ブランドの構築
広告宣伝効果だけでなく、企業の信頼、あるいは製品の性能を保証する機能も兼ね備えるブランドは、企業の成長を下支えする大きな役割を担います。
そんなブランドは どのようにして構築すればいいのでしょうか。
ブランドをいかに育てていくかということを知るためには、まず、ブランドの階層について理解しなければなりません。
なぜなら、ブランドも種類によっては構築方法が変わってくるからです。
ブランドは、大きく次のように5つの階層に分類することができます。
・グループブランド
・コーポレート・ブランド
・事業ブランド
・ファミリー・ブランド(カテゴリー・ブランド)
・プロダクト・ブランド(商品・ブランド)
「グループ・ブランド」とは、企業グループ全体のブランドを指します。
グループ企業全体で統一のブランド名を使用することにより、個々の企業の性質やサービスの違いを越えて顧客に信頼や実績を伝えることができます。
「西武鉄道」の「西武」など、鉄道のグループ企業などでは、グループ・ブランドを利用しているところも多い。
「コーポレート・ブランド」ですが、これは企業単位のブランドのことです。
企業名そのものがブランドとなることもあれば、製品やサービスに企業名を入れているものもあります。
大手おもちゃメーカーの「任天堂」は、社名をそのまま「Nintendo」ブランドとして展開していますし、「Nintendo64」などの製品にも流用しています。
下の階層にいくと「事業ブランド」があります。
これは、企業名ではなく、その企業内で展開している事業単位で展開しているブランドです。
さまざまな種類の飲食店を運営している「レックス・ホールディングス」では、「牛角」「しゃぶしゃぶ温野菜」「レッドロブスター」など、事業ごとに著名なブランドを形成しています。
「ファミリー・ブランド(カテゴリー・ブランド)」は、事業単位よりもさらに細かく分類されているもので、複数カテゴリーの製品群につけられたブランド名です。
化粧品のブランドに多いのですが、たとえば、「花王」が展開している「ニベア化粧品」のブランドには同じカテゴリーの複数の商品がラインナップされています。
「プロダクト・ブランド(商品・ブランド)」は、一番下の階層として分類されるブランドで、個々の商品ごとにつけられています。
「アップル」の製品は それぞれ斬新なものが多いのですが、「iPhone」にしても「Mac」にしても、「iPad」にしても、個別の製品ごとにブランドとして成立しています。一口にブランドと言っても その種類はさまざまです。自社の特徴はもちろんのこと、展開している事業や製品グループ、あるいは個々の製品ごとにその内容をしっかりと把握し、どのようなブランドを構築するのがもっとも効果的なのかを考えなければなりません。
5つの視点からブランドの構築を模索することが大切なのです。
自社そのものがブランドとして機能しているということに気がついていない経営者は少なくありません。
事業部ごと、あるいは製品ごとにブランドを構築するのもいのですが、すでにある社名やロゴ、キャラクターをブランドとして展開するという方法もあるのです。
むしろ、その方が、一からブランドを構築する必要がない分、より低コストでブランド展開をすることが可能でしょう。
そのためには、すでに蓄積されている資源に目を向けることが大切です。
社名だけでなく、売れ行き好調の製品があれば、その製品名をそのままブランドとして拡張することも可能なのです。
ブランドの展開と育成を双方向で考えつつ、より効率的に活用することが大切でしょう。
そのとき、ブランドの階層を意識することによって、その後の展開や育成も容易になるのです。
ブランドの展開
ブランドの展開について考えていきましょう。
計画どおりにブランドを育成するには、一定の方針にそって、展開活動を継続的に行う必要があります。
気がついたら社名や製品名がそのままブランドになっていた、ということもありますが、その後の展開を考える際には方針をしっかりと定めておかなければなりません。
ブランド展開には次の3つのアプローチがあります。
1 マスター・ブランド戦略
1つ目は「マスター・ブランド戦略」です。
いわゆるグループ・ブランドやコーポレート・ブランド(アンブレラ・ブランド)の下に、さまざまな事業やカテゴリー、あるいは製品を展開することによって、大元のブランド力を幅広く活用する手法です。
たとえば、スポーツブランドを展開してる企業などは、スポーツグッズから付属アイテム、ファッション、時計など、さまざまな製品カテゴリーにおいて社名のブランド力を利用しています。
スポーツを発端に培ったブランド力を、より広い分野でも活用している好例と言えるでしょう。
ただ、マスター・ブランド戦略にはマイナス面もあります。
万が一、コーポレート・ブランドそのものの信頼が失墜してしまう事件が起きた場合、すべての製品が打撃を受けることになります。
また、あくまでもその業界・業種のブランドの延長なので、成長には限界があるという点も考慮しておくべきでしょう。
2 マルチ・ブランド戦略(個別ブランド戦略)
「マルチ・ブランド戦略(個別ブランド戦略)」ですが、これはマスター・ブランド戦略とは対照的に、ひとつの企業あるいは企業グループのもとで複数のブランドを展開する手法です。
展開の仕方はさまざまですが、幅広いシェアを得られる可能性があり、リスク分散の役割も果たします。
一つのブランドの評判が悪化しても、他のブランドへの悪影響を最低限に抑えられるということです。
たとえば、ボディケアやヘアケア商品のブランドで有名な企業が、お菓子のブランドや健康食品のブランド、あるいはアイスのブランドなど、さまざまなブランドを展開している事例があります。
マイナス面としては、複数ブランドを展開することによって、資源の分散投資につながってしまう可能性があることです。場合によっては、非効率なブランド展開となってしまう可能性もあります。
3 マスター・ブランド戦略×マルチ・ブランド戦略
マスター・ブランド戦略とマルチ・ブランド戦略を折衷させた戦略を行っている企業もあります。
社名をそのまま用いて新しい商品ブランドを構築するなど、マスター・ブランド戦略とマルチ・ブランド戦略双方の優れた点のみを採用することによって、ブランド展開を加速させているのです。
ただ、この戦略は、それぞれのブランドを適切に管理しづらいというデメリットもあります。
コーポレート・ブランドなのかそれとも商品ブランドなのかが不明確なため、育成やトラブル対応への正しい対処ができない場合があるのです。
また、ブランドとしての一貫性を保つのも難しいとされています。
プライベート・ブランド(PB)の台頭
上記3つのブランド戦略に加え、最近では、大手小売店を中心に「プライベート・ブランド(PB)」の活用も進んでいます。
プライベート・ブランドとは、流通業者が独自にメーカーとタイアップして商品を開発し、その商品群にブランドを冠するというものです。
価格を抑えつつ品質の良い商品を提供できるため、広く普及しています。
プライベート・ブランドの対義語は、これまでのようにメーカーが自ら商品を提供するナショナル・ブランドです。
プライベート・ブランドが台頭してきた背景には、大手小売店の交渉力が増大しているという要因があります。
流通業者が自らブランドを抱えることで、より効率的に商品を販売できる反面、メーカーの間では競争が激化しています。
ブランドの拡張
強力なブランドを育てることができれば、それだけで企業活動は大きく前進します。
製品やサービスを向上させること、あるいは広告によって広く顧客に周知させること、さらには、類似する企業や製品カテゴリーにおいて、激しい競争を繰り広げることなく一定の収益が得られると考えれば、それは明らかでしょう。
それだけに、ブランドを育成すること、あるいは社会から広く受け入れられるまでに成長させることは、大きな利益へとつながるのです。
また、ブランド・エクイティという観点からすると、そこからさらに「ブランドの拡張」によって、中心となるブランド効果を使い回すことが可能になります。
ブランドの拡張とは、ある製品で確立されたブランドを他の製品やカテゴリーにも転用するというものです。
通常、一からブランドを立ち上げ、社会的に周知させるのには、多大な費用と労力、時間を必要としますが、すでにあるブランドを使用することで、大幅な経費の削減につながるのです。
もっとも、成功しているブランドをそのまま他の製品やカテゴリーに使用するというのは考えものです。
いくら新規ブランドの立ち上げより楽だからと言っても、当のブランドイメージを傷つけてしまったり、あるいは悪影響を及ぼすようなことがあれば本末転倒です。
また、ブランドを転用しても大した効果がないという可能性もあります。
そこで、ブランドを拡張する際のポイントについて確認しておきましょう。
ブランド拡張の3つのポイント
1 ブランド拡張がプラスの効果を生むか マイナス要素はないか
2 ブランド拡張によって、既存のブランドを補強するか 悪影響はないか
3 他より最適なブランド拡張機会はないか 製品カテゴリーは最適か
既存のブランドからの その周知性・信頼性などの恩恵を得ようと、闇雲にブランドを拡張させてしまえば、思わぬ不利益を被ってしまう可能性があります。たとえば、食品ブランドとして有名なロゴを化粧品に転用させたところで、化粧品に関しても優れた性能を発揮してくれるとは誰も思わないでしょう。そればかりか、化粧品としては後発組として認識されてしまう場合もあります。また、製品カテゴリーごとの相性についても考えなければなりません。化粧品のブランドを掃除用具のブランドに転用した場合、化粧品がもつ非日常的なイメージと掃除という日常的なイメージがマッチせず、望まれる効果は得られないでしょう。それだけでなく、既存のブランドイメージを低下させてしまうこともあるのです。そうした事態に陥らないために、あらかじめブランドを拡張させる方向性について理解しておきましょう。
ブランドを拡張させる場合の指針は次のとおりです。
ブランド拡張の方向性
・同じ製品の異形態への拡張
・独自の原料や成分を利用した拡張
・使用シーンやカテゴリーを軸とした拡張
・同一の顧客ターゲットを対象とした拡張
・スキル、ノウハウ、ナレッジを転用した拡張
・便益や特徴を生かした拡張
・イメージからの拡張
もちろん、これらのパターンはあくまでも大きな方向性でしかありません。
また、上記の指針に則って拡張させたとしても、必ずしもうまくいくとは限らないでしょう。
それでも、闇雲にブランドを拡張するよりは成功確率が高まるはずです。
いずれにしても、ブランドが希薄化しないように慎重に行うべきなのは変わりありません。
大切なのは、ブランドを拡張することによって、必ずしもメリットがもたらされるわけではないと認識しておくことです。
ブランドがもつ特徴を正しく把握することで、正しい方向性のもとにブランド拡張を行いましょう。
既存のブランドを正しく理解することによって、その先にある応用や将来的な活用法が見えてきます。
企業は、そのブランドのもたらす効果を予測しつつ、正しく運用することが求められるのです。
ブランドの浸透
ただ、ブランドは拡張する施策だけがすべてではありません。ブランドを構築し、拡張する以外にも、ブランドをより根強く浸透させる活動が必要となります。そうすることによって、ブランドが持つ影響力をさらに高められます。
ブランドを浸透させるためにはどのような方法があるでしょうか。
一般的なものとしては、継続的な広告やPR活動、キャンペーン、WEBサイト、イベントなどがあります。
最近の傾向としては、ソーシャルメディアなどを中心に顧客が主体の情報配信が増えているという実態があります。これは、ブランドを浸透させる場合にも意識しなければなりません。
たとえば、広告やPRによって顧客にプラスのイメージを与えたとしても、それが必ずしも大衆の意見を反映しているとは限りません。クチコミによってマイナスのイメージが蔓延しているかもしれないのです。そのときに、過度な装飾を施した広告を配信しても、むしろ逆効果でしょう。結局のところ、ブランドのイメージを企業側が完全に操作することはできないのです。
顧客をはじめとする一般大衆の意見が強く消費に反映される時代だからこそ、正しいブランドについての理解と、等身大のイメージを重要視しなければなりません。
それによって、企業から顧客に対しての一方通行ではなく、双方向のコミュニケーションとしてのブランド浸透が可能となるのです。
そのような等身大のブランドイメージを理解するために活用できるのが「ブランド・ステートメント」です。
ブランド・ステートメントとは、ブランド創設の当初から考えられているブランドのミッション、価値観、あるいはポジショニングなどを明文化したものです。
理念やビジョンを掲げたものから、ロゴやキャッチコピーの細則までを規定したものまでさまざまです。
ブランド・ステートメントを設定することそのものに大きな意味はありません。
むしろ、社員やステークホルダーに浸透していない企業理念のようになってしまうのなら、設定する意味は無いと言えるでしょう。
大切なのは、いかにそのブランドの価値観を共有できるかということです。
まずは、社員からスタートして、株主、そして顧客へと浸透させるようにしましょう。
インターナル・ブランディングの実践
インターナル・ブランディングとは、社員やステークホルダーに対して、自社の理念や提供する価値などを浸透させることです。
ブランドを浸透させるために、ブランド・ステートメントを設定するように、インターナル・ブランディングにおいても企業理念の明文化などを行います。
インターナル・ブランディングの必要性が問われる背景には、企業の社会的な関わり方に大衆の視線がそそがれていることがあります。
個人単位での情報配信が盛んに行われている昨今では、企業の広報部や営業担当者だけでなく、全社員が広告塔となってブランドを正しく伝えなければならないのです。それが企業活動を支える根っことなるのです。
企業活動は、必ずしも販売だけではありません。広報やPR活動はもちろんのこと、人材育成や採用に関しても、正しいブランド理解がなされていないと、一貫性を保てなくなってしまいます。だからこそ、社員そしてステークホルダーに対してインターナル・ブランディングを行い、ブランド・アイデンティティを保たなければならないのです。具体的な方法としては、社内でソーシャルなツールを活用したり、ブランドブックをつくるなどがあります。また、定期的な研修やワークショップを開催するなど、コミュニケーションを通じてブランド認識を深める方法もあるでしょう。
いずれにしても、インターナル・ブランディングは必要なものだと理解し、積極的に活動することが大切です。
そのための経費もしっかりと捻出し、実際にどのような効果があるのかを、長期的な視点で計測する必要があります。
ブランドが社内で浸透しなければ、ステークホルダーはもちろん、顧客に浸透するということは考えにくいでしょう。
構築から拡張、浸透までの一連の流れには時間がかかりますが、それだけの恩恵があると理解して持続しなければなりません。