人事権

 使用者は、事業活動を効率的に行うために、その職務遂行能力や適性に応じて、労働者を配置し、さらに労働の能力・意欲・能率を高めて組織を活性化するためのいろいろな施策を行う必要があります。この労働者の配置、異動、人事考課、昇進、昇格、降格、休職、解雇など、企業組織における労働者の地位の変動や処遇に関し、使用者が決定する権限を人事権と呼びます。

 人事権は法的な概念ではなく、労働契約に基づく指揮命令権の一内容ですが、昇格・降格などが使用者の一方的決定ないし裁量に委ねられていることの根拠として用いられます。すなわち、裁量の範囲を逸脱しない限り、その決定の効力は否定されないとされています。

 ・エクイタブル生命保険事件(東京地裁 平2.4.27)
 ・星電社事件(神戸地裁 平3.3.14)
 ・バンク・オブ・イリノイ事件(東京地裁 平7312.4)
 ・上州屋事件(東京地裁 平11.10.29)
 ・アメリカン・スクール事件(東京地裁 平13.8.31)

  しかし、人事権は労働契約によって基礎付けられているものですから、当事者の労働契約の合意の範囲内でのみ行使できます。判例においても、職務内容の変更が契約の同一性を失わない範囲とは言えず、別個の契約に変更することになるとして認められなかった事例(倉田学園事件 高松地裁 平元.5.25)があります。

 

 人事権は法律によっても規制されています。

 まず、権利の制限についての一般法理の適用を受け、労働契約の枠内であっても、相当な理由のない降格で、賃金が相当下がるなど本人の不利益も大きいという場合には人事権の濫用になるとされた判例があります。

 ・医療法人財団東京厚生会事件(東京地裁 平9.11.18)
 ・近鉄百貨店事件(大阪地裁 平11.9.20)
 ・ハネウェル・ターボチャージング・システムズ・ジャパン事件(東京地裁 平16.6.30)

 また、労働者が組合員であることや正当な組合活動等を理由として、不利益な取り扱いがなされたと認められる場合には、不当労働行為として救済の対象となります。

 さらに、解雇権の濫用については、裁判例の積み重ねによって確立されていましたが、平成15年に改正された労働基準法では、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、解雇はその権利を濫用したものとして無効とされることになりました。

 この他、労働基準法の均等待遇原則や男女雇用機会均等法に抵触するような人事権の行使は認められないなどの法規制を受けています。

 また、人事権は労働協約、就業規則等によっても規制を受けることがあり、使用者はこれらの規制の範囲内での一般的権限としての人事権を有するということができます。

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