金融緩和

 金融緩和とは、世の中に出回るお金の量を増やすことです。具体的には、お札を発行している日本銀行が、民間の銀行が持っている国債などを購入し、その代金として現金を銀行に渡すことです。

 銀行は手持ちの現金が増えますので、その分、ほかの企業に貸したりできます。こうすれば、世の中に出回るお金の量が増えて景気が回復するというわけです。

 物価を上げたい場合、「金融緩和」が必要です。つまり、お札を刷って、世の中に出回るお金の量を増やすのです。逆に、物価を下げるには、世の中に出回っているお金を回収する「金融引き締め」をすればいいことになります。

 しかし、インフレ目標のキモは、単純にお金の量を増やしたり減らしたりして、目標とする物価を実現するだけではありません。少し難しいのですが「期待に働きかける」という部分が非常に重要になります。

「政府が○%のインフレ目標を導入すると宣言する」→「実際に具体的な金融緩和などを行う」→「人々が政府は本気だと信じる」→「いずれ政府の掲げた○%のインフレになると期待する」→「将来○%のインフレになることを見越して行動し始める」→「実際に行った金融緩和以上の政策効果が出る」

 こういうプロセスをたどるのがインフレ目標です。

インフレとの関係

 金融緩和には「インフレをもたらす」という作用もあります。当たり前のことですが、お金はモノやサービスと交換できます。ですからお金が増えたら嬉しいはずです。しかし、交換すべきモノやサービスが増えていないのに、お金だけ増えたらどうなるでしょうか? 交換するモノはこれまでと同じ量なのに、お金だけ増える――これがいわゆる「値段が上がる」という状態です。この状態を「インフレ」と言います。つまり、金融緩和をすればインフレになります。

 実は、アベノミクスの狙いは、「世の中に出回るお金の量を増やして景気をよくする」ほかに、この「インフレをもたらす」ことも含まれます。

 なぜ、インフレをもたらそうとしているかと言えば、現在は深刻なデフレに陥っているからです。

 デフレとは、物価が下がり続けることです。モノの値段が安くなることは、買い物をするには一見いいことのように見えます。しかし、値段が下がれば、それを売っている会社の売上は落ちます。売上が落ちれば利益も落ちます。会社は赤字になっては大変ですから、今度は給料を安くすることになります。給料が安くなってしまえば、モノの値段が下がっても無意味になります。そこでますますモノを買わなくなる、という悪循環が起きます。

 日本は約20年も前から、ずっとこの調子で、物価と所得が下がり続けてきたのです。

 安倍首相のブレーンとしても知られる米イェール大の浜田宏一教授は、近著『アメリカは日本経済の復活を知っている』でこう指摘します。

「二〇年もの間デフレに苦しむ日本の不況は、ほぼすべてが日銀の金融政策に由来するものである」

 つまり、日銀が金融を緩和しさえすれば、この悪循環は止まるというわけです。

 そこで安倍政権では、金融緩和をして物価2%上昇を目指すとしています。このインフレ目標政策のミソは「期待に働きかける」ところにあります。つまり、政府や日銀が金融緩和をやると宣言し、人々の多くが信じれば、実際に緩和をする前から効果が現れるのです。

 3%程度のインフレ目標を設定するなどして、日銀に大胆な金融緩和の継続を求めることにより、デフレを脱却。適度なインフレを実現します。

 金融緩和は、市場に大量のおカネを流すため、おカネの価値が下がり、相対的にモノの値段が上がります。すなわち、デフレの反対であるインフレが起こるのです。もちろん、激しいインフレは経済全体を破壊しますが、緩やかなインフレは、多くの人がおカネを使う方向で動いている状態なので、危険ではありません。このインフレ率が、一般的にデフレ脱却の指標となります。

 日本は1991年にバブル崩壊し、その後、「失われた20年」を迎えたと言われていますが、その原因をつくった張本人の一人として、日銀が挙げられます。当時、日銀は金利を引き上げ(公定歩合の引き上げ)を行い、おカネを借りづらくする「金融引き締め」を行ったからです。文字通り、「金融緩和」の逆をやったのです。

 日本の失敗から学んだアメリカは、2008年にリーマンショックを迎えた時、大胆な金融緩和を行い、経済を立て直すことができました。日本も遅ればせながら、2012年から「異次元緩和」という名の金融緩和で、ある程度の成果を上げています。

 この日米両国は、インフレ率の目標を「2%」としました。アメリカは2008年に金融緩和を始め、2009年から現在にいたるまで、この目標をほぼ達成しています。また、日本も2000年から2012年の間の平均インフレ率が -0.3%だったことに比べ、2013年度のインフレ率は1.6%でした。このように、日米両国とも、デフレから脱却しつつあります。

 しかし、それは不況脱却の第一歩に過ぎません。金融機関のバランスシートが健全化し、企業に貸すためのおカネを持てても、おカネを借りる企業が現れなければ意味がありません。おカネを借りた企業が、新しい事業やアイデアを製品やサービスとして形にし、それを売ることによって消費者の幸福をつくり出す。このような循環をつくらなければいけないのです。

 デフレ不況は、十分な通貨供給を実施すれば、デフレに陥ることはありません。正しい金融政策、先ずは大規模な金融緩和を行えば、確実に景気は回復します。物価が年間3%程度上昇するまで、大規模な金融緩和を継続すれば、デフレ不況は解消します。具体的には、50兆円程度の資金を市中に流せば、現状のデフレ不況は、解消します。物価上場率3%を超えるまで日銀が国債を買い続ければよいのです。今回の長期デフレ不況の最大の要因は、『日銀がお金を刷らない。金融引き締めを一貫して続けている』事にあります。また、政府がそれを是認していることも、要因としてあります。さらに、デフレが終わり、実質金利が下がれば、円は長期的に売られ、円安基調に流れます。

 アメリカ発のサブプライムによる大不況が日本の不況の原因ではありません。先進国で最もサブプライム問題の被害が少ない日本(損害は2兆円程度)が、ここまで経済が縮小、大不況となったのは、政府の間違った金融引き締め政策によるものと断言出来ます。よって、大規模金融緩和を行い、金融機関に大きな資金余力を持たせれば、貸し渋り、貸しはがしも防ぐことができ、企業、特に資金余力の少ない中小企業を救うことが出来ます。これは絶対にしなければなりません。

 実は今、日本やアメリカなどの先進国が直面しているのは、この「投資に値する新しい事業やアイデアがない」という課題です。おカネはあっても、付加価値を生む事業、新しい富を生む事業がなかなか見つけられないのです。つまり、今後も世界の経済を発展させるには、これまでに誰も見たことのない新しい「何か」をドンドンつくらなくてはいけません。

 これを実現させるために、日本に必要なものが「規制緩和」です。日本は「異次元緩和」を行いましたが、新しい産業領域を切り開くために必要な「規制緩和」によって企業や個人が自由に活動できる環境の整備と、教育改革で創造性のある人材を育成する必要があるのです。