公的年金のインフレ対応機能

 老後の生活保障には、 高齢で勤労収入が得られなくなった後も、寿命やインフレにかかわらず、年々の生活費が確保されることが必要である。しかも、インフレには、物価上昇ばかりでなく、 実質賃金の上昇等に伴う一般生活水準の上昇による相対的な生活水準の低下も含めて考えるべきである。これら寿命やインフレは不確実なものであるから、老後の生活費を確保するには、この不確実性を除去する必要がある。このうち、寿命の不確実性は個人については存在するが、世代については除去され平均寿命がほぼ予想できる。すなわち、長寿のリスクは世代内でプールできるから、年金でも長寿のリスクを除去できる。一方、インフレ・リスクは、世代で共通に被るものであり、世代内でプールできないから、私的年金では除去できない。すなわち、物価や賃金の上昇が年金積立金の運用利回りを予想外に上回れば、 生活水準の低下が生ずる。さらに、運用利回り自体も不確実である。これに対して、公的年金では、強制加入の仕組みを通じて安定的な保険集団を構成することにより、現役世代から老後世代への所得再分配を行うことができるため、インフレ・リスクを異なる世代間でプールできる。 すなわち、公的年金の原資は現役世代の賃金に基づいているため、賃金上昇に比例して年金額を引き上げることが可能であるから、 公的年金はインフレ・リスクに対応できる。これによるリスク・プレミアムを考慮すれば、今後の高齢化の下でも公的年金は私的年金より有利である。公的年金は、現役世代が拠出する保険料で老後世代の年金をまかなう賦課方式 (世代間扶養)に基づいているため、年金額は現役世代の賃金と人口構成(現役世代の老後世代に対する比率)に依存する。したがって、年金給付の保険料拠出に対する比率は、賃金上昇率と現役・老後人口比率によって決まる。一方、私的年金の給付・拠出比率は利子率によって決まる。このため、今後、人口高齢化、すなわち、現役・老後人口比率の低下によって、公的年金の給付・拠出比率は、 平均的なケース(期待値)では私的年金を下回ると予想されることが多い。しかし、期待値が必ず実現するわけではないから、公的年金がインフレ・リスクに対応できることによるリスク・プレミアムを考慮すれば、公的年金は不利にはならないとされているのだが。

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