宇宙論

ガモフのビッグバン宇宙論

 「1、2、3・・・無限大」などのすぐれた啓蒙書で有名なガモフは、核反応の理論を精力的に研究していた。アルファ崩壊を量子力学で説明するトンネル効果 は有名である。1946年から1948年にかけて、彼は宇宙初期における元素合成を研究した。高温高密度の宇宙初期に、中性子から出発して核融合反応によって全ての元素を合成しようというのである。このような高温・高密度から出発する宇宙論を、「定常宇宙論」を唱えるホイルは ビッグバン と名づけた。ガモフの先見性は二つある。一つは、宇宙論に元素合成のような宇宙を構成する物質の起源の問題を持ち込んだことである。それに対応して、ガモフ以前の宇宙論は、ハッブル膨張と時間・空間の折り合いをどうつけるかといった枠組の話が中心であった。ガモフのビッグバン理論によって、宇宙論は天井から降りてきて地に足をつけた学問となった。観測と理論を対応させながら研究を進められるようになり、研究者が増加した。もう一つの先見性は、当時の最先端の物理の知識を武器にして、さかのぼれるところまで宇宙の初めに近付いたことである。元素合成が起こるほどの高温、高密度の宇宙の初期の姿が描かれた。彼の理論はその後、星による元素合成理論の発展により修正を受けた。しかし、宇宙に存在するヘリウムの量は 星 だけではつくれず、宇宙初期の反応が必要なることが現在では分かっている。 彼は宇宙初期の高温状態が観測できるはずで、現在は絶対温度で5Kの黒体輻射の発見後に脚光を浴びるのである。

 ガモフの精神を引き継ぎ、今日の最先端の物理の知識をつぎこんで初期宇宙 を研究している人々がいる。これらの現代のガモフたちの研究方法は独特である。まず、有能なシナリオライターでなければならない。登場するのは現代の素粒子理論に登場するさまざまな理論とそれが予想する一群の奇妙な素粒子である。アキシオン、フォティーノ、グラビティーノ、マキシモンなどの名前の素粒子がたくさんでてくる。これらの素粒子が存在するかどうか確かめることは、加速器で作り出せるエネルギーよりはるかに高いエネルギーが必要になるから大変難しい。しかし、そんなに高いエネルギーの反応も、ビッグバン宇宙の初期にさかのぼれば、いくらでも高い温度があるからである。そこで、シナリオをつくる素粒子が宇宙初期にあったとする。その反応は後に形成される銀河の分布にも影響を与える。であるから、銀河の分布を調べれば、未知の素粒子の性質に制限をつけられるというわけである。

 きのうまで格子ゲージ理論のような難解なクォーク反応の計算をやっていた人が、急に赤外線天文衛星(IRAS)の観測結果を記録した磁気テープを計算機にかけて、銀河の分布を調べ始める。こういったことが、今世界のあちこちで起こっている。素粒子的宇宙像とよばれる新しい研究分野である。ここでは、最新の物理の理論を宇宙初期に持ち込むというガモフの開拓者精神が現在も引き継がれている。

 

定常宇宙論

 現在は、ビッグバン理論を多くの人が信じているが、これに対抗する理論が「定常宇宙論」である。この理論では、宇宙の始まりというものがないから、宇宙初期にまつわる難問を避けることができる。宇宙のあらゆる場所で物質がじわじわと涌き出し、ハッブル膨張で広がる空間をうめるというものである。宇宙は永久不変であり、銀河が遠ざかっても、やがて近くに新しい銀河が涌いてくる。もっとも、必要な涌き出し量はわずかで、観測にはかからない。それでは、何が観測されたら定常宇宙論が正しいといえるのでしょうか? 30年以上も前、提唱者のひとりであるボンディ(H.Bondi)は、次のように述べている。「遠方の銀河は昔の姿を示している。定常宇宙論では今も昔も同じだから、遠方の銀河も近くの銀河も違わない。一方、ビッグバン理論のような進化宇宙論では、宇宙の歴史のある時期になってから銀河は生まれる。できたての頃の銀河は現在の銀河とは異なる。だから、遠方の銀河と近くの銀河は違って見えるだろう」  

 それでは、観測結果はどうであったのでしょうか? きわめて遠方を見ると、銀河になるはるか以前の光とプラズマだけの世界が観測されたのである。これがペンジャスたちの2.7K宇宙背景黒体輻射である. これを境にして、ビッグバン理論は多くの支持を得るようになり、「定常宇宙論」は衰退していった。

 

「インフレーション理論」

 宇宙のあらゆる方向から、ほとんど同じように3K(2.735K=-270.425℃)の温度の物体が出す電波が観測される(1965年アメリカ・ベル研究所のA.ペンジアス、R.ウィルソンが初めて観測)。これを宇宙背景マイクロ波放射(宇宙背景放射)という。この電波は、すごく小さかった初めの火の玉宇宙を満たしていた超高温の光(物体の温度が高いほど波長に短い光を出す)が、宇宙が現在まで膨張して冷えた結果波長が間延びして電波になり、その波長が3Kに相当するといわれている。昔の火の玉宇宙の名残りなのである。つまり、現在の冷えた宇宙は約3Kの温度で、その温度の物体が出す電磁波といってもよい。

 1989年にアメリカが打ち上げた宇宙背景放射観測衛星COBEは、この電波が方向によってごくわずかに ゆらぎ があることを発見した。この ゆらぎ は、2003年に人工衛星WMAPによりさらに詳しく調べられた。ここでいう ゆらぎ は宇宙の密度の ゆらぎ を意味する。そして、この ゆらぎ が銀河などに成長するもととなる。しかし、なぜ ゆらぎ ができるのかについては、まだよくわかっていない。もっとも ゆらぎ といっても、角度で10度離れて10万分の1程度のものである。逆に、なぜ宇宙はこのように均一で一様なのかの方がもっと謎かもしれない。

 この宇宙の一様性については、宇宙の初期に急激な加速膨張があったということにすれば、ある程度解決できることがわかった。この急激な加速膨張を唱える説を「インフレーション理論」という。

 ところで、インフレーションですが、これは均質な膨張を遂げるとは限りません。場所によって膨張に歪みが生ずれば、そこで宇宙が分岐する現象が起きます。これも無限に宇宙が生まれることを予言しうるわけです。このインフレーションでの宇宙の創生は、相対性理論に基づいて予言される出来事です。もともとあった宇宙を母親の宇宙とすれば、宇宙の一部分が急激に膨張して、子どもの宇宙を創るということがわかります。母親の宇宙から見れば、それは何もないブラックホールにしか見えません。しかし、その中に入っていくとものすごく広い別の世界が広がっているわけです。そして子どもの宇宙でも同じようなことが起こり、孫宇宙が創られます。このようにして、インフレーションもまた無数の宇宙を創る可能性を持っているわけです。

 

膨張する宇宙

 1929年、アメリカのE.ハッブル(1889-1953)は、遠い銀河ほど速い速さでわれわれから遠ざかっていることを発見した。さらに、遠ざかる速さ(後退速度)は、われわれからの距離に比例することも見つけた。これを「ハッブルの法則」という。

 ただ、遠い銀河のすべてがわれわれから遠ざかっていても、それは別にわれわれが「宇宙の中心」にいるということではない。

 われわれの宇宙は、ビッグバン以後まだ膨張を続けていると思われる。だから、逆にこのハッブルが見つけた宇宙の膨張から、宇宙はビッグバンで始まり、それ以後今日まで膨張を続けていると考えられている。

 われわれからどの距離の彼方も、時間を逆転させると150億年前にはわれわれのところ、この1点に集まってしまうことがわかる。であるから、これらの計算に出てくるハッブルの定数の逆数が、宇宙の年齢を示しているということになる。

 このように、ハッブルの定数は宇宙の年齢を決める重要な数値である。だが、その数値の確定は現在でも難しい。遠い天体ほど、その距離、つまり後退速度の測定が難しい。

 最近では、ハッブルの定数は100万光年につき20km/sより少し大きいらしいことがわかってきた。そして、この宇宙の年齢は137億年±2億年という値が出ている。

 ハッブルの定数を100万光年につき20km/sとすると、150億光年の彼方は光速でわれわれから遠ざかっている。この宇宙はなぜか理由はわからないが、光速(正確には真空中の光速)より速いものはないという宇宙である。光ばかりか、光もその一部である電磁波、あるいは万有引力など、光速で伝わるがそれ以上ではない。

 つまり、それ以上遠いところからは、光、電波、万有引力などいっさいの情報は永久にわれわれのところには届かない。われわれにはまったく影響を及ぼさない(関係がない)。そこで、この宇宙が光速で後退する距離を、「宇宙の果て」とか「宇宙の地平線」のように言っている。

宇宙の年齢が上のように138億年ということになれば、宇宙の果てまでの距離も138億光年ということになる。

 

宇宙の膨張は加速している?

 宇宙にはその中の物質の質量による引力のため、膨張しているといってもその膨張はだんだん減速しているだろうと思われていた。ところがどうもそうではないらしい。最近の観測からは、宇宙の膨張は加速していることが、ほぼに言えるようになった。この宇宙の膨張の加速には、ダークエネルギーが関係しているという。

 宇宙の膨張はいつまで続くのでしょうか。いつかは逆転して収縮に向かうのでしょうか。この疑問に対する答えは、宇宙の総質量によって決まる。銀河の膨張速度は、お互いの重力の作用で少しずつ減少している。もし宇宙に十分な質量があれば、その及ぼす重力によって宇宙の膨張速度は次第に遅くなり、いつかは止まって、ついには収縮に向かうでしょう。もしそうでないなら、重力の力が宇宙の膨張に打ち勝つことはなく、減速しつつも永遠に膨張が続いていくであろう。宇宙が開いているか閉じているかは、宇宙の総質量を合計し、それが膨張を止めるのに十分であるかどうかを計算すればよい。原理的には確かにそうであるが、現在の観測に基づく知識からは、残念ながら確定的な答えが出ていない。宇宙には光や電磁波では直接観測できない物質(ダークマター)がたくさん存在していて、見えない物質の質量が、膨張を止めるのに十分なだけ存在しているのかどうかが分かっていない。見えない質量・ダークマターについては、様々な候補が考えれているが、現在のところ確かなことは分かっていない。  もし宇宙が閉じているとするならば、いずれは膨張が逆転して収縮が始まると考えられる。どこまでも収縮が続いて、やがては星や惑星が熱い宇宙の海に解けてしまう。地球や太陽はそうなるずっと前に死んでいるだろうから、われわれがそれを見ることは到底できない。やがて原子核は陽子と中性子に分離し、陽子と中性子はクォークに分離する。そしてついには、宇宙は無限に小さくつぶれてしまう。このような収縮の最後に、もし新たなビッグバンが再び起こるとするならば、宇宙は約1000億年ごとに生れ変わるものと考えられる。しかしながら、現在の物理学の基礎となる法則によれば、収縮と膨張の各サイクルごとに宇宙の平均の無秩序さ(エントロピー)がどんどん増大していくので、やがては系が止まると考えられる。宇宙の膨張と収縮の過程は、いずれは止まってしまう。  逆に、宇宙が開いているとするならば、膨張の逆転は永遠に起こらず、無限に宇宙の膨張が続いていく。宇宙の全エネルギーは一定であり、宇宙のエントロピー(系の無秩序さの程度)は最大値に向かって増大している。1014年後にはすべての恒星が燃料を使い果たして燃え尽き、やがては銀河が消滅し、そして1032年以内にすべての陽子が崩壊し、ブラックホールがエネルギーを放射しはじめて10100年後には蒸発する。粒子がブラックホールのように限定された領域に閉じ込められていると、その速度はいくらかの不確定性をもち、短い距離でなら光速を超えることができるので、粒子がブラックホールから脱出できるのである。ブラックホールは完全なブラックではなくて、量子力学の不確定性原理によって、一定の割合で粒子や放射を放出している。それらが漏れ出すことによって、ブラックホールは次第に小さくなっていき、ついには消滅する。宇宙のすべてのブラックホールが消滅した後の宇宙は、冷たくて希薄な放射の海となる。そのような宇宙では何の変化も起きる余地はないから、宇宙の歴史はその時点で終わったと考えざるを得ない。  平成15年2月にNASA(米航空宇宙局)が発表した、宇宙マイクロ波衛星の観測による温度分布によると、標準モデルによる現在の宇宙の年齢は137億歳で、宇宙の大局的構造は(開いているのでも閉じているのでもなく)平坦だということである。また、膨張方向に働く真空のエネルギー(宇宙定数)というものがあって、宇宙は現在加速膨張しており、収縮してビッグクランチに向かうことはない。真空のエネルギー(ダークエネルギー)あるいは宇宙項Λによって、(現在の)宇宙は加速度的に膨張しており、その動きは止まらない。COBEやWMAPによる、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の温度揺らぎの観測結果と、標準的な理論モデルによる最新の宇宙論の潮流では、どうもそういうことになっているようである。

 

「エピクロティック宇宙論」

 インフレーション宇宙論の対抗馬として、2001年に、ネイル・チュロックやポール・スタインハートによって提案されたのがである。これは超弦理論やM理論に着想を得て、発展させたものである。

 エピクロティック宇宙論では、われわれの宇宙は、高次元空間に浮かぶ三次元の膜であり、そういう膜が複数ある。異なる膜の間には、膜の法線の方向に引力が働く。この引力によりいつかは2枚の膜は衝突しその衝撃で膜は高密度高温状態となって膨張を始める。これがビッグバンだというのである。なお、量子効果により膜は平坦ではない。これがゆらぎをもたらし、結果の銀河団などの宇宙の構造を生成するのだという。エピクロティック宇宙論によると、膜同士の衝突は何度でも起こる。よって、宇宙は繰り返し生まれては消えることになるので、サイクリック宇宙論とも呼ばれている。

 

宇宙の半径はなぜ有限か

 光速度が無限大でないために、 もし宇宙に始まりがあったとすると、宇宙の大きさは有限である。これは宇宙が膨張していなくても言えることである。ただし、その場合には、ある瞬間に同時に無限に広い宇宙をつくっておきながら、宇宙の大きさが有限というのは矛盾のように思えるが、そうではない。その宇宙のある観測者にとっては、宇宙開闢からその時までに経過した時間に光がやってこられる範囲がすべてである。その外で何が起こっても、観測者には影響しない。これが宇宙のハッブル半径の定義である。時間がたてば、より遠方からの光が到達できるので、ハッブル半径は広がっていく。また、違う場所にいる観測者は、互いに異なる領域を自分の宇宙とみなす。光速度が無限大でなく有限で、宇宙年齢も有限なために、宇宙の半径が有限になる。

 

宇宙の年齢はなぜ有限か

 それでは、この宇宙の年齢はなぜ有限なのでしょうか。それはハッブル膨張とよばれる宇宙の膨張が観測されているからである。1922年から31年にかけて、ハッブルは、ウィルソン山の100インチ鏡を使って銀河の分光観測を行った。銀河を構成している星は元素に特有な波長の線スペクトルを示す。銀河が遠ざかりながら光を出すと、その波長は長い方へ伸びる。その伸び具合を観測すると、銀河の後退速度がわかる。一方、銀河の中にはケフェリウス型変光星がある。変光の周期とその星の本来の明るさの関係がこの種の星についてはよくわかっている。したがって、単に変光周期を観測すればその星、すなわち、それを含む銀河までの距離がわかる。変光星が使えないほど遠方の銀河については、球状星団などを使って距離を決めた。こうして多くの銀河を調べた結果、遠方の銀河ほど大きな速さで遠ざかっていることがわかった。

 銀河の距離と後退速度は比例している。同じ時間の間に、2倍の速さの銀河は2倍遠くに到達でき、3倍なら3倍遠くへ到達することができる。であるから、すべての銀河は、同時に1点から広がり始めたはずである。広がり始めから現在までの時間は、地球からある銀河までの距離を後退速度で割り算すれば得られる。それは150億年である。 これが宇宙の年齢になる。 実際には、銀河の距離の決定には誤差がつきまとうため、宇宙年齢としては100億年から200億年の間と考えるべきなのである。

 

時間に端があるか

 ハッブル膨張を過去に遡って150億年という宇宙年齢を得たが、これは深刻な問題を引き起こす。 時間の端を宇宙の始めに持ち込むことになり、それ以上の過去は存在しなくなってしまう。日常生活からは時間の行き止まりは考えにくいが、アインシュタインの一般相対論はそれを可能にする枠組みを用意している。しかし、時間の行き止まりを本当に避けられないものと認識するには、1916年の一般相対論の誕生から半世紀近くの試行錯誤の期間が必要であった。  

 1922年には、ソ連のフリードマンが、一般相対論をもとに膨張宇宙のモデルをつくった。彼は現在の膨張以前には収縮期があって宇宙は振動していると想像した。後にビッグバン宇宙論を展開するジョージ・ガモフは、彼から相対論を教わっている。ガモフの啓蒙書にはフリードマンの振動宇宙モデルが描かれ、振動宇宙は有名になった。このモデルでは、密度が無限大になることはないと考える。しかし、収縮する宇宙が膨張に転ずることの理論的証明は、多くの努力にもかかわらず誰にもできなかった。  当時の大御所のアインシュタインは、この問題を深刻には受けとらなかった。アインシュタイン自身は、ボルツマンに従って、時間には本来方向性がないと主張したり、相対論にあらわれる新しい時間・空間を使って宇宙モデルを組み立てたりするほど、柔軟性を持っていたにもかかわらず、時間の端の問題には手をつけていない。一般相対性理論を建設し、重力を時間・空間の曲がりで表現した アインシュタインにとっても、密度や温度が無限大になる宇宙の始めのような極端なところにまで理論が適用できるかどうかには不安があったのでしょう。  

 密度・温度が無限大の宇宙初期では、時空の曲がり方がきつすぎて とんがってしまう。これを数学では「特異点」という。宇宙の開始、時間の端の問題が数学的な特異点の問題として ペンローズやホーキングにより厳密に研究されたのは、後の1966年である。すでにビッグバン宇宙論は宇宙背景輻射の観測により勝利を得ていた。ともあれ、彼らの難解な特異点定理によれば、一般相対論が正しい限り、宇宙の始めで時間は行き止まってよいのだそうである。

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