ランチェスター戦略とは
ランチェスターの法則は、1914年に勃発した第一次世界大戦をきっかけに、イギリスのフレデリック・W・ランチェスター氏(1868〜1946)が航空機による空中戦の損害状況を研究しはじめたことから生まれました。
日本のゼロ戦は強く、アメリカの戦闘機は性能でゼロ戦に勝てませんでした。そこで、アメリカがどういうことを考えたかと言うと、「3対1で戦えば勝てる」ということでした。いくらゼロ戦が優秀であっても、こちらが3機で向こうが1機であれば負けることはまずないということです。それは当然です。
第二次世界大戦中、当初はゼロ戦が一人勝ちしていました。これに勝てる航空機は存在しなかったのです。しかし、アメリカ側は、故障して島に落ちていたゼロ戦を拾い上げ、その機体を解体して徹底的に研究しました。そして、軽い機体、優秀なエンジン、パイロットの操縦技術の卓越さを知ったのです。ここで、司令官は、これに対抗する新型のグラマン戦闘機をつくるよう命令を下します。当然、ゼロ戦よりも速く飛べて、小回りの利く、さらに軽さを追及した機体になると思うのが普通です。しかし、アメリカの新型グラマンは、巨大なエンジンが2つもつけられ、反転操縦もままならないような、頑丈で思いものでした。この戦闘機と飛行高度も分かる最新式のレーダーを駆使して、アメリカ軍は日本軍を追い詰めていきます。
その戦術は以下の通りです。ゼロ戦が攻撃を仕掛けてくるのをレーダーでキャッチするや、上空に新型戦闘機を3機1組で待機させて迎え撃つのです。そして、ゼロ戦が飛んできたならば、そのはるか上空から1機目のグラマンが突進していき、機銃を打ちながらゼロ戦を狙います。1機目が外しても、2機目、3機目が襲いかかります。従来、ゼロ戦が得意としていたドッグファイト(戦闘機の1対1の戦い)は、アメリカ軍では禁止されていました。しかも、この新型戦闘機は、ゼロ戦の2倍のスピードで飛ぶのです。その逃げ足の速さに、ゼロ戦は追撃することも出来ず、一方的に撃ち落されていきました。また、頑丈な機体は、パイロットの命も守り、次々と優秀な操縦士を失っていく日本軍とは対照的でした。
ランチェスターは、研究過程で大きな発見をしました。彼は、出撃する戦闘機の量と質から、敵軍に与えられる損害を割り出せることに気づいたのです。それまでの軍事戦略は、古い精神論や哲学に支配されていた部分が大きかったからです。かつては、精神論、哲学、宗教観によって統制されてきた戦闘を、数学的・科学的なアプローチで理論化しました。
ランチェスターがおこなったように、戦争を数学や統計学によって解明しようという試みは世界初でした。第二次世界大戦になると、イギリス軍はランチェスターの理論をさらに掘り進めていきます。コロンビア大学の協力を得ながら、軍は戦闘機をやみくもに出撃させても戦果を得られないのだと結論づけました。戦闘機の数と質を踏まえたうえで、最前線へ飛ばして直接的な戦闘をおこなわせたり、敵軍の後方支援を攻撃して戦闘継続を困難にさせたりと、それぞれの部隊に適した役割を与えることが重要であるとの考えに達したのです。
アメリカのコロンビア大学数学教授であるバーナード・クープマンらによって、軍事戦略モデルとして改良されました。
そして、マーケティングコンサルタントの田岡信夫氏がビジネスに応用し、「販売戦略」として展開。その後、高度成長期以降には、実践的なマーケティング理論として活用されています。
1955年に「オペレーションズ・リサーチの方法」という翻訳書が出版されました。経営戦略に応用できるのではとの見方から、経済学的方面で知名度を上げました。
ランチェスター戦略とは、戦力に勝る「強者」と戦力の劣る「弱者」にわけ、それぞれがど
のように戦えば戦局を有利に運べるのかを考えるための戦略論。「同じ武器なら勝敗は兵力数で決まる」という前提をもとに、「弱者の戦略」と呼ばれる第一法則と、「強者の戦略」と呼ばれる第二法則の大きく2つに分けられます。
1 ランチェスター第一法則
1対1が戦う一騎討ち戦、狭い範囲で(局地戦)、敵と近づいて戦う(接近戦)原始的な戦いの場合は、第一法則が適用します。
戦闘力 = 武器効率 × 兵力数
同じ兵力数なら武器効率が高いほうが勝ち、同じ武器効率なら兵力数が多いほうが勝ちます。
例えば、500人の軍と300人の軍が戦闘をしたとすると、500人の軍が200人を残して勝利します。これでは少数の軍に勝ち目がないと思われますが、戦い方を変えることで勝機を見出すことができます。相手の500人の軍を何らかの方法で200人と300人に分け、200人の部分を集中的に攻撃すれば勝利することができます。自分たちより資本を持つ企業に真正面から勝負を仕掛けても勝ち目はないですが、「局地戦」を展開することでチャンスが見えてくるのです。
敵に勝つには、敵を上回る武器か兵力数を用意すればよいのです。
10倍以上の戦力差に勝利した桶狭間の戦い
第一の法則の事例で、歴史的に有名なのが桶狭間の戦いです。この戦いは織田信長と今川義元の戦いです。織田軍2千人に対して今川軍2万人という、10倍以上の圧倒的な兵力差がありました。この戦いで織田信長は、見事に今川軍を破り、勝利したのです。
桶狭間の道はとても狭いです。今川軍が桶狭間を通過するとき、兵は縦に長く伸びていました。そのため、今川義元の本陣は手薄の状態となり、本陣に目がけて、織田信長は全軍攻撃を仕掛けたのです。
全体の兵力で見れば織田軍2千、今川軍2万という10倍の差があります。しかし、兵が伸び切った状態での本陣はわずか数百人です。その本陣に一点集中で2千の兵を突撃させたのでした。
ランチェスターの法則は勝つべくして勝つ方法
一般的に、「織田信長は奇襲で勝利した」と言われています。しかしランチェスターの法則から見ると、これは立派な兵法であり、局地戦においては織田軍が圧倒的に有利の地に立っていました。
さらに、天候の悪化が織田軍に味方しました。天候が悪いために、今川軍は織田軍の接近に気づなかったことも勝因の一つです。
この第一の法則から、会社経営者にとって、多くのことが学べます。
まず、戦う前に優位の地に立つことです。まず桶狭間の道は狭く、兵が伸びるという「地の
利」を活かしました。そして天候です。奇襲をかけても天候が悪いため、今川軍は織田軍の接近に気づくのが遅れました。まさに「地の利」と「天候」を味方につけました。
そして、いざ戦いになったときは、本陣への一点集中攻撃を行いました。数百人の今川軍に対して、2千人の織田軍が襲ってきたのです。そして当然、局地において、圧倒的に数に勝る織田軍が勝利したのです。
この桶狭間の戦いこそが、まさにランチェスターの法則の第1法則に当てはまります。奇襲で勝ったというよりも、勝つべくして勝ったのです。
これを、「企業における市場競争」で例えるならば、我が社の置かれている状況を正しく把握して、有利なポジションを確保し、さらにライバルが十分に力を発揮できない市場に経営資源を集中させて勝利としたと言えます。
・我が社が有利に立つ市場・商品・サービスは何になるか。
・そして、市場に対し、我が社の経営資源を集中して販売を仕掛け、小さな市場で大きな占有率を確保する。
例えば、A軍、B軍の兵士数の差はそれぞれ2倍、3倍ですが、攻撃数に換算した場合は、4倍、9倍となっています。つまり、「攻撃力は兵士数の2乗、3乗に比例する」ことになります。この法則が「ランチェスターの第2法則、集中効果の法則」となります。
これを経営に当てはめると、ライバルより2倍の営業力となれば攻撃力は4倍、3倍の営業力になれば9倍の攻撃力になることを意味するのです。
ここでライバル会社との顧客獲得合戦で例えてみましょう。あなたの会社が商圏エリアにおいて第4位で、他に上位3社がいるとします。しかし上位3社がいずれも、月に1度しか得意先に訪問できていないとします。
この場合、営業部の訪問を月3回にすれば、集中効果の法則で、攻撃力は「1:9」になるのです。
このように、お客様への定期訪問の効果は、回数を増やすほど攻撃力は乗数で増えていくことになります。
もちろん、単なる売込ではうまくいきません。売込のために訪問回数を増やせば、逆に嫌われてしまいます。
「お客様訪問は、売込ではなく定期訪問が役割である」という、当たり前の原則は守るようにしましょう。
2 ランチェスター第二法則
近代的な戦いの場合に適用するルールをランチェスター第二法則といいます。 集団が同時に複数の敵に攻撃をすることのできる近代兵器(確率兵器という)を使って戦う戦闘方法を確率戦といいます。
戦闘力 = 武器効率 × 兵力数の2乗
近代に入り、銃や大砲、戦闘機などの広範囲の攻撃手段が増えると一人あたりの攻撃回数が増えるため、兵力が占める戦闘力への影響度は更に高まります。テクノロジーが進歩するほど頭数(=資本力)の差が顕著に勝敗に直結すると言えます。現状シェアや企業規模で上回る相手に対しては「局地戦」を挑むしかありません。
第二法則が適用される戦闘は、確率戦で広い範囲で(広域戦)、敵と離れて戦う場合(遠隔戦)です。
第一法則との違いは兵力数が2乗となることです。武器効率は変わりません。確率戦は相乗効果をあげるから、兵力数が2乗に作用する。兵力が多いほうが圧倒的に有利です。
兵力の少ない軍は、第二法則が適用する戦いで勝つことは極めて困難です。
ランチェスターの法則「第1」「第2」を経営戦略に活かそう
ランチェスターの法則を当てはめて考えた場合、もしあなたの会社の商圏エリアにおいて、ライバルが強く、すでに限界占有率を下回っているのであれば、強い市場で戦うのを避け、手薄な市場を狙うことが正しい戦略となります。
例をあげれば、大都市において、複数の大手会社がすでに市場の大部分を占有していたとき、中小・零細は、その市場に参入しても勝つ見込みはありません。
このような場合には、大都市圏を狙わず、大手が行き届いていない手薄な市場、つまり大都市でなく地方で戦う戦略をとることで、ランチェスターの法則が生きてくるのです。
また、小売店であれば、「大手小売が多品種を扱っているから、うちでも多品種を扱う」といった「何もかも扱う」というやり方では、うまくいく可能性はありません。
中小小売店が「何もかも扱う」といった戦略をとった結果、どうしても「多品種小アイテム」という商品構成となってしまい、お客様のニーズを満たせなくなるからです。
この場合の生きる道は、専門店をみればわかります。専門店は、品揃えは単品種ですが、アイテム数は豊富にあります。これならば、「見較べて買いたい」というお客様の要求を満たせるようになるのです。
このお客様の要求を満たしているからこそ、身近に大手が存在しても、専門店が存続できるようになります。
相手が大手小売店であっても、「特定品種に絞り、その品種におけるアイテム数が大手を上回っていれば、その品種(局地)において勝っている」というランチェスターの法則が成り立つのです。
ランチェスターは、小が大に勝つ唯一の方法
このように、ランチェスターの法則は、「弱者が強者に勝ち、小が大に勝つ方法」であると同時に、「大が小に勝つ方法」を教えています。
「うちの会社は大手だ」という意識に浸かっていると、小さなアリに食い荒らされていることに気づかないことさえあります。ランチェスターの法則は弱者だけでなく、強者であってもしっかり学んでおくべき重要事項であることを知らなくてはなりません。
中小企業、あるいは小さな業者は、常に小さなマーケットを狙い、小さなマーケットで大きな占有率を確保することに生き筋を見つけるべきです。
弱者は大市場に弱く、小市場に強いものです。弱者は常に戦場を絞り、局地戦における戦いで全力投球してこそ、存続と繁栄への道が拓けてくるのです。
ランチェスター法則をビジネスに応用する
戦闘力を顧客を開拓し売上を上げ利益を確保する「営業力」と置き換えます。
大きく捉えるなら、武器は商品力、兵力は販売力です。細かくは、情報力、技術開発力、品質や性能、ブランドなどの製品の付加価値、顧客対応力、営業パーソンのスキルなどの質的経営資源が武器です。社員数、営業パーソン数、販売代理店の当社担当者数、製造現場の設備機器数、売り場面積、席数など、量的経営資源が兵力です。これら質的経営資源と量的経営資源を掛け合わせたものが、企業の営業力を決定づけます。
弱者の戦略(第一法則)・・・営業力=武器効率×兵力数
ビジネスシーンでの戦闘力とは、「企業力」のことと考えていいでしょう。つまり、社員一人ひとりの資質と、社員数をかけた結果が企業力になるのです。
この公式にあてはめれば、そもそもの社員数が多い大企業は、スタート地点からして圧倒的有利にあるのが目に見えてわかるでしょう。しかし、中小企業にも対抗策があります。量で劣るのであれば、質を高める方向に切り替えればよいのです。社内環境を見直し、業務を効率化できるポイントを探りましょう。必要であれば、リモートワークを認めるなど、社員のポテンシャルを引き出せる労働環境を提供することも考えます。できる限り戦場=労働環境を整えておけば、局地戦になった際、大企業との数のハンディキャップを埋められます。ライバル社が苦手な部門をリサーチし、積極的に進出するなど、自社が対抗できる「戦える場所」を見極め整えましょう。
強者の戦略(第二法則)・・・営業力=武器効率×兵力数の2乗
基本的な第二法則の理論は、「数にまかせてシェアを確保する」こと。社員の資質が同等以上なら、数で勝る組織が成功するのは自然な流れです。そのため、強者である大企業は、中小企業のように ニッチ なマーケティングを好みません。大きな市場を相手にした戦略を展開する傾向にあります。
たとえば、中小企業の「得意分野を奪う」のは第二法則の原則といえるでしょう。中小企業がなんらかの成功を収めたとき、大企業はあえて同じ分野に進出します。そして、中小企業の経営戦略を真似て、同じターゲット層に訴求します。同等のクオリティが保証されているなら、ターゲットはより実績のある企業の商品を信用するでしょう。そのほか、大企業は大規模な営業をおこなったり、中小企業のキーマンを好条件でスカウトしたりと、強者のアドバンテージを存分に活かすのがランチェスター戦略の常套手段です。社員数が多く、質もともなっている企業は第二法則に基づいて経営を進めていくべきなのです。
特定の商品、地域、販路、顧客層、顧客といった部分的の競争なら第一法則が適用し、総合的・全体的な競争なら第二法則が適用します。総合的・全体的な競争の場合、量的経営資源が2乗のパワーとなることを意味します。小さい会社、業界二番手以下の会社は、部分的な競争に持ち込まなければ勝ち目はないということです。
なぜ、ランチェスター第二法則(広域戦)では人数が2乗でカウントされるのでしょうか?
接近戦と遠距離戦の違いを考えるとご理解できます。
刀や槍などの原始的な武器では、1人の兵士は一度に1人までしか攻撃できません。つまり、接近戦での戦闘は一騎打ちの性質を帯びることになります。
戦うフィールドが広くなるほど、多数の営業社員数と豊富な広告費がある大企業・先行企業が圧倒的に有利になる
それに対して、遠距離から近代兵器で撃ち合う広域戦ではどうでしょうか?
自動小銃やマシンガンなどの武器は連射が可能なので、一度に複数人の相手に攻撃できます。
そのため、人数の差がより圧倒的な戦闘力のちがいになってしまうのです。
ビジネスに置き換えれば、戦うフィールドが広くなれば広くなるほど、豊富な人材や資金力を持つ大企業や先行企業が圧倒的に有利になるということです。
ビジネス戦略としてのランチェスター戦略
戦略 |
強者 |
弱者 |
基本戦略 |
ミート戦略 |
差別化戦略 |
商品戦略 |
総合主義(物量戦) |
一点集中主義 |
地域戦略 |
広域戦 |
局地戦 |
流通戦略 |
遠隔戦 |
近接戦 |
顧客戦略 |
確率戦 |
一騎打ち戦 |
戦法 |
誘導戦 |
陽動戦 |
弱者の戦略3原則
ランチェスター第1法則は、狭い範囲で行われる接近戦に当てはまります。そして、次の方程式で成り立っています。
戦闘力=武器効率×兵力数
これらのことから、弱者の戦略として、3つの原則が導き出されます。それは、以下の3原則です。
・局地戦・接近戦に持ち込む
・武器効率を上げる
・.競合局面に兵力数を集中させる
1 局地戦・接近戦に持ち込む
弱者は、ランチェスターの第1法則に基づいて戦略を立てなければなりません。そのため、狭い範囲で接近して戦う必要があります。これを局地戦、接近戦といいます。
局地戦をビジネスに置き換えると、狭い営業エリアや狭い客層、狭い製品ラインで勝負するということです。範囲を広げれば広げるほど、第2法則で戦いを仕掛けてくる強者が有利になります。そのため、弱者でも勝てるように、なるべく狭く絞り込むのです。
例えば、あなたが酒屋を経営しているとすれば、「半径300メートルの範囲にだけチラシを配る」「シニア男性だけをターゲットにする」「日本酒だけを取り扱う」など、ニッチな市場を狙うということです。
接近戦とは、エンドユーザーに直接アプローチするということでもあります。エンドユーザーとは、最終的にその商品やサービスを使う人、つまり購買意思決定者のことです。酒屋の場合は、お酒を買ってくれる消費者のことです。
このように、弱者は局地戦・接近戦に持ち込むことが、強者に勝利する条件となります。
2 武器効率を上げる
武器効率とは、「商品」「サービス」「集客スキル」「販売スキル」の質のことです。競合局面において兵力数が同じであれば、武器効率が良い方が勝ちます。そのため、弱者は商品の質やサービスの質、集客スキル、販売スキルを高めなければなりません。
武器効率が圧倒的に高ければ、多少兵力数が劣っていても勝てる可能性があります。武器効率を上げことが弱者にとって最も重要といえます。
3 競合局面に兵力数を集中させる
兵力数とは、人、モノ、金、情報などの経営資源のことです。武器効率が同じであれば、兵力数が多い方が勝ちます。そのため、経営資源の多い大企業の方が有利ということになります。
しかし、重要なのは「競合局面における」兵力数であるという点です。競合局面とは、敵(競合企業)と実際に顧客を奪い合う局面を意味します。
酒屋の例で考えてみましょう。例えば、あなたが経営する酒屋の近くにスーパーマーケットが新規オープンすることになったとします。スーパーマーケットはお酒の販売も行っており、価格も割安です。そして、大型店だけあって、商圏はとても広いとしましょう。あなたの酒屋とスーパーマーケットの商圏の重なり合った部分が競合局面です。そのため、スーパーマーケットとすべての商圏で顧客を奪い合っているわけではなく、一部分でシェア争いを行うことになります。スーパーマーケットは広い範囲をカバーしなければなりませんし、お酒だけを販売しているのではありませので、集客にかける経営資源が分散します。しかし、あなたの酒屋は商圏が狭く、お酒だけを販売しているのです。そう考えると、競合局面だけに限れば、スーパーマーケットよりも集客販売にかける経営資源を多く投下することができる可能性があります。例えば、商圏の重なる競合地域だけに集中して、スーパーマーケットよりも多くの広告チラシを配布します。そうすれば、その地域の人がお酒を買うときに、スーパーマーケットではなく、あなたのお店を選んでもらえる可能性が高くなるでしょう。
このように、競合局面において経営資源を集中投下することで、弱者でも強者に勝つことができるのです。
3つのグランドルール
ランチェスター戦略には、守るべき3つのグランドルールがあります。
1 1点集中主義
1点集中主義は、攻撃目標を1つに絞り、達成するまで集中して攻撃し続けるという考え方です。
資本力で劣る弱者は、強者に全体の勝負を挑んでも負けてしまいます。そこで、特定の商品やサービス、地域、顧客層といった一点に絞り、集中して勝負をかけていくのが一点集中主義です。
例えば、「A市場」「B市場」「C市場」がある場合、すべての市場で勝負するのではなく、B市場のみにフォーカスして、その市場で勝利を目指します。自社が得意とする市場に全力を注ぎ、1位の分野を作り出すという結論を得る仕組みです。
また、市場を分析すれば、今は1位ではないが逆転できる可能性のある分野も見つけ出せるでしょう。しかし、一点集中はあくまで強者に勝つまでの突破口であるため、永遠に1つに絞ることではありません。その時々の状況にあわせた柔軟な経営方針も必要であると認識することが大切です。
2 足下(そっか)の敵攻撃の原則
足下(そっか)の敵攻撃の原則とは、市場シェアで成果を出したい場合、自社の1ランク下の競合他社(足元の敵)を攻撃(売上を奪う)するという考え方です。
「足下の敵」とは、自社よりも市場シェアが1つ下の競合を指します。例えば、自社が2位であれば3位の企業が足下の敵に該当します。足下の敵となる企業を攻撃することを「足下の敵攻撃の原則」と呼びます。
なお、すべての競合と全方位で戦っていると、確率戦・消耗戦となってしまい、結果的に得るものが少ない状態になります。足下の敵攻撃原則では、勝ちやすい相手に的を絞る必要があります。
1つ下の企業に狙いを定め、競合が有する売上や顧客を奪えれば、自社との間の差も広がります。ここでは、足元をすくわれないよう競合だけでなく自社の市場価値や企業力も分析して挑むことが重要になります。
3 No.1(ナンバーワン)主義
ランチェスター戦略におけるNo.1主義は、2位以下を圧倒的に引き離す状態になることを目指す考え方です。1位になっても、2位とさほど差がない状態では、「No.1」とはいえないとするのが特徴です。圧倒的に引き離した状態であれば、2位以下は、まともに勝負に仕掛けても企業体力がもちません。
僅差で戦う競合他社とのトップ争いを意識しなくなり、1位の収益性が向上する仕組みです。また、ここでの「No.1」とは、大きな市場で目指すという考えではありません。どんなに小
さな市場、領域でもよいので、まずはそこでNo.1を目指します。市場でNo.1になって知名度が上がり、利益性も向上すれば、その勢いで他の市場でもトップを狙っていけるでしょう。
基本戦略
1 差別化戦略
ランチェスター法則が示す小が大に勝つ三つの原則から弱者の戦略が導き出されました。 弱者の基本戦略は「差別化戦略」です。武器効率を高めることです。差別化とは、商品をはじめ、会社、人材、情報、サービスの質的な独自性、優位性です。兵力を集中することを「一点集中主義」といいます。ランチェスター戦略の場合は、兵力数の優位性から導かれています。量的な優位性を築くために、自社の経営資源を重点配分することが勘所です。
・自分の強みで戦う
一般原則としては、弱者は強者と総力戦で戦っても勝てません。弱者の兵法は、基本的に隙間を狙っていくニッチ型なのです。強者が油断している隙間、強者が手をださない隙間のところを攻め込んでいく、意表をつく攻め方をしていくのが、弱者の兵法です。自分の強みの部分で戦うことが大事です。
・強者が油断している隙間(ニッチ)や強者が手を出さない隙間を攻める
・相手の力を分断し、弱いところを集中して攻める
・絞り込みの理論(集中の法則)
経営者に必要な二つの目 『長く広い目』と『短期的な集中した目』
技術者的な人は、一点だけを集中してよく見ることはできるのですが、全体が見えないことが多いのです。逆に、全体が見えても、一点だけを集中して見ることのできない人もいます。評論家的に、いろいろなことをアバウトに知っていても、経営資源の集中投下を知らない人は、評論家はできても経営者はできないのです。人生を一定の区切りで考えるのであれば、集中の法則は使わざるをえないのではないかと考えます。
・経営資源の集中投下
経営資源が有限のときには、すでに大きくなっているところと同じような戦い方はできないので、できるだけ絞込まなければいけません。数少ない人、数少ない物、数少ないお金などを、一番効果的なところに集中投下しなければいけないのです。また『短時間で、いかに成果を挙げるか』ということであれば、重要なものに絞り込んでいくことが非常に大事になるのです。
すなわち、第一法則的な部分的な戦い方が弱者の戦略です。
・局地戦・・・地域や領域の限定
・接近戦・・・顧客に接近する販売経路、営業活動、顧客志向
・一騎討ち戦・・・競合数の少ない競争
・陽動戦・・・奇襲戦法
2 ミート戦略
・大軍でもって囲む
『相手が少なければ、大軍でもって囲む』という戦略です。これは豊臣秀吉が得意とした戦法でした。相手と同じような戦力で戦うと、被害が非常に大きくなります。敵と味方の軍勢を見て、敵のほうが一兵でも多いときは戦わず、和睦をするなどの政治的手腕を使います。自分の軍勢の方が多いとなったら攻めかかる。これが豊臣秀吉の戦法でした。圧倒的な戦力をつぎ込めば、相手は戦わずして降参するのです。経営においても同じことが言えます。これが強者の兵法です。
兵力数の多い企業は、第二法則的な総合的な戦いを行えば圧勝できることから、強者の戦略が導き出されます。すなわち、第二法則的な総合的な戦い方が強者の戦略です。
強者の基本戦略を「ミート戦略」といいます。弱者の差別化戦略を封じ込める意味です。同質化競争に持ち込めば武器効率が同等となるので兵力数で勝敗が決まります(模倣、追随、二番手作戦などをミートと呼んでいます)。
・誘導戦・・・先手必勝のおびき出し作戦、新たな需要の創造
・確率戦・・・競合数の多い競争を重視、フルラインの品揃え、自社系列内競合など自社の力を重複化させる
・広域戦・・・地域や領域を限定せず拡大していく
・遠隔戦・・・間接販売会社の力を活用、広告などの情報発信で顧客に接近する前に勝敗をつける
・総合主義・・・総合力で戦う
ランチェスター戦略では、業界内のシェア率がもっとも高い企業を「強者」と認定し、それ以外を「弱者」とみなしています。そして、弱者が強者にどう対抗していくか、という観点から理論を展開します。トップ企業と、それ以外の企業との間に大きな差がついてしまった業界は、ランチェスター戦略を応用するのが得策です。
強みと弱みに合わせた戦略・戦術を立てる
強みのところで勝っていき、弱みのところでは、被害を出さないように、上手にやらなければなりません。まず、自分たちの組織の規模を見て、弱者が強者かを考えて戦略を立てなくてはいけないし、弱者と強者のどちらであるかを決めても、『その組織の中にも強い面と弱い面がある』ということを考えなくてはいけないのです。
相手を分断し、弱い部分を集中して攻める
相手のほうが大きい場合、力が強い場合には、その力を分断していかなくてはなりません。相手を分断して小さくしていき、弱い部分を集中して攻めるのです。そういう戦い方が大事です。ナポレオン軍とプロシア軍の戦いでは、プロシア軍は『ナポレオンのいる所では逃げ、いない所では、嵩にかかって、たたみかける』という戦い方をしました。
ランチェスター戦略の実践体系
ランチェスター戦略が最も多く使われるのは、営業現場単位での戦略づくりとされ、4つの実務体系に分かれます。
1 地域戦略論
地域戦略は、営業地域(メーカー・卸のテリトリー、店舗の商圏)を細分化し、重点化し、シェアナンバーワン地域をつくっていく実務です。
地域全体での市場地位に応じて重点地域の選択基準が異なることが勘所です。
市場規模、市場シェア、人口、世帯数など、地域を定量的にみるのみならず、地域特性(点・線・面、うちもの・そともの など)を定性的にとらえる独自のノウハウが充実しています。
総合的なシェアでは弱者ですが、特定の地域でシェアナンバーワンの強者を目指します。たとえば、全国シェアのハンバーグレストランと地域密着でそれ以上に知名度の高い人気のレストランといったものです。地域戦略論では、地域の特製や市場シェア、世帯数など定量的、定性的にとらえるため独自の戦略が充実します。
2 流通戦略
流通・シェアUP戦略は販売チャネルをとらえて、営業活動でいかにシェアを上げていくのかの実務です。
間接販売(販売会社を通じてユーザー・消費者に販売する)の場合は、代理店・特約店戦略。
間接販売の場合はチャネルとユーザー、直接販売の場合はユーザーの需要規模と顧客内シェアから顧客を戦略的に格付ける「ランチェスター式ABC分析」を行います。
また、カバー率とAa率(大口需要先のなかでの自社メイン先の割合)からシェアUPのシナリオを導く「構造シェア」という概念もあります。
ターゲット顧客を決定するランチェスターの要といえる実務です。
3 営業戦略
ランチェスター戦略は大きな会社の本社の戦略スタッフが全社レベルの経営計画や販売戦略を立案する際にも使われますが、最もよく使われるのは営業現場単位での戦略づくりです。
世にある様ざまな戦略理論や経営手法は戦略は本社が考え、現場は実行するのみというものが多いようです。
これに対して、ランチェスターは、顧客最前線の営業現場にこそ戦略が必要であるという考えです。
弱者・強者、シェア順位は商品・地域・販路・顧客によって入れ替わります。
会社が大きいからといって強者とは限りません。
逆に、小さいからといって必ずしも弱者ではありません。
営業現場単位で市場地位を見極め、地位に応じた戦略で戦うべきです。
同じ会社でも営業現場単位で戦略を切り替える必要があります。
1970年代以降、多くの企業がランチェスター戦略を営業現場単位で取組んできました。
ランチェスター戦略が「ブランチ(支社・支店)の戦略」「汗の匂いのする戦略」ともいわれるゆえんです。
ランチェスター戦略の実務体系はメーカーや卸・販売会社の営業現場の「地域戦略→流通・シェアUP戦略→営業戦略」が最も多く取り組まれてきました。
小売など地域に根ざした店舗型サービス業は「地域戦略」中心に、事業開発・商品開発部門では「市場参入戦略」に取り組んできました。
市場において自社の商品やサービスが競合他社よりも優位に立ち、顧客に購入してもらえるかを、訪問や電話など顧客別の営業方針や商談方法、訪問すべき頻度などを重点にして戦略を立てます。営業活動の基準値をつくったうえでのプロセス管理が大切です。
営業リーダーが営業チームを、あるいは営業パーソンが自分自身をいかにマネジメントしていくのかの実務です。
スキルやモチベーションなどの戦術レベルよりも、顧客別の営業の方針や商談の頻度などを最適化していく戦略レベルに重点を置いています。
ルートセールス型、案件セールス型、新規開拓など営業方法別の営業マネジメントの勘所(かんどころ)をおさえます。
決めたターゲットをいかに攻略するのか、ランチェスターの実といえる実務です。
4 市場参入戦略
市場参入戦略とは、経営者、企画、マーケティング部門向けの戦略です。市場導入期や成長期の事業に対しての戦略で、たとえば商品開発や市場開発、新規事業開発など。これらは先に開発を行うか、後に開発を行うかによって戦略が異なります。
一方の地域戦略、流通戦略、営業戦略は営業部門の戦略です。すでに進行している事業で従来の顧客から新たな需要を掘り起こしていく戦略となります。
地域戦略、流通・シェアUP戦略、営業戦略は既存事業を深耕していく実務体系で、成熟市場が前提となっています。
しかし、企業には市場導入期、成長期の事業もあります。
導入期・成長期では先発・後発によっても戦略が異なります。
この市場時期別の戦略の体系が市場参入戦略編です。
商品開発、市場開拓、新規事業などの経営レベルの実務です。
地域戦略、流通戦略、営業戦略は営業部門の戦略で、市場参入戦略は経営者、企画、マーケティング部門向けの戦略です
マーケットシェア理論
マーケットシェア理論とは、市場地位はマーケットシェア(市場占有率、占拠率)で判断するというもの。マーケティングコンサルタントの田岡信夫氏によって具体的な数字が設定されました。
第一法則と第二法則、いずれに則って経営をするのかは、ランチェスター戦略のカギです。弱者でありながら第二法則を参照しても上手くいきません。その逆もしかりです。そこで、自社の市場地位を明確にする基準として、「マーケットシェア理論」が採用されています。
マーケットシェア理論はマーケティングコンサルタント・田岡信夫氏によって具体的な数字が設定されました。そこでは、業界内で自社のシェア率がどれくらいなのかを7段階に分けられています。それぞれに合った戦略を考えていくことで、企業は実践的な経営プランを生み出せるでしょう。
マーケットシェア理論では、「73.9%以上」の占有で、「独占企業」になれると説きます。独占企業の地位は安泰であり、よほどのことがない限り、2位以下に逆転される恐れはありません。次に、「41.7%以上」のシェア率でも、立場は安定します。大企業であれば、当面は41.7%以上のシェアを目指すのが目標となります。
なお、「26.1%以上」「19.3%以上」「10.9%以上」の企業も十分に有望株です。業界内で影響力を持ち、トップクラスの仲間入りを果たす可能性もまだまだ残されています。しかし、「6.8%以上」では、市場にほとんど影響を与えていないとみなされており、この数字に達さない企業は、マーケットからの撤退を考えたほうがよいでしょう。
もちろん、マーケットシェアは高い方が良いのですが、具体的な数値による評価基準があります。
7つのシンボル目標数値
上限目標値73.9%
73.9%(上限目標値)の場合、独占的となります。100%にならずともこの数値ですでに、その地位は絶対的に安全・安泰とあり、よほどのことがない限り2位以下に逆転されることはないとされているのです。
これ以上の数値を得ても、安全性、成長性、収益性の面で安定しなくなってしまいます。つまり1社独占は必ずしも安全とは限らないのです。
安定目標値41.7%
41.7%(安定目標値)の場合、地位が安定します。多くの人が50%を安定と予想しますが、ランチェスター戦略では、4~5社以上の集団競争になるので40%を超えれば地位が圧倒的に有利となり地位は安定するのです。
これは2位以下をかなり引き離している状態で、首位独走の条件として多くの大企業が目指す数値となります。
下限目標値26.1%
26.1%(下限目標値)というのは、トップの地位に立てる強者の最低条件となります。26.1%をシェアすれば1位になるものの、1位でも2位とは僅差となるなどその地位は不安定なものになってしまうのです。
1位とはいえ、いつ逆転されてもおかしくない状況では強者の戦略は取れません。26.1%はギリギリの数値と捉えられます。
上位目標値19.3%
19.3%(上位目標値)を確保すれば、多くの場合上位3位以内に入れます。しかしどれも同程度で、弱者の中の強者という立場です。
この数値は、弱者が当面の間、目標とする数値とされるもの。20%確保に近づけば、1位がすぐ目の前まで見えてきている状況なので1位獲得するための戦略に切り替えます。
影響目標値10.9%
10.9%(影響目標値)は、「10%足がかり」といわれ、10.9%を確保すれば市場全体に影響を与える存在となります。市場参入時の目安となる数値で、10%を超えると、本格的な競争に突入するのです。
存在目標値6.8%
6.8%(存在目標値)は競合相手に存在を認められる立場になります。しかし、市場に影響を与える力がないため本格的な競争には巻き込まれません。
この数値の段階では、他社を気にするよりも自社製品のセールスに必死に取り組むとよいでしょう。新発売から年月が経っても7%を超えないようなら先がありません。撤退の判断基準にも使われます。
拠点目標値2.8%
2.8%(拠点目標値)は、存在価値がないに等しい立場です。この数値は市場参入時に、参入できたか、できなかったかを判断する数値となります。3%→7%→10%が市場参入の中間目標数値です。
10%を超えると本格的なシェア争いに突入していきます。2.8%以下となれば、ランチェスター戦略を行っても生存は厳しい立場です。
シェア |
目標値 |
意味 |
73.9% |
上限目標値 |
独占的となり、その地位は絶対的に安全となる。 一方で、一社独占のマーケットは外部要因により大きく縮小する危険がある。 |
41.7% |
安定目標値 |
地位が圧倒的に有利となり立場が安定する。 首位独走の条件として多くの企業の目標値。 |
26.1% |
下限目標値 |
トップの地位に立つことができる強者の最低条件。 安定不安定の境目。これを下回ると1位であってもその地位は安定しない。 |
19.3% |
上位目標値 |
ドングリの背比べ状態の中で上位グループに入れる。 弱者の中の強者と言える。 |
10.9% |
影響目標値 |
市場全体に影響を与えるようになり、シェア争いに本格参入できる。 |
6.8% |
存在目標値 |
競合者に存在を認められるが、市場への影響力はない。 これ未満を撤退の基準として使われる場合もある。 |
2.8% |
拠点目標値 |
存在価値はないに等しいが、今後の展開の足がかりになりうる。 |
強者の事例
Apple
Appleでは、強者のランチェスター戦略を展開してきました。具体的には、スマートフォンやポータブルオーディオプレイヤーなどの他社の商品の自社製品への応用です。AppleはSONYのウォークマンからヒントを得て、後にヒット商品となるiPodを発表しました。Appleは、先にある他社の商品を研究し、それを上回る自社製品を展開することで市場のトップに立ち続けています。
弱者の事例
セブンイレブン
ランチェスターの法則を現代の商戦に当てはめると、こういうことになります。既に同業他社の店舗が営業しているところへ、後発が1店舗、何の策もなく進出したところで勝つ見込みはありませんが、3店舗でいけば勝てる可能性も出てくるだろうと思います。実際にこの作戦を経営戦略として使っている企業の一つが、コンビニエンスストア・セブン-イレブンです。セブンイレブンが創業した間もない頃は、関西地域での知名度が低く、ローソンに負けていました。そこでセブンイレブンは、一点集中の戦略をとり、関西の一部地域で多くの店舗を開店しました。それにより地域内でのシェアを獲得し、徐々に出店地域を増やしていきました。結果としてセブンイレブンは関西シェアでナンバーワンになり、現在は小売業界のトップになりました。
「やはり、「従業員数や売上、資金力が多いところとまともに戦ったら、勝っているうちに必ず負ける」というのが一般的であり、普通のことです。
この方法を使った、ランチェスター法則の地域戦、いわば「地域ランチェスター法則」とでも言うべきものがあります。
コンビニエンスストアの例で言うと、店舗数がいちばん多いところでは一万軒以上あったり、その他でも数千軒あったりと、いろいろなところがありますが、あるA社という会社が、街角のよい場所でコンビニを営業しているとします。
そこに、B社が「うちがあそこを取れたら、もっと売上を増やせるのに、どうもあの会社では一日当たり40万円ぐらいしか売上がないようだ。うちの会社なら、一日当たり60万円以上は売上が出せる。是非あそこを取りたい」と考えたときに、ランチェスター法則を使って、街角のいちばんよいところでコンビニを開いているA社を潰すために、三ヵ所に点を打って挟み込んでいきます。
客というのは、だいたい、住んでいるところの五百メートル圏内で買い物をするので、その五百メートル圏内で、必ず自分のほうのコンビニのどこかに当たるようにしていくと、客が取れ始めるのです。
そうすると、このA社が潰れて撤退します。撤退したら、そこを買うか借りるかして店を出し、取ってしまうわけです。
この陣地取りは、挟み将棋のような原理で、「二つの駒で挟めば、なかの駒が取れる」といったことなのですが、「三方を囲んで三つの面をつくったら、真ん中のものは潰れる」という法則があり、コンビニ業界ではこれが使われています。」(『経営が成功するコツ』P-108~110)
逆に、囲まれて負けないようにするには どうすればよいのでしょうか。
規格型で広がり、シェアを取って大きくなったものに対する戦い方としては、その会社が手を出していないところを攻めることなのです。これを「セグメンテーション」と言います。
マーケットを区分して、その区分したところを攻めていく必要があります。そうすることによって、新しいニーズを発見・創造し、市場をつくり出すことができるのです。(『智慧の経営』P-320)
セブンイレブンも過去にはランチェスター戦略を採用してきました。現在、コンビニエンスストア業界で圧倒的なシェアを誇るナンバー1企業であり、弱者ではありませんが、過去には出店していないエリアもありました。当時のセブンイレブンが、1996年、大阪に初進出するにあたって実践したのが「ドミナント戦略」と言われるものです。これは特定地域内に高密度集中で出店を続ける方法になります。当時の大阪は、ローソンの出店数が多い状況でした。地域内のシェアを逆転することは非常に困難なことと思われていましたが、セブンイレブン出店数が300店舗を超えたあたりから集客力が急激に伸び始めたのです。おそらく、短期集中型の出店攻勢に、大阪の住民の間で「ここにもセブンイレブン、あそこにもセブンイレブン」といった具合で、セブンイレブンに対する認知度が高まったことと、「セブンイレブン=馴染みがない」といった心理的距離がなくなったことが集客力アップにつながったのだと考えられています。その後、セブンイレブンは関西地域でも1店舗あたり平均日販でトップに立つに至ります。まさに、この時の「ドミナント戦略」は、セブンイレブンにとって大阪という地域に絞り込んで経営資源の投下を集中的に行い、出店攻勢を掛けることで、ローソンをはじめとする他のコンビニエンスストアを凌駕したと言えます。
ソフトバンク
ソフトバンクが携帯電話キャリア事業に参画したとき、既に市場にはNTTドコモという競合が存在していました。そこで、ソフトバンクは弱者の戦略として、無謀な勝負は仕掛けずに差別化をする戦略を展開しました。戦略は、他社には存在しない「低価格」を全面的に発表するというものでした。そのほか、ターゲットを学生にしたプランやiPhoneを導入したことにより、他社との差別化に成功し、2014年には携帯電話市場のトップに立つことに成功しました。
HIS
HISは「海外旅行」という市場では、正面から勝負しても大手の資本力には勝てない状況でした。そこで、他の大手旅行会社が手を出さないバリやセブなど、新興リゾート地を中心としたツアーのプロモーションを積極的に行ないました。あわせて「格安の海外航空券」を展開したことで、お金がない学生や若者を中心に支持を受け、ニッチな市場でのシェアを獲得していきました。