全国統一の「等級判定のガイドライン」
障害年金が不支給になりやすい地域がありました。厚生労働省は、平成22年~平成24年までの3年間で新規に請求された障害基礎年金の内、不支給となった割合を都道府県ごとに比較しました。調査の結果、不支給となった割合が最も高いのが大分県(24.4%)で、最も低いのが栃木県(4.0%)と20.4%もの差がありました。このような「地域によって結果に差がある」との声が大きくなり、厚生労働省でも問題視されるようになり、平成27年2月より『精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会』が開催されました。このたび、全国統一の「等級判定のガイドライン」を示すこととなりました。
適用の対象となる主な傷病は以下の通りです。
・精神障害
統合失調症 うつ病 双極性障害 脳動脈硬化症に伴う精神病 アルコール精神病
・発達障害
アスペルガ―症候群 自閉症 高機能自閉症 自閉症スペクトラム PDD(広汎性発達障害) ADHD(注意欠陥多動性障害) 多動性障害 LD(学習障害)
・知的障害
ガイドラインは以下のポイントから成り立っています。
1 認定する等級の目安を設ける
障害年金の診断書の記載項目にある「日常生活能力の程度」の結果と「日常生活能力の判定」の平均を出し、両者を以下のマトリックス表に照らし合わせて等級の目安を出します。
程度 判定 |
(5) |
(4) |
(3) |
(2) |
(1) |
3.5以上 |
1級 |
1級 |
|||
3.0以上 3.5未満 |
1級 |
2級 |
2級 |
||
2.5以上 3.0未満 |
2級 |
2級 |
|||
2.0以上 2.5未満 |
2級 |
2級 |
3級 |
||
1.5以上 2.0未満 |
3級 |
||||
1.5未満
|
非該当 |
非該当 |
日常生活能力の程度(5段階評価)
(5) 精神障害を認め、身のまわりのこともほとんどできないため、常時の介助が必要である
・家庭内生活においても、食事や身のまわりのことを自発的にすることができない
・在宅の場合に通院等の外出には、付き添いが必要 など
(4) 精神障害を認め、日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である
・著しく適正を欠く行動が見受けられる
・自発的な発言が少ない、あっても発言内容が不適切であったり不明瞭であったりする
・金銭管理ができない など
(3) 精神障害を認め、家庭内での単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要である
・習慣化した外出はできるが、家事をこなすために助言や指導を必要とするる
・社会的な対人交流は乏しく、自発的な行動に困難がある
・金銭管理が困難 など
(2) 精神障害を認め、家庭内での日常生活は普通にできるが、社会生活には援助が必要である
・日常的な家事をこなすことはできるが、状況や手順が変化したりすると困難を生じることがある
・社会行動や自発的な行動が適切に出来ないこともある
・金銭管理はおおむねできる など
(1)精神障害を認めるが、社会生活は普通にできる
日常生活能力の判定(程度の軽いほうから1~4の数値に置き換え、その平均を算出)
4 助言や指導をしてもできない
3 助言や指導があればできる
2 おおむねできるが時には助言や指導を必要とする
1 できる
(例)
日常生活能力の程度 (3)
日常生活能力の判定の平均 3.2 の場合
等級の目安は2級相当
2 等級目安を考慮してその他の要点と総合的に判断
1の方法でまず等級の目安を出しておきます。その等級をふまえて、診断書のその他記載内容や他の資料を参考にして、総合的に判断します。
総合的に判断される材料は下記とされています。
・現在の病状又は病態像る
・療養状況(外来通院の状況・治療期間等)
・生活環境(同居の有無・福祉サービス利用等)
・就労状況(雇用形態・勤続年数等)
・その他(手帳の有無等)
3 等級判定に用いる補足資料の充実に向けた対策
今回の等級判定ガイドラインでは、本人の『日常生活能力がどの程度あるのか』が重視されています。そのため、本人の日常生活状況について適切な情報を得て等級判定を行うことが課題となってきます。そこで日常生活能力を把握するために、等級判定の全国統一ガイドラインとともに、日常生活能力を適切に把握するために2つの対策が検討されています。
(1) 診断書の記載要領の作成
「日常生活能力の程度」「日常生活能力の判定」を評価する際の参考を示すとともに、その他の留意すべきポイントを列挙した記載要領を作成、診断書を作成する際に医師に配布することを予定しています。
記載要領の概要は以下のとおりです。
・日常生活能力の程度
評価時の留意事項 5段階評価の考え方(精神障害・知的障害それぞれ)
・日常生活能力の判定
評価時の留意事項 4段階評価の考え方(精神障害・知的障害それぞれ)
その他
日常生活能力の程度の評価と日常生活能力の程度判定の評価には、整合的なものである必要があること
(2) 日常生活状況についての追加資料の作成
専門家検討会により、すでに提出した診断書や病歴・就労状況申立書等では把握できない日常生活の様子や就労状況を、審査の担当者(認定医)が、必要に応じて本人や家族等に対しアンケートで照会し、その内容を踏まえて障害年金の審査をするというものです。
このアンケートで記載を求められる内容は主に以下の3点が予定されています。
① 生活環境
② 日常生活における障害の影響や同居者等周囲の方からの援助
③ 就労(作業)状況
これらの情報を本人や家族から得ることで、より詳しい日常生活能力の把握に努めることを目的としているのです。
ガイドラインの運用方法としては、今後下記のように行うことが予定されています。
・日本年金機構職員
診断書の「日常生活能力の判定」の平均値を算出し、目安となる等級を確認・認定医へ報告
・認定医
確認された目安となる等級を参考としつつ、総合評価を行った上で最終的な等級判定を行う。
平成28年年1月27日付の共同通信にて、日本年金機構は「障害年金センター」(仮称)を東京都内に設け、都道府県ごとに行っている審査を平成29年4月から一元化する方針であると発表されました。 障害年金の審査が厚生年金と同様に、一か所に集約されることになります。