働き方改革の背景

人口は減少の一途

・2025年問題:

 団塊の世代が75歳以上(後期高齢者)になる。人口の3割が65歳以上になる。

・2050年問題:

 人口の約4割が65歳以上になる。

・2060年問題:

 働き手となる15歳〜65歳(生産年齢人口)が人口の約半分まで減少。

 平成28年度版「通信情報白書」によると、日本の人口は2060年には3割減の8674万人になると予測されている。就業して生産活動の中核をなすとみなされる「生産年齢人口」にいたっては、4割減の4418万人にまで落ち込む見通しである。

 

労働人口の減少

 まず、第一に懸念されているのが、労働力人口の減少です。労働力人口とは、労働に適する年齢以上のもので労働の意思と能力を有する人の数のことをいい、就業者と完全失業者を合わせたものをいいます。

 人口減少社会に突入した日本では、それに伴い、労働力人口の減少が問題になっています。特に、団塊世代が60歳を迎える平成19年には大幅な労働力人口の減少が予想されていましたが、それを懸念した政府が、平成18年に「改正高年齢者雇用安定法」を施行し、65歳までの雇用確保措置を義務付けたことによって団塊世代の一斉離職を食い止めることができました。

 しかし、日本の人口推計をみる限り、今後も人口減少が大幅に改善することは見込まれず、労働力人口を確保するためにはさらなる「働き方改革」が必要です。

 超高齢化社会に備えるためには、女性や若者、高齢者などの労働力が必要で、これが「1億総活躍」が唱えられる所以です。

 すでに人手不足が叫ばれて久しい。有効求人倍率は1.5倍を超えてなお右肩上がりで上昇中である。今後も人材難に苦しむ企業は加速度的に増えることでしょう。

 企業は多様な働き方を戦略的に整備し、優秀な人材の確保と離脱防止に努める必要がある。

 

少子高齢化

 人口減少に伴い、少子高齢化も重大な問題となっています。

 日本は世界でも長寿国であることが有名です。65歳以上の人口比率は増え続け、2013年の高齢者の割合は総人口の25.1%で4人に1人ですが、2060年には総人口の40%となり、2.5人に1人が高齢者となることが予測されています。

 これに対して、出生率は減少を続けており、2060年には合計特殊出生率は、1.35にまで減少することが見込まれています。出生率の低下には晩婚・晩産化など、様々な原因が考えられていますが、労働時間の長さも一つの大きな要因とされています。女性の労働参加が進み、フルタイムで働く女性が増えることに伴い、年齢を重ねるにつれ、業務責任の重さが増え、管理職への登用が進むこともあり、必然的に残業時間が発生することになります。

 ここ数年、日本では待機児童問題が大きく取り上げられていますが、保育園に入れたとしてもそれがゴールではありません。子供を保育園に預け、共働きしている場合には、どちらか片方が残業をせずに仕事を切り上げて子どもを迎えに行く必要があります。しかし、日本では定時退社が難しい職場風土がまだまだ根強く残っているため、「定時だからといって仕事を引き継げない」、「周りに気を遣う」などといった意見も多く、たとえ保育園に入っていても子育てと仕事の両立の難しさを痛感することになります。

 待機児童問題と共に、長時間労働が改善されない限り、子どもがほしいと思いつつ、2人目の子供を作ることを控えてしまう夫婦も増えるばかりです。日本人の長時間労働は女性の社会進出を阻むだけでなく、少子化を進行させる要因にもなっているのです。

 

長時間労働

 日本では欧州諸国と比較して労働時間が長く、「KAROUSHI(過労死)」という言葉が英語辞書に掲載されるほど、長時間労働や仕事上のストレスにより自殺・死亡する労働者が増え続けています。労働基準法では、使用者は1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないと定めていますが、労働基準法第36条に基づく労使協定(36協定)を結び、特別条項を付記すると、事実上無制限に働かせることができてしまいます。

 さらに、日本ではかつて「企業戦士」「モーレツ社員」という言葉が流行したように、サラリーマンは企業のためにすべてを犠牲にして労働することが美徳とされてきた企業文化があります。

 

労働生産性

 労働者1人あたりで生み出す成果、あるいは労働者が1時間で生み出す成果を指標化したものを「労働生産性」といいます。労働者がどれだけ効率的に成果を生み出したかを数値化したもので、労働生産性の向上は、経済成長や経済的な豊かさをもたらす要因とされています。

 2015年度の日本の名目労働生産性(就業者1人あたり付加価値額)は783万円で、リーマン・ショック後に大きく落ち込んだ後、停滞する状況が続いていたものの、2011年度に底打ちしてから4年連続で上昇が続いていますが、OECD 加盟 35 カ国中 22 位(労働生産性の国際比較 2016年 公益財団法人日本生産性本部)で、加盟国平均を下回っており、先進7ヵ国(G7)では最下位となっています。

 これまでの日本では、「労働時間を増やして頑張れば頑張るほど企業の業績が向上する」と信じられ、長時間労働をすれば「頑張っている」と認められる文化がありましたが、働き方改革では、「長時間労働の是正」のためには、まずは「労働生産性の向上」が必要だと考えられています。

 以前より、労働時間あたりの生産性の低さが問題視されており、働き方の改善は必要でしょう。しかし、この流れに乗じて、単純に労働を「悪」とする風潮が広まれば、「ゆとり教育」と同じ失敗を繰り返す可能性がある。

参考

人生100年時代の到来

 医療やヘルスケア、新薬の分野がめざましく発展しており、健康寿命は飛躍的に伸びると予測されている。内閣府の発表によると、日本は「世界のどの国も経験したことのない高齢社会」を迎えるという。

 日本で2007年生まれの子供の50%は107歳まで生きるという。

 超高齢化社会を迎え社会保障システムの見直しもせまられる今、70歳、80歳まで現役として働く人生が現実味を帯びてきている。

 人生100年時代への対策として求められる行動 ・学校に行って、就職して定年まで働いて、引退、という3ステージの脱却 ・マルチステージ型の人生への転換 ・生涯学び続けること、大人の学び直し

 この大変革の時代に現役期間が伸びるということは、決められた仕事を効率よくこなすだけでは生き残れない。個人個人が自己研鑽し、知的生産性の向上を目指すほうが懸命である。

 

テクノロジーが進化

 働き手からすると、今は空前の売り手市場。だが、安心してはいられない。RPAやAIなどテクノロジーの進化はめざましく、「大手企業の正社員=安泰」という働き方はすでに崩壊しつつある。また、テクノロジーの進化により、労働環境のみならず、産業構造が大きく変わる局面を迎えている。

テクノロジーの進化による代表的な変化

・機械に仕事が奪われる、仕事の内容が変わる(RPA、AI)

・産業構造が変わる(ブロックチェーン、スマートコントラクト、IoT、AR/VR)

・デジタルディスラプチャーの台頭、シェアリングエコノミーの発展

 人口減少を背景としたテクノロジーの活用で、業務効率化をはかるという意味での「働き方改革」だけではなく、事業やビジネスモデルそのものを見直して新たな付加価値を創出するというイノベーションが求められている。

 政府主導の労働生産性向上にだけ焦点を当てた「働き方改革」では、変革を起こせない。知的生産性向上をともなうことが、企業がイノベーションを起こせる鍵となる。

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