就業規則(1)

 これからシリーズで『就業規則作成のワンポイントレッスン』をお届けしたいと思います。

 第1回目は就業規則の意義についてです。

 企業内の秩序を維持・発展させて経営目標を達成するためには、労働力を効率的に組織化する必要があります。この組織労働の規律と労働条件を直接規制するのが就業規則です。

 特に長期雇用慣行の下では、雇用の維持と引き換えに、労働内容についての白地的契約を交わすことが前提になっており、就業規則が実質的な労働契約を構成し、広範な業務命令や人事異動などの包括的人事権の発動を可能とする法的な基礎になっています。

 

 労働基準法では、常時使用する労働者が10人以上いる事業場では、就業規則を作成することを義務づけています。

この場合の「常時使用する労働者」とは、いわゆるフルタイマーの常用労働者、つまり、正規社員という意味ではありません。当該事業場で使用している労働者すべてをいいます。   

パート、アルバイトはもちろん、契約社員や嘱託社員、出向社員などを含みます。例えば、1日1時間しか働かないパートタイマーでも1人と数え、また、2ヵ月以内の期間を決めて雇用するアルバイトが毎月のように入れ替わる場合にも、「常時」何人かを雇用している場合は、その人数を含めなければなりません。

 例えば、パートタイム労働者のように勤務の態様等から通常の労働者と異なった定めをする必要がある場合には、通常の労働者に適用される就業規則(以下「一般の就業規則」という。)のほかに、パートタイム労働者等一部の労働者のみに適用される別個の就業規則(例えば「パートタイム労働者就業規則」)を作成することとしても差し支えありません。   

 ただし、この場合には一般の就業規則に、

(1) 別個の就業規則の適用を受ける労働者は、一般の就業規則の適用を除外すること

(2) 適用除外した労働者に適用される就業規則は、別に定めることとすること

を明記することが必要です。

 正社員向けとは別にパートタイマー向けの就業規則を作成したときには、この2つを合わせたものが、労働基準法にいう就業規則となります。

 就業規則がもし1種類しかない場合には、その就業規則がすべての従業員へ適用されると考えられます。たとえ個別の労働契約書にて就業規則と異なる定めがあったとしても、就業規則に満たない条件を定めた契約は無効とされる恐れがあります。そこで、就業規則本則には、適用対象が正社員だけでパートタイム労働者やアルバイトを対象とした別規程を定める等の条文を置き、別規程を策定する必要があります。

 正社員用とは別の就業規則を作成した場合にも、

(1) 意見を聴取すること、

(2) 労働者に周知すること、

(3) 行政官庁へ届け出ること、

の3つの手続きが必要です。

 このうちの(1)は、その事業場の労働者の過半数で組織される労働組合、または労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならないのですが、この場合の過半数とは、正社員、パートタイマーや契約社員などすべての労働者の過半数をいいます。  パートタイマー用の就業規則を作成した場合は、上記のようにその事業場の全労働者の過半数を代表する者の意見を聴くことで足ります。しかし、パートタイム労働法では、その事業場で雇用するパート労働者の過半数を代表すると認められる者の意見も聴くことが望ましいとしています。これは、パートタイマーなど当事者の意見を聴くことで、より当事者の実情を反映した就業規則となりうることに配慮したものです。パートタイマー等の過半数を代表する者から意見聴取することは、このように、法律上は努力義務とされていますので、この手続きを行わなくとも、必ずしも違法とはなりません。

 就業規則は事業場で働く労働者の労働条件や服務規律などを定めるものですので、そこで働くすべての労働者についての定めをする必要があります。

 10人未満の会社の就業規則は、「就業規則に準ずるもの」(労働基準法第32条2、第32条3など)として、10人以上の会社の就業規則と同等に取り扱われます。つまり、懲戒処分など就業規則に基づいた運用が可能になります。就業規則を作成すれば労働条件や服務規律が明確になりますので、10人未満の会社でも就業規則を作成することは望ましいです。

 就業規則は、労働基準法によって作成義務が課せられているとともに、その作成・変更手続きについても法定化されています。
 これに対して、「内規」は、就業規則の運用にあたっての解釈や運用細則を定めたもので、法的な根拠や裏付けがあるわけではありません。したがって、就業規則の定めの変更を伴わず、単なる就業規則の運用上の諸問題に関する変更にとどまる場合には、「内規」を変更するだけで差し支えありません。「内規」はあくまで就業規則の運用上の取り決めであって、意見聴取や周知、行政官庁への届出を必要としません。したがって、「内規」を改定した場合、就業規則の内容の変更を伴う場合は、就業規則の変更手続きを優先させなければなりません。

 

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