評価
考課対象期間である1年間の、能力の発揮度及び成果について評価しますので、毎年必ず行われることになります。
(2)等級評定
上記の単年度評価の結果など、一定条件を満たした者に対し、職務遂行能力に基づき等級評定を行います。
単年度評価が1年間の能力の発揮度の評価であるのに対し、等級評定は入社以来蓄積された能力の保有度を評価するものです。
等級が上がれば昇格、下がれば降格であり、それに連動して給与の職能給が上下することになります。
人事考課のメリット
多くの企業で人事考課制度が取り入れられており、企業の成長と従業員のモチベーションアップに人事考課は不可欠だと言われていますが、人事考課を行うことの具体的なメリットにはどのような点があげられるのでしょうか。
1 意識の共有ができる
人事考課の評価基準を作成し従業員に公開する事で、企業の方針や考え方、ミッションやビジョン、そして行動規範となるバリューの浸透を図ることができます。まさに、従業員に期待する行動規範を明文化したものが評価基準であり、その評価軸を実践する事が評価につながれば、自ずと目標に向かって業務を遂行できるようになります。
2 生産性が向上する
従業員の貢献度、職務遂行能力、業績やスキルなどの成果に見合った昇給・昇格を公正な基準で行うことで、従業員のモチベーションは今まで以上に向上し、より高い成果に向け日常業務や能力習得に励むことができます。一人ひとりの生産性向上は、会社全体の生産性向上へとつながり、結果、大きな成果が期待できます。
3 人材育成を促進する
人事考課制度では、評価基準が明確となり評価後のフィードバックも行われるため、「自身の課題」や「今後の目標」が明確になります。その課題に対し、セミナーや研修など会社や上司のサポートを受け学習したり、自主学習を行うことでいち早くスキル向上を図る事ができます。
4 信頼関係が向上する
上司からの適切なフィードバックを受けることで、上司部下の信頼関係を強める事ができます。またフィードバックは、個人の成長を促す会社の姿勢でもあることから、その会社への信頼感と安心を醸成することにもつながります。また、フィードバックで従業員の努力をしっかりと認めてあげることで、さらなる信頼関係の構築を図ることもできます。
評価項目
一般的な考え方を示すと次のようになります。
1.期待成果
期待成果とは、会社として「期待通りの成果を出して欲しい」という期待です。
営業であれば売上高、粗利額などですが、総務などスタッフ部門では業務を行うことだけではなく、その結果どのような成果を出すのかを明確にすることが必要です。会社にどのような貢献をしたかが成果ということになります。
各部門は会社の収益向上のために存続しており、そのために何を行いどのような成果を生み出すかという観点で部門の役割を明確にします。
一般的には次の分野での役割があります。
項 目 |
内 容 ・ 例 |
1.収益性 |
粗利益、利益率、経費、コスト削減、回転率、ロス率など |
2.市場での地位 |
売上高、マーケットシェア、製品サービスの品質、ブランド力など |
3.生産性 |
業務効率、業務プロセス改善、一人当たりの生産性、時間外労働など |
4.イノベーション |
新商品売上、新規顧客開拓、新システム導入など |
5.顧客サービス |
顧客満足度、リピート購買率、顧客維持率、顧客シェアなど |
6.人材育成 |
新スキル獲得、業務時間、成約率など |
(顧客サービスは社外の顧客だけでなく、社内の顧客も対象になります。)
期待成果明確化のために
「何のために、その部門、その部署があるのか」という観点で考えていけば、部門の使命は判明します。
期待成果は「何をするか」ではなく、「どういった成果が求められているか」を取り上げるということです。
営業や製造などライン部門は成果が直接的で明確であるためウエイトを大きくし、総務や経理などスタッフ部門は成果が測定しにくかったり、他部署の影響を受けたりするので、ウエイトを小さくした方が納得性が高くなります。 また、管理職はウエイトを大きくし、一般職はウエイトを小さく設定します。
2.期待行動
「高い成果を上げるために、やるべきことをしっかりやって欲しい」という期待行動は、業績向上のためには不可欠なものであり、これを向上させることが安定的な業績の向上につながります。
また、この期待行動が指導のポイントとなります。期待行動は、期待成果を達成するために具体的にどのような業務をどの水準で行うかということになります。
また、「どのように行うか」ということですから、評価基準は文章で表現することになります。すなわち「しっかり行う、模範的に行う」とはどうすることなのかを文章で表現し、そのように指導するとともに評価をしていきます。それぞれの業務について、「模範的に実施している」とはどのように実施することなのかを具体的にしていけばよいわけです。
3.知識・技術
必要な時に必要な行動をとってほしいという期待があります。
仕事に生かされてはじめて意味のあるものであり、あまり大きくすると仕事をするより勉強した方がよいということになりますので、ウエイトは低めでよいと思います。
4.勤務態度
専門知識、技術だけでなく、組織人として当然守ってほしい規律や協調性などを身に付けて欲しいという期待があります。
直接的には会社の業績には関係ない部分ですが、長期的には必要な項目です。共同作業などの場合では特にこの部分が必要になってきます。これらの期待項目を書き表したものが「評価シート」になります。
人事評価項目のウェイト
実際には、一つの評価項目について、それぞれ3~5項目の考課要素がありますから、要素ごとにウエイトを決めていく必要があります。最初はシンプルにした方がよいでしょう。
等級別評価ウェイト配分の例
評価手法を、どのようなウェイトで適用するかを等級別に決めます。
・全社員を対象に望ましい行動規範を浸透させるため、行動評価を実施
・上位等級は、部門の課題に適した「目標による管理」と業績評価を実施。
・下位等級は、専門知識、・技能の育成を重視し、重点業務のスキル評価を実施。
「業績・行動評価」型
全従業員を対象に業績評価と行動評価をする方法です。
上位等級は業績評価に、下位等級は行動評価にそれぞれウェイトを置いて成績を決定します。
「業績・行動・スキル評価」型
行動評価は全員に適用しますが、業績評価は管理職クラスだけに適用し、下位等級にはスキル評価を適用する方法です。
評価表 項目・着眼点 の例は こちら
人事考課表 一般用 の例は こちら
人事考課表 管理者用 の例は こちら
評価の段階 に続く
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