就業規則(3)

第2章 採用及び異動等

 この「採用及び異動等」もトラブルの多い項目です。トラブルを防ぐためによく吟味して規定を作成しましょう。

 ○採用

 採用時の規定のポイントは、

 (1) 選考方法

   (2) 労働条件の明示

 (3) 採用前の研修

 (4) 採用時の提出書類

 (5) 試用期間

などが挙げられます。 

 

労働条件の明示

 労働条件等の明示方法を記載します。

 事業主は、労働契約の締結に際し、労働者に対して、賃金及び労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません。  下記の表の⑥~⑬(相対的明示事項)は、それらに関する定めを設けている場合にのみ、明示する義務を負う。なお、①~⑤(絶対的明示事項)に関する事項については、これらの事項が明らかとなる書面を労働者に交付しなければならない(昇給に関する事項については、書面でなくてもよい)。

 

絶対的明示事項

① 労働契約の期間に関する事項

② 就業場所及び従事すべき業務に関する事項

③ 始業および終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇ならびに労働者を2組以上に分けて就業させる場合の就業時転換に関する事項

④ 賃金(退職手当および臨時に支払われる賃金を除く)の決定、計算および支払いの方法、賃金の締切りおよび支払いの時期ならびに昇給に関する事項

⑤ 退職に関する事項

相対的明示事項  

⑥ 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算および支払の方法ならびに退職手当の支払時期に関する事項

⑦ 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与および労基則8各号に掲げる賃金ならびに最低賃金額に関する事項

⑧ 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項

⑨ 安全および衛生に関する事項

⑩ 職業訓練に関する事項

⑪ 災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項

⑫ 表彰および制裁に関する事項

⑬ 休職に関する事項

 

注意すべき就業規則規定例

第○条 (労働条件の明示)

 会社は、採用する者に対し、労働基準法第15条による労働条件を明示する。

 就業規則の開示がされず、しかも就業規則の内容について不十分な説明しか行われなかった場合には、労働基準法第15条違反が成立します。(日新火災海上保険事件 東京高 平12.4.19) 絶対的必要明示事項に係る書面交付が義務化されていることを考慮すると、この条文は具体的内容に欠けているのです。

就業規則規定例

第○条(労働条件の明示)

会社は、従業員の採用に際しては、採用時の賃金、労働時間その他の労働条件が明らかとなる書面及びこの規則を交付して労働条件を明示するものとする。

(1) 労働契約の期間

(2) 就業の場所及び従事する業務

(3) 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日及び休暇

(4) 賃金の決定、計算及び支払方法、並びに賃金の締切り及び支払時期

(5) 定年、退職となる事由、退職の手続、解雇の事由、解雇の手続及び退職金制度の対象の有無

(6) 退職金制度の対象となる従業員にあっては、退職金の決定、計算、支払方法及び支払時期

(7) 休職制度の対象となる従業員にあっては、休職事由及び休職時期 

2 従業員の労働条件は、この規則に定めるところによる。ただし、個別労働契約において、この規則を上回る労働条件を定めたときは、この限りではない。

 

内定

 新卒者の内定は、通常本採用の6ヶ月以上前に行うことが多いです。

 労働契約が成立しても、新卒者の都合あるいは会社の都合で内定を取り消すケースがありますので、就業規則に「内定取り消し理由」を明記しておく必要があります。

 労働者の就労開始前に、労働契約を解消しようとするときは、内定者には内定取り消し理由を書面で明示し、同意を得ておくべきでしょう。

 

就業規則規定例

第○条 (内定の取り消し)  

 会社は、以下のときに採用内定を取り消す場合がある。

(1) 経営環境の激変があり、雇用調整が必要となる事態となったとき

(2) 予定した卒業ができなかったとき

(3) その他、採用の内定を取り消す必要性がある重要な事実が発覚したとき

2 会社は、採用の内定を解除するときは、その事由を書面よってその者に通知する。

 

○内定期間中の研修

注意すべき就業規則規定例

第○条 (内定期間中の研修)

 内定を決定した者については、本採用までの間に研修を義務づける。なお、この場合、賃金は支給しない。

 採用前に研修を行うことは世間一般的に広く行われていることでもあり、労働基準法上の問題はありませんが、内定段階で研修を強制することはできません。

*使用者が、採用内定期間中の労働者に対して実際の就労に先立って研修、実習、教育訓練等を実施しようとするときは、内定通知に際し、その期間、内容その他命令で定める事項について書面により明示すべきです。内定通知後に決定された研修等については、決定後、速やかに労働者に対して書面により明示しましょう。書面により明示されなかったときは、労働者は使用者による研修等の指示に従う義務を負わないのです。

 

○採用時の提出書類

 採用後、身元保証書、住民票記載事項証明書等の提出させる書類および提出期間を列挙します。

 提出書類の内容については、具体的に明示し、さらに会社の裁量で省略できる旨を明示しておきましょう。

 提出書類の中には、『一部省略できる』旨のフレーズを加えることです。

(1) 履歴書   採用の応募時に提出している場合は不要

(2) 住民票記載事項証明書  

(3) 健康診断書

 雇い入れ時の健康診断を省略することができる。

(健康診断を受けてから3ヶ月以内に雇い入れるとその証明で代替できる)

3ヶ月以内に受診した健康診断書を含めることにより、健康状態について医師の証明にな

るとともに、労働安全衛生法で義務付けられている、雇入れ時の健康診断を省略することができます。

健康診断書を提出させる場合は、『3か月以内』のものに限定する。それ以前のものは、意味がない。

(4) 身元保証書   

 採用時には必ず身元保証人(注:連帯保証人ではない)を選定することを記載する。   法律的義務はない。損害賠償責任、確かな人物という保証

(5) 労働契約書及び誓約書

(6) 前職がある者は、年金手帳、雇用保険被保険者証、及び源泉徴収票

(7) 給与所得者の扶養控除申告書及び扶養家族申請書

(8) 家族調書

(9) 資格等を証明する書類で会社が求めたもの

(10) 現住所から会社までの通勤方法及び略図

 通勤経路は、労災事故の通勤事故の判定の際に参考資料となる。

(11) 給与振込口座申請書

(12) その他会社が必要と認めたもの

 

 未提出者への処分についても規定しておきます。

 就業規則等に採用時の提出書類を定めるにあたり、提出期限を過ぎても提出しない者に対する処分方法についても定めておくことで、確実な提出を促すことが可能となります。

採用時の提出書類が未提出は、合理的な解雇理由として認められています。採用の段階で曖昧な態度を取ると将来、大きなトラブルを誘引する可能性もあります。

 判例  名古屋タクシー事件  シティズ事件

 採用時の応募書類については、不採用の場合の書類返却については法的に定められていないが、『返却するのが望ましい』とされています。  返却しない場合は、『責任をもって破棄いたします』とするとよいでしょう。

 

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