就業規則の性質
就業規則の法的性質
就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるとした。
事業場の労働者は、就業規則の存在及び内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然にその適用を受けるとした。
・日立製作所武蔵工場事件 最高裁第1小(平成3・11・28)
就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなすとした。
就業規則の効力発生要件
・朝日新聞社小倉支店事件(昭和27年 最高裁大法廷判決)
会社側が労働基準法第106条第1項所定の爾後の周知方法を欠いていたとしても、既に従業員側にその意見を求めるため提示され、その意見書が附されて届け出られたものであるから、就業規則自体の効力を否定する理由とはならないとした。
・日本コンベンションサービス事件(平成10年 大阪高裁判決)
就業規則における懲戒解雇された者には退職金を支給しないとする定めの新設について、適法な意見聴取が行われた上で届けられたものともいえず、一般的に従業員に周知した事実が認められないことから、その効力が生ずるものではないとした。
・須賀工業事件(平成12年 東京地裁判決)
賞与は「支給時点の在籍者に対し支給する」旨定めた賃金規則が、労働基準法106条1項所定の爾後の周知方法を欠いているとしても、それを理由に就業規則及び賃金規則が無効であるということはできないとした。
・日本ニューホランド事件(平成13年 札幌地裁判決)
会社と労働組合で組織される経営協議会の決定事項が就業規則として認められるかについて、少なくとも労働基準法第106条第1項の定める方法と同視し得るような周知方法が採られない限り、就業規則としての効力は認められないとした。
・NTT西日本事件(平成13年 京都地裁判決)
労働基準監督署に対する就業規則の届出は、就業規則の効力発生要件ではなく、使用者が就業規則を作成し、従業員一般にその存在及び内容を周知させるに足る相当な方法を講じれば、関係当事者を一般的に拘束する効力を生じるとした。
就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容の適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するとした。
過半数代表者に関して
労使協定における過半数代表者について、役員を含めた全従業員によって構成される親睦団体の代表者は、労働組合の代表者でもなく、「労働者の過半数を代表する者」でもないとした。
就業規則の適用関係
・大興設備開発事件(平成9年 大阪高裁判決)
採用時に60歳を超えていた者に対する就業規則の退職金に関する定めについて、就業規則には高齢者及びパートタイムの従業員にも適用されることを前提とした定めがあること、高齢者に退職金を支給しないという明文の定めがないことから、適用があるとした。
・東京都済生会中央病院(定年退職)事件(平成12年 東京高裁判決)
同一企業の複数の事業場にそれぞれ異なる内容の就業規則が制定されていて、調整規定が設けられていない場合に、その複数の事業場の職務を兼務している労働者がいるときは、ある事業場の職務に関しては当該事業場の就業規則が適用になるのが原則であるが、複数の事業場の職務が明確に区別できないような場合等には、各就業規則の合理的、調和的解釈により、その労働者に適用すべき規定内容を整理、統合して決定すべきとした。
就業規則と労使慣行の関係
・ソニーマグネプロダクツ事件(昭和58年 東京地裁判決)
労使慣行が一種の規範として労働条件を規律していたが、黙示的にも個別的な労働契約の内容になっていなかった場合における、就業規則による労使慣行の変更について、就業規則の不利益変更法理によって判断した。
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