消費者の心理を考慮した価格設定
商品の価格を設定する際の判断基準にはたくさんの要素がありますが、最終的に商品を購入するのが消費者だということを考えると、消費者の心理的な反応を考慮しないわけにはいきません。
心理的な反応とは、「消費者が商品と価格とを見比べたときに、どのような心理でそれを受け止めるのか」ということです。消費者の心理的な反応をとらえた価格設定を「心理的価格設定」といいます。
PMS分析
PMS分析とは、商品価格と販売数量をより厳密に調整するのに用いられる手法です。
価格弾力性は、ある2点間での価格の変化率と需要の変化率を比較します。したがって、価格弾力性で導き出されるのは、あくまでその2点間での需要の変化です。
例えば、100円の商品が95円になった際の需要と、100円の商品が50円になった際の需要とでは、明らかに後者の方が需要は急激に増します。
全ての価格帯で同じ価格弾力性の値が算出されるとは限らないため、PMS分析を用います。
PSM分析をする際は、当該商品やサービスの対象者に対してアンケート調査を行います。調査内容は以下の通りです。
・高すぎて購入はしない価格
・少し高いと思う価格
・ちょっと安いと思う価格
・安すぎて不審に思う価格
調査データをもとに累積度数のグラフを作成すると、その交差点から妥協価格、下限価格、最適価格、上限価格が導き出されます。
「どこまでの値上げ、値下げまでであれば顧客は商品を不信感なく購入してくれるのか」について分析をすることが可能です。PSM分析をすることによって、該当商品やサービスの細かい分析ができます。
顧客の心理的価格設定はどのように決まるのか
マーケティング分野では、顧客の心理的な価格は以下の要素に基づくとされています。
1 名声価格
名声価格とは、高級ブランド品などの贅沢品や価値が高い商品に使われる価格設定方法です。この際、顧客の価値基準は、「その物自体がもつ価値」よりも「名声(ブランド)の価値」が軸になります。
ブランド品は価格弾力性が高いと言われますが、逆に、値段が上がると需要が増加するケースもあります。これは「値段が高いほどブランドが優れている」という顧客の心理が働くからです。
安くなったブランド品の需要が落ちるケースがありますが、これも同様に、「値段が低い=ブランド価値が低い」と顧客が判断するためです。
安ければ売れるという訳ではないのです。
2 端数価格
端数価格とは、金額が端数になると お得だと顧客が勘違いするような価格設定のことを指します。
例えば、100gで100円の鶏肉と 98gで98円の鶏肉が売られていた場合、どちらの値段も実質的には1g 1円で変わりません。しかし、後者の端数価格の鶏肉の方がよく売れることが多くあります。これは、端数価格の方がお得に見えるという顧客の心理が働くためです。298円、999円などの価格のことです。
3 段階価格
3パターンの価格の商品を並べた際に、真ん中の価格を選んでしまうという顧客心理をついた価格設定が段階価格です。
段階価格とは、行動経済学で有名な「極端性の回避」を利用した価格設定の方法です。例えば、198円、298円、398円という3種類のお弁当を用意すると、消費者に極端性の回避が働き、真ん中の価格である298円のお弁当がよく売れるようになります。
4 均一価格
均一価格とは、商品の値段をどれも同じにする価格設定です。顧客は同じ価格のものを数多く揃えられると、本来は必要ないものまで購入してしまう傾向があります。例えば、100円ショップに行った際に、必要ないものを なんとなく購入してしまった経験はありませんか。こうした傾向をうまく利用しているのが圴一価格です。
5 プライスライニング
義務感により購入する商品は、その商品性はそこまで重要視されないため、予算にあった商品が購入される傾向があります。例えば、お土産やお歳暮などの商品は予算に合わせた価格で、きりがよい3種類ほどの価格設定が準備されているケースが目立ちます。具体的に、1,000円、2,000円、3,000円と3種類の商品が用意されている場合、お得かどうかよりも、予算と人数にあったものを選ぶようになるのです。こうした心理をついているのが「プライスライニング」です。
6 抱き合わせ価格
単品ではなく、セットで買った際にお買い得になるように見せる方法が抱き合わせ価格です。実際は必要ないものであっても、抱き合わせ価格で販売することによって、顧客の需要を引き出せるケースが多いのが特徴です。
このように、ものの価格を決める際には顧客心理をついた値段設定がされます。
価格設定は消費者の心理を加味して行わなければなりません。
サービス内容によって複数個の価格を用意する意味は、顧客に選択肢をもたせるという狙いもありますが、中間価格を積極的に選ばせるという戦略にもつながります。安くもなく高くもない無難な価格を選びやすいということです。
このように、消費者の心理がどのように動くのかということから価格設定をしていきましょう。
価格調整方法
価格政策そのものはマーケティング戦略のなかにおいて容易に変更するべきではありません。
しかし、短期的に売り上げを伸ばすためなど、個別の目的がある場合には柔軟に対応する必要があります。
とくに値下げをするときは慎重に行うべきでしょう。
価格の調整方法は大きく次の5つの手法があります。
地域別価格設定
「地域別価格設定」とは、異なった地域ごとに価格を調整する手法です。
それぞれの地域や顧客の特性にあわせて価格を変更していきます。
同じ製品でも、地域によって価格差を設定することによって、売り上げを伸ばすことが可能です。
割引とアローワンス(報奨)
割引方法に関しては4つの手法があります。
一つは「現金割引」です。
すぐに購入を決断してくれる顧客に対して、価格を下げて支払いを確保する手法です。現場で直接交渉する場合などに用いられます。
次に「数量割引」です。
一度に大量購入してくれる顧客に対して価格を割り引く手法です。
まとめ買いによって一個あたりの単価が下がる例はよくあります。
3つめは「季節割引」です。
旬を過ぎてしまった季節外れの商品を、価格を下げて購入を促進させるという手法です。
洋服などによく見られる手口ですが、場合によっては当初の半額やそれ以下の値付けをすることもあります。
最後に「機能割引」です。
小売業者や卸売業者に対しての割引です。
それぞれの機能を考慮し、また流通秩序維持のために、消費者よりも小売業者、小売業者よりも卸売業者の割引率が高くなります。
一方、「アローワンス(報奨)」とは、小売業者に対して販売促進キャンペーンに参加させるなど、プロモーション活動の一環として協力してもらった場合に一定の報奨を支払うことです。
一見、価格とは関係のない活動のように思われるかもしれませんが、支出が増えることもあり、結果的に値下げとほぼ同等の意味合いを持ちます。
プロモーショナル価格設定
「プロモーショナル価格設定」とは、特定のプロモーション効果を狙って値付けをする手法です。
発売当初から認知度を高めるために、期間限定で驚くような低価格で市場に投入する事例や、試験的に価格を変更して顧客の行動を観察する事例などがあります。
差別的価格設定
顧客のタイプや製品ごと、あるいは市場の特性によって差別化した価格設定を行う手法が「差別的価格設定」です。
たとえば、携帯電話の料金プランは、各社において学生と一般で異なっている場合が多く、差別化することで購買促進につながっています。
また、飛行機や客船などの運賃は、座席の質やサービスによって価格を大きく差別化したプライシングがなされています。
プロダクトミックス価格設定
その製品がプロダクトミックスの中の一部である場合に、価格を調整する手法が「プロダクトミックス価格設定」です。
他の商品との兼ね合いで価格を決める場合や製品のラインナップの一環として価格帯を設定する場合などが当てはまります。
ラインやアイテム数、バリエーション、製品の一貫性などの観点から設定することが大切です。
富裕層向けは高額に、一般大衆向けは低額に設定するのが一般的です。
値下げ時の注意点
プロモーションや価格戦略の一環として値下げを行うことは多いのですが、慎重に行わなければ顧客の理解を得ることはできません。
「値下げをすれば顧客は喜ぶはず」などと安易に考えず、価格変更によるさまざまな影響を総合的に判断して行いましょう。
成長期の価格設定
成長期に到達した商品は、価格が横ばいになるか、あるいは値下げする傾向にあります。生産の技術が向上し、規模の経済によって費用が低下、また販売量が増えてリスクが減るからです。もちろん、顧客の交渉力が高まるという側面もあります。そうしたときに、値下げやラインナップの拡充が適切に行えなければ、競争力が鈍化してしまうこともあります。たとえば、パソコンなどは、技術革新と顧客の嗜好にあわせて以前より大きく値下がりしています。
値下げへの対応
値下げ全般について言えることですが、値下げによって顧客にマイナスのイメージを与えてしまわないように注意しなければなりません。たとえば、日用品や食品などの場合、急に半値まで下げたことによって「品質が低下しているのでは?」「欠陥商品なのではないか?」「売れ残りの問題商品なのでは?」などと思わせてしまっては、いくら安くても売れないでしょう。また、一度値下げをすれば、もとの価格に戻すことは容易ではありません。
マーケティング戦略の視点をもって長期的に実効性のある値下げを行いましょう。