就業規則(20)

○退職

行方不明者の取扱い

第一に一定期間勤務しない場合は当然に自然退職とする規定を就業規則においておくことです。

 例えば豊田自動織機製作所事件(名古屋高判昭和48・3・15労判183-50)では、「事故欠勤が1ヵ月以上で特別の事由が認められないときは、自然退職となる」という定めは使用者の解雇の意思表示をまつことなく、1ヵ月の事故欠勤期間満了と同時に自然退職となることを定めたものとされています。

 「解雇」にすると解雇予告をするか、解雇予告手当を払わなければならない。

 また、行方不明の場合の解雇予告は公示送達をすることが必要になる。 「自然退職」にすると上記の手続きは不要である。

 第二には、「事故欠勤」という言葉には従業員の都合により出勤していないという意味が込められている可能性があるので、「原因不明の不出勤」に対応するためには、「事故欠勤」という言葉を拡大して定義付けするか、「原因の如何を問わず、会社に出勤しない状態(欠務)又は従業員が会社に届け出た連絡先での会社との連絡不能となった状態(行方不明)が○ヵ月以上経過した場合は自然退職とする。但し、業務上の災害による場合等この規則に別に定める場合を除く。」などの規定をおくことです。

 第三に、自然退職後の私物の整理や退職金、未払賃金の精算事務の円滑化のため、第一、第二のような場合(実際の書き方としては、「都合により従業員が受領できない場合」程度が妥当でしょう)の精算金や私物等の受取りの使者=代行者(多くの場合、第一次的には同居の親族又は実家など)を従業員から身上届出を提出させる際に指定させ、その者に対して、これらの処理ができるようにしておくことです。そうではないと、いちいち供託などの方法や保管責任の問題が発生するためです。

 なお、賃金については労基法の直接払いの原則との抵触が心配されますが、所定の手続に従い銀行振込がなされている場合は指定口座に振込めば問題ないでしょうし、上記のように使者として従業員自身に指定させておけば、労基署もこのような場合まで問題とすることはないでしょう(昭和22.12.4基収4093)。

 なお、以上の準備なく行方不明者が出た場合で、親族や身元保証人が居る場合の実際の処理としては、親族から、仮に本人から異議が出た場合には親族らが責任をもって処理する旨の誓約書付きで、従業員の代理人として退職届を提出して貰うような方法が取られているようです。

  多いのは、突然出勤しなくなってしまう労働者です。通常は懲戒解雇ですが、解雇と言う以上解雇の意思が相手に届かなければなりません。

 行方不明の人に意思を伝達するのは面倒な手続きが必要です。そこで就業規則に「無断で14日以上出勤しないものは退職したものとみなす。」としておけば無断で退職したものとして扱うことが出来ます。

就業規則規定例

第○条 (退 職)

 従業員が、無断欠勤連続14労働日に及んだ時は、その最終日をもって自己退職したものとみなす。

 従業員が、所定の休日も含め連続14日無断欠勤に及んだ時は、その日を退職の日とし、従業員としての身分を失う。

(注)「14日以上」と定める理由

 労基法の規定ではなく、民法で、期間の定めのない雇用契約を解除する場合の告知期間が、2週間とされていることに基づくことと、労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受けて即時解雇できる基準に「原則として2週間以上正当な理由がなく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」という通達があるためです。

 

○解雇

第○条 (解 雇)

 次の各号の一に該当する場合は解雇とする。

(1) 勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、従業員として不適格と認められるとき

(2) 精神または身体の傷害により、業務に耐えられないと認められたとき

(3) 事業の縮小・配置・部門等の閉鎖等のやむを得ない事情または天災事変これに準ずるやむをえない事情により事業の継続が困難なとき

(4) 事業の縮小・配置・部門等の閉鎖等のやむを得ない事情、または天災事変これに準ずるやむをえない事情により他の職務に転換させることが困難なとき

(5) 試用期間中または試用期間終了時までに社員として不適格であると認められたとき

(6) 懲戒解雇の基準に該当したとき

(7) 休職期間が満了した時点で復職できないとき(休職期間更新の場合を除く)

(8) その他、前各号に準ずるやむを得ない事情のある場合

 就業規則で規定する懲戒解雇の事由と、解雇予告除外認定を受けることができる労働者の責に帰すべき事由は一致しないということです。この事由について、解釈例規は認定基準を示しています。懲戒解雇の全てが解雇予告も予告手当の支払もしないで即時解雇できるということにはなりません。表現が不鮮明な表現は誤解を招くことになるので、改めたほうが良いでしょう。

注意すべき就業規則規定例

第○条(普通解雇)    

 従業員が次のいずれかに該当するときは、解雇することができる。      

 ・・・  

2 前項の規定により従業員を解雇する場合は、少なくとも30日前に予告するか又は予告に代えて平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う。ただし、労働基準監督署長の認定を受けて第○条に定める懲戒解雇をする場合、及び次の各号のいずれかに該当する従業員を解雇する場合は、この限りではない。

第 条(懲戒解雇)

 懲戒解雇事由に該当したときは、予告期間を設けないで即時解雇する。

  この条文では、懲戒解雇であれば簡単に解雇できると判断される可能性があります。

 次のような表現に変えたほうが良いでしょう。

就業規則規定例

第○条(普通解雇)   

 従業員が次のいずれかに該当するときは、解雇することができる。     

 ・・・

2 前項の規定により従業員を解雇する場合は、少なくとも30日前に予告するか又は予告に代えて平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う。ただし、第○条に定める懲戒解雇をする場合であって、労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受けた場合及び次の各号のいずれかに該当する十行を解雇する場合は、この限りではない。

 トラブル回避の為には、解雇権乱用法理に触れないように、就業規則では解雇する理由を想定出来る限り列記します。

 解雇事由にかかる包括的規定を定めます。

就業規則規定例

第○条(解雇)

 次の各号の一に該当する場合は解雇とする。

・・・

・その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき

  「その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき」という包括的条項について、裁判例で「必ずしも具体的に各号に該当する必要はなく、包括的にみて解雇を相当とするすべての場合を含む」(日経新聞社事件 東京地 昭45.6.23)と解されています。

 

退職又は解雇時の証明

 「労働者は解雇の予告がされた日から退職の日までの間に、解雇の理由を記載した文書の交付を請求できる」という条文が加わりました。そして、1999年の改正のときにすでに決められたことですが、退職時の使用証明に「退職の事由(解雇の場合にあってはその理由を含む)」を記載することが求められます。これは主に雇用保険の給付を受ける際、離職理由によって給付の条件が変わることをめぐるトラブルを予防するという意味合いがあるのだと思われます。

就業規則規定例

第○条 (退職時の証明)

 会社は、退職又は解雇された者が、退職証明書の交付を願い出た場合は、速やかにこれを交付する。

2 前項の証明事項は、試用期間、業務の種類、会社における地位、賃金、退職の理由(解雇の事由を含)とし、本人から請求された事項のみを証明する。

3 従業員が解雇を予告された日から退職の日まで、解雇の事由の証明を請求した場合はこれを速やかに交付する。ただし、その解雇以外の事由によって退職した場合は、証明書は交付しない事ができる。

 

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