就業規則(22)

第8章 安全衛生及び災害補償

 労働基準法第89条において、「安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項」「災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項」を規定するよう義務付けされています。

 安全衛生に関しては「労働安全衛生法」に詳細な規定があるのでこちらを参照すること。特に第66条において労働者の健康診断を行うことが義務づけられているので、その期間や方法についてここで明示すること。

 災害補償に関する扱いは極めてデリケートに考える必要があるが、通常は「労働基準法第8章」や「労働者災害補償保険法(労災法)」に準ずると明記しておけばよい。労災保険への加入は全法人が義務づけられているので、その手続きを忘れないこと。

安全衛生

 職場の総合的環境を整備し、労働力の無駄な消耗や災害を未然に防止することによって、従業員の生命と健康を維持する管理を安全衛生管理といいます。会社は、労働災害防止の対策を講じることによって、従業員の安全と健康を確保し、快適な職場環境を形成しなければなりません。

 

健康保持

 昨今は特定の疾病を労時間との関連から労災として認定する場面が多くなり長時間残業による過労死、過労自殺の認定や精神障害疾病の労災認定基準が出ています。その様なリスクに対応して対処マニュアルとしての定めの必要があります。

 

健康診断

 従業員の健康管理のため、労働安全衛生法により使用者には、健康診断を実施する義務が課せられています。また、パートタイマーであっても、期間の定めなく雇用されている者、期間の定めがあっても契約の更新により1年を超えて雇用されている者、契約の更新により1年を超えて雇用される見込みのある者のいずれかで、所定労働時間が通常の従業員のおおむね4分の3以上であれば、定期健康診断を会社負担で実施しなければなりません。

 健康診断は、監督署の監査では必ずチェックされる項目です。1年ごとに行わなくてはいけない職務者範疇、また6ヵ月ごとに行うべき範疇等を定め、確実に運用しなくてはなりません。

 就業規則に健康診断受診の定めをおけば、社員には使用者が実施する健康診断を受診する義務が生じることになります。健康診断の結果、社員の健康を保持するため必要があると認められる時は、就業場所の変更や労働時間の短縮等の措置を講ずる義務が生じます。

 社員が使用者の実施する健康診断を受診しなかったために、社員の疾患を知ることができなかったのであれば、使用者としてはこの疾患について、これ以上ひどくならないようにするための措置をとることができないため、健康を保持する義務は免れます。しかし、健康診断を不受診を放置したこと自体、使用者が安全配慮義務を怠ったとされる場合があります。こういったことを防ぐためにも、就業規則には、健康診断を受診しなかった場合の処分についても規定しておくべきです。

 事業者のリスク回避するためには、就業規則(または個別の労働契約)において、健康診断の受診義務を規定し、その規定に違反した場合の懲戒規定を必ず記載しておき、口頭で健康診断を受けるように伝えたにもかかわらず、頑なに受診しない従業員に対しては、就業規則に基づく懲戒処分を行い、その記録を残しておく必要があります。 

 建設業や運送業など、その業務の性質上、特に安全衛生が求められるような場合には、安全衛生規定など別規定を作成した方がいいでしょう。

 

法定外の健康診断

 健康に関してはプライバシーの最たるものであり、実際に健康診断の受診を強要したとして慰謝料の支払いを命じた判例もあります(国立療養所比良病院(医師年休)事件 京都地 平6.9.14)。しかし、就業規則上の根拠があれば、法定外のものであっても健診を義務付けることは可能で、さらに、会社の指定医に受診させることも医師選択の自由に反しないとされます(帯広電報電話局事件 最1小 昭61.3.13)。

 法定外の健康診断についても、就業規則上に明確な根拠規定をおくことが無難でしょう。

 

自己保健義務

 電通過労自殺事件以後、過重労働に対する使用者責任が厳しく問われるようになってきています。しかし、使用者は、あらゆる場面において、すべての危険、健康被害から従業員を守らなけれればならないかというと、そうではなく、私生活上の問題や通常予想し得ない範囲、従業員が当然遵守すべき注意義務を怠った場合等は対象外です。

 従業員自身にも注意義務や健康管理・保持義務があるため、使用者が必ずしも全面的に安全配慮義務のリスクを負わなければならないということにはなりません。

 問題が生じたときは、まず本人に過失がなかったのかということを主張できるよう、あらかじめ規定化・明示しておく必要があります。

 

災害補償

 従業員が業務上あるいは通勤途中で負傷し、又は疾病にかかった場合には、会社はその費用で必要な療養を行うか、必要な療養にかかる費用を負担しなければなりません。

(1) 療養のため従業員が労働することができないために賃金を支給されない場合には、平均賃金の100分の60の休業補償を行う。 

(2) 従業員の身体に障害が残った場合は、障害の程度に応じて、定められた日数の金額の補償を行う。

(3) 従業員が業務上死亡した場合には、遺族に対して、遺族補償を行う。

(4) また、葬祭を行うものに対して、葬祭料を支給する。

 負傷し、疾病にかかり、あるいは死亡した従業員がパートタイマーなど正社員以外の者であった場合も、会社は前述の災害補償を行わなければなりません。  ただし、労災保険法に基づいて前述の災害補償に相当する給付が行われるべきものである場合には、会社は補償の責任を免れることになっています。

上積補償等

 業務災害の被災労働者若しくはその遺族は、労働基準法上の労災補償や労災保険法上の保険給付とは別に、使用者に対して「安全配慮義務違反」を理由に損害賠償請求を求めることができます。

 労災が発生したことにより、企業に損害賠償責任が認められる場合、上積補償による給付を損害賠償から控除することができるかどうかは、上積補償制度をどのようなものとして規定するかによることとなります。一般的には、上積補償を行うことによって、その価額の限度で同一事由につき被災労働者又は遺族に対して負う損害賠償責任を免れると考えられます。

しかし、紛争防止のためには、上積補償制度について明確に定め、従業員に周知しておかなければなりません。特に次の2点に留意が必要です。

(1) 上積補償は労災保険給付の不足分を補うために上積みする趣旨であるので、原則として労災保険給付との支給調整は行わない取扱い(昭56.10.30 基発 696号)であること

(2) 「上積補償以外には民事損害賠償を行わないこと」とする規定を設けても、上積の金額が事故による被害の大きさに応じた相当の金額でなければ、当該規定は無効となること

 上積補償を行うに当たっての特別な合意がない限り、上積補償を行った後にさらに慰謝料等の民事損害賠償請求を提起されてしまう可能性もあります。実務上は、十分な上積み金であれば、交付と同時に民事損害賠償請求権を放棄する旨の念書を取ることも検討できるでしょう。

 上積補償の原資として、団体生命保険等を利用する場合は、被災労働者(遺族)補償分と会社の逸失利益分とを明確に分けて契約する必要があります。

 

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