難治性および治療抵抗性のうつ病

 治療抵抗性が起きる原因としては、治療者側の診断の誤りと治療法の選択ミスが考えられます。

 代表的ものとしては、双極性障害の特にⅡ型を見落としたり、非定型うつ病を、メランコリー親和型うつ病と同じ対応(薬物療法と安静)をしてしまったりするケースです。その結果、うつ病の遷延化と難治化につながり、患者にとってはなかなか社会復帰ができない原因となっています。このほか、身体的原因からくるうつ病、例えば認知症やパーキンソン病、甲状腺機能低下症などからくるうつ状態を、大うつ病として診断ミスしてしまう場合です。このケースも、抗うつ薬を延々と投与してしまい、いっこうに改善しない状況がしばしばあります。どうしても、内科的な病気であるパーキンソン病や認知症、脳梗塞などを見落としてしまって、その内科的な治療が先に行われないまま、うつ病治療だけを続けてしまうためです。もちろん、内科的な疾患を見落とさないために、精神科専門医のトレーニングが求められることはいうまでもありませんが、患者のうつ病が難治性であると判断した時点で、身体的な要因がないかどうかレビューし直してみる慎重さが必要と思われます。  

 中高年の女性患者の場合は、甲状腺機能の低下が原因していることがありますので、初期スクリーニングがより重要となります。高齢者になると、脳梗塞、糖尿病、腎障害、さらには認知症などが重複していることがあるので、細心の注意を払って診断する必要があります。

 一方、患者においても、メランコリー親和型うつ病以外のうつ病は、おしなべて難治性であり遷延化する恐れが十分あることを考えておく必要があります。特に双極性障害では、適切に治療が行われず、かりに薬物療法が適切に行われたとしても、深いうつ状態で苦しむことがあります。また、非定型うつ病では、再発や再燃、難治化が原因して、自己不全感、自己否定、強いだるさ、気分がころころ変わったりすることがあります。このほか、うつ状態の背景には若年者の境界型パーソナリティー障害が隠れていることもあり、治療の反応が悪い治療抵抗性のうつ病になっている場合があります。したがって、医師は、チャートによる治療に頼ることなく、自らの臨床経験や診断技量を活かして治療効果をあげる努力が求められているといえます。