就業規則(5)

○人事異動

 人事異動は、多くの会社で実施していると思いますが、これもトラブルが多い項目の一つです。まず、人事異動の命令に対し、従業員は「正当な理由がない限り、これを拒むことができない」 旨を必ず規定します。この文言がないと、従業員が人事異動を拒否した場合にトラブルになりかねません。

また、異動の種類についても詳しく規定しておきます。これにより、採用時に会社にどんな人事異動があるのかが分かるため、従業員も自分に今後どんな人事異動があり得るのかが明確になります。

就業規則規定例  

第○条 (人事異動)

 ・・・

2 前項の人事異動の定義は次のとおりとする。

(1)配置転換

 従事業務を変更し従来とは別の業務に従事すること

(2)転勤

 従来の勤務場所を変更し従来とは別の場所で勤務すること

(3)派遣

 勤務場所変更して勤務するものであるが、その場所が他社の事業所内に設けられておりそれが独立の労基法の適用範囲にまで至っていない作業所等の場合

(4)出向  

 自社に在籍したまま、グループ企業、子会社、関連他社へ赴き他社の従業員としてその指揮監督に従い他者へ労務を提供するもの。

① 従業員は限定勤務・場所特約等の正当な理由がない限り、これに従わなければならない。

② 出向を命じる場合、その事由、任務、出向予定期間、出向中の労働条件、賃金の取り扱い、その他の必要事項について、2週間前に本人に通知する。

③ 出向期間については、本人に通知する

(5)転籍

 退職し、新たに他社との雇用契約を締結し、他社の従業員となるもの

① 会社は業務上必要がある場合、従業員を関連会社等の他社へ転籍を命じることがある。この場合、本人の同意を得て行うこととする。

② 従業員を転籍させる場合、退職金規定に基づき退職金を支給するものとする。

 就業規則に定めが無くても、会社は、自由に転勤命令を出す権利がありますが、就業規則に定めがあれば、入社の際に既に包括的な転勤への同意があることになり、トラブルが生じた時に安心です。実務上は本人の同意を得て、新たな労働条件による労働契約を締結することが重要です。

 転勤を含めて配置転換の場合には、同一企業内の部署の異動ですから、一般に、就業規則に雇入れ時に契約した「就業の場所」を変更することがある旨の定めがあれば、業務命令として発令することができるものと解されています。

 職種や勤務地を限定した雇用契約の場合は、本人の同意なしで変更することはできないとの裁判例があります。この場合は契約している「職種・勤務地」の範囲内でのみ配転を命じることができ、全国転勤を命じることはできません。しかし、会社の業務上どうしても必要な場合もありますので、職種や勤務地を限定している雇用契約でも配置転換がある旨を記載する必要があります。

就業規則規定例

第○条(異 動)   

 会社は、業務上必要がある場合、配置転換、転勤、または従事する内容の変更、もしくは関連会社等への出向または転籍を命ずることがある。従業員は正当な理由のない限り拒んではならない。

2 前項の命令を受けた従業員は正当な理由がない限り、これを拒む事が出来ない。ただし、転籍に関しては、当該従業員の同意を改めて得て行う。

 使用者が、業務上の必要から労働者に配置転換や転勤を命じることは、特約のない限り許されます(三菱オーシャン事件 ほか)。

 業務上の必要性、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるか、目的の正当性はあるかを考慮して判断されますが、会社の転勤基準も明確にしながら「異動命令拒否禁止」を記載することにします。

 転勤により、2時間前後の通勤時間になったことにより転勤を拒否した事が認められなかった例があり、労働者は、よほどの事がない限り命令を受け入れる判例傾向にあります。 

 転勤や配置転換は、会社内の人事異動です。したがって、従業員の同意は原則不要で、会社に裁量権があるとされています。しかし、地域を限定して採用した従業員をその地域を越えて転勤させる場合や、職種を限定して採用した者の職種を変更する場合には、同意が必要となってきます。

 育児・介護を行う社員への配慮 育児・介護を行う社員について、異動を命じる場合、これを配慮して行うものとします。

出向に関して

 出向命令は、就業規則に出向応諾義務が規定されており、これを提示することで包括的同意を得たとされます。(古川電工事件 東京地 昭52.12.21)

 しかし、これはグループ企業やあらかじめ予想され得る出向先の場合に限られます。

 

《同意について》

配置転換・転勤・・・従業員の同意は不要

出向・・・・・・・・原則として従業員の同意が必要

転籍・・・・・・・・従業員の同意が必要

(注)『会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律』による転籍は、労働者本人の承諾がなくても可能な場合がある。

 出向は、出向目的や必要性等が変わるごとに出向先もその都度変わる等の理由から、これを細かく規定することは困難であり、包括的規定にとどめます。すなわち、就業規則本体に出向応諾義務のみ定め、別規程として出向規程を設け、出向における労働条件を定めることが望ましいでしょう。

 条項としては、少なくとも以下の項目が必要となります。

 (1) 出向先の範囲

 (2) 出向の際の手続き

 (3) 出向期間

 (4) 出向中の労働時間

 (5) 復帰の際の手続き

 (6) 復帰後の労働条件

 

業務引継ぎ
 異動を命じられた社員は、指示された期間内に業務の引継ぎその他必要な指示を後任者に対して速やかに行い完了させることを規定します。
 赴任  異動を命じられた社員は、指定された日までに赴任等新しい職場・職務に着任しなければならないことを規定します。
 指定された日を、『命じた日から10日以内』など具体的に定めても良いでしょう。 

 異動に伴う業務の引継ぎについて、いつまでに引継ぎを完了させるのか、また、不完全な引継ぎを行った場合の対応についても規定しておけば、スムーズに人事異動が行えるでしょう。

 会社によっては、出向や海外転勤があるところもあると思いますが、その場合には、別規程でより詳しく定めたほうがいいでしょう。

 

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