精神

精神の障害

 

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

精神の障害であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの

2級

精神の障害であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの

3級

精神に、労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの

障害手当金

精神に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの

 

 

現実検討能力(現実・妄想の区別)や意識水準(意識の清明度・機能性)が障害される精神病は、その原因によって大きく以下の3つに分類することができる。

1 症状精神病

2 器質性精神病

3 中毒性精神病

 

1 症状精神病

別の身体疾患の発症・経過に伴って副次的に発症する精神病

原因となる身体疾患を基盤に持っている精神病である。  統合失調症 など

先に身体疾患の診断を内科・外科・神経科などで受けている人に、精神病症状が出てきた時には症状精神病である合理的な蓋然性が高くなる。

 

 

2 器質性精神病

脳の器質的障害(一次的な脳の病変部)が原因になっている慢性の精神疾患

脳炎・髄膜炎・梅毒などの炎症性疾患が器質性精神病の典型的な原因疾患。それ以外にも脳腫瘍・脳血管障害(脳卒中)・頭部外傷・変性疾患などによって器質性精神病が発症する。

 

急性期に『意識障害・通過症状群』の症状を見せて、慢性期には『人格変化・精神荒廃・認知症』に至ってしまうこともある。

 

 

3 中毒性精神病

 アルコール依存症や薬物中毒(薬物依存症)に伴い、それらの物質の副作用(中枢神経系の機能障害)によって発症する精神病

 

特徴は、神経毒性と依存性・耐性のある『中毒物質』を継続的に摂取することによって発症するということである。

中毒性精神病を引き起こす原因となる依存性物質としては、『一酸化炭素・二酸化硫黄・二硫化炭素・硫化水素・有機水銀・鉛・マンガン・ヒ素・タリウムなどの化学物質』、『アルコール・カフェイン・ニコチンなどの嗜好品に含まれる成分』などを考えることができる。

 


1 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害並びに気分(感情)障害

 

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

・統合失調症・・・

高度の残遺状態又は高度の病状があるため高度の人格変化、思考障害、その他もう想・幻覚等の異常体験が著明なため、常時の介護が必要なもの

 

・気分(感情)障害・・・

高度の気分、意欲行動の障害及び高度の思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり、ひんぱんに繰り返したりするため、常時の介護が必要なもの

2級

・統合失調症・・・

残遺状態又は病状があるため人格変化、思考障害、その他もう想・幻覚等の異常体験があるため、日常生活が著しい制限を受けるもの

 

・気分(感情)障害・・・

気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり、またはひんぱんに繰り返したりするため、日常生活が著しい制限を受けるもの

3級

・統合失調症・・・

残遺状態又は病状があり、人格変化の程度は著しくないが、思考障害、その他もう想・幻覚等の異常体験があり、労働が制限を受けるもの

 

・気分(感情)障害・・・

気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、その病状は著しくないが、これが持続したり、または繰り返し、労働が制限を受けるもの

障害手当金

 

 


統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害

 

(ICD-10コード F20-29)

 F20 統合失調症  F21 統合失調症型障害  F22 持続性妄想性障害   例 妄想性障害  F23 急性一過性精神病性障害  F24 感応性妄想性障害  F25 統合失調感情障害   例 躁病型  うつ病型  F28 その他の非器質性精神病性障害  F29 詳細不明の非器質性精神病

 

 

○統合失調症

 統合失調症は、思春期から成人期にかけて発病し、特徴的な思考障害・自我障害・およびそれに伴う行動異常を示し、多くは慢性的に経過し、自発性や対人接触が低下し、社会生活に困難を来す疾患である。

幻覚や妄想という症状が特徴的な精神疾患である。それに伴って、人々と交流しながら家庭や社会で生活を営む機能が障害を受け(生活の障害)、「感覚・思考・行動が病気のために歪んでいる」ことを自分で振り返って考えることが難しくなりやすい(病識の障害)という特徴を併せもっている。

 

 統合失調症の陽性症状(幻聴、幻覚、妄想解体した会話、緊張病性の行動 など)や陰性症状(感情の平板化、意欲の減退、自閉・引きこもり など)や認知機能障害や感情障害等により、日常生活能力がどれだけ低下しているかが判定の大きな部分を占める。

 

以前は「精神分裂病」が正式の病名でしたが、「統合失調症」へと名称変更された。

 

統合失調症の原因は、今のところ明らかではない。

例えば、高校や大学などの進学におけるストレス、就職活動やリストラなど就労に関するストレス、起業や開業などの独立するときに背負うストレス、あるいは結婚などに関する人生の重要な転機といった、ある種の大きな心理的負担や不安がきっかけとなることが多いといわれている。

ただ、それらは発症のきっかけではあっても、原因ではないと考えられています。 というのは、こうした人生の転機はほかの人には起こらないような特別な出来事ではなく、同じような経験をする大部分の人は発症に至らないからです。

 

脳内神経伝達物質のドーパミンが脳の一部で過剰に分泌されていることが発病に関連しているといわれている。

 

 統合失調症は、現在ではおよそ100人に1人がかかる頻度の高い病気です。発症する年代は、主に10歳代後半の思春期から青年期の30歳代にかけて多い病気で、ピークは10歳代後半から20歳代にかけて最も多く発症しています。中学生以下や40歳以降の発病は稀です。発症の頻度にそれほど男女差はありませんが、発症年齢では女性の方が男性よりもやや遅めです。発症のきっかけは、進学や就職、独立や結婚など、人生の進路が大きく変化するときに多くみられます。

 

症状経過

 

前駆期 主観的には、頭重感・倦怠感・易疲労・抑うつ気分・思考力・記憶力の低下・不眠など。客

観的には口数の減少・家への閉じこもり・周りに対する無関心など  ↓

初期・急性期 妄想気分にはじまり、妄想知覚・思考障害・幻覚・妄想・自我障害など特有の症状が出現。

病型によっては興奮と昏迷を繰り返す症状(緊張病症候群)が現れる場合有り。  ↓

慢性期 急性期の症状は多かれ少なかれ消退し、感情鈍麻・積極性の低下などが目立ち、対人接触や

外界との接触から引きこもり、社会活動の低下が見られる(欠陥状態)。さらに進行すると人格

の荒廃にいたる。

 

統合失調症の症状

 ここでは幻覚・妄想、生活の障害、病識の障害の3つにまとめてみます。

 

幻覚・妄想

 幻覚と妄想は、統合失調症の代表的な症状です。幻覚や妄想は統合失調症だけでなく、ほかのいろいろな精神疾患でも認められますが、統合失調症の幻覚や妄想には一定の特徴があります。幻覚と妄想をまとめて「陽性症状」と呼ぶことがあります。

 

幻覚

 幻覚とは、実際にはないものが感覚として感じられることです。 統合失調症で最も多いのは、聴覚についての幻覚、つまり誰もいないのに人の声が聞こえてくる、ほかの音に混じって声が聞こえてくるという幻聴(幻声)です。 「お前は馬鹿だ」などと本人を批判・批評する内容、「あっちへ行け」と命令する内容、「今トイレに入りました」と本人を監視しているような内容が代表的です。普通の声のように耳に聞こえて、実際の声と区別できない場合、直接頭の中に聞こえる感じで、声そのものよりも不思議と内容ばかりがピンとわかる場合などがあります。 周りの人からは、幻聴に聞きいってニヤニヤ笑ったり(空笑)、幻聴との対話でブツブツ言ったりする(独語)と見えるため奇妙だと思われ、その苦しさを理解してもらいにくいことがあります。

 

妄想

 妄想とは、明らかに誤った内容であるのに信じてしまい、周りが訂正しようとしても受け入れられない考えのことです。 「街ですれ違う人に紛れている敵が自分を襲おうとしている」(迫害妄想) 「近所の人の咳払いは自分への警告だ」(関係妄想) 「道路を歩くと皆がチラチラと自分を見る」(注察妄想) 「警察が自分を尾行している」(追跡妄想)などの内容が代表的で、これらを総称して被害妄想と呼びます。 時に「自分には世界を動かす力がある」といった誇大妄想を認める場合もあります。 妄想に近い症状として、 「考えていることが声となって聞こえてくる」(考想化声) 「自分の意思に反して誰かに考えや体を操られてしまう」(作為体験) 「自分の考えが世界中に知れわたっている」(考想伝播) のように、自分の考えや行動に関するものがあります。思考や行動について、自分が行っているという感覚が損なわれてしまうことが、こうした症状の背景にあると考えられることから、自我障害と総称します。

 

生活の障害

 統合失調症では、先に述べた幻覚・妄想とともに、生活に障害が現れることが特徴です。この障害は「日常生活や社会生活において適切な会話や行動や作業ができにくい」という形で認められます。陰性症状とも呼ばれますが、幻覚や妄想に比べて病気による症状とはわかりにくい症状です。患者本人も説明しにくい症状ですので、周囲から「社会性がない」「常識がない」「気配りに欠ける」「怠けている」などと誤解されるもととなることがあります。こうした日常生活や社会生活における障害は、次のように知・情・意それぞれの領域に分けて考えると理解しやすいでしょう。

 

会話や行動の障害

 会話や行動のまとまりが障害される症状です。日常生活では、話のピントがずれる、話題が飛ぶ、相手の話のポイントや考えがつかめない、作業のミスが多い、行動の能率が悪い、などの形で認められます。症状が極端に強くなると、会話や行動が滅裂に見えてしまうこともあります。こうした症状は、注意を適切に働かせながら会話や行動を目標に向けてまとめあげていく、という知的な働きの障害に由来すると考えられます。

 

感情の障害

 自分の感情についてと、他人の感情の理解についての、両者に障害が生じます。 自分の感情についての障害とは、感情の動きが少ない、物事に適切な感情がわきにくい、感情を適切に表せずに表情が乏しく硬い、それなのに不安や緊張が強く慣れにくい、などの症状です。また、他人の感情や表情についての理解が苦手になり、相手の気持ちに気づかなかったり、誤解したりすることが増えます。こうした感情の障害のために、対人関係において自分を理解してもらったり、相手と気持ちの交流をもったりすることが苦手となります。

 

意欲の障害

 物事を行うために必要な意欲が障害されます。仕事や勉強をしようとする意欲が出ずにゴロゴロばかりしてしまう(無為)、部屋が乱雑でも整理整頓する気になれない、入浴や洗面などの身辺の清潔にも構わない、という症状として認められます。さらにより基本的な意欲の障害として、他人と交流をもとうとする意欲、会話をしようとする意欲が乏しくなり、無口で閉じこもった生活となる場合もあります(自閉)。

 

病識の障害

 病識とは、自分自身が病気であること、あるいは幻覚や妄想のような症状が病気による症状であることに自分で気づくことができること、認識できることをいいます。統合失調症の場合には、この病識が障害されます。多くの場合、ふだんの調子とは異なること、神経が過敏になっていることは自覚できます。 しかし幻覚や妄想が活発な時期には、それが病気の症状であるといわれても、なかなかそうは思えません。 症状が強い場合には、自分が病気であることが認識できない場合もあります。

治療が進んで病状が改善すると、自分の症状について認識できる部分が増えていきます。ほかの患者さんの症状については、それが病気の症状であることを認識できますから、判断能力そのものの障害ではないことがわかります。自分自身を他人の立場から見直して、自分の誤りを正していくという機能の障害が背景にあると考えられます。

 

症状の分類

全体的にみて、統合失調症の症状は大きく4つに分類されます。

・陽性症状

・陰性症状

・解体症状

・認知障害

 

陽性症状:

 妄想 幻覚(幻聴・幻視など) まとまりのない会話 興奮 緊張病性の行動

 させられ体験

 

陽性症状の典型は、幻覚と妄想です。幻覚の中でも、周りの人には聞こえない声が聞こえる幻聴が多くみられます。陰性症状は、意欲の低下、感情鈍麻、感情の平板化、自閉などの諸症状です。

陽性症状は次のような症状がみられます。

妄想は誤った思いこみのことで、一般に知覚や体験を誤って解釈することで生じます。たとえば統合失調症では、いじめられている、後をつけられている、だまされている、見張られているなどの被害妄想が起こることがあります。関係妄想では、本、新聞、歌詞などの1節が特に自分に向けられていると思いこみます。人は自分の心が読める、自分の考えが人に伝わっている、外部の力によって考えや衝動が自分の中に吹き込まれているなどと思いこむ思考奪取や思考吹入という妄想もあります。

音、視覚、におい、味、感触の幻覚が起こることがあり、圧倒的に多いのは音の幻覚(幻聴)です。自分の行動に関して意見を述べたり、互いに会話したり、あるいは批判的で悪口を言う声が聞こえることがあります。

 

させられ体験(身体的影響体験)

自分の感覚が他からの力で強められたり弱められたりする。あるいは感じさせられる

こと。

「させられ体験」とはあらゆる心的な機能において、自分自身が主体的に行っているという意識(自我の能動意識)が消失して、自分が他者あるいは外部からの力によって操られていると感じる、病的で主観的な多岐にわたる症状である。

 

 

陰性症状:

 感情の平板化 思考の貧困 意欲の欠如 無為自閉 無関心

 

陰性症状では次のような症状がみられます。

感情鈍麻がみられ、感情が平板化します。顔の表情に動きがないようにみえます。人とほとんど、あるいは一切目を合わさず、感情表現が欠如します。本来なら笑う、あるいは泣くような状況でも、何の反応も示しません。

会話の乏しさがみられ、言葉数が少なくなります。質問に対する返答は1語か2語と短く、内面が空虚な印象を創ります。

快感消失がみられ、楽しいと感じる能力が低下します。以前は楽しんでやっていたことにほとんど興味を失い、無目的なことに時間を費やします。

社会性の喪失がみられ、他者とのかかわりに興味を失います。これらの陰性症状は、全般的な意欲喪失、目的意識の欠如、目標の喪失としばしば関連しています。

 

 

解体症状:

解体症状には、思考障害や奇異な行動がみられます。

思考障害とは思考が支離滅裂になることを意味し、話にとりとめがなく、話題が次々に変わります。話すことが多少混乱している程度の場合もあれば、完全に支離滅裂で理解できない場合もあります。

奇異な行動は、子供のようなばかげた行為、興奮、不適切な外見、不衛生、不適切な行動などの形で現れます。奇異な行動の極端な形をカタトニー(緊張病)といい、硬直した姿勢を崩さず、周囲の人が体を動かそうとすると強い抵抗を示したり、それとは対照的に目的なく誘因のない動作をしたりします

 

認知症状:

認知障害とは、集中力、記憶力、整理能力、計画能力、問題解決能力などに問題がある状態をいいます。集中力が欠如しているために、本が読めなかったり、映画やテレビ番組のストーリーが追えなかったり、指示通りにものごとができなかったりします。また、注意が散漫になり、1つのことに集中できない人もいます。その結果、細部まで注意が必要な仕事、複雑な作業、意思決定ができなくなります。

 

 

治療法

 

治療の場を決める  外来と入院

 病気が明らかになった場合、治療の場を外来で行うか入院で行うか決める必要があります。 治療の進歩により、以前と比較して外来で治療できることが増えてきました。外来か入院かを決める一律の基準があるわけではありません。 入院治療には、家庭の日常生活から離れてしまうという面があるものの、それが休養になって治療にプラスになる場合もあります。医療の側から見ると、病状を詳しく知ることができますし、検査や薬物治療の調整が行いやすいことが入院治療の利点です。これらのバランスを考えて、治療の場を決めます。 医療者としても、できれば外来で治療を進めたいのですが、入院を検討するのは次のような場合です。

 日常生活での苦痛が強いため、患者さん本人が入院しての休養を希望している。

 幻覚や妄想によって行動が影響されるため、通常の日常生活をおくることが困難。

 自分が病気であるとの認識に乏しいために、服薬や静養など治療に必要な最低限の約束を守れない。

 

薬物療法の位置づけ

 統合失調症の治療は、外来・入院いずれの場合でも、薬物療法と心理社会的な治療を組み合わせて行います。心理社会的な治療とは、精神療法やリハビリテーションなどを指します。薬物療法なしに行う心理社会的な治療には効果が乏しく、薬物療法と心理社会的な治療を組み合わせると相乗的な効果があることが明らかとなっています。

 「薬物療法か、心理社会的治療か」と二者択一で考えるのではなく、薬物療法と心理社会的治療は車の両輪のようにいずれも必要であることを理解しておくのが大切です。とくに、幻覚や妄想が強い急性期には、薬物療法をきちんと行うことが不可欠です。

 

抗精神病薬が有効な精神症状

 統合失調症の治療に用いられる薬物を「抗精神病薬」、あるいは「神経遮断薬」と呼びます。

抗精神病薬は、妄想、幻覚、支離滅裂な思考などの症状を軽減または消失するのに効果があります。急性の症状が治まった後、抗精神病薬を継続的に使用すると再発の可能性をかなりの割合で抑えることができます。しかしながら、抗精神病薬には、眠気、筋肉の硬直、振戦、体重増加、動作不穏などの重い副作用があります。また、唇や舌をすぼめる、腕や足をねじるなどの動作を特徴とする、遅発性ジスキネジアという不随意運動障害が生じるおそれもあります。遅発性ジスキネジアは薬を中止しても治らないことがあり、この副作用が長びく場合、効果的な治療法はありません。抗精神病薬の副作用で、まれではあっても命にかかわる可能性があるものに悪性症候群があります。悪性症候群は、筋肉の硬直、発熱、高血圧、精神機能の変化(錯乱、嗜眠など)などが特徴です。

第二世代抗精神病薬と呼ばれる新しい薬では、従来のものより副作用が少なくなっています。しかし、これらの薬はかなりの体重増加を引き起こすおそれがあります。また、メタボリックシンドロームを発症するリスクも大きくなります。メタボリックシンドロームでは、腹部に脂肪が蓄積し、中性脂肪(脂肪の一種)の血中濃度が増加し、高密度コレステロール(HDL、善玉コレステロール)が減少し、そして血圧が上昇します。さらに、インスリンの作用が低下(インスリン抵抗性)し、糖尿病を発症するリスクが増大します。これらの新しい薬は従来の抗精神病薬に比べて、陽性症状(幻覚など)、陰性症状(感情喪失など)、認知障害(精神機能の低下、注意持続時間の短縮など)をかなり広い範囲にわたって軽減しますが、中にはこれらの違いに疑問を呈する医師もいます。

クロザピンは、最初に開発された第二世代抗精神病薬であり、他の抗精神病薬が効かなかった患者の半数に効果があります。ただし、けいれん発作やときに死に至る骨髄活動(血球の生成など)の抑制といった、重篤な副作用を引き起こすことがあります。このような理由から、クロザピンは一般に、他の抗精神病薬が効かなかった患者に対してのみ使用します。服用に際しては、少なくとも最初の6カ月間は、白血球数を毎週測定しなければなりません。白血球数が減少している徴候が少しでもあれば、ただちにクロザピンを中止します。

 

抗精神病薬が作用するしくみ

抗精神病薬は、幻覚、妄想、支離滅裂な思考、攻撃性などの治療に最も有効とみられる薬です。抗精神病薬は統合失調症に対して処方されるのが最も一般的ですが、躁病、認知症、アンフェタミンなどの物質使用性障害など、統合失調症以外の疾患に起因する症状にも効果があるとみられています。

抗精神病薬は脳細胞の間の情報伝達機能に作用します。成人の脳は100億以上のニューロンと呼ばれる神経細胞で構成されています。脳内部の各ニューロンには軸索(アクソン)と呼ばれる1本の細長く伸びた線維があり、そこから別のニューロンに情報が伝達されます。巨大な電話交換装置内で互いに接続された無数の回線のように、それぞれのニューロンは他の数千ものニューロンと交信します。

情報は電気的な信号となって神経細胞の軸索を伝わります。信号が軸索の先端に達すると、神経伝達物質という化学物質が少量放出され、次の神経細胞に情報が伝達されます。情報を受ける側の細胞にある受容体がその神経伝達物質を感知すると、その細胞が新たな信号を生成します。

 

精神病性の症状は、神経伝達物質であるドパミンを感知する細胞が、活性化しすぎたために生じると考えられています。抗精神病薬はこの前提に基づき、こうした物質の受容体をブロックすることによって、神経細胞のグループ間の情報伝達を抑制する薬です。

さまざまなタイプの神経伝達物質をどの程度ブロックするかは、抗精神病薬の種類によって異なります。有効とされている抗精神病薬は、すべてドパミン受容体をブロックすることが知られています。新しい抗精神病薬(クロザピン、オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、ジプラシドン)はセロトニン受容体もブロックします。

 

精神療法

一般に精神療法では、本人、家族、そして医師との間に協力関係を築くことを目標とします。こうした目標のもとで、患者は自分の障害を理解して管理し、処方通りに抗精神病薬を服用し、障害を悪化させるおそれのあるストレスに対処する方法を学びます。医師と患者の間に良好な関係が築けるかどうかが、しばしば治療の成否を握る鍵となります。心理療法によって重症度が緩和されたり、再発防止に役立つ場合もあります。

 

リハビリテーション

 統合失調症では、様々な症状のために家庭生活や社会生活に障害が生じます。 症状の改善だけではなく、日常生活におけるこうした障害の回復も治療の目標になります。 先に述べた薬物療法は、統合失調症により障害された機能の修復を図る治療です。こうした治療と並行して、障害を受けていない機能を生かすことで家庭生活や社会生活の障害を克服し、生きる意欲と希望を回復し、充実した人生をめざすのがリハビリテーションです。

 リハビリテーションに用いられる方法は、病状や生活の状態により様々です。病気や薬についてよく知り、治療の参考にして再発を防ぎたいとの希望がある患者・家族のためには「心理教育」、回復直後や長期入院のために身の回りの処理が苦手となっている場合には生活自立のための取り組み、対人関係やコミュニケーションにおける問題が社会復帰の妨げとなっている場合には、認知行動療法の原理を利用した「生活技能訓練」、仕事における集中力・持続力や作業能力の回復をめざす場合には「作業療法」、対人交流や集団参加に自信がもてない場合には「デイケア」、就労のための準備段階としては「作業所」など、個々の患者さんの病状に合わせて利用していきます。

 

 

精神病の場合においては、一般的に最初から精神科に受診される方は少なく、自立神経失調症や不眠症などの内科疾患として受診され、治療を受けている場合が多い。初診日について、最初に受診した精神科以外の病院で精神疾患と診断されなくても、その病気の症状改善のために治療や薬の処方が行われた場合や、「精神科を受診するように」と指示をしたり、精神科のある病院への紹介状をいただいた場合は、その精神科を紹介した病院を受診した日が初診日とされる。精神科への紹介がない場合は、精神科を初めて受診した日が初診日と認定されることがある。

 

1級 残遺状態・病状が強くある。

そのため、人格変化・思考障害・妄想・幻覚などが強く、異常体験がハッキリしている。 よって、常に介護が必要。

なお、残遺状態とは、幻覚・妄想などの症状が見られなくなる一方、感情・意欲・周囲への関心などがなくなっている状態をいいます。

 

2級 残遺状態・病状がある。

そのため、人格変化・思考障害・妄想・幻覚など、異常体験がある。 よって、日常生活に著しい制限を受ける。

 

3級 残遺状態・病状があるが、人格変化は著しくない。

ただし、思考障害・妄想・幻覚など、異常体験がある。 よって、働くことに制限を受ける。

 

 

 統合失調症の陽性症状、陰性症状、認知機能障害や感情障害等により、日常生活能力がどれだけ低下しているかが認定の大きな部分を占める。

 

 仕事や対人関係、社会活動など、普通の日常生活ができなくなった場合にその障害の程度に応じて、障害年金が支給されます。

 日常生活能力とは、適切な食事、身辺の清潔保持、金銭管理と買い物、通院と服薬、他人との意思伝達及び対人関係、身辺の安全保持及び危機対応、社会性が、単身で生活するとした場合、どのくらいできるのかを評価するものです。

 日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮の上、社会的な適応性の程度によって判断するよう努める。また、現に仕事に従事している者については、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を充分確認したうえで、日常生活能力を判断すること。

 

 労働能力や対人関係など、通常の日常生活ができなくなった場合には、障害年金が認定されます。また、統合失調症は闘病期間が長期に及ぶことが多く、医療機関にカルテが残っていないことで請求自体を断念せざるを得ない方が多くなる傾向にあります。

 

 統合失調症は予後不良の場合もあるが、罹病後数年ないし十数年の経過中に症状の好転を見ることもあり、また、その反面急激に増悪し、その状態を持続することもあります。したがって、統合失調症として認定を行うものに対しては、発病時からの療養及び症状の経過を十分考慮します。

 

 

 統合失調症等とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定する。

 

 

統合失調型障害

 

統合失調症とは別の障害です。統合失調症に似た奇異な行動と、思考、感情の障害が特徴で、統合失調症特有の異常はありません。これといって典型的な症状はないものの、その場にそぐわない振る舞いをします。

WHOによる疾病分類「ICD-10」によると、以下のようなものです。

不適切な、あるいはぎこちない感情(患者は冷たくよそよそしく見る)。

異様な、奇異な、あるいは風変わりな行動や容姿。

他者との疎通性の乏しさ、および引きこもって人付き合いしない傾向。

本人の所属する文化的規範にも矛盾し、行為に影響を与えるような奇妙な信念や神秘的考え。

猜疑的、妄想的観念。

しばしば醜形恐怖的、性的、あるいは攻撃的内容を伴う、内的抵抗のない強迫的反復思考。

身体感覚的(身体的)錯覚などの諸錯覚、離人感あるいは現実感喪失を含む異常知覚体験。

奇妙な会話やその他の仕方で表現され、著しい滅裂はないが、あいまいでまわりくどく比喩的で凝りすぎた常同的な思考。

強度の錯覚、幻聴等の幻覚、および妄想様観念を伴う精神病様エピソードが時折、一過性に通常外的誘発なくして生じる。

 

アメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル「DSM-5」では、統合失調型障害を「統合失調パーソナリティ障害」と定義しています。その基本的特徴は、親密な関係の人と急に気楽でいられなくなることです。親密な関係を形成する能力が足りないことに加え、認知や知覚の歪みと、さまざまな風変わりな行動があります。 その一つが、関係念慮です。関係念慮とは、なんでもない偶然の出来事について間違った解釈をし、人に対して普通でない意味づけをすることです。

また、この障害のある人はえてして迷信深く、魔術的思考、テレパシーや第六感を信じることがあります。自分は出来事が起こる前に察知したり、他人の考えを読み取ったりできる特殊能力があると信じているかもしれません。魔術的な儀式を行って、知覚変容が起こることもあります。周囲から見ても、その異質さは分かります。この障害のある人達は、その場にそぐわないだらしない服装や、汚れがついたりサイズが合わなかったりする服を着ることがあります。話し方は独特で、間延びしたり、脱線しがち、あるいはあいまいだったりします。奇妙な言い回しや構文をすることもあります。しかし、実際に脱線することはなく、滅裂でもありません。

また、他人に対して疑い深く、妄想様観念を持っていることも特徴の一つです。例えば、自分の仕事の同僚が上司と一緒になって自分の評判を傷つけようとしていると信じることなどです。

基本的に対人関係を煩わしいものとして体験しており、他人と関係を持つことを不快だと感じています。「友人がいなくて不幸だ」ということもありますが、自分から親しい接触をあまり望んでいないように見ます。結果として、親族以外に親しい友人がまったくいないか、いてもわずかです。やむを得ない場合は他人と関わりますが、自分は変わっていて、他の人とは調子が合わないと感じているため、一人きりになることを好みます。

 

 

原因

この障害は、同じ家族内で生じることが多いと考えられています。発端者となった人の親族には、統合失調症や他の精神病性障害も少し多いようです。

 

 

経過

成人期早期に始まり、重症度が浮き沈みしながら慢性の経過をとります。最初は、孤立や仲間関係の乏しさ、社交不安、学業成績不振、過敏さ、変わった思考や言葉、および奇異な空想などの症状が現れます。子ども時代に発症した場合は、”風変わりな子“としていじめの対象になるかもしれません。 とはいえ、比較的安定した経過をたどり、統合失調症や他の精神病性障害に発展する人はわずかです。大きなストレスがあると、精神病症状を現す場合もありますが、通常は短期間です。ただし、重症例では快楽消失と重篤な抑うつ状態になります。

 

 

治療

 

精神療法

この障害のある患者さんは、風変わりな思考様式を持ち、カルトや奇妙な宗教的実践、オカルトに熱中している人がいますが、治療者はそのような活動を嘲笑したり、裁断的であったりしてはなりません。

 

薬物療法

抗精神病薬は、この障害の関係念慮、錯覚、その他の症状に有効です。抑うつ的要素があるときには、抗うつ薬を用います。

 

診断基準:ICD-10

この診断は単純型統合失調症、統合失調質性あるいは妄想性のパーソナリティ障害から、明確には区別しがたいので、一般的な使用は勧められない。

この用語を用いる場合には、上記の典型的な特徴の3、4項が少なくとも2年間は持続的あるいはエピソード的に存在していなければならない。患者は統合失調症の診断基準を満たしてはならない。第1度親族に統合失調症の病歴があることは、この診断にとって補助的な重要性を持つが、必須条件ではない。

 

診断基準:DSM-5

 

A. 親密な関係では急に気楽でいられなくなること。そうした関係を形成する能力が足りないこと。および認知的または知覚的歪曲と行動の奇妙さのあることの目立った、社会的および対人関係的な欠陥の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。

以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。

 

関係念慮(関係妄想は含まない)

行動に影響し、下位文化的規範に合わない奇異な信念、または魔術的思考(例:迷信深いこと、千里眼、テレパシー、または“第六感”を信じること:小児および青年では、奇異な空想または思い込み)。

普通でない知覚体験、身体的錯覚も含む。

奇異な考え方と話し方(例:あいまい、まわりくどい、抽象的、細部にこだわりすぎ、紋切り型)。

疑い深さ、または妄想様観念。

不適切な、または限定された感情。

奇異な、奇妙な、または特異な行動または外見。

第1度親族以外には、親しい友人または信頼できる人がいない。

過剰な社会不安があり、それは慣れによって軽減せず、また自己卑下的な判断よりも妄想的恐怖を伴う傾向がある。

 

B. 統合失調症、「気分障害、精神病性の特徴を伴うもの」、他の精神病性障害、または広汎性発達障害の経過中にのみ起こるものではない。

 

 

 

 

妄想性障害

 

妄想性障害は、一つまたは複数の誤った思いこみがあり、それが少なくとも1ヵ月間持続するのが特徴です。

誤った思いこみには、配偶者に裏切られるなど、通常でも起こり得る状況が含まれている傾向があります。

この障害は妄想性人格障害の人に発現することがあります。

診断は、あらかじめ他の疑われる原因を除外し、主に既往歴に基づいて行います。

通常、患者は社会的機能を果たすことができる状態であり、仕事をもっています。

治療には医師と患者の良好な関係が不可欠です。

一般に、妄想性障害は成人期中期から後期にかけて発症します。妄想は奇異な内容のものではなく、後をつけられている、毒を盛られる、感染させられる、遠くから誰かに愛されている、配偶者や恋人に裏切られるなど、実生活でも起こり得るような状況を含んでいます。

 

妄想性障害の亜型もいくつか知られています。

 

色情型:

誰かが自分に心を寄せていると思いこみます。電話、手紙、さらには監視やストーカー行為などで妄想の対象と接触を図ろうとします。妄想から出た行動が法に抵触することもあります。

 

誇大型:

自分には偉大な才能がある、あるいは重要な発見をしたなどと思いこみます。

 

嫉妬型:

配偶者または恋人が浮気をしていると信じこみます。あいまいな証拠から誤った推測をしてそのように思いこみます。このような状況下では、傷害事件が起こる危険があります。

 

被害型:

自分に対し陰謀が企てられている、見張られている、中傷されている、嫌がらせをされているなどと思いこみます。裁判所など行政機関に訴えて、繰り返し正当性を主張しようとします。まれに、想像上の迫害に報復しようとして、暴力的な手段に訴えることがあります。

 

身体型:

体に不自由があるとか体臭がするなど、体の機能や特性にとらわれます。妄想が、寄生虫感染といった想像上の身体疾患の形を取る場合もあります。

 

症状

妄想性障害は既存の妄想性パーソナリティ障害に起因することがあります。妄想性パーソナリティ障害の人は、成人期初期に始まり、他者の行動や動機に対して全般的な不信や疑念を抱きます。発症初期には、利用されていると感じる、友人の誠実さや信頼に執着する、悪意のない言葉や出来事に自己への脅迫的な意味を読み取る、うらみを抱き続ける、軽視されていると感じるとすぐに反応する、などの症状がみられます。

 

通常、妄想性障害によって重度の障害が引き起こされることはありません。ただし、次第に妄想に深くのめり込むようになることがあります。たいていの場合、仕事を続けることができます。

 

統合失調症と妄想性障害は別の障害ですが、妄想症、疑い深さ、非現実的思考などいくつか共通する特徴があります。しかし、統合失調症は精神病性の症状(現実とのつながりを失った病態)や全般的な機能低下を伴います。対照的に妄想性障害では、妄想を伴うごく限られた範囲の非現実的思考を除いて、現実とのつながりは保たれ、機能低下の程度ははるかに軽度にとどまります。また、統合失調症は比較的よくみられる病気であるのに対し、妄想性障害はまれです。

 

 

 


気分(感情)障害

 

(ICD-10コード F30-39)

 F30 躁病エピソード  F31 双極性感情障害(躁うつ病)  F32 うつ病エピソード  F33 反復性うつ病性障害  F34 持続性気分(感情)障害  F38 その他の気分(感情)障害  F39 詳細不明の気分(感情)障害

 

 

気分障害

精神疾患のうち、長期間にわたり悲しみで過度に気持ちがふさぎこむ(うつ病相)、または喜びで過度に気持ちが高揚する(躁病相)といった情動的な障害を示す疾患を気分障害といいます。うつ病相と躁病相は気分障害の両極にあたる状態です。

文字通り気分が沈んだり、「ハイ」になったりする病気で、以前は「感情障害」と呼ばれていた。

 

泣いたり笑ったりする「感情」の病気というよりも、もっと長く続く身体全体の調子の病気という意味で、気分障害と呼ぶようになりました。病気がひどい時に、一時的に妄想や幻聴などの精神病症状がでることもありますが、いわゆる精神病には含まれません。

 

 

気分変調障害

 ほぼ1日中持続する抑うつ気分が長期間続く慢性疾患です。この病気の特徴は、社会や家庭への不適応感や罪責感、さまざまな刺激への過敏性、人や社会への怒り、社会からのひきこもり、興味の喪失、疲れやすさや活力の減退、生産性の欠如です。以前から、日本では抑うつ神経症といわれていた病気で、神経症性うつ病とも言われていました。  うつ病とは極めてよく似た病気ですが、抑うつ気分が軽いものの長い経過をたどるという点で、うつ病と区別することができます。

また、最初はうつ病と診断されている場合も意外に多いのですが、その経過が長く軽症であることから、通院中に診断名が、「うつ病」から「気分変調性障害」に変更されることもあります。

 

 

気分障害には、大きく分けて2つの病気がある。1つは うつ病、もう1つが 双極性障害(躁うつ病)である。

 

 


うつ病

うつ病は、体の機能に支障を来すほどの強い悲しみを感じている状態です。大切な人を失った直後など悲しい出来事の後に生じますが、悲しみの程度がその出来事とは不釣り合いに強く、長期にわたり持続する場合をいいます。

 

 うつ病とは狭い意味では内因性うつ病のことを示すが、広い意味ではうつ症状を呈するものすべてを含む。種々のストレスに対応しきれなくなったときに出やすい症状のことをいう。

ノルアドレナリンの2種類の神経伝達物質の脳内濃度の低下が強く関連し、脳の機能障害が起きている状態といわれている。

 

うつ病は、精神的ストレスや身体的ストレスが重なることなど、様々な理由から脳の機能障害が起きている状態である。脳がうまく働いてくれないので、ものの見方が否定的になり自分がダメな人間だと感じてしまう。そのため、普段なら乗り越えられるストレスもよりつらく感じられるという悪循環が起きてくる。

 

遺伝、薬の副作用、感情的につらい出来事、体のバランスの崩れ、その他の要因がうつ病の原因と考えられます。

 

生活状況が変化したときにかかりやすいといわれる。

例:引越し、結婚、離婚、配偶者の死、出産、子供の独立、転職、リストラ、昇進

 

 日本では、100人に3~7人という割合でこれまでにうつ病を経験した人がいるという調査結果があります。

 「うつ病が増えている」の背景には、  ・うつ病についての認識が広がって受診する機会が増えている  ・社会・経済的など環境の影響で抑うつ状態になる人が増えている  ・うつ病の診断基準の解釈が広がっている など、様々な理由が考えられます。

 

症状は、数日または数週間にわたって徐々に発症するのが典型で、きわめて多岐にわたります。たとえば、うつ病になりかけているときには動作が鈍く悲しげに見えたり、怒りっぽく不安そうな様子になったりします。

うつ病になっている人の多くは、悲しみ、喜び、楽しさといった感情を普通の形で感じることができません。極端な場合には「世界が色を失い、生命がない」ように感じられます。うつ病患者は強い罪悪感や自己否定の考えにとらわれ、ものごとに集中できなくなることもあります。絶望感、孤独感、自尊心の低下が生じます。また、しばしば優柔不断になって引きこもり、次第に無力感と失望感を覚え、死や自殺を考えるようになります。

 

 

主な症状:

「抑うつ気分」 「興味・喜びの喪失」 「思考・運動制止」 「不眠または睡眠過多」

「易疲労性または気力の減退」 「無価値観」 「思考力や集中力の減退」

「自殺企画」 「希死念慮」

 

・自殺企図

自殺を企てること

自殺を企てつつ実際の行為まで至らない場合は希死念慮と呼ばれる。

 

・希死念慮

自分が死ぬことを望み、自分が死ぬことについておもんばかること

客観的には理解しがたい理由で自身の死を願う点が、単なる「自殺願望」と意を異にする。

 うつ病と診断する目安として、次のような症状のうちいくつかが2週間以上ずっと続くというものがあります。

 ・抑うつ気分(憂うつ、気分が重い)  ・何をしても楽しくない、何にも興味がわかない  ・疲れているのに眠れない、一日中ねむい、いつもよりかなり早く目覚める  ・イライラして、何かにせき立てられているようで落ち着かない  ・悪いことをしたように感じて自分を責める、自分には価値がないと感じる  ・思考力が落ちる  ・死にたくなる

 

 うつ病では、自分が感じる気分の変化だけでなく、周囲からみてわかる変化もある。

 

うつ病の種類によって症状は異なります。

 

緊張病性の特徴を持つうつ病:

引きこもりが顕著になります。思考、話し方、動きが鈍くなり、自発的な行動を一切しなくなります。子供やペットの面倒を見なくなり、自分でものを食べることさえしなくなります。聞いた言葉をすぐに反復したり(反響言語)、人の動作のまねをしたり(反響動作)する人もいます。

 

メランコリー型の特徴を持つうつ病:

いままで楽しいと感じていた活動から喜びが得られなくなります。動作が鈍く悲しげに見え、引きこもりがちになります。無口になり、食事をとらなくなって体重も減少します。顔に感情が表れなくなります。患者は、過度に不釣り合いなほど罪悪感を覚えます。

 

精神病性の特徴を持つうつ病:

しばしば、自分が許しがたい罪や犯罪を犯してしまった、あるいは不治の病や恥ずかしい病気にかかっている、見張られているとか迫害されているなど、誤った思いこみ(妄想)をします。幻覚を見る人もいて、たいていの場合、自分の数々の悪行を責める声や死を宣告する声が聞こえるというものです。少数ですが、棺や死んだ親族を見たと思いこむ人もいます。

 

非定型うつ病:

このタイプのうつ病にかかった人は、特に夜間に不安そうでおびえた様子を示します。食欲が亢進して体重が増加し、最初は眠れなかったのが長時間眠るようになります。自分の主張が受け入れられると快活になりますが、批判されたり拒絶されたりすると過敏に反応する傾向があります。興奮する場合もあります。とても落ち着きがなく、両手をもみ合わせながら絶え間なく話し続けます。

 

うつ病の人の大半は寝つきが悪く、特に明け方などに何度も目を覚まします。食欲不振から体重が減少して衰弱したり、女性の場合は月経が止まったりすることがあります。ただし、軽度のうつ病では過食と体重増加もよくみられます。

体に病気があってあちこちが痛むと訴える場合があります。災難を恐れ、正気を失うのではないかと危惧する人もいます。また、自分が不治の病や恥ずかしい病気(たとえば癌や性感染症など)にかかっていて、他の人に病気をうつしていると思いこんでいることがあります。

 

自殺:

「死のう」と考えるのは、うつ病の人にみられる最も深刻な症状です。うつ病の人の多くが、「死にたい」とか、「自分は価値がないから死ぬべきだ」と感じています。治療を受けていないうつ病の人の15%が、自殺によって命を絶ちます。自殺をほのめかす場合は、緊急事態です。その場合は、医師の判断で入院させ、自殺のリスクが低下するまで監視下において治療することもあります。

うつ病患者が自殺する危険性は、次のような状況下で特に高くなります。

うつ病の治療を受けていない、または治療が不十分な場合

治療を開始した時期(心身ともに活発になりつつあるが、依然として気分がふさいだ状態

のとき)

日常生活への復帰途上にあるが、過度に悲しみの感情が続いている場合

患者にとって重要な記念日

抑うつ状態と躁状態が交互に現れる場合(双極性障害)

非常に強い不安を感じる場合

飲酒の習慣があったり、娯楽薬や違法薬物を使用したりしている場合

 

物質乱用:

うつ病の人は、睡眠を確保したり、不安を軽減したりする目的で、アルコールや他の娯楽薬を乱用する傾向が強くなります。しかしながら、うつ病は以前考えられていたほどアルコール依存症や薬物乱用を引き起こすことはありません。また、過度の喫煙を続け、健康に注意を払わなくなります。したがって、慢性閉塞性肺疾患のような他の病気にかかったり、そのような病気を悪化させたりする危険性が高くなります。

 

気分変調症:

うつ病の中には症状は軽い半面、数年間、場合によっては数十年間も続くものがあります。このタイプのうつ病は気分変調症と呼ばれ、青春期に発症することが多く、顕著な人格の変化を伴います。気分変調症の人は、陰気、悲観的、懐疑的、きまじめになり、あるいはものごとを楽しめないなくなります。さらには、消極的、元気がない、自分の殻に閉じこもります。絶えず愚痴をこぼし、すぐに人を批判したり自分をとがめたりします。また、自分の欠点、失敗、いやな出来事などが常に頭の中を占めていて、中には自分の失敗を病的に楽しむようなケースもあります。

 

 

うつ病の治療  うつ状態をおこす原因がはっきりしているときは、その原因を取り除くことが検討されます。  たとえば体の病気が原因である場合はその治療を行い、薬の影響が考えられる場合は可能であれば薬の中止、それができない場合は別の薬への変更がはかられます。性格的にストレスなどの影響を受けやすい人は精神療法的なアプローチが効果的です。こうしたうつ病でも、うつ状態が重症であれば抗うつ薬による治療も平行して行われます。  うつ病と判断された場合には一般に抗うつ薬による治療が行なわれます。ただし、典型的なうつ病でも軽症の場合は薬の効果がそれほど期待できないこともあるので、薬物療法が絶対であるというわけではありません。自分には本当に薬が必要かどうかを主治医に確認しながら治療を受けるようにしましょう。

 抗うつ薬といわれるものだけでもSSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬)といったものから三環系抗うつ薬などいくつかのグループがあり、抗うつ薬の他にも、症状に合わせて抗不安薬や睡眠導入剤なども使われます。また、躁状態や軽躁状態を経験したことがある人の場合はうつ病でなく躁うつ病(双極性障害)と診断され、気分安定薬が使われます。

 

薬物療法:

抗うつ薬には、いくつかのタイプがあります。選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)、三環系・四環系抗うつ薬、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)、そして精神刺激薬もいくつかの新しいタイプの薬を使えます。ほとんどの薬は、効果が現れるまで最低数週間は定期的に服用する必要があります。ある人に何らかの抗うつ薬を使用したとき、その薬が効く確率は約65%です。副作用は薬のタイプにより異なります。1つの薬で効果が不十分であった場合は、抗うつ薬を組み合わせて処方します。

 

選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)は、現在最もよく使用されている種類の抗うつ薬です。SSRIは抑うつや気分変調のほか、うつ病によく併発する他の精神疾患にも効果があります。SSRIには吐き気、下痢、振戦、体重減少、頭痛といった副作用がありますが、症状は概して軽く、使用を継続しているうちに軽減します。多くの人は、SSRIの副作用の方が三環系・四環系抗うつ薬の副作用よりは耐えられます。SSRIは三環系・四環系抗うつ薬ほど心臓に悪影響を及ぼすことはありません。しかし、SSRIの投与開始後、あるいは投与量を増やした後一週目に、興奮、抑うつ、不安が悪化したように感じることがあります。このような症状が見過ごされて治療が遅れると、特に幼い子供や青少年の場合は、次第に自殺傾向が助長されることがあります。SSRIを服用している人やその家族に対しては、こうした懸念について注意を促し、治療の過程で症状が悪化したら主治医に連絡するよう指示するべきです。しかしながら、うつ病を治療しなくても自殺を図ることがあるため、患者と主治医は未治療の場合の危険性と薬物療法の危険性を比較する必要があります。また、長期間使用すると、患者の3分の1に体重増加、性機能不全など別の副作用が生じることがあります。SSRIの中には急に中止すると、めまい、不安、イライラ、吐き気、インフルエンザ様症状といった中止症状を引き起こすものがあります。

新しい抗うつ薬にもSSRIと同等の効果や安全性があり、類似した副作用があります。こうした薬剤は次のようなものです。

ノルエピネフリン・ドパミン再取込み阻害薬

セロトニンモデレータ

セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬

 

SSRIの場合と同様に、これらの新しい薬剤をはじめて服用すると、一時的に自殺の危険性が高くなることがあり、セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬を急に中止すると、離脱症候群を引き起こすことがあります。

 

精神療法:

軽度のうつ病には、精神療法だけでも薬物療法と同等の効果が得られることがあります。薬物療法と組み合わせることで、重度のうつ病に効果的な場合があります。

抗うつ薬である程度症状が改善されてから、個人またはグループで精神療法を行うことにより、本来の意欲が徐々に戻り、日常生活上生じる普段のストレスに適応できるようになります。対人関係療法では、生活上の役割変化に適応する間、補助的な道しるべを提供してくれます。認知行動療法は、絶望感や否定的な捉え方から抜け出すのに役立ちます。

 

電気けいれん療法:

電気けいれん療法は、精神病性うつ病の場合、自殺をほのめかす場合、食事を拒絶する場合など、特に重度のうつ病の治療に用いられます。また、妊娠中の抑うつの治療で、薬が効かない場合に利用されます。この方法は概して非常に効果的で、効果が出るまでに数週間かかる抗うつ薬と違って、抑うつ状態を迅速に緩和することができます。この即効性が功を奏して命を救える場合があります。

電気けいれん療法は、電極を頭部にあてて脳に電流を流して、発作を起こさせる治療です。この発作により、理由は完全には解明されていませんが、抑うつ状態が緩和されます。通常は1日おきに1回、少なくとも全部で5~7回の治療を行います。電流により筋肉収縮や痛みが生じるため、全身麻酔下での治療が必要となります。電気けいれん療法で、一時的な記憶喪失が、まれには永久的な記憶喪失が生じることがあります。

 

 

 これまでに躁状態や軽躁状態を経験したことがある場合は、うつ病でなく双極性障害(躁うつ病)であると考えられますので、そういう経験がなかったかの確認も必要です。

 

 心療内科や精神科で うつ病 であると診断される前に、不眠や頭痛などの症状があり、自宅近くの病院を受診していた場合には、この不眠などで受診した病院が初診の医療機関となり、初診日とされる。

 うつ病統合失調症などの症状を訴えて精神科以外の診療科を受診した場合、最初に受診した病院の医師が、「精神科を受診するように」と指示をしたり、精神科のある病院への紹介状を初診の医師が作成したことが条件である。そうでない場合、精神科以外の病院ではなく、精神科を初めて受診した日が初診日と認定されることが多い。

 適応障害パニック障害と診断され、その後に「うつ病」と診断された場合は、相当因果関係「あり」と考えてよいといえる。これらの場合は、通常、診療期間中に診断名の変更があったと考えられる。

 

1級 気分・意欲・行動の障害や思考障害が強くある。 この症状が持続したり頻繁に繰り返すため、常に介護が必要。

 

2級 気分・意欲・行動の障害や思考障害がある。 この症状が持続したり頻繁に繰り返すため、日常生活に著しい制限を受ける。

 

3級 気分・意欲・行動の障害や思考障害がある。 症状は著しくないが、症状が持続したり頻繁に繰り返すため、働くことに制限を受ける。

 

 

薬剤性うつ病の原因となる薬

 

○ステロイド

ステロイドは副腎皮質ホルモン剤であり、その免疫抑制作用、抗炎症作用から様々な疾患に用いられます。関節リウマチを代表とする自己免疫性疾患をはじめ、喘息や花粉症(アレルギー性鼻炎)などのアレルギー疾患にも用いられます。

ステロイドで薬剤性うつ病が引き起こされることは比較的よく知られています。また、投与量が多いほどうつ病発症リスクも高くなります。

 

(商品名) プレドニン   など

 

 

○降圧剤

血圧を下げる作用を持つ薬の多くが薬剤性うつ病を引き起こす可能性があることが確認されています。

・ACE阻害薬

(商品名) レニベース、タナトリル、コバシル  など ・β遮断薬

(商品名) メインテート、インデラル、アーチスト  など

・カルシウム拮抗薬

(商品名) アムロジン、アテレック、アダラート、ベルベッサー  など ・αメチルドーパ

(商品名) アルドメット ・レセルピン

(商品名) アポプロン ・クロニジン

(商品名) カタプレス

 

 

○抗結核薬

結核の治療薬にもうつ病を引き起こす副作用があります。

(商品名) イスコチン  など

 

 

○インターフェロンα(IFNα)

インターフェロンαは、免疫や炎症などの調整をするサイトカインの一種です。主にC型肝炎の治療薬や抗がん剤として使われます。

C型肝炎にインターフェロンα治療を行った場合、1~3割ほどに薬剤性うつ病が認められる。

インターフェロンの副作用としてうつ病が生じたら、場合によっては抗うつ剤などを一時的に使用することもあります。

主に抗がん剤として使われるインターフェロンβがあり、これもうつ病を引き起こす可能性があります。

 

(商品名) スミフェロン、オーアイエフ

 

 

○抗がん剤

一部の抗がん剤は、副作用としてうつ病を起こす可能性があります。

・腎癌、血管肉腫に投与・・・インターロイキン2製剤

(商品名) セロイク、イムネース

・乳癌に投与・・・タモキシフェン

(商品名) ノルバデックス

 

 

○GnRH誘導体製剤

性腺刺激ホルモン放出ホルモンアゴニストと呼ばれ、性ホルモン(エストロゲンやアンドロゲン)の分泌を減少させる働きがあり、子宮内膜症や前立腺癌などに使用されます。

 

(商品名) スプレキュア、ナサニール、ゾラデックス、リュープリン  など

 

 

○胃薬(H2受容体遮断薬)

胃潰瘍などの治療に用いられる、胃酸分泌抑制剤にも薬剤性うつ病のリスクがあります。

 

(商品名) ガスター、ザンタック、タガメット  など

 

 

自殺行動

 

自殺行動には、自殺既遂、自殺未遂、自殺演技の3種類の自己破壊的な行動があります。自殺について考え計画することは起死念慮と呼ばれます。

自殺は、概して多くの要因が相互作用する結果ですが、通常はうつ病が要因に含まれます。

銃など、自殺方法には死に至る確率が高いものもありますが、致死率の低い方法を選択した場合でも、意図が深刻でないことを意味するとは限りません。

自殺がほのめかされたり自殺未遂が起こった場合は、真剣に受け止め、援助の手を差し伸べるべきです。

自殺したいと思っている人は、電話や電子メールのホットラインを利用して相談に乗ってもらうことができます。

 

自殺行動には次のものがあります。

 

自殺既遂:

意図した自傷行為が死に至ったものです。

 

自殺未遂:

死ぬことを目的とする自傷行為ですが、結果として死には至らないものです。多くの場合、自殺未遂には、死への願望に対する少なくとも何らかのアンビバレンス(両価性)が含まれていて、助けを求める叫びの現れであることもあります。

 

自殺演技:

死に至る可能性が低い自傷行為です。たとえば、手首に表面的な傷をつける、ビタミン剤を過量摂取するといった行為です。

 

自殺演技と起死念慮(自殺についての考えや計画)は、まだ生きていたい人の助けを求める懇願の現れである可能性もあり、軽く片付けてしまうべきではありません。自殺者の数に関する情報源は、主に死亡証明書や調査報告であるため、おそらく実際の自殺率よりも低く見積もられています。それでも、自殺行動はあまりにも一般的な健康問題です。自殺行動は年齢や性別にかかわりなく起こります。米国では、自殺は10~24歳の若年者の死因の中で3番目に多く、全体でも11番目の死亡原因となっています。自殺既遂の割合が最も高いのは70歳以上の男性です。ただし、自殺未遂は中年期以前で多くみられます。自殺未遂が特に多いのは、青年期の若い女性と30代の独身男性です。全年齢層でみると、女性の自殺未遂の割合は男性の2倍ですが、実際に死に至る可能性は男性の方が4倍高くなっています。。

 

離別、離婚、配偶者との死別などを経験した人の場合、自殺未遂の割合が高くなります。自殺未遂や自殺既遂の割合は、一人で暮らしている人の方が高くなります。家族に自殺者がいる人の場合もリスクが増大します。

人間関係が安定している人は、一人暮らしの人と比べて自殺の割合は低くなっています。また、多くの、宗教(特にローマカトリック教)の熱心な信徒にも、自殺はあまりみられません。

 

自殺の危険因子

65歳以上

男性

痛みや体の不自由さを伴う病気

一人暮らし

借金や貧困

死別や喪失感

屈辱や不名誉

うつ病、特に精神病や不安を伴うもの

他のうつ病の症状が軽快しても悲しみの感情が持続する状態

薬物依存やアルコール依存の既往

自殺未遂の既往

家族の自殺歴

身体的または性的虐待を含む小児期のトラウマ体験

自殺への執着(そのことばかり話す)

詳細な自殺計画

 

原因

自殺行動は、概していくつかの要因の相互作用によって起こります。最も多い要因がうつ病です。自殺未遂の50%以上にうつ病がかかわっています。結婚問題、恋愛上のトラブルや破局、両親との確執(青年期の場合)、愛する人を失ったこと(特に高齢者の場合)などがうつ病のきっかけになります。つらい状況が続いていた中で大切な人間関係が破たんするといった1つの要因が、最後の追い打ちとなることがよくあります。自殺する人の約6人に1人が遺書を残しますが、それはときとして理由を知る手がかりとなります。

特定の身体疾患に苦しむ人が、抑うつ状態に陥って自殺を図ることがあります。自殺率の上昇と関連する身体疾患の多くは、神経系や脳に直接的な影響を及ぼすもの(エイズ、認知症、側頭葉てんかんなど)か、その病気の治療がうつ病の誘発にかかわるもの(高血圧治療に用いられる一部の薬など)のいずれかです。不安や誤った思いこみ(妄想)などの精神病性の特徴を伴ううつ病の場合は、こうした特徴がないうつ病に比べて自殺のリスクが高くなります。

虐待など心に傷を残すような小児期の体験(トラウマ)がある人は、自殺を図る可能性が高くなります。おそらくこれは、うつ病になるリスクが高いことによるものです。

うつ病は飲酒によりさらに悪化し、かえって自殺行動を促進することがあります。アルコールは自制心を弱くします。自殺を図った人の約30%が事前に飲酒をしています。アルコール依存の場合、特に大酒を飲んでいるケースでは、酔いが覚めたときにしばしば深い自責の念に駆られるため、酔っていないときでも自殺傾向があります。

 

うつ病以外の精神障害がある人でも、自殺のリスクは高くなります。統合失調症などの精神病性障害があると、自殺を命令する幻聴(聴覚性の幻覚)が聞こえることがあります。境界性パーソナリティ障害や反社会性パーソナリティ障害で、特に過去に暴力行動がみられた人は、自殺演技や自殺未遂を報復や自己主張の手段とする場合があります。

 

抗うつ薬と自殺のリスク:

自殺未遂のリスクは抗うつ薬治療を開始する前の月に最大となり、自殺による死亡リスクは投与開始月がその後の月を上回ることはありません。ただし、一部の抗うつ薬は、起死念慮や自殺行動をやや高めるので(自殺既遂には至りません)、抗うつ薬を服用している患者については、自殺の危険性がないか注意深く監視する必要があります。

最近、抗うつ薬を服用すると自殺のリスクが高まる可能性があるという公衆衛生上の警告がなされ、医師は小児や若年者に対する抗うつ薬の処方を控えるようになってきました。しかし、この同時期に、若年者の自殺率は14%増加しました。したがって、うつ病の薬物療法を抑制するこのような警告が、結果的には自殺による死亡者数を減らすのではなく、増やしてしまった可能性があります。多くの医師は、最善の対策はうつ病を治療することであり、患者とその家族に対して、症状の悪化や起死念慮に注意を払い、徴候がみられたら直ちに医師に連絡を取るか、病院で治療を受けるように明確に警告することが重要だと考えています。

 

方法

自殺方法の選択は、しばしば文化的背景や実行のしやすさに左右されます。自殺方法は、意図の重大さを反映することもしていないこともあります。事実上生存不可能な方法(高層ビルから飛び降りるなど)もあれば、救助可能な方法(薬の過量服用など)もあります。ただし、致死的でない方法を取った人も、致死的な方法を取った人に劣らず本気で死のうとしている場合もあります。

自殺を図る際に最も頻繁に用いられる方法は、薬の過量服用と服毒です。銃や首つりなどの暴力的な方法を用いるとほぼ確実に死に至るため、自殺未遂ではあまり多くありません。

米国における自殺既遂では銃が最も多く使用され、男性の74%、女性の31%を占めています。2番目に多い方法は、男性では首つり、女性では薬の過量服用です。

 

予防

自殺未遂や自殺既遂が家族や友人に思いもよらぬ衝撃を与えることもありますが、多くの自殺者は明らかな警告サインを発しています。自殺がほのめかされたり、自殺未遂が起こった場合は、助けを求めるサインとみなすべきであり、真剣に受け止める必要があります。こうしたサインが無視されてしまえば、命が失われるおそれがあります。

自殺をほのめかす言動がみられたり、実際に自殺未遂を起こしてしまった場合は、ただちに警察に連絡し、救急車を呼びます。助けが到着するまで、穏やかな支えるような態度で話しかけます。

医師は自殺をほのめかしたり自殺未遂をした人を入院させることがあります。米国の大半の州では、本人が入院を拒む場合でも、医師が自傷他害のリスクが高いと判断すれば、本人の意思に反して入院させることも認められています。

 

 


○双極性障害 (躁うつ病)

 うつ病が「うつ」の症状のみ現れるのに対し、双極性障害(躁うつ病)は「躁」と「うつ」の症状を繰り返す病気をいう。

うつ病という言葉が入っていることもあって、うつ病の一種と誤解されがちですが、この2つは異なる病気で、治療も異なる。

 双極性障害は単に元気すぎたり、やる気満々といった程度ではなく、気分が病的に高ぶっている状態が続くことである。

 ① 気分が良すぎたり、ハイになったり、興奮したり、調子が上がりすぎたり、時には怒りっ

ぽく不機嫌になったりして、他人から普段のあなたとは違うと思われてしまう

② 自分が偉くなったように感じる ③ いつもよりおしゃべりになる ④ 色々な考えが次々と頭に浮かぶ ⑤ 注意がそれやすい ⑥ 活動性が高まり、ひどくなると全くじっとしていられなくなる ⑦ 後で困ったことになるのが明らかなのに、つい自分が楽しいことに熱中してしまう (例えば、買い物への浪費・性的無分別・ばかげた商売への投資など)

 

 上記①~⑦の症状のうち、少なくとも①を含む4つ以上(①怒りっぽく不機嫌な場合は、5つ以上)の症状が、1週間以上続く場合、「躁状態(躁病エピソード)」の疑いが高くなり、さらに、仕事や人間関係に差し支えたり、入院が必要になるほどであれば、「躁状態(躁病エピソード)」と診断される。

 

 

うつ状態症の症状

「思考・運動停止(何も考えられない・動けない)」 「憂うつ気分」 「自殺企図」

「希死念慮」 「不眠」 「過眠」 「不安」 「意欲・活動力の低下」 「自責感」

 

躁状態の症状

行為心迫」 「多弁・多動」 「易刺激性・興奮」 「逸脱的な行為」「思考奔逸

易怒性・被刺激性亢進」 「誇大的」 「誇大妄想」 「暴言・暴力」 「器物破損」

「気分高揚」 「観念奔逸(かんねんほんいつ)」

 

 ・行為心迫

    気分が爽快で意欲的になり、書く、話す、買うなどの行為を疲れを知らないかのごとき自制できない。  (心迫 = 自制することのできない衝動)

・易刺激性

ちょっとした刺激で行動を起こしてしまう。

 ・思考奔逸

考えがまとまらない。考えがころころ変わる。

 ・易怒性

何でもないことで怒る。

 ・被刺激性亢進

    外界からの刺激によって、病状度合いが高まったり進んだりするということ。

 些細なことですぐに不機嫌になる。

 ・観念奔逸

観念が過剰に現れて、全体として統一のない観念群をしゃべりまくる。

 

双極性障害の発症には遺伝的要素が関与していると考えられます。また、体内で生成される特定の物質(ノルエピネフリンやセロトニンなどの神経伝達物質)も関わりがあるようです。(神経伝達物質は神経細胞が情報を伝える際に必要となる物質です。)

ときとして、ストレスを感じる出来事の後に双極性障害を発病することがあり、そのような出来事によって別の症状が誘発されることもあります。しかしながら、因果関係は証明されていません。

甲状腺ホルモンの濃度が高くなる甲状腺機能亢進などの特定の病気に伴って、双極性障害の症状(うつ状態と躁状態)が現れることがあります。また、コカインやアンフェタミンなどの薬物が引き金になって発症する場合もあります。

 

 

うつ症状よりも、躁状態は突然終わり、1週間余りしか続かないのが典型的です。

 

双極性障害は、以前は「躁うつ病」と呼ばれていた。

 

 

 双極性障害は、「躁」の症状に応じて、大きく「双極Ⅰ型」「双極Ⅱ型」に分けられる。

 

双極Ⅰ型障害  重い躁状態とうつ状態を繰り返す

 「躁状態(躁病エピソード)」がはっきりしていて症状が重いのが特徴。典型的な躁状態とうつ状態があらわれ、以前「躁うつ病」と呼ばれていた症状は、ほぼこのⅠ型に当てはまる。  躁状態のときは、本人は病気と思っていない。他人への攻撃性が増して、そのためにトラブルで仕事を失ったり、離婚など、深刻な損失をこうむるケースがある。

 双極性障害Ⅰ型については、躁状態にあるときに、人間関係でトラブルを起こしたり、無計画に大きな買い物をしたり、ギャンブルなどで散財したり、大きな借金をしてしまうことがある。したがって、双極性障害Ⅰ型については、うつ状態 のみならず、躁状態 も障害年金の認定上、評価対象になる。

 

 

双極Ⅱ型障害

 Ⅰ型の「躁状態(躁病エピソード)」が重症であるのに対し、「軽躁状態(軽躁病エピソード)」とうつ状態を繰り返すタイプが双極Ⅱ型障害とされている。

 

「軽躁状態(軽躁病エピソード)」は「持続的に高揚した開放的な気分が、少なくとも4日以上続く」というのが、ひとつの基準になっています。程度にかかわらず、本人は「調子が良い]と感じているので、なかなか問題に気がつきません。ほとんどの場合、トラブルも起こさないので、周りからも見過ごされがちです。しかし、摂食障害や不安障害、アルコール依存などが合併しやすく、じつは深刻です。

 

 

 躁うつ病(双極性障害)は、躁 と うつ の周期を繰り返すが、障害年金の制度では、躁の症状についてよりも、うつ の状態が認定のポイントとなる。障害年金の認定基準が、食事、買物、清潔保持、仕事、社会活動といった日常生活能力の制限を評価することとなっているからである。

 障害年金の認定上、双極性障害のⅡ型については 躁 の症状は比較的軽いので、評価されにくい。

 

 

双極スペクトラム という考え方  双極性障害はこれまで、Ⅰ型、Ⅱ型という独立した疾患として診断されてきましたが、Ⅰ型とⅡ型の間には移行型もあるうえ、これらの診断を満たさなくても双極性障害に準じた治療が必要なケースもあることなどから、双極性障害の概念を連続的な「スペクトラム(七色の虹の様な状態を指す)障害」として考えようという動きが出てきました。

 双極性障害の原因は、実はまだ完全には解明されていません。  しかし様々な研究から、複数の要因が相互関係して起こるのではないかと考えられています。  また、双極性障害の約2/3の人が「うつ」から始まることがわかってきました。

 

 

治療

重度の抑うつ状態や躁状態では、しばしば入院が必要となります。躁状態がそれほど深刻でない場合も、活動亢進中の破滅的な金銭トラブルや性行動から本人と家族を守るために、入院が必要となる場合があります。ほとんどの場合、軽躁病は外来で治療が可能です。急速交代型の場合は治療がより困難となります。双極性障害は治療をしないで放置すると、ほとんど例外なく再発します。

治療には、精神療法に加え、気分安定薬(リチウムや抗けいれん薬)、抗精神病薬、ある種の抗うつ薬などが使われます。気分安定薬によって抑うつ状態が改善されない場合は、電気けいれん療法が用いられることもあります。気分が季節に関連する場合は、光療法が用いられることがあります。

 

リチウム:

リチウムには躁症状やうつ症状を軽減する作用があります。リチウムは多くの患者で双極性障害の気分変動を防ぐ効果があります。リチウムは効果が出はじめるまでに4~10日かかるため、抗けいれん薬や新しい抗精神病薬(第二世代抗精神病薬)など即効性のある薬を併用して、興奮した思考や行動をコントロールします。

リチウムには副作用もあります。振戦、筋肉のけいれん、吐き気、嘔吐、下痢、のどの渇き、多尿、体重増加などを引き起こすことがあります。しばしば、にきびや乾癬が悪化します。しかし、通常これらの副作用は一時的で、投与量の調節により副作用を軽減できます。ときとして、副作用のためリチウムの服用を中止せざるを得ませんが、やめればなくなります。濃度が高くなり過ぎると副作用が起こりやすくなるので、医師は血液中のリチウム濃度を定期的にモニターします。リチウムの長期服用は甲状腺機能低下や、まれに腎臓の機能障害の原因となることがあります。したがって、定期的に血液検査を行い、甲状腺と腎臓の機能をチェックする必要があります。

血液中のリチウム濃度が非常に高くなると、持続的な頭痛、錯乱、眠気、けいれん発作、不整脈が生じることがあります。副作用は高齢者や腎機能障害のある人に多くみられます。リチウムはまれに、発育中の胎児に心臓の異常を引き起こすことがあるため、妊娠しようとしている女性はリチウムの使用を中止しなければなりません。

 

抗けいれん薬:

初めて躁病を発症したり、躁状態と抑うつ状態を併発したりしたときには(混合状態)、抗けいれん薬のカルバマゼピン、オキシカルバゼピン、バルプロ酸が使用されます。リチウムとは異なり、これらの薬は腎臓に損傷を与えません。しかしながら、カルバマゼピンの服用により赤血球数と白血球数が大きく減少することがあります。まれに、バルプロ酸によって肝臓に障害が生じたり(主に小児)、膵臓に重大な障害が起こったりします。しかしながら、このような問題は医師が注意深く監視することで早めに発見できます。特に他の治療法が効かなかった患者には、カルバマゼピンやバルプロ酸は有用です。オキシカルバゼピンは副作用がより少ない薬です。

ラモトリジンは特に抑うつ状態の発症中に使用されることがあります。ラモトリジンは重篤な発疹を引き起こすおそれがあります。この発疹は、まれに生命にかかわるスティーブンス・ジョンソン症候群を発症する場合があります。ラモトリジンの服用中は、新たな発疹やインフルエンザ様症状がみられないか注意し、症状が現れたら主治医に報告すべきです。

 

抗精神病薬:

突然の躁状態の治療には、第二世代抗精神病薬が使用されるケースが増えています。理由は、即効性があり、双極性障害の治療に用いられる他の薬よりも重篤な副作用の危険が少ないからです。このような薬には、アリピプラゾール、オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、ジプラシドンなどがあります。

長期的な副作用としては体重増加、メタボリックシンドロームなどがあります。メタボリックシンドロームとは、腹部の過剰な脂肪、インスリンの作用に対する感受性の低下(インスリン抵抗性症候群)、血糖値の上昇、コレステロール値の異常、高血圧を伴うものです。アリピプラゾールやジプラシドンでは、メタボリックシンドロームを発症する危険性はそれほど高くはありません。

 

抗うつ薬:

すべての抗うつ薬は、時には急速に抑うつ状態から軽躁状態や躁状態への転換が起こりえます。そのため、抗うつ薬は短期間に限って使用し、通常は気分安定薬と併用します。抗うつ薬が気分に与える影響は慎重に観察します。軽躁状態や躁状態へ移行する最初の徴候の時点で、抗うつ薬を中止します。

 

精神療法:

精神療法は、指示通りに治療が受けられるようになることを主な目的とし、気分安定薬を服用している人によく勧められます。グループ療法は、患者やそのパートナー、あるいは親族は、双極性障害とその影響について理解を深めるのに役立ちます。個人で精神療法を受けることによって、日常生活のさまざまな問題によりよく対処できるようになります。

 

心理教育:

病気の治療に使用される薬剤の効果について学ぶことで、患者は指示通り服用することができるようになります。中には薬によって注意力や創造性が減退すると考え、薬の服用に難色を示す人もいます。しかし、創造性が低下することは比較的まれで、通常は気分安定薬により、職場や学校、あるいは人間関係や芸術面の活動において能力が発揮できるようになります。

 

 

 躁うつ病(双極性障害)は、躁 と うつ の周期を繰り返しますが、障害年金の制度では、躁の症状についてよりも、うつの状態についてが認定のポイントとなります。障害年金の認定基準が、食事、買物、清潔保持、仕事、社会活動といった日常生活能力の制限を評価することとなっているからです。

 自殺願望が強いことや、激しい意欲低下を訴える人も多く、障害年金において比較的受給者の多い病気です。

 障害年金の認定上、双極性障害のⅡ型については躁の症状は比較的軽いので、意外と評価されません。医師に診断書の作成を依頼するときは、この点を意識し、できれば「うつ状態」について現在ある症状を伝えたほうがよいでしょう。

双極性障害Ⅰ型については、躁状態にあるときに、人間関係でトラブルを起こしたり、無計画に大きな買い物をしたり、ギャンブルなどで散財したり、大きな借金をしてしまうことがあります。したがって、双極性障害Ⅰ型については、うつ状態のみならず、躁状態も障害年金の認定上、評価対象になるでしょう。

 

うつの症状には、憂うつ気分、喜び・興味の喪失、疲労倦怠感、意欲低下、外出不能、寝たきりの生活などがあります。  また、自殺企図、希死念慮、自傷行為、入院経験などは、最も評価されやすいポイントの一つです。

 

 


気分循環性障害

気分循環性障害では、比較的軽く短い高揚(軽躁病)と、軽く短い悲しみ(うつ)が交互に現れます。

気分循環性障害は、双極性障害と似ていますが、それほど重症ではありません。気持ちの高揚や悲しみの程度は比較的軽く、数日間しか続かないのが典型で、かなり頻繁に不規則な間隔で再発します。この病気が悪化して双極性障害を発症したり、極度にむら気状態が続いたりすることがあります。

気分循環性障害は、ビジネスでの成功、リーダーシップ、功績、芸術的創造性に貢献することがあります。しかし一方で、仕事や学校の成績にむらがある、頻繁に転居する、失恋や離婚を繰り返す、アルコールや薬物依存になるといった問題の原因にもなり得ます。

 

 

人格障害(パーソナリティ障害)

誰もが様々な性格をもっているが、中にはその一部分が極端に偏ったようになり、社会生活を送る上で自分も他人も苦しませてしまうようになる人がいる。こうした方のことを「人格障害」と呼ぶ。

 人格障害(パーソナリティー障害)とは、認知(物事の捉え方・考え方)や感情や衝動のコントロール、対人関係といった広い範囲のパーソナリティ機能の偏りから、多くの人と違う反応・行動をすることで、本人が苦しんでいたり周りが困るような場合に診断される病気です。

極端な考えや行いで、社会への適応ができにくい人格的な状態です。人格障害は、従来の人格異常や精神病質の後身にあたる概念で、性格障害と呼ばれることもあります。人格障害の言葉が否定的かつ差別的なニュアンスであることから、パーソナリティ障害と呼ばれるようになりました。人間には、それぞれの考え方や行動があり、「個性」として尊重されるものです。ところが、極度の自尊や自信喪失、反社会性、強迫観念などは社会への適応性を失わせます。人格障害の一般的な診断基準は社会から逸脱していることや、柔軟性がないこと、社会的および職業的な機能障害、一生にわたる言動の持続性が挙げられます。これらの症状は、精神的疾患での薬物療法でもみられます。しかし人格障害の場合、薬物や生理学的な作用によって引き起こされるものではありません。これも診断基準のひとつだといえます。 いいかえれば人格障害は「病的な個性」ともいえ、「自我の形成不全」ともいえる状態です。さまざまな精神障害と比較すると慢性的に症状がみられ、全体の症状が長期にわたって変化しないことも特徴です。原因としては自我の形成期の家庭環境の外的要因が、生まれ持った気質を引き起こすものといわれています。

 

 

パーソナリティ障害は3つの群に分類されます。

 

A群:奇妙で風変わりな行動

 

妄想性パーソナリティ障害:

妄想性パーソナリティ障害の人は、他人を信用せず懐疑的です。特に証拠はなくても、他人が自分に悪意を抱いていると疑い、その行動の裏に敵意や悪意に満ちた動機を見出そうとします。そのため、自分では正当な報復だと思っても、他人にとっては不可解な行動をとってしまうことがあります。このような行動は人から嫌がられることが多いため、結局は、最初に抱いた感情は正しかったと思い込む結果になります。一般に性格は冷淡で、人にはよそよそしい態度を示します。

妄想性パーソナリティ障害の人は、他者とのトラブルで憤慨して自分が正しいと思うと、しばしば法的手段に訴えます。対立が生じたとき、その一部は自分のせいでもあることには思い至りません。職場では概して比較的孤立した状態にありますが、場合によっては非常に有能でまじめです。

耳が聞こえないなどの障害があって、日ごろから疎外感を感じている人は、自分に対する他者の見方や態度をよりいっそう悪い方に考えがちです。しかし、このような場合にみられる強い懐疑心は、他者に対する不当な悪意を抱かなければ、妄想性人格の証拠にはなりません。

 

統合失調質パーソナリティ障害:

統合失調質パーソナリティ障害の人には、内向的で、引っ込み思案、そして孤独です。性格は冷淡で、周囲とは距離を置こうとします。いつも自分の考えや感情に没頭していて、人と親しくなることを恐れます。無口で空想を好み、実際に行動するよりも理論的な思索を好みます。空想することが、対処(防衛)のメカニズムとしてよくみられます。

 

統合失調型パーソナリティ障害:

統合失調型パーソナリティ障害の人は、統合失調質パーソナリティ障害の人と同様に、社会的にも感情的にも孤立しています。また、思考や認知、会話にみられる奇妙さは、統合失調症に似ています。ときに統合失調症の人で、発症以前に統合失調型人格がみられる場合がありますが、統合失調型人格の成人のほとんどは、統合失調症になることはありません。

統合失調型人格の中には、自分の思考や行動は、ものごとや人をコントロールできるという考え(魔術的思考)を抱いている人がいます。たとえば、誰かに対して怒りの感情を抱くと、その人に災いを起こすことができると信じているような場合があります。統合失調型パーソナリティ障害の人には妄想もみられます。

 

 

B群:演技的で移り気な行動

 

演技性(ヒステリー性)パーソナリティ障害:

演技性パーソナリティ障害の人は際立って人の注目を集めたがり、言動が芝居がかっていて極端に感情的なところがあり、さらには外見をひどく気にします。表現力豊かで生き生きしているため、友人はすぐにできますが、たいていは表面的で一時的な関係に終わります。感情表現にはしばしば誇張や子供っぽさ、わざとらしさが感じられ、人の同情や関心(しばしばエロチックな関心や性的な関心)を集めたいように見えます。

演技性パーソナリティ障害の人は、性的欲望を挑発するような行動を取ったり、性的ではない人間関係にまで性的な要素を持ちこもうとしたりする傾向があります。しかし、本当に求めているのは性的関係ではなく、誘惑的な行動の裏に、往々にして、誰かに頼りたい、守ってもらいたいという願望が隠れていることがあります。演技性パーソナリティ障害の人が心気症的な性質を帯びている場合もあり、注意を引くために体の不調などを大げさに訴えることもあります。

 

自己愛性パーソナリティ障害:

自己愛性パーソナリティ障害の人は優越感が強く、人からの称賛を求め、人に共感する心が欠如しています。自分の価値や重要性を過大評価する傾向があり、精神療法家はそれを「誇大性」と表現します。このパーソナリティ障害の人は、失敗、敗北、批判などに極度に敏感です。失敗に直面して高い自己評価を満たせないと、すぐに激怒したり、ひどく落ち込んだりします。 

自分は周囲の他人よりも優れていると思いこんでいるので、称賛されることを期待し、人は自分をねたんでいるのではないかと疑うこともよくあります。自分の欲しいものは何でもすぐに手に入るのが当然と考えていて、他の人の欲求や信念は重要視していないため、人を平気で利用します。このような行動は、周りの反感を買い、自己中心的、傲慢、利己主義とみなされます。このパーソナリティ障害は概して成功した人にみられますが、普通の成績の人にも生じることがあります。

 

反社会性パーソナリティ障害:

反社会性パーソナリティ障害(以前は精神病質人格、社会病質人格と呼ばれていた)は男性に多く、他者の権利や感情を無神経に軽視します。人に対しては不誠実で、ぎまんに満ちています。欲しいものを手に入れる、あるいは自分が単に楽しむために人を利用します(自己愛性パーソナリティ障害の人が、自分は優れているのだから当然だと考えて人を利用するのとは異なった考え方)。

反社会性パーソナリティ障害の人は、衝動的かつ無責任に、自分の葛藤を行動で表現するのが特徴です。不満があると我慢ができず、敵意を示したり暴力的になったりすることがあります。自分の反社会的な行動の結果を考えないことが多く、人に迷惑をかけたり危害を加えたりしても、後悔や罪の意識を感じません。むしろ、言葉巧みに自分の行動を正当化したり、他の人のせいにしたりします。我慢させたり罰を与えたりしても、行動を改める動機とはならず、判断力や慎重さが身につくことはなく、かえって本人が心に抱いている極端に非感情的な世界観が固まっていきます。

反社会性パーソナリティ障害の人は、アルコール依存、薬物依存、性的に逸脱した行動、性的無規律、投獄といった問題を起こしやすい傾向があります。仕事に失敗しがちで、住居を転々と変えるケースもよくみられます。多くの場合、反社会的な行動、薬物乱用、離婚、身体的虐待などの家族歴があります。小児期に情操面での養育放棄(ネグレクト)や身体的虐待を経験していることもあります。反社会性人格の人は一般の人に比べて寿命が短い傾向があります。この障害は年齢とともに治まっていくか、安定する傾向があります。

 

境界性パーソナリティ障害:

境界性パーソナリティ障害の大半は女性であり、自己のイメージ、気分、行動、対人関係が不安定です。反社会性パーソナリティ障害に比べて思考過程に乱れがみられ、その攻撃的な感情はしばしば自分自身に対して向けられます。演技性パーソナリティ障害の人よりも怒りっぽく、衝動的で、自分のアイデンティティ(自己同一性)に混乱がみられます。境界性パーソナリティ障害は成人期初期にはっきりと現れてきますが、高齢者ではあまりみられなくなります。

境界性パーソナリティ障害の人はしばしば、小児期に保護者による養育の放棄や虐待を受けたと訴えます。その結果、虚無感、怒り、愛情への飢餓感があります。A群のパーソナリティ障害と比べて、対人関係がはるかにドラマチックで強烈です。思いやりをもって接してくれている人から見捨てられることへの恐怖感に駆られると、異常な激しさで怒りを表す傾向があります。境界性パーソナリティ障害の人は、出来事や人間関係を、白か黒、善か悪で判断し、その中間は存在しないと考えがちです。

境界性パーソナリティ障害の人は、見捨てられたと感じ、孤独感にさいなまれると、自分が本当に存在しているのかどうかわからなくなり、現実感を失うことがあります。また、やみくもに衝動的になり、見境のない性的無規律、薬物乱用、あるいは自傷行為などに走るおそれがあります。ときに、あまりにも現実から遊離してしまい、一時的に精神病性思考、妄想、幻覚が生じることがあります。

往々にして、境界性パーソナリティ障害の人はかかりつけ医の診療を受けています。また、常に誰かに手を差し伸べてもらいたいという欲求があるため、精神療法家が治療するパーソナリティ障害の中では最も多くみられます。ただし、何回も危機的状況を繰り返し、根拠のないあいまいな症状を訴えたり推奨する治療に従わなかったりするため、医師を含む治療担当者はしばしば苛立ち、自ら直そうとする努力をせず不満を並べ立てる患者とみなすことになりがちです。

 

C群:不安や抑制を伴う行動

 

回避性パーソナリティ障害:

回避性パーソナリティ障害の人は、拒絶に対して過敏で、新しい対人関係を築いたり何か新しいことを始めたりするのを恐れます。愛情や受け入れられることに対して強い欲求を抱いているにもかかわらず、失望や批判を恐れて、親密な人間関係や社会的状況を避ける傾向があります。統合失調質パーソナリティ障害とは異なり、孤独感や人とうまくかかわれないことについて率直に悩みます。また、境界性パーソナリティ障害と違って、拒絶に対して怒りを向けるのではなく、引きこもり、内気で憶病な様子をみせます。回避性パーソナリティ障害は全般的なタイプの社交恐怖に類似しています。

 

依存性パーソナリティ障害:

依存性パーソナリティ障害の人は、大きな決断や責任はいつも他人まかせにし、自分の欲求より、依存している相手の欲求を優先させます。自信に欠け、自分のことを自分でする能力について強い不安を感じています。自分には決められない、何をしたらよいかわからない、どうしたらよいかわからないといった弱音を吐くこともしばしばあります。このような行動を取る一因として、頼みとする人を怒らせるのが怖いので、自分の意見を言いたがらないということと、他の人は自分よりも能力があると信じているということがあります。他のパーソナリティ障害の人はしばしば依存性パーソナリティ障害の特性ももっていますが、より支配的な他のパーソナリティ障害の特性に隠れて目立ちません。ときとして、長期に及ぶ病気や身体障害を患う成人が依存性パーソナリティ障害を発症することがあります。

 

強迫性パーソナリティ障害:

強迫性パーソナリティ障害の人は秩序、管理といったことにこだわり、完璧主義なところがあります。信頼でき、頼りになり、きちんとしていて、きちょうめんである一方、柔軟性に欠けるため変化にうまく適応できません。慎重で、1つの問題のあらゆる局面を比較検討するため、決断を下すことが苦手です。まじめで責任感がありますが、誤りや不完全さに耐えられないため、仕事を最後まで全うできないことがよくあります。精神障害の強迫性障害とは異なり、強迫性パーソナリティ障害の場合は、自分の意思に反して反復的に想起される強迫観念や儀式的行為はみられません。

強迫性パーソナリティ障害の人は成績が良かったり高い業績を上げていたりすることが多く、特に、きちょうめんさや細心の注意が求められる科学など、知的分野の成功者に多くみられます。しかし、責任に伴う不安に常に悩まされるため、成功してもそれを喜ぶことができません。自分の感情、人間関係、自分ではコントロールできなかったり人に頼らざるを得ない状況、予測できない出来事が起こる状況に不快感を感じます。

 

 

 

その他のパーソナリティタイプ

 

パーソナリティのタイプには障害として分類されていないものもあります。

 

受動-攻撃性(拒絶症的)パーソナリティ:

受動-攻撃性パーソナリティの人の行動は、不器用そうであったり、消極的にみえます。しかしこれらの行動は、実際には責任を逃れる、あるいは人を操ったり罰したりするためのものです。ぐずぐずしたり非効率的に仕事をしたり、とても信じがたい事情を主張することがよくあります。実行に同意しながらも、自分のやりたくない仕事があると、密かにその仕事の完了を遅らせることが頻繁にみられます。通常こうした行動は、敵意や意見の相違を否定したり隠したりする役目を果たします。

 

循環気質性パーソナリティ:

循環気質性パーソナリティの人は、威勢の良い快活さと陰うつな悲観が交互にみられます。それぞれの気分は数週間ないしそれ以上続きます。気分変動は規則的で、はっきりとした外的な原因がなくても起こります。多くの才能ある創造的な人々にこのパーソナリティタイプがみられます。

 

抑うつ性パーソナリティ:

このパーソナリティタイプは慢性的に不機嫌、心配性で自意識が強いという特徴があります。抑うつ性人格の人は悲観的なものの見方をし、それが本人の自主性を損ない、人の気分を滅入らせてしまいます。また、満足感が得られたとしても、それが不当で罪深いもののように感じられます。抑うつ性人格の人は自身の苦悩が、他人の愛や賞賛を得るために必要な功徳の印であると無意識のうちに信じています。

 

 

パーソナリティ障害の影響

パーソナリティ障害の人は、アルコール依存や薬物依存などの身体的な問題につながる行動、自己破壊行動、無謀な性行動、心気症、および社会の価値観との衝突などを起こす危険性が高くなります。

パーソナリティ障害の人の子育は、一貫性のなさ、無関心、感情過多、虐待、無責任があり、子供に医学的または精神的な問題が生じることがあります。

ストレスが原因で、精神崩壊(通常の頭脳活動すらできなくなる危機的な状態)に陥りやすくなります。

精神障害を発症することもあります。どのような精神障害が発現するかは(たとえば不安、うつ病、精神病)、ある程度その人の人格障害の種類によって決まります。

パーソナリティ障害の人は、処方された治療計画にあまり従わない傾向があります。たとえ治療計画に従った場合でも、薬への反応が通常の人よりも鈍いことがよくあります。

また、自分の行動に対して責任を取ることを拒否したり、過度に疑い深く、支援や愛情を受けて当然と思っていたりするため、医師と良好な関係を築けないこともよくあります。そのため医師もその患者を非難して疑うようになり、最終的には関係を拒否するようになりがちです。

 

A群は奇妙で風変わりな行動、B群は演技的で移り気な行動、そしてC群は不安や抑制を伴う行動を特徴とします。

 

 

治療

不安、抑うつ、そしてその他の苦痛を伴う症状があれば、その軽減が最初の目標となります。薬物療法が有益です。選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)などの薬剤は、抑うつと衝動性の双方に有用です。抗けいれん薬は、衝動的な怒りの爆発を抑えるのに効果がみられます。リスペリドンなどの他の薬剤は、抑うつ、境界性パーソナリティ障害の人にみられる自分自身から離れていく感覚(離人症)の治療に効果をあげています。環境的ストレスの低減によっても、症状を速やかに緩和できます。

しかしながら、一般に薬物療法が人格特性そのものに作用することはありません。人格特性が形成されるまでには長い年月がかかるため、適応の妨げとなる特性の治療にもかなりの歳月が必要となります。パーソナリティ障害を短期間で治す治療法はありませんが、比較的早く現れる変化もあります。行動の変化は1年以内に生じ得ますが、対人関係の変化には時間がかかります。とえば、依存性パーソナリティ障害の人にとっては、「決められない」という言葉を口にしなくなることが行動の変化で、同僚や家族とかかわるようになり、意思決定の責任を買って出たり、少なくともある程度受け入れたりすることが、対人関係の変化になります。

 

治療法はパーソナリティ障害のタイプにより異なりますが、すべての治療に共通する原則がいくつかあります。普通、パーソナリティ障害の人は自分の行動に問題があると思っていないため、本人は、不適応的な思考や行動が引き起こす有害な結果に直面する必要があります。したがって、精神療法家は、本人の思考や行動パターンから生じる望ましくない結果を繰り返し指摘する必要があります。ときには、行動に制限を加えることも必要となります(たとえば、怒って声を張り上げるのを禁じる)。家族の行動は、本人の問題行動や思考を強めるにもなくすにも影響するため、家族の関与は治療に役立ち、多くの場合不可欠でもあります。グループ療法や家族療法、居住施設での共同生活、治療を兼ねた社交サークルや自助グループなどが、社会的に望ましくない行動を変えていく上で役立ちます。

パーソナリティ障害は治療が特に困難なため、経験豊富で熱意に富み、患者の心の繊細な領域や通常の対処方法を理解している精神療法家を選ぶことが重要となります。思いやりと指導のみではパーソナリティ障害を変えることはできません。大半の治療の基本となるのは心理療法で、不適応行動や対人関係のパターンに変化がみられるまで、通常1年以上続けることが必要となります。

医師と患者の間に親密で協力的な信頼関係ができると、患者は自分の悩みの根源を理解し、不適応行動を認識できるようになっていきます。精神療法は、依存、不信、傲慢、人につけこむといった対人問題の原因となる態度や行動を、本人がよりはっきりと認識するのに役立ちます。

無謀、社会的孤立、主張の欠如、かんしゃくの爆発などの不適応行動については、ときとしてデイホスピタルや居住施設内で行われるグループ療法と行動変容法の効果があります。このような不適応行動は数カ月で改善できることがあります。自助グループや家族療法への参加も、不適応行動を変える一助となります。弁証法的行動療法は境界性パーソナリティ障害に有効です。この療法は、週1回の個人精神療法およびグループ療法と、予定されたセッションとセッションの間に行われる精神療法家との電話連絡からなるものです。患者が自己の行動を理解するのを助け、問題の解決法と適応行動の指導を目的としています。境界性パーソナリティ障害および回避性パーソナリティ障害の患者には、力動的精神療法も有効です。このように、治療によって、パーソナリティ障害のある人は自分の行動が人に与える影響について顧みることができるようになります。パーソナリティ障害の中でも、特に不適応的な態度、期待、思いこみなどがみられる場合(自己愛性人格、強迫性人格など)、精神分析を受けることが勧められ、通常は少なくとも3年間続けられます。

 

 

精神疾患の場合、原則として人格障害については障害年金の対象としないとされている。人格障害は性格の偏りによるもののためである。傷病名の欄が「人格障害」だけの場合、障害年金の受給は難しい。障害年金の対象には原則としてはなりませんが、程度が大きく精神病的な側面を持っている場合には、対象になります。

 

「境界性人格障害」(IDC-10コード F-603b)については、その症状が精神病との中間的な性格を持つため、症状が重篤な場合は障害年金の対象とされる。被害関係妄想・幻聴を生じるなどの精神病(統合失調症)の病態を示す場合などである。

 「境界性」という言葉は、「神経症」と「統合失調症」という2つの心の病気の境界にある症状を示すことに由来する。例えば、「強いイライラ感」は神経症的な症状で、「現実が冷静に認識できない」という症状は統合失調症的なものである。 

 

境界性人格障害の特徴    よく見られる症状として、主に以下のようなことが挙げられます。  

 ・愛情欲求が強いために、相手が自分から去ろうとすると、それを避けようとして、異常な

ほどの努力や怒りを見せる。

・相手を理想化したかと思うと、こきおろしてしまうといったように、人に対する評価が極

端に動くので、対人関係が非常に不安定。 ・気分や感情がめまぐるしく変わり、一貫した自分のイメージが持てない。生きる目標が持てない。

・非常に衝動的で、次のことが見られる。

喧嘩 発作的な過食 リストカット 衝動買いなどの浪費 無謀運転 

覚醒剤などの薬物乱用 衝動的な性行為  など

・自殺行為、自傷行為や自殺を思わせるそぶり、脅しなどをしばしば繰り返す。

・感情がきわめて不安定で、2~3時間で気分が変わり、2~3日以上持続することはまれである。

・絶えず虚無感にさいなまれている。

・不適切なほど激しい怒りを持ち、コントロールできない。

・ストレスがあると、妄想的な考えや心のまとまりが解離してしまう解離性症状が生じることがある。

 

境界性人格障害が発症する原因    境界性人格障害が発症する原因は、はっきりとは解明されていませんが、おおまかな原因として「遺伝」と「環境」が大きく関わっていると考えられています。

 「遺伝」にまつわる要因としては、もともと境界性人格障害になりやすい性格傾向をもって生まれてくる人がいることです。  「環境」にまつわる要因としては、幼児期の虐待や、母親との愛情関係がうまく築けなかったことが大きく関わると分かっています。まず、幼い時期は母親との愛情関係を築くのに重要な時期であることは言うまでもありませんが、仮に安定的な関係が築けない場合、その後の自己の確立や感情のコントロールに大きく影響を及ぼし、人格形成に関わることが解明されてきています。子どもが成長してもなお、母親離れ・子離れがうまくできず、親子ともに依存している状態(共依存)にある人や、成長の課程で親が子供を褒めたり認めたりせず、欠点ばかり指摘して子供を否定し続け、子どもが親の価値観に合わせ過ぎた「真面目な優等生」で育ってしまった場合など、本人の自己否定感が強くなり、幸せを感じることができにくくなっている人も発症しやすいでしょう。  このように、遺伝的な要因をもった人が、育った環境によって境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害)を引き起こすことが多いようです。 

 

境界性人格障害の大半は女性であり、自己のイメージ、気分、行動、対人関係が不安定である。反社会性パーソナリティ障害に比べて思考過程に乱れがみられ、その攻撃的な感情はしばしば自分自身に対して向けられる。演技性パーソナリティ障害の人よりも怒りっぽく、衝動的で、自分のアイデンティティ(自己同一性)に混乱がみられる。

境界性人格障害の人は、出来事や人間関係を、白か黒、善か悪で判断し、その中間は存在しないと考えがちです。

境界性人格障害の人は、見捨てられたと感じ、孤独感にさいなまれると、自分が本当に存在しているのかどうかわからなくなり、現実感を失うことがあります。また、やみくもに衝動的になり、見境のない性的無規律、薬物乱用、あるいは自傷行為などに走るおそれがある。

 

 


ICDコード

成人の人格及び行動の障害 (F60-F69)  F60  特定の人格障害   例 妄想性人格障害  統合失調症質性人格障害  非社会性人格障害

情緒不安定性人格障害  衝動型人格障害  境界型人格障害(F-603b)     演技性人格障害  不安性(回避性)人格障害  依存性人格障害  F61 混合性及びその他の人格障害  F62 持続的人格変化、脳損傷及び脳疾患によらないもの   例 破局体験後の持続的人格変化  F63 習慣及び衝動の障害   例 病的賭博  病的窃盗  F64 性同一性障害  F65 性嗜好の障害   例 フェティシズム  露出症  サドマゾヒズム  F66 性発達及び方向づけに関連する心理及び行動の障害  F68 その他の成人の人格及び行動の障害  F69 詳細不明の成人の人格及び行動の障害

 

 

 

 

 

 

神経症の障害

 

 神経症は以前は「ノイローゼ」と呼ばれたものであり、精神病と混同されますが、神経症は心理的原因により生じる心身の機能障害の総称を言い、精神病とは異なる。つまり、一般の人も持つ感覚・感情が行き過ぎた状態とも言える。 

IDC-10コード F40~F59は、原則として障害年金の対象とならない神経症である。

 

(ICD-10コード)

神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害 (F40-F48)  F40 恐怖症性不安障害  F41 その他の不安障害   例 恐慌性(パニック)障害  F42 強迫性障害(強迫神経症)  F43 重度ストレスへの反応及び適応障害   例 適応障害  F44 解離性(転換性)障害   例 解離性運動障害  F45 身体表現性障害  F48 その他の神経症性障害   例 神経衰弱  神経症性障害

 

生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群 (F50-F59)  F50 摂食障害  F51 非器質性睡眠障害  F52 性機能不全,器質性障害又は疾病によらないもの   例 性欲欠如又は性欲喪失  F53 産じょく(褥)に関連した精神及び行動の障害,他に分類されないもの  F54 他に分類される障害又は疾病に関連する心理的又は行動的要因  F55 依存を生じない物質の乱用  F59 生理的障害及び身体的要因に関連した詳細不明の行動症候群

 

 

障害年金の対象となる主な精神疾患

統合失調症  気分(感情)障害  うつ病  

双極性障害(躁うつ病)  非定型精神病   境界性人格障害  器質性精神障害  認知症  老年性精神病  アルツハイマー病  高次脳機能障害  アルコール精神病  

頭蓋骨内感染に伴う精神病  脳動脈硬化症に伴う精神病  てんかん   知的障害(精神遅滞)   発達障害  自閉症  アスペルガー症候群  ダウン症候群

原則として障害年金の対象とならない神経症

パニック障害  強迫性障害  心的外傷後ストレス障害(PTSD)

身体表現性障害

適応障害  不安障害  解離性障害  転換性障害

摂食障害  睡眠障害

 

神経症は心理的原因により生じる心身の機能障害の総称を言い、精神病とは異なる。一般の人も持つ感覚・感情が行き過ぎた状態とも言える。

 

パニック障害強迫性障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD : Post Traumatic Stress Disorder)、身体表現性障害、適応障害不安障害解離性障害、転換性障害、摂食障害、睡眠障害など(IDC-10コード F40~F48)は、原則として障害年金の対象とならない神経症である。

 

神経症は精神病ほど症状が重くなく、かつ、主体的治癒可能性があるため、障害年金による生活保障を行うと疾病利得により病気を自分で治す意欲を失わせることとなると考えられていることから、障害年金の認定対象とされていない。

 原則は障害年金の対象外であるが、あまりにその状態がひどく、その臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものについては、統合失調症または気分(感情)障害に準じて取り扱う。

例えば、「パニック障害+うつ病など精神病を併発した場合、傷病名は神経症であるものの、症状が重篤で精神病と同様日常生活や社会生活を送る上で支障があるならば、認定される可能性がある。

 

診断書の「①障害の原因となった傷病名」欄に神経症(ICD-10コード:F40~F48)」のみが書かれていた場合は、障害年金の受給は難しい。

「⑬備考欄」にうつ病や統合失調症など精神病の病態について、精神病名、ICD-10コード、その程度等を具体的に記載していただくこと。

認定にあたっては、精神病の病態がICD-10コードによる病態区分のどの区分に属する病態であるかを考慮し判断される。

 

診断書の「①障害の原因となった傷病名」欄に「神経症(ICD-10コード:F40~F49)」と「気分[感情]障害(ICD-10コード:F30~F39)」が併記されていた場合に、障害年金支給対象傷病のうつ病の病態からパニック障害(神経症)を差し引くという認定が行われるケースがあります。

この場合には、日常生活能力の低下がどちらの傷病によるものなのかを医師に明確にしてもらう必要があります。

 

 

 当初、適応障害不安障害パニック障害、パニック発作などを含む)と診断され、その後に「うつ病」と診断された場合は、相当因果関係「あり」と考える。

 

 

不安障害

不安障害とは、その人の状況から考えて不釣り合いなほど激しい不安が慢性的かつ変動的にみられる状態です。

 

行動に対する不安の影響は曲線で表すことができます。不安の程度が強くなると、それに比例して行動の効率も上昇していきますが、あるところで頂点に達します。不安がさらに増すと、行動の効率は低下しはじめます。曲線が頂点に達するまでの不安は、危機に備えて機能を向上させるのに役立つため、適応反応とみなされます。ピークを越えてからの不安は、苦痛を引き起こして機能を阻害するため、不適応反応とみなされます。

 

不安は本来、脅威や精神的ストレスに対する正常な反応であり、ときとして誰でも経験します。正常な不安は危険な状況に基づいており、生き延びるための大切な機能として働いています。危険な状況に直面すると、不安が闘うか逃げるかの緊急反応(闘争-逃走反応)を誘発します。この反応とともに、心臓や筋肉への血流量が増えるなど体にさまざまな変化が生じ、攻撃してくる対象から逃げる、あるいは攻撃者を撃退するといった、危機的状況に対処するために必要なエネルギーと力が体に供給されます。一方、不安が不適切な時に生じたり、頻繁に生じる場合、あるいは日常生活に支障を来すほど不安が強く長く続く場合には、異常とみなされます。

 

体の異常や薬物の使用によって不安障害が生じることもあります。たとえば、褐色細胞腫と呼ばれる腫瘍や、甲状腺や副腎の過剰な活動によって不安が引き起こされることがあります。不安を引き起こす可能性がある薬物には、コルチコステロイド、コカイン、アンフェタミン、エフェドリンがあります。時にはカフェインの過剰摂取も不安の原因となることがあります。アルコールやある種の鎮静薬の服用を中止した場合にも不安障害の症状を誘発することがあります。高齢者の場合、不安を引き起こす最も一般的な原因は、おそらく認知症です。

 

症状

不安は、パニックを起こしたときのように突然生じることもあれば、数分間、数時間、あるいは数日間かけて徐々に生じることもあります。不安が持続する時間は、数秒間から数年間までさまざまです。不安の強さは、ほとんど気づかないほど軽いものから、息切れ、めまい、心拍数増加、ふるえ(振戦)などが生じる本格的なパニック発作まで幅があります。

不安障害は、大きな苦痛をもたらしたり日常生活の大きな妨げとなり、うつ病に至ることもあります。不安障害を患っている人(クモを恐れるといったある種の非常に特殊な恐怖症を除く)は、不安障害にかかっていない人と比べ、うつ病を発症する可能性が少なくとも2倍になります。時には、うつ病が先で後から不安障害を発症する場合もあります。

 

 

全般性不安障害

さまざまな活動や出来事について過剰な不安や心配が生じ、この状態が通常ほぼ毎日、6ヵ月以上続きます。

 全般性不安障害は漠然とした不安症状が突然あらわれる状態で、20代の女性に多い心の病気です。

不安の内容はごく一般的なものが多く、次から次へと対象が変わります。

全般性不安障害の人は常に心配事や悩みを抱え、そういった感情をコントロールするのに困難を伴います。不安の程度や頻度、持続期間は、その人の状況から考えて妥当とみられる範囲を超えています。

 

かつては「不安神経症」と呼ばれていたものを2つに分けて、慢性的な不安に悩まされている場合は「全般性不安障害」、急な発作を繰り返す場合は「パニック障害」と診断されるようになった。

 

 全般性不安障害の原因には、本人の性格、神経伝達物質の異常、周りの環境によるストレス、対人関係など様々な要因が絡み合って起こります。また、パニック障害が治った後に全般性不安障害になる場合もあります。

不安の対象はごく一般的で、時間の経過とともに別のものに変わることがよくあります。仕事上の責任、お金、健康、安全、車の修理、家事といったものが不安の対象となります。

 

全般性不安障害の症状    全般性不安障害の主な症状は、心配、運動性緊張、自律神経性過活動で、数週間以上続くことが多いです。  運動性緊張とは、頭痛、ふるえ、落ち着きがなくなる、落ち着けないなど。   自律神経性過活動には発汗、頻脈、過呼吸、胸痛、めまい、口の渇きなどがあります。

 

治療

不安障害を抑えるには精神療法と薬物療法の併用が最適です。精神療法は、不安の誘因を探り対処方法を患者と検討します。

ベンゾジアゼピンなどの抗不安薬が主に処方されます。ただし、ベンゾジアゼピンを長期にわたり服用すると依存が生じることがあるため、中止するときは、急にやめずに徐々に使用量を減らしていきます。ベンゾジアゼピンには依存の可能性や軽い副作用がありますが、通常はそれを上回る緩和効果が期待できます。

もう一つの抗不安薬ブスピロンも全般性不安障害患者の一部に効果があります。この薬は依存を引き起こしません。ただし、1時間以内に効果が現れるベンゾジアゼピンとは対照的に、効果が現れるまでに2週間またはそれ以上かかります。

一部の抗うつ薬、ベンラファキシン、パロキセチンなどの選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)なども、全般性不安障害の治療に有効です。これらの抗うつ薬は不安に対して早く効きはじめ、2~3日で不安を取り除きはじめます。最初に、ベンゾジアゼピンと抗うつ薬が投与されます。抗うつ薬の効果が出始めたら、ベンゾジアゼピンの投与量を減らしていき、服用を中止します。

カヴァ、バレリアンなどのハーブ製品は抗不安作用をもたらす可能性がありますが、全般性不安障害をはじめとする不安障害を治療するには、有効性と安全性のさらなる研究が必要です。

認知行動療法は全般性不安障害に効果があることが示されています。認知行動療法によって、どこに自分の思考のゆがみがあるのかを認識した上で、そのような思考をコントロールし、それに応じて行動を修正することを学びます。リラクセーション、ヨガ、瞑想、エクササイズ、バイオフィードバック法なども、ある程度の効果が期待できます。

 

 

 


パニック障害

 パニック障害は、突然起こる激しい動悸や発汗、頻脈(脈拍が異常に多い状態)、ふるえ、息苦しさ、胸部の不快感、めまいといった体の異常と共に、このままでは死んでしまうというような強い不安感に襲われる病気です。

 

 パニック障害が起こる原因は、恐怖や不安に関係している神経伝達物質「ノルアドレナリン」と、興奮を抑える神経伝達物質「セロトニン」とのバランスが崩れるためと考えられています。

脳内のセロトニンが増加する治療を行うと、パニック障害の改善がみられることから推測されています。

 

 パニック障害の最初の症状は、突然の動悸や呼吸困難、発汗、めまいなどの身体症状とともに強い不安や恐怖感を伴うパニック発作です。  パニック発作自体は、多くの場合20~30分くらいでおさまりますが、何回か繰り返すうちに、また発作を起こしたらどうしようという、パニック発作に対する強い恐怖感や不安感が生まれるようになります。これは、「予期不安」といわれます。  予期不安は、逃げ場のないような場所でのパニック発作や、発作を他人や大勢の人に見られることの恥ずかしさといった不安や恐怖を生み、大勢の人が集まる場所や、過去に発作を起こした場所を避ける行動をとるようになります。これが、「広場恐怖(外出恐怖)」といわれます。

診断    パニック障害の診断は問診が中心です。 

 この基準は13のチェック項目があり、4つ以上当てはまるとパニック障害の可能性があるとされています。  ・心臓がドキドキしたり、脈拍が増加する   ・手の平や、全身に汗をかく    ・体や、手足がふるえる   ・息切れ感や、息苦しさを感じる   ・窒息感、または喉が詰まった感じがする    ・胸の痛みや圧迫感、不快感がある   ・吐気や腹部の不快感がある  ・めまい、ふらつき、または気が遠くなるような感じがする    ・現実感が失われ、自分が自分ではない感覚が起こる    ・自分をコントロールできなくなる恐怖や、気が狂う恐怖に襲われる  ・このままでは死んでしまうという恐怖を感じる  ・体の一部にしびれ感や、うずきを感じる    ・冷たい感じや、ほてった感覚がある

 「パニック発作」と「予期不安」、「広場恐怖」はパニック障害の3大症状といわれる特徴的な症状であり、この3つの症状は、悪循環となってパニック障害をさらに悪化させます。パニック障害が悪化すると、人前に出るのを嫌って閉じこもるようになり、正常な社会生活が維持できなくなります。さらに悪化すると、うつ病を併発することもあります。

 

 

恐怖性障害

恐怖症とは、特定の状況や環境、あるいは対象物に対する非現実的で激しい不安や恐怖感が持続する状態です。

恐怖症によって不安が引き起こされ、患者は特定の活動や状況を避けるため、日常生活に支障を来すことがあります。

 

広場恐怖

広場恐怖とは、すぐに逃げられないような状況や場所に追い込まれることに不安を抱くもので、不安やパニックに襲われたとき、そうした状況をしばしば避けようとします。

 

社交恐怖

社交恐怖(社交不安障害)は、特定の社会的状況や人前に出る状況に対しておそれや不安を抱くもので、そうした状況をしばしば避けようとします。

 

特定の恐怖症

特定の恐怖症とは、特定の対象物や状況に不合理な恐怖感を抱く状態をいいます。

特定の恐怖症にはさまざまなタイプがあり、1つのグループとしてみると不安障害の中で最も一般的なものですが、他の不安障害ほど治療に手を焼くことはありません。特定の恐怖症は任意の12ヵ月間で、女性の約13%、男性の約4%に生じます。

 

一般的な恐怖症の例

高所恐怖症

飛行恐怖症

閉所恐怖症

尖鋭恐怖症

針やピンなど尖った物を恐れる

注射恐怖症   など

 

 

強迫性障害

 強迫性障害は不安障害の一種です。たとえば「手が細菌で汚染された」という強い不安にかきたてられて何時間も手を洗い続けたり、肌荒れするほどアルコール消毒をくりかえすなど、明らかに「やりすぎ」な行為をともないます。

世界保健機関(World Health Organization:WHO)の報告では、生活上の機能障害をひきおこす10大疾患のひとつにあげられています。

 

 強迫性障害では、自分でもつまらないことだとわかっていても、そのことが頭から離れない、わかっていながら何度も同じ確認をくりかえしてしまうことで、日常生活にも影響が出てきます。意志に反して頭に浮かんでしまって払いのけられない考えを強迫観念、ある行為をしないでいられないことを強迫行為といいます。たとえば、不潔に思えて過剰に手を洗う、戸締りなどを何度も確認せずにはいられないといったことがあります。

 

強迫性障害のサイン・症状  「強迫観念」と「強迫行為」の2つの症状があります  強迫観念とは、頭から離れない考えのことで、その内容が「不合理」だとわかっていても、頭から追い払うことができません。  強迫行為とは、強迫観念から生まれた不安にかきたてられて行う行為のこと。自分で「やりすぎ」「無意味」とわかっていてもやめられません。

 

代表的な強迫観念と強迫行為

 

不潔恐怖と洗浄  汚れや細菌汚染の恐怖から過剰に手洗い、入浴、洗濯をくりかえすドアノブや手すりなど不潔だと感じるものを恐れて、さわれない。

 

加害恐怖  誰かに危害を加えたかもしれないという不安がこころを離れず、新聞やテレビに事件・事故として出ていないか確認したり、警察や周囲の人に確認する。

 

確認行為  戸締まり、ガス栓、電気器具のスイッチを過剰に確認する(何度も確認する、じっと見張る、指差し確認する、手でさわって確認するなど)。

 

儀式行為  自分の決めた手順でものごとを行なわないと、恐ろしいことが起きるという不安から、どんなときも同じ方法で仕事や家事をしなくてはならない。

 

数字へのこだわり  不吉な数字・幸運な数字に、縁起をかつぐというレベルを超えてこだわる。

 

物の配置、対称性などへのこだわり  物の配置に一定のこだわりがあり、必ずそうなっていないと不安になる。

 

 

これまで神経症に分類されていた傷病のうち、パニック障害と強迫性障害は、最近、内因性であるという学説が有力となり、それを根拠に強迫性障害については社会保険審査会裁決で認定された。

 

 

心的外傷後ストレス障害(PTSD:Post-Traumatic Stress Disorder)

 心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、突然の不幸な出来事によって命の安全が脅かされたり、天災、事故、犯罪、虐待などによって強い精神的衝撃を受けることが原因で、心身に支障を来し、社会生活にも影響を及ぼす様々なストレス障害を引き起こす精神的な後遺症、疾患のことである。

 心の傷は、心的外傷またはトラウマと呼ばれる。トラウマには事故・災害時の急性トラウマと、児童虐待など繰り返し加害される慢性の心理的外傷がある。

 心的外傷後ストレス障害は地震、洪水、家事のような災害、または事故、戦争といった人災、あるいはいじめ、テロ、監禁、虐待、強姦、体罰などの犯罪、つまり、生命が脅かされたり、人としての尊厳が損なわれるような多様な原因によって生じうる。

 

 

急性ストレス障害では、非常に強いトラウマ体験の直後に短期間、その記憶が容赦なくよみがえります。心的外傷後ストレス障害と似ていますが、トラウマ体験から4週間以内に始まり、2日~4週間で治まるという経過が異なります。

急性ストレス障害の患者は、恐ろしい出来事に直面した経験があります。患者はその出来事を頭の中で繰り返し再体験し、それを思い出させるものを避けようとし、不安が増大します。

 

また、次の症状のうち3つ以上がみられます。

感覚の麻痺、外界との分離感、感情的反応の欠如

周囲に対する意識の低下(ぼうっとしているなど)

ものごとが現実ではないという感覚

自分が自分ではないという感覚

トラウマ体験の核心部分について思い出せなくなる

 

急性ストレス障害の発症者の数はわかっていません。トラウマ体験が強烈であればあるほど、急性ストレス障害になる可能性が高くなります。

 

治療

トラウマ体験をした状況から離れ、自分の苦しみに理解や共感を示してもらいながら適切なサポートを受け、起きた出来事とそれに対する自分の反応について話す機会が与えられることで、多くの人が急性ストレス障害から回復します。自分の体験を何回か話すことで効果がみられる場合もあります。

 

 


適応障害

 適応障害とは、「ストレス因により引き起こされる情緒面や行動面の症状で、社会的機能が著しく障害されている状態」(ICD-10 世界保健機構の診断ガイドライン)と定義されています。

ストレスとは「重大な生活上の変化やストレスに満ちた生活上の出来事」です。ストレス因は、個人レベルから災害など地域社会を巻き込むようなレベルまで様々です。 また、ある人はストレスに感じることがほかの人はそうでなかったりと、個人のストレスに対する感じ方や耐性も大きな影響を及ぼします。つまり適応障害とは、ある生活の変化や出来事がその人にとって重大で、普段の生活がおくれないほど抑うつ気分、不安や心配が強く、それが明らかに正常の範囲を逸脱している状態といえます。

 

 さらに、「発症は通常生活の変化やストレス性の出来事が生じて1カ月以内であり、ストレスが終結してから6カ月以上症状が持続することはない」とされています。ただし、ストレスが慢性的に存在する場合は症状も慢性に経過します。もうひとつ重要な点は、ほかの病気が除外される必要があります。統合失調症うつ病などの気分障害不安障害などの診断基準を満たす場合は、こちらの診断が優先されることになります。適応障害と診断されても、5年後には40%以上の人が うつ病 などの診断名に変更されています。つまり、適応障害はその後の重篤な病気の前段階の可能性もあるといえます。

 

適応障害のサイン・症状気  適応障害には、抑うつ気分、不安、怒り、焦りや緊張などの情緒面の症状があります。置かれている状況で、何かを計画したり続けることができないと感じることもあるでしょう。また行動面では、行きすぎた飲酒や暴食、無断欠席、無謀な運転やけんかなどの攻撃的な行動がみられることもあります。子どもの場合は、指しゃぶりや赤ちゃん言葉などのいわゆる「赤ちゃん返り」がみられることもあります。不安が強く緊張が高まると、体の症状としてどきどきしたり、汗をかいたり、めまいなどの症状がみられることもあります。適応障害ではストレス因から離れると症状が改善することが多くみられます。たとえば仕事上の問題がストレス因となっている場合、勤務する日は憂うつで不安も強く、緊張して手が震えたり、めまいがしたり、汗をかいたりするかもしれませんが、休みの日には憂うつ気分も少し楽になったり、趣味を楽しむことができる場合もあります。しかし、うつ病となるとそうはいかないことがあります。環境が変わっても気分は晴れず、持続的に憂うつ気分は続き、何も楽しめなくなります。これが適応障害と うつ病 の違いです。持続的な憂うつ気分、興味・関心の喪失や食欲が低下したり、不眠などが2週間以上続く場合は、うつ病と診断される可能性が高いでしょう。

 

 

 不安障害やうつ病に似ているが、それらの診断分類には当てはまりません。

 不安障害やうつ病のような症状があり、そのために日常生活に支障をきたしていながら、どちらの診断基準も満たさないものを、適応障害と呼ぶことができます。

 

 


解離性障害

 私たちの記憶や意識、知覚やアイデンティティ(自我同一性)は本来1つにまとまっています。解離とは、これらの感覚をまとめる能力が一時的に失われた状態です。たとえば、過去の記憶の一部が抜け落ちたり、知覚の一部を感じなくなったり、感情が麻痺するといったことが起こります。ただ、解離状態においては通常は体験されない知覚や行動が新たに出現することもあります。異常行動(とん走そのほか)や、新たな人格の形成(多重人格障害  など)は代表的な例です。

 

これらの解離現象は、軽くて一時的なものであれば、健康な人に現れることもあります。こうした症状が深刻で、日常の生活に支障をきたすような状態を解離性障害といいます。原因としては、ストレスや心的外傷が関係しているといわれます。この心的外傷には様々な種類があります。災害、事故、暴行を受けるなど一過性のものもあれば、性的虐待、長期にわたる監禁状態や戦闘体験など慢性的に何度もくりかえされるものもあります。そのようなつらい体験によるダメージを避けるため、精神が緊急避難的に機能の一部を停止させることが解離性障害につながると考えられています。

 

 

解離性障害の症状

 解離性障害には様々な症状があります。世界保健機構の診断ガイドラインICD-10では、解離性障害のカテゴリーには次のようなものがリストアップされています。

 

解離性健忘

解離性健忘はトラウマやストレスによって引き起こされる健忘で、自分にとって重要な情報が思い出せなくなる状態をいいます。

記憶の空白期間がみられ、数分から何年にも及ぶ場合があります。

検査によって他の疑われる原因を除外した後、心理検査によって診断します。

記憶想起法では催眠と薬物を利用した面接が行われ、記憶の空白期間を埋めるのに利用されます。

患者が障害の引き金となった体験に対処できるようにするには、精神療法が必要となります。

最近のことや昔の出来事をまったく覚えていなかったり、部分的に思い出せなかったりすることを健忘といいます。その原因が身体的なものではなく精神的なものである場合には、解離性健忘と呼ばれます。

解離性健忘の場合、普通は意識的に自覚している日常の情報や、自分自身についての記憶(自分が誰で、どこへ行き、誰と話し、何をし、何を言い、何を考え、何を感じたかなど)が失われます。往々にしてそれは、トラウマとなったり、ストレスを与えたりする出来事に関する情報です。情報自体は忘れてしまっていても、その人の行動には引き続き影響を与えていることもあります。

この疾患は若年成人に最も多くみられ、通常は戦争、事故、自然災害などを体験しています。また、この疾患によって小児期に受けた性的虐待の記憶を閉ざしてしまうこともあります。トラウマ体験の後、しばらくの間解離性健忘が続く可能性があります。ときには、治療しなくても自然に記憶を取り戻すケースもあるようです。記憶を取り戻しても、他者に確認してもらわない限り、それが本当に過去の出来事を反映しているのかどうかは不明な場合がほとんどです。

 

症状

最も一般的な症状は、記憶の喪失です。記憶を喪失した直後は混乱することもあります。多くの人は健忘によって軽度の抑うつ状態になったり、大きな苦痛に悩まされます。たいていの場合、記憶に一つあるいは複数の空白期間があります。空白期間は、一般に数分間から数時間、あるいは数日間に及びますが、数年間あるいは過去の人生をすべて忘れることもあります。患者の大半は時間を失ったことを認識しています。しかし中には、記憶がよみがえったり、記憶にはないが、自分がした何らかの行為の証拠を示されたりして、後から失われた時間(空白期間)に気づく人もいます。ある期間に起きた出来事の一部を忘れているだけで、それ以外は覚えている場合もあります。また、それまでの全人生を思い出せない場合や、起きたことを次々に忘れてしまう場合もあります。

 

治療と予後(経過の見通し)

治療はまず、患者に安心感と信頼感をもたせることから始まります。欠落した記憶が自然に回復しない場合や、緊急に記憶を取り戻す必要がある場合は、記憶想起法がしばしば効果を発揮します。催眠と薬物を利用した面接(バルビツール酸やベンゾジアゼピンなどの鎮静薬を静脈内投与した上で行う面接)の中で、医師が過去のことについて質問します。この催眠と薬物を利用した面接は、記憶の空白期間についての患者の不安を軽減するとともに、苦痛に満ちた経験や葛藤を思い出さないようにするために患者が心の中に築いた防御を突破、あるいは迂回するのに役立ちます。しかしながら医師は、どのようなことを思い出すべきか示唆したり、極度の不安を引き起こしたりしないように注意しなければなりません。さらに、この方法で再生された記憶は正確でないこともあるため、他の人や関係者による確認も必要となります。そのため、面接に先立ち、医師は患者に対し再生された記憶が正確でない場合もある旨を告げ、同意を得ます。

記憶の空白期間をできるだけ埋めることにより、その人の自己同一性や自己認識に連続性を取り戻すことができます。健忘の解消後も心理療法を継続することで、患者は原因となったトラウマや葛藤を理解し、解決方法を見出し、生活を続けていくことができるようになります。

大半の人は、欠落した記憶と思われるものを取り戻し、健忘の原因となった心の葛藤の解決に至ります。しかし、中には心のバリアを突き破ることができず、失った過去を再構築できない人もいます。

 

 

解離性とん走

解離性とん走では、何の前触れもなしに突然、しかし目的をもって家から飛び出し、その間は自分が誰なのか(自己同一性)など、それまでの人生の一部または全部を思い出せなくなります。これはとん走と呼ばれます。

 

一般に解離性とん走は、戦争、事故、自然災害、あるいは小児期の性的虐待などの重大なトラウマによって引き起こされます。

 

 

カタレプシー  体が硬く動かなくなること。

 

 

解離性昏迷  体を動かしたり言葉を交わしたりできなくなること。

 

 

離人症  自分が自分であるという感覚が障害され、あたかも自分を外から眺めているように感じられます。

 

 

解離性てんかん  心理的な要因で、昏睡状態になる、体が思うように動かせなくなる、感覚が失われるなどの症状が現れます。

 ほかにも、ヒステリー性運動失調症、ヒステリー性失声症、解離性運動障害、失立、心因性失声、心因性振戦、解離性痙攣、憤怒痙攣、解離性感覚障害、心因性難聴、神経性眼精疲労、ガンサー症候群、亜急性錯乱状態、急性精神錯乱、心因性もうろう状態、心因性錯乱、多重人格障害、反応性錯乱、非アルコール性亜急性錯乱状態なども解離性障害の一種です。

 

 

解離性同一性障害

解離性同一性障害は、以前は多重人格障害と呼ばれていたもので、2つ以上の自己同一性(アイデンティティ)が同一人物の中に交代して現れる状態をいいます。

小児期の極端なストレスは、自分の経験をまとまりのある1つの自己同一性へと統合するのを妨げることがあります。

患者には複数の人格が存在し、それぞれの人格は互いの存在を知っていることも知らないこともあり、人格間の相互作用もみられます。その他の症状として、激しい頭痛、記憶の空白期間、自傷行為の傾向などが挙げられます。

場合によっては催眠や鎮静薬と併用して行われる、徹底的な精神医学的面接および特殊な質問票は、診断を下すのに役立ちます。

広範な心理療法は、患者のもつ複数の人格を一つに統合するのに役立つ場合があります。あるいは、少なくとも人格同士に協調性をもたせることができるようになります。

解離性同一性障害がみられる人の割合は約1%です。

 

原因

解離性同一性障害は、いくつかの要因の相互作用によって引き起こされるとみられています。それには以下の状態が含まれます。

極度のストレス

自分の記憶、知覚、自己同一性などを意識から切り離す能力

精神の発達異常

小児期の保護や養育の不足

 

小児は成長過程で、異なるタイプの複雑な情報や経験を、結束性があり、かつ複雑な自己同一性に統合する方法を習得しなければなりません。虐待を受け、重大な喪失やトラウマを経験した小児では、自分自身のさまざまな情動や知覚と他者のそれらが切り離されたまま、この段階を通り過ぎてしまうことがあります。この分離が多重人格の発達につながります。しかし、このような傷つきやすい小児のほとんどは、十分に大人の保護を受けて安心感を得ているので、解離性同一性障害にはなりません。

 

症状

往々にして解離性同一性障害の人は、他の精神障害に似て各種の身体疾患のような症状を訴えます。たとえば、激しい頭痛やその他の肉体的苦痛が生じたり、性機能不全になったりすることがあります。そのときによって異なるグループの症状群が発症します。中には、実際に別の病気の存在を意味するものもありますが、過去の体験が現在に侵入し、それが症状に反映されている場合もあります。たとえば悲しみに沈んでいる状態はうつ病の併存を示唆することもありますが、多重人格の1つが過去の不幸に根ざした感情を再体験している場合もあります。

患者は自傷行為に走る傾向があります。薬物乱用、自傷行為、自殺未遂などの徴候がよく現れます。虐待を受けた相手に依然として深い愛着を抱いている患者もいます。

患者の複数の人格の中には、他の人格が知らない重要な個人的情報を知っている人格が存在することがあります。内面の複雑な世界の中で、いくつかの人格は互いの存在を知っていて、人格間の相互作用もあるようにみえます。たとえば、人格Aは人格Bの存在を知っていて、まるでBを観察していたかのようにBの行動を把握しています。人格Bは人格Aの存在を認識している場合もあれば、そうでない場合もあり、同居する他の人格についても同様のことが言えます。

人格が入れ代わったり、ある人格のとった行動をその他の人格が認識していなかったりすると、しばしば生活に大混乱を招きます。人格同士の相互作用が頻繁に起こるため、患者は自分の内面から会話が聞こえる、あるいは人格が患者の行動について意見を言ったり、話しかけたりする声が聞こえると訴えることがあります。

患者は時間の流れがゆがむような感覚があり、時間の空白や健忘なども生じます。健忘が生じた後、自分では説明できない、あるいは見覚えのない物品を発見したり、手書きの文字を見つけることがあります。また、最後に覚えているのとは違う場所にいることに気づき、どのようにしてそこに辿り着いたのか見当もつかないこともあります。解離性同一性障害では、自分がしたことを覚えていなかったり、自分の行動の変化を説明できないことがあります。よく自分のことを「私たち」「彼」「彼女」などと表現しますが、理由は自分でもわからないこともあります。ほとんどの人が、生まれてから最初の3~5年間のことはあまり覚えていないものですが、解離性同一性障害の人では、6~11歳の期間についても多くのことを思い出せません。

患者は自分自身から遊離して(離人症)、見慣れた人々や環境が、親しみのない、見知らぬ、非現実的なもののように感じられることがあります(現実感消失)。自分自身に対するコントロールや、他者に対するコントロールのいずれにも不安を抱きます。

解離性同一性障害は慢性的で、何もできない状態に陥ったり命にかかわる可能性もありますが、多くの場合は日常生活にあまり支障がなく、創造的で生産的な生活を送っている人も多くいます。

 

予後(経過の見通し)

症状の中には、自然に現れたり消えたりするものもありますが、解離性同一性障害が自然に治ることはありません。どの程度回復するかは患者の症状や障害の特性によって異なります。たとえば、重い精神障害を併発していたり、生活機能が低下していたり、あるいは自分を虐待した相手に依然として深い愛着を抱いていたりする場合、あまり回復は見込めません。このような患者では長期の治療が必要であり、また治療が成功する見込みも少なくなります。

 

治療

通常、多数の人格を1つに統合することが治療の目的になります。しかし、必ずしも成功するとは限りません。統合が難しい場合は、その人の中の複数の人格同士の関係に協調性をもたせ、正常に機能できる状態にすることを目指します。

薬物療法により、不安や抑うつなどの合併症状が軽快することはありますが、この障害自体には作用しません。

精神療法は往々にして長く忍耐力が必要とされ、感情的な苦痛を伴います。その人の中に存在する複数の人格が取る行動や、治療中にトラウマ体験の記憶がよみがえって生じる絶望感から、何度も感情の危機的状態に陥るおそれがあります。つらい時期を乗り越え、特に苦痛に満ちた記憶に向き合えるようになるまで、患者は精神科の医療機関に何回か入院する必要があるかもしれません。一般に週2回以上の精神療法セッションを最低3~6年行う必要があります。

 

 


離人症性障害

 

離人症性障害では、持続的に、あるいは反復的に、自分の体や精神機能から遊離している感覚があり(離人症)、自分の人生を外側から観察しているように感じます。

通常この障害は、生命を脅かすような危険や他の重度のストレスが引き金となります。

自己と遊離する感覚は周期的または継続的に起こります。

検査によって他の疑われる原因を除外した後、心理検査によって診断を確定します。

患者によっては心理療法や認知行動療法が有効です。

一時的に自己から遊離する感覚(離人感)は、不安や抑うつに次いで3番目によくみられる精神症状です。この感覚がしばしば起きるのは、生命にかかわる危険を経験したり、特定の薬物(マリファナ、幻覚剤、ケタミン、エクスタシーなど)を服用したり、とても疲れたり、あるいは睡眠や感覚刺激が奪われたりした後です(集中治療室の滞在中に生じることもあります)。離人症性障害は人口の約2%に発症します。

 

症状

自分の体、精神、感情、あるいは感覚から遊離している感じがします。患者は、自動制御されているような非現実的な感覚があり、夢の中かどこか別の場所にいて現実世界から遊離しているようだと訴えることがあります。自分自身を「生ける屍」と表現することがあります。ほとんどの場合、症状は著しい不快感を伴います。中には耐えがたいと感じる人もいます。

症状はしばしば持続します。症状は患者の約3分の1で繰り返し現れ、約3分の2では絶えず症状があります。ときに一時性の症状が持続型になることがあります。

自分の症状をうまく説明できず、正気を失いかけているのではないかと恐れる、あるいはそうだと思いこむことがよくあります。しかしながら患者は常に、自分の非現実的な体験が実際のものではなく、ただ自分がそう感じているだけであることを認識しています。このような認識がある点で、離人症性障害は精神病性障害とは区別されます。精神病性障害のある人には、常にこのような認識が欠如しています。

 

診断

医師は、症状に基づき離人症性障害を疑います。診察ならびに場合によっては他の検査を実施して、精神障害や薬物乱用など、症状の原因となっている他の病気を除外します。MRI(磁気共鳴画像)検査、脳波検査(EEG)、ならびに薬物をチェックする尿検査が行われます。

心理検査や、体系化された特別な面接および質問票が診断に役立ちます。

 

治療と予後(経過の見通し)

離人症性障害の多くは、治療しなくてもよくなることがあります。障害が持続性または再発性の場合や、本人の苦痛を伴う場合に限り治療を行います。力動的精神療法や認知行動療法で効果がみられたケースもあります。離人症性障害は、他の精神障害が関係していたり、それが引き金となることも多く、そのような場合には治療が必要です。発症に何らかのストレスがかかわっている場合には、その対処も必要となります。

 

治療法には次のものがあります。

認知的技法は、非現実的な状態に対する強迫的思考を阻止するのに有用です。

行動的技法は、課題に没頭させることで患者の気を離人症からそらすのに有用です。

グラウンディングの技法は、五感(聴覚、触覚、嗅覚、味覚、視覚)を使い、自分自身や現実世界と結ばれているという感覚を得るのに有用です。たとえば、大音量の音楽をかけたり、手のひらに氷のかたまりを乗せたりします。このような感覚は無視することが難しいため、患者は現実に生きる自分自身の存在を認識します。

力動的技法は、患者が、意識と解離している耐えがたい葛藤やそれに伴う感情を克服できるよう手助けすることに重点を置いています。

治療により、通常はある程度の効果が得られます。多くの患者が完全に回復し、特に発症に関連するストレスが治療により対処可能な場合には、ほぼ確実に回復します。治療を行ってもあまり効果がみられない患者もいますが、やがて自然に快方へ向かう場合もあります。どのような治療でも効果がみられないケースも、少数ながら存在します。抗不安薬および抗うつ薬は、特に不安や抑うつも併発している場合に、ときとして有用なことがあります。

 

 

 


摂食障害

 摂食障害は、極度のダイエットや過度な食事の摂取などから、健康面でさまざまな問題が引き起こされるものです。

 心理的要因や社会的要因などが関係した食行動の異常障害を言います。

 

 摂食障害の原因は、人間関係の問題によるストレスや不適応、コミュニケーションの不全などとされていて、依存症の一種に分類されます。

 

摂食障害は3つの群に分類されます。

 

神経性無食欲症:

神経性無食欲症は、痩せていることへの執拗なまでのこだわり、体形イメージのゆがみ、太ることへの極度の恐れ、最低限の正常体重を維持することの拒否、そして女性の場合は無月経といった特徴があります。

神経性無食欲症は、通常、青年期に発症し、女性の間に多くみられます。

患者は、体重が減り続けているにもかかわらずダイエットにこだわり、頭の中は食べ物のことにとりつかれ、問題を抱えていることを否定します。

体重が大幅に、あるいは急激に減少した場合は、生命にかかわる結果を招きかねません。

診断は症状に基づいて行われ、診察と検査を実施して、過度の体重減少による悪影響を調べます。

通常は1年から2年の認知行動療法が有効です。

神経性無食欲症の発症には、遺伝的および環境的要因がかかわっています。やせたいという願望は欧米社会に浸透していて、肥満は魅力がなく、不健康で、好ましくないと思われています。思春期前でさえ、子供はこのような世の中の風潮に気づいていて、青年期前の少女の半数以上が、ダイエットなど何らかの方法で体重をコントロールしています。とはいえ、これらの少女のうち神経性無食欲症へ進行する割合はわずかです。精神的な感受性など他の要因が素地となって、特定の人が神経性無食欲症になると考えられます。食料が本当に不足している地域では、神経性無食欲症はめったにみられません。

この疾患はより早い年代に始まることもありますが、通常は青年期に始まり、成人期以降の発症は少なくなります。神経性無食欲症になる人の大半が、社会的・経済的に中流以上の階層に属しています。欧米社会では、この疾患になる人の数が増えつつあるようです。男性は約0.3%にすぎないのに比べ、女性では約0.9%が重篤な神経性無食欲症を発症します。しかし、軽症の場合は気づかれないこともあります。

 

症状

神経性無食欲症は、軽症で一過性の場合と、重症で長く継続する場合とがあります。

食事や体重を気にするようになるのが、やがて現れる異常の最初の徴候です。神経性無食欲症になる人の大半は既にやせているため、そのようなことを気にするのは不自然に見えます。やせるにつれて体重への先入観と不安は強くなります。衰弱してもなお、自分は太っている、体に悪いところはないと主張し、体重減少を訴えず、普通は治療を拒みます。

神経性無食欲症という病名とはうらはらに、この疾患になった人は実際には空腹で、食べもののことばかり考えています。ダイエットを研究したりカロリー計算をしたりします。食べものをためこんだり隠したりして、意図的にだめにすることがあります。料理のレシピを集めたり、人のために手の込んだ料理を作ったりもします。

神経性無食欲症の約30~50%の人は、むちゃ食いをした後に嘔吐や下剤で食べたものを排出します。その他の人は、単に食事の量を制限します。またしばしば、自分が食べた量についてうそをつき、嘔吐など食事に関係した奇妙な習慣については秘密にします。多くの人が腹部膨満感の解消や減量のために、利尿薬(腎臓に働きかけてより多くの水分の排泄を促す薬剤)を服用します。

 

神経性無食欲症の女性は、ときには体重が大きく減るよりも先に月経が止まります。男女ともに性欲が低下することがあります。一般に、心拍数低下、低血圧、体温低下、毛髪が細く柔らかくなる、あるいは体や顔の毛が濃くなるといった症状がみられます。水分の貯留によって組織の腫れやむくみ(浮腫)が生じます。腹部膨満、腹部不快感、便秘などを訴えることがよくあります。自己誘発性嘔吐は、歯のエナメル質の溶解、ほおの唾液腺(耳下腺)の腫れ、食道の炎症などを引き起こします。うつ病もよくみられます。

やせ細っても活動的なままの傾向があり、しばしば体重をコントロールしようと過度の運動を行います。衰弱するまでは栄養不良の症状はほとんどみられません。

神経性無食欲症に伴うホルモンの変化としては、エストロゲン(女性の場合)と甲状腺ホルモンの著しい減少や、コルチゾールの増加があります。深刻な栄養不良の状態になると、体内のすべての主要器官が影響を受けます。骨密度が減少し、骨粗しょう症のリスクが増加します。

 

神経性無食欲症の患者には、しばしば次のような言動がみられます。

非常に痩せているにもかかわらず、太っていると訴える

自分が痩せていることを認めない

常に食べもののことばかりを考えている

食物の分量を量る

食べものをためこんだり隠したりして、意図的にだめにする

人のために手の込んだ料理を作る

食事を抜く

食事をしたと見せかけ、食べた分量についてうそをつく

強迫的に運動をする

大きいサイズの衣服を身につけたり、重ね着をしたりする

日に何度も体重を量る

どれだけ痩せているかに基づいて自己評価する

 

体重が急激に、あるいは大幅に減少した場合は、生命にかかわる問題を引き起こすことがあります。心臓、水分や電解質(ナトリウム、カリウム、塩素イオン)の問題が最も危険です。

心臓が弱くなると全身に血液を送り出す力が低下します。

脈拍の異常(不整脈)を生じることがあります。

脱水状態になったり、失神しやすくなったりします。

血液がアルカリ性になります(代謝性アルカローシス)。

血液中のカリウム値が低下します。

食べたものを吐いたり、下剤や利尿薬の使用によって、状態がさらに悪化することがあります。

不整脈が原因とみられる突然死が起こることもあります。

 

予後(経過の見通し)

治療をしなければ、重篤な神経性無食欲症患者のほぼ10%が死亡します。症状が軽く気づかれない程度のケースでは、死亡することはめったにありません。治療を行えば、約半数の患者は減少した体重をほとんどまたは完全に取戻し、この疾患が原因となっている内分泌の異常や他の症状も改善します。約4分の1の患者で、症状に多少の改善がみられ、体重も若干増えますが、周期的に元の食習慣に戻ってしまうこともあります(再発)。残りの4分の1では、再発が頻繁にみられ、この疾患が原因で生じる身体的および精神的な問題が継続して現れます。

 

治療

体重が急激に、または大幅に減少した場合には(たとえば、標準体重から25%以上の大幅な減少がみられる場合など)、まず体重をすみやかに回復することがきわめて重要です。確実に十分なカロリーと栄養素を摂取するため、入院したほうがよい場合があります。食べることが最善の治療法ですが、まれに鼻から喉を経由して胃に挿入したチューブ(経鼻胃管)による栄養補給が必要になることがあります。医師は神経性無食欲症による問題を調べ、何かあれば治療します。たとえば、骨密度が減少していれば、カルシウムやビタミンDを含むサプリメントを使用し、ときとしてアレンドロン酸、イバンドロン酸、リセドロン酸などのビスホスホネート製剤を投与することがあります。入院中は、患者に対して精神医学的カウンセリングや栄養カウンセリングが行われます。また患者は、入院することで、本人にとっていつもの環境から抜け出し、機能障害を起こした食習慣や行動を断ち切ることができます。このようにして、入院は症状悪化のコースを反転させます。

しかし、ほとんどの場合、治療は外来で行います。一般的には、認知行動療法が治療に利用されています。通常治療期間は、減少した体重が元に戻れば1年、依然として低体重であれば最長2年までを要します。認知行動療法は、神経性無食欲症を発症して6カ月未満の青年期の患者により有効です。神経性無食欲症の患者は、大半が治療や体重の回復を望んでいないため、精神療法が特に重要となります。青年期の患者には家族療法が役立ちます。この療法により、家族間の意思疎通が改善され、親は病気になった青年期の子供が体重を取り戻す手助けについて学びます。

治療には医師による定期的も診察が含まれます。治療には栄養士も参加して具体的な食事療法のプランや正常レベルの体重を回復するのに必要なカロリーの情報を提供してくれます。

神経性無食欲症を治療する特定の薬はありません。しかしながら、オランザピンなどの新しい抗精神病薬は、体重増加を助け、肥満に対する過剰な恐れを軽減するのに有効です。フルオキセチンのような選択的セロトニン再取込み阻害薬(抗うつ薬の一種)は、患者が体重を回復した後、再び体重が減少するのを防ぐのに役立ちます。この薬は、抑うつ状態がみられる場合、特に有用です。

 

 

神経性大食症:

神経性大食症は、大量の食物を短時間に次から次へと摂取し(むちゃ食い)、その後で食べたものを体から排除しようとする行為(排出行動)を繰り返し行うことが特徴です。

患者は大量の食物を摂取した後、嘔吐を誘発したり、下剤を使用したり、あるいは食べた代償として激しい運動をしたりします。

過度に体重を気にしたり、体重の変動が激しかったりする場合は、神経性大食症が疑われます。

治療には、認知行動療法、選択的セロトニン再取込み阻害薬(抗うつ薬の一種)を利用するか、その両者が併用されます。

 

神経性大食症は神経性無食欲症と同様に、遺伝的要因と社会的要因の影響を受けます。また、患者の大半が若い女性で、体形や体重をひどく気にしていて、社会的・経済的に中流以上の階層に属している点も、神経性無食欲症と類似しています。神経性大食症は主に青年期の人や若い成人に発症し、割合は女性で1.6%、男性で0.5%です。

 

症状

患者はむちゃ食い行為を繰り返します。むちゃ食いとは、比較的短い時間(しばしば2時間以内)に大量の食物を摂取することです。感情的なストレスがきっかけで、むちゃ食いと排出のサイクルが始まることが多く、こうした行為は通常は隠れて行われます。むちゃ食いには、コントロールできないという感覚が伴いますが、空腹でなくても食べたり、腹痛が生じるまで食べ続けたりします。患者は、アイスクリームやケーキのような高カロリーの食品を食べる傾向があります。消費される食物の量は変動的で、ときには何千カロリーにもなることがあります。1日に複数回に及ぶむちゃ食いをすることもあります。

 

むちゃ食いによる影響を弱めようとして、さまざまな手段を使って食べたものを排出します。

嘔吐

下剤を飲む

徹底したダイエットや絶食をする

過度の運動をする

上記の行動を組み合わせて行う

 

腹部膨満感を治そうとして利尿薬を飲む人もよくいます。しかし、神経性無食欲症と違って、神経性大食症の人の体重は正常体重の付近を上下する傾向があります。

自己誘発性嘔吐は、歯のエナメル質の溶解、ほおの唾液腺(耳下腺)の腫れ、食道の炎症などを引き起こします。嘔吐などの排出行動を繰り返すと血液中のカリウムが減少し、不整脈が生じます。嘔吐を誘発するためにトコン(吐根)シロップ(吐剤)を繰り返し大量に飲む患者の場合、不整脈が生じ、その結果、突然死することがあります。まれに、むちゃ食いで大量に食べたことが原因で胃が破裂したり食道が裂けたりし、生命を脅かす合併症を引き起こすことがあります。

神経性無食欲症の人に比べると、神経性大食症の人は自分の行動についての認識があり、自責の念や罪悪感を抱く傾向があります。また、自分の悩みを医師や信頼できる人に打ち明けることもよくあります。一般に、神経性大食症の人はわりあいに社交的です。また、衝動的に行動をしたり、麻薬やアルコールを乱用したり、うつ病になりやすい傾向がみられます。

 

治療

最も効果的な2つの治療法は、認知行動療法と薬物療法です。両者の併用による治療が一番効果的でしょう。

認知行動療法では、患者の認知の問題点を特定し、そうした思考を適応的なものにするために援助します。4~5ヵ月間にわたって週に1~2回精神療法家と会い、合計16回~20回ほどのセッションを受けます。認知行動療法によって、患者の約3分の2でむちゃ食いの回数が減り、約3分の1でむちゃ食いが止まります。この治療を受けた人は、少なくとも1年間はむちゃ食いの回数が減るか、一切しなくなります。

抗うつ薬の選択的セロトニン再取込み阻害薬は、治療にある程度有効ですが、認知行動療法の併用により最善の治療効果が得られます。ただし、薬をやめるとしばしばむちゃ食いが再発します。

 

 

むちゃ食い障害:

むちゃ食い障害は、自制心を失っていると感じながら大量の食物を摂取する(むちゃ食い)のが特徴です。むちゃ食い障害は、過剰に摂取した食物を体から排除しようとする行為(排出行動)は伴いません。

むちゃ食い障害は肥満者に多くみられます。

患者は短い時間に大量の食物を摂取しますが、排出行動はみられず、自分の行為に非常に悩んでいます。

医師は患者自身による行動の説明に基づいて診断を下します。

減量プログラムやシブトラミン(食欲抑制薬)が体重管理に、認知行動療法がむちゃ食いの抑制に、そして選択的セロトニン再取込み阻害薬(抗うつ薬の一種)は両者に有効な場合があります。

全体としては、女性の約3.5%、そして男性の約2%にむちゃ食い障害がみられます。体重が重い人ほどこの障害になる割合は高くなります。何らかの減量プログラムを受けている肥満者のうち、30%がむちゃ食い障害の患者です。

むちゃ食い障害の患者はほとんどが肥満者で、この障害が一因となってカロリーを過剰に摂取します。対照的に、神経性大食症では正常または正常に近い体重の患者が大部分を占め、神経性無食欲症の場合は痩せた患者がほとんどです。むちゃ食い障害の人は、神経性無食欲症や神経性大食症の人よりも年齢が高く、男性の割合が半数近くを占めています。

 

症状

患者は、同じ状況下で同じ時間内に普通の人が食べるよりも、はるかに多い量の食物を摂取します。患者はむちゃ食い行為の最中やその後で、自制心を失っているようだと感じています。

いつも食べ過ぎてしまう人とは対照的に、むちゃ食いは一過性です。症状には次のようなものも含まれます。

食べる速度が普通よりもはるかに速い

食べ過ぎて気持ちが悪くなるまで食べる

空腹でなくても大量の食物を摂取する

みっともないと感じているため一人で食べる

むちゃ食いをした後で、自分が嫌になったり、落ち込んだり、罪悪感を抱いたりする

 

患者は自分の行為について悩んでいて、特に、減量の意思に反してむちゃ食いをしてしまうと苦痛を感じます。むちゃ食い障害を持つ肥満者の約50%が抑うつ状態にあるのに対し、障害のない肥満者では、5%未満です。

 

治療

ほとんどの患者は、従来の行動的減量プログラムの中で治療を受けます。こうしたプログラムは、むちゃ食いに特に配慮しているわけではありませんが、通常、患者は自身のむちゃ食いよりも体重に強い関心があるため、プログラムを受け入れる傾向があります。従来の減量プログラムは、減量のみならず、むちゃ食いの抑制を助けるという点においても効果的です。むちゃ食い行動がみられても、これらのプログラムにおいて減量に限界が生じることはないようです。

次の治療が有用です。

認知行動療法はむちゃ食いの抑制に有効ですが、減量にはほとんど効果はありません。

食欲抑制薬のシブトラミンは減量効果があり、むちゃ食いの回数を若干減らすのに役立ちます。

フルオキセチンなどの選択的セロトニン再取込み阻害薬(抗うつ薬の一種)は、むちゃ食い抑制と体重管理に有効ですが、服用の中止により、しばしばむちゃ食いの再発がみられます。

 

摂食障害患者のための自助グループ(オーバーイーターズ・アノニマスやフードアディクト・アノニマス)や、アルコール依存症の人のための自助グループ(アルコホーリック・アノニマス)の存在が知られていますが、効果は明らかではありません。

肥満の治療に外科手術が行われることがありますが、むちゃ食いに対する効果は不明です。

 

 

 


睡眠障害

 睡眠障害は、寝つきや睡眠中に何らかの異常のある状態をいいます。

 寝つきが悪く、熟睡できないといったものが睡眠障害の主な症状です。

 

 睡眠障害は、大きく4つに分けられます。

 まず、睡眠異常です。これは、睡眠自体が病気であるもので、代表的なものに不眠症、睡眠時無呼吸症候群などがあげられます。

 次が睡眠時随伴症です。これは睡眠中にみられる異常な行動で、代表例は夜尿症や周期性四肢運動などです。

 第3が内科、精神科的睡眠障害です。これは精神病や不安障害、うつ病などによる不眠や仮眠などといった、睡眠障害となってあらわれるものです。

 そして、そのほかとして分類が性格になされない短時間睡眠者や長時間睡眠者などです。

 

 


身体表現性障害

身体表現性障害には複数の精神疾患が含まれます。患者は、体の症状を訴えるか、体の症状を示唆するがそれだけでは全てを説明できない不安を訴える、あるいは、些細で、ほとんどありもしない外見上の欠陥にとらわれます。このような症状や不安が多大な苦痛を引き起こしたり、日常生活に支障を来したりする場合は病気とみなされます。

身体表現性障害は、以前は心身症と呼ばれていたものが含まれます。

 

身体表現性障害には、身体醜形障害、転換性障害、心気症、身体化障害、疼痛障害などがみられます。小児にも発症することがあります。

 

 

心気症

 

心気症は、「重病にかかっている」という恐怖感にとりつかれたり、「本当に自分は病気だ」と思いこんだりする障害です。このような感情は、正常な身体的感覚や軽度の身体症状の誤解に基づくことに起因することが多いようです。

患者は、正常な身体機能の徴候である腹鳴や発汗などを、重い身体疾患だと思いこみます。

綿密な医学的評価によって、症状の原因となる身体疾患や他の精神疾患がないと診断されても、依然として患者は不安にとらわれています。

医師との支持的な信頼関係が有用ですが、しばしば精神科医への紹介が必要です。

心気症は成人期初期に発症することが最も多く、男性にも女性にも同程度にみられます。

 

症状

心気症は、異常や障害とは無関係の正常な身体機能や軽い身体症状を、誤って解釈しがちです。心気症の症状には、腹部膨満、腹鳴、心拍の自覚、発汗、痛み、疲労感などが含まれます。患者は自分の症状を事細かに説明します。そのような症状が重い身体疾患の徴候だと考えます。たとえば、頭痛がすれば脳腫瘍だと考えがちです。症状が多大な苦痛を引き起こします。健康問題への不安が募るのにつれて、しばしば人間関係や仕事に支障が生じます。

心気症患者は、医師が診察して病気を否定しても懸念が解消されず、医師が基礎疾患を見落としていると考えがちです。

中にはうつ病や不安障害を併発する患者もいます。

心気症はしばしば何年も持続します。患者によっては、症状が現れたり消えたりします。また、完全に回復することもあります。

 

 

ミュンヒハウゼン症候群:

仮病で周りの注意を引く

ミュンヒハウゼン症候群は身体表現性障害ではありませんが、やや似た特徴があります。つまり、心の健康上の問題が身体症状の根底にあります。主な違いは、ミュンヒハウゼン症候群の人は意図的に身体疾患の症状があるふりをする点です。繰り返し病気を装い、治療を求めて病院から病院へと渡り歩くこともよくあります。

しかし、ミュンヒハウゼン症候群は複雑で、ただ単にごまかして症状があるふりをしているわけではありません。重大な情緒的問題が関連した複雑な疾患です。一般的にこの疾患がある人は、かなり知的で機知に富んでいます。病気を真似る方法だけでなく、医療の知識ももっています。言葉巧みに入院にもちこみ、精密検査や治療、ときには大手術が必要な患者だと思わせることができます。虚偽は意識的に行われているものですが、その動機や人の注意を引きたいという欲求の大半は無意識のものです。

代理ミュンヒハウゼン症候群はミュンヒハウゼン症候群の変型です。代理ミュンヒハウゼン症候群では、介護者(多くは親)が意図的にある人(多くは自分の子供)を病気に仕立て上げたり見せかけたりして世話に当たります。介護者(親)は子供の病歴を偽り、薬物を使って子供の健康を害したり、検査用の尿の中に血液や細菌を入れたりします。すべては病気をでっち上げることが目的です。このような行動の動機は、身代わり(代理)を通して病人の役割を経験したいという心理的欲求にあると思われます。また患者には、人の注意を引きたいとか、子供と強いきずなを保ちたいという病的な欲求もみられます。

 

 

健康な人が軽い症状を重大な病気だと思いこみ、徹底的な検査を受けて心配ないことが告げられてもなお安心できない場合は、心気症が疑われます。

診察や検査の結果や、「心配ない」という医師の言葉があるにもかかわらず、この状態が少なくとも6ヵ月間続き、症状の原因がうつ病など他の精神障害でもない場合、心気症と診断されます。

 

治療

心気症患者は体のどこかに重病が潜んでいると信じこんでいるため、治療は困難です。「心配の必要はない」と医師が伝えても、患者の不安は解消されません。ただし、親身になってくれる医師との支持的な信頼関係は有益で、特に定期的に受診していると効果が期待できます。症状にあまり改善がみられない場合は、かかりつけ医の治療を継続しながら、精神科医や他の精神医療の専門家を紹介してもらい、詳しい検査や治療を受けると有益なことがあります。

抗うつ薬のセロトニン再取込み阻害薬による治療が有用な場合があります。認知行動療法でも症状が軽減されることがあります。

 

 

 


転換性障害

 転換性障害とは、精神的な要因がきっかけとなり、体や精神の機能に障害が生じることを言います。

 

腕や脚の麻痺、体の一部の感覚喪失などは、神経系の機能不全を示唆するものです。他の症状として、発作、視覚や聴覚などの特定の感覚の喪失といったものもあります。

しばしば、社会的または精神的につらい出来事が引き金になって発症します。

 

 転換性障害の原因は、日常生活で生まれる感情が発症に大きな影響を与えるとされています。例えば、怒りや嫉妬、恨みといったものです。それらの感情があまりに強すぎると、考えるのが嫌になり、体の障害として現れるようになるのです。

 

 


2 症状性を含む器質性精神障害 (ICD-10コード F0-09)

 

(ICD-10コード F0-09)

 F00 アルツハイマー病の認知症  F01 血管性認知症      例 多発梗塞性認知症  血管性認知症  F02 他に分類されるその他の疾患の認知症      例 クロイツフェルト・ヤコブ病の認知症  パーキンソン病の認知症  F03 詳細不明の認知症  F04 器質性健忘症候群、アルコールその他の精神作用物質によらないもの  F05 せん妄、アルコールその他の精神作用物質によらないもの      例 せん妄  F06 脳の損傷及び機能不全並びに身体疾患によるその他の精神障害      例 器質性気分(感情)障害  器質性不安障害  器質性解離性障害  F07 脳の疾患、損傷及び機能不全による人格及び行動の障害      例 器質性人格障害  F09 詳細不明の器質性又は症状性精神障害

 

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

・高度の認知障害、高度の人格変化、その他の高度の精神神経症状が著明なため、常時の介護が必要なもの

2級

・認知障害、人格変化、その他の精神神経症状が著明なため、日常生活が著しい制限を受けるもの

3級

・認知障害、人格変化は著しくないが、その他の精神神経症状があり、労働が制限を受けるもの

・認知障害のため、労働が著しい制限を受けるもの

障害手当金

・認知障害のため、労働が制限を受けるもの

 

 

 脳そのものの器質的病変により、または脳以外の身体疾患のために、脳が二次的に障害を受けて何らかの精神障害を起こすことがある。これを器質性精神障害という。

先天異常、頭部外傷、変性疾患、新生物、中枢神経系等の器質障害を原因として生じる精神障害に、膠原病や内分泌疾患を含む全身疾患による中枢神経障害等を原因として生じる症状性の精神障害を含むものである。

 

 

一般に、身体疾患に基づく精神障害を症状性精神障害とする見方があります。

 

 

脳の機能障害

脳のさまざまな機能は、脳の一つの領域ではなく、共同で働く複数の領域(ネットワーク)によって実行されています。このネットワークが破壊されると失語症、失行症、失認症、健忘症が起こります。

 

脳の損傷によるもの

 

 

 

損傷を受けた脳領域と機能障害

機能障害の特有のパターンは、損傷を受けた脳領域と対応しています。

 

前頭葉の損傷:

一般に前頭葉の損傷は、問題を解く、計画を立てて行動を起こす、などの能力を失う原因になります。

たとえば、道路を横断する、複雑な質問に答える、などができなくなります。しかし、前頭葉のどの部分が損なわれたかによる特有の障害もいくつかあります。

(随意運動を調節している)前頭葉の後部が損傷を受けると、筋力低下や麻痺が起こります。左右の脳は、それぞれ反対側の体の動きを制御しているため、左の大脳半球が障害されると

体の右側に、右の大脳半球が障害されると体の左側に筋力低下が起きます。

前頭葉の中央部分が損傷を受けると、眼を動かす能力や、複雑な動作を正しい順序で行う能力が障害されます。言葉で表現するのが困難になる場合もあり、これはブローカ失語症(表現性失語)と呼ばれます。

 

前頭葉の前部が損傷を受けると、次のようなことが起きます。

集中できない

話すのが流暢でなくなる

無気力

注意力散漫

質問への反応が遅れる

社会的に不適切な振る舞いなど、著しい抑制の欠如

 

抑制が働かなくなると、異常に陽気または憂うつになったり、過剰に論争的または消極的になったり、あるいは下品になったりします。自分の行動がもたらす結果に関心を示しません。何度も同じことを話す場合もあります。

 

頭頂葉の損傷:

片側の頭頂葉前部が損傷を受けると、反対側の体にしびれと感覚障害が起こります。感覚の場所と種類(痛み、熱さ、冷たさ、振動など)を識別するのが困難になります。

頭頂葉後部が損傷を受けると、左右の方向が分からなくなったり(左右失認)、計算や絵を描くことができなくなったりします。

右頭頂葉の損傷は、髪の毛をブラシでとく、服を着るなどの簡単な動作ができなくなる失行症の原因になります。

頭頂葉に突然損傷を受けた人は、障害が深刻であることを認めようとしないことがあります。また、損傷と反対側の体をないがしろにしたり、存在しないと考えることさえあります。錯乱やせん妄が起き、自分で服を着るなどの日常動作ができなくなることもあります。

 

側頭葉の損傷:

右の側頭葉が損傷を受けると、音や形の記憶が障害される傾向があります。言語が左半球優位である人が左の側頭葉に損傷を受けた場合は、言葉の記憶や言語の理解能力が著しく低下することがあり、これはウェルニッケ失語症(受容性失語)と呼ばれます。ときとして、側頭葉の一部が損傷を受けると、ユーモアがなくなる、狂信的になる、性欲がなくなるなど、人格の変化が生じることがあります。

 

後頭葉の損傷:

後頭葉には、視覚情報を処理する中心があります。脳の両側の後頭葉が損傷を受けると、眼は正常に機能しているのにものが見えないという皮質盲が起こります。皮質盲の人の中には、自分がものを見えていないことに気づかない人もいます。後頭葉の前部が損傷を受けると、見慣れている物や人の顔を認識することや、見えたものを正確に判断することが困難になります。

 

 

○高次脳機能障害

 高次脳機能障害とは、病気や事故等の様々の原因で受けた脳損傷に起因する認知障害全般を指し、日常生活又は社会生活に制約があるものが認定の対象となる。

 

 「高次脳機能障害」は、学術用語としては、病気や事故等の様々の原因で受けた脳損傷に起因する認知障害全般を指す。

記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの一群が示す認知障害を「高次脳機能障害」と呼び、この障害を有する者を「高次脳機能障害者」と呼ぶこととした。『高次』となっているのは医療よりも行政的な呼び方である。

 

 


高次脳機能障害診断基準 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部 国立障害者リハビリテーションセンター

 

 「高次脳機能障害」という用語は、学術用語としては、脳損傷に起因する認知障害全般を指し、 この中にはいわゆる巣症状としての失語・失行・失認のほか記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などが含まれる。  一方、平成13年度に開始された高次脳機能障害支援モデル事業において集積された脳損傷者のデータを慎重に分析した結果、 記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害を主たる要因として、日常生活及び社会生活への適応に困難を有する一群が存在し、 これらについては診断、リハビリテーション、生活支援等の手法が確立しておらず早急な検討が必要なことが明らかとなった。  そこでこれらの者への支援対策を推進する観点から、行政的に、この一群が示す認知障害を「高次脳機能障害」と呼び、 この障害を有する者を「高次脳機能障害者」と呼ぶことが適当である。その診断基準を以下に定める。

 

診断基準

 

I.主要症状等  脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている。  現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である。

 

Ⅱ.検査所見  MRI、CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。

 

Ⅲ.除外項目  脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状(I-2)を欠く者は除外する。  診断にあたり、受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する。 先天性疾患、周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因とする者は除外する。

 

Ⅳ.診断  I~Ⅲをすべて満たした場合に高次脳機能障害と診断する。  高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行う。  神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。  なお、診断基準のIとⅢを満たす一方で、Ⅱの検査所見で脳の器質的病変の存在を明らかにできない症例については、慎重な評価により高次脳機能障害者として診断されることがあり得る。  また、この診断基準については、今後の医学・医療の発展を踏まえ、適時、見直しを行うことが適当である。

 

高次脳機能障害の主要な症状  交通事故や脳卒中などの後で、次のような症状があり、それが原因となって、対人関係に問題があったり、生活への適応が難しくなっている場合、高次脳機能障害が疑われます。

 

記憶障害  記憶障害とは、事故や病気の前に経験したことが思い出せなくなったり、新しい経験や情報を覚えられなくなった状態をいいます。  ・今日の日付がわからない、自分のいる場所がわからない  ・物の置き場所を忘れたり、新しい出来事が覚えられない  ・何度も同じことを繰り返し質問する  ・一日の予定を覚えられない  ・自分のしたことを忘れてしまう  ・作業中に声をかけられると、何をしていたか忘れてしまう  ・人の名前や作業の手順が覚えられない

 

側頭葉内側の障害により引き起こされる症状。記憶障害は大きく分けると新しいことが覚えられなくなる「前向性健忘」と、昔のことを思い出せなくなる「逆向性健忘」の2つがあります。

具体的には、日常生活の中でも約束を守れなくなったり、大切な物をしまった場所を忘れてしまったり、何度も同じことを聞いてしまったりと、日常生活や仕事をするうえで深刻な問題を抱えてしまいます。

 

注意障害(半側空間無視を含む)  注意障害とは、周囲からの刺激に対し、必要なものに意識を向けたり、重要なものに意識を集中させたりすることが、上手くできなくなった状態をいいます。  ・気が散りやすい  ・長時間一つのことに集中できない  ・ぼんやりしていて、何かするとミスばかりする  ・一度に二つ以上のことをしようとすると混乱する  ・周囲の状況を判断せずに、行動を起こそうとする  ・言われていることに、興味を示さない  ・片側にあるものだけを見落とす

 

前頭葉や頭頂葉の障害で引き起こされる注意障害。物事に集中して取り組むことができず、ちょっとしたことで気が散ってしまうため、本人が集中できる時間に合わせて、適度の休憩を促すことが必要です。具体的には、注意障害により。会話や思考がとぎれとぎれになり、行動の内容に一貫性がなくなったりします。

与えられた仕事をすぐに放り投げてしまったり、人の話を聞きながらメモを取れなくなったり、ぼーっとしている時間が長くなり、呼びかけてもすぐに反応ができなくなったり、といった症状が見られます。

 

遂行機能障害  遂行機能障害とは、論理的に考え、計画し、問題を解決し、推察し、そして、行動するといったことができない。また、自分のした行動を評価したり、分析したりすることができない状態をいいます。  ・自分で計画を立てられない  ・指示してもらわないと何もできない  ・物事の優先順位をつけられない  ・いきあたりばったりの行動をする  ・仕事が決まったとおりに仕上がらない  ・効率よく仕事ができない  ・間違いを次に生かせない

 

前頭葉の障害により引き起こされることが多い遂行障害、計画性をもって行動したり、周囲の変化する状況に対応できなくなります。話したり、書いたり、聞いたり、計算したりするなど、一つ一つバラバラな作業をさせても問題がないことが多いのですが、これらを組み合わせてやらせると要領よくできず、作業に支障が出てしまいます。

思いつきだけで行動して失敗したり、約束の時間を守ることができなくなったり、いつまでも決断できず段取りが悪くなったりといった症状が見られます。

 

社会的行動障害  社会的行動障害は、行動や感情を場面や状況にあわせて、適切にコントロールすることができなくなった状態をいいます。  ・すぐ怒ったり、笑ったり、感情のコントロールができない  ・無制限に食べたり、お金を使ったり、欲求が抑えられない  ・態度や行動が子供っぽくなる  ・すぐ親や周囲の人に頼る  ・場違いな行動や発言をしてしまう  ・じっとしていられない

 

 

前頭葉と側頭葉の障害によって引き起こされることが多いのが社会的行動障害です。頻繁に怒鳴り散らすなど、暴力的で子どもじみた行動を起こすことが多いですが、逆に感情を失って無関心になるケースもあります。急に泣き出したと思ったら、急に怒り出したりして、周りを困惑させてしまうこともしばしばあります。

また、欲しいと思ったものを我慢できなくなることもあり、お菓子を食べ続けたり、タバコを繰り返し吸い続けたり、手元のお金がなくなるまで散財してしまったり、といった症状が見られることもあります。

 

自己認識の低下(病識欠如)  ・自分が障害を持っていることに対する認識がうまくできない  ・上手くいかないのは相手のせいだと考えている  ・困っていることは何も無いと言う  ・自分自身の障害の存在を否定する  ・必要なリハビリや治療などを拒否する

 

失行症  ・道具が上手く使えない  ・日常の動作がぎこちなくなる  ・普段している動作であっても、指示されるとできなくなる

 

失行症とは、動きのパターンや順序を覚える必要がある作業ができなくなる障害です。

失行症はまれな障害で、頭頂葉または前頭葉の損傷によって起こります。失行症の人は、単純でも巧みな作業や複雑な作業を成し遂げるのに必要な動作の順序を記憶することができません。たとえば、ボタンを留める行為は一連の手順からなっています。失行症になると、手には作業を行う能力があるのに、できなくなります。発語失行の人は、話すときに必要な筋肉の動作を開始させ協調させ順序立てることができないために、言葉の基本的な音のまとまりを作ることができません。

 

 

失認症  ・物の形や色、触っているものが何かわからない  ・触っているものが何かわからない  ・人の顔が判別できない

 

失認症は、ものとその通常の役割や用途とを結びつける能力を失うことです。

失認症は、比較的まれです。見慣れたもの、風景、音などの使用法や重要性の記憶が保存されている脳の頭頂葉、側頭葉、または後頭葉の機能が障害されて起こります。失認症は頭部外傷や脳卒中の後に突然起こることがしばしばあります。

 

出現する症状は、損傷を受けた葉によって異なります。

 

頭頂葉:

通常、このタイプの損傷は脳卒中が原因です。損傷を受けたのと左右反対側の手の中に鍵や安全ピンなど見慣れたものを置いても識別が困難です。しかし実際にそれらを見れば、即座に識別して名前を言うことができます。

 

後頭葉:

親しい人の顔や、スプーンや鉛筆などのありふれたものを、見えていても、認識することができません。この障害は視覚失認症と呼ばれます。

 

側頭葉:

音が聞こえても、何の音なのか認識できません。この障害は聴覚失認症と呼ばれます。

失認症は自然に改善または回復する場合もありますが、この特殊な障害に対処する方法を学ばなければならない人もいます。具体的な治療法はありません。

 

 

失語症  ・自分の話したいことを上手く言葉にできなかったり、滑らかに話せない  ・相手の話が理解できない  ・文字を読んだり、書いたりすることが出来ない

 

失語症は、会話や文字によって表現したり、理解したりする能力が部分的あるいは完全に失われることです。失語症は、言語を制御する脳領域の損傷が原因で起こります。

 

 

身体の障害として  ・片麻痺、運動失調など

 高次脳機能障害は、さまざまな傷病から引き起こされます。主に以下の原因によるものと考えられます。

 

頭部外傷

硬膜外血腫  硬膜下血腫  脳挫傷 

脳血管障害

脳内出血  脳梗塞  くも膜下出血  もやもや病

感染症

脳炎  エイズ脳症

自己免疫疾患

全身性エリテマトーデス  神経ベーチット病

中毒疾患

アルコール中毒  一酸化炭素中毒

その他

多発性硬化症  脳腫瘍

 

 

 高次脳機能障害では、脳損傷に起因する認知障害全般を指し、日常生活又は社会生活に制約があるものが認定の対象となります。

 

 交通事故などの事故により、脳が傷つけられたり、圧迫されたりして脳挫傷脳内出血を起こしたようなケースでは、事故により病院に救急搬送された日が初診日となります。

 脳出血くも膜下出血脳梗塞などの脳血管疾患により、高次脳機能障害の症状が出るようになった場合は、脳血管疾患により初めて病院を受診した日が初診日となります。

 脳血管疾患で救急搬送された場合は、救急搬送された日が初診日となります。

 ヘルペス脳炎やウイルス脳炎、低酸素脳症が原因で脳が損傷し、高次脳機能障害に至ったようなケースは、初診日の特定が難しいとされます。

 高次脳機能障害による精神の障害は、代償機能やリハビリテーションにより改善する可能性があります。障害認定日は1年6ヵ月を経過した日です。

 

 高次脳機能障害の「記憶力の低下」などの症状により、適切な食事、身辺の清潔保持、金銭管理と買い物、通院と服薬、他人との意思伝達及び対人関係、身辺の安全保持及び危機対応、社会性といった日常生活がどれだけ制限されているかで等級が決まります。

 高次脳機能障害の症状では、障害年金の認定上「記憶力の低下」が一つの大きな評価ポイントです。  例えば、    ・病院までの道順を忘れてしまう  ・薬を都度用意してあげないと飲み忘れてしまう  ・財布をどこに置いたか忘れてしまい、家族が隠したと疑う  ・行き慣れた場所にも行けないことがある  ・友人や知人の顔や名前が覚えられない  ・ちょっとしたことでイライラし激怒する  ・仕事でミスを繰り返し退職に至った などの「記憶力の低下」です。脳の損傷した場所によって、症状は変わってきますので、記憶力の低下が評価のすべてとはいえませんが、重要な評価ポイントであることは確かです。

 

 

 高次脳機能障害の「記憶力の低下」などの症状により、適切な食事、身辺の清潔保持、金銭管理と買い物、通院と服薬、他人との意思伝達及び対人関係、身辺の安全保持及び危機対応、社会性といった日常生活がどれだけ制限されているかで等級が決まる。

 

1級と認定

記憶障害、注意障害、遂行機能障害が強く残存しており、脱抑制、易怒性の亢進も認められ、日常生活全般において、常に周囲の頻繁な声かけ、誘導、見守り、介助が必要な状態

日常生活能力の判定

助言や指導をしてもできない若しくは行わない

日常生活能力の程度

精神障害を認め、身のまわりのこともほとんどできないため、常時の援助が必要である

2級と認定

記憶障害、注意障害、遂行機能障害などがあり、重度の自発性低下と遂行機能障害により日常生活において自発的な活動がほとんどできない状態

日常生活能力の判定 助言や指導があればできる 又は 助言や指導を してもできない若しくは行わない

日常生活能力の程度

精神障害を認め,日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である

3級と認定

記憶障害、注意障害、遂行機能障害などがあり、日常生活活動能力は低下しており、かろうじて自立した生活ができているが適便援助が必要となっている

また、軽易な労務にしか服する ことができず、労働に支障をきたしている

 

日常生活能力の判定 時には助言や指導を必要とする 又は 助言や指導があればできる

日常生活能力の程度

精神障害を認め、家庭内での日常生活は普通にできるが、社会生活には、援助が必要である

 

日常生活能力等の判定にあたっては、心身の体調を考えた上で、社会的な適応性がどれ位あるか、で判断するよう努力します。

また、就労支援施設や小規模作業所などに参加する方だけでなく、雇用契約をして一般就労をしている方でも、援助や配慮を受けながら働いています。よって、働いている=日常生活能力が向上した、と捉えてはいけません。働いている方については、その療養状況をきちんと考えなければいけません。  その上で、次の内容を十分確認して日常生活能力を判断します。

仕事の種類

仕事の内容

就労状況

仕事場で受けている援助の内容

他の従業員との意思疎通の状況  など

 

 

診断書について  

高次脳機能障害やてんかんの診断書を書く医師は、精神科である必要はなく、脳外科・小児科(主にてんかん)・神経内科・リハビリテーション科・脳神経外科などの医師でも可能です。

 後遺症によって診断書が異なります。また複数の障害がある場合は2種類以上の診断書を書いてもらい、提出する場合もあります。    ・肢体の麻痺: 肢体の障害用の診断書    ・失語症: 言語障害用の診断書    ・高次脳機能障害: 精神の障害用の診断書

 

 

 脳出血くも膜下出血脳梗塞などの脳血管疾患により、高次脳機能障害の症状が出るようになった場合は、脳血管疾患により初めて病院を受診した日が初診日となる。

 交通事故などの事故により、脳が傷つけられたり、圧迫されたりして脳挫傷脳内出血を起こしたようなケースでは、事故により病院に救急搬送された日が初診日となる。

 (ヘルペス脳炎やウイルス脳炎、低酸素脳症が原因で脳が損傷し、高次脳機能障害に至ったようなケースは、初診日の特定が難しい。)

 

 高次脳機能障害による精神の障害は、代償機能やリハビリテーションにより改善する可能性があります。障害認定日は1年6ヵ月を経過した日です。

 精神神経症状及び認知障害については、「症状性を含む器質性精神障害」に準じて認定します。

 

 高次脳機能障害とは、脳損傷に起因する認知障害全般を指し、日常生活又は社会 生活に制約があるものが認定の対象となります。その障害の主な症状としては、失語、失行、失認のほか記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などがあります。

 

 高次脳機能障害により失語障害が生じる場合は、失語障害を「音声又は言語機能の障害」の認定要領により認定し、精神の障害と併合認定が考えられます。「精神の障害用」の診断書のほかに「言語機能の障害用」の診断書の用意が必要になります。

 

 脳の器質障害については、身体障害(肢体の障害)と精神障害の両方を総合的に評価して障害認定がされます。

 

 脳血管障害により高次脳機能障害と手足の麻痺が後遺症として残った場合は、それらの障害の全てを評価して障害認定をします。

 交通事故等による頭部外傷により、四肢の麻療に加えて、「高次脳機能障害」など器質性精神障害が併存する場合は、それらの障害も認定の対象となり、併合認定により障害等級が繰り上がる可能性があります。

 

 

 


○認知症

認知症とは、脳の疾患により、記憶、思考、見当識(時間・場所等の感覚)、理解、計算、学習能力、言語、判断を含む認知機能の低下した状態をいう。意識の混濁はなく、認知機能の障害は通常、慢性、進行性で、情動の統制、社会行動あるいは動機づけの低下を伴う。臨床的には、これらの症状が、日常生活を損なう程度に達した状態が6ヵ月以上続いたときに認知症の診断が考慮される。

 

記憶や知能の障害に加え、生まれもった性格が変わってくる人格変化がみられます。認知症に伴って、情動の不安定さやうつ状態など感情の変化、気力や意欲がなくなってくる発動性の低下、幻覚や妄想などの精神症状もしばしばみられるようになります。

 

高齢になると、脳に変化が起こって、短期的な記憶力が多少衰えたり、学習能力が低下したりします。これらは正常な加齢現象であり、認知症と違い、日常生活に大きな支障をもたらすことはありません。高齢者にみられるこのような記憶の喪失は、加齢に伴う記憶障害と呼ばれることもあります。認知症は、これよりはるかに深刻な精神機能の衰えで、時間の経過とともに悪化します。健康な人でも歳をとれば、物を置き忘れたり細かい事実を思い出せなくなったりしますが、認知症の人は、起こった出来事をすべて忘れてしまいます。車の運転や料理、金銭の管理など、日常生活の活動が正常にできなくなります。

 

加齢に伴う記憶障害は必ずしも認知症やアルツハイマー病初期の徴候ではありません。

 

 

認知症と老化によるもの忘れの違い 違いは脳の機能の低下する速さです。認知症の場合、短期間に急激に脳の機能が低下する傾

向があり、反対に老化による機能の低下はゆるやかです。また、認知症では、日常生活や社会

生活に支障が出たり、性格の変化といった症状が現れます。しかし、認知症になったからとい

って感情が消えるわけではありません。頭ごなしに叱ったり怒鳴ったりすることは、症状を悪

化させる原因となります。

 

 

一般に認知症では、以下のような症状がみられます。

記憶の喪失

言語の障害

人格の変化

見当識障害

日常活動の障害

破壊的または不適切な行動

 

 

認知症はほかに原因のない脳の障害(原発性脳障害と呼ばれます)として起きるのが一般的です。認知症を引き起こす病気も数多く存在します。最も多くみられる認知症は原発性脳障害であるアルツハイマー病で、全体の50~70%を占めています。その他の一般的なタイプの認知症としては、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症(ピック病など)などがあります。複数のタイプの認知症が併存する場合もあり、混合型認知症と呼ばれています。

 

認知症の重症度は、金銭管理や内服管理、着替えや排泄などの日常生活を行う能力の障害の程度で決めることが一般的です。

長谷川式ミニ・メンタルテストADASなどの認知機能検査の変化も重症度の目安になります。

妄想や幻覚、徘徊、暴言などの認知症の行動・心理症状(BPSD)に関しては認知症の経過に関わらず出現することが多いので、認知症の重症度の判断に使用しないことが多いと言えます。

 

 

 認知症は大きく2つの類型に分けられる。

 

1.アルツハイマー型認知症 アルツハイマー病は、不可逆的な進行性の脳疾患で、記憶や思考能力がゆっくりと障害され、最終的には日常生活の最も単純な作業を行う能力さえも失われる病気です。

 

最近の出来事を忘れるのが初期の徴候で、続いて錯乱が強くなっていき、記憶以外の精神機能も障害され、言語の使用と理解や日常的な作業にも問題が生じるようになります。

症状が進行すると、日常生活を送れなくなり、他者に完全に依存するようになります。

 

 この疾患は、アロイス・アルツハイマー博士の名前にちなんで命名されています。1906年、アルツハイマー博士は、よく見られるものとは異なる精神疾患が原因で死亡した女性の脳組織の変化に気づきました。この患者の症状には、記憶障害、言語障害、予測不可能な行動がありました。患者の死後、博士は患者の脳を調べ、多数の異常な凝集体(現在では、アミロイド斑あるいは老人斑と呼ばれています)と、線維のもつれ(現在では、神経原線維変化と呼ばれています)を発見しました。

 

 アルツハイマー病は、高齢者における認知症の最も一般的な原因です。なかには40~50代で発症する人もおり、その場合は「若年性アルツハイマー」と呼ばれます。

 

 

脳の障害は、症状が出現する10年以上も前に始まっているとみられます。症状のない、発症前の段階においても、脳の中では害のある変化が起こっています。蛋白の異常な沈着により、脳のいたるところにアミロイド斑とタウ蛋白からなる神経原線維変化が生じ、もともとは健康であったニューロンが、効率よく機能しなくなってきます。時間の経過とともに、ニューロンは、相互に機能して連絡し合う能力を失い、最終的には死滅します。  やがて病変は、脳内で記憶を形成するのに必要不可欠な、海馬と呼ばれる構造体に広がります。ニューロンがさらに死滅するにつれて、影響を受けた脳領域は萎縮し始めます。アルツハイマー病の後期までに障害は広範囲に及び、脳組織は著しく萎縮します。

 

 アルツハイマー病はゆっくりと進行する病気です。症状が認められない早期あるいは発症前の段階、軽度認知障害(MCI)という中期の段階、そしてアルツハイマー病による認知症という3つの病期で進行します。アルツハイマー病と診断されてから死亡するまでの期間は様々です。診断時に患者が80歳を超えている場合、その期間はわずか3、4年であり、80歳以下の場合は10年以上にもなります。

 

アルツハイマー型認知症はゆっくりと進行していきます。 進行の度合いは重症度と呼ばれ、「記憶」、「時間、場所、人物の認識」、「会話」、「日常生活」

の変化によって、「軽度」、「中等度」、「高度」に分類されています。

 

アルツハイマー型認知症の重症度と症状

 

軽度

中等度

高度

記憶

・最近の出来事をしばしば忘れる

・古い記憶は、ほぼ保たれる

・最近の出来事を記憶するのが困難 ・古い記憶も部分的に脱落

・新しい出来事は全く記憶できず、古い記憶もあいまいになる

時間、場所、人物の認識

・年月日が不正確 ・場所がだいたいわかる

・年月日、時間、場所が不正確

・年月日、時間、場所、人物がかなり不正確

会話

・通常の日常会話はほぼ可能 ・記憶に頼る内容の会話は困難

・通常の日常会話に時々支障がある ・記憶に頼る内容の会話はきわめて困難

・通常の日常会話に支障がある

日常生活

・趣味に対する関心が減る ・複雑な家事(料理など)がきちんとできない

・注意力が減退 ・複雑な家事がかなりできない ・日常生活でときに介助を要する

・日常生活で全面的に介助を要する ・しばしば失禁する

 

 


アルツハイマー型認知症の段階別の症状 チェックリスト

 

軽度認知症

・本人が最近物忘れを頻繁に感じるようになる

・まわりの家族、友人、知人が記憶能力や判断能力、集中力の低下を感じる

・日常生活で使っていた物の置き場所や机などにしまった物を忘れる

・今までこなしていた慣れた作業の時間がかかるようになる

・文章や名前を覚えるなどの学習能力が低下する

・探し物が多くなる

・盗まれたなどの被害妄想が増える

・清潔さなどの外見を気にしないようになる

・感情の起伏などの感動がへっている

・日によって感情の起伏が激しくなる不安定になる

・すぐに忘れてしまうので同じ質問を繰り返すまたは質問した内容を忘れる

・日付を覚えているか曖昧になる

 

中度認知症

・直前の会話を覚えられずまたは忘れる

・自分のことの身近なことの家族構成、住んでいる場所などの説明がきちんとできない

・寒暖などの季節や状況に合わせて服を選ぶことが出来ない、服を表裏反対に着るなどの

間違えて着る

・電化製品など機械の操作ができなくなる

・買い物などの会計ができなくなる

・暴言だけでなく暴力を振るうようになる

・「あなたが盗んだ」などと決めつける、物取られ妄想がひどくなる

・記憶に混乱があり、過去と現在を認識することができない

・自分の飲む薬を忘れる、薬を飲んだこと事態を忘れる

・自動車の運転ができなくなる

 

重度認知症

・身の回りや最近の出来事の変化を認識しない、できなくなる

・迷子になるなど、徘徊の頻度が多くなる

・家族の顔や身近な人の顔が分からなくなる

・唐突に同じ言葉を繰り返す、独り言が多くなる

・食事、入浴、トイレなど全般に渡って介護が必要である

・服の着替え方が分からない

・尿や便を漏らすなどオムツが必要である

・言葉がうまく話せなくなる

・寝たきりに近い状態、または寝たきりである

・食べてはいけないもの(おもちゃ等)を食べようとする

 

 

2.脳血管性認知症

脳血管性認知症は、血液供給の減少や途絶によって脳組織が破壊されることが原因で精神機能が失われる病気です。

 

原因は脳卒中であるのが通常で、少数の大きな梗塞の場合もあれば、多数の小さな梗塞の場合もあります。

 記憶力、判断力の低下、思考力障害が現れる。アルツハイマー型認知症と違い、感情面は昔からのその人らしさが保たれる。血流障害が原因のため、しばしば合併症を起こす。

 

原因は脳卒中であるのが通常で、少数の大きな梗塞の場合もあれば、多数の小さな梗塞の場合もあります。

 

 

アルツハイマー型

脳血管性

原因

脳細胞が壊れ位いくために、脳が縮んで発症する

脳梗塞や脳出血など脳血管障害が原因で起きる

発症年齢

60代以上が一般的

アルツハイマー型より若い

性差

女性に多い

男性に多い

経過

ゆっくり発症し、静かに進行していく

良くなったり悪くなったりしながら進行していく

持病の有無

持病との関係は少ない

高血圧や糖尿病などの持病があることが多い

特徴的な傾向

落ち着きがなかったり、深刻味がないことが多い

ささいなことで怒るなど、精神的に不安定になることが多い

人格の変化

変化が見られることが多い

起こりにくい

認知症のタイプ

全般的に能力が低下

部分的に能力が低下

 

 

 

その他の認知症

認知症はさまざまな病気で起こります。

 

パーキンソン病

患者の約40%で認知症が発生します。認知症の発症年齢は70歳以降で、パーキンソン病の診断から10~15年後であるのが通常です。パーキンソン病における認知症は、この病気の他の症状より、日常生活への支障が大きく死に至る可能性を高めるほど重度である場合もあります。幻覚に加えて筋肉および運動機能の重度の障害がみられる患者では、認知症を発症する可能性が特に高くなります。

症状は、アルツハイマー病やレビー小体型認知症と非常によく似ることがあります。たとえば、記憶力が損なわれ、情報の処理に困難が生じます。思考が鈍くなり、無気力になって自発性が失われることもあります。気分の変動、錯乱、見当識障害、注意散漫などもみられます。

パーキンソン病の人で運動能力に関わる症状が現れた数年後に認知症が発生した場合は、パーキンソン病による認知症と診断されます。しかし、パーキンソン病による認知症はレビー小体型認知症と症状が似ているため、両者の鑑別は困難な場合もあります。一般に、運動や筋肉の障害が精神機能の低下と同時あるいは直後に発生した場合は、レビー小体型認知症である可能性が高いと考えられます。一方、パーキンソン病の人で運動または筋肉の障害より後に精神機能の低下が生じた場合は、パーキンソン病による認知症である可能性が高いと考えられます。他の原因による認知症である可能性を否定するために、CT検査やMRI検査が行われることもあります。

 

 

多発脳梗塞性認知症

複数の脳卒中(通常は中程度の大きさの血管が関与した脳卒中)によって生じる認知症です。

 

 

ラクナ梗塞病

多数のラクナ梗塞(細い血管の閉塞によって起きる脳卒中)による多発脳梗塞性認知症に対して、ときにこの用語が用いられます。

ビンスワンガー病:コントロール不良の重度の高血圧と全身の血管が冒される血管障害がある人において、いくつかの細い血管で閉塞が起こる(ラクナ梗塞が発生する)病気です。

血管性認知症は、しばしばアルツハイマー病と併発します(混合型認知症)。

 

 

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、精神機能が次第に失われていく病気で、神経細胞の中にレビー小体が認められることを特徴とします。

脳全体にレビー小体が発生します。

患者は目覚めた状態とうとうとした状態との間で大きく変動するほか、絵を描くのが困難になったり、幻覚が起きたり、パーキンソン病と同様の動作困難が生じたりします。

 

 

前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症とは、脳の一部(主に前頭葉、ときに側頭葉)の組織が変性する遺伝性または原因不明の病気によって発生する一群の認知症を指します。

アルツハイマー病と比べると、人格、行動および言語機能への影響が大きく、記憶への影響は少ない傾向があります。

診断は症状と神経学的検査の結果に基づいて行われ、脳組織の損傷について調べるために画像検査も行われます。

症状を管理することが治療の目標となります。

 

 

クロイツフェルト・ヤコブ病

クロイツフェルト・ヤコブ病(亜急性海綿状脳症)はプリオン病の一種で、進行性の精神機能の低下を特徴とし、認知症、筋肉の引きつり(ミオクローヌス)、よろめき歩行などの症状が現れます。

脳に異常プリオン蛋白が蓄積して神経細胞を破壊することにより死に至る病気です。

おもな初期症状は、けいれんの様な不随意運動が上半身中心に表れるミオクローヌスと呼ばれる症状が現れます。その後の症状は記憶の喪失と錯乱で、これらはアルツハイマー病などの認知症の症状と似ていることもあります。人によっては、協調運動の喪失が最初に起こる場合もあります。記憶障害などの症状が発生します。

 

 

HIV関連認知症

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症の末期では、ウイルスが脳に直接感染することがあります。HIVは神経細胞を破壊することで認知症を引き起こします。また、HIV患者がかかりやすくなる別の感染症によって認知症が引き起こされる場合もあります。他の種類の認知症の大半と異なり、比較的若い人で発生する傾向があります。

 

 

ボクサー認知症:

ボクサー認知症は慢性進行性外傷性脳症とも呼ばれる病気で、ボクサーなど、頭部に繰り返し外傷を受けた人に生じることがあります。多くの場合、パーキンソン病に似た症状がみられ、ときに正常圧水頭症が生じることもあります。

 

 

 障害年金の支給対象となる認知症は、65歳未満で発症する若年性認知症である。アルツハイマー病が70歳で発症すれば老年発症型アルツハイマー病、60歳で発症すれば若年発症型アルツハイマー病と呼ぶ。

 

 

認知症で障害年金2級に認定された方の症状、日常生活状況の一例は次のようになります。

・診断書における「日常生活能力の判定欄」の項目で、食事、入浴等の項目のほとんどが家族の援助なしではできないと記載された。 ・物忘れが激しく同じことを何度も聞く ・何度念を押しても指示したことができない ・一人で外出させると迷子になり、帰宅できなくなる ・数時間前に食事で食べたものが思い出せない ・買い物に出かけると何を買ったらいいかわからなくなる ・今日が何曜日かがわからなくなる ・あり得ないことを信じ込んだり、言ったりする

以上のように認知症になると物事を記憶できなくなってしまうため、日常生活に大きな支障が生じ、日常生活の多くの場面で家族の援助が必要になります。

 

 

健忘症

 

健忘症は、数秒前、数日前、あるいはさらに前の体験や出来事を部分的に、または完全に思い出せなくなる障害です。

健忘症の原因が起こる直前の出来事の記憶が失われる場合や(逆行健忘)、直後の出来事の記憶が失われる場合(前向健忘)もあります。どのくらい前までの記憶が失われるかはさまざまで、健忘症が起こる数秒前または数日前のこともあれば、さらにさかのぼって長期の記憶に影響が出ることもあります。

情報を記憶したり、逆に記憶の中から情報を取り出したりする脳の働きは、主に側頭葉と前頭葉が担っていますが、その他にも多くの脳領域が記憶に関与しています。記憶の保存と呼び出しのプロセスには、大脳辺縁系で起こる感情が影響を及ぼします。大脳辺縁系には、大脳の一部と脳の深部の構造が含まれます。脳幹の中で覚醒と注意力をつかさどる領域も記憶に関与しています。このように、記憶には互いに複雑に絡み合った数多くの脳機能が関与しているため、脳組織の損傷は事実上あらゆるものが健忘症の原因となりえます。

健忘症が起こる原因は部分的にしか解明されていません。健忘症は、頭部の外傷、脳への血液や栄養の供給を減少させる病気(脳卒中、けいれん発作、片頭痛)、脳の感染症(脳炎)、脳腫瘍、アルコール依存症、重度の精神的ストレス、ある種の薬の使用(アムホテリシンBやリチウムなど)によって起こることがあります。

損傷の重症度によりますが、ほとんどの健忘症は数分から数時間しか続かず、多くの人は特に治療を行わなくても自然に記憶が回復します。しかし重度の脳損傷では、昔の記憶が永続的に失われることもあります。新しく覚えることがまったくできなくなる人も、少数ながらいます。

 

一過性全健忘:

新しい記憶を保存する能力と、数時間から数年前に起こった出来事を思い出す能力が突然かつ一時的に失われます。その結果、忘れっぽくなり、時間や場所がわからなくなります。ときとして、他の人が誰か分からなくなることもあります。

このタイプの健忘症は、側頭葉に血液を送る動脈が一時的に遮断されると起こります。こうした遮断は通常、アテローム動脈硬化が原因で、特に高齢者ではこの傾向があります。一過性全健忘は側頭葉のてんかん発作によって起こることもあります。原因が不明であることもしばしばあります。若い成人では、片頭痛で脳への血流が一時的に減少して、一過性全健忘が起こることがあります。

一過性全健忘が起きた人の大半は発症が生涯に1度だけで、再発する人は約10%です。症状は30分から約12時間続くことが一般的です。症状が終わると錯乱はすぐに収まり、完全に回復します。ただし、症状が出ていたときに起きたことは覚えていない場合があります。

治療法は原因によって異なります。

 

ウェルニッケ・コルサコフ症候群:

健忘症の中でもまれな種類のもので、アルコール依存症や栄養不良のある人に起こります。原因は多くの場合、チアミン(ビタミンB1)欠乏症です。この症候群は、急性の錯乱状態と健忘症の二つの疾患が組み合わさったものです。ウェルニッケ脳症が治療されていない人の約80%にコルサコフ症候群が起きます。

ウェルニッケ脳症は、錯乱のほかに、バランス感覚の喪失、眠気、ふらつき、眼の動きの問題などを起こします。

 

器質性健忘症候群

 

器質性健忘症候群は、物忘れの症状が出ます。物忘れの特徴としては、直前の記憶はありますが、数十分前や数時間前など、短期から長期の記憶を著しく忘れてしまう傾向にあります。また、時間感覚についても曖昧となるため、約束の時間を守れない、季節に会わない服を着てしまうといったことがあります。しかしながら認知能力や最近の記憶については障害が現れないことが多く、患者自身は病気である自覚がとれない傾向にあります。まれに、うつ状態になる人も見受けられます。

 

記憶障害は心因性のものと器質的のものとに分かれますが、心因性のものに関しては、心理的・社会的ストレスなどにより引き起こされるといわれています。しかし、器質的記憶障害の場合は、脳の特定部位に障害を受けて発症します。正確なことはまだ研究段階ですが、現在のところ、脳の視床下部や間脳、海馬領域に何らかの障害があることが原因であると推定されています。しかし、ほとんどの場合は他の根本疾患が見つかります。

 

器質性健忘症候群の診断は、医師による問診で物忘れに関するヒアリングが行われます。本人に自覚がないため、問診には家族など第三者が立ち会うことが多いです。また、数唱テストなどを行うことにより、即時記憶に関するチェックや、注意と意識、全般的な知的能力などについて検査されます。問診中の会話の情緒的変化なども参考にされます。さらには、脳の状態を調べるために、CTスキャン検査やMRIスキャン検査などが行われます。

器質性健忘症候群の陰には、アルツハイマー病や更年期障害、動脈硬化などに代表される他の疾患が隠れていることがほとんどです。そのため、治療にはその根本疾患を探し出し、根本治療をすることで改善を行います。中には、アルコールや一酸化炭素、薬物中毒などの場合もあり、CTスキャン検査などで、これらの中毒ではないことを立証してから治療に当たることも大切です。年齢的な問題もありますが、若年であれば根本原因が解消されれば、ほぼ完全に回復できます。

 

 

 

 

 器質性精神障害の治療の基本は、原因となる脳器質疾患、身体疾患を治療することである。頭部外傷脳腫瘍など外科的処置が必要になるものや、脳炎膠原病など内科的治療を行うもの、アルツハイマー型認知症のように、薬を使いながら生活環境を整えリハビリを行うものなど、原因疾患が何であるかによって治療は変わる。精神症状が激しい場合には、向精神薬を用いながら治療を行う。

 

 器質性精神障害の後に、統合失調症気分(感情)障害てんかんまたは発達障害と診断された場合には、これら後発傷病の原因が器質性精神障害によるとされたとき、または、器質性精神障害の病態として後発傷病の病態を示しているとされたときには、同一傷病となる。

ただし、前発傷病の初診から後発傷病の診断までの期間が長く、診断書作成医が別傷病と判断し病名が併記された場合には、認定上も別傷病と認定される可能性がある。

 

 精神疾患は、症状が変動し、症状が固定することはないと審査する側は判断する。したがって、精神疾患で障害手当金の支給を受けることはほぼ不可能である。症状性を含む器質性精神障害のみが例外である。

 

 

 症状性を含む器質性精神障害の程度については、検査数値等が用いることができるわけではない為、診断書の日常生活能力の判定が大きな意味を持ちます。

 器質性精神障害とは、先天性のものでなく、高次脳機能障害アルツハイマー型認知症などの後発性のものとします。別傷病とされる可能性があるのは、例えば、うつ病で治療中の方が、脳出血脳梗塞などの脳卒中を発症し、高次脳機能障害の記憶障害が生じたようなケースです。

 器質性精神障害の後に、統合失調症気分(感情)障害てんかんまたは発達障害と診断された場合には、これら後発傷病の原因が器質性精神障害によるとされたとき、または、器質性精神障害の病態として後発傷病の病態を示しているとされたときには、同一傷病となります。ただし、器質性精神障害の後に他の精神障害が発症したケースであっても、診断書作成医が別傷病と判断し病名が併記された場合には、認定上も別傷病と認定される可能性があります。つまり、その病態または前発傷病の初診から後発傷病の診断までの期間などにより、同一傷病か、別傷病かが認定されるものと考えられます。

 

 


○精神作用物質作用による精神障害

 アルコール、薬物等の精神作用物質の使用による精神および行動の障害については、障害認定基準の中の「症状性を含む器質性精神障害」に含められています。

障害年金では、アルコール、薬物等の精神作用物質の使用により生じる精神障害について認定する。

 

1 アルコール使用による精神病

 アルコール精神病とはアルコール依存症が進んだ状態のことをいいます。アルコールの多量摂取によって引き起こされます。たまったストレスを飲酒で解消内できた気がして続けているうちにアルコールのない心身ではいられなくなってしまうのがアルコール依存症ですが、アルコール精神病はそこからさらに病状が進むことが原因です。

 主な症状には、虫が体を這うような幻覚が見え、頭の中で誰かに脅迫を受けているというような幻聴が聞こえたりなどするアルコール幻覚症があります。

 

 アルコールを摂取すること自体は合法であるから給付制限はない。

 

 アルコール精神病による幻覚、幻聴、歩行困難などで日常生活に支障がある場合、障害年金の受給の可能性があります。

 

アルコール精神病で障害年金の請求をするときのポイントは主に次の通りである。

・日常生活で家族の援助が必要であること ・診断書の日常生活の判定の項目で、食事、入浴等の項目が家族の援助なしではできないことが証明されているか

・労働ができないこと ・幻聴、幻覚、妄想、持続性健忘症や運動障害(歩行困難)、眼球運動障害、譫妄・錯乱・興奮などの意識障害などの症状があり、労働ができないことが証明されているか

・治療のため入院中であること ・治療のため長期の入院期間を要すること  など

 

アルコール依存症について、精神病性障害を示さない急性中毒及び明らかな身体依存の見られないものは、認定の対象とはならない。

 身体依存とは、既に体内にその薬物が恒常的に存在する状態であり、その薬物の血中濃度がある程度維持されていることによって、かろうじて生理的平衡が保たれているような状態に至ったものであり、その薬物を一時的に中止すると自律神経症状、精神症状、身体症状などの多彩な離断症状(禁断症状)が出現するようになった状態とされています。

 

現実には障害年金の申請には医師の診断書を必要としていることから酒を飲むということは「正当な理由がなく療養に関する指示に従わない」ということになり、任意的支給停止に当たることになる。

 

「故意の犯罪行為若しくは重大な過失により又は正当な理由がなくて療養に関する指示に従わないことにより障害者若しくはその原因となった事故を生じさせ又は障害の程度を増進させたもの」には障害年金の全部または一部を行わないことができる(国民年金法70条 厚生年金保険法73条の2)。

 

 

2 違法薬物使用による後遺症

 

覚せい剤やシンナー等の使用による後遺症については、原則として障害年金は支給されません。

 法律で使用が禁止された薬物等の濫用が障害の原因だった場合、障害年金を受給することは不可能です。

 

「故意に障害又はその直接の原因となった事故を生じさせた者の当該障害については、これを支給事由とする障害年金は、支給しない。」(国民年金法69条 厚生年金保険法73条)。

 

自らの意思で覚せい剤などを使用したことによる後遺症については、障害年金は支給されないということになります。

覚せい剤は依存性を有し精神・身体に有害であることは広く知られ、またその輸出入・製造・譲渡・譲受・所持・使用は処罰されることは知れ渡っている。とするならば通常の判断能力を有する一般人の理解では覚せい剤を使用すればその依存性ゆえ精神身体に異常をきたすことは容易に認識できる。したがって覚せい剤を使用することは障害の発生する事実を認識した上であえて行ったということができる。よって覚せい剤であることを認識して使用して障害を負ったことは障害年金の絶対的不支給事由となる。

 

 元々の持病である精神障害により判断能力が失われ、違法薬物を使用してしまった場合は、この行為が故意であったかがポイントとなります。元々の精神障害により判断能力がない状態での使用であれば故意による給付制限の対象とすることはできないと考えられます。

 

 過去に覚せい剤の使用歴がある人が統合失調症になってしまった場合は、病気の症状が覚せい剤の使用と因果関係があるかがポイントとなります。中毒症状がみられず、医学的に因果関係が認められない状態の場合は給付制限の対象とはなりません。

 

ただし、強迫や暴力により強制的に使用させられた場合は故意にあたらないので支給の対象となります。

病名が覚せい剤精神病など以外でも、医師が薬物使用との因果関係を認めていれば後遺症と

見なされます。

 

 

ギャンブル依存症

ギャンブル依存症はICD-10 F-63「人格及び行動の障害」の項目に規定されている。そして<障害認定基準では人格障害は原則として認定の対象とならないとされます。

 

 

薬物乱用

 

合法的、非合法的にかかわらず、薬物は多くの人にとって毎日の生活になくてはならないものになっており、青少年の薬物使用率は依然として高いままです。

個々の薬物の合法性と社会的容認度は、その使用目的、効果、使用者によりしばしば異なります。

たとえば、多くの乱用薬物には合法化された医療用の使用法があります。

 

アンフェタミン:注意欠陥多動性障害の治療

バルビツール酸系薬およびベンゾジアゼピン系薬:不安および不眠の治療

コカイン:体表面を麻痺させる(局所麻酔薬として)

ケタミン:麻酔

マリファナ:進行癌による吐き気の治療

オピオイド:痛みの軽減および麻酔

 

しかし、これらの薬を快楽のために使用することは違法であり危険です。薬物の合法性と社会的容認度は、しばしば社会や国の違いにより大きく異なります。また、同じ社会や国でも時代により変化します。米国ではこのような変化がアルコールに対してみられます。

合法か違法かにかかわらず、多くの薬物は精神に作用します。精神に作用する薬物(向精神薬)の中には、使用量に関係なく、使用するたびに脳の機能に影響を及ぼすものがあります。また、大量に使用したときや続けて使用した場合にのみ、脳の機能に影響を及ぼすものもあります。何度も繰り返し使いたくなる、あるいは脳に影響を及ぼし、使う必要があると思わせる(渇望)薬物もあります。多幸感(高揚感)などの症状を引き起こす薬物もあります。

薬物乱用を議論する際に、麻薬がよく取り上げられます。この用語は感覚の消失、しびれ感、眠気を引き起こす薬を指します。特にオピオイド(細胞のオピエート受容体に結合する薬)を指してよく使用されます。一方、違法な薬物または違法な使用法を含めたより広い(不正確な)意味で、麻薬という用語が使用されることもあります。

 

定義

精神に作用する薬物(向精神薬)の使用により引き起こされる問題を指すのにさまざまな用語が使用されます。しかし、用語の厳密な意味をめぐっては、医師や専門家の間で意見の食い違いがみられることがあります。

 

寛容性(Tolerance):

寛容性とは、もともとは少量で得ていた効果を得るためにだんだん多くの薬を必要とするようになることを意味します。オピオイドなどの薬物やアルコールに対し、寛容性が生じる可能性があります。

 

中毒(Intoxication):

この用語は特定の薬物の即時的で一時的な作用を指します。中毒を起こすと、精神機能や判断能力が損なわれて気分が変化します。薬物に依存すると、興奮感、誇大な幸福感、多幸感を感じることもあれば、より落ち着いてリラックスして眠くなることもあります。多くの薬物は身体機能を傷つけ、協調運動能力を低下させるため、転倒や自動車事故につながります。一部の薬物は攻撃的な態度を誘発し、けんかにつながります。薬物を大量に使用すると、有害作用が顕著になり(過量摂取と呼びます)、重度の合併症や死のリスクを伴います。

 

薬物依存(Drug Dependence):

薬物依存とは、薬物の摂取をやめるのを困難にする要因のことをいいます。これらの要因には、渇望や離脱症状などがあります。薬物依存には、心理的な依存と身体的な依存があります。

心理的依存とは、精神作用薬の薬物体験を繰り返したい(渇望)、または薬物を使用しないことによる不満(離脱症状)を避けたいという抑えきれない欲望をいいます。衝動的に薬物を使用する唯一明らかな理由が薬物体験への欲望です。

心理的依存の原因となる薬物は多くの場合、次の1つ以上を引き起こします:

不安および緊張の軽減

高揚感、多幸感など、心地よい気分の変化

精神力や身体能力の向上感

現実からの一時的な逃避感

環境認識の変化(たとえば幻聴や幻視)

 

薬物使用への激しい欲望および衝動により、最初に思っていたよりももっと大量に、もっと頻繁に、もっと長く使用するようになります。薬物に心理的に依存している人は、薬物使用を理由に社会的活動やその他の活動を放棄します。また、薬物は体に有害で、家族や仕事など生活の他の側面を害することがわかっていてもなお使い続けます。

身体的依存とは、薬物を中止すると不快感、場合によってはつらい身体的症状(離脱症状)が現れることをいいます。症状は、薬物がとぎれなく存在していることに体が順応するために現れます。

離脱症状が現れた人は気分が悪くなり、使用した薬物によってさまざまな不快症状が現れます。一部の薬物(アルコールやバルビツール酸系など)の離脱症状は重篤で、命を脅かすこともあります。

 

どのように薬物依存が起こるかについては複雑で不明確であり、以下の相互作用で決まります。

 

薬物:

どれほど人を依存させやすいかについては、薬物によりさまざまです。

 

使用者:

使用者の性格、健康状態、身体的特徴(遺伝子構成を含む)、感情的状態は、使用者が依存するようになるかどうかに影響を及ぼします。たとえば、持続的な痛みがある場合には薬物を不適切に使用してしまいます。感情的な苦痛がある場合も同様です。しかし、なぜ一部の人が依存するようになり、他の人はならないのかを説明づける明確な生化学的差異または身体的差異は明らかにされていません。

 

文化的・社会的因子:

仲間またはグループからの圧力やストレス(仕事や家族への義務感など)が依存に関与している場合があります。処方薬がすべての苦痛を安全に和らげるかのようなマスメディアの描写も関与しているかもしれません。

 

薬物乱用(Drug Abuse):

薬物乱用は、社会的な否定と薬が社会的・感情的安寧に与える影響の点から定義することができます。

薬物乱用には次のようなケースが含まれます。

通常は違法とされる薬物を医学的理由のためでなく、娯楽的に使用する場合

医療専門家の勧めなしに、医学的問題や症状を軽減する目的で向精神薬を使用する場合

心理的または身体的に抑えがたい強い渇望(依存)のために薬物を使用する場合

 

違法薬物の使用はしばしば、主に薬物そのものが違法であるために乱用とみなされます。しかし乱用される薬物は必ずしも違法というわけではなく、精神に作用する場合もしない場合もあります。これには違法薬物はもとより、処方薬、アルコール、薬物とはみなされない製品(接着剤や塗料など)に含有される物質も含まれます。あらゆる社会経済層の人が薬物を乱用します。

一部の乱用者は薬物を大量または長期間使用して、本人および周囲の人の生活の質(QOL)や健康、安全を脅かします。しかし、多くの乱用者は調整して使用し、健康状態や心身機能への悪影響などの明らかな影響が現れないようにしています。薬物乱用は必ずしも依存を伴うとは限りません。

 

娯楽的な薬物使用(Recreational Drug Use):

薬物の娯楽的使用には、比較的少量の薬物を臨時に使用することも含まれ、多くの場合、使用者に害を及ぼすことはありません。すなわち、使用者に寛容性が現れたり、身体的な依存症になることはなく、薬物が(少なくとも短期的には)身体的に害となることはありません。通常娯楽薬とみなされるものには、アヘン、アルコール、ニコチン、マリファナ、カフェイン、幻覚作用のあるキノコ、コカインなどが含まれます。

娯楽薬は通常、口から摂取するか吸入します。

 

他の乱用薬物

薬物乱用には一般に向精神薬が使用されますが、減量や運動能力向上など他の目的で摂取する薬物が使用される場合もあります。医学的な必要性がなく、医学的管理のない状態でこれらの薬物を服用すると、使用者の生活の質、健康状態、安全を損なう可能性があります。薬物のこのような使われ方も、薬物乱用とみなされます。この種では、タンパク同化ステロイドがおそらく最も多い乱用薬物です。

 

成長ホルモン

成長ホルモンは脳下垂体でつくられ、体内でタンパク質、炭水化物、脂肪の利用を調節して成長を促します。成長ホルモンは医療用の薬としても製造され、体内で十分量の成長ホルモンをつくれない低身長の小児に投与される場合もあります。一方、成長ホルモンが筋肉の成長や体力を増強し体脂肪を減らすとの思いこみから、成長ホルモンを乱用する運動選手もいます。

医学的に必要がないのに成長ホルモンを長期間にわたって使用すると、血液中の脂肪が増加し、糖尿病や心臓肥大を引き起こし、心不全にいたることがあります。

体内でつくられたものではない成長ホルモンを測定する検査は、一般には行われていません。

 

エリスロポエチンとダルベポエチン

エリスロポエチンは腎臓で産生されるホルモンです。骨髄を刺激して赤血球を生成します。エリスロポエチンは医薬品としても製造されています。ダルベポエチンはエリスロポエチン

に似た薬です。どちらの薬もある種の貧血の人に対して赤血球の生成を増加させるために使用されます。赤血球を増やせば酸素を筋肉に多く取り込めるようになり、運動能力が向上するという思いこみから、これらの薬を運動選手が使用することがあります。

医学的に必要がないのにエリスロポエチンやダルベポエチンを使用すると、体内の赤血球産生の調節機能が変化し、使用を中止したときに赤血球数が急激に減少することがあります。

 

利尿薬

利尿薬は腎臓による塩分と水分の排出を促す薬です。利尿薬は、高血圧や心不全などさまざまな病気の治療に使われます。しかし、運動選手や神経性無食欲症などの摂食障害のある一部の人が、体重を早く減らすために利尿薬を摂取することがあります。利尿薬を不適切に使用すると、脱水症を起こしたり、カリウムなどの電解質の重度の欠乏が生じます。これらの欠乏により重度の疾患や死に至ることもあります。

 

トコンシロップ

トコン(吐根)シロップは嘔吐を誘発する薬です。化学物質や毒物を誤って飲んでしまった小児の治療に使用することがあります。しかし、神経性無食欲症などの摂食障害がある人が体重を減らす目的でトコンシロップを使用することがしばしばあります。不適切に使用すると、下痢、重度の電解質欠乏、筋力の低下、不整脈、心不全を起こすことがあります。

 

下剤

下剤は物質の消化管通過を促進する薬で、便秘の治療に使われます。しかし、健康でいるためには頻繁に便通がなければならないという誤った思いこみをしている人は、しばしば下剤を乱用します。また、神経性無食欲症などの摂食障害のある人が、下剤で体重を減らせると考えて使用することもあります。

医学的な必要がないのに下剤を頻繁に使用すると、脱水症と重度の電解質欠乏が生じます。下剤を常用すると他の薬の吸収が阻害され、その作用が止まってしまうこともあります。長期にわたって下剤を不適切に使うと、大腸の筋層が損傷し、重度の便秘やその他の腸の障害(憩室症など)に至ることがあります。

 

薬物中毒(Drug Addiction):

薬物中毒には広く認められた定義はありません。本人や周囲の人に害を及ぼすにもかかわらず、薬物を強く渇望し、衝動的で抑制のきかない使用をすることを特徴とします。嗜癖者は、薬物の入手、使用、その影響からの回復にますます多くの時間を費やすようになります。薬物中毒は多くの場合、仕事や勉強の妨げとなり、家族や友人との人間関係に影響を及ぼします。害となる危険があるため、本人が理解し同意しているかどうかに関わらず、薬物の使用をやめさせる必要があります。

薬物中毒は違法薬物でも合法薬でも起こり得ます。しかし、違法薬物の入手や使用は、単に病院へ行き、処方せんをもらって薬局へ行くだけの合法薬の入手や使用とはまったく異なります。違法薬物(または医学的必要なしに使われる合法薬)の入手には、うそや盗みが関わる場合があります。たとえば、医師に症状を偽ったり、同じ症状で何人もの医師の診察を受けて複数の処方せんを入手します。一方、進行癌による重度の痛みのある人がモルヒネなどのオピオイド薬に(心理的、身体的に)依存するようになった場合には、持続的に薬物を必要としても通常は嗜癖とみなしません。しかし、ヘロインに依存するようになった人が、ヘロインを買うためのお金を盗んだり、家族や友人にうそをつくような行為は、嗜癖とみなされます。

時には家族や友人が、薬物やアルコールを使用し続けることを許すようなふるまいをすることがあります。このような人たちはイネイブラー(協力者)と呼ばれます。薬物中毒者が嗜癖物を使用し続けることに自分のニーズがからみあっている場合は、共依存者とみなされます。イネイブラーは、嗜癖者に代わって病欠の電話をかけたり、嗜癖者の行為を弁解します。イネイブラーは嗜癖者に対して、薬物やアルコールをやめるように懇願はしますが、その他に嗜癖をやめる助けとなるようなことはめったにしません。

嗜癖者が妊娠すると、使われている薬物に胎児が曝露します。妊娠した妊婦は多くの場合、薬物使用や飲酒の事実を医師に打ち明けません。母親が薬物を使用した結果として、胎児も薬物依存となり、重大な障害が現れることがあります。特に医師が母親の薬物中毒に気づいていない場合には、分娩直後に重度または致死的な離脱症状が新生児に現れることがあります。

 

使用法

薬物の使用法には、飲みこむ、煙を吸い込む、粉末にして鼻から吸引する(鼻でかぐ)、または注射するなどの方法があります。薬物を注射した場合には、作用がより早く現れたり、より強く現れたり、その両方が起こることがあります。

薬物は静脈、筋肉、皮下に注射します。静脈注射では一般的に腕の静脈を使用しますが、その部分が瘢痕化した場合は、太もも、首、わきの下など体のどこかの静脈に注射します。

 

 

薬物注射の合併症:

薬物注射には、他の方法よりも多くの危険があります。薬物の副作用だけでなく、次に示すような、注射そのものに関連する問題が生じます:

 

混ぜ物:

混ぜ物とは、物理的性質を変化させるために薬物に加える物質です。通常は、コストを減らしたり薬物を使いやすくする目的で、使用者が知ることなしに加えられます。したがって、使用者は何を注射しているかわかりません。ヘロインやコカインなどの路上で手に入る薬物(ストリートドラッグ)には、精神作用を高めたり、薬物の代用として混ぜ物が加えてある場合もあります。ヘロインの一般的な混ぜ物であるキニーネは、ギラン・バレー症候群など、神経の損傷を示す症状(複視や麻痺など)を誘発することがあります。

 

賦形剤:

処方薬の錠剤を砕いて溶かし、その液体を静脈に注射する人もいます。これは、錠剤に一般的に含まれる賦形剤(セルロース、タルク、コーンスターチなど)を注射していることになります。賦形剤が肺に入り込み、炎症を引き起こす可能性があります。心臓の弁を損傷する可能性もあり、感染のリスク(心内膜炎)が増します。

細菌とウイルス:滅菌していない針、特に他の人が使用した針で注射すると細菌やウイルスが体に入る可能性があります。その結果、注射部位の近くに膿瘍ができたり、細菌やウイルスが血流に乗って肺、心臓、脳、骨などの他の部位に運ばれて、感染をおこします。心臓弁の感染(心内膜炎)は、細菌に汚染された薬物の注射や汚れた注射針の使用でよく起こる深刻な結果です。注射針の使いまわしにより、B型またはC型肝炎やヒト免疫不全ウイルス(HIV)などの重度の感染を広げる可能性があります。

 

注射針使用による外傷:

骨化性筋炎は、米国では「薬物乱用者のひじ」と呼ばれ、注射針を不適切な位置に刺すことを繰り返したために起こります。ひじ周辺の筋肉が瘢痕組織に置き換わってしまいます。皮下注射(皮膚打ちとも呼ばれます)により皮膚に潰瘍が生じることもあります。静脈内注射を繰り返すうちに静脈が瘢痕化すると、静脈への注射がますます困難になり、血流障害が生じます。

 

スクリーニング検査

スクリーニング検査では、薬物乱用の症状があるとは限らない人の薬物乱用を調べます。

以下のような人で系統的に行われることもあれば、無作為に行われることもあります。

学生、運動選手、囚人など特定のグループ

ある種の仕事(パイロット、トラック運転手など)に応募している人やすでに従事している人

自動車やボートの事故あるいは仕事中に事故に巻き込まれた人

はっきりしない手段で自殺を図った人

裁判所の命令により薬物乱用治療プログラムに参加している人または保護観察中か仮釈放中の人で、禁酒が必要で守っているかを監視されている人

薬物乱用治療プログラムに参加している人

薬物乱用を続けていないかを検出して、よりよい治療計画を実施するため

 

交通事故など特定の状況を除き、通常はスクリーニング検査に同意しなければなりません。スクリーニング検査では、使用頻度を判定できず、一時的な使用者とより深刻な問題を抱えている人とを区別できません。また、薬物スクリーニング検査はごく一部の物質のみを対象とするため、他の多くの物質を見逃します。対象となる物質で最も多いのは、アルコール、マリファナ、コカイン、オピオイド、アンフェタミン類、フェンシクリジン、ベンゾジアゼピン系薬、バルビツール酸系薬などです。

尿、血液、呼気、唾液、汗、毛髪を検査します。尿検査は体への負担がなく、迅速、安価で、多くの薬物を検出できるため、最も一般的に行われています。1~4日以内に使用した薬物を検出できますが、薬物によってはそれ以前でも検出できます。毛髪検査は広く普及していませんが、一部の薬物は100日前に使用した場合も検出できます。医療専門家が検体採取に直接立ち合い、不正に手を加えられていないことを確認して封をすることがあります。

 

診断

薬物使用をやめたいという理由で医療専門家のもとを訪れ、薬物乱用の診断が下される場合があります。また、薬物の使用を隠そうとする人もいます。

医療専門家は、気分や行動に変化がみられると薬物使用の問題を疑い、詳しい身体診察を行うことがあります。薬物乱用の徴候がみられることもあります。たとえば、繰り返し静脈内注射をしていると注射痕が残ります。注射痕は小さな黒い点々(針を刺した跡)の線で、周囲の皮膚には黒ずみや変色があります。皮下に注射した薬物により環状の瘢痕や潰瘍ができます。中毒患者はその跡について、頻繁に献血をした、虫に刺された、けがをしたなど、別の理由を主張することがあります。

医療専門家は他の方法(アンケートなど)も使用して薬物やその他の物質の乱用を確認し、乱用の程度とその影響を判断します。尿検査や、場合によっては血液検査を実施して薬物の存在を調べます。

薬物使用の問題が明らかになり、特に薬物を注射していた場合は、肝炎、HIVや薬物使用者に多いその他の感染症について徹底的に調べます。

 

治療

具体的な治療は使用した薬物により異なりますが、通常はカウンセリングを行い、場合によっては他の薬物を使用します。家族によるサポートや支援団体の援助を得て、薬物をやめた状態を維持します。

合併症の治療は、他の原因による同様の合併症の治療と同じです。たとえば、膿瘍は排膿し、感染症の治療には抗生物質を使用します。

注射針の使いまわしがHIV感染の一般的な原因であることから、有害な影響を削減する運動が始まりました。その目的は、薬物をやめられない使用者が薬物使用で受ける害を減らすことです。そこで、使用者には清潔な針や注射器を提供し、他の乱用者の針を再利用しないようにします。この戦略はHIV感染や肝炎の広がり(および社会への負担)を縮小するのに役立ちます。

 

 

ICDコード 

精神作用物質使用による精神及び行動の障害 (F10-F19)  F10 アルコール使用<飲酒>による精神及び行動の障害  F11 アヘン類使用による精神及び行動の障害  F12 大麻類使用による精神及び行動の障害  F13 鎮静薬又は催眠薬使用による精神及び行動の障害  F14 コカイン使用による精神及び行動の障害  F15 カフェインを含むその他の精神刺激薬使用による精神及び行動の障害  F16 幻覚薬使用による精神及び行動の障害  F17 タバコ使用(喫煙)による精神及び行動の障害  F18 揮発性溶剤使用による精神及び行動の障害  F19 多剤使用及びその他の精神作用物質使用による精神及び行動の障害

 

 

○非定形精神病

 現在、精神病は統合失調症躁うつ病に二分されているが、そのどちらとも決められない病像を示す一群の疾患が認められている。病状が非定型であるとして「非定型精神病」と呼ばれる。

 症状は多彩で、不眠、不安などの神経症様の症状、元気がない、やる気が出ないなどのうつ症状、気分高揚多弁多動の躁症状幻覚妄想、まとまりのない落ち着きのなさ興奮といった精神運動性の不穏興奮、話しかけや外部からの働きかけに対して反応しない昏迷状態、錯乱、意識障害に幻覚をともなう せん妄状態、夢を見ているような夢幻状態などがみられる。

 

 

非定型うつ病の可能性があるかのセルフチェック

 1 嬉しいことがあると気分が明るくなる  2 だるくて手足が鉛のように重く感じることがある  3 食欲が止まらず体重が増えた  4 特に夕方〜夜にかけて調子が悪い  5 いくら眠っても、寝足りない  6 他人の顔色や言動が気になる

 

うつ状態が2週間以上続いていることが前提。 1 のような気分変化があり、さらに2~6 のうち2つ以上に心当たりがあれば、非定型う

つ病の可能性があります。

 

 非定型うつ病は、治療やトレーニングによって、およそ70%以上の人が改善しているという報告もあります。非定型うつ病の疑いがある人は、まずは専門機関でカウンセリングを受けましょう。日常生活では、次のことに心がけることが重要です。  ・仕事や家事など日常生活をいつもどおり続ける  ・3食規則正く食べ、ダラダラ食べることはやめる  ・日光浴をする

 


意識障害

 

 意識障害とは、昏睡と呼ばれる、どんな強い刺激を与えても深く眠ったままで目を覚まさない重度のものから、一見意識清明なように見えるものの、注意力が散漫で、放っておくとぼんやりとして、うとうとするような軽度のレベルまでいろいろな段階があります。

 このとき、幻覚(比較的幻視が多い)や妄想が生じたり、言動や行動がまとまらず興奮することもしばしばみられる。

 

植物状態:

思考と行動を制御している大脳が機能しないものの、睡眠サイクル、体温、呼吸、血圧、心拍を制御している視床と脳幹が機能している状態です。頭部外傷、酸素欠乏、髄膜炎や脳炎などの重症な脳感染症によって、脳が重度の損傷を受けると、植物状態になることがあります。

植物状態にある人は、自発的に眼を開けます。また、比較的正常な睡眠覚醒パターンがみられます。呼吸をしたり、吸ったり、かんだり、せきをしたり、むせたり、飲み込んだりすることができます。場合によっては、大きい音に反応して、ビクッとすることもあります。そのため、意識があるように見えることもあります。しかし、認識、思考、意識的な行動の能力はすべて失われています。周囲に対する見かけ上の反応は、反射の結果です。植物状態の人の多くに、腕や脚のこわばりや引きつりなどの明らかな異常反射が起こります。

2~3ヵ月以上植物状態が続いた場合、意識の回復はまず見込めません。2~3カ月後に意識が回復した人のほとんどは、重い障害が残ります。

 

 

最小意識状態:

認識力があることを示すいくつかの動作がみられます。たとえば、物に手を伸ばしたり、正しいかどうかは別として「はい」と答えたり、眼でものを追ったりします。この状態は、脳の損傷によって直接生じる場合もあれば、植物状態から一部の機能が回復するときに生じる場合もあります。少数の人は意思疎通し理解する能力を回復しますが、それには何年もかかることもあります。しかし、正常に活動したり、自力で生活する能力は回復しません。治療に使える可能性があるとして、脳の深部への刺激とゾルピデム(睡眠補助薬)が研究されています。熟練した看護が行われれば、数年以上生存できます。

 

 

 

閉じ込め状態:

意識と思考能力があるにもかかわらず、重度の麻痺のために、合図として使う眼球運動以外には、表情を示す、動く、話す、または意思を伝達することができない覚醒および意識の状態である。

閉じ込め状態の人は、顔の下部を動かす、かむ、飲み込む、話す、呼吸する、腕や脚を動かす、眼を左右に動かす、などの動作ができません。ときには意識がないと誤解されることもあります。閉じ込め状態の人の多くに強い抑うつ感が生じます。

脳卒中で脳幹が障害されて大脳が障害されていない場合や、重症のギラン・バレー症候群のように末梢神経が重度に麻痺した場合に起こることがあります。

 

 

脳死:

意識喪失のうち最も重度の状態です。脳死になると、呼吸を含め、生命維持に必要な脳のすべての機能が永久的に失われます。

脳死という概念が出てきた理由の一つは、現代医学によって、たとえ脳の活動がすべて停止しても人工的な手段(人工呼吸器の使用や薬剤の投与など)によって呼吸や心拍を維持できるようになったからです。

 

脳死の診断には、以下のような具体的な基準が定められています。

どのような刺激に対しても、顔をゆがめるまたは動くなどの反応がない

眼が光に反応しない

自発的に呼吸する様子がない

 

 

意識混濁

意識障害の一つであり、『意識の清明度』が低下して、注意・思考・感情が上手くまとまらないぼんやりとした状態をいう。

 

 

昏迷と昏睡

原因は通常、脳の両側の広い領域あるいは意識を維持するための特別な領域に影響を及ぼす病気や薬剤です。

原因の特定に役立つのは、身体診察、血液検査、脳の画像検査、家族や友人への問診です。

考えられる原因を是正し、身体機能を補助する処置(人工呼吸器の使用など)を行います。

昏睡からの回復は原因によって大きく異なります。

正常な脳は、必要に応じて活動と意識の水準をすばやく調節できます。この調整は、眼、耳、皮膚などの感覚器官から受け取る情報に基づいて行われます。たとえば脳は、代謝活動を減らして睡眠をもたらすことができます。

意識は、脳の下部(脳幹)にある神経細胞と神経線維のシステム(網様体賦活系、上行性覚醒系とも呼ばれます)によって制御されています。脳の上部(大脳)は意識と覚醒の維持を担っています。大脳には二つの半球(大脳半球)があります。意識を維持するためには、少なくとも片方の大脳半球と網様体賦活系が正常に機能していなければなりません。

 

脳の活動と意識レベルの調節機能は、以下のような場合に損なわれます。

重度の睡眠不足のとき

けいれんの発作中とその直後

両方の大脳半球が突然に重度の損傷を受けたとき

網様体賦活系がきちんと機能していないとき

脳に供給される血流や栄養(酸素や糖など)が減少したとき

毒物によって脳が障害されたとき

 

 

昏迷

昏迷とは、反応がなく、激しい物理的な刺激によってのみ覚醒させることができる状態です。

昏迷は、睡眠が過度に長くまたは深くなったような状態です。繰り返し体を揺する、大声で呼びかける、体をつねる、安全ピンで軽く刺すなどの強い刺激を与えると、短時間だけ目を覚まします。

 

 

昏睡

昏睡とは、反応がなく、覚醒させることができない状態です。

昏睡状態の人は眼が閉じたままになり、完全に無反応となった状態です。覚醒させることはまったくできません。

深い昏睡状態では、反射は存在していても、痛みを避けるなどの最も基本的な反応さえ失われます。

 

 

もうろう

急に意識がぼんやりする軽い「意識混濁」の状態に、意識できる範囲が狭まって全体把握ができなくなる「意識狭窄」が加わった状態。

 

 

譫妄(せんもう)

軽度・中等度の意識混濁に、幻聴・幻覚などの幻覚症状あるいは興奮・錯乱などの異常行動が加わった混乱した状態をいう。

注意力および思考力の低下、見当識障害、覚醒(意識)レベルの変動が特徴である。

 

せん妄と認知症は、正常に知識を獲得、保持、使用できなくなる精神(認知)機能障害の原因として最も多いものである。

 

せん妄と認知症は同時に発生することもありますが、この2つはまったく別の障害です。せん妄は、突然発症して精神機能が不安定になりますが、通常は回復します。認知症は、徐々に発症して、ゆっくり進行し、通常は治ることはありません。また、せん妄と認知症では、精神機能に対する影響が異なります。せん妄では主に注意力が障害され、認知症では主に記憶力が障害されます。せん妄も認知症もどの年齢層の人にも起こりえますが、脳の加齢による変化のため、高齢者で特に多くみられます。

 

せん妄と認知症の比較

特徴

せん妄

認知症

発症

突然発症し、ときに始まった時点を特定できる

徐々に発症し、始まった時点は不明確

原因

ほとんどの場合、別の問題がみられる(感染症、脱水、特定の薬剤の使用または中止)

通常は脳の病気(アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症など)

主な初期症状

注意を払えない

記憶の喪失(特に最近の出来事に関するもの)

夜間の状態

ほぼ必ず悪化する

悪化することが多い

覚醒(意識)レベル

過覚醒から不活発まで、さまざまな程度に障害される

末期になるまで正常

周囲に対する見当識

さまざま

障害される

言語能力への影響

話すのが遅くなり、内容が支離滅裂で不適当になる場合が多い

ときに適当な単語を思いつかなくなる

記憶

さまざま

失われる(特に最近の出来事に関するもの)

進行

精神機能に変動が生じ、完全に覚醒しているかと思うと、次の瞬間には反応が鈍くなったりする

ゆっくり進行し、徐々にではあるが確実に、すべての精神機能に大きな障害が生じる

持続期間

数日から数週間(ときに長期化する)

ほぼすべての場合、永続する

治療の必要性

直ちに開始すべき

必要だが、緊急性は比較的低い

治療の効果

通常は、失われた精神機能を回復させることが可能

進行を遅らせられる可能性はあるが、障害を回復ないし治癒させることはできない

 

 

錯乱

錯乱の解釈は人によってさまざまですが、医師の間では、情報を正常に処理できない状態を指す言葉として使われています。錯乱した人は次のような状態に陥ります。

会話についていけない

質問に対して適切な返答ができない

自分のいる場所が分からない

安全に関わる重大な判断ができない

重要な事実を思い出せない

 

錯乱は、ある種の薬(処方薬、市販薬、違法薬物)の使用や、さまざまな病気など、多様な原因で生じます。せん妄と認知症はまったく異なる障害ですが、両方とも錯乱を引き起こします。

 

 

意識の覚醒度

清明

見当識があり、周囲に対して正常に的確に反応できる。

軽症

中等度

重症

傾眠

眠りがちだが、軽度の刺激で開眼し、指示に反応できることが多い。

昏迷

自発開眼、自発的動作は共にないが、中糖度の刺激で開眼し、指示に反応することは少ない。

半昏睡

自発開眼、自発的動作は共にないが、強い刺激に対し手で払いのけるぐらいの反応を示すで。

昏睡

自発開眼、自発的動作は共にないが、強い刺激に四肢がかすかに動くか異常肢位を示す。

深昏睡

自発開眼、自発的動作は共になく、強い刺激にもまったく反応しない。

 

 

意識障害の原因となるものは数多くあり、同じ原因でも、生じる意識障害の水準(嗜眠、意識混濁、昏迷、昏睡)はさまざまです。最も多くみられる原因は、脳全体の神経細胞の活動を鈍らせる有毒物質、薬剤、代謝異常、病気などです。これらの原因の中には、必要な物質が脳に供給されるのを妨げるものや、体がこれらの物質を利用するのを妨げるものがあります。たとえば、極端な低血糖や高血糖、極端な血中酸素濃度の低下、心停止などが挙げられます。

 

高齢者では、次のような理由から、昏迷と昏睡が特に懸念されます。

高齢者では、薬剤や比較的軽い病気でも意識障害につながる可能性が高く、ときに昏迷や昏睡に至ります。薬剤は意識障害の一般的な原因で、その理由の多くは過量の服用です。医師が処方した用量が多すぎて、過量服用になってしまうこともあります。高齢者は多くの薬剤に対して感受性が高いため、多くの場合、用量を少なめにする必要があります。また高齢者が、間違って薬剤を飲み過ぎてしまうこともあります。さらに、高齢者は多くの種類の薬剤を同時に使用していることも多いので、薬剤の相互作用のリスクが高くなります。尿路感染症や脱水は、若い成人に深刻な影響を及ぼすことは通常ありませんが、高齢者では意識障害につながることがしばしばあります。

高齢者によくみられる病気の多くが、昏迷と昏睡の原因になります。そのような病気には、脳卒中、脳腫瘍、動脈瘤(脳内の動脈の弱くなった部分にできたこぶ)、代謝異常、心臓や肺の重度の病気などがあります。

高齢者の注意力が低下し、周囲のことに対する意識が低下しても、家族や友人は気づかなかったり、老化によるものだと考えたりすることがあります。認知症あるいは脳疾患がある高齢者や、脳卒中を起こしたことのある高齢者では、意識の変化を見つけるのが難しい場合があります。

自己修復能は加齢とともに低下するので、高齢者では昏迷と昏睡から回復する可能性が低くなります。

 

 

頭蓋内感染に伴う精神病

 

頭蓋内感染に伴う精神病に関する症状は、頭痛や悪心、吐き気や嘔吐、嗜眠,てんかん発作,人格変化,乳頭浮腫などの局所神経障害から始まります。また、発熱や悪寒、白血球増加症状などが見られる場合もあります。また、精神的な症状としては、人格変化の他にも、高度な痴呆症状や、気分の変化、意欲の低下、異常行動を起こすなどの場合がありますが、病気の状態によってその症状の現れ方は様々です。特に障害年金の等級付けにあたっては、思考に関する障害の度合いで変化してきます。

 

頭蓋内感染に伴う精神病の原因は、脳の中に細菌感染が起こり、膿が溜まってしまうことにより発生します。脳内は、皮膚や骨、硬膜などの組織に覆われているため、もともとは無菌状態なのですが、中耳炎、扁桃腺炎、副鼻腔炎、虫歯、気管支炎、心臓弁膜症、外傷など、他の体の部位に細菌感染症があると、血液を経由することで細菌が脳に入り込んでしまうことが原因となります。一方、稀に細菌の感染経路がわからず、突然脳が感染症におかされるケースもあります。

 

 

 

精神疾患の治療

 

精神疾患に対する治療法の多くは、身体的な治療法と精神療法(心理療法)のいずれかに分類できます。身体的な治療法には薬物療法と電気けいれん療法があります。

 

 

薬物療法

有効性の高い向精神薬が多数あり、精神科医や他科の医師に広く使用されています。向精神薬は、主に治療対象となる疾患に従って分類されます。たとえば、うつ病の治療に用いられるものを抗うつ薬といいます。

フルオキセチン、セルトラリン、シタロプラムなどの選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)は最新の抗うつ薬で、最も広く使用されています。

他の種類の抗うつ薬には、ベンラファキシン、デュロキセチンなどのセロトニン・ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)再取込み阻害薬(SNRI)、およびブプロピオンなどのノルエピネフリン・ドーパミン再取込み阻害薬があります。

クロルプロマジン、ハロペリドール、チオチキセンなどの抗精神病薬は、統合失調症などの精神病性障害の治療に役立ちます。

リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、ジプラシドン、アリピプラゾールといった新世代の抗精神病薬(一般に非定型抗精神病薬と呼ばれる)は、現在主たる治療薬として広く利用されています。

既存の抗精神病薬や非定型抗精神病薬が効かない患者には、クロザピンの使用が増えています。

SSRI、抗不安薬(クロナゼパム、ロラゼパム、ジアゼパムなど)、および抗うつ薬は、パニック障害や恐怖症などの不安障害の治療薬として使用されています。リチウム、カルバマゼピン、バルプロ酸などの気分安定薬は、躁うつ病(双極性障害)の治療に用いられています。

 

 

電気けいれん療法

電気けいれん療法は、電極を頭部に当て、患者を麻酔状態にしている間に、脳に電気的刺激を与えて軽い発作を起こさせる治療です。これは重度のうつ病に効果的な治療法であることが一貫して証明されています。電気けいれん療法を受けた人の多くが一時的に記憶を失います。一般的には、正しく為された電気けいれん療法は安全であり、一過性の記憶障害以外の合併症を引き起こすことはあまりありません。最近は、麻酔薬や筋弛緩薬が使用されるようになり、患者の骨折などのリスクが低下しています。反復経頭蓋磁気刺激法や迷走神経刺激法など、その他の脳刺激療法も研究が進められていて、薬物療法や精神療法が効果のない重度のうつ病患者に役立つ可能性があります。

 

 

精神療法

精神療法(心理療法)の分野は近年、格段の進歩を遂げました。精神療法はときに「対話療法」とも呼ばれ、人は自身の中に苦しみを癒す力をもち、その治癒力は精神療法家(サイコセラピスト)との信頼や支援関係を通じてさらに促進される、という点に基づいています。精神療法家は親身で受容的な雰囲気をつくり出すことにより、患者が直面している問題に患者自身が気づき、対処法を自分で考え、実行出来るよう手助けします。精神療法を通じて得られる感情の認識と洞察は、しばしば患者の態度や行動に変化をもたらし、以前より安定した生活を送れるようになります。

 

精神療法はさまざまな状態に適応があります。精神疾患がない人でも、就職先が見つからない、大切な人との死別、家族が慢性の病気に侵されているといった問題に対処するときには、精神療法が役立つことがあります。グループ精神療法、家族療法なども広く行われています。

精神医療の専門家の大半が、支持的精神療法、精神分析、精神力動的精神療法、認知療法、行動療法、対人関係療法という6種類の心理療法のいずれかを行っています。

 

支持的精神療法は最もよく利用されていますが、治療の成否は、患者と精神療法家間の、理解に満ちた協力的な関係にかかっています。患者は自己の感情を表現するよう促され、精神療法家は問題が解決するように援助します。支持療法の一種である、問題解決に焦点を置いた精神療法は、かかりつけ医によって効果的に行える場合があります。

 

精神分析は精神療法の中で最も古い方法の一つで、20世紀初頭にジークムント・フロイトが開発したものです。患者は週に4~5回、精神療法家のオフィスに置かれた寝いすに横たわり、心に浮かぶことはすべて話すようにします。これは自由連想法と呼ばれます。過去のかかわりのパターンが、現在どのように繰り返されているかを理解することに焦点が絞られます。ここでは患者と精神療法家の関係が重要な要素となります。過去が現在にもたらしている影響を理解することが、人間関係や職場環境に適応し、役割を果たしていく新たな方法を見つけ出す助けとなります。

 

精神力動的心理療法は精神分析と同様に、現在の思考、感情、行動における無意識のパターンを認識することに重点を置いています。ただし、患者は寝いすに横たわるのではなく、通常はいすに座り、治療も週に1~3回です。また、患者と精神療法家との関係には、精神分析ほどの重点はおかれていません。

 

認知療法は、患者が自分の「捉え方のかたより」を認識し、その「捉え方」が自分の人生における問題にどのように結びついているかを理解できるように導くものです。「人の感じ方やふるまいは、経験をどう捉えるかによって決まる」という考えが前提となっています。自分の根本にある信念や思いこみを認識することで、自分が経験したことについてそれまでと違った「捉え方」ができるようになり、症状が緩和され、行動、感情に改善がもたらされます。

 

行動療法は認知療法と関連性のある治療法です。これら2つを組み合わせた認知行動療法も用いられています。行動療法は学習理論を基礎とし、異常な行動は誤った学習から生じるものとみなします。行動療法では適応行動を学習している間に、それまでの不適応行動の習慣を消すことが出来るように考えられたさまざまな介入を行います。曝露療法は、しばしば恐怖症の治療に利用されるもので、行動療法の1つです。

 

対人関係療法は、当初はうつ病に対する短期精神療法として考案されたもので、うつ病患者の対人関係の質を改善することを企図されました。消えない深い悲しみ、自分の期待と異なる役割につくことで生じる葛藤(たとえば専業主婦になることを期待した結婚で、一家の主要な稼ぎ手の役割も果たす必要があると判明したときなど)、社会的役割の転換(第一線で働いていた人が定年退職するなど)、他者とのコミュニケーション上の支障に関する問題を重点的に扱います。精神療法家は患者に対し、社会的な孤立を克服し、他者に対するいつものふるまいを改めるなど、対人関係の改善を図るように指導します。

 

 

 

3 てんかん

 

 てんかんは、突然意識を失って反応がなくなるなどの発作を繰り返し起こす病気である。

 

 てんかんとは、種々の成因によってもたらされる慢性の脳疾患である。

大脳ニューロンの過剰な発射に由来する反復性の発作(てんかん発作)を特徴とし、それにさまざまな臨床症状及び検査所見がともなう。

 

 

 大脳の神経細胞(ニューロン)は規則正しいリズムでお互いに調和を保ちながら電気的に活動しています。この穏やかなリズムを持った活動が突然崩れて、激しい電気的な乱れ(ニューロンの過剰発射)が生じることによって起きるのが、てんかん発作です。このため、てんかん発作はよく「脳の電気的嵐」に例えられます。  また、てんかん発作は繰り返しおこることが特徴です。そのため、1回だけの発作では、ふつうはてんかんという診断はつけられません。

 

 薬物療法によって完全に発作が消失するものから、「難治性てんかん」と呼ばれる発作の抑制が薬物療法ではできないものまで様々なケースがあります。

 

 てんかんの原因は人によって様々ですが、大きくは症候性てんかんと特発性てんかんに分けれます。

 

(1) 症候性てんかん  脳に何らかの障害や傷があることによって起こるてんかん   例)生まれたときの仮死状態や低酸素、脳炎髄膜炎脳出血脳梗塞、脳外傷

 

(2) 特発性てんかん  様々な検査をしても異常が見つからない原因不明のてんかん

発症年齢  乳幼期から高齢期まで幅広く発病しますが、3歳以下の発病が最もおおく、80%は18歳以前に発病すると言われています。  しかし近年、人口の高齢化に伴い、高齢者の脳血管障害などによる発病が増えてきています。

 

遺伝  てんかんのほとんどは遺伝しません。  一部のてんかんには発病に遺伝子が関係していたり、発作の起こりやすさを受け継ぐことが明らかになっていますが、そうしたてんかんの多くは良性であり、治癒しやすいようです。

 

分類

 発作は大きく分けると、全般発作と部分発作に分けられます

(1) 全般発作  発作のはじめから、脳全体が「電気の嵐」に巻き込まれるもので、意識が最初からなくなるという特徴がある。

 

(2) 部分発作  脳のある部分から始まる発作

不治の病ではありません

 発症率100人に1人と言われています。つまり、全国に100万人の仲間がいると考えられます。  また、現在の医療では、適切な治療で発作を70~80%の人でコントロール可能であり、多くの人たちが普通に社会生活を営んでいます。  しかし、2割の人は、薬を飲んでも発作をコントロールできない状態で、「難治性てんかん」と呼ばれるものもあります。

 

 

 てんかんは必ずしも精神疾患とは定義されていない。

 「てんかんとは、種々の成因によってもたらされる慢性の脳疾患であって、大脳ニューロンの過剰な発射に由来する反復性の発作(てんかん発作)を特徴とし、それにさまざまな臨床症状及び検査所見がともなう。」(WHO(世界保健機関)編:てんかん辞典より)

 

 

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

・十分な治療にかかわらず、てんかん性発作のA又はBが月に1回以上あり、かつ、常時の介護が必要なもの

2級

・十分な治療にかかわらず、十分な治療にかかわらず、てんかん性発作のA又はBが年に2回以上、もしくは、C又はDが月に1回以上あり、かつ、日常生活が著しい制限を受けるもの

3級

・十分な治療にかかわらず、てんかん性発作のA又はBが年に2回未満、もしくは、C又はDが月に1回未満あり、かつ、労働が制限を受けるもの

障害手当金

 

発作のタイプは以下の通り A: 意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作 B: 意識障害の有無を問わず、転倒する発作 C: 意識を失い、行為が途絶するが、倒れない発作 D: 意識障害はないが、随意運動が失われる発作

 

 

 てんかんとは、種々の成因によってもたらされる慢性の脳疾患であって、大脳ニューロンの過剰な発射に由来する反復性の発作(てんかん発作)を特徴とし、それにさまざまな臨床症状及び検査所見がともなう。

 

 障害年金の対象になるものは「難治性てんかん」「てんかん性精神病」である。

 

難治性てんかん・・・  発作の抑制が薬物療法ではできないもの  薬を飲んでも発作が生じてしまうことから労働や日常生活が制限されている人に対し、てんかん発作の頻度に応じて1級~3級の障害年金が支給される。

 

 抗てんかん薬の服用や外科的治療によって抑制される場合にあっては、原則として認定の対象にならない。

 

てんかん性精神病・・・  てんかん発作は発作間欠期(症状が出たり消えたりしている場合、症状が治まっている期間)においても、てんかんに起因する精神神経症状(被害妄想や抑うつ気分といった統合失調症や気分障害にみられる症状)や認知障害などが出現することがある。

発作は治まったが、その後被害妄想や抑うつ気分といった症状が出現するものであることから、被害妄想や抑うつ気分といった精神症状による労働や日常生活の制限の程度に応じて、1級~3級の障害年金が支給される。

 

 

 てんかん発作について、抗てんかん薬の服用や外科的治療によって抑制される場合にあっては、原則として認定の対象になりません。

 

てんかんの初診日は、通常、発作を起こして初めて医師の診断を受けた日となる。たとえば、脳腫瘍や脳挫傷などにより、てんかん発作を生じるようになった場合は、脳腫瘍や脳挫傷の初診日が、障害年金申請上の初診日となる。

てんかん性精神病のようにてんかん発作が原因疾患がある場合は、てんかん発作の原因疾患で初めて医師の診断を受けた日が初診日となる。

 

 てんかんは、発作時ばかりでなく発作と発作の間の時期(発作間欠期)にも、さまざまな精神症状を示す「てんかん性精神病」もあることから、てんかん性精神障害等とひとくくりに診断可能な場合には、同一傷病と認定される場合が多いようです。

 

 てんかんの認定に当たっては、その発作の重症度(意識障害の有無、生命の危険 性や社会生活での危険性の有無など)や発作頻度に加え、発作間欠期の精神神経症状や認知障害の結果、日常生活動作がどの程度損なわれ、そのためにどのような社会的不利益を被っているのかという、社会的活動能力の損減を重視した観点から認定します。

 

等級を決めるうえで、診断書の表面左下の「現在の病状又は状態像」に記載する「発作のタイプと頻度」及び診断書の裏面に記載する「日常生活能力の判定・程度」欄が最も重要視される。

 

薬などの治療を行っているにも関わらず、意識障害を伴って状況にそぐわない行為を示す発作や、転倒するほどの発作を年に2回は起こし、日常生活に著しい制限を受けるものに関しては、障害年金2級以上の可能性がある。

 

突然意識を失っても、転倒することはない発作や、意識はあっても思い通りに身体が動かなくなってしまうような発作が月に1回以上あり、かつ、日常生活に著しい制限がある場合は、障害年金3級と認定される可能性がある。

 

 様々なタイプのてんかん発作が出現し、発作間欠期に精神神経症状や認知障害を有する場合には、治療及び病状の経過、日常生活状況等によっては上位等級に認定する。

 

 てんかんは、発作と精神神経症状や認知障害などが相まって出現することに留意する必要があります。また、精神神経症状及び認知障害については、「症状性を含む器質性精神障害」に準じて認定すること。

 前発初診から長期間が経過した後に後発の初診日がある場合には、診断書作成医により別傷病と診断される可能性が出てくると考えられます。この場合は原則として別傷病として請求することになります。

 

 てんかん とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定します。

 様々なタイプのてんかん発作が出現し、発作間欠期に精神神経症状や認知障害を有する場合には、治療及び病状の経過、日常生活状況等によっては、さらに上位等級に認定します。

 

 

いれん性疾患

 

けいれん性疾患では、脳の電気的活動に周期的な異常が生じて、脳の機能が一時的にある程度障害されます。

多くの場合、けいれん発作が始まる直前に感覚の異常が生じます。

コントロールできないふるえや意識の喪失が起こる場合もありますが、多くの場合は、単に動きが止まるか、または何が起こっているかわからなくなります。

診断は症状に基づいて行われますが、通常は、原因を特定するため、脳の画像検査、血液検査、脳波検査(脳の電気的な活動を記録する検査)が必要です。

必要であれば、通常は薬剤で発作を予防できます。

脳が正常に機能するためには、電気信号が協調的に順序良く、整然と放出される必要があります。これらの電気信号は、脳と脊髄、神経、筋肉との間、および脳内での情報交換を可能にしています。けいれん発作は脳の電気的活動が乱れたときに発生し、大きく分けると以下の2種類があります。

 

てんかん性:

この種のけいれん発作は、明らかな原因(または誘因)が認められず、繰り返し発生します。「けいれん性疾患」や「てんかん」とも呼ばれます。

 

非てんかん性:

この種のけいれん発作は、脳に刺激を与える病気や障害によって引き起こされます。小児では、発熱によって非てんかん性のけいれん発作が誘発されることがあります。

特定の精神疾患では、けいれん発作と似た症状が起きることがあり、心因性非てんかん性発作と呼ばれます。

 

成人の約2%が生涯のうち1回はけいれん発作を経験します。そのうちの3分の2は、1回しか発作を経験しません。けいれん性疾患は幼児期もしくは晩年に発症するのが最も一般的です。

 

原因

どんな原因が最も一般的かは、けいれん発作が始まった年齢によって異なります。

 

2歳未満:

高熱または一時的な代謝異常(ブドウ糖、カルシウム、マグネシウム、ビタミンB6またはナトリウムの血中濃度の異常など)によって、1回または複数回のけいれん発作が誘発されます。発熱や異常が解消されれば、けいれん発作は起こらなくなります。上記のような誘因なしにけいれん発作が再発する場合は、分娩時に起きた外傷、先天異常、遺伝性の代謝異常、脳疾患などが原因として考えられます。

 

2~14歳:

多くの場合、原因を特定することができません。

 

25歳以降:

頭部外傷、脳卒中または脳腫瘍によって脳組織に損傷が起き、けいれん発作の原因となることがあります。アルコールの離脱症状(突然の禁酒によって起こる現象)もけいれん発作の主な原因の一つとなります。しかし、この年齢群でも、およそ半数は原因を特定することができません。

 

特定不能の原因によって起こるけいれん発作は、特発性けいれん発作と呼ばれます。

脳を刺激する障害(外傷、特定の薬剤、睡眠不足、感染症、発熱など)や、脳の酸素欠乏または栄養欠乏につながる異常(不整脈、血中酸素濃度の低下、血糖値の極度の低下など)があると、けいれん性疾患の有無に関係なく、単発のけいれん発作が誘発されることがあります。このような刺激によって生じた単発のけいれん発作は、誘発性けいれん(非てんかん性発作)と呼ばれます。けいれん性疾患がある人は、身体的または精神的に過剰なストレスがあるときや睡眠不足のときに、けいれん発作が起きやすくなります。このような状況を避けることが、発作の予防に役立ちます。

まれに、繰返し音、フラッシュライト、テレビゲーム、さらには体の特定部分への接触だけでけいれん発作が起こることもあります。このような場合は、反射性てんかんと呼ばれます。

 

症状

けいれん性疾患がある人の約20%は、けいれん発作に先立って以下のような異常な感覚(前兆)を感じます。

異常なにおいや味

胸がどきどきする

デジャブ(既視感)

発作が始まりそうだという強い感覚

 

ほぼすべてのけいれん発作は、持続時間が比較的短く、数秒から数分間で終息します。大半は1~2分間です。発作が終わった後には、頭痛、筋肉痛、通常と異なる感覚、錯乱、深い疲労感などがみられることもあります。発作後にみられるこのような異常は、発作後状態と呼ばれています。人によっては、体の片側だけの筋力が低下し、その筋力低下がけいれん発作より長く続く場合もあります(この障害はトッド麻痺と呼ばれています)。けいれん性疾患がある人の大部分は、発作と発作の間は見た目も行動も正常です。

出現する症状は、神経細胞の異常放電が脳のどの部分に影響するかによって、以下のように異なります。

島と呼ばれる大脳の領域が影響を受けた場合には、好ましい味または不快な味を強く感じます。

後頭葉が影響を受けた場合は、幻視(抽象的な映像が見える幻覚)が生じます。

発語を制御する脳領域(前頭葉にあります)が影響を受けた場合は、話せなくなります。

脳の両側の広い領域が影響を受けた場合は、全身けいれん(全身の筋肉が引きつったり勝手に動いたりすること)がみられます。

その他の症状としては、体の特定部位に生じるしびれまたはチクチクする感覚や、短時間だけ起こる無反応、意識喪失、錯乱、筋肉の調節不全、排尿障害などがあります。

発作が部分発作か全般発作かによっても症状は異なります。患者の約70%では、どれか1種類の発作だけが起きますが、残りの約30%の人では2種類以上の発作が起きます。

 

部分発作:

脳の片側だけに影響が生じます。部分発作には、単純部分発作と複雑部分発作があります。

単純部分発作では、異常放電が脳の狭い領域で始まり、その領域だけにとどまります。影響を受けるのが小さな脳領域に限られるため、症状はその領域で制御されている機能に関連したものだけとなります。たとえば、左前頭葉の中で右腕の動きを制御している小さな領域が影響を受けると、右腕がふるえたり、引きつったりすることがあります。このとき意識は完全に保たれ、周囲の状況も理解しています。単純部分発作が複雑部分発作に進行する場合もあります。

ジャクソン発作は単純部分発作の一種です。症状は体の一つの部位で始まりますが、次第にほかの部位に広がります。たとえば、最初は手足に異常な動きが起き、脳で起きている電気的活動の範囲が拡大するにしたがって、次第に腕や脚全体に広がります。患者は発作中の状況を完全に認識しています。

複雑部分発作では、異常放電が側頭葉または前頭葉の狭い領域で始まり、近くの他の領域に急速に広がります。複雑部分発作では通常、1~2分間の前兆がみられます。この前兆が起きている間に、周囲との精神的な接触が失われはじめます。発作中、意識は障害されるものの、完全には失われません。

以下のような状態がみられます。

じっと見つめる

無意識に唇をかんだり鳴らしたりする

手、腕、脚をやみくもに動かす

声を出すが、意味を成さない

他の人が言っていることを理解できない

手助けを拒む

 

会話ができる人もいますが、その会話は自発性を欠き、内容もいくらか乏しくなります。錯乱や見当識障害がみられることもあります。この状態は数分間続きます。ほとんどの人は発作中に起きたことを覚えていません(発作後健忘と呼ばれる状態)。この発作後、完全に回復する人もいますが、人によっては、異常放電が隣接した脳領域や脳の反対側に広がって、全般強直間代発作となる場合もあります。部分発作から起こる全般発作は二次性全般発作と呼ばれます。

持続性部分てんかんは、まれな病気です。数秒から数分おきに発作が起きる状態が、数日から数年間続きます。典型的には、片方の腕、片方の手、あるいは顔の片側だけに異常がみられます。この種の発作は通常、成人では脳の限局的な損傷(脳卒中による瘢痕[はんこん]など)によって起こり、小児では脳の炎症(脳炎やはしかなどの際に生じるもの)によって起こります。

 

全般発作:

脳の両側の広い領域に異常が生じて発作が起こります。全般発作では、多くの場合、発作の開始直後から意識が失われ、動きが異常になります。意識を失っている時間は短い場合もあれば長い場合もあります。

全般強直間代発作には、一次性のものと二次性のものがあります。一次性全般発作は、脳の奥深くの中央部分の異常放電で始まり、脳の両側に同時に広がります。二次性全般強直間代発作(大発作)では通常、まず脳の片側の狭い領域で異常放電が生じて、複雑部分発作を引き起こします。その後、放電が脳の両側に急速に広がり、脳全体が機能不全に陥ります。どちらのタイプでも異常放電が脳の両側に広がると、一時的に意識が失われ、全身けいれんが起きます。一次性全般発作の場合、前兆はみられません。

発作中は以下のような状態がみられます。

全身の筋肉が激しく動いたり引きつったりする

転倒する

頭を一方向に強くねじる

歯を食いしばる

舌をかむ(しばしばみられる)

よだれが出る、または泡を吹く

排尿機能が損なわれる

 

発作は通常1~2分間続きます。発作が終わった後は、頭痛、一時的な錯乱、極度の疲労感などがみられます。これらの症状は数分から数時間続きます。ほとんどの人は発作中に起きたことを覚えていません。

欠神発作には、定型欠神発作(小発作)と非定型欠神発作があります。定型欠神発作は、5~15歳の小児期に始まり、通常は成人期までは続くことはありませんが、ときとして成人に定型欠神発作が起きることもあります。強直間代発作とは異なり、欠神発作は全身けいれんなどの劇的な症状はみられません。転倒、全身の脱力、引きつけなどもみられません。発作中は、まばたきしながら何かをじっと見つめたり、顔の筋肉がピクピク動いたりします。周囲の状況はまったく認識できなくなります。これらの症状は10~30秒間続きます。患者は突然動かなくなり、また突然に動き始めます。発作の影響は残らず、本人は発作が起きたことを覚えていません。治療を行わないと、多くの人は発作が1日に数回起こります。発作は静かに座っているときに起こる場合が多く、運動中に起こることはまれです。過換気(過呼吸)が発作の引き金となることがあります。

非定型欠神発作は比較的まれな発作ですが、定型欠神発作よりも持続時間が長く、引きつるなどの異常な動きがより顕著です。本人は、周囲の状況を比較的よく認識しています。非定型欠神発作がみられる人の多くに、神経学的な異常や発達の遅れがみられます。発作は通常、成人期になっても続きます。

脱力発作は主に小児に起こります。一時的に筋肉の緊張と意識が完全に失われるのが特徴です。地面に崩れ落ちるように倒れるため、けがを負うこともあります。

強直発作は、一般的に寝ている間に起きます。筋肉の緊張が突然あるいは徐々に増加し、筋肉が硬くなります。発作は通常10~15秒間しか続きませんが、立っているときに起きた場合には、地面に崩れ落ちるように転倒することもあります。ほとんどの人で意識は失われません。発作が長時間続いた場合は、発作が終わる際に筋肉の引きつりが数回みられることがあります。

ミオクローヌス発作は、腕や脚または胴体が素早くけいれんするのが特徴です。発作は短く意識も失われませんが、繰り返し起こると、意識の喪失を伴った強直間代発作に発展することがあります。

乳児けいれんと熱性けいれんは、小児に起こります。

若年性ミオクロニーてんかんは、典型的には思春期に始まります。発作は両腕の素早いけいれんから始まるのが通常です。この種の発作の約90%は強直間代発作へと移行します。欠神発作を起こす人もいます。若年性ミオクロニーてんかんの発作は、多くの場合、朝目が覚めたとき(特に寝不足のとき)に起こります。さらに、飲酒により発作が起こりやすくなります。

てんかん重積状態は、けいれん発作が止まらない状態です。けいれん性疾患うち最も重篤で、救急処置を要します。脳のいたるところで放電が発生し、全般強直間代発作を引き起こします。てんかん重積状態は、発作が5分以上続いた場合と、発作と発作の間に意識が完全には回復しなかった場合に診断されます。強い筋収縮を伴う全身けいれんが起き、十分な呼吸ができなくなります。体温も上昇します。迅速に治療しなければ、心臓と脳に過度の負荷がかかって永続的な障害が残る可能性があり、ときに死に至ることもあります。

 

合併症:

けいれん発作は、重大な結果をもたらすおそれがあります。急激で強い筋肉の収縮によって骨折などの外傷が生じることがあります。突然の意識喪失は、転倒や事故による深刻な外傷をもたらす可能性があります。何度も発作が起きても脳に深刻な損傷が生じない場合もありますが、全身けいれんを起こす発作が何度も起きると、最終的に知能障害が生じることがあります。

発作を良好に管理できないと、運転免許の取得が難しくなる場合があります。仕事を続けることや、保険に加入することが困難になる場合もあります。不当な差別を受けることもあります。その結果、生活の質が大きく低下する可能性があります。

けいれん発作を完全に管理できない場合は、けいれん発作のない人と比べて死亡率が2倍になります。少数ながら、原因不明の突然死が起こる場合もあります。これは、てんかんにおける原因不明の突然死と呼ばれる合併症です。

 

診断

特に誘因のみられないけいれん発作が別々の時に2回以上起こった場合に、けいれん性疾患と診断されます。診断は、症状の内容と、目撃者からの情報に基づいて行われます。けいれん発作が疑われる症状としては、意識の喪失、体が震えるような筋肉のけいれん、排尿障害、突然の錯乱、注意散漫などがあります。しかし、こうした症状の原因がけいれん発作であることは多くの人が考えているよりはるかに少なく、短時間の意識喪失の多くはけいれん発作ではなく失神によるものです。

発作を目撃した人の話は非常に役立つ可能性があります。発作を起こした人は通常、何が起きたかを説明できませんが、目撃者は正確に説明できるからです。診断には、以下のような項目に関する正確な説明が必要です。

発作はどのくらい急に始まったか

筋肉の異常な動き(頭、首、顔の筋肉の引きつりなど)、舌をかむ、よだれが出る、排尿障害、筋肉の硬直などの症状はみられたか

発作はどの程度続いたか

回復するまでにどれくらいの時間がかかったか

 

目撃者は驚きのあまり、発作中の様子を詳しくは覚えていないかもしれませんが、思い出せることは何でも役立つ可能性があります。発作の継続時間は、可能であれば時計などで正確に計っておくべきです。実際には1~2分間しか続いていない発作でも、永遠のように感じられることもあります。

医師は、発作前の状態も把握する必要があります。たとえば、何か変わったことが今にも起こりそうだという予感や前兆がなかったか、音やフラッシュライトなど発作の引き金になったと思われるものはないか、などの情報が必要です。診察では、けいれん発作の原因となりうる病気(脳の感染症など)や頭部の外傷がないか質問します。使用している薬剤や最近使用を中止した薬剤についても質問します(アルコールも含む)。念入りな身体診察も行います。症状の原因に関する手がかりが身体診察で得られることもあります。

診察は、救急外来で行われるのが通常ですが、すでにけいれん性疾患と診断されていて、発作から完全に回復している場合は、通常の診察室で行われることもあります。

けいれん発作と診断されたら、原因を特定するため、通常はさらに検査が必要です。けいれん性疾患があることがわかっている人は、追加の検査が必要ないこともあります。そうでない人では、さまざまな物質(ブドウ糖、カルシウム、ナトリウム、マグネシウムなど)の血中濃度を測定するとともに、肝臓と腎臓が正常に機能しているかどうかを調べるため、血液検査を行います。娯楽用薬物がけいれん発作を誘発することもあるため、娯楽用薬物の使用について確認するために尿検査を行うこともあります。不整脈の有無を確認するために心電図検査を行うこともあります。不整脈があると脳への血流が大きく減少して酸素の供給量が不足することがあるため、不整脈は意識の喪失のほか、ときにけいれん発作や、けいれん発作に似た症状を引き起こします。

脳組織に、出血や腫瘍、その他の構造的な損傷(脳卒中によるものなど)がないかを確認するため、通常は直ちにCT(コンピュータ断層撮影)検査を行います。CT検査で異常がみられない場合は、MRI(磁気共鳴画像)検査を行うのが一般的です。MRI検査では異常な箇所の詳しい画像が得られ、ほとんどの神経系疾患を発見できます。

髄膜炎や脳炎などの脳の感染症が疑われる場合、通常は脊椎穿刺を行います。

脳波検査(EEG)は、けいれん性疾患の診断を確定するのに役立ちます。脳波検査は、脳の電気的活動を記録する検査で、痛みもなく安全な方法です。医師は脳波の記録(脳波図)を調べて、脳内に異常放電が起きている証拠を探します。脳波の記録時間は限られているため、実際にはけいれん性疾患があっても、脳波検査では異常が見逃され、正常と判断されることもあります。異常放電は睡眠不足のときに起こりやすいため、18~24時間の断眠後に脳波検査を行うこともあります。

 

発作中の脳の電気的活動

脳波図(EEG)とは、脳の電気的活動を記録したものです。検査方法は簡単で痛みもありません。20個ほどの小さな電極を頭皮に貼り、まず正常な状態で脳の電気的活動を記録します。次に、明るい光やフラッシュライトなどのさまざまな刺激を用いて、故意に発作を誘発します。発作中は脳の電気的活動が活発になり、ギザギザとした波形が現れます。このような記録は、けいれん性疾患の特定に役立ちます。波形は発作の種類によって異なります。

 

 

以上の検査でも原因が特定できない場合には、別の検査を行うこともあります。脳波検査は、1回目で見逃された原因が2回目(場合によっては3回目)に検出できる場合もあるため、繰り返し行うこともあります。それでも診断がはっきりしないときは、てんかん治療の専門医療施設でビデオ脳波モニタリングなどの特殊な検査を行うこともあります。この検査では、2~7日間入院して、ビデオ録画をしながら脳波を記録します。抗けいれん薬を服用している場合は、発作が起こりやすくなるように服用を中止することもしばしばあります。発作が起こったら、発作中の脳波の記録とビデオ映像を見比べます。これにより、発作の種類と発作が始まった脳領域を特定できる可能性があります。

 

治療

原因を特定して解消することができれば、それ以上の治療は必要ありません。たとえば、血糖値の低下によってけいれん発作が起きている場合は、ブドウ糖を投与し、低血糖の原因となっている病気を治療します。治療可能なその他の原因としては、感染症、一部の腫瘍、血中ナトリウム濃度の異常などがあります。

けいれん性疾患がある場合は、総合的な対策と薬剤で通常は十分に治療できます。薬剤で効果が得られない場合は、手術が勧められることがあります。

 

総合的な対策:

運動することが望ましく、社会的な活動も奨励されます。ただし、場合によっては生活を多少変える必要があります。たとえば、飲酒はやめるか量を制限すべきです。娯楽用薬物を使用すべきではありません。また、突然意識を失った場合に深刻な外傷が起きるような活動は控えるべきです。たとえば、浴槽での入浴、山登り、水泳、電動工具の操作などは控えるべきです。これらの活動は、発作を管理できるようになってから(通常は6カ月以上)であれば、適切な予防措置を講じた上で行うことができます。たとえば、水泳は監視員がいる場所でのみ行うべきです。けいれん性疾患がある人の運転については、米国の大半の州では、発作のない期間が少なくとも6カ月から1年間続くまで法律で禁止されています。

患者の家族や親しい友人は、発作が起きたときの対処法を習っておきます。舌を保護するために口の中にスプーンなどを入れるのは、有益性より有害性の方が大きいため、行うべきではありません。歯が折れたり、あごの筋肉が収縮して救助者がかまれたりする危険性があります。 

けいれん発作の際は、以下のように対応します。

患者が転倒しないようにする

衣服の首の周りを緩める

頭の下に枕を置く

枕がないときは、患者の頭の下に自身の足や衣服を置いてもよいでしょう。

患者が意識を失っている場合は、楽に呼吸ができるよう、横向きに寝かせます。発作後は、意識が完全に回復し、錯乱もなくなり、ほぼ正常に動けるようになるまで、そばを離れないようにします。通常は主治医に知らせるべきです。

 

抗けいれん薬:

抗けいれん薬は、けいれん発作が再発するリスクを減らします。通常は、発作が2回以上起きた人で、原因が特定され完全に解消されていない場合に限って、抗けいれん薬が処方されます。全般発作が1回起きただけの場合は、通常、処方されません。ほとんどの抗けいれん薬は経口薬です。

抗けいれん薬の使用により、全般発作がある人の3分の1では全般発作がまったく起こらなくなり、別の3分の1の人では発作頻度が大幅に低下します。抗けいれん薬で効果が得られた人の3分の2近くは、抗けいれん薬の使用を中止することができ、再発はありません。しかし、けいれん性疾患がある人の約10~20%は、抗けいれん薬が無効です。そのような人はけいれん発作の専門医療施設に紹介されて、手術が検討されます。

抗けいれん薬には、さまざまな種類があります。どの種類の薬剤で効果が得られるかは、発作の種類と薬剤に対する反応によって異なります。ほとんどの人は、最初または2番目に試した抗けいれん薬を1種類服用することで発作の管理が可能になります。発作が再発する場合は、別の抗けいれん薬が試されます。有効な抗けいれん薬が判明するまでに数カ月かかることもあります。一部の人は複数の薬剤を服用する必要がありますが、その場合は副作用のリスクが高くなります。抗けいれん薬の中には、単独では使用されず、必ず別の抗けいれん薬と一緒に使用されるものもあります。

医師はその人に適した用量を注意深く決定します。最適な用量とは、すべてのけいれん発作を止めることができ、かつ副作用が最も少ない、最小限の量です。医師は副作用の状況について患者に質問し、必要に応じて用量を調節します。抗けいれん薬の血中濃度を測定することもあります。抗けいれん薬は必ず処方通りに服用すべきです。けいれん発作を管理するために抗けいれん薬を服用している人は、薬剤の用量を調整するため定期的に医師の診察を受ける必要があります。また米国では、けいれん性疾患の種類と服用している薬剤名を刻印した医療用のブレスレットを常に着用すべきとされています。

抗けいれん薬はほかの薬剤の効果を妨げることがあり、その逆も起こりえます。したがって、抗けいれん薬の服用を始める際は、すでに服用しているすべての薬剤を医師にきちんと伝えます。店頭で購入できる市販薬を含め、別の薬剤の服用を始める際は、前もって医師や薬剤師と相談するべきです。

けいれん発作が管理できるようになっても、発作のない期間が最低2年間続くまで、抗けいれん薬を服用します。その後は薬剤の用量を徐々に減らし、最終的に使用を中止します。抗けいれん薬の使用を止めた後に発作が再発した場合は、抗けいれん薬を生涯服用しなければならないこともあります。再発は、起こるとすれば、2年以内に起こるのが通常です。

以下のいずれかに該当する人は、再発の可能性が高い傾向にあります。

小児期からけいれん性疾患がある

発作のない状態を維持するのに複数の抗けいれん薬を服用する必要がある

抗けいれん薬を服用している間にけいれん発作が起きた

部分発作またはミオクローヌス発作が起きた

前年に脳波検査で異常な結果が出た

 

抗けいれん薬は非常に有効ですが、副作用もあります。多くの抗けいれん薬は眠気を引き起こしますが、小児では多動性が生じることもあります。血液検査を定期的に行って、腎臓や肝臓の機能が損なわれていないか、血液の細胞が減少していないか、などを確認します。抗けいれん薬を使用している人は副作用があることに留意し、副作用の徴候が少しでも現れたら、直ちに診察を受けるべきです。

けいれん性疾患のある女性が妊娠中に抗けいれん薬を服用すると、流産や子供の先天異常が起きるリスクが高まります。しかし、抗けいれん薬を中止すると母子双方にとってさらに有害になる場合もあります。妊娠中に全般発作が起こると、胎児の障害や死亡につながる可能性があります。出産可能な年齢でかつ抗けいれん薬を服用しているすべての女性は、先天異常のある子供が生まれるリスクを減らすため、葉酸のサプリメントを摂取するべきです。

 

救急治療:

てんかん重積状態と5分間以上続くけいれん発作には、救急治療が必要です。治療室では、至急、1種類または2種類以上の抗けいれん薬が静脈内に大量投与されます。けいれん発作が長引いている場合は、外傷を予防するための措置も講じられます。注意深く患者を監視して、呼吸が十分かどうかを確認します。呼吸が十分でない場合は、呼吸を補助するため気管内に管が挿入されます(この処置は挿管と呼ばれます)。発作が長時間続く場合は、発作を止めるために全身麻酔薬が投与されます。

 

 

 

 

4 知的障害 (ICD-10コード F70-79)

 

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

・知的障害があり、食事や身のまわりのことを行うのに全面的な援助が必要であって、かつ、会話による意志の疎通が不可能か著しく困難であるため、日常生活が困難で常時援助を必要とするもの

2級

・知的障害があり、食事や身のまわりのことを行うのに一部援助が必要であって、かつ、会話による意志の疎通が簡単なものに限られるため、日常生活にあたって援助が必要なもの

3級

・知的障害があり、労働が著しい制限をうけるもの

障害手当金

 

 知的障害とは、発達期までに生じた知的機能障害により、認知能力の発達が全般的に遅れた水準にとどまっている状態を指します。

日常生活に持続的な支障が生じているため、何らかの特別な援助を必要とする状態にあるものをいう。  その知的な障害のほとんどが発達期(18歳未満)で生じるとされている。

 

 知的障害には、「精神遅滞」と「高次機能障害等二次的障害」の2種がある。

・「精神遅滞」・・・

  先天性又は出生後の早い時期に知的発達が阻害され、知能が低い状態に止まっているもの

・「高次機能障害等二次的障害」・・・

  いったん正常に発達した知能が、後天的な脳の器質障害によって低下したもの

知的障害の度合い  知的障害は度合いによって、重度・中度・軽度に分けられる。

  知能指数(IQ) = 精神年齢(発達年齢) ÷ 生活年齢(実年齢) × 100

 

知的障害の程度

IQ

精神年齢

療育手帳の基準

最重度

20以下

 

A1

重度

21~35

3歳~6歳未満

A2

中等度

36~50

5歳~8歳未満

B1

軽度

51~75

7歳~10歳未満

B2

 

知的障害の評価には、新版K式発達検査(0~14歳)やWechsler知能検査(WPPSI:3~7歳、WISC-Ⅲ:6~16歳)が用いられ、ともに動作性(視覚認知が主)と言語性の2つの領域から評価されます。

 

 

知的障害の程度

程度

知能指数(IQ)の範囲

就学前(生まれてから6歳まで)の能力

学齢期(6~20歳)の能力

成人期(21歳以上)の能力

軽度

51-75

・協調運動の軽微な障害

・年齢が高くなるまで診断されないことが多い

・社会的能力やコミュニケーション能力を発達させることができる

・適切な社会的能力の習得が期待できる。

・10歳代後半までに小学校6年生程度の学習を修了できる

・非日常的な場面で社会的・経済的ストレスが生じた場合には、指導や支援が必要なことがある

・通常、自立のための社会的能力や職業技能を習得できる

中等度

36-50

・社会意識の低さ

・協調運動は標準程度

・自立訓練が有益な場合がある

・会話は可能、もしくはコミュニケーション能力を習得できる

・小学校程度の学業水準まで到達できる

・よく知った場所なら一人で移動できるようになることがある

何らかの社会的能力や職業技能を習得できる

・軽度の社会的・経済的ストレスが生じた場合には、監督や指導が必要となる

・障害者作業所での非熟練労働や半熟練労働により自立可能なことがある

重度

21-35

・自立のための能力をいくらか習得できる

・言語能力には制約がある

・協調運動がうまくできない

・わずかな単語を話せる

・健康維持のための簡単な習慣を習得できる

・日常習慣は訓練すればできるようになる

・会話は可能、もしくはコミュニケーション能力を習得できる

・管理下におかれた環境で、有益な自衛能力をいくつか習得できる

・完全な監視下で、身の回りのことを部分的に行うことができる場合がある

最重度

20以下

・協調運動はほとんどできない

・看護施設への入所が必要なことがある

・極度の認知機能障害

・コミュニケーション能力に限界がある

・運動調節はいくらかできる

・通常、看護ケアを要する

・身の回りのことがほとんどできないことがある

 

 

知的障害は「知的機能(IQ)」の数値のみによって診断されるのではなく、「適応機能」という日常生活能力、社会生活能力、社会的適応性などの能力を測る指数とも合わせて診断が下されます。

 

知的障害であるかどうかの判断基準

 

次の(a)及び(b)のいずれにも該当するものを知的障害とする。

(a)「知的機能の障害」について

  標準化された知能検査(ウェクスラーによるもの、ビネーによるものなど)によって測定された結果、知能指数がおおむね70までのもの。

(b)「日常生活能力」について

  日常生活能力(自立機能、運動機能、意思交換、探索操作、移動、生活文化、職業等)の到達水準が総合的に同年齢の日常生活能力水準(別記1)のa b c dのいずれかに該当するもの。

 

程度別判定の導き方

 

知的障害の診断は医療機関や地域によって異なりますが、一般的に知的障害は「知的機能」と「適応機能」の評価で「軽度」「中度」「重度」「最重度」の4つの等級に分類されます。

 

この図では、横軸に日常生活能力水準をaからdで取り、縦軸に「知的機能(IQ)」のレベルをIからⅣに取っています。日常生活能力水準はaに近づくほど自立した生活が難しいということになり、dに近づくほど自立した生活ができるということを表します。また同様にIQが低いほどIに近づき、IQが高いほどIVに近づきます。横軸と縦軸が合わさったところから、知的障害の程度を診断します。

 

医療機関では問診と簡単なテストを行います。知的障害の診断には、アメリカ精神医学会が発行した診断基準『DSM-5』(『精神疾患の診断と統計のマニュアル』第5版)や、世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)といった基準が使われており、検査結果から総合的に判断します。

 以下はDSM-5における知的障害の診断基準になります。

以下を全て満たすと、知的障害だと診断されます。

A 臨床的評価および個別化、標準化された知能検査によって確かめられる、論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学校での学習、および経験からの学習など,知的機能の欠陥。 B 個人の自立や社会的責任において発達的および社会文化的な水準を満たすことができなくなるという適応機能の欠陥。継続的な支援がなければ、適応上の欠陥は、家庭、学校、職場、および地域社会といった多岐にわたる環境において、コミュニケーション、社会参加、および自立した生活といった複数の日常生活活動における機能を限定する。 C 知的および適応の欠陥は、発達期の間に発症する。

 

ほかにも使われる診断方法があります。

知能検査

「田中ビネー知能検査 V(ファイブ)」「新版K式発達検査」「ウェクスラー式知能検査」

適応能力検査 ・vineland-Ⅱ(全年齢) ・ASA旭出式社会適応スキル(幼児〜高) ・S-M社会生活能力検査(乳幼児〜中学生)

 

自閉症と知的障害・・・  自閉症と知的障害には、似たような症状があり、自閉症にも知的障害のケースがある。  自閉症の症状があり、知的障害の症状も顕著な場合、知的障害者として認定されるケースが多い。  知的障害をともなう自閉症でも、軽度の知的障害が目立たない場合には、知的障害として認定されない。

 

学習障害と知的障害・・・

知能指数(IQ)が70以上で学習障害の症状がある場合には学習障害と診断され、70以下の場合には知的障害と診断される。  知的障害は学習面も含めた全面的な知能の発達に遅れがあり、学習障害は特定の学習に困難を生じる。

 

 

知的障害者と療育手帳・・・

知的障害者として認定されると、療育手帳が交付される。療育手帳には、知的障害の程度によってA・Bのどちらかが記載される。  最重度・重度の場合はA、中度・軽度の場合はBと記載される。

 

 医学的には先天性の病気と判断されて、18歳までに発病するものとされているため初診日要件がない。知的障害をはじめとする先天性障害の場合は、例外として生まれた日をもって初診日とされる。療育手帳の提示があれば初診日の証明は必要ない。

地域の精神職業センターなどで職業の適性検査を受けていたということがある。療育手帳を所持していない場合は、精神職業センターなどで証明となる資料を整備いただくのが望ましい。

 

 知的障害は20歳を障害認定日として「20歳前の障害基礎年金」の請求となる。

 

 障害等級に対応する日常生活上の支障の程度は、うつ病統合失調症とほぼ同じであるが、会話による意志疎通能力が1級、2級の認定の判断ポイントと考えられる。

 知能指数が70~85%の場合はボーダーラインであり、知的障害と認定されない場合が多い。

 

 知的障害の認定に当たっては、知能指数のみに着眼することなく、日常生活のさまざまな場面における援助の必要度を勘案して決定される。

知的障害の中で軽度の精神遅滞(IQ50~70)であっても、日常生活能力の低下等で社会生活をすることが困難なため、日常生活に多くの援助が必要な場合に障害年金の対象ということになる。

不適応行動等により日常生活に著しい制限が認められると、障害等級2級の可能性が高い。

不適応行動とは、例えば以下のような行動をいう。

・自分の身体を傷つける行為

・他人や物に危害を及ぼす行為

・周囲の人に恐怖や強い不安を与える行為

  (迷惑行為や突発的な外出など)

・著しいパニックや興奮、こだわり等の不安定な行動

  (自分でコントロールできない行為で、頻発して日常生活に支障が生じるもの)

 

 一般に「労働能力がある」という場合は、健常者の方などと同一の労働環境下、同様の仕事をしている場合をいう。働いているといっても、周りの方の援助や配慮があってなんとか働けている状態なら、障害年金の受給の可能性はある。職場において、仕事が限定されている、残業(超過勤務)は免除されている、同僚の手を借りながら(同僚に助けてもらいながら)仕事をしている場合など、特別な配慮がなされている場合は「労働能力がある」とはいえないのである。障害者雇用促進法の保護の下や社会復帰施設、就労支援施設、小規模作業所での簡易な軽労働の場合も、「労働能力がある」とはいえない。

 

「病歴・就労状況等申立書」にて・・・

 精神遅滞の場合は先天性のものとなるので、出生時から申請時までの日常生活や病状に関する申立てをすることになる。幼少期、小学生、中学生、20歳までというように転機ごとに区切って記入すること。

軽度の精神遅滞の方の場合、小中学校は支援学級ではなく、普通学級に通っていたということがある。この場合、

・学校や周囲の支援はどの程度あったのか

・勉強の遅れはどの程度あったのか

・毎日休まずに出席できていたのか

など、支援の必要の程度や学校での生活状況などは申し立てるようにすること。

 

 

 (ICD-10コード F70-79)

 F70 軽度知的障害(精神遅滞)  F71 中等度知的障害(精神遅滞)  F72 重度知的障害(精神遅滞)  F73 最重度知的障害(精神遅滞)  F78 その他の知的障害(精神遅滞)  F79 詳細不明の知的障害(精神遅滞)

 

 

ダウン症候群

 

 ダウン症候群は、第21番染色体の異常の1つであり、精神遅滞、小頭、低身長、特徴的顔貌を引き起こす。出生児における全体の発生率は約1/800であるが、母体年齢によって顕著な差が生じる。

 

病因  症例の約95%が第21番染色体全体の過剰であり(21トリソミー)、このうちほぼ全例が母親由来である。ダウン症候群患者の中には染色体数が46しかないものもあるが、この場合、第21番染色体の過剰部分は他の染色体上に転座している。最も多くみられる転座はt(14:21)であり、この場合、第21番染色体の過剰部分は第14番染色体に付着している。このうちの約半数は両親ともに正常核型であるが、このことは、その転座がde novoであったことを意味している。残る半数においては、一方の親(ほぼ全例で母親)が表現型は正常であるが染色体を45個しか有しておらず、そのうちの1つがt(14:21)となっている。理論的には、保因者である母親の児がダウン症候群となる確率は1:3であるが、未知の理由により実際のリスクはこれよりも低い(約1:10)。一方、父親が保因者である場合、リスクは1:20にまで低下する。次に多い転座はt(21:22)である。この転座の場合は、保因者である母親の児がダウン症候群となる確率は約1:10であり、父親が保因者であるときのリスクよりも高くなる。ダウン症候群のモザイクは、胎芽内での細胞分裂の際の不分離によって生じるものと推測される。大部分の患者は染色体数がそれぞれ46と47である2つの細胞系を有している。知能予後は、脳内の21トリソミー細胞の比率に依存すると考えられる。ある数例のモザイク型ダウン症候群患者では、臨床徴候がほとんど認められず、知能も正常である。親が生殖細胞系にモザイクを有する場合、2人目の罹患児が発生するリスクは高くなる。

 

症状と徴候  罹患している新生児は、おとなしく、めったに泣かず、筋緊張低下を示すという傾向がある。ほとんどの症例で扁平な側貌(特に鼻根部扁平)がみられるが、出生時は外見上正常で乳児期になってから特徴的顔貌が現れてくるものもある。また、後頭部扁平、小頭、頸部背面周囲の過剰な皮膚がよくみられる。目尻がつり上がり、目頭には通常内眼角贅皮がみられる。ブラッシュフィールド斑(虹彩辺縁周辺にできる塩粒に似た灰色ないし白色の斑点)が通常確認できるが、生後12カ月以内に消失する。口はしばしば開いたままであるが、これは突出した大きな溝状舌(中央の亀裂はみられない)によるものである。耳介は小さく円形であることが多い。手は短く幅広く、しばしば猿線(単一手掌屈曲線)がみられる。手指は短く、特に第5指は弯曲指(内弯)で、しばしば指節骨が2本のみとなる。足では第1趾・第2趾間が離開し、足底の溝がしばしば足の後方にまで及ぶ。また、手足に特徴的な皮膚紋理がみられる。 罹患した新生児の約40%で先天性心疾患がみられ、そのうち最も多いのは心室中隔欠損と共通房室弁口(心内膜床欠損)である。他のほぼ全ての先天異常の発生率が高く、中でも十二指腸閉鎖が特に顕著である。また、ダウン症候群患者の多くが甲状腺疾患(甲状腺機能低下症が最も多い)を発症する。患児の成長につれて、身体および精神の発達遅滞が急速に顕著になってくる。身長は低く、知能指数(IQ)の平均は50程度である。

 老化プロセスが加速すると考えられる。死亡年齢の中央値は49歳であるが、50歳代または60歳代まで生存する例も多い。余命を短くしている第1要因は心疾患であるが、感染症や急性骨髄性白血病に対する感受性も程度は小さいが、その一因を成している。さらに、ダウン症候群患者は加齢に伴い聴覚および視覚の障害を来すことがある。患者の多くは、比較的若年時からアルツハイマー病の臨床徴候を呈し、ダウン症候群の成人患者の剖検では、脳に典型的な顕微鏡所見が認められる。  罹患女性の胎児がダウン症候群となる確率は50%である。しかしながら、罹患胎児の多くは自然流産となる。男性患者は、モザイク型のものを除き全て不妊である。

 

治療  治療は個々の症状に依存する。基礎的な障害の治療は不可能である。治療には、患者家族への遺伝カウンセリング、社会的支援、知的機能の水準に応じた教育プログラムの作成が含まれなければならない。一部の先天性心奇形は外科的に修復可能である。甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモン補充によって治療される。

 

 


5 発達障害 (ICD-10コード F80-89)

 

発達障害は、生まれつき脳の発達が通常と違っているために引き起こされるいくつかの疾患の総称である。

精神遅滞、学習障害、運動能力障害、コミュニケーション障害、広汎性発達障害、注意欠陥多動性障害などがある。

 

 発達障害は以下に分類される。

 

(1) 広汎性発達障害

コミュニケーション能力や社会性に関連する脳の領域に関係する発達障害の総称である。

自閉症アスペルガー症候群のほか、レット症候群、小児期崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害を含む。

 

行動特徴

① 社会的相互交渉の質的障害

視線が合いにくいことや、相手との情緒的交流が少なかったり避けたりすることがあります。人の表情や雰囲気を察して、それに沿って行動することが不得意です。

また、独り遊びが多く、他児と一緒に遊ぶことが苦手です。楽しみを分かち合ったり、他

の人への興味が薄いこともあります。

② コミュニケーションの質的障害

言葉発達が遅れてなかなか言葉が出なかったり、質問されてもオーム返しに答えたり、話の流れがわからず言葉を字義通りにとらえてしまうこともあります。抑揚なく一本調子で喋ったり、ジェスチャーが乏しいこともあります。意志の伝達方法として言葉や身ぶりを上手に使えないのです。

③ 常同的・反復的な行動、関心、活動

図形や記号に興味をもって夢中になったり、回転するものに強い興味をもったりします。こうしたことに没頭して気持ちが切換えられないこともあります。また同じパターンで行動することを好みます。例えば気候に関係なく同じ洋服を着たがったり、同じ道順などにこだわって柔軟に変更できないことがあります。

 

3つの行動特徴の他にも、低年齢では多動、感覚の異常、極端な偏食、睡眠障害など、思春期からはこだわり、強迫様症状、自傷行為、他害などが問題になることもあります。またうつ病などの気分変動を伴うこともあります。

 

 診断を明確に区別する難しさから、重い自閉症から知的に遅れのないアスペルガー症候群までを一つの連続体と捉えた自閉症スペクトラムASD : Autism Spectrum Disorder)と診断するのが一般的である。

 

自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)

自閉症スペクトラム(アスペルガー)はコミュニケーションをとることや社会行動に障害があるために、日常生活において多くの支障をきたす病気である。

幼児が正常な社会的関係を発達させることができなかったり、言語の使用が異常であったり、まったく言語を使おうとしなかったり、強迫行為のような儀式的な行動をしたりする障害です。

周囲との交流が難しい、日々の行動がルーチン化しやすい、など自閉症との類似症状が特徴的な疾患である。

アスペルガー症候群の小児は社会的に孤立しており、多くの場合、変わり者扱いされたり、風変わりだと思われたりする。

小児はたいてい、決まった常同行動を繰り返す。

通常、関心や行動の幅が狭く固定化していて、強迫行為のような行動をとる。

知覚が異常なことがある。たとえば、騒音、食べ物のにおいや味、布の手触りに非常に敏感な小児がいる。

言語はたいてい具体的表現や文字通りの表現でないと、使ったり理解したりできない。このため、皮肉や冗談をなかなか理解できない。

ぎこちない動作をとる。

 

 アスペルガー症候群の原因は決して親のしつけ方に問題があったわけではない。自閉症と同じく、出生前、胎内での中枢神経系の発育に何らかの問題が生じた結果らしいと考えられている。先天的要素の強い疾患である。

 

この病気の場合は、最初に受診された病院で初診の証明「受診状況等証明書」を用意する必要がある。  審査に当たっては、日常生活にどのような支障をきたしているか、社会的な適応性があるか

否かがポイントになる。就労状況や労働能力も含め、総合的な審査が行われる。

 

 

自閉症

 「自閉症」は心の病気ではありません。自閉症は親の育て方や環境が原因ではない、脳の特性によって起こる発達障害です。自閉症では、脳の特性のために、目や耳から入ってきた情報を整理し、それらを意味のあるまとまったこととして認知することが難しくなってしまうのです。 

 

 「自閉症」というその名前から、他人に対して心を閉ざし、自分の殻に閉じこもってしまう病気と思う方もいるかもしれませんが、これは違います。自閉症は心の病気ではありません。 自閉症は親の育て方や環境が原因ではない、脳の特性によって起こる発達障害です。自閉症では、脳の特性のために、目や耳から入ってきた情報を整理し、それらを意味のあるまとまったこととして認知することが難しくなってしまうのです。

 

自閉症の3つの症状(「三つ組」の障害)  自閉症といっても、症状の現れ方は千差万別ですが、必ず根底には3つの能力障害があります。これを「三つ組」の障害と言い、これがセットであったときに自閉症と診断するという医学的な取り決めになっているのです。  「三つ組」の障害がセットである場合には、症状の現れ方が違っていても、子どもの伸ばし方の原則がとても共通します。つまり、自閉症かどうかを判断するということは、いま何からどんな教え方をしたら伸びやすいかを調べるということなのです。

 

(1) 対人交渉の質的な問題  自閉症というと、人嫌いとか殻にこもるというように、人づき合いの「量」が乏しいと思われがちですが、そうではありません。それどころか、見知らぬ人に突拍子もない言葉をかける子もいるくらいです。要するに、自分と相手との関係を正しく理解できずに不適切な行動をとってしまうのです。 赤ちゃんの場合だと、人見知りがなくて誰にでも平気で抱かれたり、お母さんの後追いが乏しかったりします。  また、逆に、人見知りや後追いが極端に強くて2~3才を過ぎても、お父さんにすら自分の世話をさせないという子もいます。あやしたときの反応が乏しかったり、手遊び歌をいっしょに楽しむカが伸びにくいこともあります。2~3才になると友達を意識した行動をし始めるものですが、自閉症では友達への関心が薄かったり関わりはもてても極端に一方的だったりします。

 

(2) コミュニケーションの質的問題  自閉症では、幼児のときには、ほとんどの子に話し言葉の遅れが見られますが、中には言葉の遅れのない子もいます。診断上重要なのは、遅れのある・なしより、言葉の獲得の偏りや奇妙さです。  通常、子どもはパパ、ママ、ネンネなど、日常で必要な言葉から覚えていき、覚えた言葉はさっそく使ってみます。なぜなら、言葉は人に対して使うために獲得されるのですから。でも、自閉症の子は興味があるものや繰り返し聞く言葉は言えるのに、肝心の「ママ、パパ」といった言葉を言わなかったり、覚えた言葉も独り言で言うぱかり、ということが多く見られます。言葉のオウム返しが大きくなっても残ることもあります。あるいは、家に帰ってきたときに「ただいま」ではなく「お帰り」というように、相手の言うべき言葉を言ってしまったり、“バイバイ”と手を振るときに、見えたとおりに手のひらを自分のほうに向けて振る「さかさまのバイバイ」をすることも。これは、自分と相手の立場を置き換えて学習することが若手なためと考えられます。また、視線が合いにくかったり、逆に失礼なほど他人の目を凝視したり。微妙な目配せの意味もなかなか理解できません。

 

(3) イマジネーション障害  AかもしれないしBかもしれない、という不確定要素を楽しんだり、臨機応変に対応する力が極端に不足しています。ですから不測の事態が起きるとパニックに陥って、本来ならできるはずのことができなくなってしまいます。そのため“いつも同じ状態であること”に強く固執します。  いつもと同じ道順をたどりたがったり、物の置き場所に勝手に決め事を作ったり。いつも手に何かを握っていないとイヤ、なんてこだわりもあります。遊び方にも特徴が現れて、一列に並べることに没頭したり、2~3才になっても「穴に入れる」とか「押すと鳴る」といった単純なおもちゃに熱中したりします。電車やマーク、文字、数字、特定のキャラクターなどに強い偏った関心を示すこともあります。こうした偏った強い興味は、少し大きくなると特殊な能力として発揮されることもあります。教えないのに2才でアルファベットが書けてしまう、世界中の国旗の国名が言えてしまう、過去や未来のどの日付を言われても曜日を即答できる、など。音楽や絵画などに大変優れた能力を発揮する人もいます。たとえば、山下清画伯は才能を開花させた自閉症であったと考えられています。  また、常同運動といって、手をヒラヒラさせる、上下に飛び跳ねる、クルクル回る、体を前後に揺らすなどの、動きに没頭することもあります。

 

(4) 「三つ組」の障害以外の自閉症の症状  「三つ組」の障害の他にも、付随症状と呼ばれるさまざまな症状があります。必ず現れる症状ではありませんが、よく見られて、特徴的な症状をご紹介します。

 

多動  手を放すとどこに行ってしまうかわからないといった落ち着きのなさは、自閉症でも多いものです。落ち着きのなさばかり目立って、「三つ組」の障害に気づいてもらえず、自閉症なのに注意欠陥/多動性障害(AD/HD)と誤って診断されてしまうこともあるほどです。

 

感覚異常  自閉症では、音や匂い、手触り、痛みなどの感覚を大脳で正しく情報処理できず、奇妙な反応を示すことが多くあります。例えば、「耳ふさぎ」(音への過敏さ)などもその例です。音は大脳皮質で情報処理されて、こんな音量・こんな音色とか、あのとき聞いた音とか、認識されるわけです。 自閉症では、この情報処理の過程に問題があって、日常のありふれた音を耐え難く認識してしまうことがあります。その子には、ふつうの音がガラスを爪でこするようなイヤな音に聞こえるのかもしれません。触覚の異常のために、 木綿の下着を紙やすりのように痛いと感じる子や、痛みに対して極端に鈍感な子もいます。自閉症で多い偏食も味覚や口の中の触覚が関係していると いう意見もあります。

 

睡眠異常  発達障害のある子は、睡眠のリズムの確立が遅れがちで、これもお母さんたちを困らせます。 3才になっても2時間おきに目を覚ますとか、睡眠時間が極端に少ないといったことです。

 

 同じ自閉症といっても症状の現れ方はいろいろです。他人への適切な警戒心が育っていないという人づき合いの質的問題が、人を避ける形で現れることもあれば、見ず知らずの人へのなれなれしさで示されることもあります。また同じ自閉症でも、他人に関心がなく言葉もないような症状の強い子から、ぺらぺらしゃベるけど一方的、自分の場違いさに気づけなくて、わがまま、しつけ不足、と誤解されてしまうような軽症の子まで、さまざまな段階が存在します。でも、病状の現れ方や程度が違っていても、根っこに「三つ組」の障害があるなら、必要な援助は共通します。そこで、英国の児童精神科医ローナ・ウイングは、ひとくくりにして自閉症スペクトラム(スペクトル)と呼ぼうと提案しました。スペクトラムとは「連続体」という意味で、虹をイメージした言葉です。赤と黄色は別物に見えるけれども、光の波長という意味では連続している、そんな意味合いです。彼女は、典型的な症状を示す子どもたちを「自閉症」と呼び、一見自閉症に見えない自閉症の子どもたちに「アスペルガー症候群」と名前をつけました。

 

 

(2) 注意欠陥多動性障害ADHD : Attention Deficit Hyperactivity Disorder)

不注意、多動性、衝動性を主な特徴とします。「不注意」とは集中力が続かない、気が散りやすい、忘れっぽいなど、「多動性」とはじっとしていることが苦手で、落ち着きがないなど、「衝動性」とは思いついた行動について、おこなってよいか考える前に実行してしまうなどの特徴です。 

 

注意欠陥多動性障害(ADHD)では、集中力が乏しく、注意の持続時間が短かったりします。また、年齢不相応な衝動性もみられます。

これまでADHDは注意欠陥障害(ADD)と呼ばれていました。しかし、ADHD児に多動もみられることが多かったため、現在の病名に変わりました。多動とは注意欠陥障害の身体的症状です。

 

ADHDは遺伝する可能性があります。ADHDは神経伝達物質(脳内で神経インパルスを伝達する物質)の異常により生じることが研究でわかっています。ADHDの症状には軽症から重症まで幅があり、家庭や学校などの特定の環境下で、症状が過度に現れたり問題となったりします。学校や団体生活などの制約がある生活の中でADHDが問題になります。

 

症状

ADHDでは主に注意力の維持、集中力、作業持続性(作業を終わらせる能力)に問題がみられます。また、動き回りすぎたり衝動的であったりすることもあります。就学前の小児は不安を生じやすく、コミュニケーションや人との関わりに問題があったり、上手に行動できません。ADHD児は不注意にみえます。そわそわして落ち着きないことがあります。衝動的になったり、不適切なときに話したりすることがあります。小児期の後期では、足を落ち着きなく動かしたり、手をそわそわと動かしたり、衝動的に話し出したり、忘れっぽくなったりします。だらしないこともあります。通常、ADHD児は攻撃的ではありません。

 

ADHD児の20~60%に学習障害があり、約80%に学力の問題があります。課題をやらせると乱雑で、軽率な間違いが多く、熟慮に欠くことがあります。ADHD児は心ここにあらずといった様子で、話を聞いていないことがよくあります。多くの場合ADHD児は、言われた通りにしたり、宿題やお手伝いなど、やるべきことをきちんとやり遂げることができません。一つのことをやりかけたままで、ほかのことをやりはじめる傾向があります。

青年期までにADHD児の約40%には、自尊心に問題が生じたり、うつ病や不安になったり、権威に反抗したりします。幼児の約60%では、こうした問題はかんしゃくとして現れます。年長児は欲求不満を感じたときに我慢ができません。

 

治療

ADHDの影響を最小限にとどめるためには、多くの場合、スケジュールに基づいた生活、決められた日課を守ること、支援学級プログラム、小児にあわせた育児方法などが必要になります。小児が攻撃的でなく、家庭環境が落ち着いて協力的な場合は、薬物療法だけで効果がみられることがあります。薬物療法と併用して、児童心理療法士による行動療法を行う場合もあります。

 

薬物療法では、精神刺激薬が最も効果があります。

最も多く処方される精神刺激薬は、メチルフェニデートやその他のアンフェタミン類似薬です。このような薬の有効性はどれも同じで、副作用も似ています。通常の効き方をするタイプに加えて徐放性(長時間作用型)のタイプも多くあり、1日1回の服用ですみます。

 

不注意や行動面での症状には、その他の数多くの薬が治療に使われます。このような場合、クロニジン、抗うつ薬、抗不安薬が用いられます。いくつかの薬を併用する場合もあります。

 

 

(3) 学習障害LD : Learning Disability)

学習障害は(従来、精神遅滞と呼ばれていた)知的障害とはまったく異なるもので、知能が正常であったり高かったりする場合にも生じます。ある特定の機能に限って障害がみられるのが学習障害で、認知機能全般に障害が認められるのが知的障害です。

 

よくある学習障害には3つのタイプがあります。

読字障害

書字障害

算数障害

 

学習障害をもつ小児では、算数を理解したり習得したりすることに著しい障害を伴っていても、読み書きやその他の科目の習得には何ら問題がないこともあります。失読症は最もよく知られている学習障害です。視覚障害、聴覚障害、協調運動障害、情動障害が主な原因で学習に問題が生じている場合は、学習障害には含めません。

学習障害の原因は完全にわかっていませんが、話し言葉や書き言葉を理解したり使用したりする際の基本的処理や、数や空間の論理的把握に異常があることなどが原因とされています。

 

学習障害の男子の数は学習障害の女子の5倍ですが、女子の場合は学習障害に気づかなかったり診断されないことがよくあります。

行動面に問題がある小児の多くは学校での成績が悪いために、教育専門の心理療法士による学習障害の検査を受けます。しかし、特定のタイプの学習障害がある小児の中には、自分の障害をうまく隠して診断をまぬがれることで、治療を長い間受けずにいる小児もいます。

 

症状

幼児の場合は、色の名前や文字を覚えたり、身近なものに名前を付けたり、数を数えたりなどといった小児期の初期に身につける能力の習得過程に遅れがみられることがあります。読み書きの習得が遅れることがあります。また、注意持続時間が短かったり、注意散漫であったり(注意欠陥多動性障害に類似)、話し方がたどたどしかったり、記憶力が長く続かなかったりすることもあります。学習障害の小児は、活字体で書いたり、模写したりといった微細運動の協調を要する行為が苦手なことがあります。

学習障害の小児では、コミュニケーションがうまくいかないことがあります。学習障害の小児の中には、まず欲求不満を起こし、その後に注意散漫、多動、引きこもり、引っ込み思案、攻撃性などの行動面の問題を起こす小児もいます。

 

診断と治療

その小児の言語能力や知能に見合う学年水準の読み書きができない小児には、検査を行うとよいでしょう。聴力や視力に問題があっても読み書きの能力に影響が出るため、視力と聴力の検査を行うようにします。

身体的な病気がないかどうかを診察します。小児は言語と非言語の両面に関する一連の知能検査と、読み書きと計算能力に関する学力検査を受けます。多くの場合、このような検査は親の要望に応じて、小児の通う学校の専門家が行います。

学習障害に対する最も有効な治療は、それぞれの小児に合うよう入念に調整した教育を行うことです。食品添加物を排除したり、ビタミンを大量投与したり、小児の体の微量ミネラルを分析したりするなどといった試みがなされることは多いですが、いずれも効果は実証されていません。学業成績、知能、学習能力全般に絶大な改善効果をもつ薬はありません。学習障害の小児の中には注意欠陥多動性障害もみられる小児もいるため、メチルフェニデートなどの薬で注意力や集中力を改善し、学習能力を向上できることがあります。

 

失読症

失読症とは、単語のまとまりから1つの単語を識別したり、1つの単語の中の構成要素(音素)を識別したりすることがなかなかできない読字障害のことです。

失読症の小児は話し始めるのが遅かったり、はっきりと発音できなかったりすることがあります。また、音を混ぜて発音したり、単語の中の音を識別したりすることがなかなかできないこともあります。

 

治療では、単語認識の方法を具体的に教えます。

失読症は学習障害の一種で、約3~5%の小児にみられると推定されています。女子と比べて男子に失読症が認められる場合が多いですが、女子の場合は失読症に気づきにくいだけなのかもしれません。失読症は遺伝する傾向があります。

脳が音と記号(文字)をうまく関連づけられないと、失読症が発生します。脳の中での関連づけに問題が生じると音と記号(文字)のつながりがうまくいかなくなりますが、脳の中で起こるこの問題についてはほとんどわかっていません。このような問題は生まれたときからあります。そのため、単語の綴りを間違えたり、間違った書き方をしたり、音読のスピードが遅かったり、正確に音読できなかったりすることがあります。失読症の小児は文字の順番を逆転させることが多いので視覚障害があるのではないかと考えられますが、たいていの場合は、音がどのように知覚されるかに問題があります。失読症では話し言葉の理解に問題はありません。

 

症状と診断

失読症の未就学児は話しはじめるのが遅かったり、はっきりとした発音で話せなかったり、文字や数や色の名前をなかなか覚えなかったりすることがあります。多くの場合、失語症の小児は音を混ぜて発音したり、言葉の韻を踏んだり、単語の中でそれぞれの文字がどの音に対応しているのかを区別したり、単語を音節に分けたり、単語の中にある音の数を認識したりすることが困難となります。言葉を選んだり、別の言葉に置き換えたり、文字や絵の名前を言ったりすることに時間がかかったり、ためらったりしているようであれば、失読症の初期徴候です。音を短い間記憶しておいたり、正しい語順に並べ替えたりすることが難しい場合も多くみられます。

失読症の小児の多くは似ている文字や単語を混同しがちです。字を書く際に単語の文字が入れ替わってしまう(たとえばonをno、sawをwasと書く)ことや、文字を取り違える(たとえばbとd、wとm、nとhを間違えます)ことが多くあります。しかし失読症でない小児の多くも、幼稚園や小学校1年生の間は文字の順番が逆転することがあります。

小学校1年生の半ば、もしくは終わりごろになっても単語習得能力が伸びない小児には、失読症がないかどうかを調べる検査を行うとよいでしょう。通常行われる検査は知能検査や学力検査なども含むもので、学校の教職員が行います。

 

治療

単語を認識できるようになるための最適な治療法は、多くの感覚を同時に働かせる方法を取り入れた直接的指導です。この治療法ではさまざまな手がかりを通じて発音とつづり字の関係を教えます。通常、治療は個別に行われますが、可能であれば国語の授業の一部として行われます。

単語を認識するための間接的指導も有益です。この指導法では、通常、単語の発音や読解力を向上させるための訓練が行われます。単語を作るために音を組み合わせること、単語を音節で区切ること、単語の中の音の位置を見分けることによって、音の処理の仕方を教わります。

単語の構成要素を見分ける能力を習得させる指導にも効果があります。ここでは、単語を作るために音を組み合わせたり、単語を音節に分けたり、単語の中にある音の位置を識別したりする訓練が含まれます。

失読症の小児が大きくなると、他の機能で失読症を補っていく方法が有効なことがあります。

 

 

(4) トゥレット症候群  トゥレット症候群(TS:Tourette’s Syndrome)は、多種類の運動チック(突然に起こる素早い運動の繰り返し)と1つ以上の音声チック(運動チックと同様の特徴を持つ発声)が1年以上にわたり続く重症なチック障害です。

 

 

(5) 吃音(きつおん)  吃音(Stuttering)とは、音の繰り返し、ひき伸ばし、言葉を出せずに間があいてしまうなど、一般に「どもる」と言われる話し方の障害です。

 

 

 発達障害は脳機能の障害が原因となっています。そのため、自閉症の場合は知的障害を伴う場合もあります。知的障害は発達障害の一つであると言えます。

 

(ICD-10コード F80-89)

 F80 会話及び言語の特異的発達障害  F81 学習能力の特異的発達障害  F82 運動機能の特異的発達障害  F83 混合性特異的発達障害  F84 広汎性発達障害   例 自閉症  アスペルガー症候群   F88 その他の心理的発達障害  F89 詳細不明の心理的発達障害

 

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

・発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が欠如しており、またかつ、著しい異常行動がみられるため、日常生活への適応が困難で常時援助を必要とするもの

2級

・発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が乏しく、かつ、異常行動がみられるために、日常生活への適応にあたって援助が必要なもの

3級

・発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が不十分で、また、社会行動に問題がみられるため、労働が著しい制限を受けるもの

障害手当金

 

 知的障害を伴わないアスペルガー症候群や広汎性発達障害についても、医学的には先天性であるとされている。幼少期に両親が子供を医師に受診させていた場合には、その時が初診日となり、20歳前による障害基礎年金として請求できる。

なお、幼少期から発達障害の特徴である症状が出ていたとしても、そのときには受診せず、20歳以降になって初めて医師の診察を受けた場合は、その20歳以降に「医師の診察を受けた日」が初診日となる。20歳前障害による障害基礎年金ではなく、通常の障害年金を請求することになる。

 

 発達障害は、「コミュニケーション能力」「適応能力」などで診断する。

 社会行動やコミュニケーション能力の障害により対人関係や意思疎通を円滑に行うことができないために日常生活に著しい制限を受ける方は障害年金を受給できる可能性があります。この「発達障害(社会行動やコミュニケーション能力の障害)により対人関係や意思疎通を円滑に行うことができないために日常生活に著しい制限を受ける方」とは、うつ病や統合失調症などが併存している場合、あるいは重い二次障害があり、日常生活に日常生活に著しい制限を生じている方をいいます。

 知的障害の診断は、知能テストなどで測定される「知的能力」と、社会生活を営むために必要な行動をとる力「適応能力」を元にします。一方、発達障害は「コミュニケーション能力」や「適応能力」などで診断します。

 

 知能指数が高くても、社会行動やコミュニケーション能力の障害により対人関係や意思疎通を円滑に行うことができないために、日常生活や労働に著しい制限を受けることに着目して認定を行う。

 

広汎性発達障害(アスペルガー症候群、注意欠陥多動性障害、高機能自閉症など)の症状は、おもに社会性やコミュニケーション能力の欠如である。そして、これらの症状があることによって労働や日常生活が制限されるようになると重症と判断され、障害年金の支給が決定する。

 

 知的障害を伴わないアスペルガー症候群や広汎性発達障害については、医学的には先天性であるとされています。幼少期に両親が子供を医師に受診させていた場合には、その時が初診日となり、「20歳前による障害基礎年金」として請求することになります。幼少期から発達障害の特徴である症状が出ていたとしても、そのときには受診せず、20歳以降になって初めて医師の診察を受けたような場合は、その20歳以降に「医師の診察を受けた日」が初診日となります。発達障害で一律に初診日を20歳前にすることが、障害年金の受給権を阻害することにもなるためです(発達障害は知的障害とは扱いが異なります)。20歳前障害による障害基礎年金ではなく、通常の障害年金を請求することになります。  

 

 障害年金は発達障害により労働や日常生活にどの程度の支障、制限が生じているかにより支給、不支給、支給の場合の等級が決定されます。

 医師には、障害年金を申請したいことを伝えるだけでなく、仕事や日常生活で困っていること、仕事や日常生活でどんな支障が生じているかを可能な範囲で具体的にお話しておくといいでしょう。

 仕事が長続きしなかったり、仕事に誰かの援助が必要であったり、引きこもりの生活を続けているといった状態になると障害年金の受給の可能性が出てきます。

 先天性の知的障害を伴った発達障害の場合、複数の医療機関を受診されておられても、通常初診の証明書(受診状況等証明書)の取得は不要です。

 しかし、知的障害を伴わない発達障害の場合は、初診日の確認が必要になります。複数医療機関に過去かかっておられる場合は、最初に受診した病院で初診の証明をとっていただく必要があります。

 

 てんかんなどの別疾患を伴っておられる場合は、別途てんかんなどの初診の証明が必要になる場合もあります。

 

 

「病歴・就労状況等申立書」の書き方    自覚症状の程度(生きにくさ)や、二次障害、併存障害についての治療内容・経過、また、認知機能のかたよりによって困難を生じている日常生活状況、生活歴、家族歴、既往歴、幼少期から成人後の症状などについて詳しく、さらに、時系列をまとめた上で書いていかなければなりません。どのような治療を受けているか(処方薬や精神療法の内容)についても記載する必要があります。うつ病や統合失調症などが併存している場合、あるいは二次障害が重い場合は、処方されている抗うつ薬などを記載する必要があります。処方薬を記載することにより、あなたがどういう状態なのかを把握しやすくなります。      

 申立書に記載すべき日常生活状況については、発達障害の特性すなわち認知機能のかたよりによる生活の困難、また、併存障害があるために制限されてしまうことを中心に記載していくことになります。たとえば、偏食が激しい方であれば、ストレスと栄養障害によって、抑うつ症状や不安感などの精神症状を引き起こしてしまったり、悪化することが指摘されていますので、偏食(発達障害の特性)について記載する必要があります。金銭管理や対人関係についても同様です。とくに、ことばの裏を読むことが困難なコミュニケーション障害のある人は、人にだまされやすい傾向がありますので、こうしたことも記載する必要があるでしょう。

 

 

 

 

精神及び行動の障害のICDコード

 

症状性を含む器質性精神障害 (F00-F09)  F00 アルツハイマー病の認知症  F01 血管性認知症  F02 他に分類されるその他の疾患の認知症      例 クロイツフェルト・ヤコブ病の認知症  パーキンソン病の認知症  F03 詳細不明の認知症  F04 器質性健忘症候群、アルコールその他の精神作用物質によらないもの  F05 せん妄、アルコールその他の精神作用物質によらないもの

     例 せん妄  F06 脳の損傷及び機能不全並びに身体疾患によるその他の精神障害      例 器質性気分(感情)障害  器質性不安障害  器質性解離性障害  F07 脳の疾患、損傷及び機能不全による人格及び行動の障害      例 器質性人格障害  F09 詳細不明の器質性又は症状性精神障害

 

精神作用物質使用による精神及び行動の障害 (F10-F19)  F10 アルコール使用<飲酒>による精神及び行動の障害  F11 アヘン類使用による精神及び行動の障害  F12 大麻類使用による精神及び行動の障害  F13 鎮静薬又は催眠薬使用による精神及び行動の障害  F14 コカイン使用による精神及び行動の障害  F15 カフェインを含むその他の精神刺激薬使用による精神及び行動の障害  F16 幻覚薬使用による精神及び行動の障害  F17 タバコ使用(喫煙)による精神及び行動の障害  F18 揮発性溶剤使用による精神及び行動の障害  F19 多剤使用及びその他の精神作用物質使用による精神及び行動の障害

 

統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害 (F20-F29)  F20 統合失調症  F21 統合失調症型障害  F22 持続性妄想性障害      例 妄想性障害  F23 急性一過性精神病性障害  F24 感応性妄想性障害  F25 統合失調感情障害  F28 その他の非器質性精神病性障害  F29 詳細不明の非器質性精神病

 

気分(感情)障害 (F30-F39)  F30 躁病エピソード  F31 双極性感情障害(躁うつ病)  F32 うつ病エピソード  F33 反復性うつ病性障害  F34 持続性気分(感情)障害  F38 その他の気分(感情)障害  F39 詳細不明の気分(感情)障害

 

神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害 (F40-F48)  F40 恐怖症性不安障害

     例 広場恐怖(症)  社会恐怖(症)  F41 その他の不安障害      例 パニック(恐慌性)障害  全般性不安障害  F42 強迫性障害(強迫神経症)  F43 重度ストレスへの反応及び適応障害      例 適応障害  F44 解離性(転換性)障害      例 解離性健忘  解離性昏迷  解離性運動障害  F45 身体表現性障害

     例 心気障害  F48 その他の神経症性障害

 

生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群 (F50-F59)  F50 摂食障害

     例 神経性無食欲症  神経性大食症  F51 非器質性睡眠障害  F52 性機能不全,器質性障害又は疾病によらないもの      例 性欲欠如又は性欲喪失  F53 産じょく(褥)に関連した精神及び行動の障害,他に分類されないもの  F54 他に分類される障害又は疾病に関連する心理的又は行動的要因  F55 依存を生じない物質の乱用  F59 生理的障害及び身体的要因に関連した詳細不明の行動症候群

 

成人の人格及び行動の障害 (F60-F69)  F60 特定の人格障害      例 妄想性人格障害  統合失調症質性人格障害  非社会性人格障害

情緒不安定性人格障害  衝動型人格障害  境界型人格障害(F-603b)        演技性人格障害  不安性(回避性)人格障害  依存性人格障害  F61 混合性及びその他の人格障害  F62 持続的人格変化、脳損傷及び脳疾患によらないもの      例 破局体験後の持続的人格変化  F63 習慣及び衝動の障害      例 病的賭博  病的窃盗  F64 性同一性障害  F65 性嗜好の障害      例 フェティシズム  露出症  サドマゾヒズム  F66 性発達及び方向づけに関連する心理及び行動の障害  F68 その他の成人の人格及び行動の障害  F69 詳細不明の成人の人格及び行動の障害

 

知的障害(精神遅滞)(F70-F79)  F70 軽度知的障害(精神遅滞)  F71 中等度知的障害(精神遅滞)  F72 重度知的障害(精神遅滞)  F73 最重度知的障害(精神遅滞)  F78 その他の知的障害(精神遅滞)  F79 詳細不明の知的障害(精神遅滞)

 

心理的発達の障害 (F80-F89)  F80 会話及び言語の特異的発達障害  F81 学習能力の特異的発達障害  F82 運動機能の特異的発達障害  F83 混合性特異的発達障害  F84 広汎性発達障害      例 自閉症  アスペルガー症候群   F88 その他の心理的発達障害  F89 詳細不明の心理的発達障害

 

小児(児童)期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害 (F90-F98)  F90 多動性障害  F91 行為障害      例 反抗挑戦性障害  F92 行為及び情緒の混合性障害      例 抑うつ性行為障害  F93 小児(児童)期に特異的に発症する情緒障害  F94 小児(児童)期及び青年期に特異的に発症する社会的機能の障害  F95 チック障害  F98 小児(児童)期及び青年期に通常発症するその他の行動及び情緒の障害

 

詳細不明の精神障害 (F99)  F99 精神障害、詳細不明

 

ICD-10コード

ICD-10コードとは、厚生労働省のホームページでは以下のように定義されています。

「疾病及び関連保健問題の国際統計分類:International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems(以下「ICD」と略)」とは、異なる国や地域から、異なる時点で集計された死亡や疾病のデータの体系的な記録、分析、解釈及び比較を行うため、世界保健機関憲章に基づき、世界保健機関(WHO)が作成した分類である。
○精神疾患が2つ以上ある場合

認定の対象となる精神疾患が2つ以上併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わない。精神の場合には別傷病であっても病態を分けることができないことが多いため、諸症状を総合的に判断して認定する。

 

精神科領域の受診が2つ以上ある場合には、社会的治癒と判断された場合を除き、最初の受診日を初診日とするのが原則と考える。

 

 

知的障害や発達障害と認定対象とされる精神疾患を併発した場合の初診日の取り扱い

 知的障害・発達障害と別の精神疾患が併発しているケースでは、以下のように扱われる。

・知的障害が3級程度であった人が社会生活に適応できず、発達障害の症状が顕著になった場合は「同一疾病」とする。 初診日は誕生日

 

・知的障害を伴わない者や3級不該当程度の知的障害のある人については、発達障害の症状により「別疾病」として扱う。初めて診療を受けた日を初診日とする。初診日証明が必要になる。

 

・発達障害や知的障害である者に後から統合失調症が発症することは、極めて少ない。原則「別疾病」とする。

 

・発達障害と診断された方が、うつ病などの他の精神疾患を併発した場合は、同一疾病と考えられる。発達障害で初めて受診した日が初診日と扱われる。

・うつ病などの精神疾患診断されていた方が、後から発達障害だと分かった場合は、うつ病等の精神疾患で初めて医師の診察を受けた日が初診日と扱われる。

(診断名の変更)

 

・知的障害である者が、後からうつ病となった場合には、先天性の障害とされ、初診日を「誕生日」とする。

 

 

 

前発疾病

後発疾病

判定

統合失調症

発達障害

同一疾病として扱う

(診断名の変更となるが、新たな疾病が発症したものでない) 統合失調症のほうが初診日

うつ病

発達障害

同一疾病として扱う。(診断名の変更となるが、新たな疾病が発症したものでない。) うつ病のほうが初診日

知的障害

統合失調症

別疾病として扱う 

初診日は別々(知的障害が原因で統合失調症を発症したと診断された場合は、知的障害のほうが初診日とされる)

知的障害

うつ病

同一疾病として扱う

(知的障害が基因で発症したものとして) 誕生日が知的障害としての初診日

知的障害

神経症で精神病様態

基本的に別疾病として扱う

初診日は別々 知的障害が原因で統合失調症を発症したと診断した場合は、誕生日が知的障害としての初診日とされる

知的障害

その他精神疾患

原則別疾病として扱う

軽度の知的障害(3級程度)

発達障害

同一疾病として扱う

誕生日が知的障害としての初診日

3級不該当程度の知的障害

発達障害

別疾病として扱う

初めて診療を受けた日を初診日(20歳過ぎということがある)

発達障害

統合失調症

別疾病として扱う  初診日は別々

(発達障害が原因で統合失調症を発症したと診断された場合は、発達障害のほうが初診日とされる)

発達障害

うつ病

同一疾病として扱う

(発達障害が起因で発症したものとして) 発達障害のほうが初診日

発達障害

神経症で精神病様態

同一疾病として扱う

(発達障害が起因で発症したものとして) 発達障害のほうが初診日

発達障害

その他精神疾患

原則別疾病として扱う

 

 

 

 

○精神障害の認定等級の目安

 

障害年金の診断書の記載項目にある日常生活能力の程度」の結果と「日常生活能力の判定」の平均を出し、両者を以下のマトリックス表に照らし合わせて等級の目安を出すこととしている。

 

程度

判定

(5)

(4)

(3)

(2)

(1)

3.5以上

1級

1級

又は2級

     

3.0以上 3.5未満

1級

又は2級

2級

2級

   

2.5以上 3.0未満

 

2級

2級

又は3級

   

2.0以上 2.5未満

 

2級

2級

又は3級

3級

又は非該当

 

1.5以上 2.0未満

     

3級

又は非該当

 

1.5未満

 

     

非該当

非該当

 

日常生活能力の程度(5段階評価)

(5) 精神障害を認め、身のまわりのこともほとんどできないため、常時の介助が必要である

・家庭内生活においても、食事や身のまわりのことを自発的にすることができない

・在宅の場合に通院等の外出には、付き添いが必要   など

(4) 精神障害を認め、日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である

・著しく適正を欠く行動が見受けられる

・自発的な発言が少ない、あっても発言内容が不適切であったり不明瞭であったりする

・金銭管理ができない   など

(3) 精神障害を認め、家庭内での単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要である

・習慣化した外出はできるが、家事をこなすために助言や指導を必要とする

・社会的な対人交流は乏しく、自発的な行動に困難がある

・金銭管理が困難   など

(2) 精神障害を認め、家庭内での日常生活は普通にできるが、社会生活には援助が必要であ

 る

・日常的な家事をこなすことはできるが、状況や手順が変化したりすると困難を生じることがある

・社会行動や自発的な行動が適切に出来ないこともある

・金銭管理はおおむねできる  など

(1)精神障害を認めるが、社会生活は普通にできる

 

日常生活能力の判定(程度の軽いほうから1~4の数値に置き換え、その平均を算出

4 助言や指導をしてもできない

3 助言や指導があればできる

2 おおむねできるが時には助言や指導を必要とする

1 できる

 

日常生活能力を見る場合、アパートなどでの一人暮らしでの平均的な日常生活能力が想定されている。

肢体障害の場合における日常生活動作の自立の程度を問う場合は、例えば「目の前に食べ物があれば一人で箸とかスプーンを使って食べることができるかどうか」ということ。

知的障害者の場合の障害程度の評価は、日常生活動作のレベルで自立できているかどうかではなく、判断力や計画性が問われている。

「援助」がなければできない場合は、「ひとりでできる」という評価にはならない。

 

(適用の対象となる主な傷病)

・精神障害

統合失調症  うつ病  双極性障害  脳動脈硬化症に伴う精神病  

アルコール精神病

・発達障害

アスペルガ―症候群  自閉症  高機能自閉症  自閉症スペクトラム

PDD(広汎性発達障害)  ADHD(注意欠陥多動性障害)  多動性障害 

LD(学習障害)

・知的障害