ドラッカー マネジメントの機能

事業をマネジメントする

 事業のマネジメントは、勘や才能で行うものではない。体系的に分析し、分類することが可能である。マネジメントを構成する諸々の要素は、平凡なパーツに分類し、体系的に組織することによって、普通の人間ならば誰でも学習することができる。

 マネジメントは、経済の変化に対して、迅速かつ知的、合理的に適応することは勿論、その経済の中にあって、変化を計画し、その実現の先頭に立ち、担い手となる責任がある。そして、企業活動の自由に対する制約を除去する責任がある。

 マネジメントには新しい経済をつくる責任がある。そして、マネジメントを評価する基準は、事業上の成果のみである。これがマネジメントに特有の仕事である。

 

経営管理者をマネジメントする

 経済的な成果をあげるために企業は存在する。したがって、マネジメントの第二の機能は、人的資源を使って生産的な企業をつくることである。具体的には、経営管理者をマネジメントすることである。

 企業とは、その構成要素である資源の総計に勝る、より優れたものを産出すべき存在である。そして、投入(インプット)されたものよりも、多くのものを産出(アウトプット)することのできる生きた存在である。

 資源の中でも、成長可能な資源は人的資源だけである。われわれが利用できる資源のうち、成長と発展を期待できるものは人だけである。特に、経営管理者は企業にとって最も高価な資源である。経営管理者への投資は いかなる資源への投資よりも大きい。その投資を十分に活用することが最も重要である。経営管理者をマネジメントすることは、資源を生かすことであり、企業を作ることである。

 

人と仕事をマネジメントする

 企業は、仕事によって経済的成果をあげなければならない。そのためには、技術者、営業、事務、工員、経営管理者など あらゆる種類の人たちを組織しなければならない。そこで、人に最も適するように仕事を組織し、最も生産的かつ効率的に仕事ができるように人を組織することが必要となる。

 仕事の環境を整え、無駄をなくし、生産性を高める仕組みをつくり、いつ誰がやっても同じ結果を再現できる状態にしたうえで、個々人の強みを生かし、かつ弱みを払拭し、相乗効果を生み出すよう組織することが求められる。

 使命→成果→目標→貢献と続く一連の「なすべきこと」と、一人ひとりの強みをベースとした「できること」の重なり合ったところで成果が生まれる。

 このことから、主に次のことを行う必要がある。

1 方向付けを行う

 企業に方向性を持たせ、成果をあげさせるためには、理念なり目標なりが必要となる。それが「経営理念」である。経営理念というのは、「わが社はどの方向に向かっていくのか」、「わが社は何のために存在しているか」、さらには「わが社の行動原理」などを規定したものである。

 経営理念は、企業に存在意義と方向性を与え、経営に関わるあらゆる戦略、判断、行動などの基準となるべきものである。

 この経営理念を企業文化として、組織の隅々にまで浸透させる仕組みを策定・維持しなければならない。この企業文化が健全に維持・存続できていれば、その企業文化を引き継いだ人たちが時代時代に合った商品やサービスを次々と生み出していくことができる。

2 ミッションを決める

 ドラッカー曰く、組織はすべて人と社会をより良いものにするために存在する。ゆえに、組織にはミッション、すなわち、目的があり存在理由がある。常に「われわれのミッションは何か」を問わなければならない。そして答えなければならない。「われわれの顧客は誰か」を見極め、「顧客の価値」、「我々にとっての成果」を明らかにしていかなければならない。

 ミッションは、何を行うべきかとともに、何を行うべきでないかを規定するものとなる。成果を最大にするためには、自らがミッションとするものに徹底して的を絞らなければならない(資源の集中)。

3 目標を設定する

 目標とは いわゆる経営目標である。

 この目標は、「われわれにとっての成果は何か」を明らかにしてから設定する。成果を明らかにしないままの目標設定は、的がないのに弓を引く行為で無謀である。

 組織にとっての成果には、次の三つの領域が必要である。

  直接の成果・・・売上高、利益額、顧客数など

  価値への取り組み・・・顧客価値、組織の価値観

  人材育成・・・自らの自己啓発と他人の自己啓発の支援

 これら三つの領域の成果の姿を明確にしてから目標設定を行う。また、価値への取り組みは、顧客満足や従業員満足に結びつくものとする。

 目標を設定するにあたって大切なことはバランスである。部分最適の総和が全体最適にならない。全体として最適、最高度になるための各部門間のバランスをいかにとるか ということがマネジメントの仕事になってくる。

 一部が突出してはいけない。売上は上ったがイノベーションは進まなかった。生産量は上がったが、費用がかさんで利益は下がった。これではトータルの生産性は下がる。

 全体最適は何か。全体最適をつくるための今年度のやるべき 利益目標、売上目標、イノベーションの目標、マーケット目標を全部掲げたうえで、数値においてはバランスをとって、全体最適を考えるということがマネジメントの仕事である。

 特に、現在と未来のマネジメントとして、短期目標・中期目標と利益目標のバランスが大切である。長期的な利益や企業の存続を犠牲にして目前の利益をあげたとしても、成果をあげたことにはならない。壮大な未来のために今期災いを招くようなリスクを冒す意思決定は無責任である。一時は経験者に尋ねてもよいが、最終的には自ら経験してノウハウを積み重ねるしかない。

4 資源を動員する

 企業は、顧客の創造という目的を果たすため、経済的成果をあげるために資源を利用する。そして、定めた目標に応じて資源を動員する。

 資源を動員するにあたって、その資源を生産的に利用することが求められる。そして、資源の中で、最も重要なのは人的資源である。この場合、「なすべきこと」と「できること」をできるだけ一致させるように、最も重要な資源である人に最も適するように仕事を組み立てることである。また、最も生産的かつ効率的に仕事ができるように人を組織することである。人の強みと仕事を最適にマッチングさせ、最も相乗効果が発揮できる組織づくりが大事である。

 

生産性のマネジメント

 ドラッカーは、「生産性とは、最小の努力で最大の成果を得るための生産要素間のバランスのことである」と述べている。そして、「生産性の向上とは資源の有効利用」と述べている。同時に、「生産性のコンセプトは、働く者一人当たり あるいは 労働時間一時間当たりの生産量なるコンセプトは異なる」とも述べている。旧来の伝統的な生産性の尺度、すなわち、肉体労働による生産性向上とは違うということである。

 未だに、多くの経営者は、生産性向上というと「テイラーの科学的管理法」を代表とする科学的管理手法によって進めようとする。しかし、このような科学的管理手法は生産性要因のうちの一つである肉体労働にだけ着目したものである。

 今日の人的資源は、肉体労働者ではなく知識労働者となっている。工場においてさえ、もはや工員を知識労働者として扱わなければならない。

 本当の意味で生産性の向上を期待できるのは この「人的資源」である。人間にいかに成果をあげさせるか、いかにその能力を伸ばすかを考えることが大切である。

 まさに、人と仕事のマネジメントが真価を問われるところでもある。生産性こそがマネジメントの腕の見せ所、マネジメントで優劣がつくところである。そこで、原点に帰って生産性について考えてみる必要がある。そのためには、「成果とは何か」「貢献とは何か」という問いに対する答えが必要となる。

 「われわれにとっての成果とは何か」を問わなければ、「貢献とは何か」「生産性生とは何か」定義することはできない。

 重要なのは コミュニケーションである。人を どんなに強制しても、心のコントロールはできない。指示・命令ではなく、理解を求めることが大切となる。

 ドラッカー曰く、マネジメントには、仕事を生産的なものとし、人に成果をあげさせる役割がある。 

 「売れない製品の設計図を迅速かつ大量に、しかも見事な出来栄えで書く設計部門ほど意味のない存在はない」

 生産性を高めるための問いは、外への価値あるアウトプットを考えるところから始める。「顧客の価値は何か」、「われわれの成果は何か」、「われわれの貢献は何か」を問わなければならない。また、経営資源が有効かつ効率的に活用されているかを問わなければならない。

 答えが一つの事業、商品、サービスを止めることかもしれない。資源の集中・有効活用かもしれない。仕事のプロセスの変更が答えかもしれない。もし答えが個々の作業の時間短縮ならば、従来の科学的管理手法でよい。

 生産性は単なる積み上げ式ではない。使命→成果→目標→貢献と外の成果を考えるところから始める。そして、この目標を達成するために必要な生産性が決まる。そして、この生産性を実現するための仕組みを構築しなければならない。

 トップの生産性が最も企業の成果に影響を与える。「トップの仕事が何であるべきかについて徹底的な検討が必要である。トップはいかなる活動をなすべきか。いかなる活動を移譲すべきか。誰に移譲できるか。そして、何よりもいかなる活動が重要か。そのためには、いかなる危機のもとにあろうとも、どれだけの時間を用意しておくべきかを検討する必要がある。」

 「マーケティングに力を入れるべき時に、トップが自らの好みであるエンジニアリングに気を取られていたのでは、全体の生産性が低下する。その結果、一般従業員の労働時間当たりの生産高の低下などよりも深刻な事態を招くことになる。」

 知識労働者に生産性を要求するのであれば、強みを発揮できる、成果のあげることができる部署に配置しなければならない。また、知識そのものも陳腐化する。従って、知識労働者に対して絶えざる継続学習を要求する。組織に対しても学び、教え合う組織(学習する組織)としなければならない。知識の結合が生産性向上の鍵となる。

 

目標管理のマネジメント

 目標管理は、一時期日本の企業、特に大企業に注目され、成果主義と組み合わせた形で目標管理制度が導入された。この達成度により、給与査定、賞与査定、昇給、昇任・昇格人事に利用された。

 しかし、これはドラッカーが唱える目標管理とは違う。目標管理とは、自己管理によるマネジメントであり、本人が成長するためのツールとして使いこなすことが原則である。

 目標管理は、各自が個別に目標設定して自主管理できる体制をつくることである。その利点は、支配によるマネジメントから、自己管理によるマネジメントに変えることである。目標がノルマになったり、上司が部下を管理するための数値ではない。部下が上司と相談して、自ら目標を設定して、自主管理するための仕組、というのがドラッカーの真意である。

 日本での目標管理は90%くらいは失敗しているという。目標管理における目標というものは必達すべきものではない。従業員を評価するのはその人の意欲であり、仕事ぶりであり、結果であり、他人への影響の総合力で判断しなければいけない。

 目標は倍増目標を掲げてよい。ぎりぎりの背伸びしなければ達成できない目標を掲げてよい。本人がやる気を出して目標があることが本人の成長の材料になったり、目標を掲げることによって、本人の実力との乖離が出てきて、目標設定が誤っていたり、本人のどこの能力が低いかわかってくる。

 目標管理によって、本人のやり方の弱点、長所が見えてきたりする。目標達成に向けて努力するのは当然であるが、必達で100%評価するわけではない。あくまで成長のためのツールとして使いこなすことが目標管理の本質である。

 従業員が自らの仕事ぶりを管理するには、目標に照らして評価できなければならない。そのための情報が必要となる。その情報は自己管理のための道具であり、直接本人に開示されなければならない。

 目標管理を実行することは、マネジャーとしての責務です。とはいえ、これは最低限実行すべきことであり、その上で設定した目標を達成するための方策を持たなければなりません。

 これに対して、ドラッカーは、実行すべき5つの活動を掲げています。

1 計画

 まず、設定した部課やグループの目標に対して、目標達成のための機会を明らかにします。製品や市場、流通チャネルなどについて、推進すべき最優先領域、優先的に廃棄する領域、推進も意図的廃棄もそれほど効果のない領域、これら3つを明らかにするということです。これは優先すべき仕事、全く優先しない仕事を明らかにする作業でもあります。

2 組織化

 目標達成のための優先領域が明らかになったら、優先順位の高い機会に優秀な人材を配置します。ここでは、強制選択という手法が役に立ちます。人材に強制的に順序を付けると同時に、優先領域の機会にも順序を付けます。そして、優先順位の高い機会に、優秀な人材を強制的に割り振っていくという手法です。私情をはさむ余地がないところがこの手法の特徴です。最もいけないのは、優秀な人材を些末な仕事に振り向けることです。これでは部下やグループの高い成果は望めません。

3 統合

 続いて、人材の動機付けと円滑なコミュニケーションを推進します。そして、部課やグループの統合をはかります。この段階でクローズアップすべきなのが目標管理です。

 まず、マネージャーが部門やグループの明確な目標を掲げます。次に、その目標に従って、個々のメンバーが自身の目標を設定します。そして、自他が自身の目標を相互に明らかにするとともに、食い違いがあれば互いに修正します。目標をベースにメンバーの動機付けを実行するとともに、目標をベースにしてグループ内の円滑なコミュニケーションを実現するわけです。

4 測定

 さらに、測定でも目標管理を活用します。設定した目標と実績を比較して、達成した成果の度合いを測定する。なお、測定と評価の際には、中立的であること、成果に焦点を合わせること、測定不能な対象に対しても適用できるようにすること、これら3点が重要になります。そして、測定評価した結果は、新たに設定する目標にフィードバックします。      

 目標がなければ評価も測定もフィードバックもできません。ここでも目標管理が重要な役割を果たすことが分かります。