「孫子・軍形篇(第四章)」に読むビジネスリーダー

守りを固めて確実に勝てる戦いをせよ

 守りを優先する局面では、自陣、自国を固めるだけだから、兵力にも余裕が生まれやすい。しかし、攻めに転じる場合には、当然戦線が伸びて、兵器や食糧の手当ても必要となり、攻撃によって自軍にもダメージがあるから、兵力、戦力に不足が生じる恐れがある。

 新規事業や新商品、新規エリア開拓など攻めの局面では経営資源が必要となるのと同じこと。人もいるし、金もいる。だから、攻めという積極策よりも、守りを固めて、兵力を蓄えて、来るべき攻めに備えるというのが常道と言える。負ける理由は社内にある。外部要因はきっかけにはなるけれども、負け(倒産、業績悪化)の原因にはならない。自社のことは自前で手が打てるが、外部の環境や敵のことは思うように動かせない。自力でなんともできないことを問題の原因だと考えてはならない。まずは負けない準備、負けない備えを優先させることである。

『昔の善く戦う者は、先ず勝つ可からざるを為して、以て敵の勝つ可きを待つ。勝つ可からざるは己に在り、勝つ可きは敵に在り。故に善く戦う者は、能く勝つ可からざるを為すも、敵をして勝つ可からしむること能わず。故に曰く、勝は知る可くして、為す可からずと。』第四章 軍形篇

 いかなる敵も自軍に勝てないようにするのは守備のあり方である。敵に勝てるようにするのは攻撃のあり方である。守備を優先すれば兵力に余裕が生まれる。攻撃を優先すれば、戦線が拡大することによって兵力が足りなくなる。そこで、古来守備を優先して巧みに戦う者は、地底深くに潜むようにして守りを固め、好機と見れば一気に天高く飛び上がるかのように攻めに転じた。そうした戦い方だからこそ、自軍を保全しながらも確実に勝利を収めることができるのである。

 同じ規模、経営資源のライバル企業同士が、あるジャンルでシェア争いを演じたとする。お互いに必死で努力を重ねていれば「一進一退」、どちらが勝ったとも負けたともいえない状態が続いていく可能性が高い。『孫子』は、これを「不敗」、つまり「負けていない」と言う。そして、これは自分の努力次第で維持できると指摘する。

 ライバルに勝るとも劣らない努力を重ねている限り、そうそう負かされることはない。

 ところで、「勝利」できるか否かは、相手次第だと孫子は説く。

 もし、ライバル企業が代替わりに失敗して内部がボロボロになったり、不祥事を起こしてマスコミに袋叩きにされたりすれば、これは相手からシェアを大きく奪ったり、ライバルを圧倒してしまったりする格好のチャンスになる。

 だからこそ、まず不敗の態勢をつくっておいて、ライバルや環境のチャンスを見て勝ちに行くという道筋を『孫子』は戦いの基本に据えた。

 「先に守りを固めて、敵の隙を狙うこと」と言っています。つまり、守りが頑丈で負けさえしなければ勝つチャンスはある。守りが肝心だということです。

 昔の戦いが上手な将軍は、まず誰もこちらに勝てないような態勢を固めてから、敵に隙ができて打ち勝てるようになるのを待った。

 「攻撃は最大の防御なり」という言葉があるが、「孫子の兵法」にそのような教えは無い。戦力互角、あるいは味方が劣っている場合、まず守りを固めよと孫子はいう。経営資源がほとんどない小さな企業でも、資源は皆無ではない。第一に事業主がいる。この事業主が中心となって不足している条件を整備し、徐々に戦える状態を作っていかねばならない。

 事業主に賛同する人が徐々に集まってきて仲間が増え、企業は規模を拡大するわけである。ただ、その後も永遠に成長し続けられるか否かは、これもまた人にかかってくる。

 多くの人に賞賛されるような勝ち方をするものを、多くの者は優れていると思っているが、そうではないと孫子は言っています。名将は勝つべくして勝つのだと。準備をし、情報を集め、勝てるとき、勝てる相手のみと戦うのが名将なのだと言っている。先に敵が攻撃しても負けない備えをしておいてから、敵がミスをしたり弱みを見せるのを待つ。

 ビジネス上でも、どんなに営業成績が良くても、ルールを守らなかったり、マナーが悪すぎるとなかなか信用されない。その為、普段から短所をなくしておくことで、好機が訪れた時、上司や同僚の信頼を勝ち取ることができます。

 孫子は、先に敵から攻められてもいいように、守りを固めた上で敵が弱みを露呈し、攻めれば勝てるような状況になるのを待てと説いた。負けないように守りを固めることは自軍次第で行えるが、勝つかどうかは敵次第の面があるという。

 企業経営で言えば、売上が上がるかどうか、儲かるかどうかという攻めの局面は、自社だけではどうにもならず、景気に左右されたり、顧客次第であったり、競合との兼ね合いで影響を受けることがあるが、潰れないようにする、赤字にならないように備えるという守りの面は、自社の努力次第で固めておくことができるのです。

 景気が悪いから倒産するという場合にも、景気が悪いからと言って、すべての企業が倒産するわけではない。景気が悪くてちょっと売上が下がったくらいで行き詰まるのは、景気が悪くなる前から借金過多であったり、利益率が低かったり、高コスト体質だったり、営業力が弱かったりしたからである。景気が悪くなったことで、そうした弱い部分を補う余力がなくなって倒産するわけである。景気が良かろうが悪かろうが、大丈夫なように、自社の経営を磐石にする努力を継続しておかなければならない。自社の企業体質、収益構造を把握しておくことが大切です。どこでどう利益が出ているのか、なぜそれが実現できているのか、もし、問題があれば、それはなぜなのか、なぜ改善できないのかを知ること。

 自社の体質を把握せず、守りも固めずにいる会社は、売上が伸びることによって傾くことすらある。

 孫子は、守りを固めて地下に潜伏して、攻めの好機が来るのを姿を消して待てと説いている。そして、ここがチャンスと見たら、一気に天高く舞い上がって攻めよと言う。

 

社内体制とは「守り」であり、営業活動とは「攻撃」である

 企業経営の成功例では、社内体制の重要性を説く人が多い。

 優秀な経営者は、事業を成功させるために、成功することを前提とした体制を固めたうえで、どんな状況にも対応できるようにして営業活動を行う。

 体制とは「内部事情」のことであり、営業活動とは、「外部の要件」が関係する。であるから、優秀な経営者でも、社内体制は自分達の創意工夫・努力次第で確立することができるが、営業活動は相手があることであるし、思いどおりにいかないこともある。したがって、「成功する方法は知ることはできても、実際に成功することは難しい。」と言われるのである。

 社内体制が確立されていなければ、営業活動をしても内部で処理できないために、利益は確保できず、信用も落とす。営業活動をするのは、社内体制に余裕がある場合である。管理が上手い管理職は、内部事情を知られることも、社内の弱点を知られることもない。営業の上手な管理職は、相手の意志、行動、弱点をよく知って活動する。どちらも その思惑を知られることがない。ゆえに、そのような管理職を持つ企業は、市場の変化にも、景気の動向にもよく対応し、順調に成長することができるのである。景気の善し悪しに企業が左右されるということは、営業の問題と言うより、内部体制に問題がある。

 「売れない」とは言い訳であり、結果には必ず理由がある。その理由を分析したうえで、体制を整える必要がある。  

 1.どんな状況にも対応できるような体制を作ること

 2.売れる商品を作り、売れない商品は切り捨てること

 3.組織内の人材をどう生かすことができるか。

 以上が、経営者にとって大切な能力であり、営業力はその次である。

 孫子は、先に敵から攻められてもいいように、守りを固めた上で敵が弱みを露呈し、攻めれば勝てるような状況になるのを待てと説いた。負けないように守りを固めることは自軍次第で行えるが、勝つかどうかは敵次第の面があるという。

 孫子は、守りを固めて地下に潜伏して、攻めの好機が来るのを姿を消して待てと説いている。そして、ここがチャンスと見たら一気に天高く舞い上がって攻めよと言う。

『勝つ可からざる者は守なり。勝つ可き者は攻なり。守らば則ち余あり。攻むれば則ち足らず。昔の善く守る者は、九地の下に蔵れ、九天の上に動く。故に能く自らを保ちて勝を全うするなり。』第四章 軍形篇

 いかなる敵も自軍に勝てないようにするのは守備のあり方である。敵に勝てるようにするのは攻撃のあり方である。守備を優先すれば兵力に余裕が生まれる。攻撃を優先すれば、戦線が拡大することによって兵力が足りなくなる。そこで、古来守備を優先して巧みに戦う者は、地底深くに潜むようにして守りを固め、好機と見れば一気に天高く飛び上がるかのように攻めに転じた。そうした戦い方だからこそ、自軍を保全しながらも確実に勝利を収めることができるのである。

 守備に巧みな者は、地下に潜っているように身を潜め、攻撃に巧みな者は、空高く飛ぶように自在に動く。

 守りを優先する局面では、自陣、自国を固めるだけだから、兵力にも余裕が生まれやすい。しかし、攻めに転じる場合には、当然戦線が伸びて兵器や食糧の手当ても必要となり、攻撃によって自軍にもダメージがあるから、兵力、戦力に不足が生じる恐れがある。

 「守りを固めよ」というのは、ビジネスでは消極的に思えるかもしれません。さらに、孫子は、守ってからすぐに攻めるのではなく、「敵が弱みを露呈するまで待て、下手に攻めるな」と言っています。いわば、「負けない仕事術」の極意と言えるでしょう。たとえ、負けない理由が多くあっても、勝てるかどうかは時の運。自分に都合良く敵をコントロールすることはできません。ただし、自分のことはコントロールできます。しっかり準備をして待つ。コントロールできる自分の準備をしっかりと進めておくのです。ここで言う「守る」とは、「弱点を無くす」こと。「強みを伸ばせ」と聞きますが、自分の弱点がわかっているのなら、事前に補強しておく方が賢明です。その上で、敵の弱点がわかったら、そこを集中して攻めるのです。

 孫子は、「勝利の方法を知ることと、実際に戦って勝つことは別である」とも記しています。方程式通りにやれば必ず答えが見つかるわけではありません。どれほど準備しても、相手がもっと備えをしていたら勝てません。それほど準備をすることは重要です。理想的な勝ち方は、守備を固め、守って 守って 相手が疲れたら速攻で カウンターパンチ という流れなのです。

『勝を見ること、衆人の知る所に過ぎざるは、善の善なる者に非るなり。戦い勝ちて、天下善なりと曰うは、善の善なる者に非るなり。故に、秋毫を挙ぐるも多力と為さず、日月を見るも明目と為さず、雷霆を聞くも聡耳と為さず。』

 勝利の見立てが普通の人間にも分かる程度のことであれば、最高に優れているとは言えない。戦いに勝利して、それを天下の広く一般の人から褒め称えられるようでは、素人にも分かる程度の勝利であって、それも最高に優れているとは言えない。それは、細い毛を持ち上げたからと言って 力持ちとは言えず、太陽や月が見えたからと言って 目が良いとは言えず、雷鳴が聞こえたからと言って 聴力が優れているとは言えないのと同じことである。 

 成功する経営者は、大きなリスクを冒さず、成功できる状況を確信した上で事業展開し成功する。優れた経営者が成功しても、その成功は大きなリスクを冒さず、さりげない地道な努力によるものなので賞賛されにくい。しかし、そういう成功こそが真の成功であると言う。

 優れた経営者はピンチに陥る前に手を打つので、一見普通で平凡な経営をしますが、それこそが名経営者の証なのです。 

『古の所謂善く戦う者は、勝ち易きに勝つ者なり。故に善く戦う者の勝つや、智名無く、勇功無し。故に其の戦勝忒わず。忒わざる者は、其の勝を措く所、已に敗るる者に勝てばなり。』第四章 軍形篇) 

 古くから、兵法家が考える優れた者とは、容易に勝てる相手に勝つ者である。それ故、優れた者が戦って勝利しても、智将だとの名声もなく、勇敢であると称えられることもない。それは、その戦いの勝利が間違いのない、当たり前のものだからです。間違いなく勝つと思われるのは、その勝つための段取りが、すでに戦う前から負けが確定しているような敵に勝つように仕向けられているからである。

 

犯人捜しをしない

 優秀な人材がいてくれると助かるが、属人的能力に頼った成果は組織全体を弱体化させ、 組織全体の勢いを殺す可能性を孕んでいることを忘れてはならない。

 優れたリーダーは、組織全体の勢いを生み出すことによって勝利し、決して「あいつが悪い、こいつのせいだ」と人のせいにしたりしないと孫子は言います。業務の属人化は、短期的には良いのですが、長期的には組織の弱体化を招くことになります。リーダーとして組織をどう動かすかを考え、仮にダメ社員であっても、その能力を引き出し活用する勢いを作らなければなりません。

 

不敗の地に立つ

 成功する企業は、入念に事業計画を立て、失敗しないよう準備を整えた後に事業展開する。失敗する企業は、事業展開した後に成功を追い求めようとする。

 市場の獲得にあたって、そのコスト全てを自社で賄うのは良くない。

 製品を生産する前、販売する前のマーケティングが重要です。勝つ見込みを立ててから戦いを始めなければ、勝てる確率は非常に低い。ある程度構想ができた段階で市場にそのニーズがあるか、顧客がその製品やサービスを求めているか、しっかり聞いた後で製品を作るというのが正しい順番である。

 武田信玄が負けなかった大きな要因の一つには、次のような言葉によく表れています。

『善く戦う者は、不敗の地に立ちて、敵の敗を失わざるなり。是の故に、勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む。』第四章 軍形篇

 勝利する軍は、まず負けない態勢をとる。敵を破る機会を逃さないものである。勝利を収める軍は、勝利を確定しておいてから、その勝利を実現しようと戦闘に入る。敗北する軍は、先に戦闘を開始してから、その後で勝利を追い求めるのである。

 上手に戦う者は、自分は「不敗」の状態にしておき、敵のミスや隙は見逃さない。信玄は、強敵である北条家と今川家との間で同盟を結びました(甲相駿三国同盟)。これにより、攻め込まれる敵を減らし、信濃攻略に兵力を集中させました。

 また、情報収集を重要視した信玄は、「三ツ者」と呼ばれるスパイを多用。スパイからもたらされる情報を頼りに、大名の対立を利用したり、戦を仕掛けるタイミングなどを計算した。

参考

 信玄は戦う前に勝率を高めていく手法を取りました。逆に、大量の犠牲者が出かねない、越後(現・新潟県)に本拠地を置いた上杉謙信との戦い(川中島の戦い)は、5度にわたって行ったものの、本格的な戦闘は1度きり。結局、信玄は謙信との戦いを引き分けに持ち込み、最小限の犠牲にとどめました。信玄は、このような戦略をとることでリスクを減らし、戦国の乱世を生き抜こうとしたわけです。

 さらに、信玄が優れた点は人使いの上手さにあります。信玄の配下には名将が多く集まり、後に「武田二十四将」と称される軍団を形成しました。

『善く兵を用うる者は、道を修めて法を保つ。故に能く勝敗の政を為す。』第四章 軍形篇

 戦いの上手な者は、人心をひとつにまとめ、隊の規律を守る。だから、軍の統制ができ、勝敗を思うままにできる。上に立つ者の統率力が大切である。

 

タイミングを計る

 戦略の本質は、「実際の戦いの前に」勝てる態勢と状況を作っておくこと、そして、そうした事前準備をした上でタイミングを見て実際の戦いを始めることであるという。

 タイミングを見るとは、「敵の動きなどによって勝てる状況になるタイミングを計る」ということである。戦場の情勢は刻々変化する。その変化の中で勝てるタイミングを見計らうことが勝ちを得るために重要である。

 事前の仕込みこそが戦略の真髄ということになる。技術の蓄積、生産体制の整備、流通チャネルの構築などなど、ビジネスをきちんと行えるだけの体制を整え、製品の魅力を十分に作った上で、狙いをつけたターゲット顧客に向けて攻勢をかけるということ。それでこそ、持続的に競争相手に対して勝てる市場競争戦略になる。

 

勝ち易きに勝て

 企業経営者が心すべきは、勝てる戦しかしないということである。自信のある分野、商品に絞って、勝ち戦を重ねることである。営業に行くなら、「お役に立てる」確信の持てる顧客に絞り込んで訪問するべきである。無理に売上拡大、規模拡大を狙わず、強い商品、得意分野、勝てる仕組みにこだわって、小なりといえども、毎期確実に利益を出して、社員や株主にも還元し、しっかり納税もして、内部留保を積み増して行く堅実な経営者こそ、プロが認める優れた経営者である。

 勝つ軍は勝ってから戦う。負ける方は、戦い始めてからどうやったら勝てるかを考えている。負けない態勢を整え、勝つための仕込み、仕掛けをした上で、これなら勝てるというストーリーを描き、勝つ自信が持てれば、戦いに踏み切ることです。

 営業活動において、客先に訪問し、実際に商談に入る前に、勝てる準備、勝てる商談ストーリーを持っていることが重要である。売れる営業マンは、商談前にストーリーがイメージできている。必要な資料の準備もできるし、顧客からの反論にも冷静に対応できる。「先に勝って後で戦う」という孫子の兵法を実践している。しかし、売れない営業マンは、客先に行ってから、「今日は何かないですか?」「お困りごとはありませんか?」「御社のニーズは何ですか?」と御用聞きをやっている。

 ところで、営業の「日報」というと、営業マンの行動管理をイメージするかもしれない。また、営業担当者をサボらせないようにする行動管理ツールと捉えられることがあるが、それは戦略的ではない。計画を立て、それが日々実践に移されているか、その実践、実行の結果、計画通りに進捗しているかどうかを把握する仕組みが日報であるのだが。日報を書けと言われて いやいや書いているだけのことがある。

 孫子の兵法を活用し営業力を強化するには、日々の日報に、今日どうだったかという結果報告や行動報告を書くだけでなく、次にどうするのか、次回のアプローチはいつにするのか、次はどういう提案をするのかを書くようにする。商談が終わった時点で、常に次回の商談ストーリーを明確にしておく習慣をつける。次の戦いの前に勝つ段取りを考えておくということである。そこで、日報の中に計画欄を設けて、「次回予定」を必ず書かせるようにすると良い。通常、日報は「報告書」だと思われているから、その日の商談内容を事後報告する。戦い(商談)の後で事後報告しても、注文はもらえない。大切なことは、事前に考えることであり、それによって上司や先輩などから事前にアドバイスをもらい、商談の精度を上げていくのです。事前に予定を書くから、それに対して事前にアドバイスができる。全員の智恵や経験知を営業マン本人に注入できる。これによって経験の浅い、営業力のない営業マンでも商談のストーリーが描けるようになるし、成功をイメージできるようになる。

 顧客のニーズや競合の動き、商談のニュアンスなどを共有しながら、上司と部下が智恵を出し合う。タイミングが遅れそうになると、日報から警告が発せられたり、商談の抜け漏れもチェックしてくれる。顧客に合わせ、商談の流れに合わせて、正しいタイミングで、適切な手を打つ仕組みを営業組織に仕組むわけである。

参考

 孫子は、まず、素人にも分かるようなことをやっていてはプロとして失格であると指摘している。一流の人間にしか分からないような玄人仕事をせよと。

孫子は、兵法家が考える優れた将軍は、勝ちやすい相手に勝つ者だという。兵法のプロが見た評価ということ。素人が見たら、強大な相手、勝てない敵を打ち破った方が優れていると評価するだろうが、プロはそうではなく、勝てる相手に勝つことを評価すると言う。だから、そうした有能な将軍は、世間から智将だと称えられることもなく、勇敢だと褒められることもないと言う。

 勝つ者は先に勝ってから戦い、負ける者は戦ってから勝つ方法を模索する。孫子に言わせれば、「勝敗はもう戦う前に決まっているようなものなのだ」というのです。

『兵法は、一に曰く度、二に曰く量、三に曰く数、四に曰く称、五に曰く勝。地は度を生じ、度は量を生じ、量は数を生じ、数は称を生じ、称は勝を生ず。故に、勝兵は鎰を以て銖を称るが如く、敗兵は銖を以て鎰を称るが如し。』(第四章 軍形篇

(兵法で大事な五項目)

 いつ攻めるのか? この判断が勝利への鍵なのです。孫子の言うところの「守りを固める」の「守り」というのは、「軍の守り」だけではありません。戦争の勝敗は五つの要素で決まるという。

 兵法で大事なのは、

 1:ものさしではかること=度  

 2:ますめではかること=量  

 3:数えはかること=数  

 4:くらべはかること=称  

 5:勝敗を考えること=勝

 戦場の土地について広さや距離を考え()、その結果について投入すべき物量を考え()、その結果について動員すべき兵数を数え()、その結果について敵味方の能力をはかり考え()、その結果について勝敗を考える()。

 そこで、勝利の軍は充分の勝算を持っているから、重い目方で軽い目方に比べるように優勢であるが、敗軍では軽い目方で重い目方に比べるように劣勢である。

 戦争の上手な人は、上下の人心を統一させるような政治を立派に行ない(=)、さらに軍隊編成などの軍政をよく守る(=)。だから勝敗を自由に決することができるのである。

 これは新商品・新サービスを開発するときの尺度として応用できます。

商品開発の場合

 「度」・・・顧客に「これが欲しかった」と言わせることができるか

 「量」・・・色や形、大きさなどのバリエーションが揃っているか

 「数」・・・販売ならびにメンテナンスの体制は万全か

 「称」・・・ブランド品にも負けない高品質か

 「勝」・・・市場を一変させられるか

サービス開発の場合

 「度」・・・そのサービスを持っていた人はたくさんいるか

 「量」・・・オプションは豊富か

 「数」・・・誰でも、どこでも このサービスを受けられるか

 「称」・・・「世界一」と言えるクオリティがあるか

 「勝」・・・「こんなサービスはいままでなかった」と言わせることができるか

新事業を起こしたり新しい拠点に進出するときは必須

 戦争においては、戦力の比較検討が戦略において非常に重要になってきます。

 敵・味方の兵士の数や武器の性能、数量、それを支える国力などを見謝ると、国の進むべき道を間違うことになります。

 新しいビジネスを起こそうとするときや、新しい拠点に進出するときなど、必ず勝算を検討しなければいけません。「なんとかなるさ」などと行き当たりばったりで始めるなどは愚の骨頂。

 マーケティングや社員数、資金力といった戦力を冷静に分析することです。その上で勝ち目があるとわかったら行動を起こします。

 企業の活動方針や営業活動の方向性を決定づけるのは、マーケット調査であり、その調査データは作戦立案のもとになります。

組織力をいかに強化するか

 絶対に負けない自社にするためには、内部充実を図るということに尽きます。

 基本は、「収益構造の強化」と「経営効率の向上」です。

 経営トップや幹部、管理職は、最先端の技術に目を向け、経営効率をさらに上げる手法を採り入れていかなくては立ち行かない。

例 

人材採用

  1 スキルズ・イベントリーの充実

  2 キャリア・ディベロップメントの充実

  3 職務・職責体系の充実

  4 コーポレート・デザインに基づく人材配置の充実

顧客

 顧客にメリットを提供することで、ファンを醸成してサークル化し、自社の商品企画開発に活かしたり、基礎売上に貢献させたりする。

 得る前に顧客を作り、絶対に売れる商品にしてから売り出す。それくらいの戦略が必要です。

 

経営に勢いをつけるためには顧客のダムを作る

 孫子は、ダムを決壊させるような勢いを作れと説きました。戦いに勝利する者は、人民を戦闘させるにあたり、満々とたたえた水を深い谷底へ一気に決壊させるような勢いを作り出す。これこそが勝利に至る態勢であると。

 軍をうまく動かすためには、進むべき道筋や思想を正しく示して、軍制や評価を徹底させなければならない。そのためには、物事を正確に把握する尺度や基準、すなわち、ものさしや升目、数、比較対象などを予め明らかにしておかなければならないと孫子は説いた。

 勝つためのストーリー、すなわち、戦略が実地のデータに基づいて論理的に組み立てられており、それゆえに、組織構成員のすべてが勝利を確信しているという状態をイメージしてみる。鎰を以て銖を称るが如く、勝利は確定的である。そういう経営を目指したいものです。

 企業経営において、勢いを作り出すために必要なことは何でしょうか。売ること、売れることである。営業部門においては、隣の営業マンが売ってくれば、負けずに売ろうとするし、周囲が売っていれば、「売れるはずだ」となる。逆に、売れないとなれば、「あいつも売ってないし、こいつも目標未達だったし、俺も売れていない」・・・となって、商品が悪い、会社が悪い、景気が悪い、となる。これでは勢いなど出ない。売るから勢いが出て、勢いがあるからまた売れる。売らないことには勢いも何もないから、売るための仕掛けを用意する必要がある。それが「積水」であり、「顧客のダムを作る」ことである。このダムを作ることで、売れるべくして売れる、勝つべくして勝つ、というストーリーを描くことができるようになる。今売れなくても、来年には売れるかもしれないし、次の入れ替えではリベンジできるかもしれない。

 勝つには理由がある。負けるのにも理由がある。業績が上がるには理由がある。業績が下がるのにも理由がある。営業がうまく行くには理由がある。失注するのにも理由がある。それらの道理、尺度、基準を踏まえ、予め準備して勝てるストーリーを持って臨めば、自ずと勝ちが確定する。やるべきこともやらずに楽して勝てる魔法はない。やるべきことをきっちり積み上げて、粛々とそれを繰り返すのみ。それが孫子の教えである。

積水を千仭の谷に

 成功する経営者は、事業展開する時に、社員が勢いよく積極果敢に動ける態勢を整えるのです。

『勝者の民を戦わしむるや、積水を千仭の谷に決するが若き者は、形なり。』第四章 軍形篇

 戦いに勝利する者は、人民を戦闘させるにあたり、満々とたたえた水を深い谷底へ一気に決壊させるような勢いを作り出す。これこそが勝利に至る態勢(形)である。

 エネルギーを貯め込み、ここぞというときに一気呵成に放つ。それが負けないための型です。

 軍をうまく動かすためには、進むべき道筋や思想を正しく示して、軍制や評価を徹底させなければならない。そのためには、物事を正確に把握する尺度や基準、すなわち、ものさしや升目、数、比較対象などを予め明らかにしておかなければならないと孫子は説いた。

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