GEのビジネススクリーン

 PPMの限界を補うために考案されたのがビジネス・スクリーンです。

 多くの事業や製品群を持つ大企業にとって、資金や人などの経営資源をどのように配分するのか ということは最も重要な意思決定であり、経営に決定的な影響を及ぼします。複数事業への経営資源の配分で悩んでいたのが1960年代のGE(ゼネラル・エレクトリック)でした。GEは、戦略コンサルティングファームのボストン・コンサルティング・グループ(BCG)とPPMのフレームワークを開発し、その後、マッキンゼー・コンサルティングと共にビジネス・スクリーンのフレームワークを開発しました。GEはこれらのフレームワークを用いて1970年代には170以上も抱えていた事業を40近くまで整理統合しました。そして、経営資源の投資順を合理的に意思決定し、大躍進を果たしました。さらに1980年代にジャック・ウェルチ氏がCEOに就任すると、この40の事業が「世界No.1もしくはNo.2になれる事業か否か」という考えで再精査し、テレビやエアコンなどの家電部門を売却も行いました。その結果、GEの株式時価総額は50兆円を超えるまでになり、現在も世界有数の企業として君臨しています。

 PPMは4領域に分類して分析を行ったことに対し、ビジネス・スクリーンでは、縦軸に「事業の魅力度」、横軸に「事業地位」をとり、それぞれを高・中・低の3段階に分け、全部で9領域に分類します。

 PPMが市場成長率と相対的市場シェアだけで分類していることに対し、ビジネス・スクリーンでは軸に選択肢を設けているため、状況に応じた分析が出来ることが特徴となっています。

 縦軸の「事業の魅力度」の具体的な指標は、「市場の成長率」「市場規模」「市場の収益性」などが考えられます。横軸の「事業地位」は、「自社の市場シェア」「コスト」や「売上高」などが考えられます。これらの中から自社の状況に応じて指標を選択します。

 

GEビジネススクリーンから得られる戦略的施策

1 投資/成長戦略

どのビジネスユニットに投資すべきかを選択できます。

ジャックウェルチ氏が率いていた当時の「世界でNo.1かNo.2になる事業以外捨てる」という戦略をとることもできれば、ある程度の成長性が見込めるユニットに継続して投資し続ける選択ができます。

 

2 選択性/収益戦略

ホールド戦略とも呼ばれます。魅力的な業界では低~中程度の競争力のあるユニットです。魅力の少ない業界でも非常に高い競争力のある地位にあるユニットは、安定した収益を上げることも多く、事業継続は経営判断となるでしょう。ホールドする事業であり、より競争力を高めたり、魅力的な市場に進出したりする選択ができます。

 

3 収穫/ダイブ戦略

GEビジネススクリーンによって魅力のない業界におり、自社の競争力も低い象限にあてはまる場合、戦略的対応として事業売却があります。売却によりキャッシュを収穫し、自社の強みを生かせるユニットに投資できます。

 

GEビジネススクリーンの使い方

ステップ1 各ビジネスユニットの業界の魅力を判断する(縦軸)

縦軸の指標を決定します。業界の魅力や業界での地位も自社独自で設定し、数値で割り当てる必要があります。

業界の魅力:1~5

重要度:0.01~1.0

合計スコアを計算します。合計スコアにより、各ビジネスユニットの業界の魅力を比較できます。

 

ステップ2 各ビジネスユニットの競争力を判断する(横軸)

横軸の指標を決定し、こちらも自社が項目を選択します。さらに、1と同様数値で割り当てます。

業界の魅力:1~5

重要度:0.01~1.0

合計スコアを計算します。合計スコアにより、各ビジネスユニットの業界での競争力を比較できます。

 

ステップ3 ビジネスユニットをマトリックスにプロットする

すべてのビジネスユニットのスコアをマトリクスにプロットします。どの象限に位置するかで、投資すべきか、ホールドすべきか、収穫(売却)すべきかが俯瞰できます。

プロットする際に、収益性に円のサイズを比例させるとよりわかりやすくなるでしょう。

 

ステップ4 各ビジネスユニットの将来の方向性を特定する

他のプロダクトポートフォリオマネジメントツールと同じように、GEスクリーンも現状の自社の各ビジネスユニットの状況を俯瞰し、戦略を立てるためのスタートラインを提供するものです。

 

すべてのビジネスユニットをプロットしたうえで、全社的な事業戦略、個々のビジネスユニットの戦略構築に着手してください。

 ビジネス・スクリーンを用いることによって、分析をより精密化し、奥行きのある細やかな資産配分の検討ができるようになります。

 一方、分析がPPMに比べて主観的になる傾向があるため、使い方はPPMと比べ難しくなったと言えます。

 ビジネス・スクリーンのメリットは、様々な角度から自社に合った指標を選択し、分析を行うことができることです。そのため、評価の課程で指標を選択するという議論を加えることができ、最終的な意思決定に検討者を巻き込み、参加型で行うことができます。

 一方、デメリットは2点あります。

 1点目は、ビジネス・スクリーンでは評価に内部(社内)データを使うことが多く、競合他社との比較を行いにくい側面があります。競合他社を含めた意思決定を行うのには不向きと言えます。

 2点目は、様々な指標を自社に合った形で選択できるため、分析が主観的になってしまうことです。

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