採用
労働者の採用に関しては、「契約の自由」の原則が適用されます。どのような労働者を採用するかは、使用者が決めることができます。
憲法第22条、第29条等により財産権の行使、営業その他の経済活動の自由が保障されているので、使用者は、かかる経済活動の一環として契約締結の自由を有し、いかなる者を、いかなる条件で雇うかについて、「法律その他による特別の制限がない限り」原則として自由に決定することができるとしています(三菱樹脂事件 最高裁 昭48.12.12)。
企業に採用人数や採用基準等について「採用の自由」があるといっても、募集やその後の面接時には注意しなければならないことがあります。
・求職者に誤解を与えるような虚偽の求人広告を出してはならない(職業安定法第42条)。
(違反者には、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑です。)
・労働者の募集及び採用について、性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならないこと(男女雇用機会均等法第5条)
・募集及び採用について、年齢にかかわりなく均等な機会を与えるように努める義務(雇用対策法第7条)
・一定の雇用率に達する人数の身体障害者または知的障害者を雇用すべき義務(障害者雇用促進法第43条)
・労働組合法による不当労働行為の禁止(労働組合法第7条)
「使用者が、特定の思想・信条を有する者を『その故をもって』雇入れを拒否しても、それを当然に違法とすることは出来ない。」(三菱樹脂事件 最高裁48.12.12)
採用・面接は、応募者に広く門戸を開き、応募者の基本的人権を尊重し、応募者の適性・能力のみを選考の基準とするということを原則にすることが大切です。
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公正な採用選考を行うことは、家族状況や生活環境といった、応募者の適性・能力とは関係ない事柄で採否を決定しないということです。そのため、応募者の適性・能力に関係のない事柄について、応募用紙に記入させたり、面接で質問することなどによって把握しないようにすることが重要です。これらの事項は採用基準としないつもりでも、把握すれば結果としてどうしても採否決定に影響を与えることになってしまい、就職差別につながるおそれがあります。
面接時に配慮すべきこと
『面接』を行う場合、職務遂行のために必要となる適性・能力を評価する観点から、あらかじめ質問項目や評価基準を決めておき、適性と能力に関係のない事項を尋ねないよう留意しましょう。また、応募者の基本的人権を尊重する姿勢、応募者の潜在的な可能性を見いだす姿勢で臨み、できるだけ客観的かつ公平な評価を行うようにしましょう。
(1) 本人に責任のない事項を質問すること
・本籍・出生地に関すること
「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します。本籍地を調べるのは、特に同和地区の人たちを差別的に取り扱うためにできあがったらしいです。
・家族に関すること(職業、続柄、健康、地位、学歴、収入、資産など)
家族の仕事の有無・職種・勤務先などや家族構成はこれに該当します。
・住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など)
・生活環境・家庭環境などに関すること
本籍地を調べることと同様に応募者に不安を与え、特に同和地区住民を排除する目的があるのではないかと疑われることとなります。
(2) 本来自由であるべき事項を質問すること
・宗教に関すること
・支持政党に関すること
・人生観、生活信条に関すること
・尊敬する人物に関すること
・思想に関すること
・労働組合・学生運動など社会運動に関すること
・購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること
採用選考時に配慮すべきこと
以下を実施することは、就職差別につながるおそれがあります。
・身元調査などの実施
「現住所の略図」は生活環境などを把握したり、身元調査につながる可能性があります。
・合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施
労働条件の明示
労働者を採用し、労働契約を結ぶ場合には、使用者は、労働者に対して賃金、労働時間などの重要な労働条件については書面で明らかにしなければならないとされています。
「労働条件通知書」といった労働条件を記載した書面を交付する義務があります。
就業規則の開示をせず、就業規則の内容について不十分な説明しか行われなかった場合には、労働基準法第15条違反となります。(日新火災海上保険事件 東京高裁 平12.4.19)
労働契約の締結に際し、明示しなければならない事項には、必ず明示しなければならない事項(絶対的明示事項といいます)と、定めをする場合には明示しなければならない事項(相対的明示事項といいます)があります。
1 絶対的明示事項
① 労働契約の期間に関する事項
② 就業場所及び従事すべき業務に関する事項
③ 始業および終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇ならびに労働者を2組以上に分けて就業させる場合の就業時転換に関する事項
④ 賃金(退職手当および臨時に支払われる賃金を除く)の決定、計算および支払いの方法、賃金の締切りおよび支払いの時期ならびに昇給に関する事項
⑤ 退職に関する事項
明示事項のうち、就業規則の必要的記載事項の部分については、その労働者に適用される部分を明確にして就業規則を交付するべきです。(平成11.1.29基発第45号)
就業規則に記載がない事項については、別に書面で明示するべきです。
従事すべき業務については、将来従事させようという業務を併せて網羅的に明示することは差し支えありません。退職に関する事項については、退職の事由及び手続、解雇の事由等を明示しなければなりません。
退職に関する事項、退職の事由及び手続、解雇の事由等を明示しなければなりませんが、明示事項の内容が膨大なものとなる場合は、適用される就業規則の関係条項名を網羅的に示すことで足りるとされています。
退職には、任意退職、定年制、契約期間の満了による退職等も含みますが、退職手当に関する事項は含みません。
①~⑤(絶対的明示事項)に関する事項については、これらの事項が明らかとなる書面を労働者に交付しなければなりません(昇給に関する事項については、書面でなくてもよいとされています)。
従事すべき業務については、将来従事させようという業務を併せて網羅的に明示することは差し支えありません。
退職に関する事項については、退職の事由及び手続、解雇の事由等を明示しなければなりません。
2 相対的明示事項
⑥ 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算および支払の方法ならびに退職手当の支払時期に関する事項
⑦ 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与および労基則8各号に掲げる賃金ならびに最低賃金額に関する事項
⑧ 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
⑨ 安全および衛生に関する事項
⑩ 職業訓練に関する事項
⑪ 災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項
⑫ 表彰および制裁に関する事項
⑬ 休職に関する事項
⑥~⑬(相対的明示事項)は、それらに関する定めを設けている場合にのみ、明示する義務を負います。
労務管理上は、双方の捺印をもらうようにした「労働条件通知書」の交付がより効果的と思います。
パートタイマーに対しても、使用者は賃金・労働時間などの労働条件を明示する義務があります。
平成20年4月のパートタイム労働法改正より、パートタイマーに対しても労働条件の文書交付等による明示が義務化され、違反の場合は過料(10万円)の支払が命じられることとなりました。
採用前に明示された労働条件が採用時点で異なれば、労働者は労働契約を解除できます(労働基準法第15条第2項)。
また、使用者側に十分な理由もなく入社日またはその直前まで労働者に告知しなかったような場合、または確定額が大幅に下回る場合には、応募者の期待に企業も誠実に対応すべきとして、労働契約上の違反として、損害賠償が認められます(八洲測量事件 東京高裁 昭58.12.19)。
(判例)
協和醗酵事件 東京地裁判決(昭和34年6月4日)
中日新聞社事件 東京地裁決定(昭和49年3月20日)
東京エグゼクティブ・サーチ事件 最高裁第2小(平成6・4・22)
日本求人協会事件 最高裁第2小(昭和57.4.2)
日立精機事件 千葉地方裁判所(昭和56年5月25日)
安田火災海上保険事件 福岡地方裁判所小倉支部(平成4年1月14日)
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