イノベーション

 マーケティングだけでは企業は存続しえない。企業を取り巻く環境のすべてが時とともに変化している。企業は、変化・変転する経済において存在し続けなければならない。

 企業における二つ目の基本的機能がイノベーションである。すなわち、より優れ、より経済的な商品やサービスを創造することである。

 商品やサービスだけではなく、生産プロセス、営業方法、流通プロセス、人事・組織運営など事業のあらゆる局面でイノベーションを図らなければならない。更にはマーケティングそのものもイノベーションしていかなければならない。

 企業にとって、より大きなものに成長することは必ずしも必要ではないが、常により優れたものに成長する必要はある。そのためにもイノベーションが必要である。

 この世は諸行無常、全てが変化・変転する。その中で、

 ・直ちに変化しなければならないもの

 ・近い将来変化させなければならないもの

 ・その先に変化させなければならないもの

がある。それらを見極めて企業のイノベーションを図っていかなければならない。

 成果は会社の外にある。マーケティングによって顧客のことを知り、その内容に基づいて会社をイノベーションすることで「顧客を創造」する。常に外を見て内側に手を打つ。

 「イノベーション」といえば、日本では単に技術革新と捉える人が多いが、これはイノベーションのほんの一部にすぎない。

 イノベーションとは、大きく

 ・シュンペーターが唱える「異質なものの結合」

 ・ドラッカーが唱える「体系的廃棄」

がある。

 シュンペーターの唱える「イノベーション」は、考え方、発想、技術、材料など異質なもの同士が結合することで、新しいものができるという考え方である。

ドラッカーは、「イノベーション」の本質は「体系的廃棄」だと言っている。従来のやり方を捨てる、これまで組織だってやってきたやり方、制度、仕組み、思考体系をガッサリと捨て去るということです。ドラッカーは、従来のやり方を改善しながらやっていくと、いずれ立ち行かなくなる時が来る、必ずイノベーションしなければならない時が来ると言っています。これまで成功を重ねてきたやり方、成功の要因を捨てなければならない時が来る。それも体系的にと。

 

イノベーションの本質

 経営とは、昨日までなかった新しいものを作り出す仕事である。一方、イノベーションとは、顧客にとっての新しい価値の創造である。より優れ、より経済的な商品やサービスを創造することである。企業が存続し発展していくためには、より大きなものに成長することでなく、常により優れたものに成長する必要がある。その過程で今まであったものを破壊し、新しいものを作り上げていく。

 これまでうまくいっており、組織だってやってきたやり方、秩序だってやってきたものを全て捨て去ることである。これを「体系的廃棄」という。この体系的廃棄が、新しい価値の創造に繋がっていく。

 体系的廃棄とは、これまでの成功要因、組織体制、やり方、考え方、価値観、哲学などを廃棄することである。自社の成功要因を自らの手で捨て去らなければならない。

 諸行無常の法則に則り、企業を取り巻く環境は常に変化し続け、これまで成功が長続きしない。これまでの成功要因が必ずしも成功要因でなくなってくる。失敗要因に変わってくる。なぜならば、顧客のニーズも変化し続けているからである。

 発展するということは、新しいものが出てくるということ。それを今までのやり方、製品・サービスで解決できたら次に行ける。しかし、そんなにうまくいくことは滅多にない。成功にしがみついていたら、滅びるだけである。そこで、体系的廃棄、捨てることを学ばなければ次には行けない。

 イノベーションの機会を体系的に分析するのが、マーケティングの機能である。

 ドラッカーは、イノベーションの機会は7つあるといっている。

 第一が、予期せぬことの生起である。   

   予期せぬ成功、予期せぬ失敗、予期せぬ出来事である。

 第二が、ギャップの存在である。   

   現実にあるものと、かくあるべきものとのギャップである。

 第三が、ニーズの存在である。

 第四が、産業構造の変化である。

   国際環境を含む。

 第五が、人口構造の変化である。

   少子高齢化など。

 第六が、認識の変化である。

   物の見方、感じ方、考え方の変化である。

 第七が、新しい知識の出現である。

 このマーケティングで得た情報をもとに、経営者は、自社の製品、サービス、流通、仕組み、組織などのイノベーションを実施していかなければならない。

 予期せぬ成功や予期せぬ失敗をした時がイノベーションのチャンスである。これを業務報告するなどの仕組みを作れば、体系的に計画的にイノベーションを起こすことができる。

 予期せぬ成功をしたら、他でも使えないか、予期せぬ失敗をしたらやり方を変える。期待値を上回ったり、下回ったりすることは日々起きている。これを経営に活かすことが、最もリスクも小さく、しかも最も成果が大きいイノベーションの機会となる。

 予期せぬ生起やギャップの存在は、通念や自信を打ち砕いてくれるからこそイノベーションの宝庫となる。特に、マーケティングの前提としていたものが、もはや現実との乖離が生じていることを示している。マーケティング方法そのもののイノベーションも同時に求められる。

 経営資源は限られている。資源は集中しなければ大きな成果はあげられない。 ドラッカー曰く、「集中のための第一の原則は、生産的でなくなった過去のものを捨てることである。そのためには自らの事業を定期的に見直し、『まだ行っていなかったとして、いまこれに手をつけるか』を問うことである。答えが無条件のイエスでないかぎり、やめるか大幅に縮小すべきである。」「古いものの計画的な廃棄こそ、新しいものを強力に進める唯一の方法である。」(『経営者の条件』より)

 計画的な廃棄、体系的廃棄を行うに際し、予め劣後順位を決めておく。そして、一番いらないものから捨てていく。この場合、商品のライフサイクルにおいて、体系的廃棄のタイミングは成熟期のピークのときである。少なくとも、成熟期の中期から後期には体系的廃棄を行わなければならない。これをやらないと乗り遅れる。

 廃棄とは、あらゆる種類の組織が自らの健康を維持するために行っていることである。いかなる有機体といえども、老廃物を排泄しないものはない。さもなければ自家中毒を起こす。既存の物の廃棄は、企業がイノベーションを行う上で絶対に必要なことである。

 廃棄は、企業が継続的に変化・発展するための手段であり、時代を超えて生き残っていくための手段である。(ドラッカー著『イノベーションと企業家精神』より)

 

企業の発展とイノベーション

 イノベーションは、外部変化に対応するだけではなく、会社の内部の変化に応じても行わなければならない。

 市場の変化、あるいは顧客の動向に変化はないが、会社が急発展することがある。それに応じて組織運営を変化させることが必要である。

 これについて、3つの視点から考える。 一点目は、会社の発展に応じた経営の考え方。

 スタートは、夫婦や仲間で商売。スタートは商売、売り上げ至上主義でいく。

 売り上げが上がってくると、商売から経営の方向に向け、機能分化が始まる。営業、経理、生産当たりが入ってくる。社長はまだワンマンだけれども、利益至上主義に代わる。さもないと、経費倒れで倒産に繋がることもある。

 さらに発展していくと、ワンマンから経営チームへシフトする。指示出しをするワンマンから、全責任を負うワンマンになる。機能分化がさらに進んで財務、広報、総務まで増えてくると、利益プラスリスク管理、経営の考え方が変化する。

 二つ目は、会社の発展に応じた経営者の役割。

 初期段階の経営者の役割は、アイデアマン。どんなベンチャーでもアイデアを出すのはトップだけである。常にアイデアを出し続けることが成功・不成功を分ける。小さな段階で成長が止まるのはアイデアが出ないだけである。できる社長はアイデアを出し続けて急成長する。アイデアの供給が止まった段階で、小さな会社は問題を打開できなくなってしまう。

 第2段階の経営者の役割は「教育者」である。経営理念に基づいて、いかにして人材教育するか、作法、会社のカルチャー、いろんな人材の育成が必要である。

 第3段階の経営者の役割は、ミッション経営における伝道者。会社の末端に至るまで、企業ミッションを伝え、浸透させる。企業の遺伝子づくり。どの程度で火をつけることができるかが、会社の規模を決める。ベンチャー企業のスタートは燃える集団、社長と5人の仲間から始める。30人くらいになると社長との距離ができ、いつの間にか普通のサラリーマンの集合体になる。温度を下げずにどこまでいけるか。これがミッション経営の力である。

 最初はアイデアマン、そして教育者、最後は経営理念の伝道師。こうやって行くと大企業の仲間入りができる。これをやったのが松下幸之助。とにかく理念を言い続けて、火をつけ続けて松下電器を大企業に育てた。末端に至るまで どの規模まで火をつけることができるか、最終的にはトップの仕事である。このように役割も体系的廃棄をしていく必要がある。

 三つめは、発展におけるリスクの変化。発展に応じてリスクの質が変わってくる、そのリスクに応じて会社を変えていかねばならない。

 スタートのリスクには経営者自身の能力不足がある。これが常にリスクとなっている。社長の成長が止まったら会社の発展もピタッと止まる。ですから、早期に人材教育によって専門家を育て、チーム経営に移行していかなければならない。

 次が、機能分化のバランス。生産、営業、企画、管理部門、財務などのバランスが崩れての倒産は山のようにある。売りが上がっているけど生産が追い付かない。資金が追い付かない。このバランスのリスクは相当発生する。

 会社が大きくなってくると、外部リスクに対処しなければならない。地域でトップになると全国レベルが挑戦してくる。これでやられる会社はいっぱいある。急成長の会社のなかは穴だらけ。急発展して売上50億、会社のなかで不正しているところ、マスコミが入ったり外から見ると危険なところはいっぱいある、そしてやられていく。まさに落とし穴。そのリスクにまずは気付くことが大事である。

 

勝ち続けるためのイノベーション

 常に勝ち続けるシステムとは、イノベーションをし続ける体質のことである。

 成功は長く続かない。今より有利な条件はいくらでもひっくり返る。普通、人間は1回の勝利で酔いしれる。だからイノベーションし続けるということには気付かない。

 大切なことは、1回の勝利もさることながら、イノベーションし続ける体質を会社につくること。イノベーションし続ける体質の対極にあるのが、指示待ち族である。大企業病であり、お役所カルチャーである。これは3人や5人の中小企業でも起こる。

 成功すると必ず会社は緩む。これを放置すると指示待ち族が多数生まれる。トップが成功した後、積極的に変えていかないと、必ず指示待ち族に変わる。いかにして成功させるかと同時に、成功した後のわが社の姿を考え、常にイノベーションを社員に促すこと。

 特定の商品がロングヒットした会社が油断して、イノベーションできなくなって潰れていく会社は大変多い。

 イノベーションを成長に結びつけるには、変化と継続のバランスが必要である。ひたすら変化を求めていくのは無謀である。イノベーションを効果的にあらしめるには、変化と継続のバランスが大事である。

 絶えず変わらなければならないと同時に、変えてはいけないものを同時に求めていかなければいけない。わが社のなかでこれだけは譲れない、これだけは持ち続けなければならないというものを、頑固に守らなければならない。これが、創業の価値観や社是、経営理念などである。

 経営理念などは普遍性があり、変えるべきものではない。変えるべきは、この経営理念から環境に合わせて生み出されたものすべてが対象となる。

イノベーションは、顧客が未来において求めるものを探究すること

「戦わずして勝つ」「勝つべくして勝つ」ための要因をつくり出すことができる