そもそも「マイナス金利」とは 復習しましょう

 通常の場合、我々が銀行に預金すると、微々たるものですが利子がつきます。少しずつ増えていきます。これが、マイナス金利になると、預金している分の利子を、銀行へ払わなければならなくなります。これがマイナス金利です。

 と言っても、今回の「マイナス金利」は日本銀行と各金融機関における金利の話であって、我々が利用する銀行の預金利子がただちにマイナスになるというわけではありません。

 各金融機関は日本銀行に口座を持っており、お金を預けています。今、預けている分には、これまで通り金利は付きますが、これから新規で預ける分についてはマイナス金利(-0.1%)が適用されます。

 

マイナス金利を導入すると

 結局のところ、どういう影響が出るの?という話になりますが、金融機関としては、日銀に預けていると、利子がつくどころか利子を支払わなくてはなりません。それなら日銀にお金を眠らせておくよりも、企業へ貸し出して金利収入を得たり、他の投資に回したりしよう、という動きになるわけです。

 つまり、市場にお金を出回らせて、企業の設備投資と賃上げを後押しし、景気を刺激しようということです。最終的に、日銀は目標である物価上昇率2%に近づけていきたい、という意向があるわけです。アベノミクス3本の矢の1本です。

 

なぜマイナス金利だったのか

 日銀の黒田総裁は、どうして今、「マイナス金利」を導入したのでしょうか。

 日本の金融政策は2008年のリーマンショックからゼロ金利政策を導入してきており、もう金利はこれ以上下げられないと考えられて来ました。

 だから、金利はもういじれないから、量的緩和質的緩和で対策を講じてきたわけです。

 量的緩和というのは、日銀が金融機関から国債を買い取って、銀行が自由に使えるお金を増やして市場に出回らせようとする政策です。

 質的緩和というのは、日銀が金融機関から買い取る資産の対象を広げて、超長期国債やETFなどの金融商品も買い入れようとする動きのことです。

 どちらも、結局のところ、市場にお金を出回らせることが目的です。

 しかし、この量的質的緩和には、もう限界が来ていました。今回の日銀会合でも金融緩和自体は予想されていましたが、「日銀に手持ちのカードは残っているのか?」という疑念がありました。緩和すると言っても、次何やるの?みたいな。

 そこで黒田総裁が放ってきたのがマイナス金利です。

 そもそも、金融政策というのは、金利を動かすことが正当なやり方です。しかし、日本はゼロ金利政策と取っていたため、動かしようがないと思われていました。

 黒田総裁が今回マイナスの壁を破ってきたことによって、金融政策は3次元になり、非常に幅を持つことになりました。これは、今後の日銀の金融政策に大きな可能性を持たせる舵取りだと思います。

 

世界的な傾向は

 以前、アメリカの利上げが話題になりました。利上げは、今回日銀が取った政策とはまったく逆方向の金融政策です。市場から少しお金を引き上げて、景気にブレーキをかけようとする政策ですね。つまり、アメリカは今非常に景気が強いのです。

そんなアメリカに対して、欧州は日本と同様に金融緩和を続けています。今回の日銀政策会合の直前に、ヨーロッパの中央銀行であるECBが金融緩和を発表したことにより、年初から続いていた、原油安と中国市場の混乱による世界同時株安の進行に歯止めがかかりました。

 

我々の生活にはどのような影響があるのか

 日銀と金融機関との間でマイナス金利になったということは、少なからず我々と金融機関との間の金利にも影響してきます。すぐにマイナスということにはなりませんが、これまでより引き下げられ、将来的にはマイナスになることもあるかもしれません。

 具体的には、住宅ローンや自動車ローンの金利もさらに低くなり、もちろん預金利子の金利も低くなる可能性があります

 

企業業績への影響は

 各企業にとっても大きな影響があります。この金利変動は、良い影響を受ける業界と、厳しい環境に立たされる業界があります。

 まず基本的に銀行は苦しくなります。金利が低くなり、金利収入が減少するのであれば当然のことです(しかし、銀行は日銀からも借入をしているので、その利子がなくなると考えれば良い面もあります)。今回の発表を受けて、銀行株は軒並み下落しました。

 逆に良い影響を受けるのは、不動産業界です。住宅ローンの金利が下がるのであれば、住宅ローンを組みやすくなり、不動産の販売がスムーズになりますね。

 それから、観光業界や航空業界にとっても良い環境になります。金利の引き下げというのは、円安に繋がるのです。円を持っていても金利がつかないのだから、たくさん持っている人は他の通貨に両替したり、とにかく円で持っていても仕方がないので売りますね。そうすると、円安になるわけです。実際、年明けから円高傾向にあった為替が、一気に120円を大きく超える円安方向への動きとなりました。

 円安になれば、今流行のインバウンド需要で、海外からの観光客が増えます。そのため、観光業界や旅行業界も、昨今ずっと続いているように良い環境が続くわけです。