消えた反物質の謎

 イギリスの物理学者 ポール・ディラックが、1930年頃、粒子には対となる反粒子というものが存在すると言われた。

 原子・分子の世界を支配する基本法則として、量子力学が確立されるやいなや、ディラックは、これを自然をつかさどるもう一つの基本法則であるアインシュタインの相対性理論と合体させる作業にとりかかりました。こうしてできあがったのが、電子の相対論的運動方程式である「ディラック方程式」です。この方程式を解いてみると、-eの負の電荷を持つ電子を表す解だけでなく、電子と同じスピンや質量を持ちながら、+eの正の電荷を持つ粒子と解釈できるもう1つの解が出てきたのです。

 今では、素粒子を記述する相対論的量子場理論の必然的な帰結として、全ての素粒子が、それと同じ質量を持ち、電荷のような符号を持つ(加算的)量子数が正負反対であるような反粒子の相棒を持つことが分かっています(符号を持つ量子数を持たない粒子の場合は、自分自身が自分自身の反粒子だとみなせます)。相対論的量子場理論が描く素粒子の世界は、粒子と反粒子が次々と生まれたり消えたりしながら移り変わっていくとてもダイナミックな世界です。

 反粒子は、粒子と質量が等しく、電荷の符号が反対という性質を持つ。われわれの身の回りの物質は、、電子と、原子核を構成する陽子および中性子からできていると考えると、ディラックの主張は、電子の反粒子である陽電子、陽子に対する反陽子、中性子に対する反中性子がそれぞれ存在するというのである(電子の場合だけ反電子とは言わない)。陽電子と反陽子と反中性子からは反電子が作られ、反原子が集まれば、反物質ができる。反原子だけからできた反人間も、少なくとも原理的には存在しうることになるのである。

 質量もエネルギーの一形態であることは、相対性理論の帰結としてよく知られたことである。これはエネルギーが非常に大きな反応では、そのエネルギーを質量に転化して、新しい粒子を生成することが可能であることを意味する。粒子を生成するのに必要なエネルギーは、有名なアインシュタインの関係式、E=mc² で決まるが、軽い素粒子の代表である電子の場合でも、その質量のエネルギーは、常温で飛び交う粒子の運動エネルギーの数千万倍に達する。このため、日常的な現象の中では粒子の生成・消滅が問題となることはまれで、原子などは不変、不滅の存在と見えるのである。

 東京大学などの研究チームが、欧州原子核研究機構(CERN)で、反物質でできた最小の反原子である「反水素」を作成し、ビーム状にすることに成功したと発表した。

 今回ビーム状にできた反水素は、反陽子ひとつと陽電子ひとつでできている。

 これまでも反水素を作ることはできていたが、できた途端に四方に飛び散って壁にぶつかって壊れてしまったり、飛び散らないように強い磁場をかけると、その性質が調べられなくなってしまっていた。

 今回、研究チームは、陽電子を雲状に集めた中に反陽子を送り込み、そこでできた反水素をビーム状にして2.7メートル離れた検出器に送ることに成功した。この方法で反水素は80個検出できた。

 今後、この反水素ビームを調べることで、反物質の性質を研究できると期待されている。

 陽電子は電子と出会うと一緒になって消滅する。消滅してそのエネルギーは光子となって運び去られる。質量のエネルギーが転化するので、発生する光子のエネルギーは非常に大きい。脳の研究などで使われているPET(陽電子放射断層撮影法)はこの反応を利用したものである。

 われわれの身の回りの物体がすべて粒子だけからできているという事実は、宇宙が高温で無数の粒子と反粒子が存在していたとき、すでに粒子の方がほんのわずかばかり多かったことを意味する。問題は、このほんのわずかの粒子と反粒子の数の差がどのようにして用意されたのかということになる。

 宇宙の誕生直後には粒子も反粒子も同数だけあったが、粒子と反粒子の性質のわずかな違いのため、宇宙進化のいずれかの過程で、粒子の方が少しだけ多くなったとするものである。この粒子と反粒子の性質の違いが、CP対称性の破れと呼ばれるものである。

 

私たちはなぜ存在しているのか?

 宇宙の成り立ちに関わる最大の謎がある。現在の宇宙はすべて物質で出来ていて、反物質がどこにも見当たらないのは何故かという問題である。物質と同じ数だけ生まれたはずの反物質が存在しない理由が説明できないと言うのです。 今、この反物質の行方を探る研究が進められている。それは「宇宙の始まりに何が起きたのか」を解き明かす試みであり、さらに「私たちはなぜ存在しているのか」という私たち自身のルーツを探る旅でもある。

 

反物質はどこへ行った?

 反物質は物質を鏡に映したような存在である。宇宙が誕生した時、大量の物質と反物質が同じ数だけ生まれたと考えられている。そして、物質と反物質は出会うと対消滅して消えてしまうので、大量に生まれた物質と反物質はやがて消滅して、いずれは空っぽの宇宙になるはずだった。しかし、実際は物質だけが残り、現在の宇宙が形作られた。研究者たちはその理由として、初期の宇宙で物質と反物質のバランスが少しだけ崩れるという現象が起きたからだと考えている。そして、そのバランスの崩れは、反物質のたった10億分の1が物質に変わるということによって起きたと言う。  では、何故そんなことが起きたのか? その謎を解く鍵はニュートリノと呼ばれる素粒子にあった。 

物質と反物質は入れ替わることができるのか?

 物質と反物質のバランスが崩れるためには、物質と反物質がお互いに入れ替わることができなければならない。ニュートリノには、そのような現象を起こす可能性があると言う。果たしてニュートリノとその反粒子である反ニュートリノは本当に入れ替わることができるのか?

 もし、物質と反物質が入れ替わることができるとしても、それだけでは、物質だけが残った理由が説明できない。物質が反物質に変化して反物質が残ることもあり得るからである。変化が一方にしか起きないためには、物質と反物質の間に何か本質的な違いがあるはずです。

 約138億年前の宇宙誕生時には、身の回りにある普通の物質と、性質の一部が反対の反物質が同じ数だけ生まれた。その後、反物質は消滅し、物質だけが生き残って星や銀河が形成され、現在の宇宙ができた。

 反物質をつくる反粒子は、物質をつくる粒子と振る舞いにわずかな差があるため消滅したとする理論を小林誠、益川敏英両氏が提唱し、ノーベル賞に輝いたが、この理論で説明できる物質はごく一部である。このため、宇宙に大量に存在するニュートリノでも、同じ理論に基づく現象が起きているかを解明することが大きな課題になっている。

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