障害者自立支援

障害者が「働く喜び」を味わうには

 日本では、現在「障害者」とされる人たちが約860万人います。身体障害者393万7千人、知的障害者74万1千人、精神障害者392万4千人(2016年度の内閣府の統計)。これは日本全体の6.7%を占めます。

 障害の程度はさまざまであり、税金によるサポートがなければ生活できない人もいますが、周囲の理解と配慮があれば就職して自立できる人もいます。

 政府としても、障害を持つ人々が少しでも「稼ぐ側」となってくれれば、税金によるサポートが必要な人にお金を回すことができます。何よりも、障害を背負った人たち自身が、働くことを通じて他の人の役に立つ幸福感を味わえるようにすることは、社会的にプラスになるでしょう。そのため、政府もさまざまなかたちで障害者の就労支援を行っています。

 

「法定雇用率」

 障害の程度が比較的軽い場合、一般の企業に就職する道が開かれています。

 厚生労働省は「法定雇用率」を定め、一定規模以上の事業主に、法定雇用率以上の割合で障害者を雇用する義務を課しています。

 現在、従業員45.5人(週の労働時間が20時間から30時間の従業員は0.5人とカウントします)以上の企業は、従業員全体の2.2%以上の障害者を雇う義務があります。

 この割合を下回った場合は、「雇用納付金」を支払い、逆に法定雇用率を超える障害者を雇用している企業には、「雇用納付金」を原資として「調整金」が支給される。

 法定雇用率は、雇用創出という企業の社会的責任の自覚を促す意味があるといえます。ただし、「義務」となり「強制」となれば、雇用される側の障害者にとっても働く喜びを感じることはできなくなるでしょう。

 

就労継続支援事業

 一般の会社に就職することが難しい障害者には、厚生労働省が「就労継続支援事業」を行っています。障害者に働く場を与えるとともに、働く上で必要な知識と訓練をするという目的もあります。

 このような障害者の就労を支援する福祉施設は、現在大きく2種類があります。

「就労継続支援A型」

 雇用契約を結んで給料をもらいながら利用する施設です。雇用契約なので、施設で働く障害者には、最低賃金以上の給与が支払われます。

「就労継続支援B型」

 定期的に施設に通って仕事をすることが難しいため、雇用契約は結ばず、「工賃」というわずかな報酬をもらいながら利用する施設です。訓練に重きを置いているといってよいでしょう。

 両施設とも、利用する障害者の数に応じて、障害者をサポートする職員の人件費や施設の運営費をまかなうため、国や自治体から補助金が支給されます。

 

企業と施設の強みを生かす

 「義務」として障害者雇用を課すことは、企業にとって大きな負担になることがあります。

 また、障害者施設は、障害者のサポートという面に強みはあっても、組織として利益を得るということを苦手とするケースもあります。例えば、各企業で障害を持つ人も取り組める仕事があったとしても、障害者を雇うほどの仕事量ではないというケースもあるでしょう。ただ、複数の会社が集まれば、まとまった仕事量になります。それを各施設に依頼すれば、施設側も障害者に給料を払うことができるだけの利益が出ます。各企業は、仕事の発注量に応じて、雇用率を充足したものとみなすわけです。この方法は、障害者施設と企業、それぞれの強みを上手に生かし、効果を最大化するメリットがあるといえます。

 さまざまに難しい問題はありますが、企業が障害者を直接雇用することができれば、それは大きな社会貢献です。

 知的障害者といわれる人たちは、いわゆる「健常者」が嫌がるようなことを淡々と行える集中力があります。

 難聴者が車椅子の人を助けたり、お互いのハンディをサポートし合ったりする体制をつくっています。

 「法定雇用率達成」という目的ではなく、強みを生かして障害者を「戦力化」し、仕事で利益を上げることができると思う。

 すべての職種や会社で同じことはできないかもしれませんが、人々の強みに仕事を合わせていくという発想は、他の社員を生かす上でも重要なマネジメントの観点です。

 ハンディを持ちながらも懸命に仕事に打ち込む人々の姿は、他の社員のモチベーションを高めることにもつながります。

 人は誰もが強みと弱みを持っています。障害を持つ人たちは、強みと弱みが他の人より目立つのかもしれませんが、お互いの強みをリスペクトし合い、弱みをサポートしようという発想を持つことが、障害者雇用の成功のカギなのかもしれません。

 そうした考え方の人が増えれば、組織のみならず、社会や国家も発展していくでしょう。

 

共同作業所

 一般の企業で働けない重度の障害者の多くは、「共同作業所」と呼ばれる福祉施設に通っています。多くの施設では、ラベル貼りや小物の作成などの内職や、食品販売を行っています。

 しかし、雇用契約のない共同作業所に通う障害者の月収の平均はわずか1万円程度で、自立はかなり難しい額です。

 障害者がどんなに働いても、市場で売れる商品やサービスを提供できなければ、障害者の収入の増加にはつながりません。

 ボランティアで運営されている福祉施設も多い一方、政府から多額の補助金を得ている施設もあります。ただ、本来は働いて自立するために利用する施設のはずが、障害者の居場所の役割を果たすだけになっている例も少なくありません。a1380_000488

 障害者も、何か人の役に立ちたいと願っています。初めて会社に就職した障害者は、「今までは人に感謝するばかりの人生だった。人から感謝される仕事ができてうれしい」と話す人が多い。この点、障害者も健常者も同じなのです。

 日本に障害者は約800万人いますが、働いているのはそのうち約50万人で、6%ほどに過ぎません。もちろん、どうしても動けない人もいますが、少なくとも400万人ほどは働く意欲を持っていると思われます。

 ただ、健常者と同じように働くのは難しいでしょう。でも、仕事の工程を分解して、得意な仕事を訓練すれば、次第に速さも正確さも健常者がかなわなくなります。すると、「いないと困る」と言われるようになるのです。

 障害者を雇用する会社の経営者には、苦労が多いのも事実です。しかし、彼らは自分が健常者として生まれてきたから、お返しをしないといけないと思っている。障害者に、働く喜びを提供しようと命がけなのです。

 一般の企業への就職が難しいとされる重度の障害者は、社会福祉法人などの施設で仕事をしています。ただ、施設では月収が1万円程度であることも少なくない。これでは自立できません。その中には、少し工夫があれば民間で働ける人もいるのですが。

 しかも、施設が政府から補助金をもらうことばかりを考えていたら、財政赤字が増えて、子や孫の時代に大変なことになります。

 本当は民間でできるのです。行政や政治家がやるべきなのは、障害者雇用などで実績を上げている会社を評価して認めてあげることだと思います。

 例えば経営が黒字で、社員の雇用を守るために努力している企業が受けられる融資や助成制度をつくればよい。努力していなくても一律に補助金を出すのはよくありません。

 良い会社が増えることで、「小さな政府」も実現できるのではないでしょうか。

障害者の自立には程遠い賃金

   知的障害者全体  月額 10万8千円

  福祉施設などで働く障害者(雇用契約を結ぶ)  月額 6万9千円

  福祉施設などで働く障害者(雇用契約を結ばない) 月額 1万4千円

 (2013年度の賃金の平均値 厚生労働省「障害者雇用実態調査」)

 

 『生活保護をもらって食べるご飯と、自分で働いて食べるご飯は味が違う。働けるのは本当にありがたい』

 生かせる能力が自分にあって、生活できる道があるならば、保護を受けるよりも働きたい。障害者がそう感じていることが分かると、支援のあり方も変わってくるでしょう。

 働く障害者や、その支援者は、働くことによって何を感じているのでしょうか。そこからは、私たちが忘れがちである「働くことの喜び」が伝わってきます。

 仕事をしていると、「苦しい」「やめたい」と不満に思う時もあるかもしれません。かといって、仕事がなければ寂しく思うのではないでしょうか。

「人に喜んでもらいたい。何かをこの世に生み出したい」というのは、「神仏の子」としての人間の根源的な願いです。障害を持つ人もその願いは同じです。

 彼らを幸福にするためには何が必要か。それは、仕事をつくることです。健常者とまったく同じことを求めるのでなく、それぞれの強みに注目するのです。

 経営学者のドラッカーは、マネジメントとは「強みを成果につなげること」と言います。障害者の強みを生かしきるには不断の努力が必要であり、それは尊い社会貢献と言えます。

 重い障害で仕事ができない人もいるでしょう。しかし、彼らも周りの人に何かを気づかせるという使命を持っています。

 重度の障害を持って生きる姿は、周囲の人に人生観を変えるほどの気づきを与えます。

 それは、私たちが毎日自由に動けて、仕事ができること自体が奇跡であり、感謝すべきことなのだということ。さらに、人間の本質が、肉体や脳の働きではなく、その奥に宿っている魂にあるという真実です。

 障害者への支援を考えるには、誰もが何かを創造し、与えるためにこの世に生まれてきている、という視点が不可欠です。

 互いを尊敬し合い、「与える喜び」を一人でも多くの人が味わえる社会を目指したいものです。

参考

 自らの職場を「与える愛の実践の場」として考えること。多くの人が自分の生まれた本当の意味を深く理解すれば、社会にこれまで考えもしなかったような幸福感が溢れると信じている。

これまでの障害者支援の考え方

 障害者は健常者よりも劣っている
   ↓
 あまり成長は見込めないので、見守ることが中心
   ↓
 本人や家族、周囲の人が希望を持ちにくい

 

目指すべき障害者支援の考え方

 障害者も魂は完全である
   ↓
 その人なりの魂修行の課題を持って生まれている
   ↓
 本人や家族、周囲の人が希望を持って人生を送る

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