値決めは経営

大川隆法 未来への羅針盤 No.286

 赤字状態が続いている企業は、まず何から改善を進めていけばいいのか。また、売り上げを増やしていくためにどうすればいいのか

 街中を見ていても、本当に店がよく潰れては新しくなり、潰れては新しくなりということを繰り返しています。業種も変わっていることが多いです。

 「ここで去年三回潰れているんだけどな」と思うのに、また新しい店が性懲りもなく出てきて、「自分は大丈夫だと思って出るんだろうな」と思って見ています。店をやっているのを外から見ていて、こちらは「何カ月持つだろう」と思っていますが、中でやっている人は全然思ってもいないようです。そういうことがあります。

 自分の会社や店だけのことを考えていると、やっぱり甘くなります。世間一般をよく見ながら、仕事の厳しさ、商売の厳しさというのは、知っておいたほうがいいと思います。どうしても主観的にいきたがるとは思うのですが、客観的にいくか、同業種のところがどういうふうに仕事をして、どういうサービスをしているか、また異業種であっても、どういうふうにやっているかを常に研究しながら見ている眼は、持っていなければいけません。

 私はコンサルタント的なところがあって、いろいろ店を見て、品揃えや値段、業種も見て、「これはどのぐらいもつか」についてある程度判断がつくところがあります。でも、初めて店を開ける人は全然そう思っていない人は多いです。

 

儲かる仕事には他の企業が参入する

 赤字のところも多いと思いますが、基本的に、やったら儲かる仕事はみんなやります。たくさん参入してくるのです。最初に先行して初めて開いた場合は儲かるのかもしません。

 例えば、お風呂屋がないところで、まだそんなにいいマンションなどがあまり入ってないようなレベルの、学生が多いようなところでお風呂屋を開いたら、客はいっぱい来るかもしれません。だけどそれは自分のことしか考えていないので、二つ目のお風呂屋が出されたらどうか。それは経営の危機です。通常で考えて、売り上げは50%に落ちますから厳しいです。そういう未来に来る競争は考えていないでしょう。

 ホテル業界でも、稼働率80%ぐらいが一番よくて、最低でも70%は欲しいところだとよく言われています。70%から80%の稼働率のところで、成功するのがよいと言われます。80%を超えて九十何%とか、百%の稼働率、要するに、客が満室になっている状況が来たら、必ず同業他社が参入してきます。参入してくる同業他社は、たいてい大手です。初めて旅館やホテルが出た後、そこが儲かっていると見たら大手が来て、もっと大きな資本でもっといいものを建てられます。

 そうすると、今まで九十%以上、客室が埋まって″ウハウハ”の利益が出ていたのが、たちまちペシャンとあっという間に潰れてしまいます。道路の反対側、ほんの何十メートル横に建てられただけで潰れてしまう。これは始めたときにはまったく予想外のことですよね。あまり儲かりすぎているものは、必ず同業他社が参入してくるので、一応考えておかなければいけません。全然儲からないところもまた参入しません。

 ホテルなら、「今参入したら60%ぐらいしか稼働率がなさそうなものを、工夫したら七、八十%まで行くな」というようなあたりはうまみがあります。それを超えても駄目ですし、それを切っても、50%以下になってくるようでも赤字になっていきます。そういうところで微妙なのです。

 ですから、一人勝ちは絶対許さない世界で、どの業種もだいたいそうです。

 宗教でも、うちは過去30年間、いろいろなところにたくさん競争を仕掛けられてきています。競争はどんどんどんどん仕掛けられてきて、似たようなことをたくさんやられてきているのですが、うちに競争を挑んできたところはみな、ことごとく敗退しています。向こうには理由が分からず、敗退していて、こちらは何とか生き延びているのですが、それは外に見えている部分と見えていない部分があるからだと思います。

 外に見えている部分で同じようなことをぶつけてきているつもりでも、実は見えていない部分のところで違いがあるということです。全部が全部、見せているわけではないので、そこの違いが多分あると思います。

 そういう意味で、仕事やビジネスは、基本的にはどこも厳しいものです。松下幸之助さんみたいに成功してから後、「基本的に商売は成功するようにできているんだ」と豪語することもできますが、今は普通にやると倒産することが多い時代になっています。

 10社あって、10年後に残っているのは1社ぐらいが多く、それ以上になってくると、百社に1社も残らないような時代です。昔からの財閥系や大きなところでもたくさん統廃合を繰り返している時代に入っていますので、実に厳しいものです。

 経営としてはうまくいっていると思っても、週刊誌の″ガセネタ”みたいなものが打ち込まれて、経営不安を起こして潰れるようなこともあります。船場吉兆みたいなところでも、使い回しが記事に載っただけでも大変なことです。あっという間に閉鎖に追い込まれます。ほかの吉兆の店が生き残るためには、そこを潰さないと一緒に連座してしまう可能性があるから、潰さなければいけなくなります。

 

順調な時の余力づくり

 経営というのは常にトントントントンいけるかと思ったら、それは甘いです。基本的には順調にいっているときに、「まさかのときの余力」をつくっておくことが大事です。まさかのときの余力がない状態で、「ただただ自転車操業で走り続けたら、潰れないで済む」というなら、いつ潰れてもおかしくありません。

 予想外の事態でライバルが出現する、思わぬ悪評や批判が入る、あるいはその業界自体が急に廃れていくということだって当然あります。そういうこともあるし、例えば、みなさんがよく買っているアップル社の製品なら、三十年ぐらいの流れを見たら、いろいろなものに商品がどんどんどんどん変わっていきました。つくっては潰れ、つくっては潰れの繰り返しだと思います。

 大手は知りませんが、下請け会社はけっこうたくさん潰れているのではないでしょうか。テープを再生したりしていたのがそういうこともしなくなって、CDになったり、さらに次々と新機種がたくさん出てきていますので、なかなか厳しいと思います。

 自分自身がやれる範囲内で、最大限の努力をしていることは当然ですが、「同業種のものがやっていることはどういうことか」を常に見ておかなければいけないのと、異業種であっても工夫しているところをよく見て、「何が違うのか」「どういうところが流行っているのか」「どういうところで危険が生じたのか」を見ていかなければいけません。そういう研究心は持っていなければいけません。

 さらには「このまま永遠に、自転車操業的に同じように続くと思ってはいけない。常に新しいリスクの登場がありえる」と常に思っておく。だから、利益は、将来のリスクに対する備えの部分なんだと。飢饉が来たときのために、倉庫に兵糧を貯めておかなければいけません。いつも同じような天候が来るわけではなく、「飢饉が来たから潰れた」というわけにはいきません。そういう部分があるということです。

 基本的にまず簡単なこともやるべきことはきちっとやっているかということです。その業界、その業種、その店なら当然やるべきことはきちっとやっているかどうかの点検は、自分に厳しくチェックすべきだと思います。

 それから、やはり、「成果は、お客さんの側が判定してくださる結果なのだ」ということです。自分たちが判定することでなく、お客さんが判定して、その結果が成果だということです。お客さんのほうが認めてくださらなければ、自分がいくら「腕がいい」と言っても、駄目なものは駄目です。歯医者として、「自分は腕がいい」といくら言ったって、お客さんが「あそこは痛くてしょうがない」「あそこで歯を削られたら、たまったものじゃない」「死にそうだった」というようなことを口コミで言って回られたら、だんだん客は減ります。仕方ないです。それは近所なのですから、そうなります。

 自分がいくら思っていても、お客さんのほうの判断で出ることはあるんだということは、基本的には知っておいたほうがいいです。

 自らに厳しく、同業種・異業種の仕事を常に研究すること。また、儲かる仕事には他社が必ず参入してくるので、将来のリスクに備えて、「まさかの時の余力」をつくっておくことが大切。

 これまでも、「軒下を借りて始めた商売はまず失敗しない」と言ってきたように、特に小さな会社が最初から博打みたいな先行投資を大きくやるということは間違いで、基本的には失敗する可能性のほうが高いです。無限の未来があるように見えることは多いのですが、独走態勢に入れるようだったら、もっと資金が豊富な同業他社が必ず入ってきます。

 ここまで一応考えて経営しなければ駄目なので、完全独走態勢に入るためには、オープンにしなければいけないところもあるけれども、秘さなければいけない部分もあります。これは”秘伝のタレ”とか”秘伝の製法”とかいう部分です。明かしてはいけない部分は、やっぱりあるんだということです。「何十年も研究していただかないとそうはなりませんよ」という部分は、やっぱり持っていなければいけないし、誰が見てもできるようなものであってはいけないところがあります。

 

売り上げは「単価」×「数量」

 売り上げというのは基本的には「単価」×「数量」です。品数がA、B、Cと複数ある場合は、それぞれの単価が違い、百円、二百円、三百円とあるかもしれないけど、それが何個出たかという数量の問題です。だから、「単価」×「数量」です。品数が減れば、それぞれの品によって単価が違う部分が何件出たかということです。

 自分のところが扱っている商品、あるいはサービスの単価に対し、何人がそれを使ってくださったか、買ってくださったかという数量が売り上げだということです。変動するものとしては、商品の単価の部分と、それを買ってくださる方、あるいは使ってくださる方の人数の変化。この二つが変動要因です。ここしかいじれないのだということです。

 格安のものを扱う場合、割り引いて安くすることもありますが、単価だけ引いて、結局、数量が変わらなかったら、それはまったく損です。例えば、1個三百円のマクドナルドのハンバーガーを百円まで値下げしたら、単価は3分の1になります。その店に今まで1万人来ていたお客様が、3万人来るようになったら、売り上げは一緒です。単価を3分の1に下げたけれど、来る方は3倍にならなかった場合、2倍にしかならなかった、あるいは1.5倍にしかならなかったなら、売り上げは減です。先行きは厳しい。その値下げ戦略は失敗したということでしょう。そういうことは言えます。

 経営安定的に言うと、高付加価値のものをつくって、数量を無限に出すのではなくて、しっかり売り込んでいくというか、地道に売り込んでいくみたいなことが、成功するとも言われています。

両方あるのですが、例えばセイコーみたいに、大量生産して安く高品質のものを出してシェアを取るというスタイルのものもあれば、高級時計みたいなものを裕福な層に上手に売り込んでいくような作戦もある。両方ありますが、単価と数量のかけ算が売り上げなので、これで計算しなければいけません。

 これ以外で自分で努力できるものは何かというと、いわゆるコストの構造です。自分の会社のコスト構造を見て、いったいどういうコストでできあがっているかということです。

 店をレンタルで借りている場合の家賃、あるいは電気代、水道代から、従業員の給料、それ以外の装飾品とか贅沢品、原材料費、いろいろあるだろうと思いますが、そのコストの見直しです。コストを下げることはできます。

 JAL(日本航空)を稲盛さんが立て直したのは、ほとんどコストカットしたのと赤字線を廃止したのと、サービスをよくしたぐらいでした。非常にシンプルな哲学ですけど、それまではそのシンプルなことができなかったということです。

 今、赤字のところはどうかということですが、赤字ということは、基本的にその業種、その業態において、お客様から見て、ほかのところよりも、優れているとは言えないという評価が出ているということです。だから、それは未来に生き残れる率が厳しいことを意味しています。黒字が出たとしても、儲かっているからその黒字部分をパーッと使ってしまえばいいかといえば、それは間違いで、将来のリスクに備えなければいけないということです。

 実際にいい店は、地味にコツコツと客筋を増やして、地味に売り上げを上げていく。とにかくリピート客が増えていくことが大事です。一見さんばかりだといつまで経っても大きくなりません。いくら広告しても一見さんしか来ないなら、それはもうほとんど意味がありません。

 リピーターが出て、繰り返し繰り返し来てくださるということは、それ自体が広告です。繰り返し来る方がいると、ほかの人を誘ってくださるのです。必ず「いいですよ、あそこは」と、言ってくれるので。そういうことはあります。

 お客さんというのはとても敏感に分かるものです。一回失望したらもう来なくなることがあります。

 商売発展において一番いいのは、リピーターを繰り返し逃さないように捉えながら、新規の客が増えてくることです。リピートすべき古い付き合いになる客がどんどん離れていきながら、新しい客ばかりいつも追いかけているような状況だと、経営はいつまで経っても安定しません。その辺はよく客筋を見てください。

 リピーターが多いようだったら成功しているけども、リピーターが多いと言っても、限られた人しか来ないようだったら、これはまたちょっと危ない。リピーターをどうつくるかというのは、最大の宣伝、広告に当たるということです。経営の安定にもつながるということです。他のところのサービスや内容を知らずに、みんなやっていると思いますので、その辺が違いです。「自己判断をよくするように」ということです。

 

値決めは経営

 もう一つ知らなければいけないことは、「値決めも経営」なんだということです。値決めが経営だということを知らない人は多いです。

 値決めは部下がやるものだと思って、下のほうで適当に値段を決めたりすることが多いです。値下げしたり値上げしたり、適当にやっているのは間違いです。値決めは経営なんだということ。値決めを間違ったら倒産するんだということです。

 「リピーターが来るようなことなども注意しなければいけない」のと、あとは「値決めも経営」だということを忘れないようにしてください。自分自身の値段、あるいは自分たちのやっていることのサービスの値段などはよく知っていなければいけません。

 ただ、値決めも経営ですが、その「値段」×「数量」が売り上げなんだということまで頭に入っていなければ、経営者ではないということです。あと、値段と数量との読み。これは読みですね。経営予測です。

 それからローコスト化は基本です。ローコスト化がサービスの減退や商品の質の減退になるなら、これは限界があります。できるだけそうしたものに影響しない部分でローコスト化できるかどうかを考えていくことから始めなければいけないということです。

 商品の味が悪くなったり、サービスが悪くなったりしたら、ローコスト化は駄目です。お客は増えているのに、従業員を減らしていけば、サービスは悪くなります。それで「収益が上がった」とか言っていたら、それはいずれ潰れます。そういうこともあるので、この辺の”変数”をよくよく見てやることが大事です。

 それから、空いた時間をつくったら、次の「未来商品」というか、「未来サービス」というか、「次の仕掛け」というか、そういうものを考えなければいけません。これはやっぱり常に考えておかねばならないことだと思います。今はよくても、いずれこれが駄目になることもあるということ、次はどうするかも考えておかなければいけないということです。

参考

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