「量子のもつれ」と「不確定性原理」

 テレポーテーションは、人や物を瞬間的に遠隔地に移動させる手法で、SFの世界では古くからあるアイデアである。テクノロジーによる方法もあれば超能力者の技として出てくることもあるが、いずれにしても想像の産物に過ぎなかった。スタートレックの転送技術も、たとえ遠い将来であっても到底実現するとは考えにくい。しかし、1990年代に入ってから、非常に微かだが光明が見えてきた。スタートレックの転送技術のネックは量子レベルの不確かさであったが、この方法はそれを逆手に用いたものである。

 東京大学の古澤明教授らが、光の速さを超えて情報を伝達することができる、完全な「量子テレポーテーション」に成功したという論文が、2013年8月の英科学誌ネイチャーに掲載されました。

 ここで言う「テレポーテーション」は、物質の瞬間移動ではなく、情報を瞬時に伝えることを指しています。

 「量子テレポーテーション」は、「小澤の不等式」と並んで、スーパーコンピュータをはるかに超える能力を持つ「量子コンピュータ」の基礎になる技術です。 

 原子や電子といったミクロの世界では、我々が普段生活している世界では起きないことが起きます。その仕組みを明らかにするのが量子力学です。「量子テレポーテーション」で使われているのは、量子力学の中の「量子のもつれ」「不確定性原理」です。

 「量子のもつれ」とは、光子を二つに分割すると、二つの光子がまるで一つの光子のように、一体となって振る舞うことをさします。二つに分けた光子を情報の送る側と受ける側に分け、送る側の光子に情報を送ると、受ける側のもう一方の光子も同じく変化します。このとき、光の速さを超えて情報が伝わるのです。

 送る側の光子に情報を伝えるときに利用するのが「不確定性原理」です。ミクロの世界では、位置と運動量を同時に正確に測ることができない、ということが起きます。位置を測ると運動量(質量と速度を掛けたもの)が変化し、運動量を測ると、その間に位置は変わってしまいます。これを利用して、送る側の光子の位置を測定することで、受ける側のもう一方の光子の運動量を変化させて、情報を伝えるのです。

 

 古澤教授らは、これまでは光子の粒としての情報を送っていましたが、今回は光子の波としての情報を送ることで効率を100倍以上にでき、伝達率を61%まで高めたとのことです。

 今までのコンピュータでは数万年かかってしまう複雑な計算を、たった数分間でできるようになる「量子コンピュータ」が、また一歩、実現に近づきました。

 スーパーコンピュータ「京」。その計算速度は世界トップクラスですが、「量子コンピュータ」というそれよりもさらに速いコンピュータの実現に一歩ずつ近づいているようです。

 きっかけは東北大学と名古屋大学がこのほど、量子力学の基本原理の1つである「ハイゼンベルクの関係式」が破れている(成り立たない場合がある)ことを証明する「小澤の不等式」について、実験での検証に成功したと発表したことです。

 「ハイゼンベルクの関係式」とは、原子などミクロの世界で、ある粒子の位置と運動量(重さに速度を掛けたもの)を同時に正確に測定することはできないというものです。

 しかし、名大の小澤正直教授はこの「ハイゼンベルクの関係式」の破れを発見し、より正確に表した「小澤の不等式」を2003年に発表しました。「小澤の不等式」では誤差ゼロの測定ができることになります。今回はこの「小澤の不等式」が、理論だけではなく、光を使った実験でも、正しいと証明されたのです(中性子での実証実験は2012年に行われています)。

 「小澤の不等式」は、従来のコンピュータに比べて数千万倍の速さで計算できる、「量子コンピュータ」の基礎研究の一つ。今回の証明で、さらなる研究の進展につながることが期待されます。

 従来のコンピュータでは、集積回路の部品であるピン1つについて、0か1のどちらかの数字だけが指定できます。このピンを複数個並べることで2進法で1つの数字を表し、電流を流して計算します。ピンをたくさん並べれば、計算は速くできるようになりますが、コンピュータをその分大きくしなければなりません。

 「京」などのスーパーコンピュータになると、建物を埋め尽くすほどの大きさになってしまい、この方法では実現できる速さに限界があります。そのため、従来のパソコンで桁数の大きい素因数分解などの難しい計算をしようとすると、数十億年単位の時間がかかってしまうとも言われます。

 しかし、量子コンピュータでは、1つのピンに0、1、2、3・・・と、いろいろな数字を指定できるようになり、計算の効率が高まります。これによって、小さなコンピュータで、今のスーパーコンピュータの能力を超えることも期待できます。暗号解析など、今のスパコンでも数十年かかっていた計算を数十秒でできるようになります。

 また、量子コンピュータは「テレポーテーション」の開発にも役立つ可能性があります。あるイギリスの大学生の研究チームは、1人の人間をテレポーテーションさせるために、その人の持っている情報(肉体と精神)を解析し、送り先に届けて再構築する方法を取ったとき、その人の情報を転送するには、140億年の35万倍かかるという試算を出しました。あまりに時間がかかりすぎますが、こうした情報のやり取りも、量子コンピュータを活用すれば「夢物語」ではなくなるのかもしれません。

 現代は、インターネットや携帯電話など、昨日までSFに過ぎなかったものさえ家電になる時代です。物理は確実に進歩しており、新しい未来に我々を導いてくれます。

 

多者間で情報通信のネットワークが組めることを実証

 量子テレポーテーションとは、「A点での量子状態が消え、それが別のB点に現れる」ことです。まるでSFみたいな話ですが、A点での量子状態がB点に現れるのですから、この量子状態に情報としての意味を持たせれば、A点からB点に情報が伝わったことになります。量子テレポーテーションが将来の情報通信・処理技術の基礎中の基礎、つまり土台と言われるわけです。東京大学大学院工学系研究科の古澤明助教授は3つの光子(光)に共通した量子的なもつれ(量子エンタングルメントと言います)を持たせて3者間でこれを制御、世界で初めて3者間での量子テレポーテーション実験に成功しました。今回の成功で量子による情報通信・処理のネットワークが組めることが実証されました

 

現在の情報通信・処理技術には限界が  

 物理的な量の最小単位である「量子」は極めて不安定ですが、量子力学的効果を積極的に用いることにより従来は不可能であった動作が可能となります。  現在の通信、例えばファクシミリで原稿を送れば、受信側には原稿のコピー(言わば分身)が現れ、送信側には原稿が残ります。ところが量子テレポーテーションでは、郵送でもないのに原稿自体が相手に届いた様になるのです。量子には孫悟空のような分身は許されないので、AB両点に同時に姿を見せることはあり得ず、B点に現れたということはA点では消えたことになるのです。  電流、電圧、磁場、光の強弱など、いわゆる古典的物理学の動作原理に基づく現在の情報通信・処理技術は、処理速度や記憶容量を日々向上させて来ました。それでも「何時かは限界を迎えるでしょう」と、2000年に東大に来るまで、国内の光学メーカーに籍をおき、光化学ホールバーニング、フォトンエコー、量子光学の研究をしていた古澤助教授は言います。

 古澤助教授によると「ディスクの記録密度を上げようと、光のスポットをどんなに絞っても光の波長以下には出来ません。また、それほど大容量化すると、読み出し時のディスクの回転速度を猛烈にアップしなければなりません。それが極限まで行くと、回転が早くなったことでディスクから跳ね返って来る光子の平均個数が1個以下になってしまいます」。こうなると、光を拾えなくなりますから、普通のやり方ではそこが限界なわけです。  一方、「半導体の集積度は1年半から2年で倍増する」というムーア(米国インテル社創業者の一人)の法則によると、2020年にはLSI(大規模集積回路)中の1個のトランジスタのゲートを走る電子は1個を切ってしまう計算です。前述の光子の場合と同様に、古典的な考え方なら、ここで行き止まりです。  そこで、こうした限界を乗り越えようと、量子物理学に立脚した、今回の成果のような新しいアプローチが始まっている

 

3者の情報が揃って、はじめて量子テレポーテーションに  

 量子もつれ制御による量子テレポーテーションは、電子系やイオン系でも可能ですが、今回の実験は光子系で行われました。何故なら、光の量子状態は、ミラー(鏡)で光を跳ね返している限りは壊れないので、実験がやり易いためです。  実験は以下のように行なわれました。1回の実験の中で3つの光子(光)は、送信者/受信者/制御者のいずれかの役割を果たします。もちろん、役割は互いに変えられます。まず、3者全員に量子的にもつれさせた光ビームを送ります。これで3者は見えない糸で量子もつれを共有したことになります。送信者は、この光ビームと送りたい量子情報を含む光ビームを合わせて測定、その結果を受信者に送ります。制御者も自分の所に来ている量子もつれの光ビームを測定、その結果を受信者に送ります。受信者は、送信者と制御者からの情報の雑音を、自分の所に来ている量子的にもつれた光ビームを用いて消し、送信者が入力した量子情報を再現します。ここで、制御者無しでは送/受信者間の量子テレポーテーションは起きません。3者ではお互いに量子的にもつれているけれど、2者同士ではもつれていないので、そのままでは量子テレポーテーションはあり得ないのです。しかし、3者でなら互いにもつれている制御者が加わること、つまり、3者全員の情報が揃って初めて送/受信者間の量子テレポーテーションが実現するのです。 古澤助教授は、米国カリフォルニア工科大学で研究中の1998年に2者間での量子テレポーテーション実験に成功していますが、今回の成功でネットワークが組めることが証明されたのです。

意義大きい今回の成功  

 古澤助教授は「量子テレポーテーションが2者で出来たことと、3者で出来たことでは、意義は決定的に違うと思います」と言い、その理由を「2者での量子もつれの制御は、握手のようにお互いが片手だけで結ばれたようなものです。それが、3者の量子エンタングルメント制御になると、3人が互いに両手を伸ばして結ばれたようになります。これで初めてリングとなり、ネットワークが組めるのです」と語ります。  「2」が「3」になるのは、数的には、たった1つのプラスですが、「3」で出来たということは、さらに「4でも」「5でも」・・・と無限に続く可能性への第1歩なのです。3者で成功なら、さらに複雑なネットワークも可能でしょう。2者の量子テレポーテーション成功と3者のテレポーテーション成功では、同じ成功と言っても決定的に意義が違うのです。  ただし、こうした検証と、ハードとしての量子コンピューターや量子暗号の実用化といったこととは話は別です。実際、量子コンピューターの実用化には、まだまだ数多いハードルがあるそうで、この研究グループは今のところ、量子コンピューターそのものの研究はしていません。

 

量子トンネル  

 我々の世界では、電子は貫通不能なはずのガウス場の外に突然飛び出すことができる。これは、密封されたガラス壜に入れられたコインが突然外に抜け出すようなものである。純粋な物理世界では、このようなことは起こりえない。しかし、我々の世界では起こり得る。  ところで、量子論では、時折、電子が上記のように振る舞うことを要求する。なぜなら、量子波は物理的な障害があっても広がり、電子はそこにある任意の点でランダムに崩壊するからである。それぞれの崩壊は、我々が物理現実と呼ぶ映画の1コマであり、次の1コマが決まっていない限り、確率に応じてランダムに発生する。つまり、貫通不可能な場を通過する電子トンネルは、映画の登場人物が室内から外に出るシーンをカットしてしまったようなものである。 (「量子的実在論」)  ある状態から別の状態へのテレポートは、あらゆる量子物質が移動する方法そのものである。我々は、物理世界が観測無しでも存在すると思っているが、量子論の観察者効果は、ゲーム内の環境のように、そこに視線を向けた瞬間に現れることを示唆している。ボーム解釈では、幽霊のような量子波が電子を導くが、本理論では電子がその幽霊のような波なのである。量子的実在論では、量子世界こそが現実であり、物理世界はその産物であると捉えることで、量子パラドックスを解決する。

 

「瞬間移動」の研究進む テレポーテーションに心と体は耐えられるか

 オランダのデルフト工科大学の研究チームは、このほど3メートル離れた2つの地点の間で、情報を100%の精度で”瞬間移動”させる実験に成功した。

 これは「量子テレポーテーシション」と呼ばれる現象。1つの光の粒子を2つの量子に分裂させたとき、片方に情報をインプットすると、もう片方に瞬時に伝わるという原理を用いたものである。東京大学の古澤明教授が世界で始めて「完全な実証」に成功し、世界を驚かせた。そして今回の実験は、その時に60%ほどだった伝達の精度が、100%にまで上がったという点で大きな前進と言える。

 この原理の応用の対象として、最も期待されているのが「量子コンピュータ」の実現である。今まで数万年かかると言われていた複雑な計算を、数分でできるようになり、産業や生活にも大きな進歩をもたらすという。

 この原理には、さらに驚くべき可能性がある。今回の研究を率いた同大学のハンソン教授は「人間をひとつの原子の集合体と捉えれば、原子の集合体のテレポーテーションも可能」と述べている。つまり、未来には人間のテレポーテーションも可能になるかもしれないということだ。科学技術は驚くべきところまで来ている。

 しかし、新たな科学技術には、しばしば「扱う側の人間の手に負えない」という問題がつきまとう。もし人間が瞬間移動する技術ができた場合、予想されるのが「精神は正しく移転されるのか」という問題である。

 「フィラデルフィア計画」と呼ばれる有名な話がある。1943年にアメリカ軍がフィラデルフィア沖合で「ある機器で駆逐艦に特殊な磁場を発生させ、戦艦をレーダーに映らないようにする」という実験を行った。実験の結果、レーダー上での表示どころか、船自体が2,500km以上も離れたノーフォークにまで瞬間移動し、数分後に再び瞬間移動で元の場所に戻ってきた。だが、偶然の産物といえる瞬間移動は、乗組員に大きな被害をもたらした。多くの死亡者、行方不明が生まれ、生存者の中には発狂者が続出したと言われている。

 幸福の科学大川隆法総裁は、人類の歴史の霊的背景や、未来の歴史について書かれた『黄金の法』の中で、「西暦2800年代前半に、人体のテレポーテーションが可能になる」と予言している。しかし、テレポーテーションを起こした際、魂が肉体をコントロールできずに精神異常をきたす人が増えるという問題が発生することも指摘している。

 以上の話は、政府の公にしていない情報、そして遠い未来の話だが、「身体が物理的に移動しても、精神がうまく移動できない」という理屈は理解できる。これは、クローン技術など生命体そのものを生み出す技術にも共通する問題だが、「生命とは何か」「精神とは何か」という問いに答えることができなければ、人間は一定レベル以上の科学技術を扱うことはできなくなるでしょう。