価格戦略

価格戦略の重要性

 価格戦略は、企業収益に直接的に多大な影響を及ぼし、顧客の購買意欲にも直接的な影響を与えることからP戦略のなかで最も重要な要素であると言えます。企業はターゲット市場の需要を見据え、適正利益の確保とのバランスをとりながら、戦略的に価格設定を行う必要があります。

 

価格設定

 製品価格は様々な要因の影響を受け設定されていきますが、通常、製造コストを製造数で単価割した価格が低限となり、顧客が認める適正価格(カスタマー・バリュー)が上限となります。また、競争環境、買い手の販売力、売り手の依存度、スイッチング・コストなどの要因が影響します。

 

製造コストと損益分岐点

製品価格の設定では、特殊な場合を除き、製造コストが価格設定の低限となるのは言うまでもありません。しかし、潜在的にある広い市場を一気に獲得する場合などに、期間限定でのキャンペーンを打ち出し、製造コストを下回る低価格戦略を行う事があります。これは、市場シェアの獲得により製品の生産数が増加するにつれて、一製品あたりの生産コストが低下することを前提としているのが通常であり、そこには必ず潜在的な広い市場が存在します。

 とくに新商品や新サービスをリリースする際には、価格設定は難しいものです。

 これまでの指標(既存の商品やサービスの価格)がそのまま応用できるとも限りませんし、場合によっては相場から乖離した価格設定をしてしまうこともあるかもしれません。

 それだけに、「製造コスト」と「カスタマー・バリュー」という価格の上限と下限を意識しつつ、その範囲内で最適な数字を模索することが重要となるでしょう。

 

「製造コスト」と「カスタマー・バリュー」

 両者は価格の上限と下限を決めるための目安になりますが、必ずしも万能ではありません。

 そのため、上限と下限の範囲内で価格設定したとしても、それが市場に受け入れられるとは限らないのです。

 その点に注意しながら、価格をどのように決定するべきかを考えていきましょう。

 

価格の下限を決める「製造コスト」

 「製造コスト」は、その名の通り製造にかかるコスト全般のことを指します。

 企業が利益をあげるために存在してることを考えれば、製造コストを下回るような価格設定は考えにくく、また製造コストと同額では利益を生むことはできません。

 基本的には、製造コストに利益を上乗せした価格が一般的な市場価格となります。

 私たちが普段購入している商品やサービスは、そのようにして価格の下限が決まっているのです。

 製造コストは、大きく「固定費」と「変動費」に分類することができます。

 固定費とは、設備費や人件費など、いわゆる生産や販売の規模が大きくなっても一定額かかる費用のことです。

 固定費が多い製造業などの場合には、大量生産やノウハウの蓄積によって製造単価を下げることに尽力しつつ、損益分岐点を越えるまで作り続けなければなりません。

 ただし、一定の生産を確保できれば、あとは利益を積み重ねることができます。

 一方、変動費とは、固定費以外の変動する費用のことです。

 原材料費などの売上に比例して変動する費用は変動費となりますし、その他にも販売手数料や運送費なども変動費として分類されます。

 変動費の割合が大きい企業の場合には、製品あたりの限界利益(売上費−変動費)の最大化を目指すことが課題となるでしょう。

 また、製造コストの考え方としては「直接費」と「間接費」というものもあります。

 ただ、直接費はともかく、ひとつの製品に対してどの程度の価格が間接費として計上するべきなのかは判断が難しく、計算方法によっては数値が変わってしまうこともあります。

 社内で一定の基準を設けておき、そこからズレてしまわないようにすることが大切です。

 製造コストが価格設定の下限基準になりますが、必ずしもそれが絶対的な指標とは限りません。

 あくまでも目安でしかないことは理解しておきましょう。

 たとえば、製造コストを大きく下回るような価格設定をしたとしても、それによって他の商品が売れるなどの相乗効果を得られるのであれば、それは十分に戦略的な価格として設定できるのです。

 

 また、関連商品やアフターサービスがメインの収益源となる場合も同様です。

 下限という意味に関して言えば、世の中には無料の商品もたくさんあります。

 無料で提供することによって、さらなるサービスへと導いたり、あるいは、その企業のことを知ってもらうための施策となるのであれば、それもまたマーケティングの一環となるでしょう。製造コストがあくまでも目安にしかすぎないと理解していれば、その時々に応じて、無料や低価格を武器に事業を推し進めることも可能となるのです。

 

価格の上限を決める「カスタマー・バリュー」

 カスタマー・バリューとは、顧客が適正と認める価格帯のことです。

 それを知るためには綿密な調査が必要です。

 市場調査をするのはもちろんのことではありますが、マーケティング・リサーチによっていかに正確な数字を把握できるかどうかということに関しては、担当するマーケッターの腕の見せどころと言えるでしょう。

 カスタマー・バリューを決定する際に注意しておきたいポイントは2つあります。

一つめは、カスタマー・バリューを決定するのは必ずしも顧客だけはないということです。

 カスタマー・バリューが顧客の価値という意味であるのに対し、それを決定するのが顧客だけではないのですが、企業側の働きかけによってカスタマー・バリューに影響を与えることは可能です。そのための施策として、販促活動があります。

 また、二つめは、カスタマー・バリューが顧客グループや市場セグメントによって異なるということです。

 マーケッターとしては、そうした違いを考慮しながら最適な価格設定をすることがベストですが、利益を最大化することも忘れてはならないため、難しい判断となることは言うまでもありません。

 もちろん、他の商品との兼ね合いもありますし、相場から離れる場合には相応の製品機能を盛り込む必要があるでしょう。

 カスタマー・バリューという観点から言えば、同じ商品でも異なる価格で販売することができる場合があります。

 主に次の3つのシチュエーションです。

1. ある市場で販売されている商品を、他の市場の買い手が購入できない場合

2. 買い手が、他の市場でより低価格で購入できることに気づいていない場合

3. 保管や保存ができない商品・サービスである場合

 これらの状況下においては、カスタマー・バリューにとらわれずに価格を変化させることができます。

 繁忙期における引越し代金や旅行シーズンにおける宿泊費、あるいは曜日によって価格に違いを設けている映画館などはその代表格と言えるでしょう。

 

価格設定の際に留意するべきポイント

 実際に商品を販売するにあたっては、より最適な数値を正確に打ち出さなければなりません。 

 目安だけでは最終的に判断することは難しいでしょう。

価格設定の影響要因

 価格は、価格設定の上限と下限のあいだなら、製品を製造した企業が独自に判断して決められるものではありません。

 むしろ、複数の要因からより最適な数値を導き出しつつ、それぞれの要素を勘案しつつ最終的な経営判断をすることになる場合がほとんどです。

 価格設定に影響を与える要因は、大きく次の3つです。

 ・競争環境

 ・需給関係

 ・売り手と買い手の交渉力

  「競争環境」というのは、類似製品に対して、競合他社がどのような価格設定をしているかということです。

 製品によっては、価格によって差をつけることが難しく、相場からなるべく乖離しないように設定しなければならないものもあります。

 差をつけるためには、独自のメリットや利便性を付加するなどの工夫が必要になるでしょう。

 また、「需給関係」とは、その名の通り需要と供給の関係性です。

 価格が下落すれば需要は増えていきますし、反対に価格が低下しすぎれば供給量を抑えなければなりません。

 その両者のバランスを重要供給曲線から導き出し、求められる価格と利益が最大化するポイントを計測しつつ、最終的な価格設定を行います。

 顧客との長期的な関係性も考慮することが大切です。

 最後の「売り手と買い手の交渉力」とは、その製品を投入している市場において、売り手と買い手がどのような力関係になっているかということを考慮したものです。

 たとえば、買い手がたくさんいる市場においては、売り手の力が上回ることになりますし、反対に買い手が少なく売り手となる競合がたくさんいる市場においては、買い手の力が上回ることになります。

 それぞれの要素は、個別に独立しているわけではなく、状況に応じて複数個重なっていることがほとんどです。

 自社の製品が置かれている状況をしっかりと把握しつつ、どのような要素が価格設定に影響を与えているのかを考慮することによって、よりマーケティング戦略に則した価格を導き出せることでしょう。

 とくに、「競争環境」「需給関係」「売り手と買い手の交渉力」の3つは、必ず確認しておきたいものです。

 ビジネスにおいては、なるべく多くの利益が確保できるような価格設定をすることが求められますが、製品が市場に受け入れられなければ開発した意味がありません。

 価格というものは、複数の要素から総合的に判断するものだということを念頭においておきましょう。

 マーケティングの発想から、より合理的で説得力のある価格設定をすることによって、市場からも顧客からも受け入れられるようになるのです。

 もちろん、状況は刻一刻と変わっていきますので、その都度料金改定について社内で話し合うことが大切でしょう。

 その際には、「競争環境」「需給関係」「売り手と買い手の交渉力」の3点が指標となります。

 

価格設定に影響を与える要因

競争環境

 自社が取り扱う製品の競争環境を理解するためには、市場の状態から価格の幅を把握することからはじめましょう。

 たとえば、毎日使う日用品(シャンプーやティッシュなどの生活雑貨、消耗品等)は価格の幅が狭く、あまりに高い値段をつけることはできません。

 もし、高価格で販売したいと考えるのなら、それなりの機能やメリットを付加するなどして差別化を図る必要があるでしょう。

 例えば、ティッシュであれば、「普通のものよりもしっとりとした質感で、何度鼻をかんでも痛くなりにくい」というものでしたら、高価格に設定できるでしょう。

需給関係

 昔から使われている従来品(とくに発泡酒や携帯電話など、差別化の難しい製品)の場合は、需要供給曲線をベースにした古典的な価格設定に頼ることがほとんどです。

 業界内でよほどイノベーティブな動き(例えば携帯電話でいえばフィーチャーフォン(ガラケー)からスマートフォンへの変化)がないかぎり、需要と供給のバランスが大きく変わることは少ないため、もっとも基本的な需要と供給の関係性から価格を決めるのが妥当となるのです。

売り手と買い手の交渉力

 売り手と買い手の交渉力に関しては、競争環境および需給関係から、売り手と買い手のいずれが有利なのかを理解することが大切です。

 たとえ小さな部品工場だとしても、そこで造られる製品が唯一無二のものであれば、大企業に対しても強い交渉力を持つことができるでしょう。

 パワーバランスを正確に把握することは難しいのですが、差別化の度合いや相互依存度、あるいは、スイッチング・コスト(製品やサービスを他の代替財に乗り換える際の労力や時間、金銭などの総コスト)などから おおよその関係性を導き出し、価格に反映させると良いでしょう。

 それぞれの要素を考慮しつつ検討を重ねるわけですが、どんな製品も最終的には具体的な数値を決めなければなりません。

 数多くの指標を収集し、それぞれの重要な要素をくみとることは大切ですが、検討に検討を重ねた結果、具体的な価格設定ができなければ販売を開始することはできません。そこで、価格に影響を与える代表的な要素をピックアップして、それらを中心に検討を重ねることによって、よりスピーディーかつ適切な価格設定ができるようになります。

 具体的には次の3つです。

 ・「原価」志向の価格設定

 ・「需要」志向の価格設定

 ・「競争」志向の価格設定

 「原価志向の価格設定」では、適切な利益の確保と製造コストの最小化を目指します。

 原価に忠実であるため、顧客にとってもっとも貢献度の高い価格設定ができる反面、売り手側としては、本来得られるはずの売上(市場の相場)から大きく下回った値付けをしてしまうこともあります。

 「需要志向の価格設定」では、顧客がその製品に対して感じている価値(カスタマー・バリュー)をベースに価格を設定します。

 製造コストから価格を算出する原価志向とは異なり、価格の上限となるカスタマー・バリューをもとに価格を決めるため、利益を最大化することが可能となります。

 ただし、カスタマー・バリューを正確に把握することは容易ではありません。

 「競争志向の価格設定」では、競合他社がいることを前提に価格を決めるので、原価志向とも需要志向とも違った市場ベースの価格設定をすることになります。

 製品が十分に差別化できていない場合には、単なる価格競争に陥ってしまうこともあるため、独自の価値を打ち出せるように製品そのものの性能やベネフィットを高める必要があるでしょう。

  具体的な価格を決める場面では、マーケティングの手法を考慮することも大切ですが、業界特有の慣例に従わなければならないことも多いのです。戦略的な価格設定ができたとしても、それが業界の慣例に則っているかどうかも確認しつつ、最終的な判断ができるようにしたいものです。

 価格を設定する際に明確な基準を設けていないと、勘や経験に頼った基準のないものとなってしまいます。

 とくに、多業種に対してアドバイスをしなければならないコンサルティング事業においては、それぞれの担当者が全社的に共通のマニュアルを利用していないと、最終的な結果もブレてしまうことになります。

 よくマニュアル的に働くのは良くないという意見があります。とくに、顧客対応などでマニュアル的に対処したことによってクレームになるということを耳にします。融通が利かないという意味合いがあるのでしょう。しかし、企業が行うサービスや商品の価格がバラバラだと顧客は不快に感じるものです。

 

価格設定の手法

 3つの手法をバランスよく取り入れることによって、より最適な価格設定を行うことが理想です。

 一つの手法に偏るなど、柔軟性をなくさないように注意しましょう。

1 原価志向の価格設定

 原価志向の価格設定は、「コストプラス価格設定」「マークアップ価格設定」「ターゲット(目標)価格設定」の3つに分類することができます。

 原価をどのようにとらえるかによって、価格設定が異なるという点に注目してみてください。

 また、その企業が属している業種・業界などの慣例が影響していることも少なくありません。

コストプラス価格設定

 実際に発生したコストに上乗せするかたちで価格を決めるのが「コストプラス価格設定」です。 

 最終的にどのくらいのコストが発生するか分からない場合に用いられます。

 たとえば、システム開発の業務において、契約だけを先に済ませ、かかったコストを後から上乗せするものなどです。

 すでに売り手と買い手の間で契約が済んでいる場合には、コストを後から上乗せして提示することも可能ですが、発生するコストが想定できない場合には、買い手にとってリスクとなることもあるでしょう。あらかじめ目安を提示してもらったり、上限を設けるなどの対策が必要となります。

マークアップ価格設定

 仕入れ原価に対して、一定のマークアップ(上乗せ)をして価格を決めるのが「マークアップ価格設定」です。

 たとえば、食品などにおいて、原価に利益を加えて販売する場合などです。

 差別化の難しい一般消費財などの場合には、マークアップの度合いも低水準で推移しますが、宝飾品などの高級品の場合は大きな利幅が設定されることもあります。

 取り扱っている製品やサービスの性質に応じて、より効果的に設定すると良いでしょう。

ターゲット(目標)価格設定

 3つ目の「ターゲット(目標)価格設定」は、想定される事業規模から勘案して、一定の利益が確保できるようにするための手法です。

 たとえば、工場にある製造設備がどの程度稼働するかによって変動する自動車などの価格に、あらかじめ上乗せするかたちで用いられています。

 原価という要因を機械の稼働率という点からも考慮することによって、状況に応じて確実に利益を確保できる手法となっています。

2 需要志向の価格設定

 需要志向の価格設定は、「知覚価値(心理的)価格設定」と「需要価格設定」に分類することができます。

 消費者が価格に対してどのような認識をもっているのかを基準にするだけでなく、それぞれのセグメントに応じた需要を勘案して価格を決めるという方法もあることを意識しておきましょう。

 また、顧客の需要をどのように把握するかによっても、捉え方は異なり、価格に反映されます。

知覚価値(心理的)価格設定

 顧客が、その製品に対して、どのような価格が適切だと認識しているのか、そういった視点から価格を設定する手法が「知覚価値(心理的)価格設定」です。

 入念なマーケティング・リサーチによって、あらかじめ「売れる価格帯」を算出した後、必要であれば原価を下げるなどの措置をとります。

 顧客にとってその製品が必要だと感じられており、差別化ができており、かつ競争が少ない状況で大きな成果を得られる手法です。

需要価格設定

 市場セグメントごとに需要を把握し、それぞれ異なる価格を設定する手法が「需要価格設定」です。

 顧客層、時間帯、場所などの違いによって、最適な価格を設定します。

 場合によっては、ライトユーザーに対して無料で提供しつつ、ヘビーユーザーに対しては有料版を提案するなどの思い切った価格設定をすることによって、効果的に販売を促進することも可能となります。

 たとえば、パソコンソフトにおける安価なお試し版と、さらに便利に使いたい方向けの高価な有料版などです。

 戦略的な価格設定によって製品の売れ行きだけでなく、企業活動全体にも影響するという一例です。

3 競争志向の価格設定

 競争志向の価格設定は、「入札価格設定」と「実勢価格設定」に分類することができます。

 どの業種・業界においても、いずれかを選択的に取り入れることができるということではなく、それぞれの性質によって使い分けているのが一般的です。

 ただ、常識にとらわれるのではなく、時代や環境にあわせて価格設定も変更していくことも大切でしょう。

 固定的な価格設定によって、業界全体が流動性を失っているという場合もあります。

入札価格設定

 入札によって各企業に価格を提示させ、その中からもっとも低い価格で提案した企業と契約するという方法が「入札価格設定」です。

 買い手にとっては、もっとも安価な価格で購入することができる反面、技術力やサービスの質といった部分で劣っている企業を選んでしまうことも少なくありません。

 交渉によって価格を決められない場合や、市場メカニズムによって決められない場合に用いられます。

実勢価格設定

 競合他社がどのような価格をつけているかということを判断基準とするのが「実勢価格設定」です。

 業界によっては、最も影響力のある企業がプライスリーダーとなり、他社がプライスリーダーの設定した価格に追随するという構図があります。

 もっとも、小規模の企業が乱立している場合には、お互いが牽制し合いながら価格が決まることも多く、価格競争になれば値段が下がり買い手にとってより有利な値付けがされることもあります。

 

製品ライフサイクルに合わせた価格設定

 「価格設定」では、価格設定要因(製造コストと損益分岐点、カスタマーバリュー、競争環境、スイッチング・コスト)や、価格設定手法(コスト志向での価格設定、ニーズ志向での価格設定、競争志向での価格設定)がありますが、製品ライフサイクルに合わせた価格設定も視野に入れなければなりません。

 

導入期の価格設定

 製品ライフサイクル初期の導入期における価格設定には、大きく、販売量の増加と反比例し製造コスト単価が下がることを想定した「ぺネトレーション・プライシング」と、参入初期に高価格を設定することで早期の資金回収を行い、以降、ローリスクで低価格化打ち出していく「スキミング・プライシング」の 2つの方法があります。

 取り扱う製品・商品や業界により傾向が異なることから、自社業界や製品にどちらが適切かを見極める必要があります。

①ぺネトレーション・プライシング
 導入期の価格設定では、販売量の増加と反比例し製造コスト単価が下がることを想定した、ぺネトレーション・プライシング(市場浸透価格設定)が行われることが多くあります。製造総量が増加することで、生産プロセスは効率化され、同時に原材料の大量仕入れが行われることで製造コスト単価を著しく下げる手法です。かつて、日本の電機メーカーによる海外進出の際には、ぺネトレーション・プライシングが採用されました。 ペネトレーション・プライシングは、低価格で参入することで、市場を拡大すると同時に一気に市場シェアを獲得することを目的とした価格戦略です。中長期で利益の最大化が見込まれる反面、参入当初は先行投資が嵩むことから、ハイリスク・ハイリターンな戦略であるといえます。

②スキミング・プライシング
 スキミング・プライシングとは、参入初期に高価格を設定することで早期の資金回収を行い、以降、ローリスクで低価格化を打ち出していく価格戦略です。巨額な先行投資を必要とする製品製造で用いられる方法で、製品開発をいち早く行った企業が用いることができます。スキミング・プライシングは、他社製品との差別化が明確で、市場競争の心配が少なく、価格の高低にニーズが左右されない場合にのみ採用することができ、生産財・産業財など、BtoB製品の価格設定に多く見られる戦略です。

 

成長期の価格設定

 製品は成長期になると生産数が著しく増加します。すると生産ラインは効率化され、大量仕入れによる原価コストの削減から製造コスト単価が下がり、企業が得る利益もピークを迎えます。この時期には、競合の新規参入が相次ぎ、競争激化による市場シェア争いにより価格は低下傾向となっていきます。また同時に、セグメント毎のサービス向上が行われます。この段階になると、企業は適切なタイミングで自社製品のポジションを見直し、新たなマーケティング戦略を検討しなければなりません。

 製品価格は成熟期になると低下の一途を辿ります。しかし値下げを行う場合も注意が必要で、品質やサービスの低下を招いてはいけないのはもちろんのこと、製品イメージを崩した価格戦略は、低価格=低品質のイメージを植え付けてしまう事から、絶対に避けなければなりません。また、一度引き下げてしまった製品価格を再び上げることは容易ではなく、顧客が納得する適切な理由がなければ、客離れが進んでしまうことは明らかです。 企業は価格変更による様々な影響を念頭に置いたうえで、慎重に検討していくとともに、顧客へのプロモーションにも細心の注意を払わなければなりません。

 

衰退期の価格設定

 衰退期になると、需要の低下から売上の減少が始まります。衰退期になると値下げしても需要の回復が見込めず、衰退の一途を辿ることから、各企業はいち早い在庫処分を目指し、値下げの競争が起こります。当然、利益率も低下の一途を辿るため、企業は「雇用問題」及び「既存顧客の問題」の解決を図りつつ、撤退のタイミングを図らなければなりません。

 

価格戦略の意義と方向性

1 価格戦略の意義
 価格は売上や利益の大小に直接影響する大きな要素です。それだけに、単純なコストの積み上げや需要志向型の理想価格の検討だけではなく、戦略的な視点で「売れる価格」を設定し、その価格で一定の利益が得られるようにコストをコントロールしていくという戦略が求められます。 
 「売れる価格」とは、多数の外的・内的要因から影響を受けます。
 外的要因としては、需要や競合の状況、顧客の事情など、内的要因としては、コストのほか、価格戦略以外のマーケティングミックス(4P)との整合性(たとえば、製品コンセプトや利益計画との整合性をとる必要がある)などが挙げられます。
 また、「売れる価格」は、製品やサービスのライフサイクルに応じて変化します。
 こうした要因を検討して、適切な価格帯や価格変更の時期、割引額などについて基本路線を設定するのです。
 そして、一時的な価格の設定・変更(競合対策や顧客吸引を狙った一時的な値下げなど)は、この価格戦略に基づいて実践するという基本姿勢が重要です。

2 価格戦略の方向性
 具体的な価格戦略の方向性としては、製品やサービスの差別化に基づく非価格競争と、低価格設定による価格競争に大別できるでしょう。

(1)非価格競争 
 中小企業は、一般に製造や仕入で規模の利益を得ることが難しいため、価格の優位性を追求するよりも、製品やサービスの差別化を実現することで、価格競争を避けることが より求められます。 

製品やサービスの差別化により、比較的高価格で十分な競争力を実現している中小企業も少なくありません。
 また、従来にない新しい製品やサービスであれば、価格戦略として、いわゆる上澄み吸収価格戦略(Skimming Price Policy)をとることも可能です。澄み吸収価格戦略とは、新製品の投入時に先発利潤を狙った高価格を設定し、短期間に大きな利益をあげて開発コストを迅速に回収することを目的とする戦略です。

(2)価格競争 
 製品やサービスの付加価値によっては、価格競争を打ち出さなければ競合に勝てず、顧客に受け入れられない場合も少なくないでしょう。
 消費者の低価格志向、あるいは廉価な輸入品の増加などの外的要因に迫られ、恒常的な低価格が必要な場合です。 
 また、価格戦略は製品やサービスのライフサイクルが進むにつれて変化します。
 価格戦略として、価格の引き下げで需要を刺激するために価格競争を重視する戦略や、新しい製品やサービスの導入では市場浸透価格政策 (Penetration Price Policy)をとることも考えられます。 
 市場浸透価格政策とは、価格を低めに抑え、短期間で市場シェアを獲得することを目的とする戦略です。典型的な例としては「ユニクロ」の価格設定などが挙げられます。 
 価格競争を重視する場合の価格設定の方法として、とくに競合商品の価格と比較して商品の価格を設定する方法が挙げられます。
 一般的な価格設定の手法であり、たとえば大手家電量販店の「安値保証」もその一例です。
 価格競争を重視する場合、競争上、設定した価格で安定した利益の維持ができるよう、原価と軽費の抜本的なコストダウンを いかに実現していくかがポイントになります。

 中小企業が価格競争を展開するのは一般的に不利であり、とくに設備投資の規模にコストが大きく影響されるメーカーの場合は不利といえます。
 しかし、中小企業でも、隙間市場でシェアを拡大して規模の利益を実現し、コストリーダーシップ戦略に基づく価格の引き下げで参入障壁を高め、シェアの維持・拡大に成功している事例も見られます。

 

具体的な価格戦略

競争に勝てる価格を探る

 はじめに、価格決定の第3の要素である「競争相手の商品の価格」について考えてみましょう。

 競争に勝てる価格を設定して利益を上げるための要件は2つあります。

 第1の要件は、その価格で利益を上げることができること。

 第2の要件は、その価格で競争に勝てること。
 第1の要件を満たす手段は、いうまでもなく低いコストを確保することです。

 メーカーや工事業なら、製造原価、工事原価を引き下げること、販売業なら仕入原価を引き下げること。これが競争価格で利益を上げる基本です。

 価格戦略のテーマは、第2の要件である競争に勝てる価格を設定することです。

 必要なことは、競争相手の商品の価格を知ることです。

 店頭で販売している商品の場合は、他の店の価格を知ることは難しくありません。

 ここで重要なことは、競争他社を認識して、抜け漏れなく調査することです。

 小売りの店舗販売の場合は、まず競争相手との地域的な関係がポイントでしょう。どこまで遠くの店までを競争相手と考えるかです。

 もう1つのポイントは、競争商品の対象範囲です。

 たとえば、自分の店が高級ブティックであれば、同じ品種の洋服でも、洋服量販店の価格は、
 あまり気にする必要はないでしょう。
 一方、商品が異なっていても、たとえば持ち帰り弁当店でしたら、近隣のハンバーガーショップの価格水準を気にする必要があります。

 すなわち、商品の性質および対象顧客から見て、自分の店の商品の競合商品の対象を認識
 することが重要です。
 一方、店頭で販売されない商品、たとえば、工業用の原材料や機械などの場合は、競争相手の価格を知ることは一般に困難です。それらの商品を扱う商社や販売仲介業などに広くアンテナを張って情報を集める努力が必要です。
 顧客から競争相手の価格を教えてもらうという方法もありますが、その場合は情報の信憑性を判断しなければなりません。

 したたかな購買担当者は納入業者を手玉にとって安値競争をさせることができます。

 原材料のような場合は、顧客の財務資料を入手して製造原価の内訳から推定するという方法もあります。
 競争に勝つ価格を設定するために、競争相手の価格を知ることが重要であることの裏返しとして、競争相手に自社の価格を知られない注意が重要です。

 店頭販売の場合は、価格を表示せざるを得ませんが、最近の量販店の戦術として、「現金のお客様には、さらに値引きいたします」ということだけ表示し、具体的な価格はお客様と1対1で交渉をするという方法がみられます。

 工業材料や機械などの場合、公表用の定価表を印刷物にし、実際の取り引きでは、定価表の何%引きで契約するといった方法が多く見られます。これは、お客様に割安感を与えるというメリットと自社の価格を秘密にするという二重の効果があります。

 価格の設定に当たって、競争商品より安い価格をつけることは販売量を確保するために基本的に必要なことですが、過度の安値競争は利益の減少をもたらします。

 業績を上げるためには、価格競争はできるだけ避けて「非価格競争」で自社が勝てる道がないかどうかを極力模索することが大切です。
 販売方法、サービス、顧客の選択、品揃え、商品陳列の方法など、非価格競争のテーマは幅広く、優れたアイディアが生かせる分野です。

 

目玉商品の戦略

 「目玉商品」とは、自社の商品系列の中で顧客にとって特段に魅力のある商品のことです。

 必ずしも安値商品とは限りませんが、価格戦略としては安値を魅力とする目玉商品戦略がよく利用されます。

 電器量販店の「薄型テレビ10台に限り7万9000円」とか、スーパーの「先着50名様に限り、国産数の子200gパック500円」といったチラシをよく見かけます。目玉商品によって客を集め、店全体の売り上げを増やす戦略です。
 目玉商品を設定するポイントは次のような点です。

 ①お客様にとって魅力のある商品、話題性の高い商品を選ぶこと

 ②通常の価格水準がよく知られており、超安値であることが明らかなこと

 ③数量を限定すること(特に赤字になるまで値引きした場合)

 ④他の商品の価格の連鎖的な値下がりを防ぐこと
 上記のうちの④についての1つの方法は、戦略的な「格下げ」です。

 工業原料などの場合、故意に1級品を2級品に格下げしたり、合格品を不合格品などとして実質的な値引きをしたりする方法です。このことで、値下げの影響が他の1級品や合格品に及ぶのを防ぎます。
 近年話題を呼んでいる「アウトレット」も(流行遅れ在庫の整理の目的以外に)この意味合いがあるのかもしれません。

 目玉商品戦略は、消費財の小売店だけでなく、企業を顧客とした生産財の販売にもよく利用されます。

 たとえば、自社の製造原価や仕入原価が競争相手よりも低い商品があった場合、その商品を魅力のある安値で販売して、他の商品と組み合わせて販売量全体を増やすといった戦略です。レストランなどでも この作戦は利用できます。

 簡単な方法としては、特に安い目玉メニューを準備することですが、やや手のこんだ戦略としては、小売価格が明らかなビールなどの価格を ほとんど酒販店の小売価格に近い価格に設定すると、お客様にそのレストランの料理も割安であろうとの印象を与えます。

 

商品の価値を見極める

 価格設定の要素の1つ、商品の絶対的価値の面から価格戦略を考えてみましょう。

 顧客の側で1万円の価値があると考えている商品に9000円の価格をつけてしまってはもったいない話です。そこで、売り手に最も有利な、すなわち商品の絶対的価値とできるだけ同額の価格をつけるためには、商品の価値を適切に評価することが肝要です。
 しかし、それは難しい判断であり、生産財と消費財ではアプローチが異なります。

 生産財の価格設定の場合は、ある程度計数的に把握することができます。

 まず、既存商品は、現状の取引価格が顧客が評価した絶対的価値を反映しているといえるでしょう。
 次に、従来の商品より優れた新商品なら、同じ目的に使用されている既存商品と比較して、顧客(使用者側)で経済的に有利な品質や機能の点を評価して既存商品の価格に上乗せすることができます。

 たとえば、原材料で考えると、加工性が優れた新商品なら顧客で節約される作業費相当分、歩留まりが高い新商品なら節約される材料費相当分を上乗せすることができます。
 既存商品の取引価格が把握できない場合は、その商品を使用して製造される最終製品の価格から原材料の絶対的価値をある程度推定することもできます。

 特に加工度が低い商品の原料については この方法が有効です。

 消費財の価格設定の場合でも、その価値が機能によって評価される商品(自動車、電器、事務機など)は、生産財と同様のアプローチが可能です。
 しかし、消費財の中で、食品、装飾品その他の噂好晶の場合は、顧客の好みや趣味で価値が評価されますから、積算による評価は困難です。店頭調査によって、同様の商品の価格から推定するとか、潜在的顧客に対するヒアリングやアンケートを行います。
 商品の絶対価値は、その商品の使用目的や使用者によって異なります。したがって、顧客や使用条件をグループ分けして、グループごとに価格を設定することが有効です。

 グループ分けとは、たとえば、顧客の取得水準による区分、商品の使用目的(日常用途か、贈答品用か、噂好品かなど)による区分などです。
 商品の絶対的価値に基づいて高い価格を設定したい場合、価格戦略以前の商品開発戦略が重要です。

 第1は、顧客のニーズを先取りして、絶対的価値の高い新製品を製造する、あるいは、仕入れることです。

 第2には、既存商品に付加価値をつけて商品の絶対的価値を高めることです。付加価値をつけるためには、商品の品質や機能を高めるだけでなく、デザイン、サービスなどによる方法もあります。

 近年は、環境にやさしい商品や地球温暖化防止に貢献する商品の開発が商品の絶対的価値をあげる新しい分野です。

 

価格設定のためのコストを分析

 次に、価格設定の要素の1つである「商品のコスト」について検討します。

 利益を確保するためには、できれば価格は「コスト+適正利潤」で設定するのが理想です。

 少なくとも価格がコストを下回ってはいけません。これが価格設定の基本的な原則です。
 実際の商売では、価格は上限値が決まる他の2つの要素、「競争商品の価格」や「商品の絶対的価値」によって設定せざるを得ない場合が多いでしょう。ほとんどの商売で強力な競争相手が存在し、また、「お客様は神様」であるからです。
 しかし、業績を上げるための価格戦略では、もう1つの要素である商品のコストを決して忘れてはなりません。

 まず「コスト」の定義を確認しましょう。

コスト、すなわち、「原価」には いろいろな定義がありますが、価格設定の基本とするのは「全部原価」です。
 原価のベースは、メーカーなら工場での製造原価、販売業なら商品の仕入原価ですが、全部原価は、これに その他のすべての経費(運送費、宣伝費、本社管理費、金利など)を加えたものです。

 会社は一般に多数の商品を扱っています。商品の種類ごとに、商品1個当たりの全部原価を合理的に計算します。

 「合理的に」とは、原価、費用の発生の実態の通りに原価を計算することです。たとえば、運送費の場合、商品1個当たりの運送費の平均値を計算するのではなく、商品の種類ごとに計算します。
 仕入れ価格が同じ商品でも、仕入れ地域や、配達先が異なれば運送費は異なります。

 商品の価格は、競争商品の価格や商品の絶対的価値によって決まる場合が多いのですが、原価を商品の種類ごとに計算しておけば、商品の種類ごとの利益が把握できます。
 そのことによって、次のような商品戦略を実行することができます。

 ①利益の大きい商品に販売体制や販売努力を集中する

 ②仕入れ総額に資金上の限界がある場合、利益の大きい商品の仕入れ比率を増やす

 ③赤字商品の販売は中止する

 価格戦略に反映するべき商品1個当たりの原価の計算に当たって、注意すべき点は価格と原価と販売数量の関係です。

 2つのポイントがあります。
 第1の点は、販売数量が増えると一般に商品1個当たりの原価が低くなります。

 第2の点は、価格を下げれば、一般に販売量を増やすことができます。

 

 原価には変動費と固定費があります。変動費は、仕入原価、原材料費、運送費のように販売量に比例して増減する費用、固定費は、減価償却費、正社員の給料のように販売量に関係なく一定の期間には一定の費用が発生するものです。

 販売量が増えれば、商品1個当たりの固定費が低くなりますから、商品1個当たりの原価が低くなります。
 第2の点ですが、多くの商品で価格を下げれば販売量を増やすことができます。この効果が大きい商品のことを「価格弾力性(の絶対値)が大きい商品」といいます。

この2つのことから、固定費が大きく、価格弾力性の大きい商品の場合は、価格を下げて販売量を増やすという戦略が業績向上に大きな効果を上げます。

 価格と販売数量の関係を ある程度正確に予測することができれば、利益を最大にするような価格を計算することもできます。

 固定費と変動費を把握しておくと、他にも利用法があります。

 事業環境が悪く、販売量が落ち込むと、特に固定費の大きい商品は赤字に転落します。その対策として、価格を下げて販売量を増やすという戦略がよく用いられます。その場合、価格を全部原価より下げても、販売量を増やした方が赤字を縮小できる場合があります。

 では、どこまで下げて良いでしょうか? その限界は変動費の金額です。
 たとえば、顧客から超安値の追加注文があった場合に、その価格が全部原価より低くても変動費よりも高ければ、断るより受注した方が赤字を縮小することができます。しかし、全部原価を割るような安値受注は緊急避難の対策であって、これを続けていては、赤字体質が固定してしまいます。

 

低価格戦略や価格の見直しにより成功しているブランドの一例

マクドナルド(ファストフード)
 マクドナルドは、景気動向を加味した様々な価格戦略を取り入れています。例えば、500円のバリューセットや100円マックによる集客が代表的な例に挙げられます。また、2004年には、注文を受けてからハンバーガーをつくり、出来立てをお渡しする「メイド・フォー・ユー(Made For You)」をほぼ全店に導入し、その美味しさと比例した値上げに成功しています。

ファーストリテイリング[ユニクロ](アパレル)
 コスト・リーダーシップ戦略で、業界全体の広い顧客をターゲットに、他社のどこよりも低コスト実現をすることにより競争優位に立つ「ユニクロ」。同時に高品質も兼ね備え、世界で認められるブランドとなりました。2006年には、20代後半から30代前半の若いファミリー層をターゲットとした新ブランド「GU」を立ち上げ、低価格戦略で市場シェア獲得を目指しています。

ニトリ(家具・インテリア・生活雑貨)
 「お値段以上」のキャッチフレーズで、高品質な商品を低価格で販売し、成功を収めているニトリ。地方大型路面店やショッピングモールへの出店で圧倒的な集客力を誇り、今や日本を代表する家具・インテリア・生活雑貨メーカーとなりました。

QBハウス(ヘアカット専門店)
 シャンプー、ブロー、パーマ、カラーリング等といった、従来の理美容室で行うサービスを一切省く事で低コスト化と、スピードアップ(10分という圧倒的短時間でのヘアカット)を図り、成功を収めています。

サイゼリア(ファミリーレストラン)
 大手ファミリーレストランのイタリア料理店であるサイゼリアは、殆どのメニューが500円以下と、圧倒的な低価格でのメニュー提供で成功を収めています。また、ドリンクバーやワインなども提供し、ファミリーレストランとしての市場ニーズも満たしています。

 

顧客価値に見合う価格決定を

 中小企業の価格決定方法をみると、「コスト志向」の価格決定、すなわち、「価格=コスト+利益」を採用する企業が多いのですが、「顧客」と「競争環境」を考慮しない コスト回収の発想といえるかもしれません。
 マーケティングにおける価格戦略では、顧客価値に見合った価格設定を行うことがポイントとなります。価格は価値のバロメーターです。「はじめに顧客ありき」の発想が不可欠なのです。
 コストと顧客価値は異なります。企業にとって、価格の下限は「コスト」ですが、上限は「顧客価値」です。顧客が感じる価値を高めれば高めるほど高い価格設定が可能になります。

 価格決定にあたっては、コスト(Cost)だけでなく、顧客(Customer)、競争(Competition)の「3つのC」をバランスよく考慮することが重要です。

 

新製品発売時や新規顧客の開拓時など、必要に応じて思い切った価格設定を検討しているか

 新製品の価格決定には大きく2つの類型があります。

1つが「初期高価格政策」です。比較的高い価格を設定し、余裕のある顧客層、価格に敏感ではない顧客層をターゲットとする価格戦略です。

もう1つが「初期低価格政策」です。比較的低い価格を設定し、急速に市場を拡大するための戦略、いわゆる薄利多売方式です。

 自社製品に独創性がある時には、「初期高価格政策」がベターでしょう。一方、「①その製品に対する需要の価格弾力性(価格が1%変化した時、需要量が何%変化するのか)が大きい時」や、「②競争企業がその製品を模倣する可能性が大きい時」、「③その製品を大量生産するメリットが大きい時」などは、思い切って「初期低価格政策」をとることも有効です。

 

価格に関する市場調査を行っているか

 効果的な価格決定を行うためには、顧客(買い手)の知覚、すなわち、値ごろ感を把握することが必要です。顧客の値ごろ感を把握するための手法としては、

①消費者モニターの利用

②アンケート調査の実施

③実験(複数の価格で販売してみる)

などの手法があります。

競合他社の価格も定期的に把握していくことが欠かせません。基本的に、「価格」は製造方法

などと異なり、公開されるものであるため、意欲さえあれば定期的に把握することは困難ではありません。

 

過度の価格競争を避ける

 過度な価格競争を避けることは中小企業のマーケティングの基本です。なぜ、中小企業は価格競争を避けなければならないのでしょうか。
 第1に、価格で引きつけた顧客は価格で逃げていくということです。

小売業の例では、価格の安さを重視する人ほど、特定の店でなく、いろいろな店を使いたがることがわかる。価格競争では、短期的な売上をつくることができても、顧客をつくることはできません。
 第2に、価格競争は、体力勝負の消耗戦になるため、豊富な経営資源を蓄積し、幅広い商品の取り扱いをする大企業が有利です。

 第3が、模倣されやすく、持続的競争優位性につながらないことです。

価格での優位性を一時的につくれても、競争相手がその気になればすぐに反撃されてしまいます。
 第4が、多数の「敗者」を生み出す点です。

価格は消費者にとって、最も比較が容易なモノサシであるため、勝ち負けがはっきりします。

 第5に、安売りを続けることは、消費者の価格感応度を高めます。

顧客が来るのは、安売りの時だけということにもなりかねません。

 

安売りせずにすむ方法を考える

 スモールビジネスは、「いかに安く売るか」ではなく、「いかに、安く売らずにすむか」を考えるべきです。

 過度な価格競争を回避するためには、

①顧客が感じる品質(知覚品質)を高める

②ブランド力を高める

③商品の独自性を高める

④代替品の少ない商品を扱う

などがポイントになるでしょう。

商品・サービスの提供に加えて、顧客に喜ばれる情報提供や提案を行っているか

 モノがあふれかえる今日、大半の消費者は とりあえず必要なものは持っています。消費者調査で欲しい商品をあげてもらうと、「とくにない」という回答が多いのです。
 とはいえ、顧客にも本質的な欲求はあります。ただ、買いたいものがはっきりみえないのです。したがって、これからの企業は、顕在化した顧客ニーズへの「後対応」ではなく、顧客自身には特定できない潜在ニーズに「前対応」することが求められています。
 「前対応」とは、すなわち、顧客への「提案」「アドバイス」のことです。
 顧客は、さまざまな問題・課題を抱えていますが、必ずしも解決方法を知っているわけではありません。また、ニーズそのものが顕在化していないこともあります。「当社の商品・サービスを利用すれば、このような問題が解決できますよ。」と、顧客の一歩先を行き、顧客の問題・課題や、潜在的なニーズに対応していくことが「前対応」の本質です。
 企業は、商品・サービスの提供のみならず、情報提供、提案、アドバイスなどによって消費者をリードしていくことが重要なのです。

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