ダークマターの正体 原始ブラックホールではない可能性

 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)は、2019年4月2日、ハワイのすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(HSC)」で得た、地球から約260万光年の距離にあるアンドロメダ銀河のデータを解析した結果、アンドロメダ銀河と天の川銀河の間に存在するダークマターが、原始ブラックホールではない可能性が高いことが観測的に明らかになったと発表した。

 同成果は、Kavli IPMUの高田昌広 主任研究者、大学院生の新倉広子さん、大阪大学大学院理学研究科の住貴宏 教授、東北大学大学院理学研究科の千葉柾司 教授、プリンストン大学、インド天文学天体物理学大学連携センターの研究者からなる国際共同研究チームによるものである。

参考

 宇宙には通常の物質の約5倍の総量のダークマターがあるとされているが、ダークマターの正体はよくわかっておらず、未発見の素粒子であるという説や、宇宙が高温かつ高密度だった宇宙初期に形成されたかもしれない、ブラックホール(原始ブラックホール)であるという説などが候補として挙げられている。

 原始ブラックホールの可能性については、スティーヴン・ホーキング博士が1970年代に提案したものだが、これまで月質量(太陽の質量の約2700万分の1)より軽い原始ブラックホールがダークマターである可能性は、従来の観測からは否定されていなかったという。

 そこで、研究チームは、原始ブラックホールがダークマターである可能性についての調査を実施。具体的には、天の川銀河とアンドロメダ銀河の間にあるはずの大量のダークマターがもし原始ブラックホールであれば、重力レンズ(重力マイクロレンズ)効果で10分から数時間程度の短い時間で星の明るさの変化が生じることが期待されることから、約9000万個の星の同時測定を実施したという。

 得られたアンドロメダ銀河の画像を詳細に解析した結果、約1万5000個の時間変動する星を発見。そのうちの1個が重力マイクロレンズ候補星であることを確認したという。しかし、ダークマターが原始ブラックホールである場合は1000個程度の重力レンズ効果を発見できるという予言に対して1個だけであるため、本当の原始ブラックホールであったとしても、原始ブラックホールの総量はダークマターの約0.1%程度の質量にしか寄与していないことになる計算結果となったとする。

 今回の観測で見つかった重力マイクロレンズ効果の候補天体の明るさの変化。観測開始から約4時間後に徐々に明るくなり、約4時間40分後に最大の明るさとなって以降、徐々に暗くなり、もとの明るさに戻った。

 また、この結果などから、ダークマターが原始ブラックホールである可能性を検証したところ、太陽質量の10億分の1(月質量の30分の1程度)の軽い原始ブラックホールがダークマターであるシナリオが棄却されたものの、太陽質量の1~10兆分の1程度の原始ブラックホールがダークマターである可能性は棄却できなかったとしている。このため、研究チームでは、今回の成果について天文学だけでなく、素粒子物理学にも影響を与えるものと説明しており、今後、アンドロメダ銀河をHSCでさらに観測することで、時間変動天体、原始ブラックホールの重力マイクロレンズ効果の探索研究を発展させていくことで、より詳細な成果につなげていきたいとしている。