経営理念

 企業の創業者や経営者が掲げる経営理念は、社員の行動指針や企業の姿勢を示す重要な役割を担います。

経営理念とは、企業の創業者や経営者(社長)が示す、企業の経営や活動に関する基本的な「考え方」、「価値観」、「思い」、そして「企業の存在意義」を指したものです。

 経営者には、経営を行う上での「信念」や「哲学」がありますが、それを言語化し、周囲に伝わるようにしたものが経営理念です。

戦略は企業の意思決定の指針と重要なものですが、企業には経営戦略以外にも指針となるものがあります。それが経営理念です。

 経営理念は、企業経営を行っていく上での活動のよりどころ、指針を与えるものです。また、経営理念は戦略策定の際の前提となるもので、戦略の上位概念として位置づけられます。

 

「経営理念」の定義

 「企業経営における基本的な価値観・精神・信念あるいは行動基準を表明したもの」(広辞苑による)

 組織に方向性を持たせ、成果をあげさせるためには「理念」なり「目標」なりが必要となります。

 経営トップは、求心力の核となるべき精神的主柱を社員に提示する必要があります。これが「経営理念」であり、「目標設定」です。

 「経営理念」というのは、「わが社はどの方向に向かっていくのか」、「わが社は何のために存在しているか」、さらには「わが社の行動原理」などを規定したものです。いわゆる「錦の御旗」のようなものです。

 

 優良な企業には多くの場合何らかの経営理念が作られており、その理念を浸透させる取り組みを通じ、社員一人ひとりが組織の一員としての自覚を持ち、やりがいを感じながら日々の業務を遂行する状態を実現しています。

 また、新たに入社してくる社員や取引先企業の立場からも、その企業の持つ経営理念に共感して入社を希望したり、取引を継続するということもごく自然に見られる現象です。

 しかし、社長の立場から見て「社員が期待通りの行動を取ってくれない」「社員によって顧客対応にばらつきがある」と悩む中小企業の多くでは、まだこうした「経営理念」そのものが定まっていない、あるいは経営理念はあってもそれを浸透させる取り組みが不十分であるケースが見られます。

 少数精鋭体制で事業活動に臨まなければならない中小企業だからこそ、社員一人ひとりに経営者と同じ気持ちで業務を遂行し、顧客と対応してもらうための「経営理念」の重要性は高いと言える。

企業としての方向性や判断軸を示すことで、従業員の意識が統一される

 経営理念を策定する一番の目的は、従業員に対して、「経営を進めていく上での判断基準」を明確に示すことにあります。経営者には、必ず経営を行う上での「信念」や「哲学」がありますが、それを言語化し、周囲に伝わるようにしたものが経営理念です。経営理念を通じて、「何のために、この会社は事業を展開しているのか」「どのような経営を目指しているのか」といった企業としての方向性や判断軸を示すことができます。それにより、「何のために」「どのような業務に」取り組む必要があるかを、従業員一人一人が理解し、従業員の意識が統一されるでしょう。また、企業と従業員との間で共有・形成される独自の価値観や文化を意味する「企業文化」を醸成する上でも、経営理念は重要とされています。

 経営理念は、経営者(社長)を含む全従業員が納得できる内容を作成する必要があります。しかし、作って終わりではありません。社会や従業員に理解してもらうため、根気よく浸透させていく必要があります。そして、時代の流れや社会ニーズによって企業の存在意義も変化するため、それらに合わせた経営理念を再定義していくことも必要です。

 

「企業理念」との関係

 「企業理念」とは、企業として最も大切にしている基本的な考え方・価値観を明文化したものです。企業としての在り方や存在意義、目的などを示したものとも言えます。企業理念は、企業として重要な意思決定を行う際の基準となります。企業としての「哲学」であるため、経営者が交代しても引き継がれることが多く、「変化しにくい」とされています。

 一方、経営を行う上での基本的な考え方・価値観を明文化した「経営理念」は、経営を進めていく上での判断基準となるものです。経営理念には、経営者の「思い」「信条」が反映されるため、経営者の交代に伴って変化する可能性があります。また、時代やニーズの変化を受け、経営理念を変える企業もあります。

 すなわち、内容が変化しやすいかどうかが、経営理念と企業理念の一番の違いだと言えるでしょう。また、企業としての基本的な考え方・価値観があってこそ、経営を行う上での基本的な考え方・価値観を定めることができます。このことから、経営理念と企業理念とを比べると、企業理念の方が上位概念と位置付けられています。

 経営者(社長)は従業員から選定されることもあれば、ターンアラウンドマネージャーとして外部から受け入れられることもあります。その点を考慮すれば、企業理念は「創業者のみが持つ信条や考え」と理解でき、経営理念は創業者の信条や考えを継承し、「時代の変化やニーズによって、再定義・再設定されるもの」という点で、違いを見出すことができます。

 会社の方針や考え方を示す用語として、「社是」や「社訓」もあります。社是とは「会社・結社の経営上の方針・主張」と定義され、社訓は「企業の経営理念や、また従業員の守るべき範を定めたもの」と定義されています。

 しかし、広義的なレベルで解釈すれば、経営理念と同じ意味として捉えることができます。一方、狭義的なレベルで解釈すれば、社是は企業が掲げる「大きな方針を言語化したもの」であり、社訓は「創業者や経営者(社長)の教え・戒め」と理解することができます。

 いずれも、経営理念と同じく、従業員の行動指針や企業文化の形成に強く関わる性質を持っています。

 

経営理念を掲げる目的

組織の行動指針を示す

 経営理念は、経営者(社長)を含む全従業員に示す組織の行動指針として、活用されます。「何のためにこの会社は存在しているのか」、「会社の目指す方向性は何か」という問いに対する答えを明確にし、組織としての行動指針を示すことで、社員が抱える迷いを払拭し、自分自身が置かれている立場や取り組むべき業務を理解させることができます。

企業価値を高める

 明確な経営理念を打ち出すことは、企業価値や企業ブランドイメージの向上にもつながり、社会へのアピールとしても効果的です。

 経営理念は、企業のWebページや企業パンフレットに掲載することで、社外へも広く浸透させることができます。経営理念は企業の考え方や価値観、そして、社会的使命を明示するものであり、「社会へのメッセージ」として発信することは、最終的に企業の利益へとつながります。

 企業価値を高めることで、優秀な人材の維持確保や顧客の獲得につなげられるため、企業の姿勢を発信する目的でも策定されます。

企業経営の判断軸を作る

 経営理念は、企業経営を担う経営者にとっても重要な判断軸であり、経営戦略にも大きな影響を与えます。経済合理性と企業のあるべき姿を天秤にかけた際、判断の決め手となることも多く、企業活動には欠かせないと考えられます。

 経営理念があることで、経営陣の決定事項にも従業員や投資家(株主)の理解が得られやすくなり、組織一丸となって、事業に取り組むことが可能です。

 また、経営者を含む全従業員の行動方針でもある経営理念は、コンプライアンス遵守にもつながり、企業人としての自覚と責任を促す効果も期待できます。

 多くの企業が、企業の存在意義を確立させるために経営理念を掲げますが、経営理念を掲げることでさまざまなメリットも得られます。

優秀な人材のリテンション(維持確保)

 少子高齢化・労働人口の減少により、日本社会は深刻な人材不足に陥っており、各企業による優秀な人材の獲得競争が過熱しています。そのため、中小企業だけでなく、大企業も優秀な人材のリテンションに向けた取り組みが急務であり、従業員が働きやすい労働環境の提供と業務内容の明確化は重要な経営戦略とされています。そこで、優秀な人材を維持確保する体制作りを行なうと同時に、その基盤となる経営理念の存在が鍵となります。

 社員ひとり一人が「どのような役割を担い、組織・社会に貢献できるか」を自ら考え、行動するための基本方針である経営理念が欠かせません。自らの考えが活かされ、ビジネスパーソンとして評価されることは、従業員満足度を高め、結果的に優柔な人材のリテンションへとつながります。

企業価値やブランドイメージが向上し、人材の確保や顧客の獲得につながる

 経営理念は、企業の公式ウェブサイトやパンフレットなどを通じて社内外に発信されます。経営理念を通じて、「このような思いで、経営を行っています」という経営者の信条や、「○○な社会の実現を目指します」といった企業の社会的責任を伝えることは、社外に対して企業の魅力を発信することにもつながります。経営理念を社外に示すことにより社会的信頼が得られ、企業価値やブランドイメージが向上するでしょう。それにより、「この会社で働きたい」と希望する求職者が増え、人材を確保しやすくなるといった効果が期待できます。また、経営理念に共感した個人・法人が、「この会社の商品を買ってみよう」「この会社と取引をしよう」と思うようになり、結果的に顧客の獲得にもつながる。

 経営層の意思決定は、収益性と企業倫理のバランスの上に成り立つことがあります。あちらを選択した方が本当は儲かるが、それは会社のあるべき姿に反する などです。社員や投資家からは別の選択肢を選ばなかったことへの反発があるかもしれません。その際も、憲法、法律としての理念が、経営者の後ろ盾になるのです。

 理念に共感してくれるのは、就職を検討している人だけではありません。一般の顧客も理念に影響されます。共感度が高く、会社の強い意思が感じられる理念に惹かれて商品・サービスを購入する顧客も多いのです。

経営戦略・方向性の判断基準

 経営理念の策定は、企業に所属する全従業員の判断基準として機能します。企業が進むべき方向性や業務を遂行する上での判断基準は、組織が掲げる考え方や価値観に起因します。人間は自らの考えや価値観で行動や判断を決定するため、企業に所属するビジネスパーソンは、経営理念に共感・共有することで自らのパフォーマンスを最大化します。

 経営戦略を策定・決定する経営陣から、お客様と直接対面する現場の社員まで全て、経営理念という判断基準に従って行動に移すことができます。その結果、お客様に熱い想いが伝わり、意思決定や業務遂行における漠然とした不安の払拭にもつながります。

他社との差別化を図り、そのまま成長戦略となる

 経営理念は他社との差別化になります。コモディティ化が進んだ現代では、ユーザーから見える商品の差異はとても少ない。そんななか、どう差別化するか。その一手が経営理念です。他社と差別化された経営理念を生み出すまでには、他社にない自社独自の強みを探ります。発見した強みを表現した経営理念は、そのまま企業の成長の道しるべともなります。理念づくりは戦略策定に近いのです。

従業員のモチベーションの維持・向上

 従業員のモチベーションを維持・向上させる上でも、経営理念を浸透させることは大切です。経営理念は企業が掲げる考え方や価値観を共有する役割を担っているため、従業員に「社会的使命を有する組織に所属している」という実感を与え、従業員同士の絆を強化します。

 また、経営理念は明確な判断基準となることから、従業員が自ら考え、行動する機会を促し、自己の成長を実感させることもできます。その結果、企業と従業員との間に信頼関係が構築され、従業員のモチベーションを維持・向上につながります。

 従業員のモチベーションの維持・向上は組織力の強化を促し、どんな困難な状況でも突破できるリーダシップを兼ね備えた人材育成にも効果的です。

 

経営理念とビジョン

 経営理念は、企業のトップには企業の進むべき方向性を示すという大切な役割があります。そのために、重要なことは、時代の流れを超えてどのような経営の姿勢を貫くのかという企業としてのスタンスを示したものが経営理念となっています。

 そして、経営理念をもとに、従業員や顧客、そして世間に対して具体化して表現したものが「ビジョン」となります。

 「ビジョン」とは目標のことです。会社の将来像やあるべき姿を規定します。ミッションが「何をするか」だったのに対して、ビジョンは「何になるか」だといえます。

 会社のホームページにビジョンや社是を記載する場合、それらは何となく書いておけばいいというものではありません。働く目的をはっきりさせるための大きな設計図となります。このトップのメッセージをきちんと設計し、現場の従業員まで浸透させて、トップと現場が同じ方向を向かせることが可能となります。そのためには、経営トップの方々は、自分の言葉で情熱を持ってこのようなビジョンを記載することが肝要です。自分が描くビジョンを説得力を持たせながら納得させるためには、一度示しただけでは不十分であり、現場から常に見られていることを意識して、ビジョンを伝え続けることが大切となります。

 経営理念やビジョンは、自社の存在意義や果たすべきミッションを普遍的な形で表現した基本的価値観の宣言と言えます。

 これらは経営戦略の上位概念として成り立っており、ここには企業として中長期的に成し遂げていたい市場におけるポジショニングを示しています。

参考

社是・社訓との関係

 「社是」とは、企業が是(正しい)とする考え方や企業の経営上の方針・主張です。一方、「社訓」は、従業員が企業で働く上で意識したいこと、すなわち、守るべき行動や創業者や経営者の教え、戒めを意味します。

 社是はミッションに、社訓は行動規範に近いものとも言えるでしょう。また、経営理念と企業理念の両方の要素を含んだものとも考えられます。

 

経営理念、経営ビジョンを明確にする

ビジョンの策定

 ビジョンとは、創業者や経営者の考える「将来ありたい企業の姿」または「事業を通じて成し遂げたいこと」、「企業が実現したい未来の姿」を示すブランド・ステートメントのひとつです。ビジョンは時代背景により適時に見直されることから、中長期的な事業目標とも言い換えることができます。

 明確なビジョンを掲げている企業は、自社が進むべき道を社内外に共有し、高い志を持って事業を推進しています。また、ビジョンを明確化する企業の従業員は特にモチベーションが高く、明確な将来像に向け、まっすぐ躍進する姿を多く目にします。企業と従業員の目標が一体化し、仕事の意味や意義をしっかりと理解できている状態です。こうして企業と経営者、経営者と従業員、企業と従業員のすべてが同じ目標に向け足並みをそろえることではじめて、全社一丸となって事業に取り組むことができます。そのために不可欠なのが「ビジョン」であり、企業ブランド、事業ブランド、商品ブランドの実現に、明確なビジョンが不可欠であると言っても過言ではないのです。

ビジョンと企業理念

 ビジョンと混合しがちな「企業理念」ですが、「法人格」と言われる企業には「人格」が存在します。その人格形成の根幹にあるのが「企業理念」です。企業理念は、企業が何のために事業活動を行うのかを言語化した基本的な価値観であり、企業の存在意義にあたります。時代背景により適時に見直されるビジョンの上位概念となり、時代を問わず普遍的な価値観であるため、経営判断にも多大な影響を及ぼすものと考えられます。企業理念の多くは、創業者の倫理観や人生観、思いや価値観が言語化されており、創業から現在まで築き上げてきた、企業文化のDNAそのものであると言えます。

 

ビジョンの必要性

 ビジョンは経営者や経営層をはじめ、多くのステークホルダーに影響を及ぼします。企業経営面においては経営判断や投資・融資など、採用活用においては入社動機の形成から内定承諾に至るまで、日常業務においては従業員のモチベーション向上の原動力にもなります。私たちが行う企業ブランディングにおいて、ミッション(Mission)、ビジョン(Vision)、バリュー(Value)は企業ブランドに不可欠なブランドスローガンであると同時に、コーポレート・アイデンティティ(CI)の核となる重要なメッセージです。

 ビジョンを明確化することで、企業のありたい姿、成し遂げたいことを明確化することができます。ビジョンとは、まさに事業の最終到達地点であり、目的地であると言えます。目的地が明確にできれば、そこまでどのように辿り着くかの戦略を立てることができます。逆に目的地がなければ、戦略の立てようがありません。現代におけるビジネスは、いかなる業種・業界においても競争が激化しており、新業種・新業態であったとしても、いつ誰が類似する事業を行い、ある日突然に競争環境にさらされるか分からないため、安心してはいられません。その際、右往左往しないためにも、ビジョンを明確化し、しっかりとした戦略・戦術を体系立てておくことが大切なのです。

 ビジョンを明確化することで、経営者の判断基準を設けることができます。ビジネスはその運営において経営判断を必要とするケースが日常茶飯事に起こります。特に新事業の立ち上げや新サービスのリリースなどでは、大きな経営判断を必要とします。その判断基準となるのが、「何のために事業を行っているのか」というビジョンであり、ビジョン達成に向けどのような決断をするべきかの判断基準を持つことができるのです。また、ビジネスを創造する際の苦しみや、品質・売上・経営資金・人材への不安など多くの困難にも、目標達成の意欲を与えてくれるのがビジョンなのです。

 ビジョンを明確化することで、ステークホルダーを惹きつけることができます。企業経営や事業運営には、投資家や従業員をはじめ、販売店、仕入れ先、製造委託先、そして消費者など、多くのステークホルダーが関与してきます。より多くの投資を得ることができれば企業経営は安定し、より優秀な従業員が集まれば事業運営は円滑となります。また、販売店や仕入れ先、製造委託先の理解から協力を得ることができれば、競争力の高い商品・サービス展開を行うことができます。そして、消費者がファンとなり高いロイヤルティを得ることができれば売上は安定・向上し、事業の成功率が高まっていきます。だからこそ、ステークホルダーを惹きつける強力な原動力となるビジョンが不可欠なのです。

 

ビジョン開発の秘訣となる手法

1 創業者の思いを言語化する

 創業者(経営者)の夢や理想に基づき開発されるのが、最もベーシックなビジョン策定手法です。「こんな会社にしたい」「こんな未来をつくりたい」と創業者が思い描く理想をビジョンとして掲げていきます。ただし、創業者の思い描く理想をそのままビジョンにしただけでは、ステークホルダーに届き、心に響くメッセージになるとは限りません。むしろ、漠然としすぎている、または現実離れしすぎている、逆に冗長的になりすぎているなど、ビジョンとして掲げるには十分でないケースが大半です。このことから、ビジョン策定時には、創業者の思いを的確に評価し言語化する「チェック機能」を設けることが重要です。チェック機能は、ボードメンバーやマーケティングチームの他、私たちブランディングカンパニーを活用する方法があります。

2 情報を収集・分析し言語化する

 創業者(経営者)の夢や理想はもちろんのこと、事業に影響を及ぼす可能性のある長期的なマクロ環境情報(政治、経済、社会、など)や、業界の動向、自社の経営資源、そして市場の傾向やニーズなどを踏まえビジョンを策定する方法があります。ビジョンは長期的な目標となることから、時間を経ても劣化することのないよう言語化しなければなりません。だからこそマクロな視点で経済や市場と捉え、自社の経営資源に照らし合わせたビジョンを策定することが大切です。創業者の思いを言語化する場合と同様、開発には自社のボードメンバーやマーケティングチームを活用する他、私たちブランディングカンパニーにご依頼頂く方法があります。

 

ビジョンの実践

 ビジョンはあくまでも「理想とする姿」「実現したい未来」であり、ビジョンの実現に向けて実施が成されなければ意味のない言葉に成り下がってしまいます。だからこそ、ビジョンを掲げた後、ビジョンの実現に向けた経営計画に落とし込む必要があります。ビジョンは経営計画のゴールとなり、経営計画はゴール向けたプロセスです。プロセスにはミッション(使命/任務)があり、ミッションを通じてビジョンの達成を図ります。

 経営計画は時系列で作成し、その時々で何を実行するのかを落とし込んでいきます。

1 ステークホルダーへの浸透を図る

ビジョンは、経営者が理解しているだけでは実現には至りません。株主や経営層、従業員やそのご家族、事業関係者となる販売店や委託先、さらには消費者など、できる限り多くのステークホルダーに共有できてこそ、実現の可能性を高めることができます。また、多くのステークホルダーの協力を得ることで初めて実現することができるのです。
 そのために不可欠なのが、創業者や経営者自らが、ステークホルダーに繰り返し伝え続けることです。社内ステークホルダーには会社説明会や入社式、研修やミーティングなどの場で伝え続けること。その際、ワークショップを行い、ビジョンの達成に向けたアイデアをディスカッションする方法も有効です。また、外部ステークホルダーには、事業計画書、企画書、提案書など、あらゆる書類に落とし込み、繰り返し伝え続けていくことが大切です。
 また、言葉として伝えるだけでなく、創業者や経営者自らが実践することが大切です。お客様第一を掲げるのであれば、どのような場合であっても常にお客様第一を貫かなければならないし、社会貢献を掲げるのであれば、常に社会貢献に努めなければなりません。創業者や経営者は常に見られています。トップが実践しないビジョンは決して浸透することはありません。

2 ビジョンの浸透度を調査する

 ビジョン策定後、ステークホルダーへの浸透を図り、経営者および従業員がビジョン達成に向け継続的な実践を図った後は、ビジョンの理解度や浸透度を定期的に調査・検証・分析するのが望ましいと言えます。ビジョンの浸透には、継続的な取り組みが不可欠です。調査結果が望ましくない場合、従来同様の方法で長期間ビジョンの浸透を図るか、別の取り組みを企画しビジョンの浸透を加速させるかを再検討する必要があります。
 ビジョンの浸透調査で最も容易なのは、匿名でのWebアンケートです。匿名であれば誰しも正直に回答することができます。選択式の適切な設問を用意し、年1回のビジョン浸透度調査を行なっていきましょう。Webアンケートは無料で使用できるツールもWeb上に多数公開されています。

 ビジョンの浸透に関して大切なのは、「ビジョンをステークホルダーが記憶しているか」ではありません。「浸透したビジョンが経営・運営に生かされているか」です。たとえステークホルダーが一言一句間違いなくビジョンを言えたとしても、それが事業運営に生かされていなければ、なんの意味もありません。浸透を図ると同時に、その意味や意図を正しく共有し、ビジョンの達成に向け一丸となって取り組むことが大切です。

 

「経営理念」「ビジョン」「戦略」「戦術」の関係

 企業経営において、「経営理念」「ビジョン」「経営戦略」「戦術」はピラミッドを形成しています。

 各関係性は、経営理念を達成するための打ち手がビジョンであり、ビジョンという目標を達成するための打ち手が経営戦略、経営戦略を達成するための打ち手が戦術となります。

 このピラミッドは、上位ほど中長期的な視点や抽象的であるのに対して、下位にいくほど、短期的な視点や具体的な内容となっています。

 これらの4階層の内容は密接に関連しており、上位から下位の整合性を図ることが重要となります。

 経営ビジョンを実現するためのシナリオとして「経営戦略」が、さらに経営戦略を実現するための具体策として「経営戦術」があります。最も上位の概念である経営理念は、これら3つに比べて中期的かつ抽象的なものと位置付けられています。

参考

 経営理念は、企業に正統性と存在意義と方向性を与え、経営に関わるあらゆる戦略、判断、行動などの基準となるべきものです。

 経営理念は、経営トップの持つ使命感、理想、信念、価値観などを表したものでなければならない。そして、それは、多くの社員が共感し、勇気づけられ、発奮の原動力となるべきものでなければならないし、さらには社会の発展につながるものでなければならない。

 経営理念から、新たな戦略やビジネスモデル、あるいは商品やサービスを生み出す。経営理念に基づいて、社員や経営担当者の教育を行うことによって、経営マインドを持った社員が生まれる。

 経営理念には、組織をまとめ、自身も迷いなく事業に邁進することができるという効用がある。

 経営理念の有無と企業の業績には相関関係がうかがえるという。ただし、経営理念を保有しているとはいえ、業績が低下している企業も、約6割の企業は経営理念の有無ではなく、その内容や浸透度さらには経営能力や その実践力などの問題も大きいと思われる。経営理念の社内への浸透なには課題が残る。

 正しい経営理念を定め、社員に徹底的に浸透させることによって、強い組織が生まれ企業の発展に繋がっていきます。人はミッションを共有し情熱をもって共に働くとき最大の成果をあげる。そして、これが企業発展の原動力となるのです。

 顧客がその商品やサービスを購入することによって、企業は経済的な資源を富(売上・利益)に変えることができる。

 時とともに変化する環境の中にあって、企業の目的が「顧客の創造」であることから、企業には二つの基本的な機能が必要となる。その基本的機能が「マーケティング」「イノベーション」である。

 ビジネスで言えば、業態と組織のこと。武器は商品サービス。マーケティング戦略の実行、マネジメント、オペレーションといった実行に関することです。

 「顧客第一主義」の本質

経営理念づくりの検討事項

 目的・メリットを達成するためには、次のような点を検討しながら理念づくりにあたるべきです。

 ・その理念で会社の歩むべき方向がわかるか

 ・現状維持の理念ではなく、成長のための変革創造が意識されているか

 ・その理念は社員向けの事業計画やタスクにまでブレイクダウンできそうか

 ・その理念には他社にない自社ならではの強みや違いが明快に言語化されているか

 ・その理念は現代において通用するものか

 ・その理念は社外の人間にもわかりやすい表現になっているか

よい経営理念の条件

 ・わかりやすい言葉で表現されていること

 ・内容がしっかりしていること

 ・内容に一貫性があること

 ・自社の置かれた状況にマッチしていること

 ・経営ビジョンや経営戦略などを考えるヒントがあること

 ・企業の成長性を感じられること

 ・社会貢献につながる内容であること

 経営理念は、「ただ策定すればよい」ものではなく、「社内に浸透してこそ価値がある」ものとされています。そのため、まずはわかりやすい言葉で表現されていることが重要です。「経営を行う際に最も大切にすること」を社内外に示すものであるため、内容がしっかりしていることや、内容に一貫性があることも重要だと考えられます。

 また、「企業としてのフェーズ」や「市場のニーズ」などに各社で違いがあることから、自社の置かれた状況にマッチしていることも必要です。企業経営を考える際の最上位の概念が経営理念であるという点を踏まえると、経営理念を実現させるための経営ビジョンや経営戦略などを考えるヒントがあるということも重要な条件と言える。

 企業の成長と従業員の成長は密接にリンクしていることから、企業の成長性を感じられることも重要です。このほか、企業の社会的責任(CSR)の観点から、社会貢献につながる内容であることも重要だと考えられています。

 

経営理念の策定

1 基本理念の策定手順

 基本理念とは、自社(経営)理念の核となるもので、継続的に事業活動を行い存在し続ける自社体(ゴーイング・コンサーン)であることを前提として、自社の存在意義と目的すなわち社会的責任(社会的使命)を社内外に示すためのものです。

 つまり、「わが社は社会的にどんな役割を果たしているのか、どんな点で社会になくてはならないのか」を文章で表したものが基本理念です。

(1)シートへの書き出し

 自社の存在意義や目的、また社会的な責任について書き出してみましょう。これは、あくまでも下準備ですので、メモ書きで構いません。思いつくまま、どんどん書き出してみて下さい。

(2)キーワードのピックアップ

 次に、シートに書き出したものの中からキーワードをピックアップします。

 例えば、「自然環境」、「喜び」、「安心と安全」など、自社の社会的な使命(ミッション)とはこれだというキーワードを選び出します。

この段階では、数にこだわる必要はありません。「これこそがわが社を表現する絶対唯一のキーワード」と思われるものがあれば一つだけでも構いませんし、5個でも10個でもOKです。

 一般的には、3~5個に絞り込んでおくと次の作業(基本理念の成文化)の際に便利でしょう。

(3)基本理念の成文化とCPSの原則

 「自然環境に優しく、人々に喜びを与える企業を目指します」などのように、ピックアップしたキーワードのうち特に重要なものを選択・整理し、文章化します。

 基本理念成文化の際のポイントは、

 C(Creative=独創的)

 P(Powerful=力強さ)

 S(Simple=簡潔)

な表現、つまり、CPS三原則を心がけることです。

2 行動理念の策定手順

 行動理念とは、企業の経営姿勢、企業としての行動基準、すなわち、事業活動にあたっての価値基準のことをいいます。

 具体的には、「経営革新への取り組み姿勢」のほか、事業、顧客、商品(サービス)、さらには社員に対する取り組み姿勢などを表したものです。

 それぞれの項目について経営者の「思い」を書き出してみます。

基本理念策定シート

 ・わが社の存在意義、存在目的

 ・わが社の社会的責任

行動理念策定シート

 ・経営革新への取組み姿勢

 ・事業への取組み姿勢

 ・顧客(取引先)への取組み姿勢

 ・商品(サービス)への取組み姿勢

 ・社員への取組み姿勢

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