ドラッカー マネージャー = 経営管理者

 マネージャーという語は本来「経営管理者」と訳されるべきものです。しかし、このように表現すると、どうしても企業のトップ・マネジメントのニュアンスが強くなります。

 マネジメントの定義を前提にすると、マネージャーの意味は全く異なるものになります。「マネジメントを実行する人」、そのような人すべてを マネージャーと呼びます。

 マネジメントを実行するとはどういうことなのでしょうか。

 マネジメントとは、組織をして成果を上げさせることです。となると、「マネジメントを実行する」とは、組織が上げるべき成果に責任を持つことに他なりません。したがって、組織の成果に責任を持つ人、これがマネージャーということになります。

 仮に皆さんが部課の長、グループの長に就いているとしたならば、部課やグループが上げるべき成果に責任を持っているはずです。また、部下がいなくても、組織の成果に対して何らかの責任を持っているはずです。

 このように、組織が上げるべき成果の一部にでも責任を持つ人ならば皆マネジャー、すなわち経営管理者の一人なのです。

 

マネージャーに必要な5つの基本能力

   (『マネジメント 基本と原則』より)

1 目標を設定する能力

 マネジメントは目標に対して、深く広く向き合い、具体的かつ適切に設定する能力が求められます。目標をきちんと設定するには、目標とは一体どう在るべきかを知らなければありません。『マネジメント 基本と原則』では、目標について、以下のように述べられています。

 目標には、はじめからチームとしての成果を組み込んでおかなければならない。それらの目標は、常に組織全体の目標から引き出したものでなければならない。組み立てラインの職長さえ、企業全体の目標と製造部門の目標に基づいた目標を必要とする。

 つまり、組織としての成果を軸に、多様な視点で適切な目標を設定する能力が必要だということです。

 ドラッカーの言うマネジメント理論では、以下のような分類がされています。

①短期的目標 短期的目標は、1週間から1ヵ月のスパンで達成する目標のことです。短期的目標の期間は、長期目標のスパンの長さに準じて変動していきます。

②長期的目標 長期的目標は、標準として2~3年のスパンで達成する目標のことです。本人の環境や境遇、立場といった条件の関わり方で、その長さは変動していきます。

③無形の目標 無形の目標とは、有形の目標達成をするのに欠かせない、あるいは身に付けなければならないことです。具体的には、才能や能力、習慣などのことを指します。

④部下の仕事ぶりと態度における目標 部下がどのような目標を持ち、達成するつもりなのかを個々に確かめ把握しておくことも、マネージャーに求められる能力です。また、その目標に向けている途中で起こり得る悩みや問題への対応にも注力していくことになります。

⑤社会に対する責任についての目標

2 組織化する能力

 マネジメントには、人を束ね、組織として機能させる力が求められます。

 組織化する能力とは、個の集合から全体を創造する力であり、ドラッカーは『マネジメント 基本と原則』の中で、「マネージャーは、自らの資源、特に人的資源のあらゆる強みを発揮させるとともに、あらゆる弱みを消さなければならない、これこそ真の全体を創造する唯一の方法である」と述べています。

 資源が何かを常に考え、資源を強い力に変え、弱みを削ぎ落しながら、全体の組織を昇華させる力が、マネジメントには必要であるという考え方です。

3 コミュニケーション能力

 マネジメントには、組織の成果を上げるための高いコミュニケーション能力が求められます。ドラッカーは、『マネジメント 基本と原則』の中で、コミュニケーションについて、「コミュニケーションとは、知覚であり、期待であり、欲求であり、情報法ではない」と定義しています。

 受け手の知覚能力を考慮しなければ、コミュニケーションは成立しません。コミュニケーションは、期待しているものは受け入れられ、期待されていないものは避けられます。相手の期待を知ることで、期待を利用することができると考えているのです。

 コミュニケーションは、相手の欲求との合致に左右され、また、コミュニケーション力次第で、欲求を変えることもできます。そして、コミュニケーションは、単に情報を与えることではなく、きちんと知覚させることが大事であるという考え方です。

 「相手の期待や欲求を理解し、利用しながら、知覚レベルに落とし込むコミュニケーションを行う力がマネジメントに求められる」という考え方と言えるでしょう。

4 評価測定能力

 マネジメントには、組織を構成する基礎単位となっている人を評価し、測定する能力が求められます。ドラッカーは、『マネジメント 基本と原則』の中で、「人には、それぞれの理想、目的、欲求、ニーズがある。いかなる組織であっても、メンバーの欲求やニーズを満たさなければならない。この個人の欲求を満たすものこそ、賞や罰であり、各種の奨励策、抑止策である」と述べています。組織に属する人の欲求やニーズをきちんと評価し、評価に対する具体策を管理することで、組織で働く人は自らの位置付けや役割を理解していくと述べているのです。

5 問題解決能力

 マネジメントには、問題を見極め、適切に対処する力が求められます。問題の対処の仕方について、ドラッカーの『マネジメント 基本と原則』の中では、「あらゆる決定と行動において、ただちに必要されているものと遠い未来に必要とされているものを調和させていくことである」と定義されています。問題とはネガティブな壁ではなく、組織が成果を出すために考えられるあらゆる可能性です。

参考

マネージャーに求められる資質

 「人のマネジメントに関わる能力、たとえば議長役や面接の能力は学ぶことができる。管理体制、昇進制度、報酬制度を通じて、人材育成に有効な施策を講ずることもできる。だが、それだけでは十分ではない。スキルの向上や仕事の理解では補うことのできない、ある根本的な一つの資質が必要である。人としての真摯さである。最近は、愛想をよくすること、人を助けること、人付き合いをよくすることが、マネジメントの資質として重視されている。だが、そのようなことで十分なはずがない。(著書「経営の真髄」)

 マネージャーには、必ず成果をあげるという強い意思を持って仕事に取り組み、成果をあげるために何をするべきかを考えて判断することが求められます。

 部下を評価するときも、プロセスではなく成果を評価することが大切です。プロセスを評価してしまうと、部下は良いプロセスを見せることを重視するようになり、結果を真剣に追い求めなくなってしまう恐れがあります。

 

マネージャーの資質である「真摯さ」

 ドラッカーは、『マネジメント 基本と原則』の中で以下の様に述べています。

 「真摯さという言葉を繰り返しこの書籍でドラッカーは用いていますが、部下の仕事ぶりを結果で評価し、成長する環境に注力するマネジャーの姿が浮かびます。

 マネジャーは、人という特殊な資源とともに仕事をする。人は、ともに働く者に特別の資質を要求する。

 人を管理する能力、議長役や面接の能力を学ぶことはできる。管理体制、昇進制度、報奨制度を通じて人材開発に有効な方策を講ずることもできる。だがそれだけでは十分ではない。根本的な資質が必要である。真摯さである。最近は、愛想よくすること、人を助けること、人づきあいをよくすることが、マネジャーの資質として重視されている。そのようなことで十分なはずがない。」

 事実、うまくいっている組織には、必ず一人は、手をとって助けもせず、人づきあいもよくないボスがいる。この種のボスは、とっつきにくく気難しく、わがままなくせに、しばしばしばしば誰よりも多くの人を育てる。好かれている者よりも尊敬を集める。一流の仕事を要求し、自らにも要求する。基準を高く定め、それを守ることを期待する。何が正しいかだけを考え、誰が正しいかを考えない。真摯さよりも知的な能力を評価したりはしない。

 このような資質を欠く者は、いかに愛想がよく、助けになり、人づきあいがよかろうと、またいかに有能であって聡明であろうと危険である。そのような者は、マネジャーとしても、紳士としても失格である。  真摯さとは、部下のモチベーションを高めたり好感を得ることではなく、部下の仕事ぶりを厳しく成果で評価することである、とドラッカーは伝えたかったのかも知れません。

 部下を成果で評価することは大事です。プロセスを評価してしまうと、部下は良いプロセスを見せることに集中してしまいまい、自らの成果を出すことを疎かにしてしまいます。  部下のプロセスには口出しをせずに、成果を評価し続けることが、マネジメントでは重要となってきます。