製品ライフサイクル

 マーケティングにおける製品戦略を考える際には、製品そのものについてや製品ラインについて考慮するだけでは不十分です。それだけでは、製品が持つ性質を生かして戦略を構築することができませんし、なにより企業を存続させていくための長期的な方向性がみえてきません。大切なのは、持続的に収益をあげるための仕組みなのです。そこで考慮するべきなのが「製品ライフサイクル」です。

 製品ライフサイクルとは、「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」からなる製品の成長過程のことです。新製品が発表されてから撤退するまでの一般的な流れのことです。

 製品ライフサイクルを把握しておくことにより、時期に応じた最適な対応ができるようになります。

 どんな製品も永続的に売れ続けるということはありません。時代の流れや社会的なブームによって一世を風靡することもあれば、少しずつ認知されていき、やがて企業にとっての大きな収益源へと成長することもあります。それは、製品や その製品が属している市場の特性が影響していますので一概には言えません。しかし、そうは言っても、製品が売れる大きな流れは存在しています。

 すべての製品を一般化してライフサイクルに照らし合わせることはできませんが、大きな傾向のようなものとして理解してください。そうすることで、自社が取り扱っている製品がどこに向かうのか、その指標を得ることができます。

 製品がどのような過程を経て成長していくのか、また、最終的にはどのような時点で撤退の判断をすれば良いのか。そういった点を考慮しつつ製品を開発・運用することによって、コストの削減だけでなく、市場を創出することにもつながるでしょう。

 企業は、過去の栄光にしがみついていては、さらなる成長をすることはできません。どんなに優れた製品にも、製品ライフサイクルという一連の流れを経て、やがては衰退してしまう可能性があるのです。特に自らの手で苦労して生み出した商品は、それだけ愛着があり、衰退期に入っているにもかかわらず、まだまだ市場に受け入れられるはずだと撤退に踏み切れないことがあります。

 現状をよく把握し、思い入れや感情論を排して、冷静に市場に受け入れられる商品を開発することが大切でしょう。そのうえで、マーケティングをいかに盛り込んでいくのかを検討するべきです。

 大前提として、製品はもちろんのこと、市場や顧客の要望は変化するということを忘れてはなりません。つまり、製品ライフサイクルにあわせて戦略を変えていくように、企業そのものも変化できるような組織づくりが欠かせないのです。

 

商品の寿命は消費者ニーズに左右される

 消費者が新しい商品を追い求めるスピードは、時代とともに速くなっているように感じられないでしょうか。

 過去の一時期には女子中学生や高校生がかならずといってよいほどもっていたポケベルは携帯電話に取って代わり、いまではスマホへSNSにとって代わりました。あれほど流行した「たまごっち」も見かけることはないでしょう。女子高生の「ルーズソックス」などもそうです。

 こうした、いわゆる流行商品だけではなく、一般の商品にも寿命はあります。

 スピード重視の技術進歩に依存するパソコンの世界では、半年ごとにモデルチェンジや性能の改善がなされて、古い性能のパソコンは廃棄されていきます。

 自動車にしても、ある時代はファミリーカーがニーズを満たし、ある時代はスポーツカーが時代の要請であったり、ある時代はファミリーワゴン車が求められたりするなど、時代ごとに消費者のニーズは変化しており、商品の寿命もそれに左右されます。

 したがって、企業には、消費者のニーズを敏感にとらえながら、寿命の終わった商品を市場から退場させ、新たな商品を市場に投入する知恵が求められるのです。

 何十年も生き抜いている長寿商品もありますが、これらも消費者の嗜好に合わせて微妙に変化をつけるということがなされています。

 

製品のライフサイクル

 自社の商品の寿命がどのあたりにあるかを知ることは戦略的に大切なことです。

 この商品の寿命のことを、「製品のライフサイクル」という言い方をします。

 商品の誕生から陳腐化して市場を去るまでを、人の一生と同じように、生まれてから死ぬまでのサイクルに区分する考え方です。

 一般には、4つに区分して、商品がライフサイクルのどの段階にあるかをとらえていきます。

 自社の数ある商品のそれぞれがライフサイクルのどこにあるかを知り、それによってその商品に対する戦略を区分していくという考え方をとることがポイントです。

 

プロダクトライフサイクルの研究開発期

 商品発売前の企画・設計段階です。
 市場調査費用や開発費用などの先行投資が必要であり、利益はマイナスになります。

活性化のポイント

 ・商品化時期の明確化・早期化
 ・開発に向けた進捗管理の緻密化
 ・ライフサイクルを通じた収益見込みの明確化
 ・やむを得ない場合には開発中止の早期・合理的な判断

 

プロダクトライフサイクルの導入期

 プロダクトライフサイクルの導入期は、市場に製品(商品)を投入した直後の時期を指します。また、導入期以前の時期は、製品・サービスの開発時期にあたり、売上はなく、開発に必要な投資コストが大きい時期と知られています。

 プロダクトライフサイクルの導入期は、製品導入の直後にあたる時期です。製品・サービスの認知度、需要量ともに少なく、顧客層は最先端技術・流行に詳しい方(マニア層)や新しいモノ好きの方、または、高所得者となります。また、投入した製品・サービスの仕様が顧客層に合致しない場合、仕様変更の検討も行います。

 導入期では、売上・利益が少ない、もしくは全くない時期でもあるため、多くの製品・サービスが撤退を決断する厳しい時期としても知られています。

 プロダクトライフサイクルの導入期は、市場開拓に向けた認知度の向上と試用品の提供などの流通・販売促進戦略(店頭での試供品の提供など)が求められます。また、製品ブランディングに必要な初期投資が必要となる時期でもあります。

 最先端技術や画期的な機能に敏感な顧客層がターゲットとなるため、高機能を前面に打ち出した商品戦略が効果的です。その他に直販店での限定販売や数量限定など流通チャネルを制限し、高価格で販売するスキミングプライス戦略(高い利益を見込んだ価格戦略)も選択できます。一般的に、市場内での普及率2.5%を目指したマーケティング戦略を行います。

活性化のポイント

 ・認知度の向上に向けたPR
 ・適切な販路の開拓と管理
 ・初期クレームの撲滅
 ・利用者へのアンケートを踏まえた商品や販路の微調整
 ・成長期の販売予測数を踏まえた量産体制の明確化

 

プロダクトライフサイクルの成長期

 プロダクトライフサイクルの成長期は、投入した製品・サービスが市場に認知され、勢いよく普及していく時期です。

 プロダクトライフサイクルの成長期は、製品・サービスの需要が高まると、同時に、市場規模が拡大し、規模の経済や習熟効果により生産コストが下がるため、売上・利益ともに急激に増える時期となります。そのため、導入期と同様に継続的な資金投資が求められます。また、管理職や管理者には、実利主義者を採用し、売上・利益の最大化を目指します。

 成長期には、成長前期、成長後期の2種類に分けられ、成長前期から成長後期へ切り替わるタイミングを「普及率16%の壁(キャズム理論の「普及率16%の壁」)」といわれています。顧客層はインフルエンサーや比較的流行や最先端技術に敏感な方が該当します。成長期では、市場の拡大に伴い、競合他社による新規参入も始まる時期でもあります。

 プロダクトライフサイクルの成長期では、競合他社の市場参入への対応や売上・利益に直結する販売戦略が重視されます。市場シェアの拡大や、差別化された新機能の追加、製造ライン・販売チャネルの拡充などの投資が必要です。

 また、成長前期では「プラトー現象」という特殊な現象が起きます。

 プラトー現象とは、「目新しさ」を好む顧客層から「安心感」や「流行感」を重視する顧客層への移行期間を指します。成長が横ばいとなるタイミングでもあり、これを突破するため、自己顕示欲や承認欲求が強い顧客層向けのインフルエンサー・マーケティング(SNSの活用)などのマーケティング戦略が最適です。

 成長前期では、市場内での普及率13.5%を目指して活動を行います。

 成長後期では、商品・サービスが一気に普及・拡大していく時期です。そのため、規模の経済や経験曲線が活かせ、大量生産が可能な生産設備や販売チャネルの拡大といった投資戦略が望ましいといえます。

 成長期(成長後期)の顧客層は、大衆層への普及の入り口(ブリッジピープル)である一方、新製品に対して比較的慎重であるとされています。そのため、成熟期に向けたブランド戦略(ブランド力の強化、安心感の向上)やコストリーダーシップ戦略による流通コストの削減、差別化戦略による価格の維持などの戦略も有効です。一般的に、市場内での普及率34%(成長後期)を目指し、普及活動を行っていきます。

活性化のポイント

 ・大量商品の安定的供給体制(製造・流通)の確立
 ・シェア獲得に向けた集中的な販促活動
 ・競合商品の研究と差別化ポイントの打ち出し
 ・バラツキ防止など品質管理体制の強化

 

プロダクトライフサイクルの成熟期

 プロダクトライフサイクルの成熟期は、市場ニーズが鈍化し、顧客層もリピーター率が高まり、製品の価格も低下傾向となる時期です。

 プロダクトライフサイクルの成熟期は、製品・サービスの売上や利益が横ばいとなる「成熟市場」に変化し、市場シェアも安定する時期です。成熟期の顧客は、製品サービスへの「目新しさ」よりも「安全性」を重視するため、反応は薄くなります。また、製品自体がコモディティ化(商品の市場価値の低下)し、PB商品(プライベートブランド商品)や中小企業による新規参入も増え始めます。

 成熟期の顧客層は、周囲の大多数が購入・利用していることを知って購入するケースが多い人たちで、一般的に、市場普及率が50~84%に達した段階で成熟期と判断できます。

 成熟期の顧客層は、製品情報に対して受動的であるため、自社製品の選考イメージの強化やブランド・ロイヤリティーの向上(製品の安心感や価格の納得感、マスメディアでの露出など)が不可欠です。

 また、成熟期は、消費者ニーズが多様化してくる時期でもあります。そのため、市場における自社のポジションや市場占有率(市場シェア率)に応じたマーケティング戦略を実施しなければいけません。圧倒的な市場シェア率を誇る場合は、経済の規模や経験曲線を活かした市場シェアの維持や、競合他社の差別化を防ぐミート戦略(同質化戦略)、トップシェアの競合他社からリピート客を奪うための差別化戦略などが挙げられます。

活性化のポイント

 ・大量生産によるコストダウン効果の創出
 ・付加機能(パッケージや使い勝手など)追求による差別化
 ・アフターサービスの充実による差別化
 ・新規機能追加などのための第二次研究開発の開始

 

プロダクトライフサイクルの飽和期

 プロダクトライフサイクルの飽和期は、市場成長が止まり、売上・利益ともに下降傾向がみられる時期です。

プロダクトライフサイクルの飽和期は、製品・サービスの市場価格が逓減し、売上・利益が下降曲線を描き始めます。その結果、競合他社との熾烈な価格競争が始まり、市場の奪い合いによる消耗戦に突入します。

 顧客層は成熟期と同じですが、顧客の安心感やマスメディアへの露出の効果は少なくなり、製品・サービスのブランド力も低下していきます。

 プロダクトライフサイクルの飽和期では、積極的な広告戦略は行なわず、不要な機能のカットや製品(商品)のパッケージ化といった生存戦略に移行します。また、飽和期では成熟期以上の差別化戦略が実施されます。特定の分野に集中するニッチ戦略や、フォロワー戦略(顧客ニーズを最低限満たす機能・性能を維持できる程度の投資で理恵の最大化を目指す戦略)が効果的です。

 

プロダクトライフサイクルの衰退期

 プロダクトライフサイクルの衰退期は、市場の需要がなくなり、売上・利益ともに激減していく時期です。

 プロダクトライフサイクルの衰退期は、投入した製品・サービスの売上・利益が衰え始め、市場からの撤退を考えるタイミングです。顧客の購買意欲は低く、事業を維持できるだけの売上・利益を確保することが難しくなります。一定の買い増し・買い替えを目的としたリピーターは見込めますが、撤退、存続、新市場の開拓といった経営判断が求められます。

 プロダクトライフサイクルの衰退期では、保守的な顧客を対象としたアフターサービスやメンテナンスを充実する戦略や、製品コンセプトの変更や製品・サービスの細分化といった生存戦略が考えられます。

 一方、衰退期は新たな消費者市場の開拓を模索するチャンスとも捉えることも可能です。新市場開拓戦略により、衰退期に陥った製品・サービスの新たな消費ニーズを見つけ出し、復活を果たした事例も多数報告されています。

 しかし、事業を維持、または新たな市場を見出せない場合、雇用問題や既存顧客(法人を含む)との関係性を見極めた上で、事業を終了する撤退戦略をとることになります。

活性化のポイント

 ・徹底したコストダウンによる収益の確保
 ・商品ラインナップの絞り込み
 ・撤退時期の検討・決定
 ・第二次研究開発を行った場合は改良商品の投入

 

ヤマト運輸のプロダクトライフサイクルを活用したビジネスモデル

 運送業大手のヤマト運輸株式会社は、プロダクトライフサイクルを活用した新たなビジネスモデルをいくつも確立させてきた企業です。1976年に従来の常識を覆す小口貨物サービス「宅急便」を導入し、その後、既存の宅配サービスが成熟期から衰退期に突入するタイミングで新たな宅配サービスを次々と打ち出しています。1980年代当時、ブームとなっていたレジャーに対応した「スキー宅急便」や「ゴルフ宅急便」を皮切りに、コレクトサービス(代金引換)、UPS宅急便(国際輸送サービス)、夜間お届けサービス、クロネコメール便など時代のニーズに合ったサービスを提供してきました。

 このように、「運搬・運送」という基本的なビジネスモデルを変えずに、サービスのプロダクトライフサイクルの衰退期から新たなビジネスチャンスを生み出している企業といえます。

 

注力する事業・商品を探すマトリックス

 製品のライフサイクルを事業に応用して、自社の事業に対する戦略的な位置づけを明確にしていく方法があります。

 歴史の長い企業などでは、従来の事業だけに依存して新しい事業展開を怠っている場合が少なくありません。

 

ライフサイクル上で商品の分布を分析する

 自社の成長発展を確実なものにするためには、ライフサイクル上に自社商品をバランスよく配置しておく必要があります。

 現在売れている「成長期」「成熟期」の商品が、いつ売れなくなるかを予測することは困難です。

 突然、これまでの主力商品が売れなくなったときに、慌てないために、次代を担う新商品の開発を余裕をもって進めなければなりません。

 業種業態にもよりますが、ひとつの目安として、過去3年間に開発きれた新商品が全売上高の20%以上の比率になっていなければ、「要警戒」として新商品開発への取り組み状況を検討してみる必要があるといえます。

 一度、自社商品のすべてについてそれぞれを「研究開発期」「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」のいずれかに分布させたときのバラつき具合を確認してみましょう。

 どの時期にどの程度の商品が分布するかをみて、たとえば次のように分析します。

 ・成熟期、衰退期に位置する商品が多く、研究開発期、導入期の商品が少ない

 ・導入期、成長期の商品が多く、成熟期、衰退期の商品が少ない

 ・成長期の商品が多い

 ・すべてにバランスよく商品がある

 

市場におけるポジショニングを分析する

 自社商品のポジショニングについては、年に1度を目安にその商品を中心として徹底したリサーチを行なうことが必要です。

 そして、市場調査を行なう場合には、

 ・もっと需要を伸ばすことのできる消費者のセグメントはないか

 ・もっと需要を伸ばすことのできる当該商品の使用場面のセグメントはないか

 ・非購買層がなぜ当該商品を購入しないか

 ・ターゲットに対して有効な広告・販売活動を行なっているか

 ・当該商品の機能は相対的に陳腐化していないか

 ・当該商品が消費者に与える心理的機能は陳腐化していないか

など、入手したい情報をあらかじめ明確にしておくことが大切です。

 

マーケット・ライフサイクルと規模の経済

 一般的に、大量生産を行うと、単位あたりの生産コストが減少します。これはある一時点での生産規模に注目しています。

 通常、生産規模の大きな企業ほど累積生産量も大きく、そのため経験曲線の中に規模の効果が織り込まれていることが多いです。

 規模の効果が生まれる主な要因は、管理費をはじめとするコストの中の固定費用が分散されることが挙げられます。

 規模の効果は生産コストのみならず、調達コストや営業コストなどのあらゆるコスト要因について働きます。

 規模の効果を分析することで、同じ土俵で競争を続けることが可能かどうか、あるいは合併などによりそのコスト差を埋めることが可能か否かなどがわかります。

 ネットワーク型の事業において、規模の効果は最も顕著に現れます。例えば、電子メールの利便性は、普及率のほぼ2乗で効いてくることが知られています。パソコンのOSなど互換性が問われる機器についても、デファクトスタンダードを握る(現在ではWindows)が規模の効果を享受し、一人勝ちを続けていると言えます。

 マーケット・ライフサイクルは、製品によっては衰退期に入っているものの市場が再活性化してライフサイクルが伸びることもあります。また、同業界内でもセグメント別にみるとライフサイクルにおける段階が異なることもあります。規模の効果を分析することで、競合企業と同じ土俵の上で競争を続けるべきか否かを判断することができます。

 

製品市場のライフサイクルへの対応
 製品市場のライフサイクルの中で、企業は次のような製品市場戦略を採っていくことになります。

(1)市場浸透戦略 
 現在の製品市場での市場占有率を高めるため、広告宣伝、価格の改定、流通経路の再整備など、従来以上の強化策が必要です。

(2)市場開発戦略 
 今までアプローチをかけていなかった市場をターゲットとして、新規市場の開拓を行います。 
 例えば、事務用機器に教育用機器としての利用を見いだし、企業のほかに学校などを新たなターゲットとして加え、市場開拓をします。

(3)製品開発戦略 
 既存の市場に新製品(既存製品+付加価値)を投入して、売り上げの増大を図ります。
 例えば、短いライフサイクルで新製品を投入する各種家電製品などがこれに当たります。 
 また、定期的なモデルチェンジや新たな付加価値の追加をすることで、製品のライフサイクルを戦略的に短くし、買い換え需要を創出する戦略は、人為的陳腐化戦略ともいわれています。

(4)多角化戦略 
 既存の技術を活用して、その周辺分野の技術開発により、新たな製品市場に新規参入します。
 単独での新規参入が難しい場合には、業務提携をしたり、必要に応じて企業の合併や買収なども必要になります。

(5)撤退戦略 
 企業の拡大・成長とは逆方向の選択ですが、損失の回避や犠牲を最小限にとどめるためには必要な戦略と言えます。
 消極的な方法ではありますが、企業の経営資源の有効活用に貢献することになります。

 

製品ライフサイクル(PLS)の限界

 製品ライフサイクルは、製品が市場に投入されてから衰退するまでのプロセスを、導入期、成長期、成熟期、衰退期の4つに区分することで市場成熟度を容易に理解することができますが、必ずしも区分された通りのプロセスを辿るとは限りません。導入直後から爆発的に普及する製品もあれば、将来有望な市場とみられていた市場でも、成熟する前に衰退してしまう場合もあります。このことからも分かる通り、必ずしも製品ライフサイクルを辿る訳ではなく、将来を予測することは大変難しい時代であることを理解しなければなりません。

 

製品ライフサイクル 5つのパターン

 製品ライフサイクルにはいくつかのパターンがあります。戦略を見誤らないためにも、それぞれの特徴を理解しておかなければなりません。自社製品のライフサイクルがどのパターンにあてはまるのかを判断する分析力も、マーケティング戦略に不可欠な要素の一つです。

流行スタイル型

 流行スタイル型とは、時代の流行に大きく左右されず、流行のスタイルが発売される度に、 市場のニーズが増すライフサイクルです。ファッションではフォーマルスーツ、日用品では自転車などが代表例として挙げられます。

ファッション型

 ファッション型とは、通常の製品ライフサイクルのようになだらかな弧を描き成長し、 ある程度の市場ニーズを満たすと代替品に取って代わり、時間の経過と共に衰退していくライフサイクルです。

ブーム型

 ブーム型とは、ブームにより急激に市場のニーズが拡大し、 熱が冷めるように急激に市場が衰退していくライフサイクルです。嗜好品やブランド品に多く、生活に必ずしも必要としない製品で生じるライフサイクルです。

遅咲き型

 遅咲き型とは、発売から時間は経過しているが、 オピニオンリーダーの推奨などによりブレイクするライフサイクルです。あらゆるジャンルの製品に生じるライフサイクルのため、どの製品にもチャンスがあると言えます。

持続・継続型

 持続・継続型とは、長期間にわたり人気を得ている製品。いわゆるロングセラーです。

 

 プロダクトライフサイクルは、全ての製品・サービスに適用できる、優れたマーケティング手法です。一方で、自社製品がどのステージに位置しているかを把握することが難しく、製品の特性によって、ライフサイクルに差が生じるデメリットも指摘されています。

 

3つの異なるサイクル

 プロダクトライフサイクルのサイクルは、取り扱う商品(製品)によって、描く曲線が異なり、大きく3つの曲線に分けられます。

スタイル曲線

スタイル曲線は、消耗品など生活必需品(住宅も含む)などの製品・サービスにみられ、小さな曲線を繰り返す傾向があります。顧客層もレイトマジョリティやラガートなども幅広いため、中長期の商品展開が期待できます。

ファッション曲線

 ファッション曲線は、「新しさ」や「奇抜さ」といったもの珍しい製品・サービスが描きやすい曲線です。マニア層であるイノベーターや「目新しさ」を好むアーリーアダプターに受け入れられやすく、急激に売上・利益が上がります。しかし、市場全体に普及させる役割を持つアーリーマジョリティには、受け入れられずに早い段階で衰退期に突入する傾向がみられます。

ファッド曲線

 ファッド曲線は、ファッション曲線の一種で、ファッション曲線よりもプロダクトライフサイクルが短く、一部のマニア層にしか受け入れられない製品・サービスにみられる傾向です。非常に短期間で衰退期を迎えるため、綿密に練られたマーケティング戦略を実施する時間もありません。

 このように、プロダクトライフサイクルは、必ずしも緩やかな成長・衰退を遂げるわけでなく、取り扱う製品・サービスによって異なる成長曲線を描きます。そのため、導入期の動きを見極めながら、適切なマーケティング戦略を実施しなければいけません。また、競合他社・異業界からの参入やイノベーションなどの外部要因にも影響されやすいため、予測や原因の特定が難しいとされています。

 プロダクトライフサイクルは、キャズム理論やイノベーター理論との共通点も多く、プロダクトライフサイクルに基いたマネジメント手法も存在します。プロダクトライフサイクルに関連する内容を一緒に学ぶことで、理解を深めていくことが大切です。

 

イノベーター理論への理解

 イノベーター理論とは、商品・サービスを購入・採用する消費者を以下の5つに分類し、商品・サービスを市場に浸透させるまでの流れをまとめた、普及に関する理論です。

 ・イノベーター(革新者):2.5%

 ・アーリーアダプター(初期採用者):13.5%

 ・アーリーマジョリティ(前期追随者):34.0%

 ・レイトマジョリティ(後期追随者):34.0%

 ・ラガート(採用遅滞者):16.0%

 「2.5%のイノベーターと13.5%のアーリーアダプターに製品・サービスを普及させることで、自社製品の爆発的普及が可能となる」と定義しておりイノベーション の普及に欠かせない理論でもあります。

 イノベーター理論の普及率は、プロダクトライフサイクルの成長期に大きな影響を与える要素でもあるため、しっかりと理解しておきましょう。

 

キャズム理論への理解

 キャズム理論とは、「イノベーションが生み出した画期的な製品・サービスについて、投入された初期市場で成功しても、主戦市場のシェアを拡大するまでに さまざまな制約や条件により消滅する危険性がある」、とする経済理論の一つです。キャズム理論はそれら消滅への警告と消滅防止のためのアプローチの必要性を唱えた理論として知られています。

 キャズム理論ではイノベーター理論と密接な関係で、「アーリーアダプター(13.5%)とアーリーマジョリティ(34%)の間に普及を妨げる溝(キャズム)が存在する」としており、この溝をいかに克服するかを重視しています。

 プロダクトライフサイクルも同じ流れを汲んでおり、顧客を分析するキャズム理論と併用することで、マーケティングアプローチの精度を高める効果が期待されています。

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