「孫子・地形篇(第十章)」に読むビジネスリーダー

参入の戦略

 リーダーとしては「マーケット戦略」として読むと、非常に示唆に富んだ教えになります。

 リーダーは、自社がいま勝負しているマーケットの状況を見極め、参入の戦略を立てるとよいでしょう。

 市場には、参入しやすいところ、障壁が多いところ、特性がわかりにくいところ、規模の小さなところ、過当競争のあるところ、距離の遠いところ等がある。その市場の状況を正確に把握し、事業展開の意思決定を行うことが経営者の重要な任務である。

 孫子では、大きく別けて6種類の地形があるとしています。 

『地形には通ずる者有り、挂かる者有り、支るる者有り、隘き者有り、険しき者有り、遠き者有り。』第十章 地形篇) 

・通形(つう)・・・体力勝負

 敵軍も自軍も往来がたやすい地形が「通」。

 マーケットで言えば、どの会社にとっても侵入しやすい環境に相当します。したがって、有利・不利に差はなく、みんなが同じ条件で競争することになります。となれば、自社の疲労を極力軽減することが大事になってきます。例えば、ネット販売や通信販売など、初期投資とランニング・コストを軽減させる無店舗販売を利用するのも一つの方法でしょう。また、優秀なアドバイザーを持ち、少しでも効率の良いビジネスを考案してもらうのもよい。いたずらに ヒト・モノ・カネ を大量投入するのは避けたいところです。

・挂形(かいけい)・・・独自性で勝負

 いったん進んだら引き返せないのが「挂」という地形。

 マーケット戦略においては、「参入してみたら思わぬ強敵が控えていた。でも、既に事業は動き出していて撤退するわけにはいかない」という状況です。

本来ならば、参入する前によく調べておくべきですが、調査が行き届かずに参入してしまった以上は仕方ない。独自の価値をアピールして、果敢に戦うしかありません。オンリーワンの商品やサービスを提供するように努めましょう

・支形・・・不戦勝  

 「支」は、脇道が枝別かれしていて、自軍・敵軍どちらが先に進出しても不利になるような地形。

 マーケットで言えば、「どう考えても その市場に利はない」状況です。そのような市場にわざわざ出ていく必要はありません。

 ライバル会社が進出して利のある市場のように見せかける、そういう誘いに乗らないように注意すべきです。

・縊形(あいけい)・・・先手必勝

 「縊」は、両側から岩盤が張り出していて、道端が非常に狭くなっている場所のこと。

 マーケット的には、先行者利益が見込める分野に相当します。ベストなのは、その市場に一番乗りして迅速に顧客獲得に全力を投入することです。そうすれば、他社の新規参入が難しくなります。ただし、ライバル会社に先を越されても、簡単に諦めることはありません。その会社に市場をたちまち席巻するほどの強みや戦略がないようなら、その脇の甘さに付け込めます。ライバル会社をしのぐ技術・ノウハウを駆使して逆転を計りましょう。

・険形・・・逃げるが勝ち  

 文字どおり、高く険しい地形が「険」。

 マーケットで言うなら、規模があまり大きくなく、これまで何社も参入に失敗しているような状況を指します。こういう市場は一番乗り出来ない限り参入を見送るべきです。一番乗り出来た場合は、他社が参入を諦めるように、顧客の支持を獲得することに専念しましょう。

・遠形・・・相討ち覚悟  

 「遠」は、敵軍・自軍の陣地が遠く隔たっている地形。

 マーケット戦略上は、どの会社が参入してきても規模・能力から見て互角の勝負が予想される状況です。このマーケットでどうしても戦うなら、相討ち覚悟でいくしかありません。共倒れにならないよう注意が必要です。

『我以て往く可く、彼も以て来たる可きは、通と曰う。通ずる形には、先に高陽に居り、糧道を利して以て戦えば、則ち利あり。以て往く可きも、以て返り難きは、挂と曰う。挂かる形には、敵に備え無ければ、出でて之に勝ち、敵に若し備え有れば、出づるも勝たず、以て返り難くして不利なり。我出づるも不利、彼の出づるも不利なるは、支と曰う。支るる形には、敵、我を利すると雖も、我は出づること無くして、引きて之を去り、敵をして半ば出で令めて之を撃つは利なり。

 隘き形には、我先に之に居らば、必ず之を盈たして以て敵を待て。若し敵先に之に居り、盈つれば而ち従うこと勿れ。盈たざれば而ち之に従え。険しき形には、我先に之に居らば、必ず高陽に居りて、以て敵を待て。若し敵先に之に居らば、引きて之を去り、従うこと勿れ。遠き形には、勢い均しければ以て戦いを挑み難く、戦えば而ち不利なり。

 凡そ此の六者は、地の道なり。将の至任にして、察せざる可からざるなり。』

 

強いリーダーシップを

 企業において、組織内にはいろいろな社員がいる。自己主張ばかりする者もいれば、遠慮と謙遜ばかりで本音を言おうとしない者もいる。リーダーシップを発揮する者もいれば、フォロワーに甘んじる者もいる。仕事ができる者もいれば、そうではない者もいる。上司の前では前向きなことを言うくせに、上司がいないとネガティブな言葉を発し、部下にまで後ろ向きの影響を与えるような者もいる。だが、そこに一定の規律や組織風土が保たれていれば、そう大きな問題は起こらない。誰しも長所もあれば短所もあり、強み弱みを併せ持つ。多様な人間がいるからこそ、組織としての活力が出てくるとも言える。しかし、一旦トップの統率が機能しなくなり、組織としての規律や風土、制度が緩んで、個々のモラル、モチベーションが低下してしまい、ついに限度を越えて、問題行動が出始めると、これが一気に拡がり、組織全体の崩壊を招くことになる。組織風土が崩れて、弛んだ風土、ギスギスした風土、冷ややかな風土が醸成されてしまうと、それを払拭するのは大変なことである。こうした問題の根本原因はどこにあるか。すべてはトップのリーダーシップの欠如、仕事への甘さ、自社の経営に対するコミットメントの弱さから来ていると言って良い。

 孫子は、将軍が弱腰で威厳がなく、兵に対する指示命令が不明確であり、将兵に対する指導方針に一貫性を欠き、布陣に秩序がなく雑然としているのを乱れた軍と言うと教えている。

『兵には、走る者有り、弛む者有り、陥る者有り、崩るる者有り、乱るる者有り、北ぐる者有り。凡そ此の六者は、天の災いに非ず、将の過ちなり。』

 軍には、兵士たちが散り散りに敗走する軍がある。規律が緩んで統制のとれない軍がある。兵士たちの士気が落ち込む弱気な軍がある。規律が崩壊してしまう軍がある。命令系統が機能せず、意思統一ができない軍がある。精鋭の兵がおらず、戦えば必ず敗れる軍がある。

 これら6の軍の敗北の様は、どれも天運による不可抗力などではなく、すべて将の過失からもたらされるものである。

 孫子は、負け戦になる6つの状況というのもあるとしています。

・逃走・・・

 軍の勢いや兵の置かれた状況が同じである時に、10倍の兵力の敵を攻撃しようとすれば、敵前逃亡させるようなものである。

  恐れて逃げてしまうかもしれないので、強すぎる敵と無理に争わせないこと

・弛緩・・・

 兵士の鼻息が荒く猛々しいのに、それを管理する軍吏が弱々しくては タガが弛む。

  メンバーを放任し過ぎないこと  緊張感が失われてしまう。

・陥没・・・

 軍吏が強気で優秀であっても、兵士が弱くて無能であれば士気が上がらず落ち込んだ空気となる。

  メンバーを管理し過ぎないこと  自分らしさを発揮することができなくなってしまう

・崩壊・・・

 高級将校が将軍に対して憤って服従せず、敵に遭遇した際にも将軍への怨みの感情から独断で戦うような状況となり、将軍もまたその事態をどう収拾すれば良いか分からないようなことでは、軍は崩壊する。

  仲違いを起こしてしまうかもしれないので、決まった個人を ひいき しないこと

・混乱・・・

 将軍が弱腰で威厳がなく、兵に対する指示命令が不明確であり、将兵に対する指導方針に一貫性を欠き、布陣に秩序がなく雑然としているのを、乱れた軍と言う。

  軸がぶれない強さをもつこと  優柔不断ではメンバーも不安になってしまう

・敗北・・・

 将軍が敵情判断を誤り、少人数で多数の敵に当たらせたり、自軍の弱い部隊を敵の強い部隊と戦わせるようなことをして、兵士の中にも先鋒として適任の精鋭がいないのでは、負けて退散するのみである。  

  計画を練って指導すること  思い付きの指導ではうまくいかない

 これらは たまたまの偶然ではなく、君主や将軍が自ら引き起こしている状況だと言うのです。これら6つの敗因は、天災や災厄ではなく、将軍の過失であり人災である。この六つは戦場における地形の基本であるが、その地形に応じた状況判断は、将軍の重要任務である。

 戦いに勝つか負けるかは、軍を構成する兵の精強さ、規律や統制の確かさ、天候や地理などの環境条件といった諸条件以上に、組織を率いるリーダーの力量にかかるところがきわめて大である。

 戦争で負ける側の軍隊には、規律や風土の崩壊、モラルダウンが起こるものだと孫子は言う。敵前逃亡する者、たるんでしまう者、落ち込んでしまう者、へたりこむ者、取り乱す者、負けて逃げ帰る者があり、それらは天の災いではなく、将軍に落ち度がある人災なのだと指摘しております。

夫れ勢い均しきに、一を以て十を撃つは、走ると曰う。卒の強くして吏の弱きは、弛むと曰う。吏の強くして卒の弱きは、陥ると曰う。大吏怒りて服さず、敵に遇えば懟みて自ら戦い、将も其の能くするところを知らざるは、崩るると曰う。第十章 地形篇

 軍の勢いや兵の置かれた状況が同じである時に、10倍の兵力の敵を攻撃しようとすれば、敵前逃亡させるようなものである。兵士の鼻息が荒く猛々しいのに、それを管理する軍吏が弱々しくては、タガが弛む。軍吏が強気で優秀であっても、兵士が弱くて無能であれば士気が上がらず落ち込んだ空気となる。高級将校が将軍に対して憤って服従せず、敵に遭遇した際にも将軍への怨みの感情から独断で戦うような状況となり、将軍もまたその事態をどう収拾すれば良いか分からないようなことでは、軍は崩壊する。将軍が弱腰で威厳がなく、兵に対する指示命令が不明確であり、将兵に対する指導方針に一貫性を欠き、布陣に秩序がなく雑然としているのを乱れた軍と言う。将軍が敵情判断を誤り、少人数で多数の敵に当たらせたり、自軍の弱い部隊を敵の強い部隊と戦わせるようなことをして、兵士の中にも先鋒として適任の精鋭がいないのでは、負けて退散するのみである。

 

自分のためでなく、顧客のために部下を指導せよ

 企業は目的集団である。仲良しクラブでも家族でもない。顧客価値の増大を目指して共に戦う同志である。その目的に対して勝つために何の遠慮をすることがあるのか。顧客のためにやろうとすることに何の遠慮が必要なのか。自分のために指導するのではなく、顧客のために指導するのです。使命感を持って部下や社員に接すべきです。

将、弱くして厳ならず。教導明らかならずして、吏卒常無く、兵を陳ぬること縦横なるを、乱と曰う。将、敵を科ること能わず、少を以て衆に合わせ、弱を以て強を撃ち、兵に選鋒無きを、北ぐると曰う。』第十章 地形篇

 将軍が弱腰で威厳がなく、兵に対する指示命令が不明確であり、将兵に対する指導方針に一貫性を欠き、布陣に秩序がなく雑然としているのを、乱れた軍と言う。将軍が敵情判断を誤り、少人数で多数の敵に当たらせたり、自軍の弱い部隊を敵の強い部隊と戦わせるようなことをして、兵士の中にも先鋒として適任の精鋭がいないのでは、負けて退散するのみである。

『凡そ此の六者は、敗の道なり。将の至任にして、察せざる可からざるなり。』第十章 地形篇

 これらは君主や将軍が自ら引き起こしている状況だと言う。これら6つのポイントは、敗北に至る道理である。こうした道理を知ることは、将軍の最も重要な責務であり、充分に研究し心得ておかなければならない。

 

指揮官のあるべき姿

 マーケティングは成功するための補助的条件である。ライバル企業の戦略、動向を推し量り、市場の参入障壁、顧客ニーズの変化、需給動向、地域特性等に応じて営業戦略を立てるのが経営者の務めである。

 地形は、勝利を勝ち取るための補助的条件である。敵の動きを察知し勝算を立て、地形の険しさ遠近に応じて作戦を立てるのは、将軍の務めである。

 リーダーたる者、功績を上げても名誉を求めず、退却するときにも敗北の罪を免れようとせず、ただひたすら人民の安全を保ちながら、その結果、君主の利益に沿うのであれば、それこそは国の宝である。

 名誉欲や功名心をもたず、失敗の原因はわが身に引き受け、部下や構成員が存分に力を発揮できる環境を整え、彼らの意欲を高め、成長を促して、会社の利益にも貢献する。そうした人間力、すなわち、鋭い才覚や能力を上回る人格に優れたリーダーこそ組織を率いるにふさわしいということになる。 

『地形は兵の助けなり。敵を料りて勝を制し、険易・遠近を計るは、上将の道なり。此れを知りて戦いを用うる者は、必ず勝ち、此れを知らずして戦いを用うる者は、必ず敗る。  故に、戦道必ず勝たば、主は戦う無かれと曰うとも必ず戦いて可なり。戦道勝たずんば、主は必ず戦えと曰うとも戦うこと無くして可なり。故に進みて名を求めず、退きて罪を避けず、唯だ民を是れ保ちて而して利の主に合うは、国の宝なり。』(第十章 地形篇

 6つの地形、6つの状況は、勝利への助けとなるものです。

 土地の形状は、軍事行動の補助要因である。敵情をはかり考えては勝利の形を策定しつつ、地形が険しいか平坦か、遠いか近いかを検討して、勝利実現の補助手段に利用していくのが、全軍を指揮する上将軍の踏むべき行動基準である。こうしたやり方を熟知して戦闘形式を用いる者は必ず勝つが、こうしたやり方を自覚せずに戦闘形式を用いる者は必ず敗れる。

 そこで、戦闘の道理として、自軍に絶対の勝算があるときには、たとえ主君が戦闘してはならないと命じても、ためらわず戦闘してかまわない。

 戦闘の道理として勝算がないときには、たとえ主君が絶対に戦闘せよと命じても、戦闘しなくてかまわない。

 君命を振り切って戦闘に突き進むときでも、決して功名心からそうするのではない。

 君命に背いて戦闘を避けて退却するときでも、決して誅罰をまぬがれようとせずに、ひたすら民衆の生命を保全しながら、しかも結果的にそうした行動が君主の利益にもかなう。

 このような将軍こそは国家の財宝である。

 

部下に対する愛情や期待が伝わるからこそ部下は動いてくれる

 社員を赤ん坊のようにいたわり、我が子のように接すれば、困難な状況になっても共に行動することができる。手厚くするだけで十分な仕事が与えられず、可愛がるだけで命令することができず、規律を乱しても罰することができなければ、社員は権利ばかりを主張し、会社に貢献することができなくなる。

 上司の期待や評価が部下を動かし、厳しい環境に立ち向かう部下を育てることを忘れてはならない。

『卒を視ること嬰児の如し。故に之と深谿にも赴く可し。卒を視ること愛子の如し。故に之と俱に死す可し。厚くして使うこと能わず、愛して令すること能わず、乱れて治むること能わざれば、譬えば驕子の若くして、用う可からざるなり。』第十章 地形篇

 将軍が兵士を治めていくのに、兵士たちを赤ん坊のように見て、万事に気をつけていたわっていくと、それによって兵士たちと一緒に深い谷底のような危険な土地にも行けるようになる。

 兵士たちをかわいいわが子のように見て、深い愛情で接していくと、それによって兵士たちと生死をともにできるようになる。

 しかし、もし手厚くするだけで仕事をさせることができず、かわいがるばかりで命令することもできず、デタラメをしていてもそれを止めることができないのでは、たとえてみればおごりたかぶった子供のようで、ものの用にたたない。

 赤ちゃんのように、わが子のように愛さなければ、兵士は将と生死をともにしようとは思わないと言っておきながら、ここでは、「わざと退路を断てば、誰もが死ぬ気で戦う」などと書かれているのです。

 

勝率を上げる秘策

 勝率が五分五分というのはどういう状況でしょうか。孫子は3つあげております。

1 自軍の兵士の実力を把握していても、敵軍の戦力が強大であることを認識していない場合

2 敵軍の戦力が劣っているとわかっていても、自軍の兵士の実力を把握していない場合

3 敵軍の戦力も実力も把握していながら、地形が不利であることに気づかない場合

 敵軍の戦力、自軍の実力、地形の有利・不利の3点を把握していることが、勝つ確率を高めるための必須条件なのです。これは、ライバル会社と自社、市場動向に当てはめることができます。ライバル会社と自社の実力を正しく認識していれば、ほぼ勝ちが見込めますが、それにプラスして市場動向を味方につければ なおさら勝利は固くなるということです。ライバル会社との競争に際しては、ライバル会社と自社とではどちらの実力が上なのか、市場動向から見て障害になるものはないか、ということをよく考えて、競争に打ってでるかを決断します。 

『吾が卒の以て撃つ可きを知るも、而して敵の撃つ可からざるを知らざるは、勝の半ばなり。敵の撃つ可きを知るも、而して吾が卒の以て撃つ可からざるを知らざるは、勝の半ばなり。

 敵の撃つ可きを知り、吾が卒の以て撃つ可きを知るも、而して地形の以て戦う可からざるを知らざるは、勝の半ばなり。

 故に兵を知る者は、動きて迷わず、挙げて窮せず。』(第十章 地形篇

 自軍の兵士に敵を撃破する力があることが分かっても、敵軍に備えがあり攻撃してはいけない状態にあるかどうかを知らなければ、勝算は五分に過ぎない。

 敵軍に撃破できる弱みを見つけたとしても、自軍の兵士に攻撃する準備が整っていないことを知らなければ、勝利は確定できない。

 敵軍に隙があり撃破できることを知り、自軍にも攻撃できる準備が整っていることが分かっても、戦場の地形が戦ってはならない状況にあることを知らなかったとしたら、勝算は五分であり、勝利を確定することはできない。

 こうした状況を見極めることで、軍事に精通する者は、軍を動かしても判断に迷いがなく、戦闘時にも窮地に陥ることがない。

 戦争のことに通じた人は、敵・味方・土地のことをわかった上で行動を起こすから、軍を動かして迷いがなく、合戦しても苦しむことがない。だから、「敵情を知って、味方の事情も知っておれば、そこで勝利に揺るぎがない。土地のことを知って、自然界のめぐりのことも知っておれば、そこでいつでも勝てる」といわれるのである。

 敵の状況や動きを知り、自軍の実態を把握していれば、勝利に揺るぎがない。その上に、地理や地形、土地の風土などの影響を知り、天界の運行や気象条件が軍事に与える影響を知っていれば、勝利を完全なものにできると言われるのである。

 競合企業と自社との経営資源、経営力の差も大切ではあるが、その時の時流や勢い、環境の変化、事業構造や収益構造の変化なども複雑に絡まり合い、単純に敵、味方の企業力比較だけで勝ち負けを判断することはできない。  日頃から、属する業界や自社、競合企業のことばかりではなく、視野を広くして世のトレンドや動きをつかむ努力が必要である。大手企業であれば、経営企画などのスタッフ部門が色々な情報を集め、分析してくれることもあるが、多くの中堅・中小企業では、こうしたことは経営者の仕事であり、現場の社員に押し付けるような話ではない。だが、現場での些細な変化、ちょっとした気付きが重要なこともあるから、そうした情報が吸い上がる仕組みを整えておくことも忘れてはならない。

 相手を知って自分を知り、タイミングを待って、最適な場所を活かせば必ず勝てると孫子は言っています。

彼を知り己を知らば、勝、乃ち殆うからず。地を知り天を知らば、勝、乃ち全うす可しと。』(第十章 地形篇

 敵の状況、味方の状況を把握すれば、危うげなく勝利し、土地の状況、気象状況を把握すれば、勝利は万全である。

 敵地で戦う時は、まず関所を封鎖し、敵の連絡網を断ち、すみやかに軍儀して、敵が最も重視している部分を見極め、決定したら行動を開始します。

 最初は、わざと敵の思うツボにはまったように見せかけて、隠密裏に静に、そして、チャンスと見てとれば、見極めた敵の一点に兵力を集中して先制攻撃をかけるのです。地理や地形、土地の風土などの影響を知り、天界の運行や気象条件が軍事に与える影響を知っていれば、勝利を完全なものにできると言われるのである。

 

周到な準備によって勝つ確率を上げていく

 準備にも順番があります。まず、戦場となる土地の広さや距離を考えます。戦場がどういった地形や地面であるかを考慮し、どこに陣取るかも考えます。戦場に行くまでの道についても調べます。これは、ビジネス環境を整えることと言えます。

 次に、そこで必要となる物資の量を計算し、必要となる兵士の数を考えていきます。

 部隊の編成や兵士の配置も充分に検討します。その結果による自軍と敵軍の能力を比較し、勝敗を考察します。これは、目的を果たすために必要なリソースを計算することです。

 ただ戦争の勝敗を予想するのではありません。

 戦争に必要な戦力を順序立てて考えていき、その上で敵軍の情報と照らし合わせます。

 仮に、自軍が不利だと判断すれば、戦争を回避することもあります。無謀とチャレンジは違うのです。

 孫子の兵法では、戦争の上手な人は人々の心を掴むような政治を行うとされています。

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