量子もつれ

 私たちが経験から知っているように、この宇宙で私たちが直接に影響を及ぼすことのできる物体は直接触れているものだけである。しかし、量子力学によると、「量子もつれ」という性質がもたらす遠隔作用が存在し、2つの粒子が何の媒介もなしに同期して振る舞う。この非局所効果は単に直観に反しているだけではない。アインシュタインの特殊相対性理論に深刻な問題を投げかけ、物理学の根底を揺るがすものです。

 量子もつれとなる特性はいろいろある。例えば,それぞれの自転の向きがはっきり決まっていないにもかかわらず、反対向きに自転していることが確実な2個の粒子がありうる。量子もつれは、粒子がどこに存在するかによらず、粒子が何であるかによらず、互いにどんな力を及ぼし合っているかによらずに,2つの粒子を関連づける。原理的には,銀河の両サイドに遠く離れた電子と中性子が量子もつれになっている例も考えられる。

 一方で、量子もつれは「非局所性」という非常に気味悪く徹底的に直観に反する現象を引き起こす。対象に触れず、そこまでつながったどんな実体の連鎖にも触れることなく、物理的影響が及ぶ可能性が生じるのです。

 非局所性の最大の問題は、その圧倒的な奇妙さを別とすると、特殊相対性理論に重大な脅威をもたらすという点である。ここ数年で、この昔からの問題がついに物理学の真剣な議論の対象となった。議論の行方によって、物理学の基盤は最終的には崩れるか、歪められるか、再創造されるか、確固たるものになるか、あるいは腐敗のタネがまかれることになるでしょう。

 アインシュタインは量子力学にかなり多くの疑問を感じていた。「神はサイコロ遊びをしない」という彼の言葉とともに、よく知られている量子力学の気まぐれさに対する懸念は、その一例にすぎない。彼が公式に明瞭に異議を唱え、わざわざ論文まで書いた唯一の反論は、量子もつれの奇妙さに関するものであった。3人の著者、アインシュタインとその共同研究者であるポドルスキー、ローゼンの名をとって「EPR論文」といわれるものがそれです。「物理的実在の量子力学的記述は完全と考えられるか?」と題された1935年のこの論文で、彼らは自分たちが提起した問いに確固たる論考をもって「ノー」と答えた。

 これに対して、物理学者ボーア(Niels Bohr)が反論したことはよく知られている。その後、非局所性に関する議論は長らく物理学研究の表舞台にのぼらなかったが、アイルランド人物理学者ベル(John S. Bell)による1960年代の理論研究や、フランスの実験物理学者アスペ(Alain Aspect)らによる1980年代以降の実験などによって、物理世界の非局所性が確証された。

 特殊相対論は局所性を少なくとも前提にしている。量子力学に現れる非局所性は「絶対的な同時性」を要求するようで、特殊相対論にまさしく不気味な脅威をもたらす。特殊相対論が世に出て100年余りたったいま、その状況は突如として疑問だらけとなった。これは、量子力学に対するアインシュタインの長く忘れられていた未完成議論を、物理学者と哲学者がついに完遂したことから生じた。皮肉ではあるが、アインシュタインの天才ぶりを示すもうひとつの証拠である。

 

宇宙航行するなら通信手段も進歩が必要

 最近は宇宙映画が多いが、人類が実際に宇宙に出て行こうと思ったら、宇宙航行の方法だけではなく、通信手段も、現在の常識を超える進歩を遂げる必要がある。実は、「量子もつれ」という、今物理学でもっとも注目を集めている分野・現象の一つが、この問題を解決できるかもしれない。

 「量子もつれ」は、2つの粒子が「0秒」(瞬時)で情報を交換しているように見える現象である。アインシュタインが考え出した有名な「E=mc2」の式(エネルギー=質量×光速の二乗)によれば、エネルギーは物質に変わることがある。

 例えば、東京と大阪の中間地点で、エネルギーが物質に変わったとする。こうしてできる物質は2つの粒子である。これらのうち1つが東京に向かい、もう1つが大阪に飛んでいったと仮定する。このとき、東京側の粒子に「何か」をした場合、大阪側の粒子にも同時に影響が出る。2つの粒子の距離に関係なく 0秒で起こる。これは、量子力学上2つの粒子が一対のモノであることに起因している。これが「量子もつれ」なのです。

 

「量子もつれ」を使った情報通信は光速を超えるのか?

 「量子もつれ」を利用した情報通信は、「量子テレポーテーション」とも呼ばれる。もしこれを通信技術として実現できれば、現在では考えられないほど速く、安全な情報交換が可能となる。しかも、距離に関係なく瞬時に伝わるので、火星と地球の通信でも12分もかからない。

 もっとも、「量子もつれ」の現象は観測されているものの、理論的に解明できておらず、それが本当に「光速を超えている」かどうかもわかっていない。

 しかし、この現象を利用したコンピューターや、新しい情報暗号化の方法の研究が、世界中で行われている。

 光速を超える情報交換の手段ができれば、大規模な宇宙航行の手がかりになるかもしれない。今後の研究成果に期待したい。