神経系

神経系の障害

 

神経系には中枢神経系(脳と脊髄)と末梢神経系(脳と脊髄以外の神経)という異なる2つの系があります。

 

 

障害の程度

1級

2級

3級

障害手当金

障害の状態

 

神経系統に日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの

神経系統に日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの

神経系統に労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの

神経系統に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの

四肢その他の神経の損傷によって生じる灼熱痛(しゃくねつつう)、脳神経及び脊髄神経の外傷その他の原因による神経痛、根性疼痛、悪性新生物に随伴する疼痛等の場合

軽易な労働以外の労働に常に支障がある程度のもの

一般的な労働能力は残存しているが、疼痛により時には労働に従事することができなくなり、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの

 

神経系統の障害は、基本は「肢体の障害」の認定基準に基づいて認定するが、発現部位に基づく障害の状況により、該当する診断書を複数用意する必要がある。例えば、脳の器質障害については、肢体の障害精神障害両方を総合的に評価して障害認定される。

 

脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、脳血栓など脳血管障害により機能障害を残しているときで、初診日から6月経過した日以後に、医学的観点からそれ以上の機能回復がほとんど望めないと認められるときは、初診日から起算して1年6月を経過した日以前でも障害認定日として取り扱う。

 

 

 神経系統の障害については、発現部位に基づく障害の状況により、該当する診断書を複数選択する必要があります。

 

 

 

脳卒中(脳血管障害)

 脳卒中は、正式には「脳血管障害」と言う名で呼ばれる病気で、脳血管疾患とは脳の血管が原因で起こる病気の総称である。

 

 脳卒中は、その原因が分かっていなかった昔には、「中風」と呼ばれていました。この「中風」と言う言葉のうちの「中」と言う文字には、「何かにあたる」と言う意味があって、脳卒中は「悪い風にあたって突然に倒れる病気」と言うふうに考えられていたため、そう呼ばれていたのです。それから、しばらくしますと「卒中」と呼ばれるようになりましたが、「卒中」と言う言葉のうちの「卒」と言う文字には、「にわかに、急に、突然に」と言う意味があって、「なにかに急にあたって、突然に倒れる病気」というように考えられていました。  近年になって、この病気の原因が脳にあることが分かり、最初に脳と言う文字がついて、脳卒中と呼ばれるようになったのです。

 

 脳卒中の最大の特徴は、今まで全く症状のなかった人に手足の麻痺やしびれなどが突然に起こることです。

 

 

脳の血管が何らかの理由により破損して出血し、そのため脳細胞が破壊される出血性「脳出血」「くも膜下出血」など)のものと、脳の血管が血栓によりつまる虚血性脳血管疾患「脳梗塞」「脳血栓」など)がある。

 

 

出血性脳卒中

出血性脳卒中には、脳の内部で起きる出血(脳内出血)と、脳を覆っている組織の内側の層と外側の層との間で起きる出血(くも膜下出血)があります。

 

出血性脳卒中の主要なタイプは、脳内出血とくも膜下出血の二つです。

頭蓋内に出血が起こるこれ以外の疾患には、硬膜外血腫と硬膜下血腫があり、これらは多くの場合頭部外傷によって起こります。これらの疾患は異なる症状を起こすため、脳卒中とはみなされません。

 

脳の血管が弱いかまたは異常な場合、あるいは、通常でない圧力がかかった場合に、出血性脳卒中が起こることがあります。出血性脳卒中では、脳内出血のように脳の中で出血が起こる場合と、くも膜下出血のように脳を覆っている組織の内側の層と中間の層との間(くも膜下腔)で出血が起こる場合とがあります。

 

 

 脳卒中の中でも、脳実質内に出血するものをいいます。

脳出血では、血管が破裂して血液が正常に流れなくなります。また、漏れた血液が脳組織の中に入っていきます。血液が脳組織に直接接触すると脳組織が炎症を起こして瘢痕ができることがあり、これはけいれん発作の原因となります。

 

治療

脳内出血の治療は、虚血性脳卒中の治療と異なります。抗凝固薬(ヘパリンやワルファリンなど)、血栓溶解薬、抗血小板薬(アスピリンなど)は、出血を悪化させるので、投与されません。抗凝固薬を服用している人が出血性脳卒中を起こした場合は、血液の凝固を助ける次のような治療が必要です。

ビタミンK(通常は静脈内投与)

血小板の輸血

血球と血小板を除去した血液(新鮮凍結血漿)の輸血

血液の凝固を助ける血中タンパク質(凝固因子)に似た合成物質の静脈内投与

 高血圧性脳出血の治療は、血腫による脳実質の損傷を軽くし、再出血や血腫の増大を防ぎ、圧迫によって血腫の周囲の二次的変化が進まないようにすることです。このため内科的治療としては、頭蓋内圧亢進に対する抗浮腫薬の投与、高血圧の管理、水電解質のバランス、合併症の予防と治療が基本になります。外科的治療が必要かどうかの検討も同時に行います。  血腫の増大は、発症してから数時間以内に約20%の患者さんにみられ、多くの場合は発症6時間以内に止まります。一方、脳浮腫は脳ヘルニアを起こして、予後に重大な影響を与えます。通常、脳浮腫は3日目から強くなり、ピークとなるのは1〜2週です。抗浮腫薬としてグリセオールとマンニトールを用います。  高血圧のコントロールは、脳出血の治療のなかで最も重要であり、また難しい問題でもあります。脳には、血圧の変動に対して脳の血流を一定に保とうとする自動調節能があることが知られていますが、急性期脳出血の場合はこの自動調節能が機能せず、脳の血流は血圧の上がり下がりに合わせて変動します。  そのため急に血圧を低下させると脳血流量が減って組織を流れる循環が悪くなるので、降圧の程度は降圧薬投与前の血圧の80%くらいにするのが適当です。一般に、慢性期での降圧の目標レベルは治療を開始してから1〜3ヵ月の間に140(90mmHg?)以下とするのがよいとされています。

 脳出血に対して手術が適応するかの判断については、出血量が10ml未満の小出血または神経学所見が軽度な症状では、部位に関係なく手術適応はなく、意識レベルが深昏睡の症例も手術適応はないとするのが一般的な方針です。部位別では、被殻出血は意識レベルが傾眠から半昏睡で血腫量が31ml以上、小脳出血は最大径が3cm以上で進行性のものは手術適応があります。皮質下出血は血腫が50ml以上と大きく、意識レベルが傾眠から半昏睡の場合、手術が考慮されます。

 

 

虚血性脳卒中

虚血性脳卒中は通常、血栓や、動脈硬化で生じた脂肪の沈着物が、脳の動脈に詰まることで発生します。

動脈が詰まって脳に十分な血液と酸素が供給されなくなることで生じる、脳組織の一部の壊死です。

 

虚血性脳卒中は、脳に血液を供給する動脈が閉塞して起こるのが典型的で、最も多いのは片方の内頸動脈の分枝の閉塞です。

通常、血管の閉塞を引き起こすのは血栓か、動脈硬化によって生じた脂肪の沈着物(アテロームあるいはプラーク)です。血管の閉塞は以下のようにして生じます。

動脈の壁にアテロームができると、そこにさらに脂肪が蓄積して、その動脈を塞ぐほど大きくなることがあります。あるいは、アテロームが崩れたときに血栓ができ、それが動脈を塞ぐこともあります。血栓はアテロームが崩れたところにできる傾向があります。これは、パイプが詰まると水の流れが悪くなるように、アテロームによって動脈が狭くなると、その部分の血流が滞るからです。血流が滞ると血栓ができやすくなります。大きな血栓ができると、動脈が狭くなって血液が十分流れなくなり、その動脈から血液を供給されている脳細胞が壊死します。

 

心臓にできた血栓、アテロームの破片、動脈の壁にできた血栓などは、その場所からはがれて、血流に乗って別の血管に運ばれる(塞栓になる)ことがあります。この塞栓が、脳に血液を供給する動脈に詰まると、そこで血流が遮断されます(塞栓症とは、血流に乗って体の別の場所に運ばれた物質によって動脈が塞がれる現象を指します)。脂肪の沈着物によって狭くなった動脈ではこのような閉塞が起こりやすくなります。

 

脳卒中は脳血管障害の発作が急激に起こった状態である。

原因の多くは動脈硬化である。動脈硬化を引き起こす原因に高血圧や高脂血症、糖尿病がある。喫煙によってこれらの要因は数倍にあがる。

 

 脳卒中にかかる方は、単に年をとったからと言うばかりではなく、ほとんどの場合、以前から、何らかの危険因子と呼ばれるもの、例えば高血圧とか、高脂血症(血液中のコレステロールが高い)、糖尿病、あるいは心臓病などと言ったものを長い間、持っておられ、それを基にして発病することが多いのです。

 

通常、脳の片側だけに損傷が起きます。

 

 脳卒中の後遺症でよく知られているのが片麻痺である。これは右半身または左半身が麻痺によって動かせなくなるもので、労働や日常生活が制限されるようになる。

 

 

(1)被殻出血  片麻痺、感覚障害、同名性半盲(両眼とも視野の片側半分が見えなくなる状態)などが主な症状で、進行すると意識障害がみられます。優位半球(通常左半球)の出血の場合では失語症もみられます。

 

(2)視床出血  片麻痺、感覚障害は被殻出血と同じですが、感覚障害が優位のことがあります。視床出血では、出血後に視床痛という半身のひどい痛みを伴うことがあります。

 

(3)皮質下出血  頭頂葉、側頭葉、前頭葉などの皮質下がよく起こる部位です。症状は、出血する部位に応じて違いますが、軽度から中等度の片麻痺、半盲、失語などがみられます。

 

(4)橋出血  突然の意識障害、高熱、縮瞳(2mm以下)、呼吸異常、四肢麻痺などがみられます。大きな橋出血の場合は予後が不良です。

 

(5)小脳出血  突然の回転性のめまい、歩行障害が現れ、頭痛や嘔吐がよくみられます。

 

 

脳卒中そのものに対する治療としては、血栓を溶かす薬剤(血栓溶解薬)、血をかたまりにくくする薬剤(抗血小板薬と抗凝固薬)、手術などがあり、いずれの治療後にもリハビリテーションを行います。

 

血栓溶解(フィブリン溶解)薬:

ある種の状況下では、血栓を溶かして、脳への血流を回復させるために、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)と呼ばれる薬剤を静脈内投与します。

 

脳卒中が発症して3~6時間(ときには最大18時間)後に病院に着いた場合でも、tPAまたは他の血栓溶解薬が投与されることがあります。ただしこの場合は、薬剤をカテーテルで投与しなければならないため、皮膚(通常は鼠径部の皮膚)に切り込みを作り、そこから動脈にカテーテルを挿入します。カテーテルは、大動脈などの動脈を経由して、血栓がある場所まで送られます。カテーテルのワイヤで血栓をある程度くずしてから、tPAを注入します。この治療は、通常は脳卒中治療の専門施設でしか受けられません。

 

抗血小板薬と抗凝固薬:

血栓溶解薬を使えない場合は、ほとんどの人に、病院到着後すぐにアスピリン(抗血小板薬)が投与されます。症状が悪化しているように見える場合は、ヘパリンなどの抗凝固薬が投与されることもありますが、その有効性は証明されていません。抗血小板薬は、血小板が集まってかたまりになるのを妨げます。抗凝固薬は、血液が固まるのを助ける血液中のタンパク質(凝固因子)を阻害します。

初期の治療が何であっても、長期治療では、血栓ができるリスク(ひいては次の脳卒中が起きるリスク)を抑えるために、アスピリンか他の抗血小板薬が使われます。抗血小板薬は、心臓で血栓ができるのを予防することはできないと考えられているため、心房細動や心臓弁疾患がある人には、抗血小板薬ではなく抗凝固薬(ワルファリンなど)が投与されます。ときとして、脳卒中が再度起こるリスクが高い人に、アスピリンとワルファリンの両方が投与されることがあります。

血栓溶解薬をすでに使用している場合は、少なくとも24時間待ってから抗血小板薬や抗凝固薬を開始するのが通常です。それは、血栓溶解薬によってすでに高くなっている脳での出血リスクが、これらの薬剤によってさらに上昇するからです。抗凝固薬は、うまくコントロールできていない高血圧がある人や、出血性脳卒中を起こした人には使用されません。

 

手術:

虚血性脳卒中の発作が終わった後に、内頸動脈のアテロームや血栓を取り除く手術(動脈内膜切除術)が行われることがあります。頸動脈内膜切除術は次のすべてが当てはまる人に有用です。

 

 

 左半身または右半身が麻痺によって動作が困難になり、日常生活に制限がされてしまいますが、障害年金の審査では、日常生活を送る上で必要な上肢・下肢の動作が、どの程度制限されるかを考慮して障害等級を決定します。

 上下肢に重い障害がある場合は、診断書の「日常生活における動作の障害の程度」を重要視して審査される。一肢の障害が目立って重い場合(右上肢は全廃しているが、右下肢については軽度の障害にとどまっているなど)は「可動域制限」や「筋力低下」を重要視して審査される。

 

 脳血管障害の場合、倒れて救急車で運ばれ救命処置を受けた、という方も多いかと思います。その場合、おおよそ数週間の入院の後、リハビリテーション専門の病院へ転院されることが多くなっています。この場合「初診の病院」は救命処置を受けた病院、診断書作成医療機関は「リハビリテーション専門の病院」になります。

 

 

脳血管障害により高次脳機能障害と手足の麻痺が後遺症として残った場合は、それらの障害の全てを評価して障害認定される。高次脳機能障害の症状に対して精神の診断書手足の麻痺に対して肢体の診断書を準備すること。手足の麻痺を「肢体の障害」の認定基準により認定し、精神の障害と併合認定される可能性がある。

 

脳血管障害により言語機能に障害が残った場合で、併せて上位等級になる可能性があるときは、肢体の障害の診断書とは別に、聴覚や言語機能障害の診断書を準備すること。

 

 脳血管障害の再発は、基本的に別疾患の取り扱いとなる。

 

複数の脳血管障害がある場合

同じ部位である場合は、同一の傷病と判断される。

 明らかに障害が違うと判断されるときは、別傷病として扱われる。

同じ左脳であっても、発症部位にズレが存在するときは別傷病として認められることがある。

心疾患(心房細動など)が原因または誘因で発生した脳血管障害と心疾患は「相当因果関係あり」。心疾患(心房細動など)で初めて受診した日を初診日とする。

 脳出血の原因として、高血圧症からの高血圧性脳出血が最も多く、全体の70%を占める。

その他に脳内の動脈瘤や、脳動静脈奇形、出血を起こしやすい全身的な病気が原因とされる。

高血圧が脳出血の複数の危険因子のひとつであることは医学的に広く認められているところである。しかし、高血圧を呈する者が脳出血を発症することが、臨床経験上通常の事柄であることを意味するとは言えず、高血圧と脳出血は相当因果関係「なし」とされる。初診日は高血圧と診断された日ではなく、脳出血により受診した日とされる。

 

 脳梗塞においても、脳梗塞となったのは、高血圧が原因の一つと思われることがあるが、脳梗塞を起こした後に血圧が高いと言うのは、血液の流れが悪くなった部分の血液の流れを血圧を上げることによって良くしようと言う自己防御反応とも言える状態である。障害年金の認定においては、高血圧と脳梗塞には相当因果関係「なし」である。脳梗塞を発症して病院に緊急搬送された場合には、原因が高血圧とされていても、緊急搬送された日が障害年金の請求上での初診日とされる。

 

脳出血の合併症としては、けいれん発作、発熱、消化管出血、電解質異常、高血糖、下肢静脈血栓症などである。脳の血管が破れて出血することから起こるもので、出血した血液は血腫となり固まる。そして血腫のできた周辺の脳細胞が破壊される。血腫が周囲を圧迫すると障害はさらに広がってしまう。「くも膜下出血」はこれにあたる。

 

 


くも膜下出血

 くも膜下出血は中年以上の人では脳の動脈にできた脳動脈瘤、若い人では生まれつき持っている脳動静脈奇形(AVM)というものが破裂し、出血して起こるものです。脳は3層の髄膜で囲まれていて、その中間の膜がくも膜です。脳動脈瘤は脳とくも膜の間にありますから、脳動脈瘤が破裂すると血液がくも膜と脳表の間に凄い勢いで広がります。このようにくも膜の下に出血が起こるのでくも膜下出血といいます。出血は血圧と同じ圧で起こりますから、頭蓋内圧が血圧と同じになった時点で出血は止まります。これが一瞬の間に起こり、それに絶えられないと呼吸が停止してしまい、突然死となります。

 

 くも膜下出血は突然の頭痛で発症します。この頭痛は今まで経験した中で一番痛いものです。重症の場合は大声で叫び、倒れてそのまま呼吸が止まってしまう場合があります。こういった重症例は15%ぐらいと考えられます。中等症の場合は一瞬意識がなくなっても戻ってきます。

 原因疾患としては、脳動脈瘤破裂が大部分を占め、次に脳動静脈奇形、高血圧が続く。

 脳内出血と違い、片麻痺等の脳局所症状が起こることは少なく、頭痛と嘔吐、意識障害が主な症状です。軽症では頭痛が続き何となくおかしいという症状で、歩いて外来に来られる場合もあります。

 くも膜下出血の危険因子は喫煙、高血圧、女性の経口避妊薬などです。

 

 

もやもや病

 もやもや病とは脳血管撮影所見に基づいた診断名です。厚生労働省特定疾患ウィリス動脈輪閉塞症調査研究班の診断基準では「脳血管撮影上頭蓋内内頸動脈末端部から前及び中大脳動脈の起始部にかけ狭窄ないし閉塞を認めその近傍に異常血管網が動脈相で認められるもの」とされており、この脳の底の異常血管網がいわゆるもやもや血管です。

 

日本における発生頻度は10万人に0.1人の割合とされています。また、最近ではその数が増えて0.35人といわれています。

 

症状として出現する頻度の高いものは、運動障害、感覚障害、頭痛、けいれん発作、意識障害などです。小児では梗塞型、成人では出血型が多く、年齢によって症状に差が見られる点がもやもや病の特徴です。小児では、泣いたり、ラーメンやうどんなどの熱いものをフーフーして食べたり、笛を吹いたり、大声で歌ったり、激しい運動で過呼吸したりすると、症状が出現することが特徴です。

 原因はわかりませんが、両側の内頚動脈という大脳を養っている血管の先端が緩徐に閉塞し、その進行に伴って脳底部にもやもや血管が側副路(バイパス路)として発達してきます。またさらに進むと、後頭葉を養っている後大脳動脈に閉塞が起こって視力・視野の障害が生じます。

 中枢神経系には大脳、小脳及び脳幹があります。もやもや病は大脳が障害されます。右の大脳が障害されると、左側の麻痺やしびれが生じます。左の大脳が障害されると、右側の麻痺やしびれが生じ、言語障害(失語という症状が出てきます。これは、人の話すことが理解できない、喋れても適切な単語が出ない)が生ずることもあります。また、計算ができなくなったり、左右がわからなくなったり、どの指が何指であるかわからなくなったりします。  右の脳と左の脳の向かい合っている部分が障害されると、足の麻痺や尿失禁が生じます。後頭葉が障害されると視力障害や視野障害が生じます。  以上に述べたような症状が、ほんの一過性にあるいは永続的に出現することで、もやもや病が疑われます。

 人は呼吸をすることによって、空気中の酸素を摂り入れ、体内でできた二酸化炭素を排出しています。二酸化炭素は老廃物ですが、体内で脳血流に影響を及ぼす重要な役割を担っています。体内の二酸化炭素が増えると脳血流量は増加し、逆に、二酸化炭素が減ると脳血流量は減少することがわかっています。深呼吸をすることによって体内の二酸化炭素がどんどん排泄されるため、その量はどんどん減少します。  つまり、深呼吸や過呼吸をすることによって脳血流量はどんどん減少することがわかります。これは脳血管に異常がなくても起こっています。

 

 

 くも膜下出血は軽症であっても、また病院に入院できても安心はできません。くも膜下出血を起こした人の20%程度が再破裂します。これは最初の6時間で最も多くその後徐々に破裂率は下がってきます。しかし、再破裂はくも膜下出血の死因の大きな原因です。ですから入院して検査をして手術を待っている間にも再破裂する可能性があるわけです。更に手術後も安心はできません。くも膜下出血は脳表に広がります。今迄きれいな髄液の中に浮いていた脳が急に血液にさらされますので、脳や脳血管が様々な反応を起こします。そのうち重大な症状を起こすものが脳血管れん縮といって、脳の太い血管がギュッと縮んでしまうものです。脳血管が縮むとその先へ血液が行かなくなりますから、脳梗塞を起こして片麻痺や失語がでます。これは発症から1週間前後で起こります。

 また、髄液の流れが停滞して水頭症を起こすこともあります。発症から安心できる状態になるには最低2週間かかりますから軽症でも1~2ヶ月の入院となります。一番影響を及ぼすのは最初の脳障害の程度です。くも膜下出血以外にも脳内出血を合併することもあり、その場合には片麻痺などの症状が残ります。  また、最初の出血で意識障害が強い場合は死亡や遷延性意識障害となる例が多くなります。重症例も多いですが、3分の1の例で元気に社会復帰できます。

 

治療

くも膜下出血が発生した可能性がある場合は、直ちに入院となります。絶対安静が不可欠です。重度の頭痛にはオピオイド系薬剤などの鎮痛薬が使用されます(アスピリンやその他の非ステロイド性抗炎症薬は出血を悪化させる可能性があるため使用しません)。排便のときにいきまないように便軟化剤を投与します。血管れん縮と続発する虚血性脳卒中を予防するため、カルシウム拮抗薬のニモジピンを経口投与します。薬剤を投与したり、点滴の量を調節するなどして、血圧を、それ以上出血が起こらない程度に低く、かつ、脳の損傷部分の血流が維持される程度に高く保ちます。ときとして、脳から脳脊髄液を排出するためにプラスチック製のチューブ(シャント)を留置することもあります。この処置により、圧力が開放され、水頭症を予防できます。

 

動脈瘤がある人には手術を行い、もろくなった動脈の血管壁を隔離するか、塞ぐか、または補強して、後に致死的な出血が起きるリスクを減らします。これらはどれも困難な手術で、どの手術を行っても、特に昏迷や昏睡状態に陥っている人では死亡のリスクが高くなります。手術の最適なタイミングについては専門家の間で意見が分かれており、患者の状態に基づいて決めなければなりません。ほとんどの脳神経外科医は、症状が現れてから24時間以内に、水頭症や血管れん縮が起こる前に手術を行うことを勧めています。これほど迅速には手術を行えない場合は、手術のリスクを減らすために手術を10日遅らせることもありますが、そうすると待機期間が長くなるので、出血が再発する可能性が高くなります。

 

脳神経血管内手術と呼ばれる、広く行われている手術では、コイル状のワイヤを動脈瘤の中に挿入します。動脈にカテーテルを挿入して先端を動脈瘤の内部まで届かせ、このカテーテルを使って、コイル状のワイヤを動脈瘤の中に留置します。したがって、この手術では頭蓋骨を開く必要がありません。留置されたコイルによって、動脈瘤を通過する血液の流れが遅くなり、その結果、動脈瘤の内部で血液がかたまりやすくなります。血栓が動脈瘤を塞ぎ、動脈瘤の破裂を防ぎます。脳血管造影検査で動脈瘤と診断された場合は、しばしば、同時にこの脳神経血管内手術が行われます。

これより頻度は少ないものの、動脈瘤を金属クリップで留める場合もあります。この処置により、血液が動脈瘤の中に入らないようにして、破裂のリスクをなくします。クリップは、永久的にその場所に残します。15~20年前に使用されていたクリップのほとんどは、磁力の影響を受けるため、MRI検査の最中に動いてしまう可能性があります。このタイプのクリップをしている人は、MRI検査が検討されている場合、医師に知らせるべきです。新型のクリップは磁力による影響を受けません。

 

 症状の出現は頭蓋内出血によるものと、脳梗塞を含めた脳虚血(脳に血が足らない状態)によるものに分けられます。

 過呼吸が長く続く場合には脳血流量が50を下回った状態が持続しますので、脳梗塞に陥る場合があります。すなわち、一過性か永続するものかは、この脳血流量の50を下回った部分の深さと長さの面積に比例すると言うことになります。  もやもや病で、初めは一過性脳虚血発作であったものが後に脳梗塞になったり、逆も起こったりするのはこのためです。

 

 


脳梗塞(脳軟化症)

 脳梗塞とは、脳への血管、すなわち動脈がつまることによって、脳へ血液が流れなくなり、その結果、脳の細胞が死んでしまった状態のことを言います。

 「脳梗塞」は、血管を詰まらせる原因によって大きく2つに分類されます。

  脳の血管に血栓が出来て血管を詰まらせるものを「脳血栓」と言います。

 心臓など脳以外の血管にできた血栓が血流にのって脳へと運ばれて、その血栓が脳の血管を詰まらせるものを「脳塞栓」といいます。

 

 この脳の動脈がつまる原因には、高血圧による血管の傷害、もしくは高脂血症や糖尿病による動脈硬化(アテローム硬化)、あるいは心臓病などをあげることが出来ます。これらが脳梗塞の危険因子となります。

 

(1) 皮質枝梗塞  このタイプの動脈硬化は一般に皮質枝といわれる、脳の動脈の中でも太い血管に起こります。そこで、高脂血症から動脈硬化(アテローム硬化)を起こし、それによって起こるタイプの脳梗塞は皮質枝梗塞と呼ばれます。そして、このタイプでは太い血管がつまりますから、脳梗塞を起こしますと、一般に広い範囲の脳がやられてしまうことになります。そこで、言語中枢のある左側の脳の脳梗塞の場合、この言語中枢がやられて手足の麻痺に加えて失語症と言う言葉の症状も同時に出ることが多いのです。

 なお、脳血栓の場合、しばしば進行性卒中と言って、2~3日かけて症状が悪くなることがあります。つまり最初、手足のしびれだけでも、次の日には手足が動かなくなってしまう場合もあり、あるいは最初軽い手足の麻痺だけでも、次の日には全く動かなくなってしまうような場合もありますので、油断せずに、なるべく早く治療を開始することが大切です。

 

(2) 穿通枝梗塞  一方、皮質枝から分れて、脳の中へ直接入って行く細い動脈のことを穿通枝(せんつうし)と言います。この穿通枝は高血圧の影響をとても受けやすいのです。すなわち高血圧が長く続きますと、この穿通枝の壁がもろくなって破れやすくなり脳出血を起こしたり、あるいは逆に狭くなって、つまったりすることになります。  つまり、高血圧を放置しますと、穿通枝が障害されることによって脳出血と脳梗塞と言う正反対のタイプの両方の病気が起こる可能性があるのです。高血圧によって起こる脳梗塞がまだ多いのです。  もともと、日本人には高血圧の方が多いので、脳梗塞のうちでも、高脂血症による皮質枝梗塞よりも、高血圧によって起こる、このタイプのものがほとんどでした。最近、動脈硬化による太い血管がつまるタイプのものが増えてきましたが、それでも、まだまだ高血圧による穿通枝タイプの方がまだまだ多いので油断できません。結局、現状では高血圧が脳梗塞を含めた脳卒中の最大の危険因子であると言えます。   穿通枝がつまりますと、太い血管と違って、ごく限られた狭い範囲の脳梗塞が起こります。このタイプの脳梗塞のことを穿通枝梗塞と言いますが、別名、ラクナ梗塞とも呼ばれます。このラクナと言う言葉は、このタイプの脳梗塞を起こした脳の切断面が、西洋のチーズの切断面に出来たプツプツとした空気の穴に似ているところからきています。

 

 

 高血圧と脳梗塞は相当因果関係「なし」です。

 脳梗塞や脳出血(後発)となったのは、高血圧(前発)が原因の一つだと思われることがあります。しかし、障害年金の認定においては、原則として双方の間(高血圧と脳梗塞)には相当因果関係はないものとされています。つまり、脳梗塞を発症して病院に緊急搬送された場合には、その日が障害年金の請求上での初診の日ということとされているのです。

 糖尿病と脳梗塞は相当因果関係「なし」です。

 代表的な後遺症は、身体の片方だけが麻痺する片麻痺です。重い場合には、上肢はほとんど機能せず、下肢も杖や補装具や車椅子がなければ歩行ができないほどの障害を負います。言語障害、記憶障害、視野障害などが重なる場合には、障害年金の1級が認定される場合もあります。

 障害年金の審査では、身体のどの部位に障害があるのかで重要視されるポイントが変わります。通常の片麻痺の場合には、日常生活の動作制限が重要視され、診断書の「日常生活における動作の障害の程度」が適正に記載されているかが大切となります。同じ片麻痺でも1肢のみに重い障害が残っている場合(右上肢は全廃しているが、右下肢については軽度の障害にとどまっているなど)には、関節可動域制限や筋力低下が重要視され、診断書の「関節可動域及び筋力」の項目を確認します。

 重い症状の場合、上肢がほとんど機能せず、下肢も杖や補装具、または車椅子がなければ歩行が困難なほどです。言語障害、記憶障害、視野障害などが重なると、さらに障害年金の上位等級が認定される可能性もあります。

 脳梗塞の場合、麻痺により肢体の機能が制限されている場合が非常に高いため、診断書の項目の該当欄に、しっかりと症状が記入されていることも大切となります。 診断書の内容から、あきらかな麻痺の状態が認められれば、筋力低下や関節可動域制限が著しくなくても、障害年金が認定される可能性があるのです。

 脳梗塞の後遺症として多いのが、身体の片側だけの麻痺、言語障害、記憶の障害などあります。後遺症が複数の障害に渡っている場合は、それぞれの診断書の取得が必要になってきます。

 脳梗塞などになった場合の後遺症として、記憶や認知機能などの高次機能障害が残る場合もあります。この時は精神の障害の診断書が必要になります。

 

 

脳梗塞後遺症

 脳梗塞後遺症とは、脳梗塞の治療後に起きる障害を指します。脳梗塞の後遺症は様々ありますが、障害を受けた脳の部分によって変わってきます。まず、半身麻痺や片麻痺などの障害が挙げられます。また、意思に反して手足が動いたり、細かい動作ができなかったりするなどの運動障害、物がはっきり見えない視覚障害なども見られます。体だけではなく、記憶や言語の障害、精神面と人格の変化など、あらゆる障害が見られる場合があります。

 

 脳梗塞後遺症の治療は、リハビリを行って症状の改善を行います。早期でのリハビリでは寝たきりの状態を防ぐため、座ったり、ベッドの上で手足を動かしたりします。その後、歩行や食事、排せつなどの訓練を行い、最終的には自宅で生活をしながらリハビリを繰り返し、社会復帰を目標にします。また、脳梗塞は再発しやすいため、薬物療法や手術療法で血栓を防いだり、血管の拡張を行ったりするなどして予防します。さらに、生活習慣の改善も行い、リスクを遠ざけます。

 

脳血栓

 脳の動脈に血栓ができることを「脳血栓症」と呼びます。  血栓は動脈硬化などによって血液がドロドロになった状態の人ができやすいといえます。脂肪分や不純物が血管内にたまって血液がドロドロになると、それらの不純物が徐々に血管内に付着します。そして、最終的には血栓となって血管をふさいでしまうのです。

 脳血栓ができてしまうと、脳梗塞となってしまいます。

 

 

脳血管性痴呆  このタイプの脳梗塞が何ヶ所も起こると、次第にボケてくることがあり、そのようなものを多発脳梗塞性痴呆(脳血管性痴呆)と言います。痴呆の原因としてはアルツハイマー型痴呆が有名ですが、別名、脳血管性痴呆と呼ばれる脳梗塞によるタイプの痴呆は、日本ではアルツハイマー型痴呆よりまだまだ多いのです。しかし、アルツハイマー型痴呆には現在、有効な治療はありませんが、脳血管性痴呆の場合、普段から脳梗塞の危険因子に対処しておけば、ボケることを予防することが出来るのです。

 

 

動脈硬化

 

 動脈硬化には、どの動脈に起こるか、またその起こり方によって3つのタイプに分けることができます。

 

アテローム(粥状)硬化

 大動脈や脳動脈、冠動脈などの比較的太い動脈に起こる動脈硬化です。動脈の内膜にコレステロールなどの脂肪からなるドロドロした粥状物質がたまってアテローム(粥状硬化巣)ができ、次第に肥厚することで動脈の内腔が狭くなるといわれています。

 

中膜硬化

 動脈の中膜に石灰質がたまって骨化します。中膜が壊れやすくなり、血管壁が破れることもあります。大動脈や下肢の動脈、頚部の動脈に起こりやすい動脈硬化です。

 

細動脈硬化

 脳や腎臓の中の細い動脈が硬化して血流が滞る動脈硬化です。高血圧症が長く続いて引き起こされることの多いのが特徴です。

 血管の内膜を覆っている血管内皮が何らかの理由で傷つけられると、白血球の一種であるマクロファージが、内膜に染み込んだ血液に含まれるコレステロールをどんどん取り込んでアテローム(粥状硬化巣)を作ります。

 さらに傷ついた部分を補修するために、血液を凝固させる働きの血小板が付着して、さらに内膜が肥厚します。

 アテロームが大きくなると表面の膜が薄くなって破れることもあります。破れると血栓が作られ、これを繰り返しながら動脈硬化が進み、血管が狭くなって血流が滞ったり、閉塞したりします。

 

 

 

高脂血症と動脈硬化  食生活の西洋化から血液中のコレステロールが高い高脂血症の方が増え、そのせいで動脈硬化にかかる人が増化しています。そして、このタイプの動脈硬化をアテローム硬化と言います。つまり、高脂血症がありますと、長年の間に、動脈の壁にコレステロールなどの脂肪が貯まって、動脈の壁が、動脈の内腔、すなわち血液の流れる側の方に次第に膨らんできます。そして、動脈硬化が起こりますと動脈がその部分で細くなって、最後にはつまってしまうことになるのです。高脂血症の人の増加とともに、最近、このタイプの脳梗塞が増えています。  正確には、動脈硬化が起こり動脈が狭くなりますと、血液の流れが悪くなってきて、ある日、狭くなった部分に血栓と言う血液の塊が出来て、それにより突然につまってしまうことになるのです。このように血栓が出来て脳の動脈がつまってしまった場合を脳血栓と言い、その結果、脳に血液が流れなくなって脳梗塞が起こることになります。

 

 


脳動脈硬化症

 動脈硬化が脳に発生すると、脳卒中脳梗塞脳出血)が発生する危険が高くなりますが、動脈硬化により脳卒中(脳梗塞・脳出血)が起こらずに、頭痛、めまい、立ちくらみ、手足のしびれ、耳鳴り、物忘れ、などの様々な症状が起こる事があります。このような症状がある状態が「脳動脈硬化症」です。

 

 原因は、動脈の内膜にコレステロールを代表とする脂肪からなるアテロームができ、それが次第に肥大化することで動脈の内膜が狭くなるといわれています。アテロームが破れると血栓となり、動脈がふさがり脳梗塞になります。

 

 脳動脈硬化症の治療方法としては、大きく分けると3つあります。一つ目は運動療法で、毎日ウオーキングなどの軽い運動を行うことが義務付けられます。運動により善玉コレステロールが増え動脈硬化の予防や治療に役立ちます。二つ目は食事療法で、動物性脂肪をとりすぎないように食事制限が行われます。一方、イワシなど青魚などコレステロールを低下させる食事を積極的にとるように食事内容が改善されます。三つ目は薬物療法で、コレステロールを低下させる薬剤が使用されます。

 

 

 神経系統の障害については、発現部位に基づく障害の状況により、該当する診断書を複数選択する必要があります。

 脳の器質障害については、身体障害(肢体の障害)と精神障害の両方を総合的に評価して障害認定がされます。

 1年以内の一過性脳虚血発作、動脈硬化の所見、さらに出血、白斑を伴う高血圧性網膜症を有するものは2級と認定します。

脳の血管に発生した動脈硬化による血流障害が原因で起こる症状のことです。

 動脈硬化が脳に発生すると、脳卒中脳梗塞脳出血)が発生する危険が高くなりますが、動脈硬化により脳卒中(脳梗塞・脳出血)が起こらずに、頭痛、めまい、立ちくらみ、手足のしびれ、耳鳴り、物忘れ、などの様々な症状が起こる事があります。このような症状がある状態が「脳動脈硬化症」です。最近では「慢性脳循環不全症」と呼ばれます。

 

 原因は、動脈の内膜にコレステロールを代表とする脂肪からなるアテロームができ、それが次第に肥大化することで動脈の内膜が狭くなるといわれています。アテロームが破れると血栓となり、動脈がふさがり脳梗塞になります。

 

 

閉塞性動脈化症

 動脈硬化が原因で、四肢(主に下肢)の血流障害を来すものを閉塞性動脈硬化症といいます。主に50〜60歳以降の男性に発症します。  閉塞性動脈硬化症のある人は、下肢の動脈だけでなく、全身の血管にも動脈硬化を来している場合が少なくありません。冠動脈疾患の合併が3割の人で、脳血管障害の合併が2割の人で認められます。

 

原因  糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙などの動脈硬化の危険因子をもっている人がかかりやすくなります。食生活やライフスタイルの欧米化により、動脈硬化を基盤とする閉塞性動脈硬化症が急速に増えています。

 

症状の現れ方  初期の症状は、下肢の冷感やしびれです。進行すると、ある一定の距離を歩くとふくらはぎや太ももが重くなってきたり、痛みを感じるようになります。ひと休みするとおさまり、再び歩くことができます(間欠性跛行)。  さらに、安静時にも痛みが現れるようになり、靴ずれなどがきっかけで足に潰瘍ができ、時には壊死に至ります。

 

治療の方法  まずは、動脈硬化の危険因子である糖尿病、高血圧、脂質異常症の治療を行うことです。また、禁煙はとくに重要です。歩くことにより側副血行路が発達し血行が改善するため、足の症状が出るまでは、休みながらも繰り返し歩くように心がけます。  寒冷刺激は足の血管をさらに収縮させ、血液の循環を悪くさせます。そのため、靴下、毛布などを使って保温に努めます。入浴も血行の改善に役立ちます。足はいつも清潔にしておきます。爪を切る際は深爪をしないようにし、靴も足先のきつくないものを選ぶようにします。  初期の冷感やしびれに対しては、血管を拡げる薬(血管拡張薬)や血液を固まりにくくする薬(抗血小板薬)を用います。足の痛みが強い場合には、バイパス手術や狭くなった動脈に風船やステント付きのカテーテルを挿入してふくらませる治療を行います。さらに重症になり壊死が進行した場合は、足の切断が必要になることがあります。

 

 

 


慢性閉塞性動脈硬化症

慢性閉塞性動脈硬化症とは、足の動脈が動脈硬化を起こすことで様々な障害を引き起こす疾患です。

下肢に動脈硬化が起きれば、血流障害が発生し、虚血症状が見られるようになります。初期症状は痺れや冷感が見られるようになり、症状が進行すると、安静時は問題はなくても歩き続けると痛みが出て歩けなくなる間歇性跛行が発生します。さらに症状が進行すれば、安静時にも痛みが出て、足先に潰瘍が見られるようになり、最終的には壊死します。

 

慢性閉塞性動脈硬化症は、高血圧や高脂血症、糖尿病といった症状が見られる場合、発症しやすい傾向にあります。また、メタボリックシンドロームなども関係していることも分かっています。さらに、食生活などのライフスタイルの変化も動脈硬化を引き起こす原因となります。

 

慢性閉塞性動脈硬化症の治療は、足の血行を良くするために歩行訓練を行います。また、薬物療法で血栓をつくらないようにするために抗血栓薬を服用したり、血管を拡張して血流を良くするために血管拡張薬を使用したりします。日常生活の改善も重要なポイントになります。禁煙やストレスの解消、脂肪分を減らした食事、足のケアなどを続ける必要がありますが、特に足のケアをすることで感染症と潰瘍を防ぐことに繋がります。

 

 

腫瘍

腫瘍という用語は、非癌性(良性)か癌性(悪性)かに関係なく、組織が異常に増殖したものを指します。非癌性の腫瘍は、体の多くの部分では、ほとんどまたはまったく問題を引き起こしません。しかし、脳や脊髄では、どのような異常増殖や腫瘤(しゅりゅう)でも、神経組織にかなりの損傷を与えることがあります。

 

神経系以外の場所にできる一部の癌は、神経組織に侵入した証拠がないにもかかわらず、神経系の機能不全の症状を引き起こすことがあります。このような異常は腫瘍随伴症候群と呼ばれ、具体的な症状としては、認知症、気分の変動、けいれん発作、協調運動障害、めまい、複視、眼球運動の異常などがあります。最もよくみられる影響は、末梢神経系の機能不全で、筋力低下、しびれ、チクチクする感覚などの症状がみられます。

 

 

脳腫瘍

 脳は頭蓋骨(とうがいこつ)とその内の髄膜という膜に囲まれていますが、頭蓋骨の内側に生じる腫瘍を総じて脳腫瘍と呼びます。したがって、脳細胞に限らず、クモ膜や硬膜、頭蓋の中の血管、末梢神経等、頭蓋骨内にある組織のあらゆる部分から生じるものを指します。

 

頭痛  脳組織そのものには痛みの感覚はなく、脳腫瘍によって脳が押されたり傷ついたりしても痛みを感じることはありません。そのため、頭痛の原因としては、頭蓋内圧亢進による場合と局所の痛みを感じる部分の刺激による場合が考えられます。早朝起床時に多い頭痛は、頭蓋内圧亢進症状に特徴的です。起床時に最も強くて午前中に徐々に軽快する頭痛があれば、脳腫瘍が疑われます。また、脳腫瘍により脳全体が移動して、痛みを感じる組織(髄膜や血管など)が引っ張られたり捻れたりして刺激を受けると頭痛が起こります。しかし、ほとんどの頭痛はその他の種々の原因で起こりますので、頭痛があっても必ずしも脳腫瘍があるとは限りません。

 

嘔吐  頭蓋内圧亢進による場合と嘔吐中枢の直接の刺激による場合があります。嘔吐中枢は脳幹部にありますので、脳幹部やその近くの小脳腫瘍に多くみられる症状です。小児は頭痛をはっきり訴えることができないため、嘔吐は重要な症状です。頭蓋内圧亢進による嘔吐は特徴的で、はきけがなくても突然噴出するような嘔吐をきたし、その後は何事もなかったように食べることが出来ます。放射性嘔吐と呼ばれます。

 

視力障害  視力に異常が生じる原因のほとんどは、白内障などの眼球そのものの異常です。脳腫瘍が視神経やその周辺に出来てこれを圧迫する場合、そして頭蓋内圧が亢進した場合にも視力障害が起こります。頭蓋内圧亢進による場合は、雲や霧がかかったような見え方になります。急激な視力低下や眼鏡でも矯正されない場合は、脳腫瘍による視神経圧迫を疑い、すぐに検査する必要があります。

 

視野障害  脳腫瘍では視神経から後頭葉視中枢までのどこで視覚路が障害されるかによって、特徴的な視野異常を来します。たとえば下垂体腫瘍では外側の視野が欠ける両耳側半盲をきたします。しかし、脳腫瘍以外にも脳卒中や偏頭痛でも視野障害をきたしますので、専門医師の判断が必要です。

 

めまい  めまいと表現される症状には3種類あります。本当に天井や壁が回転するめまい、ふわふわ浮いたような浮遊感、そして立ちくらみです。回転性のめまいは、メニエール氏病のこともありますし脳腫瘍のこともありますので、専門家の診察が必要です。浮遊感は、脳幹や小脳といった大切な部分の虚血でも起こりますので検査が必要です。立ちくらみは、立ち上がった時に血液がお腹や足に残って頭に足りなくなったり、貧血で起こりますので、頭以外の原因を考える必要があります。

 

運動麻痺  脳内の運動神経線維が障害されると運動麻痺が起こります。ご存知のように、右の脳が障害されれば左半身の麻痺が起こります。手だけとか足だけとかという症状は、脳腫瘍の場合にはあまり多くなく、片側の手足を含む場合が多いようです。脊髄や末梢神経の障害では、手足の症状が別々の場合もあります。顔まで含まれれば、完全に大脳半球の病気ということがわかります。ろれつ が回らない場合も、顔面や舌を動かす運動神経の麻痺であることがあります。

 

しびれ  これは感覚神経線維が障害されると起こりますが、運動麻痺よりも気付き難いと思われます。脳の障害の場合、運動麻痺と同じように片側だけに起こります。両側の手足がしびれることは特別な場合を除いてまずありません。

 

失語  右利きの人のほとんどが、また左利きの人の半数以上が左大脳半球に言語中枢があるといわれています。言語中枢に脳腫瘍が出来た場合には失語と言われる症状が出ます。失語には、思っていることが言葉として出ない運動性失語と、人の声が聞こえるけれど意味が理解できない感覚性失語があります。

 

複視  これは物が二重に見えることを言います。眼球を動かすには3本の脳神経と6つの筋肉が必要です。しかし、脳腫瘍で脳神経およびその中枢が障害されるとて眼球の動きが悪くなり、ずれが生じ物が二重に見えます。

 

聴力障害  聴神経には蝸牛神経と前庭神経が含まれます。聴力に関与するのは蝸牛神経で、前庭神経はめまいに関与します。聴神経腫瘍は前庭(ぜんてい)神経から発生しますが、並走する蝸牛神経も傷害されて聴力障害が起こります。ちなみに、この腫瘍は良性です。

 

顔面神経麻痺  運動麻痺と同様に、顔面を動かす神経線維が障害されると起こります。脳腫瘍より脳卒中や顔面神経のウイルス性の炎症によって起こることが多いようです。顔が左右対称でなくなり、食べ物を口からこぼしたりします。症状が強い場合は、目が閉じられなくなり角膜に傷が付くので注意が必要です。

 

痙攣(けいれん)発作  脳腫瘍が刺激となり脳のある部分に無秩序な電気活動が生じて起こる発作を、けいれん発作(またはてんかん発作、ひきつけ発作、など)といいます。刺激される脳の部位によって片方の手または足が自分の意思に反して震えたり、言葉が喋れなくなったり様々な症状がでます。脳全体に神経細胞の異常な興奮が広がった場合は、意識を失い全身の筋肉の震えや剛直が生じ、これを全身痙攣(または大発作)といいます。 脳腫瘍以外にも頭部外傷や脳卒中などによっても起こる症状です。

 

 

脳腫瘍の治療  脳腫瘍の治療には腫瘍の除去を行います。 腫瘍が良性の場合は完全治癒が期待でき、腫瘍の摘出と放射線療法、化学療法、免疫療法と組み合わせながら治療します。

 一方で悪性腫瘍は予後が良くありません。 脳腫瘍は時間経過とともに症状が悪化しやすいためにすぐに治療することが大切です。

 

 

頭部外傷

 

脳は、硬く分厚い頭蓋骨によって外傷から守られています。また、脳脊髄液を含む組織の層(髄膜)に覆われており、これがクッションの役目を果たします。このおかげで頭をぶつけても、多くの場合、脳は傷つくことがありません。脳への影響がない頭部外傷は軽症とみなします。

 

頭部外傷には、頭皮外傷、頭蓋骨骨折、脳しんとう、脳挫傷、脳裂傷、脳の内部や脳と頭蓋骨の間に血液がたまった状態(頭蓋内血腫)、脳全体の神経細胞が損傷した状態(びまん性軸索損傷)などがあります。

 

軽症の頭部外傷の場合:

頭にこぶができることがあります。頭皮の表面に近い場所には多くの血管があるため、頭皮が切れると大量に出血します。そのため、頭皮の外傷は実際以上に深刻にみえます。

頭痛、目が回る感じやふらつきなどの症状もよくみられます。人によっては軽い錯乱や吐き気が生じることもあります。小児では嘔吐が多くみられます。幼児は単に不機嫌になることもあります。

 

脳しんとうは精神機能が一時的に変化することをいい、脳の構造に損傷はみられません。多くは、少しの間(通常は2~3分間以下)意識を失いますが、場合によっては錯乱が起きたり、外傷を負った前後の出来事を一時的に思い出せなくなったりする(健忘症)こともあります。

脳しんとうが起きた後しばらくの間は、頭痛やめまい、疲労、記憶力の低下、集中力の低下、睡眠障害、思考障害、イライラ、うつ状態、不安が生じることもあります。こうした症状を脳しんとう後症候群といいます。

 

重症の頭部外傷の場合:

軽度の頭部外傷と同じような症状が起こることがあります。頭痛などの一部の症状は重くなることもあります。しばしば、最初に一時的な意識消失がみられ、この症状は頭部に衝撃を受けた瞬間に起こります。持続期間は人によって異なります。数秒後に意識が戻ることもあれば、数時間から数日間にわたって目を覚まさないこともあります。意識が戻ると、多くは眠気や錯乱、落ちつきのなさ、興奮がみられます。嘔吐やけいれん発作あるいは両方が生じたり、平衡感覚や協調運動が損なわれたりすることもあります。脳のどの領域が損傷したかに応じて、思考能力、感情の調節、運動、感覚、言語、視力、聴力、記憶などに障害が現れます。この障害は一生残ることもあります。

頭蓋骨底部の骨折があると、透明な液や血液が鼻や耳から出てくることがあります。

 

重症の頭部外傷の見分けかた

ほとんどの頭部外傷は深刻なものではありません。深刻な外傷は特定の症状によって見分けられます。これらの症状は脳機能の悪化を示すものです。下記のような症状が現れている場合は、成人でも小児でもすぐに治療を受けるべきです。

嘔吐、顔面蒼白、イライラ、眠気が6時間以上続いている

意識を失った

体の一部が動かない、または感覚がない

人の顔を見分けられず、周囲の状況が理解できない

バランスを維持できない

会話や視力に問題がある(ろれつが回らない、眼のかすみ、視野の欠損など)

鼻や耳から透明な液(脳脊髄液)が漏れ出る

ひどい頭痛がある

 

長期間残る障害としては、健忘症、行動障害(不安、落ち着きのなさ、衝動性、自制心の欠如、意欲の欠如など)、突然の気分の変動、睡眠障害、知能の低下などがよくみられます。重症の頭部外傷によって意識を失った場合、記憶が回復するかどうかは、意識が戻るまでの時間の長さにかかっています。頭部外傷を負ってから1週間以内に意識が戻る場合は、記憶が回復する可能性も高くなります。重症の頭部外傷を負ってから4年間は、発作性疾患が起こることがあります。

 

機能障害の種類と重症度は、脳の損傷が起こった部位とその程度によって決まります。視力や、腕や脚の運動調節といった一部の機能は左右どちらかの脳の特定の領域が担います。そのため、いったんこれらの領域が損傷すると、その領域に対応する機能が低下し、障害が一生残ってしまいます。ただし、無傷な領域が損傷した領域の失われた機能を代行することがあり、その場合には部分的に機能が回復します。しかし、年齢とともに別の領域による機能の代行能力は衰えてきます。たとえば言語機能は、幼児の脳では複数の領域が担っていますが、成人では左脳が集中して担っています。左脳の言語野がひどい損傷を受けた場合、8歳未満であれば右脳がほぼ正常に言語機能を担います。しかし成人が言語野に損傷を受けた場合には、言語障害が一生残ります。

リハビリテーションを行うことで、ほとんどの機能障害の影響を最小限にとどめることができます。

 

 

重症の頭部外傷の場合:

自動車の衝突などによって頭部や頭部以外の部位に外傷があると考えられる人や、意識がない人がいれば、救急車を呼ぶべきです。救急隊員は、頭部に重傷を負った人を動かす際には特に注意を払い、傷を悪化させないようにします。異常がないことが判明するまでは首の骨が折れているものと仮定します。この場合、負傷者の頭、首、脊椎を固定します。通常は、首に硬いカラーを取りつけ、硬い板の担架に乗せ、体が動かないように慎重にパッドを挟んでベルトで固定します。

重症の頭部外傷を負っていると考えられる人が病院に到着すると、医師と看護師は身体診察を行って、外傷の程度を調べます。最初に心拍数、血圧、呼吸などのバイタルサインをチェックします。呼吸が弱いときには、人工呼吸器が必要になります。見当識(時間や場所、人を正しく理解する能力)があるかどうかや、指示に従うことができるかどうかをただちに確認します。また、どの程度の刺激を与えれば負傷者が目を開けるかについても確認します。次に医師は、瞳孔の大きさと光への反応、腕や脚を動かせるかどうか、言語能力、協調運動、反射などについて調べ、脳の基本的機能を判定します。脳の損傷を調べるため、CT検査を行います。CT検査に加えて、MRI検査を行うこともあります。通常は、頭蓋骨のX線検査は必要ありません。頭部X線検査では頭蓋骨骨折は見つかりますが、脳の損傷部位はほとんど映し出されないからです。必要に応じて首のX線検査やCT検査を行い、首の骨が折れていないか確認します。

重症の頭部外傷は病院に入院します。通常は集中治療室に収容されます。血圧や血液中の酸素、二酸化炭素の濃度を適正なレベルに維持します。血圧を管理するには、必要に応じて、輸液の量を調節したり、利尿薬(マンニトール、フロセミドなど)を投与したりします。血液中の酸素や二酸化炭素の濃度を管理するには、人工呼吸器で酸素の投与量や呼吸の速さ、深さを調節します。頭蓋内や脳内の圧力が上昇しすぎないように、ベッドの頭の方を高くすることもあります。痛みの治療を行います。筋肉の活動が多すぎると悪影響が出ることがあるため、鎮静薬を投与することもあります。発熱の治療を行います。けいれん発作があれば、抗けいれん薬を投与します。

 

治療によって脳圧の上昇が抑えられているかどうか、または治まっているかどうかを判定するため、小型の圧力計を頭蓋内に埋め込んで頭蓋内圧を測定することがあります。あるいは、カテーテルを脳内のスペース(脳室)の1つに挿入することもあります。脳室内は脳脊髄液で満たされており、脳の表面を覆う髄膜の間を流れています。カテーテルを挿入することで頭蓋内圧の観察が可能になり、また、脳脊髄液を抜き取って頭蓋内圧を低下させることができます。頭蓋内圧を下げるために、頭蓋骨を開く手術が必要になることもあります。

 

 

 

外傷性脳損傷のリハビリテーションのおおまかな流れは、急性期と回復期以降に分かれます。急性期では、まず、基本的な日常生活動作が自立できるようにして、安全に歩けるように運動面中心のリハビリテーションを行います。意識障害や合併症などが長引いている場合には、なかなかリハビリテーションが進まないこともありますが、長期間にわたって改善するのが特徴ですので辛抱が必要です。ある程度身の回りの動作が自立できても、高次脳機能障害のために自立できない状況が続く場合があります。したがって、回復期以降は入院と外来の両方で、高次脳機能障害のリハビリテーションを中心に実施します。

 

 

脳挫傷

 外傷による局所の脳組織の挫滅(衝撃によって組織が砕けるような損傷)を「脳挫傷」と呼びます。

通常、脳挫傷はある程度の出血を伴い、出血が塊になって血腫をつくれば、その部位に応じた病名(外傷性脳内血腫 など)もつきます。

 

症状の現れ方  脳挫傷からの出血と、挫傷部とその周囲の脳がむくんでくる(脳浮腫)ため、頭蓋骨の内側の圧が高まり(頭蓋内圧亢進)、激しい頭痛、嘔吐、意識障害が現れます。脳挫傷の局所の症状として、半身の麻痺(片麻痺)、半身の感覚障害、言語障害、けいれん発作などが現れることもあります。

多量の血腫ができた場合や、脳浮腫による圧迫で脳ヘルニアの状態にまで進行すると、深部にある生命維持中枢(脳幹)が侵され(呼吸障害など)、最終的には死に至ります。

 脳挫傷からの出血によって脳内血腫をつくる場合は、受傷直後に症状が現れることがほとんどですが、高齢者では遅れて血腫が増大することがあるので注意が必要です。 

 

治療の方法  血腫を伴わなければ、頭蓋内圧亢進に対する脳圧降下薬(グリセオールやマンニトール)の点滴注射が行われます。頭蓋内圧亢進に対する特殊な治療法としてバルビツレート療法や低体温療法がありますが、副作用も大きいため、適応は慎重に判断されます。頭蓋骨を外す外減圧術が行われる場合もあります。

予後は一般的に入院時の意識障害の程度に比例し、昏睡状態の重症脳挫傷(脳内血腫の合併を含む)の死亡率は44%、社会復帰は31%と報告されています。

 

 脳挫傷の後遺症には、嗅覚、視覚、味覚、運動機能などの障害、てんかん発作知能障害、頭痛、めまい、難聴、耳鳴り、精神的な症状などさまざまです。

半身麻痺や失語症に関してはリハビリをすることによって改善することがあります。

 

 


脳裂傷

脳裂傷とは、頭蓋骨の骨折部位から入り込んだ異物や押し込まれた骨の断片が原因で、脳組織が裂けた状態を指します。

 

 

脳挫傷や脳裂傷が特に小さければ、脳へのダメージはごくわずかで、症状がほとんど現れないか、軽症の頭部外傷の症状が生じます。しかし、挫傷や裂傷が大きい場合や、挫傷や裂傷が小さくても出血や腫れがひどい場合には、重症の頭部外傷の症状が出ることもあります。たとえば、意識消失が一時的(2~3分間程度)に生じたり、長時間持続したりすることがよくあります。意識が戻ると、しばしば眠気や錯乱、落ちつきのなさ、興奮がみられます。嘔吐やけいれん発作が生じたり、平衡感覚や協調運動が損なわれることもあります。思考能力、感情の調節、運動、感覚、言語、視力、聴力、記憶などに障害が現れることもあります。重症の場合は、脳の内部で腫れが起こり、脳組織の損傷が進行します。脳ヘルニアが生じて、昏睡状態に陥ることもあります。

 

脳挫傷や脳裂傷の診断にはCT検査を行います。出血や腫れがわずかであれば、通常は1週間程度入院による経過観察を行います。出血がひどい場合は、重症の頭部外傷と同様の治療を行います。この場合、多くは集中治療室へ収容されます。血圧や血液中の酸素、二酸化炭素の濃度を適正なレベルに維持します。酸素吸入や人工呼吸器の使用、痛みの緩和、鎮静を行うこともあります。発熱とけいれん発作は治療します。

脳圧を測定するため、頭蓋内に圧力計を埋め込んだり、脳内のスペース(脳室)の1つにカテーテルを挿入したりすることもあります。出血によってヘルニアが生じた場合は、脳の圧迫を防止するために血液を抜き取る手術を行うことがあります。ただし、血液を抜き取る際に脳組織を切除した場合には、やがて脳機能に障害が出ることがあります。

 

 

交通事故等による外傷性脳損傷

 交通事故や転落などで頭に強い衝撃が加わると、脳が傷ついたり、出血したりします。これを外傷性脳損傷(または脳外傷、頭部外傷)といいます。

 脳の損傷によって、脳の働きが障害され、脳卒中と同様に半身の麻痺や感覚障害、失語症、半側空間無視などの症状が起こります。そのほか、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などのいわゆる「高次脳機能障害」がよくみられます。

 

外傷性脳損傷では脳卒中の場合とは異なる特徴があります。

 外傷性脳損傷の方が、  ・改善傾向が長く続く(1年以上)  ・運動面の障害より高次脳機能障害の方が問題として残りやすい  ・復職や復学など社会的な面でも対策が必要になる などです。

 

 


びまん性脳損傷

「びまん性」とは、病変がはっきり限定されずに、広い範囲に広がっている状態を指します。

びまん性脳損傷は交通事故などにより脳が大きなダメージを受けることによって起こります。強い衝撃で頭蓋骨の中の脳がゆすぶられて、脳の神経細胞の繊維である軸索にズレが生じます。

神経が大きな範囲で切断や損傷を受けて、その影響がさまざまな症状を引き起こすのだと考えられています。

 

 

びまん性脳損傷の症状は、脳震盪とびまん性軸索損傷に分けられます。

 

脳震盪では、失神やめまい、吐き気や混乱などが起こりますが、軽いものは安静にしていれば治ります。しかし重いものだと、頭痛や記憶障害などの症状が残ることがあります。

 

 頭部外傷のうち、受傷直後から6時間を超えた意識消失がある場合を、臨床的に「びまん性軸索損傷」と定義しています。通常は、明らかな脳組織の挫滅(ざめつ脳挫傷)や血腫がない場合に付けられる病名で、意識のない原因を、脳の細胞レベルの損傷が広範囲に生じたためと考えたものです。

びまん性軸索損傷では、症状はもっと重くなります。記憶や集中力に問題が起こったり、自分をコントロールする力が弱まったりして、すぐ頭に血が上る、手を上げるといった攻撃的な行動や感情を示すようになることもあるので、性格が以前と変わったように見えます。

びまん性軸索損傷は高次脳機能障害をきたしやすく、知能や記憶などの後遺症を残しやすいとされています。

 

治療

びまん性脳損傷には現在根本的な治療方法はなく、合併症や二次損傷を防ぐ治療が行われます。血腫や脳挫傷が、びまん性脳損傷と一緒に起こっている場合はその治療もし、また酸素不足などで脳の機能がさらにダメージを受けないように、酸素や血液が十分行きわたるための処置をします。そして回復してきたら、リハビリテーションとしてベッドや車いすの上で姿勢を整えることを始めます。回復度に合わせて徐々に運動や行動の訓練を行い、問題行動を起こしたときなどの対処について、行動療法といったアプローチもなされます。

 

脳挫傷や血腫を合併していれば、それに対する治療を行います。合併症を防いで全身状態を保ち、二次的な脳の障害を予防して(脳への十分な血液や酸素の供給など)、脳の回復を期待します。

 予後は一般的に昏睡の持続時間に比例します。受傷から24時間以内に意識の回復がなくて脳幹の障害が認められる場合は死亡率が約6割とされ、生命が助かっても意識障害などの後遺症が残ります。

 

 

脳ヘルニア

 

 脳浮腫や血腫などが原因となり、頭蓋内の圧力が高まった状態(頭蓋内圧亢進)が続くと、その部分の脳組織が他の組織に押し出されて圧迫してしまう。この状態を 脳ヘルニア という。

 

 

脳の圧迫

脳内に出血や腫れが起こると、脳を頭蓋の下方へ押し下げる圧力が生じます。その結果、脳を上下左右に仕切っている比較的硬いシート状の組織にある小さな開口部から、脳の組織が外へ押し出され、ヘルニアが起こります(この仕切りは、脳を覆う硬膜が延びてできたものです)。ヘルニアが生じると脳の組織が圧迫され、損傷します。

 

 

特に多くみられるのはテント切痕ヘルニアです。これは、側頭葉と小脳の仕切りにあるテント切痕と呼ばれる開口部から側頭葉の一部が押し出された状態をいいます。瞳孔が開き、光があたっても収縮しないことがあります。テント切痕ヘルニアが生じると、麻痺、昏迷、昏睡、異常な心拍リズム、呼吸困難や呼吸停止、心停止、死亡などの破局的な状態に陥ります。

 

 

脳が損傷すると、出血や腫れが生じます。出血や腫れによって脳が大きくなっても頭蓋骨は広がらないため、脳にかかる圧力が徐々に高まります。圧力が高まるにつれて、患者の症状が悪化し、新しい症状が出ます。頭蓋骨内の圧力が高まったときの初期症状は、頭痛の悪化や思考障害、意識レベルの低下、嘔吐などです。その後、刺激に対する反応が失われ、瞳孔が開きます。やがて(通常は、外傷から1~2日以内)、圧力上昇により脳が下方に押し下げられ、脳の仕切りにある開口部から脳組織が異常に突出する、いわゆる脳ヘルニアが起こります。脳ヘルニアが起こると、心拍や呼吸などの生命維持機能をコントロールしている脳幹(脳の下部)が過剰に圧迫されて、昏睡状態に陥ったり、死に至る場合もあります。

 

 

頭蓋内血腫

頭蓋内血腫は、脳の内部、または脳と頭蓋骨の間に血液がたまった状態を指します。

 

 

 頭蓋内血腫の種類には、頭蓋骨と、脳を覆う髄膜の一番外側にある層(硬膜)との間に生じる硬膜外血腫、硬膜と中間にある層(くも膜)との間に生じる硬膜下血腫、脳の内部に生じる脳内血腫があります。

 

 

硬膜外血腫 

頭部外傷により、脳内に出血することがあります。その結果、頭蓋骨と、脳を覆う組織(髄膜)の一番外側にある層(硬膜)との間に血液がたまります。これを硬膜外血腫といいます。

 硬膜外血腫は、頭蓋骨と脳を覆う髄膜の外側の層との間にある、動脈や大きな静脈(静脈洞)からの出血が原因です。頭蓋骨骨折により血管が破れて出血すると、その直後や数時間後に激しい頭痛が起こります。ときには頭痛が治まることもありますが、数時間後にさらに悪化してぶり返します。その後すぐに錯乱、眠気、麻痺、虚脱、深い昏睡などの意識障害が現れます。

 

 

硬膜下血腫

髄膜の一番外側の層と真ん中の層との間に血液がたまることがあります。これを硬膜下血腫といいます。

 

 この血腫は、脳を覆っている髄膜の外側と中間の層の間にある架橋静脈からの出血が原因です。硬膜下血腫は、急性、亜急性、慢性に分けられます。重症の頭部外傷後に急速に出血すると、すぐに症状が現れる急性硬膜下血腫か、数時間以上かかって症状が現れる亜急性硬膜下血腫の原因になります。

 慢性硬膜下血腫は、アルコール依存者や高齢者により多くみられます。慢性硬膜下血腫はそれほど重症ではない頭部外傷が原因で、出血は徐々に始まり、症状は数日、数週間、あるいはヵ月もたってから現れます。症状が現れるのが遅いのは、硬膜下血腫が非常にゆっくりと拡大するためです。

 

 頭蓋内血腫の原因は、頭部外傷と脳卒中です。アスピリンや抗凝固薬を服用している場合は出血のリスクが高くなっているため、特に高齢者は軽い頭部外傷でも血腫ができやすくなります。大部分の血腫は急激に発症して、数分以内に症状が現れます。大きな血腫は脳を圧迫して脳の腫れや脳ヘルニアを引き起こします。血腫は、特に高齢者では、錯乱、記憶喪失、意識消失を起こし、昏睡、体の片側あるいは両側の麻痺(まひ)、呼吸困難、心拍数の減少、死亡の原因になります。血腫の部位が硬膜外か硬膜下であれば、早期治療によって脳内血腫よりもより早く、しかも完全に回復します。これは脳内血腫と異なり、硬膜外血腫と硬膜下血腫では血液が脳組織に触れないために、脳に直接的な炎症が起こらないからです。

 

 

脳内血腫

重度の頭部外傷を負ったときによく生じます。脳内血腫の原因は脳挫傷です。損傷した脳の中に水分がたまることが多く(脳浮腫)、これが主な死因となっています。

 

 

(脊椎・脊髄疾患)

 

脊髄とは背骨の中にある脊髄腔を通る神経の道のことをいいます。

脳と脊髄を合わせて中枢神経、そこから枝葉に分かれて延びる神経を末梢神経といいます。  脊髄から直接出ている神経は神経根と呼ばれ、頸髄、胸髄、腰髄、仙髄、尾髄の5つに分けられます。

 

脊椎(脊柱)は、椎骨と呼ばれる骨が連なってできています。長くて傷つきやすい脊髄は、脊椎の中心を通る脊柱管の中にあり、椎骨によって保護されています。椎骨と椎骨の間には軟骨でできた椎間板があり、脊椎のクッションとしての役目を果たし、ある程度の柔軟性を与えています。脊髄からは、椎骨と椎骨の間を通って31対の脊髄神経が出ています。それぞれの神経は、2本の短い枝(神経根)に分かれており、1本は脊髄の前(運動神経根、前根)に、もう1本は脊髄の後ろ(感覚神経根、後根)に位置します。運動神経根は脳と脊髄からの命令を、体の他の部分、特に骨格筋へ伝えます。感覚神経根は体の他の部分の情報を脳へ伝えています。脊髄は、脊椎の下方約4分の3の位置で終わりますが、そこから下へ一束の神経が伸びています。この神経の束は馬の尾に似た形をしているため馬尾と呼ばれており、下肢へ行き来する神経インパルスを伝えます。

 

脳と同じように、脊髄も灰白質と白質で構成されています。蝶のような形をした脊髄の中心部には、灰白質があります。蝶の羽の前部にあたる部分(角と呼ばれる)には、脳や脊髄からの情報を筋肉に伝えて運動を起こさせる運動神経細胞が集まっています。後側の角には、体の他の部分からの感覚情報を脊髄経由で脳に伝える感覚神経細胞が集まっています。周囲の白質には、体の他の部分からの感覚情報を脳へ運ぶ経路(上行路)と、脳から出されたインパルスを筋肉へ運ぶ経路(下行路)である、神経線維の束が通っています。

 

 

脊髄は人体で最も重要な器官なので、脊柱(背骨)という硬い組織の中に収められているだけでなく、さらに内側に髄膜という膜が脊髄のまわりをすっぽりと包み込んでいます。髄膜はまた硬膜、クモ膜、軟膜という3つの層から成り立っていて、クモ膜の内部には髄液が満たされ、外界からの衝撃をやわらげる働きをしています。

 

脊髄と髄膜は、脊椎の中央を通っている脊柱管の中にあります。大半の成人では、脊椎は26個の背骨(椎骨)でできています。頭蓋が脳を保護しているように、椎骨は脊髄を保護しています。椎骨の間は、軟骨でできた椎間板で隔てられており、歩行やジャンプなどの動きで生じる衝撃を和らげるクッションの役目をしています。

 

 

脊髄障害

 

脊髄障害には、脊髄外部に由来するものもあります。

たとえば外傷、感染症、血流の遮断、圧迫などです。

 

脊髄の圧迫は、骨(頸椎症や骨折などの場合)、血腫(血液の貯留)、腫瘍、膿瘍(局所的な膿の貯留)、椎間板破裂や椎間板ヘルニアなどによって起こります。

まれに、脊髄内部に由来する脊髄障害もあります。その原因には、髄腔に液が貯まる空洞症、炎症(急性横断性脊髄炎など)、腫瘍、膿瘍、出血、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染、多発性硬化症、梅毒などがあります。

 

 

脊髄損傷

脊髄とは脳から背骨の中を通って伸びている太い神経のようなもので、人間の体を動かす様々な指示は脳からこの脊髄を使って全身に伝わる。

「脊髄損傷」は、交通事故や高い所から落ちたりしたことが原因で起こるケースが大半である。

 

脊髄の損傷領域とその影響

 

 損傷の程度により、「完全損傷」と「不完全損傷」に分けます。「完全損傷」とは、脊髄の機能が完全に壊れた状態であり、脳からの命令は届かず、運動機能が失われます。また、脳へ情報を送ることもできなくなるため、感覚知覚機能も失われます。すなわち、「動かない、感じない」という状態となります(麻痺)。しかし、全く何も感じないわけではなく、ケガをした部位から下の麻痺した部位に、痛みや異常な感覚を感じます。

 「不完全損傷」とは、脊髄の一部が損傷し一部機能が残った状態であり、感覚知覚機能だけが残った重症なものから、ある程度運動機能が残った軽症なものまであります。  受傷後、時間がたって慢性期になると、今度は動かせないはずの筋肉が本人の意思とは関係なく突然強張ったり、けいれん(痙攣)を起こすことがあります(痙性)。  麻痺の程度によっては、手ではハシを使うことや字を書くことが困難、あるいはできなくなり、特殊な道具が必要となります。足では歩くことが困難、あるいはできなくなり、杖や車イスが必要となります。さらに、高い位置の頚椎レベルで脊髄損傷となると手足だけでなく呼吸筋まで麻痺し、人工呼吸器なしには生きられなくなります。

 排便や排尿などの排泄機能も障害されますから、オムツや導尿カテーテルなど、排泄に必要な道具が必要となります。また、男性では勃起などの性機能も障害されます。 運動・感覚だけではなく、自律神経系も損傷されます。麻痺した部位では代謝が不活発となるため、ケガなどは治りにくくなります。また、汗をかく、鳥肌を立てる、血管を収縮/拡張させるといった自律神経系の調節も機能しなくなるため、体温調節が困難となります。

 

治療

脊髄の機能不全の症状(麻痺や感覚の喪失など)が突然起こった場合は、ただちに医師の診察を受けるべきです。すぐに受診することで、永久的な神経損傷や麻痺が起こるのを防げる場合があります。可能であれば原因の治療または是正が行われます。しかし、このような処置が行えないかまたは成功しないことも少なくありません。

脊髄障害により麻痺が生じた人や、寝たきり状態になった人は、次のような合併症を予防するために高度な介護が必要です。

 

床ずれ:

看護師が毎日皮膚を確認し、乾燥と清潔を保ち、頻繁に体の向きを変えます。必要であれば、ストライカー枠と呼ばれる特殊なベッドが用いられます。このベッドは、圧力のかかる部位が前後左右に移るように回転します。

 

排尿障害:

自力で動けずトイレが使えない場合は尿道カテーテルが必要になります。尿路感染症のリスクを減らすために、カテーテルの挿入は無菌操作で行われ、抗菌薬の軟膏または液剤が毎日塗布されます。

 

肺炎:

肺炎のリスクを減らすために、療法士や看護師から深呼吸の方法を習います。肺に蓄積する分泌物を排出しやすいように体の角度を調節したり(体位ドレナージ)、分泌物を吸い出したりするなどの介助も行われます。

 

血栓:

ヘパリンや低分子量ヘパリンなどの抗凝固薬が、注射で投与されます。抗凝固薬を使用できない場合は(出血性の疾患や胃潰瘍がある場合など)、下大静脈(血液を腹部から心臓に運ぶ太い血管)にフィルターを留置します(このフィルターはアンブレラとも呼ばれます。このフィルターは、脚の静脈からはがれてきた血栓を、心臓にたどり着く前に捕まえます。

体の機能を広範囲に失うことは、痛烈な打撃となって、抑うつや自尊心の喪失をもたらすことがあります。正式なカウンセリングは非常に有用です。何が起きたのか、そして近い将来および遠い将来に何が起こりうるかを正確に知ることは、その人が喪失に対処しリハビリテーションに備える助けとなります。

 

リハビリテーション:

リハビリテーションはできるだけ多くの機能を回復するのに役立ちます。最善の方法は、看護師、理学療法士、作業療法士、ソーシャルワーカー、栄養士、臨床心理士、カウンセラー、そして本人と家族で構成されるチームがケアにあたることです。たとえば、膀胱と腸管の機能不全に対しては、カテーテルの挿入の仕方、下剤を使用するタイミング、指で便通を刺激する方法などを看護師から習うことができます。

理学療法では、筋力をつける運動やストレッチを行います。装具、歩行器、車いすなどの補助器具の使用方法や筋肉の痙縮への対処法を学ぶこともできます。作業療法では、日常作業を再開するための方法を習うことができ、器用さと協調運動の改善にも役立ちます。これらのリハビリテーションで、失われた機能を補うための工夫や技術を習います。仕事、趣味、活動を再開するのに必要となる適応のプロセスを臨床心理士やカウンセラーが手助けすることもあります。性機能不全への対処方法も学ぶことができます。多くの人は、感覚が失われていても性行為が可能です。

家族や親しい友人からの心理的な支えも重要です。

 

 

合併症  脊髄損傷による麻痺以外に、色々な全身の合併症が発生します。呼吸器合併症、循環器合併症、消化器合併症、泌尿器合併症、褥瘡などがあります。いずれも生命にかかわる重大なものです。

 

(1)呼吸器合併症(頚椎部脊髄損傷の場合)  高い位置の頚椎レベルで脊髄損傷となると手足だけでなく呼吸筋まで麻痺し、人工呼吸器なしには生きられなくなります。低い位置の頚椎レベルの脊髄損傷でも、セキがうまくできないので、タンづまりや肺炎を起こしやすくなります。

 

(2)循環器合併症  脈が遅くなったり(徐脈)、起き上がったときに低血圧となります(起立性低血圧)。足が動かせないことから、深部静脈血栓症(エコノミー・クラス症候群)を生じやすくなります。

 

(3) 消化器合併症  ケガをしたばかりの急性期には、ストレス性胃潰瘍・十二指腸潰瘍の危険性があります。もし、潰瘍で胃や腸に穴があいても(潰瘍穿孔)、痛みを感じないので、手遅れとなることがあります。また、胃腸の動きも悪くなりますから、腸閉塞(麻痺性イレウス)となることもあります。

 

(4) 泌尿器合併症  排尿機能が障害されたことにより、尿にバイ菌がつきやすくなります(尿路感染症)。尿路感染症から全身にバイ菌がまわってしまい(敗血症)、死にいたる方がたくさんみえます。尿路感染症を防ぐためには、陰部や排尿に使用する器具の清潔管理・操作が重要です。

 

(5) 褥瘡(床ずれ)  普通の方は、長時間同じ姿勢で座っていたり横になっていると、床にあたっている部分の血流が不足し、しびれるので無意識的に座っている格好を変えたり、寝返りを打ったりしています。ところが、脊髄損傷によって感覚を失っているとそれがわからず、圧迫された部位が血行不良となって、皮膚や筋肉などの組織が壊れてしまいます(壊死)。褥瘡が発生すると、ここにもバイ菌がつきやすくなります。褥瘡を防ぐためには、こまめに体位を交換する(自力でできない場合は介助が必要となる)しかありません。

 

 

  診断書では、頚髄損傷、胸髄損傷、腰髄損傷といった病名がつけられることもあるが、脊髄損傷のことを言う。

 脊髄損傷による障害の程度や部位は人により異なり、上肢がほとんど動かなくなる場合もあれば、下肢が全廃する場合や、四肢機能の障害が軽度な場合もある。

 障害年金の手続きの際には、診断書の内容が大変重要となる。特に「麻痺」の項目や、裏面の「筋力低下および日常生活動作」の項目は、認定に関わる大切なポイントである。

 

 

脊髄炎

 脊髄は頸髄、胸髄、腰髄、仙髄からなりますが、このどこかに炎症が生じた時に脊髄炎といいます。急性に症状が現れた時には脊髄炎、慢性に経過する時には脊髄症と呼ぶことが多いようです。脊髄には狭い場所に神経が集中しているため、小さな障害でも重い後遺症を残すことが懸念されます。

 

原因  脊髄炎の原因は、 (1)原因が不明な特発性 (2)ウイルス、細菌、寄生虫などの感染による感染性あるいは感染後性 (3)全身性エリテマトーデスなどの膠原病あるいは類縁疾患に合併するもの (4)多発性硬化症、急性散在性脳脊髄炎などの自己免疫性 などに分類されます。  正確な頻度は不明ですが、ウイルス感染に関連して発症するものが多いようです。

 原因ウイルスとしては、帯状疱疹ウイルス、単純ヘルペスウイルス、風疹ウイルス、麻疹(ウイルス、サイトメガロウイルスなどが知られており、急性脊髄炎を発症します。

 一方、成人T細胞白血病ウイルス(HTLV‐1)は慢性の経過を示すHTLV‐1関連脊髄症(HAM)を起こします。

 

 

症状の現れ方  急性脊髄炎では、脊髄は横断性(水平面全体)に損なわれます。傷害された脊髄の部位に相当する部分に運動障害と感覚障害がみられ、加えて膀胱直腸障害を生じます。胸髄が損なわれる頻度が高く、両下肢の麻痺(対麻痺という)と損なわれたところから下の部分に感覚障害および排尿・排便障害が現れます。頸髄が損なわれると、四肢に麻痺と感覚異常が生じます。  障害が横断性でなく部分的である場合もあります。たとえば、運動神経の通っている脊髄の前方部分だけが損なわれると、運動障害だけが現れます。

 

治療の方法  急性脊髄炎はウイルスの直接感染による場合と、ウイルス感染に伴う遅発性アレルギー反応によるものが大部分を占めています。したがってアシクロビル(ゾビラックス)などの抗ウイルス薬や、アレルギー反応を抑えるために副腎皮質ステロイド薬を投与したりします。  頸髄障害による呼吸不全がみられた時は呼吸管理も必要になります。排尿障害に対しては、膀胱カテーテルの留置が必要になる時も多く、慢性期になっても自己導尿を行う場合もあります。薬物療法は1カ月程度で終了し、早期から積極的にリハビリテーションを行います。  HTLV‐1関連脊髄症は自己免疫学的機序(仕組み)の関与が推定されており、ステロイド療法やインターフェロン療法を行います。

 


HTLV-関連性脊髄炎

HTLV-関連性脊髄炎は、ヒトT細胞白血病ウイルス1に感染することで、白血病とリンパ腫を引き起こす病気です。

その症状は、筋肉の衰えとなります。特に両脚の筋肉が衰え、足と足指の位置感覚が無くなります。四肢を動かすことが困難になり最終的には歩行困難になります。

 

 

 急性脊髄炎では、脊髄は横断性(水平面全体)に損なわれます。傷害された脊髄の部位に相当する部分に運動障害と感覚障害がみられ、加えて膀胱直腸障害を生じます。胸髄が損なわれる頻度が高く、両下肢の麻痺(対麻痺という)と損なわれたところから下の部分に感覚障害および排尿・排便障害が現れます。頸髄が損なわれると、四肢に麻痺と感覚異常が生じます。  障害が横断性でなく部分的である場合もあります。たとえば、運動神経の通っている脊髄の前方部分だけが損なわれると、運動障害だけが現れます。

 

 

頸椎症

 

頸椎症は、首の椎間板と椎骨の変性により、首の脊髄が圧迫される病気です。

主な原因は変形性関節症です。

多くの場合は、最初の症状として、歩行がぎこちなく不安定になり、首に痛みが生じて首の柔軟性が失われます。

MRI検査またはCT検査によって診断を確定できます。

治療法としては、首に巻く柔らかいコルセット、非ステロイド性抗炎症薬、筋弛緩薬、手術などがあります。

頸椎症は通常、中高年期以降に発症します。55歳以上の人の脊髄の機能不全の原因として最も多くみられます。

変形性関節症は加齢とともによくみられるようになります。変形性関節症になると、首の椎骨に変性が起こります。椎骨の自己修復が起きると、骨が成長しすぎて異常な骨の突起(骨棘)が形成され、首の脊柱管が狭くなります(脊柱管は、脊椎の中心にある、脊髄が通っている通路です)。椎間板も変性し、正常なら脊髄を保護しているクッションが減ってしまいます。その結果、脊髄が圧迫されて、機能不全が起きることがあります。人によっては、生まれたときから脊柱管が狭いことがあります。そのような人では、頚椎症による圧迫がより重度になる可能性があります。

脊髄神経根も圧迫されることがしばしばあります。

変形性関節症の人では、首を曲げると、椎骨が隣の椎骨の上をすべることがあります(これは脊椎すべり症と呼ばれます)。その結果、脊柱管が急に狭くなり、首が動くたびに脊髄がわずかに、しかし繰り返し傷つきます。

 

症状

脊髄もしくは脊髄神経根、またはその両方が圧迫されると、症状が現れます。

脊髄が圧迫されると、通常は最初の徴候として歩き方が変化します。脚の動きがぎこちなく(引きつるように)なり、歩行が不安定になります。足と手の感覚が低下することもあります。首が痛み、柔軟性が低下します。反射が亢進し、特に脚の筋肉では痙縮が起きることがあります。せき、くしゃみなどの首の動きにより、症状が悪化することがあります。脚や足より手に大きな影響が出ることもあります。重症な場合は、膀胱や腸管の機能が損なわれることがあります。

脊髄神経根が圧迫されると、通常、首に痛みが生じ、しばしばその痛みが頭、肩、腕に広がります。片腕または両腕の筋力が低下して筋肉の量が減り、腕がだらりとなります。腕の反射が減退することもあります。

 

診断

特に高齢者や変形性関節症の人では、症状に基づいて頸椎症が疑われます。MRI検査やCT検査によって、診断を確定することができます。MRIは脊髄と脊髄神経根を描出できますが、CTはできないので、CTよりMRIのほうがはるかに多くの情報が得られます。しかし、どちらの検査でも、脊柱管のどこが狭窄しているか、脊髄がどのように圧迫されているか、どの脊髄神経根が圧迫されているかが分かります。

 

治療

頸椎症による脊髄の機能不全は、治療を行わなくても症状が軽減または安定することもありますが、悪化することもあります。

初期には、特に脊髄神経根だけが圧迫されている場合は、首に巻く柔らかいコルセット、イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、メトカルバモールなどの筋弛緩薬によって症状を緩和できます。

脊髄が圧迫されている場合は、通常、手術が必要です。首の前部(頚椎前方固定術)、あるいは後部(後方椎弓切除術)を切り開きます。変性が起きている椎骨の一部を取り除いて、脊髄のためのスペースを増やします。骨棘がある場合は取り除きます。椎骨同士をくっつけることにより脊椎を安定させることもあります。手術を行っても、すでに起こってしまった神経の損傷が回復することはありませんが、損傷がさらに起こるのを防ぐことはできます。手術が早いほど、その後の経過は良好です。

手術後は脊椎が不安定なので、回復途中では、固いコルセットを装着して頭が動かないように固定する必要があります。

筋肉の痙縮がある場合は、筋弛緩薬のバクロフェンが痙縮の軽減に役立ちます。

 

 

頚椎椎間板ヘルニア

 

 ヒトの神経には、脳からの命令を手足や身体各部に伝える運動神経と、身体各部からの知覚情報(熱い・痛いなどの感覚)を脳へと伝える知覚神経があります。腰椎は5個あり上から順に第一腰椎・第二腰椎と名付けられています。さきほどの神経はこの5個の腰椎が縦に並んでできている管(脊柱管と呼ばれます)の中におさまっています。第二腰椎より下の部分では神経は馬の尻尾のように縦に並んでおり(脊髄馬尾と呼ばれます)、この脊髄馬尾神経はそれぞれの腰椎のところで順次左右一対ずつ枝分かれして、下肢へと向かいます。これら5個の腰椎は幾つかの靱帯や椎間板と呼ばれる一種のクッションのような働きをする組織によりつながれています。この椎間板は正常ではかなりの弾性を有しており、腰椎を支えるとともに、この椎間板のおかげで腰椎はある程度前後左右に運動することが可能になっています。この椎間板は、外縁部分を構成する線維輪という靱帯様の構造物と、中心部に含まれるかなり軟らかい髄核とよばれる構造物から成り立っています。この椎間板のうち線維輪が弱くなって全体として膨隆したり、線維輪が断裂して中の髄核が脱出したりして、近傍にある神経を圧迫するようになったものが腰椎椎間板ヘルニアです。

 椎間板という組織自体は加齢とともに早くから老化しやすい組織であること、人類が二本足歩行を開始したために、下位腰椎に過剰な負担がかかりやすくなっていることが、椎間板が損傷されやすい大きな原因であろうと考えられています。椎間板ヘルニアの患者さんの年齢は50歳代にピークがあり、男性はおよそ女性の2倍の頻度でみられ、20歳以前と70歳以降では比較的稀な病気です。

 

 

症状  通常は腰痛やいわゆる「ぎっくり腰」のような症状が数日みられます。これに続いて一側の下肢へと放散する激しい痛みが生じます。この痛みは激烈なものが多く、数日はほとんど満足に動けないことも多く、睡眠も妨げられるほどです。しかしながらこの痛みは2~3週間でピークを迎えることが多く、その後は下肢へと放散する鈍痛がみられ、徐々にこれが薄らぐという経過をとります。典型的な場合には症状は一側下肢のみに限局しますが、時には両下肢が痛んだり、排尿排便障害がみられることもあります。

 

 

治療法  腰椎椎間板ヘルニアは自然経過で軽快するものが多いといわれています。現在までの研究では、腰椎椎間板ヘルニアのおよそ80~85%の症例は自然経過で軽快すると報告されています。  手術以外のいわゆる保存的療法としては、安静・腰椎コルセットの装着・腰椎牽引や腰部マッサージなどが行われます。痛みが高度の場合には腰部硬膜外神経ブロックなどの鎮痛を目的とした治療法も行われます。内服薬としては、鎮痛消炎剤・筋弛緩剤・ビタミン剤などが投与されます。これらの保存的療法が無効の場合には、手術的治療法が行われます。   手術的治療法としては、経皮的髄核摘出術(レーザーを使用するもの、内視鏡的に行うものなど)も開発されています。

 

手術療法  各種の保存的療法を2~3ヶ月行っても効果のない場合、痛みの発作が繰り返す場合、痛みが激烈な場合、下肢の運動麻痺が著名な場合などには以下に述べる手術用顕微鏡下での椎間板ヘルニア切除術を行っています。  手術は原則として、腰椎麻酔下に腹臥位(腹ばいの姿勢)で行います。各種画像検査で確認したレベルを中心として4~5cm長の皮膚切開を背中の正中部分に縦に設けます。次いで腰椎に付着している筋肉を一時的に剥離します。これ以降の手術操作は手術用顕微鏡下に明るい術野のもと、色々な組織を十分に拡大しつつ慎重に操作を進めます。腰椎の一部分を削除し、これに付着する黄色靱帯を切除後、圧迫されている神経を確認します。この神経を保護しつつこの神経を圧迫している椎間板ヘルニア塊を摘出します。止血を確認後、排液管を留置し閉創します。

 

切除後の術後経過  術後は腰椎コルセットを装着して翌日に起床し、歩行器を用いて少しずつ歩行を開始します。術後7日目に抜糸し、術後10~14日目に退院となります。外来は2~3週間に1度来院して頂き、神経症状のチェックと腰椎Ⅹ線撮影を行います。腰椎コルセットは術後3週間程度装着します。簡単な仕事なら術後1ヶ月ごろから開始します。

 

切除術の合併症過 ・神経損傷による下肢麻痺   ・下肢知覚鈍麻 ・排尿排便障害   これらの神経損傷は、腰椎を高速回転のドリルで削除する際やヘルニア塊を摘出する操作の際に生じやすいとされています。

・創部感染あるいは椎間板に炎症がみられる術後椎間板炎 ・神経を包んでいる膜(硬膜)の損傷による脊髄液の漏出、およびこれに引き続き生じる髄膜炎 ・創部の血腫形成による神経麻痺・下肢痛 ・腹部の大血管の損傷による術中の大出血

・その他の稀な合併症として、深部静脈血栓症、肺炎などの感染症などが生じることがあります。

 

 

 


腰部椎間板ヘルニア

 

 腰椎椎間板ヘルニアは椎間板の一部が外に飛び出すことで脊髄や神経根を圧迫する状態をいいます。

 椎間板は脊椎の中にある腰椎と腰椎の間にあるもので、クッションの役割をしています。腰部椎間板ヘルニアの原因は椎間板の老化や(20歳頃から老化し始めます)、背骨にかかる負担が積み重なることで引き起こされます。

 

症状  腰痛、片側の足の痛み、しびれ、筋力低下、歩行異常、排尿障害など。

 症状のあらわれ方には突然の腰痛が起こる場合と、じわじわと鈍痛があらわれてくる場合があります。 運動時や咳・くしゃみによって症状が悪化しますが、安静にすると治ってくるのが特徴です。

 

治療  薬物療法、運動療法、手術療法など

 保存療法には薬物療法と運動療法があります。  薬物療法には消炎鎮痛剤や筋弛緩剤などが使用され、運動療法には牽引療法、温熱療法、腰椎体操などがあります。

 大半の患者さんは保存療法で治りますが、3ヶ月以上保存療法を実施しても治らず、ヘルニアによって日常生活に支障が出るような症状がある場合は手術療法が行われます。  手術は神経根を圧迫している髄核を摘出する手術で、マイクロ手術や経皮的髄核摘出術、レーザ手術などがあります。

 

 

 

脊髄腫瘍

 脊髄は、脊椎管という孔の中で、頭蓋内から連続している硬膜という丈夫な袋の中に入っています。硬膜の直下には半透明の薄い膜であるクモ膜があり、脳脊髄液が流れています。脊髄は、脳脊髄液の中に浮くようにして存在しています。脊髄からは神経根(前方は運動神経である前根、後方は知覚神経である後根です)という末梢神経が左右に出ています。神経根は、椎間孔から脊椎管の外に出て、身体の筋肉や臓器に分布します。

 脊椎や脊椎管内、脊髄そのものに発生した腫瘍を広く脊髄腫瘍といいます。

通常、腫瘍の発生した部位によって、硬膜外腫瘍、硬膜内髄外腫瘍、髄内腫瘍の三つに分類されます。

 

 

硬膜外腫瘍  脊椎管内の硬膜外腔に存在する腫瘍です。脊髄硬膜外腔に発生する場合と、脊椎骨や脊椎管外に発生した腫瘍が脊椎管内へ進展する場合があります。硬膜の外から脊髄を圧迫します。また、脊椎骨を破壊して脊柱の不安定性を起こすこともあります。

組織学的には、神経鞘腫 schwannoma、神経線維腫 neurofibroma、髄膜腫 meningiomaなど、末梢神経や硬膜から発生する腫瘍、脊索腫 chordomaなど脊椎骨から発生する腫瘍、他の臓器に発生した腫瘍が血行性あるいは浸潤性に硬膜外腔に進展する転移性腫瘍、などがあります。

 

治療  腫瘍の性質によって治療法は異なります。転移性硬膜外腫瘍では、放射線治療や化学療法など原発巣に準じた治療が行われます。疼痛のコントロールが主体となることもあります。手術治療は、診断確定が必要な場合や、急速に症状が進行している場合、放射線治療が無効な場合などに行われます。脊柱の不安定性を伴っている場合は、脊髄組織の除圧と同時に、脊柱の固定術が行われることもあります。

 

 

硬膜内髄外腫瘍  硬膜内で脊髄の外に存在する腫瘍をいいます。脊髄や神経根を圧迫して症状を発現します。組織学的には、神経鞘腫が最も多く、次に髄膜腫が続きます。

 

神経鞘腫・神経線維腫について 神経鞘腫は、全脊髄腫瘍の約30%を占め、最も頻度の高い腫瘍です。神経根より発生する腫

瘍で、多くは後根由来です。良性の腫瘍ですが、神経根由来の痛みや、脊髄を圧迫して手足の

麻痺を起こします。神経根に沿って発育するため、硬膜の内外や、硬膜外に存在することもあ

ります。稀には、脊髄内に発育する場合もあります。腫瘍はゆっくりと発育するため、脊椎管

や椎間孔の拡大がみられる場合があります。神経線維腫も、神経鞘腫と同様に神経根から発生

する良性の腫瘍ですが、画像診断では神経鞘腫と鑑別は困難です。

 

髄膜腫について  全脊髄腫瘍の約20%を占め、2番目に多い脊髄腫瘍です。硬膜から発生します。中高年の女性に多く、胸椎レベルに発生頻度の高い腫瘍です。脊髄を圧迫して、歩行障害などの脊髄症状を示します。

 

治療  腫瘍の性質によって治療方針は異なってきます。頻度の高い神経鞘腫や髄膜腫では、症状が明瞭な場合には、手術によって腫瘍の摘出を行います。手術は、通常は、後方からアプローチして、椎弓切除(あるいは椎弓形成)を行い、硬膜を切開して腫瘍を摘出します。腫瘍と脊髄との位置関係や、脊椎のレベル、腫瘍のサイズ等で、手術方法は変わります。症状は軽度でも、診断を確定するために手術が行われる場合もあります。症状がなく、画像診断で発見された小さな腫瘍は、経過観察のみが行われる場合もあります。

 

 

髄内腫瘍  脊髄の中に存在する腫瘍です。脊髄は中枢神経であり、脳に発生する腫瘍の殆どは脊髄にも発生します。

組織学的には、神経膠腫が最も多くみられます。この他、血管芽腫、脂肪腫、髄内神経鞘腫、海綿状血管腫、脊髄内転移性腫瘍などがあります。

 

神経膠腫について 神経膠腫には多くのタイプがあります。組織型によって腫瘍の進行や悪性度は異なります。

このうち、上衣腫が成人では最も多い髄内腫瘍です。脊髄内の中央に存在しますが、脊髄円錐

部ではしばしば髄外への発育を示します。腫瘍の周囲には、脊髄内の空洞(嚢胞)をしばしば

伴います。腫瘍の圧迫によって脊髄症状(手足のしびれや脱力)を示しますが、症状の進行は

ゆっくりとしたものです。上衣腫は、腫瘍内や周囲へ出血を示すことがあり、その場合は症状

が急速に進行することがあります。次に多い髄内腫瘍は、星細胞腫です。腫瘍は周囲の脊髄組

織に浸潤性に発育することが多く、その悪性度は4段階(グレード1から4)に分けられてい

ます。

 

治療  腫瘍の組織によって治療は異なります。脊髄内に発生する腫瘍は、腫瘍の摘出が可能なものと、困難なものがあります。例えば、上衣腫は、マイクロサージャリー下に、脊髄の後正中切開を行い、全摘出あるいは亜全摘が可能です。部分摘出例には、術後に放射線治療が行われる場合もありますが、多くは、手術のみで腫瘍のコントロールが可能です。星細胞腫では、正常脊髄組織との境界が不明瞭のことが多く、マイクロサージャリー下でも全摘出は困難です。その場合、腫瘍の可及的摘出が行われます。腫瘍の摘出度と、病理組織診断によって術後の治療方針を決めます。グレード1および2では、腫瘍の摘出度が高い場合は経過観察のみとすることもありますが、摘出度が低い場合は、放射線療法や化学療法を併用することがあります。グレード3および4では、診断が確定次第、放射線治療や化学療法が行われます。この他、血管芽腫は、マイクロサージャリーによる摘出術が可能です。脊髄の海綿状血管腫は、髄内の出血による症状を示している場合には、摘出術を行います。転移性髄内腫瘍では、経過から診断が明らかな場合は、放射線治療をはじめから行うこともあります。

 

 

(感染症)

 

脳と脊髄はともに、3層の組織(髄膜)で覆われ、守られています。

最も内側にある層は、軟膜とよばれる薄い膜で、脳と脊髄にくっついています。中間には、くも膜とよばれるクモの巣状のデリケートな層があります。くも膜と軟膜の間にあるスペース(くも膜下腔)は、脳と脊髄の保護に役立つ脳脊髄液の通り道になっています。脳脊髄液は、髄膜の間を通って脳の表面を流れ、脳の内部にある空間(4つの脳室)を満たして、急激な振動や軽い外傷から脳を保護します。最も外側にある層は、革のような最も丈夫な層で、硬膜とよばれます。脳と髄膜は、丈夫な骨の保護体である頭蓋の中に収容されています。

 

 

 

中枢神経系の感染症

 

中枢神経系は脳と脊髄で構成されます。これらの臓器は感染に対して強い抵抗力をもっていますが、いったん感染が起きると、しばしば非常に深刻な状態に陥ります。感染を引き起こす病原体には、細菌、ウイルス、真菌などがあり、ときとして原虫や寄生虫も原因となります。

 

感染症では通常、炎症が起こります。

脳と脊髄を包む組織層(髄膜)の中には液体で満たされている空間があり、この空間に起こる感染症は髄膜炎と呼ばれます。

細菌性髄膜炎は脳に広がることが多く、脳炎を引き起こします。

同様に、脳炎の原因となるウイルス感染が髄膜炎を引き起こすこともあります。したがって、細菌性髄膜炎やウイルス性脳炎が生じた状態は、厳密には髄膜脳炎といえます。

しかし、通常は主としてくも膜下腔と髄膜に生じた感染症は髄膜炎と呼ばれ、主として脳に生じた感染症は脳炎と呼ばれます。

 

髄膜炎と脳炎では脳全体に炎症が起こり、髄膜炎では脊髄全体にも炎症が起こります。しかし、感染が膿の蓄積として1ヵ所に限定される(限局する)場合もあり、このような膿の蓄積は場所によって膿瘍や蓄膿と呼ばれます。膿瘍は、おできに似たもので、脳を含む体のあらゆる場所にできます。コウジカビなどの真菌、トキソプラズマ原虫などの原虫、有鉤条虫などの寄生虫も、膿瘍に似た限局的な脳感染症を引き起こすことがあります。

 

細菌や他の感染性微生物は、いくつかの経路で髄膜やその他の脳領域に侵入してきます。

血流に乗って運ばれてくる

体外から脳に直接侵入する(頭蓋骨骨折や脳手術の場合など)

副鼻腔や中耳など、感染を起こしている近くの器官から広がってくる

 

 

 

 

髄膜炎

 

脳と脊髄を覆う組織層(髄膜)の内部には液体で満たされた空間があり、この空間で起こる炎症を髄膜炎と呼びます。髄膜炎の原因は通常、細菌やウイルスの感染です。

 

 髄膜炎は持続する頭痛を主な症状とし、発熱、項部硬直などの髄膜刺激症状、髄液細胞増加などが認められます。

 

 

脳と脊髄はともに、3層の組織(髄膜)で覆われ、守られています。最も内側にある層は、軟膜とよばれる薄い膜で、脳と脊髄にくっついています。中間には、くも膜とよばれるクモの巣状のデリケートな層があります。くも膜と軟膜の間にあるスペース(くも膜下腔)は、脳と脊髄の保護に役立つ脳脊髄液の通り道になっています。脳脊髄液は、髄膜の間を通って脳の表面を流れ、脳の内部にある空間(4つの脳室)を満たして、急激な振動や軽い外傷から脳を保護します。最も外側にある層は、革のような最も丈夫な層で、硬膜とよばれます。脳と髄膜は、丈夫な骨の保護体である頭蓋の中に収容されています。

 

 

髄膜炎の原因となる主な感染症

 

微生物

備考

細菌感染症

大腸菌感染症

新生児、高齢者、免疫力が低下している人が最もかかりやすい。

大腸菌による髄膜炎は、血液の広範囲の感染症(敗血症)の後、院内感染症の後、あるいは脳や脊髄の手術の後に発生するのが一般的である。

クレブシエラ属細菌の感染症

クレブシエラ属細菌による髄膜炎は、敗血症の後、院内感染症の後、あるいは脳や脊髄の手術の後や、免疫力が低下している人で発生するのが一般的である。

リステリア菌感染症

新生児、50歳以上の人、妊婦、腎不全または肝不全がある人、免疫系の疾患がある人、免疫系に影響を及ぼす薬剤を服用している人が最もかかりやすい。

リステリア菌は、滅菌されていない乳製品の中や多くの肉屋のカウンターに生息していることがある。

髄膜炎菌感染症

髄膜炎菌による髄膜炎(髄膜炎菌性髄膜炎)は伝染性が強く危険であり、狭い場所で共同生活している人々の間で小規模な流行を引き起こす。24時間以内に死に至る可能性がある。

B群レンサ球菌感染症

新生児が最もかかりやすい。

肺炎球菌感染症

肺炎球菌性髄膜炎は、乳児、アルコール依存症の人、耳の感染症がある人がかかりやすい。この菌によって肺炎球菌性肺炎が起きると、髄膜炎のリスクが高くなる。

ライム病

ライム病の原因となる細菌はマダニに媒介されて広がる。ライム病は米国北東部の一部地域でよくみられる。

ライム病では皮膚、関節、心臓、脳、脊髄が侵される。

ロッキー山紅斑熱

ロッキー山紅斑熱の原因となる細菌はマダニに媒介されて広がる。

症状は髄膜炎と似ているが、この感染症は髄膜炎ではない。

梅毒

梅毒を治療せずに放置すると、最初の感染から数年で(HIV感染症やエイズの人ではさらに早く)、脳、髄膜またはその両方が侵される。

結核

結核が流行している地域(アジア、アフリカ、ラテンアメリカなど)から移民してきた人、ホームレスの人、HIV感染症またはエイズがある人でしばしばみられる。

ウイルス感染症

エンテロウイルス感染症

エンテロウイルスは消化管でよくみられるウイルスで、トイレの後に十分手を洗わないと感染することがある。家族内で感染が広がることが多い。

単純ヘルペスウイルス2型感染症

性器ヘルペスを引き起こすウイルス。モラレ髄膜炎と呼ばれる髄膜炎を繰り返し再発させることがある。

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症

最初の感染から数日ないし数週間後に髄膜炎が発生することがある。

サイトメガロウイルス感染症

HIVウイルスの感染者では、腰の脊髄神経が侵され、強い痛みを伴う髄膜炎が起きることがある。

伝染性単核球症

まれに、エプスタイン・バー(EB)ウイルスによるこの感染症が髄膜に及ぶことがある。

おたふくかぜ(流行性耳下腺炎、ムンプス)

世界的にはおたふくかぜによる髄膜炎が多いが、小児の予防接種が行われている米国では少ない。

西ナイルウイルス感染症

感染は蚊によって広がる。

リンパ球性脈絡髄膜炎

ネズミやハムスターの排泄物に汚染された塵や食物に接触して感染することが多い。

真菌感染症

クリプトコッカス症

HIV感染症やエイズなど免疫力を低下させる病気がある人に生じるのが一般的である。

コクシジオイデス症

主に米国南西部でみられる。

エイズ= 後天性免疫不全症候群;HIV = ヒト免疫不全ウイルス

 

 

非感染性の髄膜炎の原因

 

種類

脳の病気

脳以外の部位から脳に転移した癌(白血病、リンパ腫、黒色腫、乳癌、肺癌など)

サルコイドーシス

ベーチェット症候群

頭蓋咽頭腫

免疫系に影響を及ぼす薬剤

アザチオプリン

シクロスポリン

シトシンアラビノシド

免疫グロブリンの静脈内投与

OKT3

非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)(イブプロフェン、ナプロキセン、スリンダク、トルメチン[tolmetin]など)

その他の薬剤

抗生物質(シプロフロキサシン、イソニアジド、ペニシリン、トリメトプリム・スルファメトキサゾール、その他のサルファ剤など)

カルバマゼピン

フェナゾピリジン

ラニチジン

くも膜下腔*に注入される物質

抗生物質

化学療法薬

画像検査に使用される造影剤

麻酔薬

ワクチン

百日ぜき

狂犬病

天然痘

* 脳と脊髄を覆っている組織の層(髄膜)の間にある、脳脊髄液で満たされた空間

 

治療の方法  各種髄膜炎・脳炎には、それぞれの原因に対し特異的な治療があります。髄液所見から細菌性髄膜炎が疑われた場合には、起炎菌の同定結果を待つことなく抗菌薬投与を開始する必要があります。  結核性・真菌性髄膜炎には、抗結核薬、抗真菌薬を使います。ヘルペス脳炎が疑われる場合、アシクロビルの点滴静脈注射が行われます。

 

 


慢性髄膜炎

慢性髄膜炎は、くも膜下腔(脳と脊髄を覆う組織層の間にある空間)でゆっくり進行し、1ヵ月以上続く炎症です。

症状として、発熱、首の硬直、頭痛、複視、歩行困難、錯乱などがみられます。

診断には、頭部の画像検査と脊椎穿刺が必要です。

治療法は原因によって異なります。

くも膜下腔は、脳と脊髄を覆っている組織(髄膜)の中間層(くも膜)と薄い内側層(軟膜)との間にある空間です。

慢性髄膜炎は急性細菌性髄膜炎と似ていますが、原因が異なり、感染と炎症は数時間や数日ではなく、数週間から数カ月かけてゆっくり進行します。症状が1ヵ月以上続いている髄膜炎は慢性とされます。

 

原因

慢性髄膜炎の原因は、通常は感染症で、最も多いのは結核です。

感染性の微生物が脳やくも膜下腔に侵入し、数週間から数カ月かけてゆっくり増殖します。そのような微生物としては、結核や梅毒の原因となる細菌、および、クリプトコッカス・ネオフォルマンスやコクシジオイデス・イミティスなどの真菌があります。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症や後天性免疫不全症候群(エイズ)によって免疫力が低下している人では、これらの真菌による慢性髄膜炎が起こりやすくなります。

急性細菌性髄膜炎が部分的に治療されていても、抗生物質で原因菌が排除されていなければ、慢性髄膜炎に移行することがあります。

感染症でない病気が慢性髄膜炎の原因となることもあります。具体的には、サルコイドーシスと一部の癌(白血病、リンパ腫、脳腫瘍、他の部位[乳癌や肺癌など]からの脳転移)などがあります。

 

治療

髄膜炎の原因に対する治療を行います。たとえば、サルコイドーシスによる慢性髄膜炎では、通常はコルチコステロイド薬(プレドニゾロンなど)による治療を数週間行います。癌による慢性髄膜炎では、化学療法か放射線療法、またはその両方を行います。化学療法薬はオンマヤリザーバーという器具を使ってくも膜下腔に直接注入されます。これは頭皮の下に埋めこまれる器具で、細いチューブがついており、数日から数週間かけて脳の周囲の空間に薬剤をゆっくり送り込みます。

 

感染性の慢性髄膜炎の治療は、原因となった微生物によって異なります。真菌性の慢性髄膜炎には抗真菌薬の静脈内投与または経口投与が行われ、特によく使われるのはアムホテリシンB、フルシトシン、フルコナゾールです。感染が特に治りにくい場合は、脊椎穿刺を繰り返すか、またはオンマヤリザーバーを使って、アムホテリシンBを脳脊髄液中に直接注入することがあります。慢性髄膜炎の原因がクリプトコッカス・ネオフォルマンスである場合は、アムホテリシンBとフルシトシンが併用されます。

 

 


脳膿瘍

 脳膿瘍という病気は脳の中に細菌感染が起こり、膿(うみ)がたまった状態です。

 

脳膿瘍になると頭痛、発熱、意識がぼんやりする、痙攣(ひきつけ)、嘔吐、手足の運動麻痺、感覚障害(しびれや痛み)、言語障害、精神障害などの症状が起こります。これは、脳膿瘍によってその部分の脳自体が障害されたため、また、周辺部の脳が炎症を起こしたり浮腫(むくみ)によって圧迫されたために起こってきます。

 

治療

脳膿瘍は、抗生物質と、場合によっては手術も行って治療しなければ、死に至る病気です。特によく使用される抗生物質は、セファロスポリン系(セフォタキシムやセフトリアキソンなど)、バンコマイシン、ナフシリン、メトロニダゾールです。抗生物質の投与は通常4~6週間続けられ、2週間ごとにMRI やCTで検査して治療に対する反応を確認します。膿瘍が小さくならない場合は、定位脳手術法で穿刺針を膿瘍まで到達させ膿を吸引するか、開頭手術で膿瘍全体を摘出します。回復の速さは、手術の成功度、膿瘍の数、患者の免疫系の状態によって左右されます。免疫力が低下している人がトキソプラズマ原虫または真菌による膿瘍にかかった場合は、抗生物質を生涯服用し続けなければなりません。

 

頭蓋内の腫脹と圧力の上昇は、脳に永続的な障害を残すおそれがあるため、積極的に治療します。デキサメタゾンなどのコルチコステロイド薬や、腫れと頭蓋内圧を減少させる効果があるマンニトールなどの薬剤が使用されます。

 

けいれん発作を予防するために、抗けいれん薬が投与されることがあります。

 

 


硬膜下膿瘍

硬膜下膿瘍は、脳自体ではなく、脳を覆う組織の一番上の層(硬膜)の下に膿が貯まったものです。

硬膜下膿瘍は、脳を覆う組織層(髄膜)の一番上の層(硬膜)と中間の層(くも膜)との間で起こります。

硬膜下膿瘍の原因は、副鼻腔感染、耳の重度の感染症、頭部の外傷、頭部の手術、血液の感染症などです。硬膜下膿瘍を起こす細菌の種類は脳膿瘍と同じです。5歳未満の小児では、しばしば硬膜下膿瘍に伴って髄膜炎が起こります。

脳膿瘍と同様に、硬膜下膿瘍でも頭痛、眠気、てんかん発作、その他の脳機能不全の徴候が現れます。症状は数日にわたって進行し、治療しなければ、急速に進行して昏睡に陥り、死に至ります。

 

 


プリオン病

プリオン病(伝染性海綿状脳症)は、まれな脳の変性疾患で、タンパク質がプリオンと呼ばれる異常型に変化したために起こると考えられています。

プリオンが発見されるまで、クロイツフェルト・ヤコブ病などの海綿状脳症はウイルスが原因と考えられていました。プリオンはウイルスよりはるかに小さく、また、遺伝物質をまったくもたないので、ウイルスでも細菌でもなく、生きているどの細胞とも異なります。プリオン病では、細胞性プリオンタンパク質(PrPc)と呼ばれる正常タンパク質が変形して、スクレイピープリオンタンパク質(PrPsc)(「プリオン」)と呼ばれる異常タンパク質分子になります(スクレイピーとは、最初にヒツジで見つかったプリオン病の名前です)。新たに形成されたプリオンは、近くにある別のPrPcをプリオンに変化させ、この現象が連鎖的に続きます。プリオンが一定の数に達すると、プリオン病が起こります。プリオンがPrPcに戻ることは決してありません。

 

PrPcは体のあらゆる細胞に存在し、脳には特に高濃度で存在します。したがってプリオン病の影響を受けるのは、ほとんどまたは全て神経系に限られます。PrPcがプリオンに変換されると、脳細胞の中に小さな泡が発生します。侵された細胞が徐々に死んで、脳にたくさんの穴が開きます。プリオンに侵された脳組織を顕微鏡で見ると、スイスチーズやスポンジのように見えます(「海綿状」という病名はこれに由来します)。

PrPc遺伝子の突然変異は遺伝するため、プリオン病は家系的に発生することがあります。このような突然変異があると、PrPc分子がプリオンに変化しやすくなります。さまざまな突然変異があり、それぞれ異なるプリオン病の原因となりますが、大きく分けると、家族性クロイツフェルト・ヤコブ病、致死性家族性不眠症、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー病という三つのグループがあります。

 

プリオン病は、明らかな理由なく自然発生的に起こることもあります。散発性と呼ばれるこのようなプリオン病は、ヒトのプリオン病として最も多く、全症例の85~90%を占めます。

プリオン病には、外部で発生したプリオンが体内に入ることによって起こるものもあります。たとえば、異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD、ヒトの「狂牛病」と呼ばれることもあります)では、プリオンで汚染された牛肉が感染源となります。また、プリオンに感染した組織の移植、プリオンで汚染された薬剤の投与、プリオンで汚染された神経外科用器具の使用なども、感染の原因となります。プリオン病の感染源としてウシ以外に可能性があるのは、慢性消耗病と呼ばれるプリオン病にかかっているヘラジカやシカです。しかし、慢性消耗病やヒツジのスクレイピーからヒトのプリオン病が発生したという報告はありません。プリオンに感染した場合、症状が出現するのは数年後になるのが一般的です。クールーも後天性のプリオン病です。

 

ほとんどのプリオン病に共通する症状として、記憶の喪失、錯乱、協調運動の喪失、筋肉の引きつり、認知症、歩行困難などがみられます。

 

プリオン病には根治的な治療法がなく、通常は数カ月から2~3年以内にすべての人が死に至ります。治療の重点は、できるだけ快適な状態を保ち、症状を緩和することに置かれます。プリオン病を発症した人の介護者がプリオン病による認知症に対処する際に役立つ方策がいくつかあります。
脳炎

脳炎とは、ウイルスが脳に直接感染したとき、あるいはウイルスなどが炎症を引き起こしたときに、脳に発生する炎症をいいます。

 

特に日本脳炎とヘルペス脳炎、続発性ウイルス脳炎などが有名です。

 日本脳炎はコガタアカイエカという蚊が持っているウイルスに人が伝染することで発病する伝染病です。

 日本脳炎の症状には、悪寒、ふるえ、発熱、頭痛、めまい、嘔吐、倦怠感、食欲不振、くびの筋肉硬直、けいれん、こん睡状態など様々な症状を引き起こします。日本脳炎を発病すると後遺症を引き起こす可能性も高く、知能障害や運動障害を引き起こしやすくなります。

 

 ヘルペス脳炎は口唇ヘルペスを引き起こす単純ヘルペスⅠ型ウイルスが脳に侵入したときに起こる脳炎で、続発性ウイルス脳炎はインフルエンザや風疹といった感染性ウイルスが脳に侵入することで脳炎となります。

 発熱、頭痛、嘔吐、首筋の硬直から始まり、意識混濁、幻覚、妄想、錯乱などの精神症状やけいれんなどがあらわれます。症状がひどくなると嚥下障害、呼吸障害、こん睡状態に陥り死亡する危険性があります。

 

 

脳炎は、脳実質の炎症を主体とし、発熱、意識障害、けいれん、髄膜刺激症状などがみられます。これらは、両者を合わせた髄膜脳炎としてみられることがあります。  類縁あるいは同一の疾患群としては、急性脳症、急性散在性脳脊髄炎、遅発性ウイルス感染症などがあります。一般的に予後が悪く、早期の診断、治療が大切です。

 病原にはさまざまなウイルス、細菌、寄生虫などがあげられ、他臓器での感染巣からウイルス血症、菌血症として、あるいは特発性に髄膜腔(や脳実質へ侵入するといわれています。病因からみた主な髄膜炎は、ウイルス性、細菌性、結核性、真菌性で、このほか、寄生虫、髄膜がん腫症(がん性髄膜炎)などによる髄膜炎もあります。  急性脳炎では単純ヘルペスウイルスによる単純ヘルペス脳炎の頻度が高く、日本では年間で100万人に3.5人、約400例の発症とされます。日本脳炎の場合7〜9月に数例の小流行がみられます。このほか、インフルエンザ、風疹、麻疹などに伴う急性脳炎・急性脳症(二次性脳炎)などがあります。髄膜炎菌髄膜炎、日本脳炎、プリオン病のクロイツフェルト・ヤコブ病は、感染症法の4類・5類感染症(全数把握)に指定され、届け出が義務づけられています。

 

症状の現れ方  発熱、頭痛、意識障害、けいれんなどが急性に現れたか、あるいは亜急性、慢性に起こってきたかに注意する必要があります。細菌性髄膜炎やウイルス性髄膜炎・ヘルペス脳炎では急性に起こり、結核性・真菌性髄膜炎では亜急性であり、遅発性ウイルス感染症では慢性に数年かけて発症するとされています。  進行すると、深い意識障害、けいれんの重積を示すことがあります。体温、脈拍、血圧、呼吸などのバイタルサイン(生命徴候)の監視も必要になります。

 

治療

単純ヘルペスウイルス感染症の可能性を否定できない場合は、抗ウイルス薬のアシクロビルを投与します。アシクロビルは単純ヘルペスウイルスと帯状疱疹ウイルスに有効です。通常は、細菌が原因である可能性も考慮して、数種類の抗体も投与します。サイトメガロウイルス性脳炎はガンシクロビルで治療可能です。

 

HIV関連脳症には、複数の薬剤を併用して、免疫系の機能を改善するとともに、感染症の進行と認知症などの合併症を遅らせます。

 

その他のウイルスと他のほとんどの原因については、特別な治療法はありません。通常は症状を緩和する処置を行い、感染が収束するまでの約1~2週間、必要に応じて生命維持装置を使用します。

 

 

自己免疫性脳炎

特定の感染症やワクチンの後で、体の免疫系が、脳と脊髄の神経線維を包む組織層(髄鞘またはミエリン鞘)を攻撃することがあります。攻撃が起こるのは、ミエリンのタンパク質がウイルスのタンパク質に似ているからです。この攻撃を受けた結果、神経伝達が非常に遅くなります。

このようにして起こる病気は急性散在性脳脊髄炎と呼ばれ、多発性硬化症と似ていますが、症状が現れたり消えたりすることはないという点が異なります。

自己免疫性脳炎に関与することが多いウイルスは、エプスタイン・バーウイルス、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルスなどです。

 

 

 

 

低酸素脳症

 循環不全または呼吸不全などにより十分な酸素供給ができなくなり、脳に障害をきたした病態を低酸素脳症といいます。

 低酸素脳症には、通常、組織への血流量の低下(虚血)と血液の酸素運搬能の低下(低酸素血症)の2つの病態が混在していることが多いため、低酸素性虚血性脳症とも呼ばれています。

 

 原因として、心筋梗塞、心停止、各種ショック、窒息などが挙げられます。

 心停止により脳への酸素供給が途絶えると意識は数秒以内に消失し、3~5分以上の心停止では、仮に自己心拍が再開しても脳障害(蘇生後脳症)を生じます。  蘇生後脳症の転帰不良を予測する因子としては、自己心拍再開後24時間以内のミオクローヌス・てんかん重積状態の出現、瞳孔反応や角膜反射の消失、および3日後の運動反応の消失または四肢の異常伸展反応があげられます。

 

 治療として、単に血圧を維持するだけでは生存率・社会復帰率の改善に繋がらず、全身の臓器および末梢組織への血流を維持することが重要です。  さらに、心停止蘇生後脳症患者では、侵襲性高血糖や代謝亢進に基づく高体温が発生することが多く、これらの高血糖,高体温は神経学的転帰を悪化させる重大な要因です。したがって、これらを予防、管理するとともに、適切な呼吸循環管理により二次性脳障害を最小限にすることが必要です。

 

 

オリーブ・橋・小脳萎縮症

オリーブ・橋・小脳萎縮症とは、脳にある小脳部分に萎縮や神経組織の変形が起きることで様々な神経障害を引き起こす病気です。

症状は、筋肉を動かすことが難しくなることで運動が困難になることが挙げられます。また、手の震えや筋肉の痙攣、歩くときにまっすぐ歩けず左右にふらついたりするなど、普通の人ができる動作が上手くできなくなることが多くあります。不器用なだけと認識されることも多いため、ぎこちない動作が多い場合は病気の疑いが考えられます。

 

オリーブ・橋・小脳萎縮症の詳しい原因については分かっていませんが、家族にこの病気を患っている人がいる場合、遺伝することがあります。しかし、家族に病歴がなくても、化学物質に触れる機会が多い職業に従事している人は発症するリスクが高くなります。オリーブ・橋・小脳萎縮症の発症は性別によって差はなく、40歳以上の年齢期に発症しやすいとされていますが、これはこの年までに多くの人が食品や化粧品などから化学物質に接触しているためです。

 

 

 

(末梢神経障害)

 

 神経系には、脳と脊髄からなる中枢神経と、そこから枝葉に分かれて全身の器官・組織に分布する末梢神経がある。

 

中枢神経は脊髄からなる神経組織で、知的機能、運動・感覚機能や基本的な生命活動を担っている。

 

脊髄とは背骨の中にある脊髄腔を通る神経の道のことをいう。

 脊髄から直接出ている神経は神経根と呼ばれ、頸髄、胸髄、腰髄、仙髄、尾髄の5つに分けられる。

 

 

末梢神経はその中枢神経からの情報を末端器官に伝えるとともに、全身に分布する組織からの情報を中枢神経に伝えるという役目を担っている。

 

末梢神経は2つに区分され、脳神経と、脊髄と末梢とを連絡する脊髄神経からなっている。

 

眼、耳、鼻、のどと脳をつなぐ神経や、頭、首、体幹のさまざまな部分と、脳をつなぐ神経は脳神経と呼ばれ12対ある。特殊な感覚(視覚、聴覚、味覚など)を担う脳神経と、顔の筋肉や腺を制御する神経がある。

12対の脳神経は、脳の下側から出て、頭蓋骨の開口部を通り、頭、首、体幹のさまざまな部位へ伸びている。

 

脊髄と体の他の部分をつなぐ神経は脊髄神経と呼ばれる。

脳は、この脊髄神経を通じて体のほとんどの部分と情報のやり取りをしている。脊髄神経は、神経根を経由して、脊髄から出る神経信号と脊髄に入る神経信号を伝えている。脊髄神経は31対あり、頸神経(8対)、胸神経(12対)、腰神経(5対)、仙骨神経(5対)、尾骨神経(1対)に区分される。

 

 末梢神経は、体の運動や知覚を制御する体性神経と、意思とは関係なく内蔵・血管などの自動的制御に関わる自律神経に大別される。

 

体性神経は、意識的にコントロールできる筋肉(随意筋または骨格筋)と皮膚にある感覚受容体を脳や脊髄につなぐ神経からなっている。 (「運動神経」「知覚神経」

 

運動神経 :

筋肉の運動を起こす。

知覚神経 :

   末端器官からの熱さ、冷たさ、痛さといった温痛覚や触覚を伝え、また、手足の位置、振動などを認識する深部感覚を伝える。

 

 

「知覚神経」が侵されると疼痛など痛覚、鈍麻、焼失が発生する。「運動神経」が侵されると、その支配部に麻痺が発生し、あるいは運動が制限される。したがって、「運動神経」の障害では、その支配部位によって上下肢等の障害として請求するので、神経障害として認定されるのは「知覚神経」の障害ということになる。

 

 

 

末梢神経障害(ニューロパチー)

 

 神経系には、脳と脊髄の中枢神経と、そこから分かれて全身の器官・組織に分布する末梢神経があります。

 

 末梢神経は、体の運動・近くを制御する体性神経と、意思とは関係なく内蔵・血管などの自動的制御に関わる自律神経系とに大別されます。体性神経はさらに運動神経(筋肉の運動を起こす)と、感覚神経(末端器官からの熱さ、冷たさ、痛さといった温痛覚や触覚を伝え、また、手足の位置、振動などを認識する深部感覚を伝える)があります。自律神経は、内蔵・血管・分泌腺などの器官に分布し不随意的に働き、それぞれの臓器に対して交感神経と副交感神経が二重支配し、両者は相反する作用をしながら協調的に作用しています。

 

 この末梢神経系に故障がおこった状態を、末梢神経障害またはニューロパチーと呼びます。

 

末梢神経障害の症状

 三種類の末梢神経のうち、運動神経に傷害がおこると、筋力が低下したり筋肉が萎縮します。感覚神経の傷害では、しびれや痛みがおこり、痛み・熱さ・冷たさなどの感覚が鈍くなってきます。自律神経の傷害では、立ちくらみ、排尿障害、発汗異常、勃起不全、下痢・便秘などがおこります。

 

 症状の現れ方は、傷害される末梢神経の分布により、多発性末梢神経障害と単末梢神経障害に分けられます。多発性末梢神経障害では手足、特に両足のしびれが多くみられます。一つの神経だけに傷害がおこる単末梢神経障害の場合には、その神経の支配領域、例えば一側の手や足にしびれや痛みがおこります。この単末梢神経障害があちこちにおこると多発性末梢神経障害といいます。これらの症状は、末梢神経障害の原因により、感覚障害が強い感覚障害優位から運動障害優位や自律神経障害優位という特徴があります。

 

 また、多発性末梢神経障害には、突然発症する急性のものと、数ヶ月から数年かけて症状が徐々に現れる慢性のものがあります。

 

末梢神経障害の原因

 多発性末梢神経障害は、糖尿病によることが最も多く、この他にアルコール過剰摂取、ビタミンB欠乏、尿毒症など全身の代謝異常によるものを代謝性末梢神経障害といいます。その他には、薬剤や重金属などの有毒物質による中毒性、さらに遺伝性、特発性(自己免疫反応性)末梢神経障害などもあります。

 

 単末梢神経障害は、機械的な局所の圧迫性末梢神経障害や血管炎などによります。

 

症状と経過  末梢神経障害を有する患者は、足の指先の違和感、足底に紙が貼りついた感じ、足の正座したあとのようなしびれ、足のつりやこむら返りなどを訴えます。通常、足先から左右対称性に現れ、しばしば夜間に増強し、ストッキング状に拡大するのが特徴です。手にも同様の症状が現れる場合もありますが、出現したとしても手の症状は通常は足に比べて軽度です。さらに末梢神経障害が進行すると、神経の死滅が進んで、違和感やしびれ、痛みなどが弱くなったり、消失することがあります。つまり、足の痛みやしびれが弱まった時は、本当に神経が改善した場合と進行した場合があるので、見分けなければなりません。進行して感覚が低下した場合は、足に靴ずれや胼胝(べんち たこ)ができても痛みを感じなくなり、手当てが遅れるという危険が増します。

 

診断と治療の方法  末梢神経障害は、前述のような患者さん本人の自覚症状と、アキレス腱反射が保たれているかどうか、モノフィラメントによる圧感覚のチェック、音叉(おんさ)による振動覚検査などによって診断します。アルコールを多飲している患者さんでは、アルコール性末梢神経障害が重なっている場合が少なくありません。治療は、軽症例であれば血糖コントロールのみでしばしば改善します。中等症以上では血糖コントロールに加えて、糖尿病性神経障害治療薬、ビタミンB12、抗けいれん薬、抗うつ薬、抗不整脈薬、漢方薬などを用いることがあります。進行している例では、治療を行っても改善に時間がかかります。末梢神経障害の治療は、自覚症状による苦痛を和らげることが第一目標ですが、末梢神経障害による足潰瘍(そくかいよう)や足壊疽(そくえそ)の出現を予防することも大事な治療目標です。足や足の指の観察が、最も有効な足病変の予防法です。

 

 

 

末梢神経障害の症状

 三種類の末梢神経のうち、運動神経に障害がおこると、筋力が低下したり、筋肉が萎縮する。感覚神経の障害では、しびれや痛みがおこり、痛み・熱さ・冷たさなどの感覚が鈍くなってくる。

自律神経の障害では、立ちくらみ排尿障害、発汗異常、勃起不全、排便障害(下痢・便秘など)がおこる。

 

 

自律神経障害

 

神経系は中枢神経系と末梢神経系で構成されています。中枢神経系とは脳と脊髄のことを指します。末梢神経系は、全身の組織と脳および脊髄とをつないでいる神経を指します。末梢神経系には、自動的(無意識的)に体内のプロセスを制御している自律神経系が含まれます。また、自発的(意識的に)にコントロールされる筋肉や皮膚の感覚受容器とつながっている神経である体性神経も、末梢神経系に含まれます。

自律神経障害とは、末梢神経障害の一種で、全身の末梢神経に損傷が起きる病気です。自律神経障害では、体性神経より自律神経にずっと大きな損傷が生じます。

 

 「自立神経失調症」は障害認定対象とはならない。

 

自律神経障害は、末梢神経の病気の一種で、自律的に(意識的な努力を伴わずに)体内のプロセスを制御している末梢神経系(自律神経系)の神経に損傷が起きるものです。

 

一般的な原因としては、糖尿病、アミロイドーシス(組織中に異常なタンパク質が蓄積する病気)、自己免疫疾患(免疫系が体の組織を異物と誤って認識して攻撃する病気)などがあります。ウイルス感染症が引き金となって、自己免疫反応が生じ、自律神経が破壊されることもあります。免疫系によって作られる抗体の中には、アセチルコリン受容体(アセチルコリンへの反応を可能にする神経細胞の一部)を攻撃するものもあります。アセチルコリンは、自律神経系の内部の情報伝達に用いられる化学伝達物質(神経伝達物質)の一種です。ギラン・バレー症候群でも同様の免疫反応がしばしばみられます。

その他の原因としては、癌、薬剤、過度の飲酒、毒素などがあります。

 

 

立ったときにふらつきを覚えたり、排尿に関する問題、便秘、嘔吐などが生じたりします。男性では勃起障害が生じることがあります。

 

よくみられる症状のひとつは、立ち上がったときに血圧が過度に低下する起立性低血圧です。そのため、ふらつきや、失神しそうな感じが生じます。男性では、勃起の開始や維持が困難になることがあります(勃起障害)。膀胱の活動が過剰になることも多く、意図せず排尿してしまうこともあります(尿失禁)。逆に膀胱の活動が弱まって、排尿が困難になる場合もあります(尿閉)。胃から内容物が送り出されるペースがきわめて遅くなるため(胃不全麻痺)、食事をしてもすぐに満腹感をおぼえ、吐くことさえあります。重度の便秘になることもあります。

体性神経が損傷された場合は、感覚が失われたり、手足にチクチクした感覚(刺すような痛み)が生じたり、筋力が低下したりすることがあります。

 

 

 

多発ニューロパチー

 

 ニューロパチーとは、様々な病気によって生じる末梢神経障害を総称する言葉です。この中で左右対称性に多数の末梢神経が同時に障害されたものを、多発ニューロパチーと呼んでいます。末梢神経の中には、運動神経、感覚神経および自律神経などが含まれています。病気によってそれぞれの神経障害の程度に差があります。運動神経が優位に障害される型、感覚障害が中心の型、あるいは両者を合併した場合などいろいろです。またこれに自律神経障害が加わることがあります。さらに症状の出現する早さによって急性、亜急性および慢性と区別します。

 

1 急性運動神経優位型

ギラン・バレー症候群は、急性に進行する運動優位型の多発ニューロパチーです。

 

2 亜急性知覚運動型

数週から数ヵ月にかけて症状が進行するニューロパチーです。ビタミンB1欠乏で生じる脚気がこれにあたります。最近は少なくなりましたが、栄養の偏った人や慢性アルコール中毒で問題となります。また悪性腫瘍に合併してこの型の多発ニューロパチーが発生することがあります。その他、ヒ素や鉛などの重金属や有機溶剤の中毒の他、抗がん薬、抗けいれん薬などの副作用でも起こることがあります。

 

3 慢性知覚運動型

数ヵ月から数年にわたって症状が進行します。糖尿病のコントロール不良が続いていると末梢神経障害が合併します。この糖尿病性ニューロパチーでは足の末梢部、ちょうど靴下を履く部分の感覚障害で発症し、自律神経障害を合併することがあります。

 

 

多発神経障害(多発神経炎)

多発神経障害(多発神経炎)は、全身の多くの末梢神経に同時に機能不全が起こる障害です。

感染症、毒素、薬剤、癌、栄養不良、その他の病気などが原因となって、多数の末梢神経に機能不全が起こります。

感覚、筋力またはその両方が障害されます。多くの場合は、まず足や手、続いて腕、脚または体幹に症状が現れます。

 

多発神経障害には、突然発症する急性のものと、数カ月から数年かけて徐々に症状が現れる慢性のものがあります。

 

慢性多発神経障害の原因で最も多いのは、血糖値をうまくコントロールできていない糖尿病ですが、過量飲酒も原因になります。

糖尿病性末梢神経障害は、糖尿病が原因で発生する数種類の多発神経障害です。(糖尿病では単神経障害や多発単神経炎が発生することもあり、その場合には、眼や太ももの筋肉に筋力低下がみられるのが典型的です。)

一部の多発神経障害は遺伝性の病気です。

多発神経障害で侵される神経は原因によって異なり、運動神経(筋肉の動きを制御している神経)、感覚神経(感覚情報を伝達する神経)、脳神経(頭、顔、眼、鼻、筋肉、耳と脳をつないでいる神経)のいずれかが侵される場合もあれば、これらのうち複数が侵される場合もあります。

 

ギラン・バレー症候群などで起こる急性多発神経障害は、両脚に突然現れ、急速に上に広がって腕に達します。症状としては筋力低下、チクチクする感覚、感覚消失などがみられます。 

呼吸を制御している筋肉に障害が起こって、呼吸不全に至ることもあります。

 

最も一般的なタイプの慢性多発神経障害では、感覚だけが侵されます。最初に症状が現れるのは、通常、足ですが、手の場合もあります。目立つ症状は、チクチクする感覚、しびれ、焼けつくような痛み、振動感覚の消失、位置感覚の消失(腕や脚の位置を認識できない状態)などです。位置感覚が失われると、歩行が不安定になり、立っていてもふらつくようになります。その結果、筋肉が使われなくなり、最終的には筋力低下と筋肉の萎縮が生じます。

 

糖尿病性末梢神経障害では、手足にヒリヒリする痛みや焼けつくような痛みが起こる、遠位多発神経障害と呼ばれる症状が現れます。痛みはしばしば夜間に悪化し、触れられたり温度が変わったりすることでもひどくなります。温度感覚と痛覚が失われるためにやけどをしたり、長時間の圧迫や外傷によって皮膚に潰瘍ができたりします。過剰の負荷がかかっていることの警告である痛みを感じないために、外傷による関節損傷が起こりやすくなります。このような外傷は、シャルコー関節と呼ばれています。

 

多発神経障害では、血圧、心拍、消化、唾液分泌、尿生成などの、体の不随意機能を制御している自律神経系の神経がしばしば侵されます。典型的な症状は、便秘、腸や膀胱のコントロール喪失(尿や便の失禁につながります)、性的機能不全、血圧の変動などです。血圧の変動が最も顕著に現れるのは、立ち上がったときに急激に血圧が下がる起立性低血圧です。皮膚の色は青白くなり、乾燥して発汗量が減少します。

 

遺伝性の多発神経障害では、足の指がかぎつめのように曲がる槌趾(つちゆび)変形、足のアーチの高さの増大、脊柱側弯症が現れます。感覚異常と筋力低下は軽度です。これらの症状は、本人も気づかずにいたり、気づいてもたいしたことではないと考えていたりすることがあります。

 

治療

具体的な治療法は、原因によって異なります。

 

ビタミンB6の過剰摂取:

ビタミンの摂取中止により多発神経障害が解消します。

 

糖尿病:

血糖値を注意深くコントロールすれば、進行を遅らせることができ、ときに症状が軽減することもあります。膵臓にあるインスリンを分泌する細胞を移植すると、神経障害が治癒することがあります。

多発性骨髄腫、肝不全、腎不全:これらの病気を治療すると症状がゆっくり改善します。

 

癌:

神経への圧迫を軽減するために、癌を切除する手術が必要となることがあります。

甲状腺機能低下症:甲状腺ホルモンを投与します。

 

自己免疫疾患:

血漿交換療法(血液中の異常抗体などの有毒物質をフィルターで取り除く治療法)や、免疫グロブリンの静脈内投与、コルチコステロイド薬、免疫抑制薬などの治療法があります。

 

原因を是正することができない場合は、痛みを和らげ、筋力低下に関連する問題を軽減することが治療の中心になります。理学療法は、筋肉の硬直を軽減できる場合があり、筋肉の短縮(拘縮)を予防することもできます。有用な補助器具について、理学療法士や作業療法士の助言を受けることができます。通常は痛み止めとはみなされていない薬剤には、神経の損傷による痛みを軽減できるものがあります。そのような薬剤には、抗うつ薬のアミトリプチリン、抗けいれん薬のガバペンチン、メキシレチン(不整脈の治療に使用される)があります。麻酔薬のリドカイン(ローション、軟膏、または皮膚に貼るパッチ剤)も役立つことがあります。

 

 

 

ギラン・バレー症候群

 

ギラン・バレー症候群(急性炎症性脱髄性多発神経炎)は、筋肉を動かす運動神経が障害されて、両手両足に力が入らなくなる病気です。手足のしびれ感もしばしば伴います。

多発神経障害の一種です。

 病気の原因としては自分を守るための免疫のシステムが異常となり自分の神経を攻撃するためと考えられています。

多くの場合(約7割程度)、風邪をひいたり下痢をしたりなどの感染の後1~2週して症状がはじまります。症状は2~4週以内にピークとなり、その後は改善していきます。症状の程度はさまざまですが、最も症状のひどい場合には、寝たきりになったり、呼吸ができなくなることもあります。

 人口10万人あたり年間約1~2人がかかると考えられています。  子供からお年寄りまで、どの年齢でもかかることがあります。男性の患者さんの方がやや多いことが知られています。

 

原因は、多くの神経の軸索を取り巻き神経信号の伝達速度を高めている髄鞘を体の免疫系が攻撃する自己免疫反応ではないかと推定されています。ギラン・バレー症候群の約80%では、軽度の感染症(カンピロバクター感染症、単核球症、または何らかのウイルス感染症)、手術、または予防接種の後、約5日から3週間で症状が現れはじめます。

 

通常、症状は最初に両脚に現れ、上に広がって腕に達します。ときに、腕や頭で始まり、下に進行することもあります。症状は筋力低下、チクチクする感覚、感覚消失です。異常感覚より筋力低下が顕著に現れます。反射は減退するか、あるいは失われます。ギラン・バレー症候群の90%の人では、3週間以内に筋力低下が最も重症になります。5~10%の人では、呼吸を制御している筋肉が非常に弱くなるため、人工呼吸器が必要になります。顔面の筋肉やものを飲みこむための筋肉にも筋力低下が起こるため、少数の人で、静脈栄養か、腹壁を通して胃に直接栄養を送るチューブ(胃瘻チューブ)が必要になります。

非常に重度の場合は、自律神経系で制御されている体内機能に障害が起こることがあります。

 

治療

ギラン・バレー症候群は急速に悪化することがあるため、緊急の治療を要します。発症した人は直ちに入院して治療を受けるべきです。適切な治療を開始するのが早いほど、良好な治療結果が期待できるため、診断の確定が決定的に重要です。

病院では、必要なときに人工呼吸器で呼吸を補助できるよう、注意深い観察が行われます。床ずれと外傷を防止するために、柔らかいマットレスを使い、筋力低下が重症であれば2時間ごとに体位交換を行うなどの予防措置が取られます。筋力低下がそれほど重くなければ、関節と筋肉の機能を保つため、理学療法が開始されます。痛みを軽減して、理学療法を行いやすくするため、温熱療法を最初に行うことがあります。

 

血漿交換療法(髄鞘に対する抗体などの有毒物質を血液中からフィルターで取り除く治療法)や、免疫グロブリンの静脈内投与が治療の選択肢となります。これらの治療は比較的安全で、入院日数を短縮し、回復を早め、死や永久的な身体障害のリスクを減らします。

コルチコステロイド薬は有用でなく、症状を悪化させることがあります。

 

 

 ギランバレー症候群の場合、立つ、歩く、座る、つかむといった動作が、どれだけ制限されるかで認定されます。  目安  ・1級・・・生活の中心が車椅子  ・2級・・・杖など補助具を使っても歩行や立ち上がりがかなり制限される状態  ・3級・・・歩行や立ち上がりが不便な状態

 

 障害年金の初診日については、ギランバレー症候群と病名がついた医療機関が初診日ではなく、自覚症状が出て初めて受診した病院となります。

 

 

シャルコー・マリー・トゥース病

 

シャルコー・マリー・トゥース病とは、最も頻度が高い末梢神経疾患の総称です。

一般的に0歳から20歳頃までに発症し、手や足などの四肢遠位部にある筋肉が徐々に萎縮し、感覚が鈍くなっていくのが主な症状です。多くの場合で足の変形や筋力低下、鶏歩と呼ばれる特徴的な歩き方が見られます。筋力低下や変形が原因で足首を捻挫したり、骨折したりする頻度も高くなる傾向にあります。また、視覚障害や聴覚障害の合併、病気の進行により脊柱変形が認められるケースも報告されています。

 

シャルコー・マリー・トゥース病は、現在までに60種類以上の原因遺伝子が明らかになっていますが、それらの遺伝子異常と発症メカニズムについては明らかにされていません。シャルコー・マリー・トゥース病の特徴の1つに遺伝的多様性というものがあり、同じ遺伝子の異常でも異なる症状が現れたり、逆に違う遺伝子に異常があっても同じような症状が現れたりします。

また、原因には遺伝子が関係していますが、必ず親から子に遺伝するわけではありません。

 

シャルコー・マリー・トゥース病の診断では、まず問診と神経学的診察が行われます。この時にシャルコー・マリー・トゥース病の疑いがあれば、神経伝導検査を行い末梢神経の働きを検査することになります。必要があれば、痛みを伴う神経生検、神経伝導検査、針筋電図検査が行われることもあります。これらの検査で異常が確認されれば、最後に血液検査による遺伝子検査を行い、シャルコー・マリー・トゥース病の確定診断がなされます。

 

シャルコー・マリー・トゥース病の治療は、大きく分けると薬物療法、手術療法、理学療法の3つがあります。ただ、現在のところシャルコー・マリー・トゥース病に効果的な治療法は解明されていません。動物実験において、抗ホルモン剤などの治療効果の報告はありますが、ヒトにおける効果や安全性が検討されていないというのが現状です。ただ、シャルコー・マリー・トゥース病は致死的な病気ではないため、太りすぎに注意し、自分にあった下肢装具を身につけ、理学療法で適度な運動を行っていれば、十分に日常生活を送ることが可能と言われています。

 

 

(筋肉刺激の障害・神経筋接合部疾患)

 

筋肉には、骨格筋、平滑筋、心筋の3種類があります。

これらのうち骨格筋と平滑筋は、筋骨格系の一部です。

 

骨格筋とは、ほとんどの人が筋肉として普通に思い浮かべる、収縮させて体のさまざまな部分を動かすことのできる筋肉です。骨格筋は、収縮性のある筋線維の束が規則正しく配列し、顕微鏡では横じま模様がみえることから、横紋筋とも呼ばれます。骨格筋の収縮する速度はさまざまです。姿勢や動きに関与する骨格筋は骨に付着しており、関節周囲では互いに拮抗する筋肉群が配置されています。たとえば、ひじを曲げる筋肉(上腕二頭筋)は、ひじを伸ばす筋肉(上腕三頭筋)と拮抗する関係にあります。この拮抗する動きはバランスがとれています。このバランスが動きを滑らかにして、筋骨格系の損傷を防ぐのに役立っています。骨格筋は脳によってコントロールされ、本人の意思によって動くため随意筋とみなされています。骨格筋の大きさと筋力は定期的な運動によって維持され、増強されます。また、成長ホルモンとテストステロンは小児期には筋肉の成長を促し、成人になってからは筋肉の大きさを維持します。

 

 

平滑筋はいくつかの体の機能をコントロールしていますが、本人は簡単には制御できません。平滑筋は多くの動脈を取り囲んでいて、収縮することにより血流量を調節しています。また、

腸管の周囲も平滑筋が取り囲み、収縮して消化管の食物や便を動かしています。平滑筋も脳によってコントロールされていますが、自発的に動かすことはできません。平滑筋が収縮したり弛緩したりするきっかけは体の必要性によってコントロールされ、本人が意識することなく作動するので、平滑筋は不随意筋とみなされています。

 

心筋は心臓を形づくっている筋肉であり、筋骨格系の筋肉ではありません。心筋は骨格筋と同様に筋線維が規則正しく配列し、顕微鏡で横じま模様がみえます。しかし心筋は本人の意思とは関係なくリズミカルに収縮と弛緩を繰り返します。

 

 

筋肉の動きは通常、脳と筋肉との間で神経を介して情報が伝達されることによって起こります。ときに感覚が筋肉を動かすきっかけとなることがあります。たとえば、とがった石を踏んだり、非常に熱いコーヒーの入ったカップに触れたりすると、皮膚にある特別な神経の末端部(感覚受容器)で痛みや熱さが感知されます。この情報は脳に伝えられ、脳はどう反応すべきか筋肉に指令を送ります。このタイプの情報交換は、脳に向かう感覚神経経路と筋肉に向かう運動神経経路という二つの複雑な神経伝達経路に沿って行われます。

 

 

 

筋肉刺激の障害(運動ニューロン障害)は、筋肉の運動に関係する神経などの構造に進行性の変性が起きるのが特徴である。この障害は、運動神経が筋肉を正常に刺激しなくなった場合に起こる。

 

筋肉刺激の障害には、筋萎縮性側索硬化症、原発性側索硬化症、進行性仮性球麻痺、進行性筋萎縮症、進行性球麻痺、ポリオ後症候群などがある。最も多い原因は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)である。

 

 

 

 

ジストニア

 ジストニアは、脳(主に大脳基底核)や神経系統の何らかの障害により、持続的または不随意的に筋肉が収縮したり固くなったりする難治性の疾患です。

 

ジストニアは、体の一部分だけに現れることも(局所性ジストニア)、複数箇所に現れることもあります(髄節性ジストニア)。ときとして全身に現れることもあります(全身性ジストニア)。

 

ジストニアは、基底核、視床、小脳、大脳皮質など、脳のいくつかの領域の活動が過剰になるために起こると考えられています。遺伝子の突然変異によって起こる場合と(原発性ジストニア)、病気や薬剤によって起こる場合とがあります(続発性ジストニア)。

体の一部分あるいは複数部位に起こるジストニアは、30代または40代で始まるのが通常で、女性に多く発症します。最初、痙縮は不規則に起こるか、あるいはストレスを感じたときだけ起こります。痙縮は、症状が出ている部分で特定の動きをすると引き起こされ、安静時にはなくなります。数日、数週間、あるいは数年かけて、痙縮の頻度が増え、安静時にも続くようになります。最終的には、ジストニアの起こっている部位がよじれたままになり、これは痛みを伴う姿勢であることもあります。重度の身体障害が生じます。

 

治療

ジストニアの原因が判明した場合は、それを是正または解消すると、痙縮が軽減されます。

多発性硬化症に関連して起こる痙縮は、多発性硬化症の治療薬によって軽減されることがあります。ジストニアの原因が抗精神病薬の使用である場合は、直ちにジフェンヒドラミンを注射や経口で投与すれば、通常は痙縮をすみやかに止めることができます。抗精神病薬の服用は中止します。

全身性ジストニアの場合は、抗コリン作用がある薬剤(トリヘキシフェニジルやベンズトロピンなど)が使用されます。これらの薬剤は、痙縮の原因となる特定の神経信号を遮断することにより、痙縮を減らします。しかし、抗コリン作用により、錯乱、眠気、口の渇き、かすみ目、めまい、便秘、排尿困難、膀胱の制御喪失、振戦が起こることもあり、これらの症状は特に高齢者では問題となります。多くの場合は、クロナゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬剤(弱い鎮静薬)か、バクロフェン(筋弛緩薬)も使用され、これらが併用されることもあります。バクロフェンは、経口投与するか、あるいは脊柱管に埋め込んだポンプを使って投与します。全身性ジストニアが重度の場合や、薬剤に反応しない場合は、手術により基底核に微小な電極を埋め込むことがあります(この手技は深部脳刺激と呼ばれます)。

一部の人(特にドパ反応性ジストニアがある小児)では、レボドパとカルビドパの併用により劇的な改善が得られます。

症状が出る部位が1カ所または数カ所の場合は、過活動がある筋肉にボツリヌス毒素(筋肉を麻痺させたり、しわの治療に用いられる細菌毒素)を注射します。ボツリヌス毒素は筋収縮を弱めますが、神経には影響しません。ボツリヌス毒素の注射は、眼瞼けいれんと痙性斜頸に特に有用です。

理学療法も一部の人に有用で、特にボツリヌス毒素治療を受けた人に役立ちます。

 

 

 

筋ジストロフィー

筋ジストロフィーは、正常な筋肉機能を果たすのに必要な遺伝子の1つ以上に異常があるために、さまざまな重症度の筋力低下を引き起こす遺伝性筋疾患の総称です。

 身体に出現する症状には、筋力低下による歩行困難や上肢機能の低下、心筋症、呼吸不全、構音障害などがあります。

 

 筋ジストロフィーの定義は、遺伝性で進行性の筋力低下を示すミオパチー(筋肉病)です。

 

筋緊張性ミオパチーは、筋肉が収縮した後に正常にゆるむことができなくなる筋ジストロフィーです。筋力低下や筋肉のけいれんがみられる場合もあります。

 

筋緊張性ジストロフィー(シュタイネルト病)は、常染色体優性遺伝疾患で、男女差はみられません。白人に発生する筋ジストロフィーの中では、最も多い疾患です。青年期から成人初期に症状が現れはじめます。この病気では、筋力低下や筋肉の硬直が生じ、特に手に顕著に現れます。まぶたの下垂もよくみられます。症状はあらゆる年齢層で現れることがあり、軽度のものから重度のものまでさまざまです。最も重いタイプでは、極度の筋力低下に加え、白内障、精巣萎縮(男性)、前頭部の若年性脱毛症(男性)、不整脈、糖尿病、精神遅滞など、多様な症状が現れます。一般に、患者は50歳までに死亡します。

 

筋緊張性ジストロフィー(シュタイネルト病)は、常染色体優性遺伝疾患で、男女差はみられません。白人に発生する筋ジストロフィーの中では、最も多い疾患です。青年期から成人初期に症状が現れはじめます。この病気では、筋力低下や筋肉の硬直が生じ、特に手に顕著に現れます。まぶたの下垂もよくみられます。症状はあらゆる年齢層で現れることがあり、軽度のものから重度のものまでさまざまです。最も重いタイプでは、極度の筋力低下に加え、白内障、精巣萎縮(男性)、前頭部の若年性脱毛症(男性)、不整脈、糖尿病、精神遅滞など、多様な症状が現れます。一般に、患者は50歳までに死亡します。治療には、メキシレチンや他の薬(たとえば、キニーネ、フェニトイン、プロカインアミドなど)が使用されますが、これらの薬では、患者にとって最も厄介な症状である筋力低下を軽減することはできません。また、これらの薬にはそれぞれ望ましくない副作用もあります。筋力低下に対する唯一の治療法は、足首装具などによる支持療法です。

 

 

先天性筋緊張症(トムセン病)は、まれな常染色体優性遺伝疾患(この形質を子孫が引き継ぐには、片親のみが病気であればよい)で、男女差はみられません。一般に症状は乳児期に現れます。筋肉がゆるむことができないため、手や脚、まぶたが強く硬直するようになります。しかし、一般に筋力はわずかしか低下しません。小児の容姿が特徴的で、手を握った後にすぐ開くことができない、筋肉を軽くたたくと収縮が長く続くといったことから、この病気が診断されます。診断を確定するには、筋電図(筋肉から発生する電気インパルスを記録する検査)が必要です。

 

先天性筋緊張症の治療では、フェニトイン、キニーネ、プロカインアミド、メキシレチンなどを用いて、筋肉の硬直や筋けいれんを緩和しますが、これらの薬のそれぞれに望ましくない副作用があります。定期的な運動が有効なこともあります。先天性筋緊張症の患者の平均寿命は、普通の人と変わりません。

 

 

デュシェンヌ型筋ジストロフィーとベッカー型筋ジストロフィー

デュシェンヌ型筋ジストロフィーとベッカー型筋ジストロフィーは、胴体に最も近い筋肉に筋力低下を引き起こします。

 

デュシェンヌ型筋ジストロフィーを引き起こす遺伝子異常は、ベッカー型筋ジストロフィーとは異なりますが、いずれの遺伝子異常も同じ遺伝子にあります。この遺伝子はX染色体にコードされ劣性遺伝します。そのため、女性の場合は異常遺伝子を親から引き継ぐことはあるものの、片方のX染色体の遺伝子に異常があっても、もう一方にある遺伝子が正常であれば、異常が補われて発病することはありません。しかし、男性にはX染色体が1本しかないため、異常遺伝子を親から受け継ぐと必ず発病します。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの男児には、筋肉細胞の構造を維持するために重要な働きをしているジストロフィンという筋肉タンパク質がほとんどみられません。ベッカー型筋ジストロフィーの男児では、ジストロフィンはつくられますが、そのタンパク質の構造が変化しており、本来の機能を果たすことができません。

 

治療

デュシェンヌ型でもベッカー型でも、筋ジストロフィーを治癒させることはできません。関節の周囲の筋肉が永続的に拘縮しないようにするには、理学療法や運動、ときには矯正装具が役立ちます。硬くなった筋肉の痛みを緩和するために手術が必要になることもあります。病気の男児はほとんど動くことができないため、必要なカロリーは少なくなります。そのため、食べ過ぎないように注意すべきです。

 

コルチコステロイド薬のプレドニゾロンを毎日経口服用することで、一時的に筋力が改善することがあります。しかし、長期間使用すると、多くの副作用が現れるため、筋ジストロフィーのすべての小児に使用できるわけではありません。プレドニゾロンの使用は、一般に筋力低下によって日常生活に大きな支障がでる場合に限られます。

サプリメントとしてクレアチンを経口服用することで、筋力が改善することが最近報告されています。筋肉がジストロフィンをつくれるようにすることで、筋力低下を改善しようとする遺伝子治療が研究されていますが、今のところ効果は実証されていません。

 

 

合併症    合併症として、心不全呼吸不全があります。とくに後者は頻度が高く、デュシェンヌ型では80%の患者で人工呼吸器治療が必要になります。人工呼吸といっても最初から気管切開を行うのではなく、まず鼻マスク式呼吸器を使いますので手軽で簡単に治療が可能です。心不全の治療も進歩してきました。専門医を定期的に受診し、全身状態のチェックを受けることが重要です。

 

 筋ジストロフィーは病状がゆっくりと進行していくため、初診日がかなり昔にあるケースが多く、初診日の証明がとれない場合があります。

 

 

進行性筋ジストロフィー

進行性筋ジストロフィーとは筋肉の細胞が次第に壊れていく遺伝性の病気のことです。

 

進行性筋ジストロフィーで最も代表的なものがデュシェンヌ型筋ジストロフィーです。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの原因は遺伝子の異常にあります。原因遺伝子は筋線維表面の形質膜と、それを取り巻く基底膜との相互の接着に関係する構造体を構成する蛋白の異常症である場合が多くみられます。 症状は乳児期には見られず、進行性筋ジストロフィーに罹っていない乳児と明らかに変わっていることはありません。3歳~5歳になると転びやすい、走れないなどの異常が見ら、そこで初めて気づきます。筋力低下は体幹に近い部分の筋肉に見られ、登はん性起立といった、立ち上がる時に一度お腹を床につけた状態となり、床に手をついて臀部を上げ、次に手を膝に当てて体をよじ登るように起立する動作が見られます。またつま先歩きも同様に見られます。さらにふくらはぎが太くなります。多くは8~10歳で歩行不能となってしまいますが、体幹から遠い部分は筋力が比較的保たれます。思春期以降になると筋力低下がどんどん進行し、指先以外はほとんど動かなくなってしまいます。

 

 

 

球脊髄性筋萎縮症

 球脊髄性筋萎縮症はSBMA(Spinal and Bulbar Muscular Atrophy)の訳で、脳の一部や脊髄の運動神経細胞の障害により、しゃべったり、飲み込んだりするときに使う筋肉や舌の筋肉、さらには手足の筋肉が萎縮する病気です。

 

 この病気の原因は、男性ホルモン(アンドロゲン)を受け取るアンドロゲン受容体という蛋白質の遺伝子に異常があることがわかっています。アンドロゲ ン受容体の遺伝子の中にはCAGという暗号(核酸)の繰り返しがあり、その数が正常の人では36個以下ですが、患者さんでは38個以上に増えています。

 この病気では、しゃべりにくい、食事の際にむせやすい、顔がぴくつく、手足がやせて力が入らないといった症状が中心です。また、男性ホルモンの作用が多少低下するため、乳房が大きくなることもあります。

 

治療法  現在のところ決定的な治療法はありませんが、男性ホルモンの分泌を抑える治療法の臨床試験が進められています。

 症状はゆっくりと進行します。40歳代くらいで発症する人の場合、10年程度の経過でむせやすくなり、15年程度の経過で車イス生活になることが多いようです。むせが強くなると、食べ物が誤って気管に入り肺炎をおこしやすくなります。

 日常生活で手足を適度に動かすことは、廃用性萎縮の予防となり重要です。またむせやすい場合、水分にとろみをつけるなど食形態の工夫を行うことが、誤嚥性肺炎の防止につながります。

 

 


脊髄性筋萎縮症

脊髄性筋萎縮症は、脊髄と脳幹の神経細胞が変性して、進行性の筋力低下と萎縮が起こる遺伝性疾患です。

 

 主に脊髄前角の運動神経細胞が変性して、全身の筋力低下と筋萎縮が徐々に進行する運動ニューロン(神経)病です。運動ニューロン病として、上位運動ニューロン障害(錐体路障害)と下位運動ニューロン障害(脊髄前角細胞以下の運動神経の障害)、ともに出現する筋萎縮性側索硬化症が有名ですが、下位運動ニューロンだけが障害されるのが脊髄性(進行性)筋萎縮症です。

 

脊髄性筋萎縮症には4つの主要なタイプがあります。

四つの主要なタイプでは、乳児期か小児期に最初の症状が現れます。

 

急性(I型)の脊髄性筋萎縮症(ウェルドニッヒ・ホフマン病)

誕生時か、生後数日以内に筋力低下が現れます。生後6ヵ月までには、事実上常に筋力低下が著明になります。乳幼児では筋肉の緊張と反射が失われ、吸うこと、飲み込むこと、そして最終的には呼吸も困難になります。生後1年までに患児の95%、4歳までにすべての患児が、通常は呼吸不全により亡くなります。

 

中間型(Ⅱ型)脊髄性筋萎縮症

通常、生後6~15ヵ月で筋力低下が起こります。座ることができるのは患児の4分の1以下です。這ったり歩いたりすることはできません。筋力が低下し、飲み込むことが困難になります。ほとんどの場合は、2~3歳までに車いすが常時必要となります。早期に亡くなることも多く、その原因は通常、呼吸の障害です。しかし、一部の小児は、筋力低下は生涯残るものの悪化が止まり、生存します。この場合は、しばしば脊椎に重度の弯曲がみられます(脊柱側弯症)。

 

慢性(Ⅲ型)脊髄性筋萎縮症(ヴォールファルト・クーゲルベルク・ヴェランデル病)

15~19歳で始まり、ゆっくり悪化します。そのため、I型やⅡ型の脊髄性筋萎縮症と比べて余命が長く、通常の寿命まで生存する人もいます。筋力の低下と筋肉の萎縮は腰と太ももから始まって、後に腕、足、手へと広がります。

 

Ⅳ型脊髄性筋萎縮症

通常、30~60歳の成人期に最初の症状が現れます。主に腰、太もも、肩の筋力が低下し、萎縮します。

 

遺伝性と非遺伝性  この病気は主に、乳幼児期から小児期に症状が出始め、原因遺伝子が判明しているウェルドニッヒ・ホフマン病やクーゲルベルグ・ヴェランダー病を指すことが多いのですが、成人発症の場合は、脊髄前角細胞が障害される一連の疾患群として、遺伝性のもの・非遺伝性のものが混在した疾患群であり、場合によっては、球脊髄性筋萎縮症筋萎縮性側索硬化症の境界例が含まれていることがあります。

 

筋萎縮性側索硬化症 (ALS)

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気です。  

 

 筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経(運動ニューロン)だけが障害をうけます。その結果、脳から「手足を動かせ」という命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり、筋肉がやせていきます。その一方で、体の感覚、視力や聴力、内臓機能などはすべて保たれることが普通です。

 

 この病気では多くの場合は、手指の使いにくさや肘から先の力が弱くなり、筋肉がやせることで始まります。話しにくい、食べ物がのみ込みにくいという症状で始まることもあります。いずれの場合でも、やがては呼吸の筋肉を含めて全身の筋肉がやせて力がはいらなくなり、歩けなくなります。のどの筋肉の力が入らなくなると声が出しにくくなり(構音障害)、水や食べ物ののみこみもできなくなります。また、よだれや痰(たん)が増えることがあります。呼吸筋が弱まると呼吸も十分にできなくなります。進行しても通常は視力や聴力、体の感覚などは問題なく、眼球運動障害や失禁もみられにくい病気です。

 

原因  原因は不明ですが、神経の老化と関連があるといわれています。さらには興奮性アミノ酸の代謝に異常があるとの学説やフリーラジカルの関与があるとの様々な学説がありますが、結論は出ていません。次の項目で説明をいたしますが、家族性ALSの約2割ではスーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD1)という酵素の遺伝子に異常が見つかっています。最近になりTDP43, FUS, optineurin, C9ORF72, SQSTM1, TUBA4Aと呼ばれる遺伝子にも異常が見つかってきており、次々に原因遺伝子が明らかになっています。

 この病気は多くの場合は遺伝しません。

 

治療法

1.ALSの進行を遅らせる作用のある薬:リルゾール(商品名 リルテック)という薬が使わ

れます。

2.対症療法(様々の症状を軽くする方法) 1)ALSにともなって起こる筋肉や関節の痛みに対しては毎日のリハビリテーションがと

ても大切です。

2)体の自由が効かないことや、病気に対する不安等から起こる不眠には睡眠薬や安定剤を

使います。

3)呼吸困難に対しては、鼻マスクによる非侵襲的な呼吸の補助と気管切開による侵襲的な

呼吸の補助があります。一般的には気管切開が必要な時期になると定期的に痰(たん)の吸引が必要になります。人工呼吸器を使用する場合であっても基本的には在宅での生活になります。

4)飲み込みにくさがある場合には、食物の形態を工夫(原則として柔らかく水気の多いもの、

味の淡泊なもの、冷たいものが嚥下しやすい)する、少量ずつ口に入れて嚥下する、顎を引いて嚥下するなど摂食・嚥下の仕方に注意することが有用です。飲み込みにくさがさらに進行した場合には、お腹の皮膚から胃に管を通したり(胃ろう)、鼻から食道を経て胃に管をいれて流動食を補給したり、点滴による栄養補給などの方法があります。現在は「胃ろう」で栄養補給する方法が一般的です。呼吸機能が悪くなってからの「胃ろう」の造設はより危険が伴います。

5)話しにくい、手の力が入らないなどの症状が進行すると、家族や他のヒトとのコミュニ

ケーションが大変になります。早めに新たなコミュニケーション手段の習得を行うことが大切です。

 

 

ミオクローヌス

 

ミオクローヌスは、筋肉や筋肉群に起きる素早い稲妻のような収縮を指します。

ミオクローヌスは片手、または上腕、脚、顔の一つの筋肉群だけに起こることもあれば、多くの筋肉で同時に起こることもあります。しゃっくりは腹部と胸部の境目にある横隔膜の筋肉だけにミオクローヌスが起きたものです。

ミオクローヌスは健康な人でも眠りかけたときなどに、正常なものとしてよく起こります。あるいは、次のような病気から生じることもあります。

肝不全

腎不全

心停止(心臓の鼓動が突然に止まったとき)

ウイルスによる脳損傷(ウイルス性脳症)

代謝性疾患(高血糖、低血糖など)

酸素欠乏

頭部外傷

アルツハイマー病(ときおり)

クロイツフェルト・ヤコブ病

若年性ミオクロニーてんかん(けいれん発作を生じる病気)

 

ミオクローヌスは、抗ヒスタミン薬、特定の抗うつ薬(アミトリプチリンなど)、ビスマス、レボドパ、オピオイド系薬剤(麻薬)などの薬剤を高用量で服用した後に起こることもあります。

 

症状

ミオクローヌスは軽いことも重いこともあります。筋肉の収縮は、素早いこともゆっくりなこともあり、また、リズミカルに起きる場合とそうでない場合とがあります。ミオクローヌスはたまにしか起こらないこともあれば、頻繁に起こることもあります。自発的に起こることもあれば、突然の音、光、動きなどの刺激によって引き起こされることもあります。たとえば、物をとろうとしたり、足を踏み出したりしたときに、その動きをさえぎるような筋肉の収縮が引き起こされることがあります。クロイツフェルト・ヤコブ病では、驚いたときにミオクローヌスが顕著になります。ミオクローヌスの原因が代謝性疾患である場合は、持続的になり、全身の筋肉に影響が及ぶことがあります。これはけいれん発作につながるときもあります。

 

診断と治療

診断は症状に基づいて行われます。原因を特定するために、別の検査を行うこともあります。

可能であれば、原因を是正します。たとえば、ミオクローヌスを引き起こす可能性がある薬剤は、使用を中止します。高血糖や低血糖を是正し、腎不全は血液透析で治療します。原因を是正することができない場合は、バルプロ酸やレベチラセタム(抗けいれん薬)、クロナゼパム(弱い鎮静薬)が役立つことがあります。脳で生産される5-ヒドロキシトリプトファンのサプリメントをカルビドパと一緒に投与すると役立つ場合もあります。

 

 

神経筋接合部障害

神経と筋肉との連結部を神経筋接合部といいます。神経筋接合部では、神経線維の末端が、運動神経終板と呼ばれる筋膜の特別な部分とつながっています。神経信号を伝えるため、神経はアセチルコリンという化学物質(神経伝達物質)を神経筋接合部に放出します。筋肉がこれに反応できるように、運動神経終板にはアセチルコリンの受容体があります。接合部で神経が筋肉を刺激すると、筋肉内に電気信号が流れて、収縮が起こります。

 

神経筋接合部の機能不全が起こる病気には、重症筋無力症、ボツリヌス中毒、イートン・ランバート症候群などがあります。また、多くの薬剤(一部の抗生物質を大量に使用した場合など)、一部の殺虫剤(有機リン酸系など)、クラーレ(毒矢の先に付けて対象を麻痺または殺傷する目的で使用されていた植物抽出物)、化学兵器に使用される神経ガスなども神経筋接合部の機能不全を引き起こします。これらの物質のいくつかは、神経信号が筋肉に伝えられた後に起こるアセチルコリンの分解を妨げます。

 

 

重症筋無力症

 「重症筋無力症」とは、末梢神経と筋肉の接ぎ目(神経筋接合部)において、筋肉側の受容体が自己抗体により破壊される自己免疫疾患である。

 神経筋接合部の筋肉側(信号の受け手)に存在するいくつかの分子に対して自己抗体が産生され、神経から筋肉に信号が伝わらなくなるために筋力低下が起こります。

全身の筋力低下、易疲労性(いひろうせい)が出現し、特に眼瞼下垂(がんけんかすい)、複視などの眼の症状をおこしやすい。 

嚥下が上手く出来なくなる場合もある。重症化すると呼吸筋の麻痺をおこし、呼吸困難を来すことがある。

 

 神経筋接合部の筋肉側(信号の受け手)に存在するいくつかの分子に対して自己抗体が産生され、神経から筋肉に信号が伝わらなくなるために筋力低下が起こります。自己抗体の標的として最も頻度の高いのがアセチルコリン受容体で全体の85%程度、次に筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)で全体の数%と考えられています。残りの数%(全体の10%未満)の患者では、どちらも陽性になりません。自己免疫疾患としての標的分子が約90%の患者で明らかになったことになります。

 しかし、なぜこのような自己抗体が患者体内で作られてるのかは、いまだによくわかっていません。

 一方、抗アセチルコリン受容体抗体を持つ患者さんの約75%に胸腺の異常(胸腺過形成、胸腺腫)が合併ことより、何らかの胸腺の関与が疑われています。

 この病気は遺伝しません。遺伝する筋無力症もまれにありますが、これは先天性筋無力症候群と言われる神経筋接合部にある特定の分子の遺伝子変異による疾患です。自己免疫性の重症筋無力症は遺伝をすることはありません。

 筋力低下と易疲労性がこの疾患の症状です。  この二つの症状は、骨格筋であればどこにでもあらわれるわけですが、特に眼瞼下垂、複視などの眼の症状がおこりやすいことが特徴です。

 一方、発語や嚥下障害などの症状が目立つ患者さんもいますし、四肢筋力低下が強い患者さんもいます。症状が悪化すると、呼吸筋麻痺により呼吸ができなくなることもあります。

 

治療法  対症療法と根治的な免疫療法があります。  対症療法として使われるのは、コリンエステラーゼ阻害薬といって、神経から筋肉への信号伝達を増強する薬剤です。ただ、これはあくまでも、一時的な対症療法と考えるべきです。

 治療の基本は免疫療法で、この病気の原因である抗体の産生を抑制したり、取り除く治療になります。抗体の産生を抑制するものには、ステロイド薬、免疫抑制薬があり、飲み薬としても点滴としても使われています。

 そのほかには、抗体を取り除く血液浄化療法、大量の抗体を静脈内投与する大量ガンマグロブリン療法などがありますが、患者さんの症状や状態に応じて、治療方法が選択されています。これらは、体の抗体産生能を非特異的に押さえたり、全部の抗体を区別なく除去する治療で、疾患特異的な治療ではありません。

 

 

 重症筋無力症の障害年金では、次のような状態が診断書や申立書などにしっかりと記載されていることが重要となる。記載された内容が実際の状況と整合性がとれているかをしっかり確認すること。  ・良くなる見込みがないこと(今後良くなる見込みがない)  嚥下障害などがあること重症筋無力症により、喉の筋力低下が起こり、嚥下障害やし

ゃべりにくいなどの症状がある) ・日常生活において、家族の援助が必要なこと(手足の筋力の低下による歩行や立つことが困難な状態であり、車いすでの生活のため、家族の援助が必要である)

 

 

○麻痺

麻痺は、脳・脊髄から末梢神経に至る運動神経や筋肉の障害による筋力低下である。

麻痺が起こると、手足や全身の筋肉に思うように力が入らず円滑に運動できなくなってしまいます。

 

中枢神経系の脳内出血・脳梗塞・頭部外傷などが原因で、随意運動(錐体路系)の障害によって引き起こされます。病気をした脳と逆側に麻痺が出ます。

 

 

麻痺については、明確な定義がないので非常に曖昧なものです。神経が原因で痺れをきたすものを麻痺とするのが一般的なので感覚に由来するものと考えられやすいのですが、筋肉の運動機能制限をさすことが一般的になっています。そのためどちらも麻痺としています。使い分けとして運動麻痺、感覚麻痺と表現します。

 

 

運動麻痺

 大脳の運動中枢から末梢神経、筋線維までの間に障害が生じ、随意的に体を動かせなくなった状態を言う。

「大脳皮質運動野から筋線維までの神経路遮断で生じる随意運動の消失」

 

2つに分けると

①完全麻痺(paralysis): 随意運動の完全消失

  ②不全麻痺(paresis): 随意運動の軽度の低下

 

 

神経路遮断部位により2つに分けると、以下の通り。

(1) 上位運動ニューロン障害

上位運動ニューロン障害とは「大脳皮質から内包・脳幹・脊髄を経て脊髄前角細胞に至る経路のどこかに障害があるときにみられる中枢性麻痺。核上性麻痺ともいう。

 

(2) 下位運動ニューロン障害

下位運動ニューロン障害とは脊髄前角細胞から末梢部で筋に至るまでの経路が障害されて起こり、筋萎縮・筋緊張低下を呈するものをいう。核下性麻痺ともいう。

 

 

 

上位ニューロン障害

下位ニューロン障害

筋緊張

亢進

低下

腱反射

亢進

痙縮

減弱ないし消失

弛緩性

筋萎縮

ない  あっても廃用性

著明

反 射   

Babinski陽性

足底筋反射正常・消失

線維性収縮

なし

あり

侵される筋  

びまん性

孤立した筋のみ

連合運動

あり

なし

 

 

痙性麻痺(痙縮)が随意運動(錐体路系)の障害によるものに対して、固縮は不随意運動(錐体外路系)の障害によって引き起こされる筋肉の緊張を抑制できない症状のことになります。一般的にはパーキンソン病の際に見られる筋肉のコントロール不全のことを固縮と呼びます。固縮は痙性麻痺と大きく違う点は自分の意志で筋肉を動かすことは可能になります。その為、麻痺の扱いにはならないのです。

 

 

麻痺の部位による分類

 

1 片麻痺

片麻痺は「かたまひ」または「へんまひ」と読み、体の左右どちらか片側の半身に起こる麻痺です。顔面を含める場合もあります。そのうち、頭部の片側の脳神経麻痺と反対側の上・下肢の麻痺がある場合を交代性片麻痺、片側の上肢と反対側の下肢に麻痺がある場合を交叉性片麻痺といいます。

原因の多くは脳血管の障害です。突然、片麻痺が発症するなら脳出血や脳梗塞などをまず疑います。突然の激しい頭痛で知られているくも膜下出血でも、時に片麻痺が現れます。

麻痺が24時間以内、多くは数分以内に治まるものを一過性脳虚血発作といいます。脳梗塞の前触れとして重要な症状で、1年以内に約10%、5年以内に約30%が脳梗塞を発症するといわれています。

徐々に起こる片麻痺には、慢性硬膜下血腫(こうまくかけっしゅ)などがあります。慢性硬膜下血腫は頭部に外傷(ごく軽いものも含む)を受けて約1~3カ月(時に年単位)たってから現れるもので、中年以上の男性でアルコールをたくさん飲む人に多くみられます。

 

症状

疑われる病気名

急に起こる

意識障害、感覚障害、言語障害

脳梗塞 脳出血

突然の頭痛、嘔吐、意識消失

くも膜下出血

24時間以内、多くは数分で治まる麻痺

一過性脳虚血発作

6歳前の小児、発熱、主に半身のけいれん

急性小児片麻痺

発熱、意識障害、頭痛

日本脳炎

急~やや急

視力低下、しびれ感、歩行障害

多発性硬化症

やや急~徐々

頭痛、不眠、神経質、無力感

神経ベーチェット病

徐々に起こる

頭痛、嘔吐、てんかん発作、言語障害

脳腫瘍

頭部外傷後、頭痛、認知症状

慢性硬膜下血腫

全身の筋肉がやせて力がなくなる

筋萎縮性側索硬化症

手や腕の麻痺、温痛覚がなくなる

脊髄空洞症

 

 

2 対(つい)麻痺

両側の下肢の麻痺で、原因のほとんどが脊髄と末梢神経の障害です。急に起こるなら急性脊髄炎や脊髄の血管障害、徐々に起こるなら脊髄の腫瘍などを考えます。

多発性硬化症は、厚生労働省の特定疾患に指定されている神経難病のひとつで、対麻痺だけでなく片麻痺、四肢麻痺、単麻痺などの形をとり、多彩な様相を示します。

 

症状

疑われる病気名

急に起こる

感覚障害、排尿・排便障害

急性脊髄炎

温痛覚がなくなる、背部痛

脊髄の血管障害

かぜ症状や下痢のあと

ギラン・バレー症候群

徐々に起こる

背中・手足の痛み、運動障害、便秘

脊髄の腫瘍

その他

多発性硬化症 筋萎縮性側索硬化症 など

 

 

3 四肢麻痺

両側の上・下肢の麻痺で、脳幹や末梢神経の障害、筋肉の病気などで起こります。

ギラン・バレー症候群は、かぜ症状や下痢のあと1~3週間たってから急に発症します。麻痺は、ごくわずかな対麻痺から四肢の完全な麻痺までみられます。普通、2~4週間でピークに達して進行がとまり、3~6カ月でほぼ治りますが、約10%の人に後遺症が残ります。

重症筋無力症は、自己免疫疾患のひとつです。筋肉に力が入らなくなり、疲れやすい、朝は症状が軽く夕方になると重くなる、複視、上まぶたが垂れる(眼瞼下垂(がんけんかすい))などの症状が現れます。

 

症状

疑われる病気名

急に起こる

年1回~週数回起こる手足の脱力

周期性四肢麻痺

徐々に起こる

遺伝性・進行性の筋力低下

進行性筋ジストロフィー症

疲れやすい、複視、上まぶたが垂れる

重症筋無力症

発熱、関節炎、筋肉痛、まぶたの皮疹

多発性筋炎

その他

日本脳炎 多発性硬化症 神経ベーチェット病 急性脊髄炎 ギラン・バレー症候群 など

 

 

 

4 単麻痺

左右どちらかの上肢または下肢(指を含む)だけの麻痺で、末梢神経、大脳皮質などの障害で起こります。

正中神経が麻痺すると、手指の屈曲、親指を手のひらと垂直に立てる運動(外転)、親指と小指をつける運動(母指対立)などができなくなり、母指球筋(親指の付け根の筋肉)がやせてきて猿の手のような外観(猿手)になります。

腓骨(ひこつ)神経が麻痺すると、足首や足の指を上げることができなくなり、これを「垂れ足」と呼んでいます。

 

症状

疑われる病気名

手指

手指・手首が伸ばしにくい→垂れ手

橈骨神経麻痺

手指の外転・母指対立ができない→猿手

正中神経麻痺

薬指と小指が伸びにくくなる→鉤爪(鷲手)

尺骨神経麻痺

足首や足指を上げられない→垂れ足

腓骨神経麻痺

その他

脳梗塞 脳出血 一過性脳虚血発作

多発性硬化症 脳腫瘍 脊髄空洞症

脊髄の腫瘍 など

 

 

5 その他

原因不明の特発性顔面神経麻痺をベル麻痺といい、急に顔の片側が麻痺し、そのため目を閉じられなくなったり、額にしわを寄せられなくなったりします。

糖尿病、ビタミンB1欠乏症、鉛・水銀による中毒、ある種の薬物中毒などでは四肢の先端の部分が麻痺してきます。

また、脊椎に肺がんや甲状腺がん、乳がん、前立腺がんなどが転移すると、脊髄を圧迫して麻痺が起こってきます。

 

 

 

麻痺があれば「弛緩性」「痙直性」「不随意運動性」「失調性」「強剛性」「振戦性」のいずれかがある。

 

 

運動麻痺の種類

 

・弛緩性麻痺

痙性の反対語で使用されるのが弛緩性(しかんせい)で、筋緊張が弱くなって力が入らないものを言う。

筋緊張や腱反射が低下あるいは消失してしまった状態で、身体の姿勢保持が難しくなる。

弛緩性麻痺は、関節の運動ができなくなり、筋の緊張が弱くなったり、消失したり、腱反射

も低下して反応を示さなくなる状態になります。筋肉の緊張が緩んで、運動機能を全く失ってしまった状態です。

脳血管障害により、脳が損傷を受けた場合の初期段階としてよく現れます。症状は、筋緊張

の低下に伴い、関節を動かすことが困難になり、腕を動かしたり、歩行を行うことができなくなってしまいます。重度の場合には、呼吸困難になり、命の危険に関わることがあります。

 

・痙直性麻痺

中枢神経系の脳内出血・脳梗塞・頭部外傷などが原因で、随意運動(錐体路系)の障害によって引き起こされる。病気をした脳と逆側に麻痺が出るが、脳血管障害など脳の障害で筋肉の緊張が神経が原因でコントロールしにくくなり硬くなるものを言う。筋緊張と腱反射が異常に亢進した状態で、弛緩性麻痺の後に多く出現する。

 

・失調性麻痺

平衡障害、協同運動障害によりバランスを崩しやすく、身体の姿勢保持が難しくなる。

 

 

また、緊張時に無意識に手が震えるなどの症状を「振戦」と呼ぶ。

 

振戦とは

目的のある動きを終えたときや物に手を伸ばそうとしたとき(企図振戦)、または体を特定の姿勢に保とうとしたとき(姿勢時振戦)に、小脳の損傷が原因で起こることがあります。筋肉の緊張が低下することもあります。

 

 振戦(震え)とは、律動的に細かく振動するような運動をいい、安静時にみられる振戦はパーキンソン病に特徴的です。一方、字を書いたり、物を持ったりするときにみられる振戦(姿勢時振戦)で、とくに原因がはっきりしないものを本態性振戦といいます。主に手に、時に頭部に振戦がみられますが、それ以外には異常がなく良性の疾患です。  軽症では治療を必要としませんが、日常生活に支障が出るほどの時には、アロチノロール(アルマール)やクロナゼパム(リボトリール)の投与で振戦を軽くすることができます。時に飲酒で軽くなる人もみられます。

 

 

こうした運動麻痺が出現すると、全身の活動性が低下し、それによって関節の可動域が縮小され、拘縮や褥瘡などの二次的障害の誘因となります。

 

 

感覚麻痺

 

知覚鈍麻・知覚脱失

知覚鈍麻とは、広義には皮膚の表面知覚(触覚、痛覚、温覚)ならびに深部知覚の鈍麻状態を言うが、一般には狭義に解釈して多くの場合は触覚のみに限られて使用される。これが高度になると知覚脱失となる。

知覚過敏

広義には皮膚の表面知覚(触覚、痛覚、温覚)ならびに深部知覚の過敏状態を言うが、一般には狭義に解釈して多くの場合は触覚のみに限られて使用される。触覚路に刺激状態がある場合におこり、高度になると疼痛として感じる。

知覚異常

知覚神経の走路中に不適応刺激が加わると、異常な感覚、例えばムズムズしたり、ピリピリしたりする感覚がおこるが、このような感覚が病的に出現するときに、これを知覚異常と言う。

 

 

運動神経に障害が生じた場合は運動麻痺、知覚神経に障害が起これば知覚麻痺となります。 一般的に麻痺といった場合には、筋収縮の低下による運動麻痺を指します。

 

 

 

脳性麻痺(小児麻痺)

 脳性麻痺とは、出生前や出生時、あるいは出生後間もない時期に脳に受けた外傷がもとで生じる、筋の運動制御不能、痙縮(けいしゅく)、麻痺、その他の神経障害といった一連の症状のことです。

障害が出る部位は人によって違い、四肢におよぶ場合、左右どちらか半身のみが侵される場合、両足の運動機能のみが低下する場合、難聴など他の病気を併発する場合などがあります。

 

 脳性麻痺の原因には、分娩外傷、酸素欠乏、感染症、その他重篤な疾患などがあります。症状には、わずかにぎこちなさを感じる程度の軽いものから、痙縮を起こすほどの重いものまであり、知的障害、行動障害、視覚障害、聴覚障害、けいれん性疾患などの症状がみられます。

 

 

運動麻痺の様子から、痙直型(けいちょくがた)、強剛型不随意運動を主な特徴とするアテトーゼ型、運動失調型弛緩型混合型に分類される。

 

痙直型(spasticity)

この型は脳性麻痺の70%を占めます。筋肉が過剰に緊張するため、筋肉が硬くなって筋力が低下し動作がぎこちなくなります。影響が両腕と両脚に及ぶ場合(四肢麻痺、ししまひ)、主に脚と下半身に及ぶ場合(対麻痺または両麻痺)、片側の腕と脚のみに及ぶ場合(片麻痺)の3パターンがあります。

麻痺を起こした腕や足は、硬直して筋力が低下します。「痙性四肢麻痺(けいせいししまひ)」と呼ばれる子どもの場合、けいれんや嚥下障害に加えて、精神遅滞(知的障害とほぼ同義、重い場合もあります)がよくみられ、嚥下障害があるとむせやすくなります(誤嚥、ごえん)。誤嚥を繰り返すと、肺に回復不能な損傷が起きることがあります。「痙性両麻痺」と呼ばれる子供の場合は、一般に精神発達は正常で、けいれんを起こすのはまれです。「痙性片麻痺」の子供では、約4分の1の方で知能が平均より低く、3分の1の方にけいれんがみられます。

 

大脳皮質運動野の傷害を主とする。成人の脳内出血や動物実験による脳破壊では弛緩マヒが優勢となるが、脳性マヒでは、長期にわたる異常運動の固定化と他の運動系神経機構の障害との総合的な結果症状として、痙直のマヒが前面にあらわれると考えられている。

痙直型脳性麻痺者に見られる特徴としては、主に、反射・筋緊張・関節硬縮・尖足です。そ

れらの反応が無意識下に起きていることもポイントです。

 

 

強剛(固縮)型(rigidity)

筋は固いが、鉛管のように受動的に曲げられるとそのままの状態を保つ(固縮)。腱反射異常は認められないが、四肢マヒなど重い運動障害とともに、ほとんどが重い知的遅滞を合併する。

 

 

不随意運動型アテトーゼ型(athetosis))

脳性麻痺のなかで小児の20%ほどである。意図しない不安定な運動が、とくに上肢におこりやすい。そのため幼児期には仰向けの姿勢を好む。このとき非対称性頸反射をとることがある。何かをしようとするとよけいに不随意運動が生じ、ブルブル型と形容される。物をつかむときは、手指をいったん開いてから屈曲させる。筋の状態は、非緊張型と緊張高進型に分かれるが、一般に幼少時には非緊張型、成長するにつれて緊張型へと変わるものが多いとされる。緊張型が、前述の痙直型と異なる点は、睡眠中などではむしろ低緊張であり、意識的動作に入ろうとすると緊張が高まるなどである。重い発語障害や聴力損失を伴うことが多い。

 

一つとして大脳基底核が関与する運動系神経機構の障害とされる。基底核は目的的運動の総合的なプランニングや順序化のような機能をもつ中枢神経機構とされるが、その障害によって他の運動系中枢(例えば基底核内の他の神経核群や脳幹網様体、小脳など)との協調的な運動進行が不成立となるものであろう。

 

 

失調型(ataxia)

脳性麻痺の約5%を占めます。

体の協調がうまくとれず、動きが不安定で、筋力低下や筋肉のふるえがみられます。そのため、速い動きや細かい動きが難しく、脚の間隔を広く開いた不安定な歩行になります。

 

小脳機能障害の特徴をそなえているので、いわゆる「脳性麻痺」に含めないこともある。小脳は、平衡や筋運動感覚、皮膚感覚などを入力しながらたえず、姿勢平衡調整、随意運動の目標にたいする整合、さらに学習された運動プログラムの把持などの機能を果たすとされる。

 重い脳障害では、これらの運動系中枢のどこかに傷害が限定せず、器質的損傷が広範に及んで、運動障害をいっそう重く、複雑なものとする。

 

 

混合型(mixed)

上記3つのタイプのうち複数のタイプの症状が現れるもの。

以上のいずれかの症状が複合し、とくに幼少期には病型が固定しないことから、このような分類がなされる。

 

 

すべてのタイプで、話すために使う筋肉の制御が困難になっているため、話していることが理解しにくい場合があります。脳の非運動野も損傷を受けている場合があるため、多くの小児に、精神遅滞/知的障害、行動障害、視覚障害、聴覚障害、けいれん性疾患など、別の障害がみられます。

 

  脳性麻痺は障害年金の制度では、先天性(生まれながら)の病気であると判断されるため、10年以上前のことなどの場合、カルテが破棄されているなどの理由から初診日の証明が困難な場合などがあります。このような場合には、診察券や第三者の証明書などを集めて障害年金の手続きをします。客観的資料で初診日が認められる場合があります。1級または2級でないと障害年金が受給できないため、慎重に行うことが大切となります。

 

 

 

脊髄性麻痺

脊髄を損傷すると、損傷部位以下の運動・知覚機能が麻痺します。特に損傷部位が頚髄ですと、麻痺が広い範囲に及び、上肢が麻痺してしまいます。また、呼吸・消化・排泄機能といった非常に重要な機能にも障害が及びます。

 

 

末梢麻痺

末梢神経が圧迫される病気とは、中枢神経の脳・脊髄(せきずい)から続く末梢神経が背骨を出てから手足に向かう間に、そのとおり道が狭い場所で慢性的に圧迫を受けて起こる神経麻痺です。

神経が支配する部位の皮膚にしびれ感が現れたり、感覚がにぶくなったりします。さらに神経が支配する筋肉がやせ細ったり、筋力が低下して運動ができなくなります。

病気の種類は多く、腕や手や足にみられます。鎖骨(さこつ)周辺で腕神経叢(わんしんけいそう)という腕や手に行く末梢神経の束が圧迫される胸郭出口(きょうかくでぐち)症候群、肘で尺骨(しゃっこつ)神経が圧迫される肘部管(ちゅうぶかん)症候群、手首で正中神経が圧迫される手根管(しゅこんかん)症候群などがよくみられます。

そのほかには、肘で橈骨(とうこつ)神経が圧迫される橈骨神経管症候群、肘で正中神経が圧迫される円回内筋(えんかいないきん)症候群、手首で尺骨神経が圧迫される尺骨神経管症候群、臀部(でんぶ)で坐骨(ざこつ)神経が圧迫される梨状筋(りじょうきん)症候群、足首で脛骨(けいこつ)神経が圧迫される足根管(そくこんかん)症候群などがあります。

 

原因

関節の周辺では、末梢神経が狭いトンネルを通るため圧迫を受けやすくなり、関節の動きによって引き延ばされやすくなります。また、神経が筋肉のなかをとおる時にも圧迫や摩擦(まさつ)を受けやすくなります。さらに、このような神経が障害を受けやすい場所に、ガングリオン嚢腫(のうしゅ)という粘調な液がたまる袋ができたり、炎症が起こると、麻痺が出やすくなります。

 

症状の現れ方

末梢神経は、皮膚の感覚と筋肉の運動を支配しているので、圧迫を受けると両者の症状が現れます。

初期は圧迫された神経が支配する部位の手足の皮膚に、しびれ感や痛みを生じます。症状は朝方目を覚ました時に強く、ひどい時には夜間睡眠中に痛みやしびれで目が覚めてしまいます。 

進行すると神経が支配する手足の筋肉がやせてきたり筋力が低下して、その筋肉の運動ができなくなります。

 

 

麻痺と障害・部位

 

脳血管障害(含、ラクナ梗塞):

急性・片麻痺・感覚障害顔面のしびれ   神経痛性筋萎縮症(腕神経叢炎):

急性・肩痛・上腕筋萎縮

腰部椎間板ヘルニア:

急性・下肢のしびれ

ギランーバレー:

急性又は亜急性・四肢筋脱力・四肢麻痺・呼吸筋麻痺  感覚障害(あっても軽い)・ヒステリーと間違うことあり

変形性脊椎症:

慢性・手足のしびれ・左右非対称・運動障害

多発性神経炎:

慢性・進行性・左右対称性にしびれが上行(糖尿病・代謝疾患・内分泌疾患・栄養障害・中毒等)。悪性腫瘍に伴うものにも注意。

 

◇大脳半球:

反対側の感覚障害・運動麻痺

◇視床:

顔面を含んで反対側の半身の感覚障害(異常感覚・感覚鈍麻のこともある)

◇脳幹:

ワレンベルグ(延髄背外側部、同側顔面及び反対側半身の温痛覚障害)

◇脊髄 横断性病変:

そのレベル以下の運動感覚障害  

ブラウン・セカール:

同側の運動障害と反対側の感覚障害

脊髄空洞症・髄内腫瘍:

解離性感覚障害(温痛覚障害があるが触覚が保たれる)

脊髄後索障害:

深部感覚障害(振動覚・位置覚障害)神経根性感覚障害

◇末梢神経

○多発性神経炎:慢性・進行性・左右対称性にしびれが上行(糖尿病・代謝疾患・内分泌疾患・栄養障害・中毒等)(= 手袋・靴下型感覚障害)膝蓋腱反射が低下ないし消失していることを確かめる。

○末梢性単神経炎・絞扼性神経障害: 尺骨神経麻痺:

長い時間肘をつくとしびれる

総腓骨神経麻痺:

長い時間足を組んでいると下腿外側がしびれる

檮骨神経麻痺:

変な寝相「土曜の夜の麻痺」

手根管症候群:

手掌のしびれ(正中神経圧迫)

異常感覚性大腿神経痛:

大腿外側のしびれ(大腿外側皮神経が鼠徑部で圧迫される)

 

 

痙性麻痺(上位運動神経細胞の障害)を来す部位と主な疾患

  1. 大脳中心前回皮質:

脳血管障害、外傷、各種髄膜脳炎、Creutzfeldt-Jakob病  変性疾患(ALS、アルツハイマー病末期、びまん性Lewy小体病など)  MELAS(mitochondrial myopathy,encephaloPathy,lactic acidosis and stroke-like episodes)

  1. 大脳中心前回白質・半卵円中心および内包、大脳脚:  脳血管障害、脱髄疾患(多発性硬化症、急性散在性脳脊髄炎、代謝性白質ジストロフィー、進行性多巣性白質ジストロフィーなど)、脳腫瘍、脳膿瘍  Creutzfeldt-Jakob病、亜急性硬化性全脳炎(内包、大脳脚を除く)
  2. 橋底部:

脳血管障害、外傷、脱髄疾患(多発性硬化症、橋中心髄鞘崩壊など)  脳幹脳炎、Behcet病、脳腫瘍、変性疾患(オリーブ橋小脳萎縮症、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、Joseph病など)

  1. 延髄錐体:

脳血管障害、外傷、脱髄疾患、脳腫瘍、延髄空洞症

  1. 脊髄側索・前索:脊髄血管障害(前脊髄動脈症候群)、脊髄損傷  HTLV-I associated myelopathy、脊髄空洞症、亜急性脊髄連合変性症(悪性貧血に随伴)、頸椎・胸椎変形による圧迫性脊髄障害、脊髄腫瘍

 

 

 

 

 

脳性麻痺(小児麻痺)

 脳性麻痺とは、出生前や出生時、あるいは出生後間もない時期に脳に受けた外傷がもとで生じる、筋の運動制御不能、痙縮(けいしゅく)、麻痺、その他の神経障害といった一連の症状のことです。

障害が出る部位は人によって違い、四肢におよぶ場合、左右どちらか半身のみが侵される場合、両足の運動機能のみが低下する場合、難聴など他の病気を併発する場合などがあります。

 

 脳性麻痺の原因には、分娩外傷、酸素欠乏、感染症、その他重篤な疾患などがあります。症状には、わずかにぎこちなさを感じる程度の軽いものから、痙縮を起こすほどの重いものまであり、知的障害、行動障害、視覚障害、聴覚障害、けいれん性疾患などの症状がみられます。

 

 脳性麻痺の主なタイプとしては、痙直型、アテトーゼ型、運動失調型、混合型の4つがあります。

 

 痙直型は脳性麻痺の小児の70%を超えており、筋肉が硬くなって筋力が低下します。この筋硬直には、両腕と両脚に及ぶ場合(四肢麻痺)、主に脚と下半身に及ぶ場合(対麻痺または両麻痺)、あるいは片側の腕と脚のみに及ぶ場合(片麻痺)があります。麻痺を起こした腕や脚は発育が悪く、硬直して筋力が低下します。片脚がもう一方の脚にぶつかるように交差して歩くはさみ足歩行の小児や、つま先立って歩く小児もいます。視線が交差している、視点が定まっていない、視線がさまようなどの斜視や、その他の視覚障害が現れることもあります。痙性四肢麻痺が最も重い障害です。痙性四肢麻痺の小児では、けいれんや嚥下障害に加えて、精神遅滞/知的障害(重い場合もある)がよくみられます。嚥下障害があると、口や胃からの分泌物で息が詰まりやすくなります(誤嚥)。誤嚥により肺に損傷が生じると、呼吸困難になります。誤嚥を繰り返し起こすと、肺に回復不能な損傷を生じます。痙性両麻痺の小児では、一般に精神発達は正常で、けいれんを起こすのはまれです。痙性片麻痺の小児の約4分の1は知能が平均より低く、3分の1にけいれんがみられます。

 

 アテトーゼ型は脳性麻痺の小児の約20%にみられ、脳から通常の制御を受けず、筋肉が不随意的にゆっくりと動きます。腕や脚、胴体の動きは、よじれるように動く場合や突然動く場合、ピクピクと動く場合などがあります。この動きは強い感情が起こると激しくなり、睡眠中には生じません。アテトーゼ型の小児では、一般に知能は正常で、けいれんを起こすのはまれです。言葉をはっきりと普通に発音することが困難な例がよくみられ、しばしば深刻な場合があります。核黄疸によって生じたアテトーゼ型脳性麻痺の小児では、一般に感音難聴がみられ、上を向くのが困難です。

 

 運動失調型は脳性麻痺の約5%を占めており、体の協調がうまくとれず、動きが不安定です。運動失調型の小児では、筋力低下や筋肉のふるえもみられます。また、速い動きや細かい動きが難しく、脚の間隔を広く開いた不安定な歩行になります。

 

 混合型は、上に述べたタイプのうち2つが複合したもので、ほとんどが痙直型とアテトーゼ型の混合型です。この混合型は、脳性麻痺の小児の多くにみられます。混合型の小児では、重い精神遅滞/知的障害がみられることがあります。

 

すべてのタイプで、話すために使う筋肉の制御が困難になっているため、話していることが理解しにくい場合があります。脳の非運動野も損傷を受けている場合があるため、多くの小児に、精神遅滞/知的障害、行動障害、視覚障害、聴覚障害、けいれん性疾患など、別の障害がみられます。

 

 

  脳性麻痺は障害年金の制度では、先天性(生まれながら)の病気であると判断されるため、10年以上前のことなどの場合、カルテが破棄されているなどの理由から初診日の証明が困難な場合などがあります。このような場合には、診察券や第三者の証明書などを集めて障害年金の手続きをします。客観的資料で初診日が認められる場合があります。1級または2級でないと障害年金が受給できないため、慎重に行うことが大切となります。

 

 

 

ポストポリオ症候群

ポリオとは、急性脊髄灰白髄炎または脊髄性小児麻痺ともよばれる。非常に感染性が強く、命に関わることのあるウイルス感染症で、神経を侵して永久的な筋力低下や麻痺、その他の症状を起こします。ポリオウイルスによる感染症で、乳幼児に好発します。腸管に入ったウイルスが脊髄の一部に入り込み、主に手や足に麻痺があらわれ、その麻痺が後遺症として一生残ってしまうことがあります。

小児期にポリオを患いながらも一旦回復していたが、数十年後に新たに筋力低下など機能障害をもたらすことがあり、これをポストポリオ症候群(ポリオ後症候群)と呼ばれています。

 

 ポストポリオは、ポリオの既往歴をもつ成人に見られる運動、呼吸等の種々の機能障害の総称です。

 

 わが国では1964年にポリオ生ワクチンが集団投与(予防接種)されるまで、毎年多数のポリオ患者(ほとんどが幼小児)が発生していました。この時期に全国各地でポリオにかかり、ポリオ後遺症をもった人たちが、現在それぞれの分野で活躍していますが、これらの人たちが50~60歳前後に達したころに手足の筋力低下、しびれ、痛みなどの症状が発現して、日常生活ができなくなったとの相談をしばしば受けています。これはポストポリオ症候群(PPS、またはポリオ後症候群、ポリオ後遅発性筋萎縮症)と呼ばれるものです。  最近、15年くらいの間にわが国や欧米の専門家によって精力的に調査研究された結果、PPSはポリオの再発ではなく、ポリオの二次障害であることが確定しました。

 

ポストポリオ症候群の症状と経過  PPSの頻度はポリオ経験者の40~60%と言われており、男女間では男性にやや多いようです。PPSの症状としては筋力低下(筋肉が弱くなった、力が入らなくなった)と筋萎縮(筋肉が痩せた、筋肉が細くなった)が多いですが、筋肉痛、関節痛、筋線維攣縮(筋肉内の筋線維がぴくぴくと細かく動く過敏現象)、びりびり感など、多彩です。冷感(障害のある手や足を氷のように冷たく感じる)、感覚鈍麻(感じが鈍くなる)、腰痛、全身倦怠感(全身がだるい)を自覚する人もいます。PPSの諸症状は、後遺症のある同じ手や足に現れることが多いですが、他の手足に発現することもあります。  PPSはしばらくの間は進行しますが、数か月~1年くらいで進行は停止します。かなりの程度に回復する人が多く、ほとんどの人がPPS発症前の日常生活に戻ることができます。同時に現れた筋・関節の痛みやしびれ、疲れやすさも次第に消失します。

 幼小児期に経口感染したポリオウイルスは、増殖して、好んで脊髄の運動神経細胞に入り込みます(急性期)。ウイルスが侵入した運動神経細胞は壊れて、消滅するので、それらの神経細胞から命令を受けていた手足の筋肉は動かなくなります。これがポリオによる手足のマヒであり、このマヒが後遺症として残ります。  急性期が過ぎて体力が回復すると、生き残った脊髄運動神経細胞から出る末梢神経はたくさんの枝を伸ばし始めます。これらの枝が、ポリオの侵入によって消滅した神経細胞から命令を受けられなくなって運動できないままでいる、手足の筋肉(筋肉自身はポリオウイルスに障害されないで、元気に残っている)につながって、これらの筋肉を活動させるようになります。病気の直後には全く動かなかった手足の筋肉が、少しずつ動くようになるのは、このためです。  ポリオ経験者は、一般に努力家で、後遺症をもった手足に対して一生懸命に機能回復訓練をされた方が多く、運動マヒの残っている手足においても神経と筋肉がかなりよくつながって、機能をうまく果たしており、その後何十年にもわたって元気に社会生活を送っています。  このように、ポリオ後遺症のある手足の筋肉に命令を伝えている、脊髄の運動神経細胞は、健康な人と比べると余分の神経の枝を出して、長年頑張っていますが、50~60歳ごろになって疲れを生じて、萎縮したり消滅し始めます。またちょうど初老期に達するため、老化現象の一つとして神経細胞が減るという事実もあります。これらがPPSの原因です。  PPSの際にしばしば現れる筋・関節の痛みやしびれは、追加して出現した筋力低下のために、その近辺の末梢神経や筋・関節に余分の負担がかかるために生じると考えられます。

 PPSと思われる症状が現れた場合には、無理な運動は避けて、安静にしたり、マッサージや入浴などでその部位の血液循環をよくするのをお勧めします。むやみに不安がることなく、ゆったりとした気持ちで生活するほうが、早くPPSが治まります。

 PPSの急性期が過ぎて、筋線維攣縮、筋力低下、筋肉や関節の痛みなどの症状が消失または軽減してきたら、少しずつリハビリを始めましょう。ラジオ体操や散歩などをお勧めします。運動の目安は、1日の運動による疲労が翌日に残らない程度とします。数日から1週間ぐらい同程度の運動を続け、調子が良ければ少し運動量を増して数日間様子を見る。具合が良ければ、さらに運動量を増していきます。

 

 

以前、障害年金の認定においてポストポリオは、そもそもポリオを患っていなければ発症しないという理由で、小児期のポリオで医師の診断を受けた日を初診日としていました。その場合、障害基礎年金のみの支給になってしまったり、障害等級3級相当の場合には、障害基礎年金に3級がないことから、障害年金そのものの受給ができない、または、初診日が古すぎてカルテが廃棄され、初診日が証明できずに涙を飲むケースがありました。

 現在では初診日の取扱が変わり、「ポストポリオ」を発症したときは、初診日は幼児期にポリオを発症したときでなく、ポストポリオについて初めて医師の診療を受けた日とします。  

 大人になってからのポストポリオを初診日とするための条件は、以下の4つとなります。 (1) 新たに加わった筋力低下、異常な筋の易疲労性の原因が他の疾患でないことが確認でき

る診断書であること (2) ポリオの既往歴があり、弛緩性運動麻痺の残存が確認できる診断書、「病歴・就労状況

等申立書」であること (3) ポリオ回復後、ポストポリオを発症するまでに概ね10年の症状安定期が確認できる「病

歴・就労状況等申立書」であること (4) 上の(1)の主たる原因が、他の疾患でないこと

 

 

 幼児期に罹患したポリオによる障害の程度が、既に障害等級2級以上に該当している場合は、その小児ポリオによる障害の程度を差し引いて、成年到達後のポストポリオによる障害の程度が認定(差引認定)されます。

 

 

 

進行麻痺

 進行麻痺は、梅毒に感染してからおよそ10年以降に発症する脳疾患です。梅毒は主に感染症、性病として広く知られていますが、進行麻痺はこの梅毒トレポネーマが脳の実質にまで至り、その結果発症する精神疾患です。

 この進行麻痺は、「脳梅毒」「麻痺性痴呆」とも呼ばれています。

 

主な症状や原因    進行麻痺の主な症状は、痴呆と同時に手足がけいれんし、徐々に体全体が麻痺を起こします。そしていずれ人格が崩壊してしまうという恐ろしい病気なのです。適切な治療をせずに放置すれば、余命は発症からおよそ3年とも言われます。

 

治療  ペニシリンが主に使用し、これにより進行麻痺の症状が劇的に改善されることがわかっています。

 

 

振戦

 

振戦は、筋肉の収縮と弛緩が繰り返されたときに起こる不随意のリズミカルなふるえです。

ある程度の振戦は誰にでも起こります。たとえば手をいっぱいに広げたままにすると、たいてい、手がかすかにふるえます。このようなかすかで速いふるえは生理的振戦と呼ばれ、正常なもので、筋肉が神経によって一瞬ごとに精密に調節されているために現れる現象です。この振戦はあまりにかすかなため、ほとんどの人が気づきません。

正常な振戦がよりはっきりみられることもあり、このような振戦を起こす要因としては、ストレス、不安、疲労、アルコールやある種の薬剤(オピオイド系薬剤など)の中止(離脱)、甲状腺の活動性の亢進(甲状腺機能亢進)、カフェイン摂取、ある種の薬剤(テオフィリン、サルブタモール[喘息の治療に用いられる]などのベータ刺激薬、コルチコステロイド薬、バルプロ酸[抗けいれん薬])の使用などがあります。

 

異常な振戦の種類

異常な振戦にはいくつかの種類があります。振戦は、次のような基準により分類されます。

ふるえの速さ(周波数)

振幅(細かい~粗い)

振戦が起こる頻度

重症度

振戦の引き金となるもの(安静時か活動時か、など)

 

原因

安静によって起きる振戦は安静時振戦と呼ばれ、運動によって起きるかまたは悪化する振戦は動作時振戦と呼ばれます。動作時振戦は、企図振戦(目的物にねらいをつけると起きる)や姿勢振戦(四肢を一定の姿勢に保つと起きる)に分類されます。原因は、生理的、本態性、小脳性、続発性に分けられます。続発性振戦は、病気や薬剤が原因です。

 

安静時振戦:

安静時振戦は、筋肉が休んでいるときに起きる振戦で、完全にリラックスした状態なのに腕や脚がふるえます。症状が出ている筋肉を動かすと、振戦は目立たなくなったり、なくなったりします。安静時振戦のふるえは、多くの場合、ゆっくりとした大きな動きです。

安静時振戦は、大脳の底部にある、基底核を含む神経細胞群が障害されると起こります。そのような障害をもたらす原因は、多くの場合、パーキンソン病です。抗精神病薬によっても安静時振戦が起こることがあります。

安静時振戦は、人によっては人前で恥ずかしさを感じることもありますが、通常、コップの水を飲むなどの日常活動の妨げにはなりません。

 

企図振戦:

この振戦は、意図的な動作が完了したとき(ボタンを押した後など)や、目標物にねらいをつけたとき(物に手を伸ばそうとした場合など)などに起こります。振戦のために、取ろうとしたものが取れないことがあります。企図振戦のふるえは、比較的ゆっくりとした大きな動きです。

企図振戦は、小脳やその接合部の損傷によって起こることがあります。したがって、企図振戦と小脳振戦は同義語として使用されることがあります。多い原因は多発性硬化症です。他に、脳卒中、ウィルソン病、アルコール依存症、鎮静薬や抗けいれん薬の過剰使用も小脳の機能不全をもたらし、企図振戦を起こす可能性があります。

 

姿勢振戦:

体の前で腕をいっぱいに広げたままにした場合のように、重力に逆らって腕や脚を一定の位置に保つと姿勢振戦が起きます。

振戦が徐々に生じてきた場合は、生理的振戦か本態性振戦です。姿勢振戦が突然に始まった場合は、原因として、毒物、病気(甲状腺機能亢進症)、アルコールや薬剤の中止、特定の薬剤の使用が考えられます。

 

本態性振戦:

本態性振戦は主に成人期の初期に発症しますが、どの年齢層でも起こります。振戦は徐々に目立つようになり、高齢になるほど顕著になります。そのような理由により、老年性振戦という間違った呼び方がされることがあります。本態性振戦は通常、速く細かいふるえですが、ゆっくりとした大きなふるえの場合もあり、またはその両方が起こることもあります。

本態性振戦には、家族性に生じる非癌性遺伝性振戦と呼ばれるタイプもあります。本態性振戦は、原因が解明されていませんが、深刻な病気によるものではありません(ただし重度になると日常生活に支障が出ることはあります)。

本態性振戦は、手、頭、声などに起こります。通常、振戦は安静時にはなくなりますが、腕や脚を不自然な姿勢のままにすると悪化します。腕や脚を大きく広げると、振戦が顕著になります。たとえば、手首を上向きに曲げ指を広げると、手や手首の振戦が顕著になることがあります。通常、本態性振戦は体の左右両側に起こりますが、一方の側により強く症状が現れることもあります。頭がふるえて上下に揺れ、声がふるえることもあります。

通常の(生理的)振戦を悪化させる要因(ストレス、疲労、カフェインの摂取など)は、本態性振戦を顕著にする可能性があります。アルコールを摂取すると、たいていの場合、振戦は目立たなくなります。

通常、本態性振戦は軽度のまま経過しますが、この振戦がある人は煩わしさや恥ずかしさを感じることがあります。字を書きづらい、食器をうまく扱えないなどといった不便が生じることがあります。一部の人では長期間にわたって振戦が徐々に悪化し、最終的に生活に支障が出ることがあります。

 

羽ばたき振戦:

羽ばたき振戦は、振戦に似ていますが、振戦ではありません。収縮している一群の筋肉が突然かつ一時的に脱力すると羽ばたき振戦が起こります。たとえば、腕と手を広げたときに、手が突然だらりと下がり、次に元の位置に戻ります。この動きは繰り返し起き、粗くてゆっくりしていますが、リズミカルではありません。

羽ばたき振戦の主な原因は肝不全であるため「肝臓の羽ばたき」と呼ばれることもあります。しかし、羽ばたき振戦は、腎不全、ある種の薬剤、代謝障害による脳損傷(脳症)によっても起こります。羽ばたき振戦は多くの場合、振戦やミオクローヌスを伴います。

 

診断

目につく振戦が生じた場合は、医師の診察を受けるべきです。通常は振戦の特徴からタイプを特定できます。振戦のタイプによって、どのような診断検査を行うかが決まります。

 

安静時振戦:

すべての神経学的検査を行い、パーキンソン病をチェックします。脳のCT(コンピュータ断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像)検査を実施することがあります。

 

企図振戦:

脳(特に小脳)の損傷を見つけるために、CT検査やMRI検査などの画像検査が行われます。

 

姿勢振戦:

症状が突然に起こった場合は、服用中の薬剤を確認するとともに、甲状腺疾患などの他の病気の可能性を調べるために検査を行います。CT検査やMRI検査も行われることがあります。

 

本態性振戦:

医師は、どのような薬剤を服用しているか、不安やストレスを感じているか、飲酒によって振戦が軽くなるか、などを尋ねます。甲状腺機能亢進症を調べる血液検査が行われます。

 

羽ばたき振戦:

肝臓、腎臓、代謝の病気が原因であるかを調べるために血液検査が行われます。

 

治療

軽度の振戦には、治療の必要はありません。振戦が煩わしくなった場合は、簡単で有用な対処法がいくつかあります。

ものをしっかりつかみ、落ちないように体の近くで持つ

無理な姿勢を取らないようにする

人前でスープを飲まない

作業療法士の指導を受けて、補助器具を使用する

補助器具としては、特殊な形状のナイフや、持ち手が大きい食器などもあり、特に振戦が重度のときは、ボタン型フック、マジックテープ(ボタンや靴紐の代わりとして)、ファスナー、ストロー、靴べらなども利用されます。

生理的振戦や本態性振戦の場合は、振戦の引き金となる要因を解消するかまたは最小限に抑えると、振戦が減ることがあります。たとえば、甲状腺機能亢進症を治療したり、飲酒を適量に抑えたりすると、振戦が起こりにくくなることがあります。ただし、大量に飲酒した後に突然飲酒をやめると振戦が悪化します。日常活動(食器を使って食事をする、コップで飲み物を飲むなど)の多くが困難な場合や、仕事上、手がふるえると困る場合は、薬剤を使用します。治療にはベータ遮断薬(プロプラノロールなど)、抗けいれん薬のプリミドン、または両者の併用が含まれます。

パーキンソン病による安静時振戦は、パーキンソン病の一部として治療が行われます。トリヘキシフェニジルやベンズトロピンなどの抗コリン作用がある薬剤は、通常、振戦のコントロールに役立ちます。

企図振戦の治療は困難ですが、小脳の状態が改善されれば振戦は起こらなくなります。小脳の状態が改善されない場合は、手首と足首におもりを取り付けて、振戦を抑えることがあります。あるいは、活動をする際に腕や脚に力を入れるように練習する場合もあります(これらは通常、理学療法士や作業療法士の指示で行われます)。これらの方法が役立つ場合もあります。

 

深部脳刺激:

微小な電極を、振戦に関与している脳領域に設置します。この電極で、痛みを伴わないショックを与えて、振戦の原因となっている電気信号を妨害します。深部脳刺激は、本態性振戦や安静時振戦が重度で日常活動に支障があり、薬でコントロールできないときに用いられることがあります。本態性振戦の場合は視床(脳の底部にある神経細胞の集まり)を刺激し、安静時振戦の場合は視床か(視床の下にある)視床下核を刺激します。これらの手技が受けられるのは専門施設に限られます。

 

 

(脱髄・変性疾患)

 

 神経線維には、ちょうどビニールを巻いた電線のように、神経細胞の長い突起である軸索をしんにして、それを髄鞘という管状のさやが取り巻いているものがあります。   脱髄疾患というのは、ふつう軸索はおかされずに残り、髄鞘が脱落する病気のことを指します。

 

病気が重く、激しいときには、軸索もおかされていきますが、あくまでも、髄鞘がおかされることが、この病気の特徴です。脱髄疾患のなかには、多発性硬化症、デビック病、急性散在性脊髄炎、汎発性硬化症などの、いろいろな病気が含まれます。

 

 

脳の内外のほとんどの神経線維は、ミエリンと呼ばれる、脂肪(リポタンパク)でできた何層もの組織に包まれています。これらの層は髄鞘と呼ばれる組織を形成しています。髄鞘は電線を包む絶縁体のような役割を果たしていて、この働きによって、神経の情報伝達に必要な電気信号が神経線維に沿って速くかつ正確に伝えられています。髄鞘が損傷すると、神経の電気信号が正常に伝わらなくなります。ときには神経線維も損傷を受けることがあります。

出生直後の段階では、多くの神経の髄鞘はまだ発達していません。新生児の動きがぎこちないのは、そのためです。髄鞘が発達するにつれて、よりスムーズで意味のある協調的な動作ができるようになります。特定のまれな遺伝性疾患(テイ・サックス病、ニーマン・ピック病、ゴーシェ病、ハーラー症候群など)のある小児では、髄鞘が正常に発達しないために、神経に永久的な異常が発生し、その影響はしばしば広範囲に及びます。

成人では、脳卒中、炎症、免疫異常、代謝異常、栄養素の欠乏(ビタミンB12欠乏症など)などによって髄鞘が破壊されることがあります。このように髄鞘が破壊される現象は脱髄と呼ばれます。毒物、薬剤(抗生物質のエタンブトールなど)、過度の飲酒なども髄鞘の損傷や破壊の原因となります。髄鞘が自然に修復して再生できれば、神経機能は正常に戻ります。しかし、髄鞘にひどい損傷が起きると、その中にある神経線維まで壊死してしまうことがあります。 

中枢神経系(脳と脊髄)の神経線維が再生することはほとんどないので、そうした損傷は元に戻りません。

脱髄が主に中枢神経系で起きる病気もあれば、主に体の一部の神経だけで起きる病気もあります。中枢神経系に脱髄を引き起こす病気のうち、原因不明なものは、原発性脱髄疾患と呼ばれます。

最も多くみられる原発性脱髄疾患が多発性硬化症です。

 

 

多発性硬化症MS

 私達の神経活動は、神経細胞から出る細い電線のような神経の線を伝わる電気活動によってすべて行われている。家庭の電線がショートしないようにビニールのカバーからなる絶縁体によって被われているように、神経の線も髄鞘(ずいしょう)というもので被われているが、この髄鞘が壊れて中の電線がむき出しになる病気が脱髄疾患である。この脱髄が斑状にあちこちにでき、病気が再発を繰り返すのが多発性硬化症(MS: multiple sclerosis)である。

 

「多発性硬化症」という病名は、神経を包む組織(髄鞘)が破壊されてできる瘢痕(硬化)が多数の領域で発生することに由来します。髄鞘が破壊される現象は脱髄と呼ばれます。

 

 MSの症状はどこに病変ができるかによって千差万別です。視神経が障害されると視力が低下したり、視野が欠けたりします。視神経のみが侵されるときは球後視神経炎といって、多くの患者さんは眼科にかかります。その一部の人が後にMSとなります。球後視神経炎のときは目を動かすと目の奥に痛みを感じることがあります。脳幹部が障害されると目を動かす神経が麻痺してものが二重に見えたり(複視)、目が揺れたり(眼振)、顔の感覚や運動が麻痺したり、ものが飲み込みにくくなったり、しゃべりにくくなったりします。小脳が障害されるとまっすぐ歩けなくなり、ちょうどお酒に酔った様な歩き方になったり、手がふるえたりします。大脳は大きいので少々の病変が起こっても症状を出さないことが多いようです。脊髄が障害されると胸や腹の帯状のしびれ、ぴりぴりした痛み、手足のしびれや運動麻痺、尿失禁、排尿障害などが起こります。

 

 環境因子としてはEBウイルスなどの感染因子、緯度や日照時間、ビタミンD、喫煙などが知られています。

 MSは若年成人に発病することが最も多く、平均発病年齢は30歳前後です。15歳以前の小児に発病することは稀ではありませんが、5歳以前には稀で、3歳以前には極めて稀です。また、60歳以上の方に発病することは稀で、70歳以降では極めて稀です。但し、若い頃MSに罹患していて、年をとってから再発をすることがあります。MSは女性に少し多く、男女比は1:2~3位です。

 

多発性硬化症の原因は不明ですが、若いうちにウイルス(おそらくヘルペスウイルスかレトロウイルス)または何らかの物質と接触し、それらが何かの理由で引き金になって免疫系が自分の組織を攻撃する(ものと考えられています。この自己免疫反応によって、炎症、ミエリンの破壊、髄鞘とその下の神経線維の損傷が起こります。

 

治療法  急性期には副腎皮質ホルモン(ステロイド)を使います。一般にソルメドロールという水溶性のステロイド剤を500mgないし1,000mgを2~3時間かけて点滴静注します。これを毎日1回、3日から5日間行い1クールとして様子を見ます。本療法をパルス療法と言います。まだ症状の改善が見られないときは数日おいて1~2クール追加したり、血液浄化療法を行うことがあります。ステロイドの長期連用には糖尿病や易感染性・胃十二指腸潰瘍や大腿骨頭壊死などの副作用が出現する危険性が増すため、パルス療法後に経口ステロイド薬を投与する場合でも(後療法と言います)、概ね2週間を超えないように投与計画がなされることが多くなっています。急性期が過ぎるとリハビリテーションを行います。対症療法として有痛性強直性痙攣に対しカルバマゼピンを、手足の突っ張り(痙縮)に対してはバクロフェンなどの抗痙縮剤、排尿障害に対しては抗コリン薬など適切な薬剤を服用します。

 MSの再発予防には、我が国ではインターフェロンβ-1b(ベタフェロン)とインターフェロンβ-1a(アボネックス)の注射薬が認可されています。また、2011年9月、フィンゴリモド(イムセラ/ジレニア)内服薬が承認されました。活動性の高い患者さんに対して使用される、モノクロール抗体点滴静注製剤ナタリズマブ(タイサブリ)は、2014年3月に製造販売が承認されました。一方、NMO病態を有する患者さんの再発予防には、インターフェロンβやフィンゴリモドは必ずしも有効ではないと考えられています。むしろ、経口ステロイド薬や免疫抑制薬の使用を優先した治療計画が推奨されています。

 

 通常型MSの多くは再発・寛解を繰り返しながら慢性に経過します。一部のMSでは最初からあるいは初期に再発・寛解を示した後、しだいに進行性の経過をとる場合があります(一次性および二次性進行型MS)。再発の回数は年に3~4回から数年に1回と人によって違います。再発を繰り返しながらも障害がほとんど残らない患者さんがおられる反面、何度か再発した後、時には最初の発病から寝たきりとなり、予後不良の経過をとる患者さんがおられますので、MSの診断がついたらなるべく早く再発予防のための治療薬を開始するよう勧められています。NMOの患者さんでは視力障害や脊髄障害の症状が比較的強く出る傾向があるとされています。

 

 

 多発性硬化症では、初期段階ではまだ多発性硬化症と病名がついていないため、初診日の特定が困難なケースが少なくない。  障害年金の制度では、病名が確定していなくても、自覚症状があり、医療機関を訪れた場合はそこが初診日と扱われる。あくまでも、多発性硬化症特有の症状で医師の診断を受けた日が初診日とされる。

 

 

 

脊髄小脳変性症

 脊髄小脳変性症は、歩行時のふらつきや、手の震え、ろれつ が回らない等を症状とする神経の病気です。動かすことは出来るのに、上手に動かすことが出来ないという症状です。

主に小脳という後頭部の下側にある脳の一部が病気になったときに現れる症状です。このような、運動が上手に出来ないという症状を総称して「運動失調症」と呼びますが、病気によっては病気の場所が脊髄にも広がることがあるので、脊髄小脳変性症と言います。

 

 主な症状は、起立や歩行がフラツク、手がうまく使えない、喋る時に口や舌がもつれるなどの症状です。脊髄小脳変性症では、これらの症状がたいへんゆっくりと進みます。

 

一般に痛みは伴いません。病気が進むと、一部では呼吸や血圧の調節など自律神経機能の障害や、末梢神経障害によるシビレ感などを伴うことがあります。病気が進んでも、コミュニケーションは十分に可能ですし、極端な認知症は伴いません。

 

 

脳脊髄液減少症(低脳脊髄液圧症)

 脳・脊髄周囲の脳脊髄腔には脳脊髄液が存在していますが、この脳脊髄液が持続的ないし断続的に漏出することによって減少し、頭痛、頸部痛、めまい、耳鳴り、倦怠感などの症状を訴える疾患です。

 

 脳脊髄腔をおおっている硬膜に亀裂などが生じ、脳脊髄腔から脳脊髄液が漏出することが原因となります。

 

症状の現れ方  頭痛、頸部痛、めまい、耳鳴り、視機能障害、倦怠感などの症状がみられますが、これらは起立位や座位により3時間以内に悪化します。横になっていると徐々に症状が軽快することが一般的です。

 

 脳脊髄液減少症(脳脊髄液漏出症)にて、肢体障害用の診断書の⑳「その他の精神・身体の障害の状態」欄に日中(起床から就寝まで)の臥位(臥床)(横になること)の時間を記載することに留意。

 

 

パーキンソン病

 「パーキンソン病」とは、振戦(ふるえ)、動作緩慢、筋強剛(筋固縮)、姿勢保持障害(転びやすいこと)を主な運動症状とする病気で、50歳以上で起こる病気です。

 時々は40歳以下で起こる方もあり、若年性パーキンソン病と呼んでいます。この病気の患者さんは10万人に100人~150人くらいです(1000人に1人~1.5人)。60歳以上では100人に約1人(10万人に1000人)で、高齢者では多くなりますので、人口の高齢化に伴い患者は増加しています。

 

原因  大脳の下にある中脳の黒質ドパミン神経細胞が減少して起こります。ドパミン神経が減ると体が動きにくくなり、ふるえが起こりやすくなります。ドパミン神経細胞が減少する理由はわかっていませんが、現在はドパミン神経細胞の中にαシヌクレインというタンパク質が凝集して蓄積し、ドパミン神経細胞が減少すると考えられています。

 

 

パーキンソン病では次のような症状が起きます。

 

振戦:

振戦は粗く、リズミカルです。手が静止状態にある時に、片方の手で起きるのが通常です(安静時振戦)。手が小さなものを丸めているように動くので、この振戦は「丸薬丸め振戦」と呼ばれます。振戦は手を意図的に動かしているときにはあまり起こらず、睡眠中はまったく起こりません。感情的なストレスや疲労があると振戦が悪化します。最終的には、もう一方の手、腕、脚にも振戦が起こるようになります。振戦はあご、舌、額、まぶたにも起こりますが、声には生じません。なかには、振戦がまったく起こらない人もいます。

 

こわばり(硬直):

筋肉が硬直して、動きが妨げられます。別の人がひじを曲げたり伸ばしたりすると、歯止めがかかっているようなこわばった動きに感じられます(歯車様硬直)。

 

動作の緩慢化:

動きが緩慢になり、動作の開始が困難になります。また、本人もあまり体を動かさなくなる傾向があります。このため、運動性が低下します。

 

バランスと姿勢の保持の困難:

姿勢が前かがみになります。また、バランス感覚を保てなくなり、前や後に倒れるようになります。動作が緩慢になるため、転びそうになってもさっと手をつくことができません。

歩行が困難になり、特に最初の一歩が踏み出せなくなります。歩き出しても、腕を振らずに腰のところで曲げたまま、小刻みに足を引きずるような歩き方になります。歩行中に止まったり向きを変えたりすることが難しくなる人もいます。病気が進行すると、足が地面にくっついたように感じて突然歩くのをやめてしまうこともあります(すくみ)。あるいは、意図しないのにしだいに早足になり、転倒を避けようとして、つまずくような走り方になることもあります。この症状は加速歩行と呼ばれます。

硬直と可動性の低下により、筋肉痛と疲労が生じます。また、手の小さな筋肉が障害されるため、シャツのボタンをかける、靴ひもを結ぶなどの日常動作が次第に困難になります。パーキンソン病の人の多くは、書く文字がふるえて、小さくなります(小字症)。これは、字の一画一画を書き始めたり続けたりすることが難しいためです。通常、感覚や筋力は正常に保たれます。

表情をコントロールする顔面筋が動かないので、顔の表情が乏しくなり(仮面様)、うつ病と間違われたり、逆にうつ病があるのに見過ごされたりすることがあります。(パーキンソン病の人にはうつ病が多くみられます)。最終的には、口を開けたままうつろなまなざしになり、まばたきの回数も減少します。顔とのどの筋肉が硬直すると嚥下(ものを飲み込むこと)が困難になるため、よだれが出たり、むせたりします。しばしば話し方が単調で小声になります。また、言葉を明瞭に発音できないため、どもりが生じることもあります。

 

パーキンソン病では、上記以外に以下のような症状もみられます。

排尿回数が増えたり、夜間に症状が悪化して寝返りが困難になったりするために、不眠症が多くみられます。レム睡眠行動障害もよくみられ、正常なレム睡眠では動かない手足が突然かつ乱暴に動いて、隣で寝ている人にけがをさせることがあります。睡眠不足は、抑うつや日中の眠気の原因となります。

排尿の開始と持続が難しくなります(排尿遅延)。

腸が内容物を送る動きがゆっくりになるので、便秘が起こることがあります。運動不足とパーキンソン病の主要な治療薬であるレボドパによって便秘が悪化することがあります。

立ち上がったときに急激で過度の血圧降下が起こることがあります(起立性低血圧)。

頭皮や顔にしばしば鱗屑(脂漏性皮膚炎)が起きます。他の部位で生じることもあります。

パーキンソン病がある人の約半数に認知症が現れます。多くの人で、知性は正常に保たれます。

 

治療法  治療の基本は薬物療法です。ドパミン神経細胞が減少するため少なくなったドパミンを補います。ドパミン自体を飲んでも脳へは移行しないため、ドパミン前駆物質のL-dopaを服用します。L-dopaは腸から吸収され血液脳関門を通って脳内へ移行し、ドパミン神経細胞に取り込まれてドパミンとなります。その後シナプス小胞にとりこまれ、運動調節のために放出されドパミン受容体に作用します。ドパミン受容体刺激薬はドパミン神経細胞を介さずに、直接ドパミン受容体に作用し、少なくなったドパミンを補う作用があります。ドパミン神経以外の作用薬には、アセチルコリン受容体に作用する抗コリン薬、グルタミン酸受容体に作用するアマンタジン、アデノシン受容体に作用するイストラデフィリン、シグマ受容体に作用するゾニサミドがあります。また、L-dopaの作用を強める代謝酵素阻害薬があります。L-dopaが腸、肝臓、血管内でドパミンに変わるのを防ぐドパ脱炭酸酵素阻害薬(DCI)(カルビドパ、ベンゼラジド)、同様にL-dopaが脳に入る前に分解されるのを防ぐカテコラミン-O-メチル基転移酵素阻害薬(COMT-I)(エンタカポン)、脳内でドパミンが分解されるのを防ぐモノアミン酸化酵素阻害薬(MAO-I)(セレギリン)があります。いずれもドパミンの作用を強めるように働きます。DCI,COMT-IはL-dopaとの合剤もあります。

 手術療法は脳内に電極を入れて視床下核を刺激する方法が最もよく行われます。視床下核は運動を抑制していると考えられ、ここを刺激して視床下核の機能を麻痺させると運動の抑制がとれて体が動きやすくなります。薬で治療しても振戦の強い方やウェアリングオフという、薬の効果が持続しない方で効果が期待されます。

 体を動かすことは体力を高め、パーキンソン病の治療になります。激しい運動ではなく、散歩やストレッチなど、毎日運動を続け体力を高めることは重要です。また、気持ちを明るく保つことも重要です。

 

 

パーキンソン病は中枢神経の疾患で「肢体の障害機能」で障害年金を請求することが出来ます。

 

 

シャイ・ドレーガー症候群

 

シャイ・ドレーガー症候群は、小脳にある自律神経を司る神経細胞が変性することにより生じるとされています。

最近の研究により、グリア細胞内に異常な封入体が生じることが原因であるだろうことが分かってきました。また、遺伝性のものと、遺伝性ではなく小脳だけが侵されるもの、小脳に加えその周辺部も侵される多系統萎縮症と呼ばれるものがあることも判明しています。

 

シャイ・ドレーガー症候群では、まず初期症状としてめまいや立ちくらみ(起立性低血圧)と、頻尿や尿失禁などの排尿障害が起こります。起立性低血圧の程度が重い場合、立った際に強い虚脱感を覚えて失神することも少なくありません。このほか、便秘や便失禁、発汗障害、いびき、睡眠時無呼吸症を生じることもあります。また、男性ではインポテンスなどの症状も見られます。症状が進むと、これらの自律神経障害に加え、パーキンソン症状や小脳障害が生じるようになります。

 

シャイ・ドレーガー症候群の検査には、CTやMRIといった画像検査が行われ、小脳と脳幹萎縮の収縮を確認します。加えて、自律神経検査が行われ、シャイ・ドレーガー症候群の診断をします。ただし、現れている症状が自律神経障害のみであり、パーキンソン症状や小脳障害が生じていない場合は、同様の自律神経症状を生じる純粋自律神経不全症や自律神経ニューロパチーなどの他の病気と鑑別するために、経過を慎重に観察する必要があります。

 

シャイ・ドレーガー症候群の発症予防や病気の進行を止める根治的治療法は、現在見つかっていません。そのため、起立性低血圧や排尿障害、パーキンソン症状など現れている症状に合わせた対症療法が主な治療法となります。これらの症状に対して適切な薬物治療を行えば、症状が軽くなるケースも少なくありません。また、薬物療法以外にも起立性低血圧による転倒や失神を予防するための生活指導、泌尿器専門医による排尿管理についての指導が行われることもあります。

 

 

 

 

 

多系統委縮症

 

多系統萎縮症は進行性で致死性の疾患で、筋肉が硬直(固縮)し、運動障害、協調運動の喪失、体内機能(血圧や膀胱の制御など)の障害などが起こります。

 

初期の症状はさまざまで、最初に脳のどの部分がどれだけ侵されたかによって異なります。

 

3つのタイプの症状が現れます。

 

パーキンソン症候群は、パーキンソン病に似た症状で、多系統萎縮症の初期に起こります。この症状は、基底核の変性によって生じます。筋肉は硬直(固縮)し、動きが遅く、ふるえるようになり、動作を開始することが困難になります。足を引きずり、腕を振らずに歩く歩行がみられます。不安定でバランスが崩れているように感じ、転倒しやすくなります。姿勢が前かがみになります。四肢を一定の位置に保つと、引きつったように震えます。しかし、多系統萎縮症では、パーキンソン病に比べると、安静時に振戦が起こることはあまりありません。言葉を明瞭に発音できず、声が甲高くなり、ふるえます。

 

協調運動の喪失も、初期に起こります。小脳の変性が原因です。腕と脚の動きをコントロールすることができません。そのため、歩くことが困難になり、歩幅が広くて不規則な歩き方になります。ものに手を伸ばしたとき、ものの向こう側に手が伸びてしまうことがあります。座っているとき、不安定に感じます。眼の焦点を合わせることや、ものを眼で追うことが困難になります。ドアの取っ手を回す、電球を回してはめるなど、素早く行ったり戻ったりする動きが必要な作業も困難になります。

 

自律神経系で制御されている体内機能の障害も多系統萎縮症の初期に起こります。立ち上がったときに血圧が急激に下がる起立性低血圧が起こって、めまい、頭のふらつき、失神が生じます。横になると血圧は上がります。急に尿意を催す、排尿回数が増える、あるいは無意識に排尿してしまう(尿失禁)、などもみられます。排尿自体が困難になることもあります(尿閉)。便秘もよくみられます。視力が低下します。男性では、勃起やその維持が困難になることがあります(勃起障害)。

 

上記以外にも次のような自律神経系障害の症状が起こります。

汗、涙、唾液の量が減少します。その結果、暑さに耐えることができなくなり、眼や口が乾燥します。ものを飲み込むことや息をすることが困難になり、呼吸時に大きな高い音が出るようになります。寝ている間に、呼吸が繰り返し止まったり、異常になったりします(睡眠時無呼吸症)。腸の動きのコントロールが失われます(便失禁)。

発症して5年以内に、車いすが常に必要になるか、そのほかの重度な障害が生じます。発症から9~10年後に死に至ります。

 

 多系統萎縮症という病気では、病型により程度は異なりますが、運動失調症が、その症状の中心になる場合があります。そこで多系統萎縮症の一部も脊髄小脳変性症とされます。

 

 

ハンチントン病

 

ハンチントン病(ハンチントン舞踏病)は遺伝性疾患で、初期には不随意の筋肉の引きつりや痙縮がときどき起き、進行すると顕著な不随意運動(舞踏病とアテトーシス)と精神機能の低下が現れ、死に至ります。

動作を滑らかにして協調させている脳領域に変性が生じます。

動作が遅くなって協調が失われ、自制や記憶などの精神機能が低下します。

診断は症状、家族歴、脳の画像検査、遺伝子検査に基づいて行われます。

薬剤によって症状を軽減できますが、この病気は進行性であり、最終的には死に至ります。

ハンチントン病の罹患率は1万人に1人未満で、男女差はありません。ハンチントン病の遺伝子は優性遺伝するため、この病気がある人の子供は50%の確率で発症します。この病気は通常、かすかな症状で始まります。発症年齢は一般に35~50歳ですが、成人前に発症することもあります。ハンチントン病の原因は、尾状核と線条体と呼ばれる基底核の小さな部位で徐々に起こる変性です。基底核は、動きを滑らかにし協調させている脳の領域です。

 

症状

初期のハンチントン病では、不随意の異常な動きを意図的な動作の中に組み込むことができるため、異常な動きはほとんど気づかれません。しかし時間とともに動きが顕著になります。操り人形のように、軽く弾むような、あるいは過剰にはつらつとした歩行がみられます。しかめ面をする、腕や脚が弾むように動く、まばたきが頻繁になる、などの症状も現れます。動作の協調が失われ、遅くなります。最終的には全身に影響が及び、歩く、静かに座っている、食べる、話す、服を着るなどの動作がきわめて困難になります。

多くの場合は、異常な動きの発症前かまたは発症と同時期に精神的な変化が生じますが、最初は目立ちません。徐々に苛立ちや興奮が生じやすくなります。日常生活への関心が失われることもあります。衝動を抑えられない、怒りっぽい、発作的に落胆する、分別がなくなる、などの症状もみられます。病気が進行すると行動が無責任になり、しばしば無目的な徘徊がみられます。数年経過すると、記憶が失われ合理的な思考ができなくなります。重度のうつが生じて自殺を試みることもあります。

病気が進行すると、重度の認知症が生じ、寝たきりになります。24時間の介助か介護施設への入所が必要になります。多くの人は発症してから13~15年後に亡くなります。死因の多くは、肺炎か冠動脈疾患です。

 

診断

初期のハンチントン病は、症状がわずかで気づかれにくいことがあります。症状と家族歴からハンチントン病が疑われます。近親者に、精神的な問題がある人や、神経疾患または精神疾患(パーキンソン病や統合失調症など)と診断された人がいる場合は、医師に伝えるべきです。これは、ハンチントン病でありながら、ハンチントン病と診断されていない可能性があるからです。CT検査やMRI検査を行って、この病気に特徴的な基底核の変性を調べるとともに、他の病気の可能性を否定します。

 

 

ハンチントン病の遺伝子検査

ハンチントン病の原因となる遺伝子の突然変異は、第4染色体にあります。DNA内の遺伝子コードの特定部分に特徴的な反復があります。

ハンチントン病の遺伝子は優性であるため、両親のどちらかから異常な遺伝子を一つ受け継ぐだけで、この病気が発症します。ハンチントン病の人のほとんどは、この異常遺伝子を一つだけもっています。このような人の子供が異常遺伝子を引き継いでハンチントン病になる確率は50%です。

自分の親か祖父母にハンチントン病がある人は、遺伝子検査を受ければ、この病気の遺伝子を受け継いでいるかどうかが分かります。検査では、血液のサンプルを採取して分析します。このような条件に当てはまる人には、自分が遺伝子を引き継いでいるかを知りたい人もいれば、知りたくない人もいます。この問題は、遺伝子検査を受ける前に、遺伝カウンセリングの専門家に相談すべきです。

 

診断を確定するために遺伝子検査が行われます。症状が現れる前に子供ができる可能性も高いので、ハンチントン病の家族歴があっても症状がない人にとって、遺伝子検査とカウンセリングを受けることは重要です。そのような人は、遺伝子検査を受ける前に遺伝カウンセリングを受けるべきです。複雑な倫理的・心理的問題に対処できる専門施設への紹介が行われます。

 

治療

ハンチントン病と診断されたら、できるだけ早く、終末期にどのような治療を望むかを記した事前指示書を作成しておくべきです。

ハンチントン病を治せる治療法はありません。しかし、鎮静薬のクロルプロマジン、抗精神病薬のハロペリドール、降圧薬のレセルピンなどの薬剤は、症状を軽減し行動をコントロールするのに役立ちます。

 

 

原発性側索硬化症

原発性側索硬化症は、大脳から脊髄に至る運動神経障害により下肢への支障が発生します。特に、下肢がつっぱり、歩行困難になります。階段の昇降時に自覚することが多いです。症状が悪化すると、上肢への障害も現れ、腕が動かしづらくなる、ロレツが回らなくなるなどの症状が現れます。稀に、四肢への障害が現れる前に、初期症状として、嚥下のしづらさや構音障害が先行することも有ります。その場合は、初期段階にて発見できます。

 

原発性側索硬化症に対する、根本治療方法は無く、対症療法が取られることが多いです。中枢性・末梢性の抗痙縮材がテスト的に使用されることがあります。また、上・下肢痙縮に対して、ボトックス治療やバクロフェン髄注療法などが行われる可能性も有ります。根本改善の見込めない疾患で、一生対症療法を続ける必要があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

骨壊死

骨壊死は、虚血性骨壊死、無菌性壊死、離断性骨軟骨症とも呼ばれ、血液供給が阻害されることにより骨の一部が壊死します。

特定の病気ではなく、骨が局所的壊死した状態です。

 

人工関節全置換術やその他のタイプの人工関節置換術(関節形成術)は、骨壊死により関節がかなり変形して変形性関節症を起こしている場合に、痛みを和らげ、運動能力を回復させる唯一の効果的な治療法です。股関節または膝関節の置換術を受けた約95%の患者が効果を得ています。現代の技術と機器により、ほとんどの人工関節は15~20年以上の耐久性があります。

 

治療

骨壊死による症状を治療するために、非外科的な手段がいくつかあります。抗炎症薬やその他の鎮痛薬を服用したり、運動や負荷(骨壊死のある股関節や膝関節への体重負荷など)を最小限にしたり、理学療法を受けたりすると、症状を和らげることができますが、壊死を治癒させたり、経過を変えたりすることはできません。しかし、これらの方法は肩関節、膝関節や、股関節の小さな領域の骨壊死の治療には適しており、それらは最終的に治療なしでも治癒することがあります。

骨壊死の進行を遅らせたり止めたりする手術法は、数多くあります。それらの方法は、早期でまだ骨の変形が進行していない場合に非常に効果があります。最も簡単で多く実施される手術法は中心部減圧術と呼ばれるもので、これは壊死を起こした骨の部分に穴を開ける方法です。中心部減圧術で痛みが軽減され、治癒が促されることがよくあります。この方法で、65%の患者について人工股関節全置換術の必要を遅らせるか避けることができます。

 

 

 

 

○大腿骨頭壊死

大腿骨(だいたいこつ)骨頭壊死は血流の低下により大腿骨が壊死する病気である。発病すると股関節に激しい痛みが生じ、ひどいときには立ち上がることもできないほど行動が制限される。 

 

大腿骨頭壊死症も最初のうちは骨頭内部に壊死が発生するだけで、このまま治癒してしまうケースやほとんど進行しないままのケースもかなりあるそうです。しかし、進行した場合は骨頭に陥没ができて軟骨部分がせまくなり、ぎざぎざになった部分が当るので臼蓋(きゅうがい、関節の腰骨側)にも破壊が進み、変形性股関節症へと進みます。この陥没など骨頭の変形が見られるものが「大腿骨頭壊死症」と診断されます。

 

大腿骨骨頭壊死となった原因の中で、ステロイド大量投与によるもの、アルコールを大量摂取したことが原因となって発症することが多くある。

ステロイド剤の服用については、使用開始後半年から5年以内、特に1年から2年の間が発症の可能性が高い。ステロイド性の大腿骨頭壊死症の特徴としては両側に出やすい、壊死部分が広くて急速に進行することも多い、多発性骨壊死が多いことなどがある。多発性とは、骨壊死が大腿骨頭だけでなく膝や肩の関節にも発生するものをいう。

 

アルコールを大量摂取したことが原因の場合、股関節あたりに痛みを感じ、それにより初めて医師の診察を受けた日が初診日となる。

全身性エリテマトーデスや膠原病の治療過程において、ステロイド大量投与の副作用により大腿骨骨頭部無腐蝕性壊死に至ったとき、ステロイド投与されるようになった日を「相当因果関係あり」として初診日とする。痛みを感じて初めて医師の診療を受けた日を初診日とするわけではない。

 

大腿骨頭壊死により人工骨頭を挿入置換した場合3級とする。

 

 立つ、歩くなどの動作が著しく制限されるものについては、各々の状態に応じた障害等級となります。

 


○糖尿病性壊疽

 糖尿病性壊疽とは、身体の末端の血行や神経に障害が生じ、小さな傷が治らずに潰瘍化してしまうものをいう。重度の糖尿病の合併症として知られている。

小さな傷が治らず壊疽に至るのは、糖尿病が血管の動脈硬化を進行させてしまい、血管が詰まって血液の循環がなくなっているからである。血管が詰まってそこから先に新鮮な血液が末端に届けられないために傷が治らず、傷が感染を起こし潰瘍化してしまう。

 

 壊疽は悪化した潰瘍の末期症状。壊疽に至ってしまうと、生命を救うためにその手前で切断手術を行うしかありません。日本では下肢の切断に至る患者さんが年間1万人を越えています。  たとえ足切断手術に成功しても、予後はけっしてよくありません。術後30日以内で患者さんが亡くなってしまう割合は、ヒザ下での切断で5~8%、膝上での切断で8~12%にも達しています。10人に1人前後の患者が術後1ヵ月以内に亡くなっているのです。  このように死亡率が高いのは、糖尿病性壊疽を起こす患者さんの全身状態が悪く、感染も起こしやすく、傷の治りも悪いという悪条件が重なるからでもあります。

 

 足の場合、ヒザ上の血管が詰まることを「閉塞性動脈硬化症」、ヒザ下の血管が詰まることを「重症虚血性肢疾患」と呼んでいます。  病気の原因としては、糖尿病のほかに、「慢性腎不全透析医療を長く受けていること」や、70代以上の高齢者の場合、動脈硬化などによる老化があります。

 

 糖尿病と糖尿病性壊疽は相当因果関係「あり」とされる。

 

 

 

 末梢神経には、「知覚神経」「運動神経」の2種類がある。

「知覚神経」が侵されると疼痛など痛覚、鈍麻、焼失が発生する。「運動神経」が侵されると、その支配部に麻痺が発生し、あるいは運動が制限される。したがって、「運動神経」の障害では、その支配部位によって上下肢等の障害として請求するので、神経障害として請求するのは「知覚神経」の障害ということになる。

 

 

疼痛としては原則として障害認定の対象とならない。

痛みのため仕事ができなくなったり、歩けなかったり、眠れなかったりと、日常生活にも支障が出るようになる。疼痛発作の頻度、強さ、持続時間、疼痛の原因となる他覚的所見等により、次のように取り扱われる。  ア 軽易な労働以外の労働に常に支障がある程度のものは、3級と認定する。  イ 一般的な労働能力は残存しているが、疼痛により時には労働に従事することができなく

  なり、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるものは、障害手当金に該当するものと認定する。

 

 

痛みには、神経障害性疼痛、侵害性疼痛(手術の後の痛みや癌の痛みなど)、心因性疼痛など、いくつかの種類があります。

 

神経障害性疼痛

神経障害性疼痛は、神経、脊髄、または脳の損傷や機能障害によって起こる痛みです。

神経障害性疼痛では、ヒリヒリまたはチクチクする感覚や、接触や冷温に対する神経過敏が生じます。原因には、神経の圧迫(たとえば腫瘍、椎間板の破損、手根管症候群などによる圧迫)、神経の損傷(たとえば糖尿病などの代謝性疾患による損傷)、脳や脊髄による痛みの信号処理の異常または混乱などがあります。幻肢痛、帯状疱疹後神経痛、複雑性局所疼痛症候群では、痛みの信号処理に異常が生じています。

 

 

 

 痛風とは、高尿酸血症といって、血液中の尿酸値が7.0mg/dℓ以上の状態が長く続いて、関節炎などを生ずる病気です。

 

痛風の治療は痛風関節炎の治療と、その背景にある高尿酸血症の治療の2つに大別されます。前者は急性あるいは慢性の炎症を消退させることが目的であり、後者に対しては、生活習慣

改善や尿酸降下薬による薬物治療が行われます。高尿酸血症の治療により痛風関節炎の頻発・慢性化、あるいは高尿酸血症に伴う臓器障害(尿路結石、痛風腎)を予防することができます。

 

痛風は、その病気単体では障害の認定要件に該当しないとされています。

ただし、痛風の場合は多くの合併症を引き起こす可能性がある事から、内部疾患による先述の臓器などの障害を引き起こす事があります。

痛風が引き金となり、合併症を起こし、それが障害認定の要件を満たす事で障害年金の受給要件となる場合があります。
線維筋痛症

線維筋痛症は全身的慢性疼痛疾患である。原因不明で、あらゆる検査でもほとんど異常が認められないにも関わらず、全身の強い痛み(疼痛)やこわばりを主症状とし、精神神経症状(睡眠障害やうつ病など)、自律神経の症状(過敏性腸症候群)など様々な症状が生じる疾患である。

 

 随伴症状として、こわばり感、倦怠感、疲労感、睡眠障害、抑うつ、自律神経失調、頭痛、過敏性腸炎、微熱、ドライアイ、記憶障害、集中力欠如、レストレスレッグス症候群などが伴う事もあり、症状は個人差があります。リウマチや他の膠原病を併発している場合もあります。

 痛みによって不眠となりストレスが溜まり、それがまた痛みを増強させる場合もあると考えられています。

 

病因  原因はまだ未解明ですが、中枢神経の異常によって痛みの回路が変わり痛みを増幅させているのではないかと考えられているようです。 また、肉体的・精神的ストレスや事故、手術等が引き金となって発症するのではないかとも言われています。

 

治療薬    2012年6月22日にプレガバリン(リリカ)が「線維筋痛症に伴う疼痛」に対して保険適応の承認を取得しました。適切に使用すると症状を軽減する可能性がありますが、副作用として眠気、ふらつきが出る場合がありますので注意が必要です。日本では初の線維筋痛症の薬です。

他にも、リウマチ薬を含む膠原病の薬、向精神薬、神経の薬などの組み合わせが効くこともあります。食道、胃が痛い人や、睡眠がとれなかったり、口や目が乾いたり、手足や指先がしびれたり、沢山の不定愁訴がでることがあり、その場合、それぞれの症状に合わせて投薬されます。

 

適切に治療すると軽快します。通常、最も有用な対策としては、以下のようなものがあります。

ストレスの軽減

痛みのある筋肉の軽いストレッチ(筋肉を伸ばしたままその姿勢を約30秒間保持し、それを5回繰り返す)

体調を改善する運動(有酸素運動)を行い、(たとえばトレッドミル、エクササイズバイク、エリプティカルマシン[ペダルを踏んでウオーキングやジョギングをする装置]を使用するか、水泳などにより)徐々に運動の強度を上げる

患部を温めたり軽いマッサージをする

体を温かく保つ

十分な睡眠を取る

 

睡眠の改善が不可欠です。たとえば、夜はカフェインやその他の刺激物の摂取を避け、静かな暗い部屋で快適な寝具を使用して眠るようにします。

低用量の三環系抗うつ薬を処方することがあります。これらの薬は、就寝の1~2時間前に服用しますが、うつ状態の改善のためというよりも睡眠の質を改善するために使用します。それらには、トラゾドン、アミトリプチリン、ノルトリプチリンなどがあります。シクロベンザプリン(筋弛緩薬)も睡眠の改善に役立ちます。これらの薬は通常、鎮静剤よりも安全で、鎮静剤のほとんどは習慣性になる可能性があります。ただし、三環系抗うつ薬とシクロベンザプリンは、特に高齢者には、嗜眠や口渇などの副作用を引き起こすことがあります。

 

 

 線維筋痛症と診断された日や診断された病院に初めてかかった日が初診日とは限らない。身体に痛みがあり、初めて病院に行ったのが近所の内科や整形外科であれば、その日が初診日となる可能性が大きい。

 

 線維筋痛症では、「肢体の障害用の診断書」に加えて「照会様式」という書類を医師に記入をお願いして、診断書と併せて提出することになっています。理由としては、これらの病気は「確立された医学的知見が存在しない状況にあり、具体的な認定基準等も定められていないため」です。診断書ではその状態について判断が難しいということです。

これも医師に作成してもらいます。

 

 

痛み(疼痛)

 

痛み(疼痛)とは、体に損傷が起きたこと、あるいは起きた可能性があることを知らせる不快な感覚のことです。

 

人が医療機関を受診する理由として最も多いのが痛みです。痛みには、鋭い痛みか鈍い痛みか、断続的か持続的か、脈打つような痛みか一定した痛みか、などの種類があります。ときには、非常に説明しにくい痛みもあります。痛みは1カ所に限定して感じられることもあれば、広い範囲で感じられることもあります。痛みの強さは、軽いものから耐えがたいものまでさまざまです。

痛みをどの程度耐えられるかには、大きな個人差があります。小さな切り傷や打撲傷の痛みでも耐えられない人もいれば、大きな事故や刃物による傷による痛みがあってもほとんど不平を言わず耐える人もいます。痛みをどの程度耐えられるかは、気分、性格、状況などによって異なります。たとえばスポーツ選手は、試合で興奮しているときはひどい打撲傷を負っても気づかず、試合後(特に負けたとき)に痛みをはっきり感じることがあります。

 

 

高齢者でも痛みは多くみられますが、年を取ると痛みの訴えは少なくなります。その理由としては、痛みに対する体の感じ方が低下する、痛みに対して我慢強くなる、などが考えられます。高齢者の中には、痛みは避けられない加齢現象であると誤解して、痛みを軽視したり訴えなかったりする人もいます。

痛みの原因として最も多いのは筋骨格系の病気です。しかし、高齢者には慢性の痛みを抱えている人も多く、その原因は多岐にわたります。

以下のような理由から、高齢者では痛みによる影響がより深刻になることがあります。

慢性の痛みがあると、さまざまな活動が行いにくくなり、他者への依存度が高まります。

眠れなくなり、疲弊してしまうことがあります。

食欲が落ちて、低栄養になることがあります。

 

痛みのために、他者との交流や外出がおっくうになることがあります。その結果、孤立し、うつ病になることもあります。

痛みがあると、活動量が少なくなる可能性があります。活動量が低下すると、筋力や体の柔軟性が失われて、活動がますます難しくなり、転倒のリスクも高まります。

高齢者は、若い人より痛み止め(鎮痛薬)による副作用が起こりやすく、しかも一部の副作用は重症化しやすい傾向があります。高齢者では、鎮痛薬が体内にとどまる時間が長くなったり、鎮痛薬への感受性が高かったりします。複数の薬剤を飲んでいる高齢者も多いため、そのどれかが、鎮痛薬と相互作用する可能性が高くなります。結果として、薬剤の効果が低下したり、副作用のリスクが高まったりします。

 

高齢者では、鎮痛薬の副作用リスクが増える病気にかかっている可能性が高くなります。心臓や血管の病気(心血管系疾患)、あるいはこれらの病気の危険因子を抱えていると、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を服用したときに、心臓発作、脳卒中、脚の血栓、心不全を起こすリスクが高くなります。腎障害、心不全、または肝障害があると、非ステロイド性抗炎症薬による腎臓の損傷が起きやすくなり、また、非ステロイド性抗炎症薬が引き起こす体液貯留に対する調節能力が低下します。

 

副作用のリスクを下げるため、高齢者ではまず少ない量で投与を開始します(オピオイド系薬剤の処方では特に注意が払われます)。必要に応じて徐々に用量を増やし、効果を観察します。また、高齢者で副作用が起こりにくい鎮痛薬が選択されます。たとえば、軽度から中等度の慢性の痛みで炎症がない場合は、通常、非ステロイド性抗炎症薬よりアセトアミノフェンが選択されます。一部の非ステロイド性抗炎症薬(インドメタシンとケトロラク[ketorolac])とオピオイド系薬剤(ペンタゾシンなど)は、副作用のリスクが高いので、通常は高齢者には投与されません。

薬剤を使用しない治療や、介護者や家族のサポートによって、高齢者が痛みに対処でき、鎮痛薬の必要性が減ることもあります。

 

 

痛み(疼痛)とは、体に損傷が起きたこと、あるいは起きた可能性があることを知らせる不快な感覚のことです。

人が医療機関を受診する理由として最も多いのが痛みです。痛みには、鋭い痛みか鈍い痛みか、断続的か持続的か、脈打つような痛みか一定した痛みか、などの種類があります。ときには、非常に説明しにくい痛みもあります。痛みは1カ所に限定して感じられることもあれば、広い範囲で感じられることもあります。痛みの強さは、軽いものから耐えがたいものまでさまざまです。

痛みをどの程度耐えられるかには、大きな個人差があります。小さな切り傷や打撲傷の痛みでも耐えられない人もいれば、大きな事故や刃物による傷による痛みがあってもほとんど不平を言わず耐える人もいます。痛みをどの程度耐えられるかは、気分、性格、状況などによって異なります。たとえばスポーツ選手は、試合で興奮しているときはひどい打撲傷を負っても気づかず、試合後(特に負けたとき)に痛みをはっきり感じることがあります。

 

 

急性の痛みと慢性の痛み:

痛みには急性の痛みと慢性の痛みとがあります。急性の痛みは突然起こり、通常長くは続きません。慢性の痛みは数週間から数カ月続きます。以下のいずれかに当てはまるときは、通常、慢性の痛みとみなされます。

病気やけがの状態から予想されるより1カ月以上長く続く

数カ月から数年にわたって痛みが再発したり消えたりする

慢性疾患(癌、関節炎、糖尿病、線維筋痛症など)または治らないけがに伴って起きている

急性の強い痛みがあると、不安、心拍数や呼吸数の増加、血圧の上昇、発汗、瞳孔の散大などが起こります。通常、慢性の痛みはこのような影響を及ぼしませんが、代わりに、抑うつ、睡眠障害、エネルギーの減少、食欲減退、体重減少、性欲の減退、活動意欲の喪失といった問題を起こすことがあります。

慢性の痛みで治療を受けている人の多くが、短時間の強い(非常に強いことも多い)痛みを経験します。この痛みは、定期的な痛みの治療を行っているにもかかわらず突然出現するもので、突出痛と呼ばれます。典型的な突出痛は、突然始まり、長い場合で1時間ほど続きます。痛みの感じは、痛みが強いことを除けば、もともとの慢性痛とよく似ています。突出痛には個人差があり、多くの場合は予測不能です。

慢性の痛みによって、痛みに対する神経系の感受性が高くなることがあります。たとえば慢性の痛みは、痛みの信号を検出し、送り、受け取る神経線維と神経細胞を繰り返し刺激します。刺激が繰り返されると、神経線維と神経細胞の構造が変わったり、活動性が高まったりすることがあり、そのために、脊髄や脳への痛みの伝達が増えることがあります。その結果、通常なら痛くない刺激でも痛みが生じるか、あるいは痛みの刺激がより強く感じられることがあります。

痛みが繰り返し起きると、恐怖と不安が生じて、痛みを予期するようになることがあります。こうした感情が体を刺激すると、痛みをより強く感じる物質が作られます。その一例がプロ

スタグランジンで、この物質が作用すると、神経細胞は痛みの信号に反応しやすくなります。恐怖と不安は、痛みに対する神経細胞の感受性を下げる物質の産生を低下させることもあります。その一例は、体がもともと持っている痛み止め物質、エンドルフィンです。疲労も、痛みに対して恐怖や不安と同じ影響を及ぼすことがあります。

原因が解消した後も痛みが続いたり、痛みが予想以上に強く感じられたりすることがあるのは、痛みに対する感受性がこのように変化することも理由のひとつです。

 

 

痛みの伝達経路:

けがによる痛みはまず、全身に分布している痛みの受容体で感知されます。この痛みの受容体は電気インパルスとして信号を発します。信号は神経に沿って脊髄へと伝わり、さらに脳へと送られます。信号が反射反応を引き起こす場合もあります。反射反応では、脊髄に届いた信号がそのまま運動神経に伝わり、痛みの発生場所まで送り返されます。こうして、脳を介さずに筋肉の収縮が起こります。うっかり熱い物に触れた人が即座に手を引っ込めるのはこの一例です。反射反応は、恒久的な傷害を防ぐのに役立っています。痛みの信号は脳へも送られます。脳が信号を処理し、それを痛みと解釈して初めて、私たちは痛みを意識します。

痛みの受容体とその神経経路は体の各部分で異なっています。そのため痛みの感覚は、損傷の種類と場所によって異なります。たとえば、皮膚には痛みの受容体が非常にたくさん存在するため、損傷がどこで起きたか、損傷の原因が刃物の傷のように鋭利なものか、それとも圧迫、熱さ、冷たさのように鈍いものか、といった精密な情報を伝えることができます。これに対して、腸などの内臓にある痛みの受容体は数が限られているため、情報の精度は低くなります。腸を強く挟んだり、切ったり、焼いたりしても、痛みの信号が生じないことがあります。しかし、腸が引っぱられたり圧迫されたりすると、ガスが貯まったというような比較的害が少ないことでも、強い腹痛が起こることがあります。脳は、何がもとで腸の痛みが起きているのか正確に識別できません。そのため腸の痛みは位置を特定することが難しく、広い範囲で感じられることが多いのです。

 

 

体のある場所で感じられた痛みは、必ずしもその場所に問題があることを意味しません。痛みは、本来の場所とは別の場所で感じられることがあるからです。たとえば心臓発作による痛みは、腕から来ているように感じられることがあります。これは心臓と腕からの感覚情報が、脊髄の同じ神経経路に集まるからです。

 

 

痛みを感じた場所が、問題のある場所と正確には一致しない場合もあります。痛みは、本来の場所とは別の場所で感じられることがあるからです。関連痛が生じるのは、体のいくつかの場所からの信号が、脊髄と脳の同じ神経経路を通っていることが多いからです。たとえば心臓発作の痛みは首、あご、腕、または腹部の痛みとして感じられることがあります。胆嚢発作の痛みは肩の後ろで感じられることがあります。

 

 

 

痛みには、神経障害性疼痛、侵害性疼痛(手術の後の痛みや癌の痛みなど)、心因性疼痛など、いくつかの種類があります。

 

神経障害性疼痛

神経障害性疼痛は、神経、脊髄、または脳の損傷や機能障害によって起こる痛みです。

神経障害性疼痛では、ヒリヒリまたはチクチクする感覚や、接触や冷温に対する神経過敏が生じます。原因には、神経の圧迫(たとえば腫瘍、椎間板の破損、手根管症候群などによる圧迫)、神経の損傷(たとえば糖尿病などの代謝性疾患による損傷)、脳や脊髄による痛みの信号処理の異常または混乱などがあります。幻肢痛、帯状疱疹後神経痛、複雑性局所疼痛症候群では、痛みの信号処理に異常が生じています。

 

幻肢痛:

体の一部(通常は腕か脚)が切断されたにもかかわらず、その部分に痛みがあるように感じられる状態です。幻肢痛は幻肢感とは異なります。幻肢感は切断した部分がまだ残っているかのように感じるもので、幻肢痛よりはるかに多くみられます。幻肢痛は、切断した腕や脚に原因があるわけではなく、切断部より上流の神経系に何らかの変化が生じることで起こります。しかし脳は、この神経信号を、切断された腕や脚から来たものと誤って解釈してしまうのです。通常は、切断された脚のつま先や足首や足か、切断された腕の指や手に痛みがあるように感じられます。痛みの感じは、締めつけられるよう、焼けるよう、あるいは、つぶされるような感覚の場合もありますが、多くの場合は、それまでに経験したどのような感覚とも異なります。幻肢痛は、時間の経過とともに発症頻度が少なくなる場合もありますが、人によっては長く続くこともあります。マッサージが役立つ場合もありますが、ときに薬剤治療が必要となります。

 

帯状疱疹後神経痛:

原因は、神経組織の炎症を引き起こす病気である帯状疱疹です。ただし、帯状疱疹後神経痛は、帯状疱疹が治った後にしか起こりません。帯状疱疹後神経痛が起こる理由は解明されていません。痛みは、絶え間なくうずくかまたは焼けるような痛み、鋭く断続的な痛み、あるいは、接触や冷温に対する神経過敏として感じられます。痛みのために衰弱することもあります。鎮痛薬やその他の薬剤を要する場合もありますが、常に有効といえるような治療法はありません。

 

複雑性局所疼痛症候群:

慢性の痛みが生じるこの症候群は、焼けるような痛みが持続し、かつ痛みと同じ部位にある種の異常を伴うものと定義されています。この異常としては、発汗の増加または減少、むくみ、皮膚の色の変化、皮膚の損傷、脱毛、爪の割れや肥厚、筋肉の疲労と筋力低下、骨量の減少などがあります。この症候群は、けがをした後に起こるのが典型的です。二つのタイプがあります。

1型は、反射性交感神経性ジストロフィーと呼ばれていたもので、神経組織以外の組織が受けた損傷によって起こります。たとえば、事故で骨が砕けた場合や、心臓発作により心臓組織が損傷を受けた場合などです。

2型は、カウザルギーと呼ばれていたもので、神経組織の損傷が原因で起こります。

複雑性局所疼痛症候群は、交感神経系の活動によって悪化することがあります。通常、交感神経は、ストレス状態や緊急事態に対して体を準備します(闘争・逃避反応)。このため、医師は交感神経ブロックによる治療を勧めることがあります。理学療法や薬剤が役立つこともあります。

 

侵害性疼痛

侵害性疼痛とは、体の組織の損傷によって起こる痛みのことです。

この損傷には、切り傷、打撲、骨折、挫滅創(ざめつそう)、熱傷など、組織が傷つくものがすべて含まれます。典型的には、うずくような痛み、鋭い痛み、またはズキズキする痛みとして感じられます。痛みの大多数は侵害性疼痛です。組織の損傷を感知する痛みの受容体(侵害受容体)は、そのほとんどが皮膚と内臓に分布しています。

手術後にほぼ必ず経験される痛みも侵害性疼痛です。痛みは持続的なこともあれば断続的なこともあります。多くの場合は、体を動かしたり、せきをしたり、笑ったり、深呼吸したときや、手術の傷口を覆った包帯を交換するときに、痛みが強くなります。

癌による痛みも、ほとんどが侵害性疼痛です。腫瘍が骨や臓器に広がる(浸潤する)と痛みが生じます。これは、軽い不快感の場合もあれば、耐えがたい激痛の場合もあります。手術や放射線療法など、一部の癌治療も、侵害性疼痛の原因となることがあります。通常は、オピオイド系薬剤も含めて、痛み止め(鎮痛薬)が有効です。

 

心因性疼痛

心因性疼痛とは、主として心理的な要因に関連して起こる痛みです。

持続性の痛みがある人で、心理的な支障を示す所見があり、かつ痛みやその強さを説明できるような疾患の所見がない場合に、心因性の痛みと説明されることがあります。しかし、この痛みは身体的な要因と心理的な要因の相互作用から起こるので、用語としては精神生理的疼痛のほうが的確です。心因性疼痛は神経障害性疼痛や侵害性疼痛と比べてはるかにまれです。

どのような痛みも心理的要因によって悪化することがあります。心理的要因は慢性の痛みに関与していることが多く、痛みに関連した身体障害に関与していることもあります。そのような場合は、普通、痛みもしくは身体障害、またはその両方に身体的な原因がありますが、心理的要因によって痛みが強調または増強されて、同じような身体疾患の人より痛みがひどくなります。たとえば慢性の痛みがある人は、痛みが再発することを知っているため、痛みを予期して恐怖や不安が生じることがあります。こうした感情があると痛みを感じやすくなります。心理的要因により悪化する慢性の痛みは、慢性疼痛症候群と呼ばれることもあります。

心理的要因で痛みが発生または悪化するからといって、痛みが現実でないということにはなりません。痛みを訴える人の大多数は、身体的な原因が特定されていなくても、実際に痛みを感じています。身体的な障害が痛みに関与していないか、医師は必ず調べます。

心理的要因を伴う痛みには治療が必要で、しばしば心理学者や精神科医も含めたチームによって治療が行われます。このタイプの痛みの治療は患者ごとに異なり、医師は個々の患者のニーズに合った治療法を探ります。慢性の心因性疼痛では、多くの場合、苦痛や不快感を軽減し、身体的および心理的な機能を改善することが治療の目標になります。医師は、身体的および社会的な活動を徐々に増やすことに特化したアドバイスをすることがあります。薬物療法、または薬剤以外の治療法としてバイオフィードバック法、リラクセーション訓練、注意転換法、催眠療法、経皮的電気神経刺激法(TENS)、理学療法などが用いられることがあります。多くの場合、心理カウンセリングも必要です。

 

 

三叉神経痛

 

三叉神経痛(疼痛性チック)は、第5脳神経(三叉神経)の機能不全により顔面に激しい痛みが生じる病気です。三叉神経は、顔面の感覚情報を脳に伝え、食べ物をかむときに使う筋肉を制御しています。

通常は原因を特定することができませんが、異常な位置にある動脈が三叉神経を圧迫するのが原因である場合があります。

顔の下半分に、刺すような短く激しい痛みが、繰り返し起こります(この痛みはしばしば稲妻に例えられます)。

診断は、特徴的な痛みに基づいて行われます。

特定の抗けいれん薬や抗うつ薬、バクロフェン、あるいは局所麻酔剤により痛みが軽減されることがありますが、手術が必要となることもあります。

三叉神経痛は、どの年齢層の成人にも起こりえますが、通常は中高年に発症し、女性に多く生じます。

ほとんどの症例で原因は不明です。よく知られている原因は動脈の位置の異常で、三叉神経を脳の出口付近で圧迫します。若い人に起こる三叉神経痛には、多発性硬化症による神経の損傷が原因のものがあります。三叉神経痛はまれに帯状疱疹(ウイルス感染症の一種)による神経の損傷や、腫瘍による神経の圧迫により起こることもあります。

 

症状

痛みは特に理由なく起こることもありますが、多くは、顔・唇・舌の特定の場所(トリガーポイント)に触れたときや、歯磨きまたは食べ物をかむなどの動作がきっかけとなって起こります。稲妻に例えられる、刺すような短く激しい痛みが、繰り返し起こります。顔の下半分のどこにでも起こりますが、最も多いのは鼻の横のほほとあごです。

普通は、顔の片側だけに症状が出ます。痛みは通常、数秒間ですが、最大で2分間ほど続くこともあります。1日に100回も発作が起きて、痛みのために何もできなくなることもあります。痛みが強くて顔をしかめることが多いため、疼痛性チックと呼ばれることもあります。一般にこの病気は自然に治まりますが、長期間痛みが起こらない休止期間の後に、しばしば再発します。

 

診断

三叉神経痛を特定できる特別な検査はありませんが、痛みが特徴的なため、医師には容易に診断がつきます。しかし、顔面に痛みを起こす別の原因である、あご、歯、副鼻腔の病気や三叉神経障害(腫瘍、脳卒中、動脈瘤、多発性硬化症によって三叉神経が圧迫されて起こる)などとの鑑別が必要です。三叉神経障害では顔面の各部で感覚が失われ筋力低下が起きますが、三叉神経痛ではそのような症状は起きないので、三叉神経障害と三叉神経痛を鑑別できます。

 

治療

痛みの持続時間が短く、かつ再発するため、通常、典型的な鎮痛薬は有用ではありませんが、一部の薬剤、特に抗けいれん薬(神経膜を安定させる作用がある)が役立つことがあります。通常は、抗けいれん薬のカルバマゼピンを最初に試します。カルバマゼピンが有効でない場合や、耐えがたい副作用が起きた場合は、同じく抗けいれん薬のガバペンチンまたはフェニトインが処方されることがあります。これらの代わりに、バクロフェン(筋肉のけいれんを軽減する薬剤)や三環系抗うつ薬(アミトリプチリンなど)が使用されることもあります。神経の中または周囲に局所麻酔剤を注射すると(神経ブロック)、一時的に痛みが軽減されます。

重度の痛みが続く場合は、手術が行われることがあります。動脈の位置の異常が原因である場合は、神経と動脈を分離し両者の間に小さなスポンジを埋めこむ手術が行われます。通常はこの手術(血管減圧術)により数年以上にわたって痛みを抑えることができます。原因が腫瘍であれば、腫瘍を切除する手術が行われます。

 

薬剤で痛みが緩和せず、手術のリスクが高すぎる場合は、他の治療法が有用かどうかを判定するための検査を行います。この検査では、神経組織にアルコールを注入して、一時的に機能を遮断します。アルコールの注入で痛みが緩和する場合は、その神経を破壊することで痛みを軽減できる可能性があり、ときに永久的な効果が得られる場合もあります。神経の破壊には、手術による切断、高周波プローブ(熱を利用します)、ガンマナイフ(放射線を利用します)などの方法が用いられ、グリセロールなどの薬剤を注入して神経を破壊することもあります。ただし、これらの治療法はあくまで最後の手段です。しばしば、痛みの緩和が得られるのは一時的で(数カ月から2~3年ほど)、その後はより重度の痛みが再発します。

 

 

 

 

 

 

痛風

 

痛風は血液中の尿酸値が上昇したために(高尿酸血症)、尿酸ナトリウムの結晶が関節に沈着する病気で、痛みのある関節炎の発作が起こります。

尿酸結晶が蓄積すると、関節や組織に激しい痛みや炎症が断続的に起こります。

医師は関節から関節液を採取し、尿酸結晶の有無を調べます。

炎症や痛みを軽減し、発作が起きるのを予防し、ときには尿酸の血中濃度を低下させるために、薬を投与します。

痛風は女性よりも男性に多く発症します。主に中年期の男性や閉経後の女性に発症します。青年期に発症するのはまれですが、30歳より前に発症した場合はしばしばより重症です。痛風は家族内に多く起こります。

 

痛風を発症する危険因子

ビールやアルコール飲料

乳製品の摂取量が少ない

一部の癌や血液疾患

一部の薬(サイアザイド系利尿薬、シクロスポリン、ピラジナミド、エタンブトール、ニコチン酸、高用量のアスピリンなど)

特定の食品(アンチョビ、アスパラガス、コンソメ、ニシン、グレービーソースやブイヨン、キノコ類、ムール貝、すべての内臓肉、イワシ、子牛や子羊の胸腺など)

甲状腺機能低下症

鉛中毒(密造ウイスキーによる)

肥満

放射線療法

慢性腎臓疾患

絶食や飢餓状態

 

過去の、タンパク質を十分に摂取できなかった時代には、タンパク質を過剰に摂取して発症したり、悪化したりする痛風は、裕福な人々の病気と考えられていました。

 

原因

尿酸は細胞中の核酸が分解されるときの副産物であり、体は常に細胞の分解と新しい細胞の形成を続けているので、正常な場合でも、少量の尿酸は血液中に存在します。また、体は食品に含まれるプリン体と呼ばれる物質を容易に尿酸に変換します。プリン体はタンパク質の一部です。プリン体を多く含む食品には、アンチョビ、アスパラガス、コンソメ、ニシン、グレービーソースやブイヨン、キノコ類、ムール貝、内臓肉、イワシ、子牛や子羊の胸腺などがあります。最もよくみられるのは、腎臓が尿酸を尿に充分に排泄できなくなり、血液中の尿酸値が異常に高くなる場合です。血液中の尿酸が過剰になると、尿酸結晶を形成し、関節に沈着します。加えて、プリン体を多く含む食品をアルコールと一緒に摂取すると、アルコールが尿酸の生成を促進するばかりでなく、尿酸を排泄する腎臓の働きを妨げるために事態が悪化します。

まれに、特定の基礎疾患が原因となって痛風になる場合があり、これを二次性痛風と呼びます。たとえば、酵素の遺伝性異常や、白血病のように、細胞が増殖し急速に破壊される病気によって、尿酸が大量に産生されることがあります。いくつかの腎臓疾患やある種の薬(サイアザイド系利尿薬など)は、腎臓の尿酸を排泄する能力を低下させるので、尿酸値が上昇します。

血液中の尿酸値が高いと、関節内の尿酸値も高くなります。この過程で、関節組織と関節内の体液(滑液)中に尿酸結晶が形成されます。痛風では足の関節を侵すことが最も多く、特に足の親指の付け根に多くみられます(足部痛風)。しかし、痛風は、足首、足の甲、膝、手首、ひじなどの関節も侵します。尿酸結晶は温かい部位より冷たい部位のほうが容易に形成されるので、痛風はこれらの冷たい部位に発症する傾向があります。痛風は、温かい体の中心部分の関節(たとえば、脊椎の関節、股関節、肩関節)に発症することはまれです。

 

症状

痛風の発作(急性痛風関節炎)は、予告なしに起こります。外傷、外科手術、アルコールやプリン体を多く含む食品の大量摂取、あるいは病気などが誘因となることがあります。一般的には、1つまたは複数の関節に突然激しい痛みを生じるのが典型的で、しばしば夜間に(おそらくは横になることで代謝に何らかの変化が生じるために)起こります。痛みは次第に激しくなり、特に関節を動かしたり、関節に触れると耐えがたい激痛を感じます。関節は炎症を起こし、腫れて熱をもち、その関節部の皮膚は赤または紫の色合いを帯び、硬くなり、光沢があるようにみられます。

痛風発作のその他の症状には、発熱(39℃近くまで上昇)、全身の病的感覚などがあります。最初の数回の発作は通常、1つの関節のみに起こり、数日間続きます。その後症状は徐々に消失し、関節の機能も回復し、次の発作が出現するまでは無症状です。しかし、治療が行われずに病気が進行すると、発作の時間が長くなり、頻度も増し、次第に複数の関節がおかされます。

発作が繰り返されると、痛風は重症化するとともに慢性化して、関節が変形することがあります。

時が経つにつれて、関節や腱に尿酸結晶が沈着することによる損傷のために、関節の動きが制限されていきます。尿酸結晶の硬いかたまり(痛風結節)は、最初に関節の内膜(滑膜)や軟骨、関節付近の骨に沈着し、そのうち関節周囲の皮下にも沈着していきます。痛風結節は腎臓やその他の器官、耳の皮下、ふくらはぎの筋肉からかかとに延びる丈夫な腱(アキレス腱)、ひじ関節の周囲にもできます。指、手、足によくみられます。治療しないと、痛風結節が破裂して、尿酸結晶から成る白色チョーク状の物質が皮膚を通して排出されることがあります。

痛風患者の約5分の1に、尿酸から成る腎臓結石(尿石症)が生じます。この結石が尿路をつまらせて激痛を起こすことがあり、治療しないと感染が起こり、腎臓が損傷します。痛風患者に、糖尿病や高血圧のような腎臓に損傷を与える別の病気があると、腎機能の低下が進み尿酸の排泄が低下し、痛風や関節の障害がいっそう悪化していきます。

 

診断

痛風は、その典型的な症状やおかされた関節の診察結果から診断されます。血液中の尿酸値が高いことは痛風の診断の裏づけとなりますが、特に急性発作(突然起こる激しい発作)が生じているとき、尿酸値が正常なことがよくあります。痛風結節のサンプルや針で吸引した関節液のサンプルを偏光顕微鏡で調べ、針状の尿酸結晶が確認されれば診断が確定します。X線像では関節の損傷や痛風結節の存在(尿酸結晶の痛風結節により、骨の位置がずれたり、嚢胞ができたりする)が示されます。多くの場合、痛風は別のタイプの関節炎と似ており、ときには誤診されることもあります。

 

治療

治療には次の3つの目標があります。

炎症の急性発作を軽減する

新たな発作の予防する

血液中の尿酸値を低下させ、尿酸の組織への新たな沈着を防ぐ

 

急性発作の軽減:

非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は、関節の痛みや腫れの軽減にしばしば効果的です。ときには、痛みを抑えるためにオキシコドンのような鎮痛剤がさらに必要です。炎症を起こしている関節は、装具(スプリント)で固定し、氷で冷やして痛みを軽減します。

コルヒチンは伝統的ですが、もはや最初の治療に広く使われる薬ではありません。通常はコルヒチンの投与から12時間後に関節の痛みが治まりはじめ、36~48時間以内に関節痛は消失します。普通は症状が緩和するまでコルヒチンの錠剤を1時間おきに服用します。コルヒチンは腹痛や下痢を起こすことがあります。ときには、骨髄に障害を与えるなどのより重大な副作用も起こります。

プレドニゾロンなどのコルチコステロイド薬は、ほかの薬に耐えられない患者の関節の炎症や腫れを抑えるのに役立ちます。おかされている関節が1つか2つだけなら、テブト酸プレドニゾロンなどのコルチコステロイド懸濁液を、関節液を採取するときに使用するのと同じ針を使って関節に注入します。

 

発作の予防:

アルコール飲料を避ける、体重を落とす、血液中の尿酸値を上昇させる薬の服用をやめる、プリン体を多く含む食品の摂取を少なくするなどが役立ちますが、これら全てが必要になることはまれです。初めて痛風を起こした人は、ほとんどが太りすぎです。徐々に体重を減らせば、血液中の尿酸値も正常またはそれに近い値まで回復し、痛風発作が起こらなくなります。

激しい痛風発作を繰り返し経験している人は、毎日の予防的な薬物療法が必要なことがあります。発作を予防したり、発作の頻度を大幅に抑えたりするためにコルヒチンを毎日服用することがあります。NSAIDを毎日服用しても発作を予防できます。ただし、発作は予防できても尿酸結晶は関節に存在したままなので、関節の損傷を防いだり、すでに受けた関節の損傷を治すことはできず、これらの薬は腎臓や肝臓に病気のある人には若干のリスクをもたらします。

血液中の尿酸値を低下させる: 血液中の尿酸値が高いとほとんどの人に問題を起こします。

特に血液中の尿酸値を下げる必要があるのは、以下のような人です。

コルヒチンやNSAIDを服用しても頻繁に重度の痛風発作が起こる

痛風結節がある

血液中の尿酸値が非常に高い

尿酸の腎臓結石がある

NSAIDやコルチコステロイドの服用がリスクとなる状態(たとえば、消化性潰瘍疾患や慢性腎疾患)

 

高血圧患者が自分の血圧を知るべきであるように、血液中の尿酸値を低下させる薬を服用している人は自分の尿酸値を知るべきです。薬物治療の目標は、尿酸値を正常より10~15%低く下げることです。

薬は、体内の尿酸の生成を減少させるか、尿酸の尿への排泄を増加させることによって、尿酸の血中濃度を低下させます。アロプリノールは、尿酸の血中濃度を低下させるのに最もよく用いられます。この薬は体内での尿酸の生成を阻害し、特に血中尿酸値が高く、尿酸結石がある人、または腎臓が損傷を受けている人に適しています。しかし、アロプリノールは、胃の不調、皮膚の発疹、白血球数の減少、肝障害、血管の炎症(血管炎)などを起こすことがあります。アロプリノールはまた、初めて服用するときに痛風発作を誘発することがあります。このリスクは低用量のコルヒチンまたはNSAIDで減らせるので、これらの薬の一つを通常は数カ月間併用します。

プロベネシドやスルフィンピラゾンのような、尿中に尿酸を排泄させる薬(尿酸排泄薬)は、(腎機能が正常な人の)尿酸の排泄を促進して血液中の尿酸値を下げるために使用します。アスピリンはプロベネシドやスルフィンピラゾンの作用を阻害するので、高用量のアスピリンをこれらの薬と同時に使うべきではありません。痛風患者の心臓病のリスクはかなり高いと考えられるので、心臓を守るために服用する低用量(1日81ミリグラム)のアスピリンは継続するべきです。

尿中への尿酸の排泄を促進する薬(尿酸排泄薬)は、血液中の尿酸濃度を低下させますが、尿の尿酸濃度を上昇させます。十分な量の水分(1日に少なくとも約3リットル)を摂取すると、尿路に尿酸結石ができるリスクを下げることができます。アセタゾラミドまたはクエン酸カリウムを飲んで尿をアルカリ性にすれば、尿酸の溶解度が高くなるので、尿路結石ができるリスクをさらに減らすことができます。しかし尿のアルカリ度が高くなり過ぎると、別の、より危険なシュウ酸カルシウムの結晶や結石が形成されることがあります。尿酸排泄薬による治療を開始したとき、痛風発作を起こすリスクがあります。数カ月は低用量コルヒチンかNSAIDを尿酸排泄薬と併用して、発作のリスクを減らします。

 

その他の治療:

血液中の尿酸値が十分に下がると、耳、手、足のほとんどの痛風結節が次第に小さくなります。しかしながら、非常に大きな痛風結節は、手術で切除しなければならないこともあります。

尿路の尿酸結石は、体外から結石に向けて超音波を発生させることにより細かく砕いて、尿とともに体外に流し出すことができます。

 

 

 

 

偽痛風

 

偽痛風(ピロリン酸カルシウム二水和物結晶沈着症)は、軟骨そして次には関節液中にピロリン酸カルシウム二水和物の結晶が沈着することによって生じる病気で、痛みのある関節の炎症の間欠的な発作を起こします。

結晶は関節に蓄積して、さまざまな程度の炎症や組織の損傷を起こします。

 

偽痛風の診断は、ピロリン酸カルシウムの結晶を関節液中に発見することによって確定されます。

 

非ステロイド性抗炎症薬の服用やコルチコステロイド薬の関節への注射により治療します。

偽痛風は通常高齢者にみられ、男女の差はありません。

 

原因

なぜピロリン酸カルシウム二水和物の結晶が一部の人の関節に沈着するかはわかっていません。この結晶の沈着は、副甲状腺ホルモン過剰(副甲状腺機能亢進症)のため血液中のカルシウム濃度が異常に高い人、組織内の鉄の濃度が異常に高い人(ヘモクロマトーシス)、血液中のマグネシウム濃度が異常に低い人(低マグネシウム血症)など、他の病気がある人に起こることがあります。しかし、偽痛風患者の大半にはこれらの状態のいずれもみられません。この病気は遺伝性の場合もあります。カルシウムの結晶は、変形性関節症におかされた関節に沈着することがよくあります。

 

症状

症状は非常にさまざまです。一部の患者では、痛みを伴う関節の炎症の発作は、普通は膝、手首、その他の比較的大きな関節に起こります。別の患者では、腕や脚の関節に長引く慢性の痛みやこわばりがあり、関節リウマチや変形性関節症と似ていることがあります。偽痛風の突然の痛みの(急性)発作は通常、痛風発作ほどひどくありませんが、痛風と同様に発熱することがあります。発作と発作の間は痛みを感じない人も、関節に大量の結晶が沈着しているにもかかわらず常に痛みがない人もいます。痛風とは異なり、偽痛風の患者では尿酸結晶の硬いかたまり(痛風結節)は生じません。

 

診断

医師は、炎症を起こしている関節の関節液を針で吸引(関節穿刺)して診断します。関節液には、ピロリン酸カルシウム二水和物結晶が認められます。この結晶は特別な偏光顕微鏡を用いて、尿酸結晶(痛風の原因)と識別することができます。ピロリン酸カルシウム結晶のかたまりは、尿酸結晶と異なりX線上で写ります。

 

予後(経過の見通し)と治療

炎症を起こした関節はしばしば問題を残すことなく治癒しますが、多くの患者は関節に永続的な損傷が残り、中には関節がひどく破壊されるために、シャルコー関節と混同されてしまうことがあります。

通常、治療により急性発作を止めて、次の発作を予防することが可能ですが、すでに損傷した関節への変化を元に戻すことはできません。ほとんどの場合、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)が痛みと炎症を軽減するために用いられます。コルヒチンは、発作の回数を減らすために、低用量を毎日、経口的に投与されることがあります。ときには、過剰な関節液を排出させ、コルチコステロイド懸濁液を関節に注射して炎症と痛みを軽減します。

特定の効果的な長期治療はありませんが、理学療法(筋力強化訓練や関節可動域訓練など)は関節機能を維持するために役立つでしょう。