「トヨタ式」に学ぶ そこまでやるか の仕事術

改善には4種類ある

 トヨタ式は多くの人に誤解されています。例えば「改善」という言葉。改善と一口に言っても4つの意味があります。

まず 「(1)負けないための改善」です。

 業界レベル以下の企業が何とか平均に追いつこうと努力するものです。「より良くする」改善というより、「悪いものを普通にする」という不具合対策です。7~8割の企業はこれを「改善」と呼んでいます。

 次に、「(2)勝つための改善」 です。

 業界平均よりも上の目標を掲げて改善していくことです。普通の意味での改善ですね。

 3番目は、「イノベーションとしての改善」です。

 例えば、2時間かかっていた段取り替えを一気に3分に縮めようという活動です。これまでの改善は、現状から出発してより良くしていく「帰納法」ですが、これは3分という「ありたい姿」を出発点とする「演繹法」です。従来の知識や技能では無理で、新しい知恵が必要となります。

 このイノベーションとしての改善は、さらに2種類に分かれます。一つは「(3)ラージステップによるイノベーション」で、革新的なアイデアで一気にありたい姿に到達するというものです。が、これは事実上、ほぼ不可能。「プロジェクトX」のような奇跡的な話というのは、日常的に起きるようなものではないため、マネジメントできないからです。

 そこで大切になるのが4番目の「(4)スモールステップによるイノベーション」 。

 ありたい姿に少しずつ近づいていく改善活動です。「トヨタ式」という場合、改善はこのスモールステップによるイノベーションを意味します。

 「負けないための改善」や「勝つための改善」をやって、「トヨタ式をやっている」という人が多いのですが、それはトヨタ式とは違います。ありたい姿を目指して、知恵を出し、変化し続けるのがトヨタ式です。この違いが分からないと、トヨタ式は分からない。

 分からない人は、「不良率5%が1%になった。これは業界ナンバーワンだ」といって改善活動をやめてしまう。やめても十分競争に勝てるからです。しかし「不良率0.1%」というありたい姿を目指して、さらに努力を続けるのです。ここまでやってトヨタ式なのです。

 

当たり前の「ありたい姿」を目指す

 もう一つの誤解は、「トヨタ生産方式」を「トヨタ式」と考える人が多いということです。

 「かんばん」「ジャスト・イン・タイム」などは「トヨタ生産方式」ですが、これはあくまで「トヨタ式」の一部分です。実は購買にも、開発にも、販売にも、あらゆる部署に「トヨタ式」という独自のノウハウがあります。ただ、公開していないので人々は知らない。生産方式だけは公開したため、有名になっているのです。

 いずれも、「ありたい姿」を考え、チャレンジテーマを設定し、知恵を絞って新しい仕事のやり方を見出し、そして実際に行動を起こすという点で共通しています。

 ありたい姿といっても、何も特別なことではありません。「当たり前のことを当たり前にやる」ということに過ぎないのです。例えば、「不良品はゼロ」は当たり前です。「機械は24時間動き続ける」のが当たり前です。作業は「ムダなく働く」ことが当たり前です。

 しかし、現場では、不良品は出る、機械は止まる、作業にムダが出る──それが現実です。当たり前のことが当たり前にできないのです。他社と比べてどうかではなく、「不良ゼロ」「機械は100%稼動」という本来あるべき姿を目指して、努力を続けるのです。

 

日々改善の精神

 このトヨタ式を導入するには、「パラダイム・チェンジ」が必要です。パラダイムとは、業界の常識とか思い込みのこと。まず、これを見つけることです。問題の顕在化、つまり「見える化」です。現状としては何も困っていなくても、たとえ業界トップのレベルであっても、「ありたい姿」からしたら、チャレンジすべきテーマがあるはずです。これを見つけ出す仕組みをつくるのです。

 問題が見つかったら、次は行動です。行動を起こさせる仕組みが必要です。トヨタ生産方式の生みの親の大野耐一さんは、「困らせる仕組み」と言っていました。

 ところが、実際には、「変化しなくても困らない」「常識の思い込みが見つからない」「成果が保証できない」といった理由で、「考えて、知恵を出す」ことをやめてしまいます。

 そうならないためには、経営トップの強い信念が必要です。そして各部門に強力なチェンジリーダーが必要になるのです。

 経営には、「今日の業績向上」(定常作業)と、「明日の準備」(改善活動)の二種類の仕事があります。今日の業績ばかりやれば、明日の準備はできず、明日の準備ばかりしていては今日の飯は食えないというトレードオフの関係にあります。

 トヨタでは、「今日の業績向上」と「明日の準備」を同時に行います。「仕事=作業+改善」なのです。言うのは簡単ですが、実際に行うのは大変です。かなり苦労します。だからこそトップの信念とチェンジリーダーの出現なくして、トヨタ式はできないのです。

 多くの場合、最初の一年半ほどは、やっても やっても 成果の出ない時期が続きます。ここを乗り切る忍耐力が必要です。そのためには、今日だけ改善するということではなく、「日々改善」の精神で、ありたい姿に向かって努力し続けることが大切なのです。

 

考え方と行動を変えよ

 トヨタ式他社とどこが違うかというと、考え方と行動が違います。トヨタ式になれない多くの会社では、大切なキーワードがいくつか抜けているのです。

 一つは「会社は何のためにあるのか。それはお客さんにどう役立つか」という視点です。

 二つ目は、「挑戦する」こと。ターゲットを決めて、考える、考え抜く、実践する、ものにする、そして結果を出す この流れを習慣にしたのがトヨタです。

 三つ目は「改善」です。世の中は日々変化しているわけですから、日々改善しなければいけません。変えるということを常識にしないといけない。週に一度社長が来て「変えるぞ」と言っているだけではダメです。毎日改善です。

 四つ目は「現地現物」です。評論家はいらないのです。「自分はどうするのか」を問わないといけない。机上の議論はだめです。現地、現物、現実的の三現主義です。さらに私は「現金化」というのも加えています。

 五つ目は「人間性尊重」です。人づくりで最も重要なキーワードです。やった人には やっただけ評価を適切にすることです。それをオープンにすることです。

 こうしたキーワードがあるかないか。ほとんどの組織にはないのが現状です。

 

キーワードを魂に刻み込め

 多くの会社は、肝心のこのキーワードを脇に置き、トヨタ式の技法ばかりを取り入れようとしています。そうではなく、考え方と行動を変えないといけないのです。あくまで人間が中心。なのに、設備中心の発想になっている会社ばかりです。味も素っ気もない。心がない。これではトヨタ式の本をいくら読んでも、身につきません。

 悪い会社の社長は、決まって「うちの社員は言うことを聞かない」と言います。「良いことを言ってみろ」といっても、一つも言えない社長ばかりです。

 ところが、このキーワードの話をして、「なるほどそうだ。まったくそうだ」と思う会社は、うまくいくのです。本来、うまくいかないわけがないのですから。

 残念なことに、今や日本より外国の企業の方が優秀です。今、ロシアのセーベルスターリという従業員15万人ほどの製造業にトヨタ式を導入する仕事をしているのですが、1年もしないうちに生産性が数倍になるという劇的な効果が出ています。経営トップがきちんとキーワードを理解したからです。

 社長自らが、自らの魂にこうしたキーワードを刻み込むことが大切です。でないと社員に伝わりません。魂のレベルで腑に落とすことができれば、以心伝心で組織に浸透していくのです。伝わっていないとすれば、それは社員のせいではなく、社長が分かっていないことを意味します。

 日本では、「自分のやっていることは一番だ」と思っている社長が多いのですが、これではトヨタ式は導入できません。

 

人間の知恵には限りがない

 トヨタ式は厳しいという声もあります。労働強化をして儲けているんだと。しかし、トヨタ式の標準作業は、人から一方的に押し付けられるものではなく、自分でより良いものに作り変えることができます。ここがミソで、自分で作った標準作業は、自分の意志で守るものです。やらされているのではないのです。

 下請けいじめをしているという言う人もいますが、本当にそうなら続きませんよ。みんな逃げてしまいます。実際にトヨタの工場に行けば分かりますが、作業スピードはむしろ他社よりゆっくりです。

 トヨタが強烈な目標を社員に与えて、すぐに答えを教えず、自分で考えさせているのは、「人間の知恵には限りはない」と考えているからです。そうして人を育てているわけです。モノづくりは人づくりなんです。ここがトヨタの人間性尊重の風土なのですが、これがなかなか分からないのです。「かんばん」や「あんどん」といった専門用語はどうでもいい。大切なのは哲学なんです。

 朝、家を出る時に、「いやだなあ」と思って出るのと、「今日は何を改善しようか」と思って出るのでは、大きな差が出ます。全社員が「一日一改善」をするのがトヨタ式です。そうすれば変化に対応できる。組織の末端で微調整が効くのです。

 逆に、小さいことを放置していくと、それが集合してドカンと来るのです。そして不祥事を起こす。「俺は頭がいいから、大きなことをやる」と言っている人間に限って、小さなこともできないものです。これはトヨタ式の考え方ではありません。

 

トヨタ式では常に「未達」

 トヨタ式は中途半端に導入しようとしても失敗します。「徹する」ことが大事です。やり続けることです。トヨタでは、40年以上改善をやっていても、利益が1兆円も出ても、まだまだと考えていますよ。コスト削減一つとっても「原価1円までやろう」と考えているからです。常に「未達」なんです。段取り替えが3分でできるようになったとしても、今は車1台60秒で作れるわけですから、車3台分のロスがあると考える。だったら60秒でできないかと考える。それでも1台のロスだから30秒でできないかと考える。

 トヨタ式はエンドレス。3年かけて導入するといったものではありません。

参考

ムダをなくしながら、品質を高める

 トヨタの成長の裏には、「あらゆるムダをなくしながら品質を高める」という、絶え間ない努力があった。

 喜一郎は竣工した挙母工場で、その後、代表的なトヨタ生産方式となる「ジャスト・イン・タイム」を導入した。

 「カンバン」と呼ばれる帳票(書類)を使用する。製品を造る際、後工程を行う人に対しては、加工品に納品書としてのカンバンをつけて引き渡される。後工程でその加工品が使用されたら、カンバンを前工程の人に戻すが、その際、カンバンは発注書として渡され、受け取った前工程の人は製品の加工を始める。

 これは「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」生産すること。それまで大量生産するには、ある程度の在庫を持っていた方がいいとされていたが、喜一郎はムダな在庫を徹底的になくしながら、品質を高め続ける画期的な方法を生み出した。

 日本が敗戦を迎えた1945年8月15日の翌16日、肩を落とす従業員を前に、喜一郎は「3年でアメリカに追いつけ。そうでないと日本の自動車産業は成り立たんぞ!」と発破をかけた。

 その言葉を具体化しようと真剣に考えた一人に、機械工場長の大野耐一がいた。徹底的にムダを排除するために、組み立てラインで不良が発生した場合、一度、ライン全体を止めて、その場で手直しを加え、その後ラインを動かすという、機械と人間の知恵を融合させた「ニンベンのついた自働化」を進めた。

 この方法だと、異常が発生するたびにラインを止めるため、短期的には生産性が落ちる。ところが大野は、あえて問題を顕在化させた方が新しい改善の知恵が早く生まれ、長期的には生産性が上がると考えた。実際に、2時間かかっていた作業を30年後には3分に縮めた(柴田昌治、金田秀治著『トヨタ式最強の経営』日経ビジネス人文庫)。

 モノ、時間、人員、経費などのあらゆるムダを削りつつ、製品の品質を高めていくための組織化が、「トヨタイズム」の本質と言えるのかもしれない。

 時に、周囲からは異常にも見えた2人の高い志は、幕末から戦後という激動の時代を駆け抜け、いまや「トヨタ方式」となって全世界へと広がり、富を生み出し続けている。

参考

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