医療改革

 日本が世界に誇る国民皆保険制度は、いつでもどこでも 低い自己負担で医療を受けられる便利さで、日本人の健康生活に長く貢献してきた。

 誰もが低い自己負担で医療を受けられる国民皆保険は、1961年に導入された。これにより、高度経済成長期以降、日本人の平均寿命は世界最高レベルへと上昇した。しかし、高齢化社会を迎え、生活習慣病なども増えたことから、医療費は増大の一途をたどっている。

 厚生労働省は、2017年9月13日、2015年度に病気やけがの治療で全国の医療機関に支払われた医療費の総額(国民医療費)が42兆3644億円であったと発表した。国民一人当たりでは 33万円3300円。いずれも9年連続で過去最高を更新した。国民医療費が国民所得に占める割合は10.9%。65歳以上の高齢者は25兆1276億円で 59.3%を占めた。Fotolia_100782696_XS

 医療費を賄う財源を見ると、国民や企業が負担する保険料が全体の 48.8%に当たる20兆6746億円。国と地方を合わせた公費は16兆4715億円(38.9%)、患者が窓口で支払う自己負担は 4兆9161億円(11.6%)であった。

 政府の推計では、医療費は2025年度に54兆円に達する見込みで、その後ますます肥大していくと見られる。2025年には団塊の世代が75歳を迎え、いよいよ日本は「超高齢社会」に突入する。医療制度の改革は急務です。

参考

安易な受診と医療費の増大につながる国民皆保険

 日本の国民皆保険は、世界でも大変恵まれている制度です。たいていの治療や薬は保険の対象で、病院の窓口で医療費の3割分を払えば、全国どこでも医療サービスを受けられます。

 しかし、この手厚すぎる保険によって、国民が「医療は安い」という認識を持ち、風邪で大病院にかかったり、軽症でも救急車を呼んだりする人もいます。日頃からの不摂生が主な原因となる生活習慣病にかかわる医療費も増え、全体の3割以上を占めています。

 また、75歳以上の高齢者は、原則として窓口で医療費の1割を負担すればよいため、さらに安易な受診が増えています。こうして医療費は際限なく拡大し、保険料負担も税負担も増え続けています。「治療や投薬をすればするほど病院に報酬が支払われる」という制度には問題がある。

 医師の半数が現在の国民皆保険を「持続不可能」だと考えていることが明らかとなった(2017年6月30日付日経新聞)。

 1030人の医師がアンケートに回答し、「現状の皆保険制度に基づく医療は今後も持続可能と思うか」という質問に対し、52%が「そうは思わない」と回答。25%が「そう思う」、22%が「分からない」と答えている。

 持続できないと答えた医師からは、「高齢者の医療費が増大しすぎている」「過剰医療も大きな問題」との声が挙がった。持続可能だとした医師も、「消費増税があれば」「患者負担の増加が必要」という条件を示しており、現状のままでの制度維持は難しいという認識です。

 

自分の健康に責任を持つことが医療費問題の解決につながる

 厚生労働省の有識者懇談会では、増え続ける医療費の抑制のために、いわゆる団塊ジュニアが65歳になる2035年までに以下のような制度の改革に取り組む提言をした。

 新薬を使う患者の自己負担率を高め、割安なジェネリック(後発)医薬品の普及を強化する。

 都道府県によって一人あたりの医療費負担の平均がおよそ1.6倍も異なる現状がある。そこで、人口構成などをもとに医療費の総額を地域ごとに算定し、総額を上回った場合は、地域全体の医療機関に支払う診療報酬を引き下げる仕組みの導入を検討。

 入院患者の自己負担を引き上げる一方、在宅で治療を受ける患者の自己負担は引き下げることで、入院の長期化を抑えることを検討。

 かぜなどの軽症の患者の自己負担の割合を高くする。

 たばこ税や酒税に加え、心筋梗塞などのリスクを高めるとされる「トランス脂肪酸」を含む食品などへの課税強化を検討。

 政府が出した提言で、地域ごとの医療費総額を減らすように努力を促す考え方や、患者の自己負担を高めて「自己責任」の考え方を国民に持たせる仕組みづくりは評価できる。軽症でも大病院を受診する患者によって医療費が増大していた現状も、予防医療の普及と、健康管理への自己責任感を高めることで改善が期待できる。

世界でも長い「寝たきり期間」

日本の医療の問題点

1 患者のニーズに合った医療サービスが提供できていない
 夜間や休日に診療をしている病院が少ない
 大病院に人が集中し「3時間待ちの3分診療」などの問題がある
 混合診療が禁止され、患者が最新の治療を選びにくい

2 国による規制で自由な医療ができず、病院の7割は赤字
 政府の規制が多く、医師が医療技術やサービスの向上のために切磋琢磨するモチベーションが高まらない
 非効率な病院経営で赤字になっても、税金で補填されるために病院として経営マインドが育ちにくい

3 医療費の増加による財政の圧迫
 高齢化・生活習慣病の増加で、医療費が増大し、国の財政を圧迫している

 

現状は政府が医療サービスの内容と価格を決定・管理している

 医療においては、提供できるサービスの内容と値段を政府が決めています。政府が認めた治療法や薬でなければ保険が利かないため、それ以外のサービスを提供することは困難です。さらに、医療者の腕の善し悪しに関係なく、一律にサービスの価格が定められています。

国民側

 高い医療負担
  収入の約1割が医療保険料として徴収される(会社勤めの場合は労使折半)。
  それではまかないきれず、医療費の約4割は税金から補てんされている。 

 安易な受診による医療費の増加
  自己負担が低いため、軽症でも病院を受診。
  生活習慣病の増加と高齢化で医療費が拡大。

医療者側

 「市場原理」が働かない
  医師としての技術を磨くモチベーションが上がりにくい。
  外科、産婦人科、小児科などリスクが高い診療科は担い手が少なく、医師が偏在している。

 必要以上の投薬や検査が行われている
  治療をするほど収入が増える「出来高払い制度」によって過剰医療に陥りやすい。

このままでは

 2025年には団塊の世代が75歳を迎え、「超高齢社会」になる。
 莫大な高齢者医療費で国家財政が悪化する。
 優れていると言われた日本の医療システムが崩壊し、国民の健康を守れなくなる。

 

 高齢者や非正規社員の加入が増えている国民健康保険は、加入者の年齢が高く医療費がかかる一方、平均収入が比較的低くて十分な保険料が集まらないため、赤字構造を抱えている。

 国保を維持するため、運営を市町村から都道府県に移すことで、財政基盤を強化することや、国保への公費投入額を年3400億円に拡大することも決定した。この財源を捻出するため、大企業の社員が加入する健保組合と公務員が加入する共済組合の負担増が盛り込まれている。しかし、国保を救済するために、大企業の社員が加入する健保の保険料負担を増やすという安易な方法では、時間は稼ぐことはできても、根本的な解決にはならない。

 患者と医療者の両方の意識改革

混合診療の解禁 を

 近年、生活習慣病の診療が増え、医療費を押し上げている。窓口負担が少ないため、安易に病院に行く患者が多いことや、医療行為が多ければ多いほど医療機関の収入が増える「出来高方式」の診療報酬制度によって、病院による不必要な検査や薬の使用が行われる「過剰医療」などが問題になっている。

 日本の医療は、「出来高払い制度」を採用しており、治療をすればするほど病院側の収入は増える。そのため、必要以上に患者に薬を処方しがちになるなど、過剰医療に陥りやすい。

 生活習慣病などの症状を抑えるために、一生薬を飲み続けたり、抗がん剤の副作用を和らげるためにさらに薬を処方されるなど、患者が薬漬けになるケースが増えている。

 実際に、日本の平均在院日数、人口当たりの病床数のどちらも諸外国と比較して異常なほど高い。また、国民一人当たりの外来受診回数も群を抜いている。

 必要な人に必要な医療を施すことは重要である。だが、自立できる人までも病院漬けにしてしまうような医療には問題がある。

 個人の医療費負担が少ないため、努力して病気を予防するという「予防医療」の観点が欠けがちであることも指摘される。政府や医療機関、国民が一丸となって予防医療に取り組むことが必要です。

医学が進歩すればするほど、いろいろな病気が出てくる

 予防医療の推進に加え、具体的な制度の改革としては、医療サービスの価格を段階的に自由化すること検討すべきです。病院によって患者へのサービスには差があるはずだが、現在は同じ医療行為に対しての価格は統一されている。

 この価格設定を自由化することで、病院間・医療者間の健全な競争環境が整い、患者を回復させる実績のある医者や病院が適切な評価を受けるようになる。さらに、「診断を中心とした安い病院」「高価だが丁寧なサポートをする病院」などサービスが多様化し、患者の選択肢も広がる。

 増税ではなく、「患者を卒業させた病院が評価される医療」に変化することが、医療問題を根本的に解決することになるでしょう。 

患者を卒業させる病院を

 新しい医療サービスのあり方は、自分の健康状態と相談しながら、働き方を決める「生涯現役社会」の重要なインフラとなる。

 増大する医療費の主な原因は、高齢者医療と生活習慣病の治療費である。必要以上の医療費が使われていないかを見直すとともに、病院経営を効率化させ、予防医療を強化するなど、根本的な医療費問題の解決策が求められる。

 その前提として必要なのは、患者と医療者の両方の意識改革です。国民一人ひとりが自助努力の精神で自分の健康に責任を持ち、管理すること、そして、医療者側も必要以上の医療行為を控え、患者が本来持っている力を引き出す方向で治療を行うことで、行き過ぎた医療負担を適正にすることができる。

医療も競争の時代

病院に経営視点からの改革

病院にマネジメントの考え方を取り入れる

 人間、自分の健康や老後のことは、基本的には自分個人の責任です。まず、個人があって、次に個人を支える家族の絆がある。その外側に、隣り近所や地域の助け合い、そして民間の医療や福祉サービスがある。このような主体があったうえで、それでもあぶれた人を救うのが、国や自治体が税金で賄う最低限のセーフティーネットであるべきなのです。

 ところが、今の日本は、セーフティーネットの部分を中心に担うべき国が、個人や家族の分まで一律に強制的にやったり、さまざまな制度や規制で民間の自由な参入を制限したりしている。国や自治体による社会保障の部分があまりに大きすぎて、本来あるべき姿が逆転している。

 

生活習慣病に対応できない西洋医学

 生活習慣を改めることなしに、生活習慣病を治すことは難しい。いくら薬を飲む「習慣」を身につけたところで、根本解決にはならず、いつまでも薬を飲み続けることになってしまう。その意味で、生活習慣病の治療において、医者は十分な役割を果たせていない。

 実際、糖尿病の治療を受けている日本人は500万人以上に上り、症状が重くなって人工透析を受ける患者は毎年約1万5千人のペースで増え続けている。透析の医療費は1人当たり年間約500万円かかり、2012年の糖尿病の治療費は年間で計1.2兆円に達した。生活習慣の改善がいかに難しいかを示している。

 また、日本人の死因第1位のがんも、飲酒、喫煙、食生活やストレスなどの生活習慣が主な原因である。がん細胞自体は体の中で毎日生まれているが、免疫細胞がそれを退治してくれている。生活習慣が乱れて免疫力が低下すると、がん細胞の増殖が上回って発症に至るので、がんも生活習慣病の一種と言える。

 だが、西洋医学は、人間をあくまで物質や機械として捉えて、病気はその故障のように解釈する傾向が強い。そのため、治療方法も手術や薬など、物質的なアプローチに偏っている。

 生活習慣に基づく現代の病気に西洋医学は十分対応できていないわけだが、生活習慣のもとには、一人ひとりの性格や考え方、意識の問題がある。ならば、医者に求められる見識も変化しなければならなりません。

 

医者も患者も努力する医療 

 医療の自由化は、国民にさまざまなサービスを安く提供するようになるでしょう。それは、一人ひとりに健康を保つための自助努力が求められるシステムでもある。 

 組合保険などは、特に病院間の価格差やサービス内容を厳しく比較チェックし始めると同時に、患者の生活習慣も評価するようになるでしょう。例えば、飲酒・喫煙の習慣がある肥満の人は、規則正しい生活をして運動の習慣のある人と同じ保険料では済まなくなる。通院履歴の個人差も保険料に反映されるようになれば、「皆保険だから安心」という医療依存から、「自分で健康を管理していく」という意識変革につながると考えられる。 

 医療機関も国民も共に自立して、自助の精神を発揮することが、持続可能な医療を実現させるに違いない。

 

国民と医療機関の双方に「自助努力の精神」

 国民一人ひとりは安易に医療に頼るのではなく、「自分の健康は自分で管理する」ことで、生活習慣病などを予防することが大切です。

 また、終末医療に関しては、少しでも長く生き延びることよりも、安らかな終末期を過ごすことの方が大切だという考え方もある。病院での延命治療だけではなく、在宅医療やホスピスなど患者の希望に合わせた幅広い選択肢が必要です。

 一方、効率の悪い経営をしている赤字病院は、国の税金に頼るのではなく、マネジメントの発想を取り入れ、経営改善する努力の余地がある。

 さらに、国が医療の価格を決める社会主義的な制度が、過剰医療などのひずみを生んでいるため、医療の価格設定にも市場原理を取り入れるなど、時代に合わせた医療制度に変えていくことが必要です。

 すべての人はこの世に使命を持って生まれている。その使命を果たすためには、病気にならないための生活習慣を心がけることも必要です。政府としても、予防医療を発展させる仕組みづくりが求められる。

 また、病気の原因は肉体のみにあるのではなく、心の持ち方とも大きく関係がある。周りを攻撃する思い、嫉妬心、恨み心、自己破壊想念などを長く持ち続けることで、病気になるケースも多い。病気の根本原因をなくすためには、自らの心を点検し、極端な部分を正すことも必要です。

 医療費問題解決のためには、「自己責任」の考え方に基づく新しい医療制度づくりと共に、こうした「霊的人生観」を広げ、国民の意識を変えていくことが求められる。

参考

従来の「社会主義的システム」から、今後は「自助努力型」が基本の社会に 

 

霊的人生観が医療のあり方を変える

 医療制度の自由化を推し進めると、患者の選択の結果に「差」が生まれることは避けられません。だからこそ、最後は「人生観」「死生観」が大事になってきます。

 現代の医療の目的は命を長らえさせることに主眼が置かれすぎ、高齢者の延命治療に膨大な医療費を費やしています。しかし、人生の末期に長く苦しみが続くと、亡くなった後にも苦しみを持ち越す場合もあります。

 人間の本質は魂であり、あの世が本来の世界です。そうであるならば、医療の役割は、この世での人生修行の途上において体と心の苦しみを取り除き、一人ひとりの人生の目的をまっとうできるよう支えることに徹するべきです。

 どんな形でも地上の人生を引き延ばせればいいというのではなく、あの世にスムーズに旅立つ心構えをすることが、真の幸福につながります。最後は、「霊的人生観」の普及が医療問題解決の大きな鍵となるのです。

医療費問題の根本解決には「霊的人生観」の普及が鍵

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