ブランド・エクイティ
多くの人に認知され、高い評価を得ているブランドは、それだけで企業にとって価値があります。
強いブランドがあるだけで、機能や性能、価格、類似商品との差別点などをくり返し、顧客に訴えなくても、自然と商品の購入に至る可能性が高いからです。企業の視点からすると、ブランドそのものに資産価値があると言えます。
このようなブランドに付随する資産価値のことを「ブランド・エクイティ」と言います。
製品そのものに着目したハード面での優位性ではなく、イメージやネーミング、その製品を連想させるキャッチフレーズなど、ソフト面から製品の売上を左右させるという意味において、資産的価値があると考えられているのです。
もっとも、ブランド力というのは曖昧な概念でありますし、比較可能な製品ごとのスペックとは異なり、目に見えないものであることは事実です。
だからこそ、いくらブランドに資産価値があると分かっていても、これまではそれを資産として計上することはできませんでした。
しかし、最近では、そうした状況に変化が表れているのです。
たとえば、現在ではブランドの売買が日常的に行われています。これは、まさにブランドそのものに資産価値としての評価がなされていることを意味しています。
製品そのものではなく、ブランドごと買収する事例が多数散見されているのは、ブランドが収益を生む要となっていると認められている証拠なのです。
また、ブランドだけでなく、人材やノウハウの蓄積、スキル、あるいは技術力なども企業の評価を高める要因となっている背景があります。
これらの要素も、ブランドと同様に目に見えるものではありませんが、企業の業績や製品の売れ行きを左右していることには違いありません。
だからこそ、そうした要素も資産価値として計測しようという動きが高まっています。
ブランド価値を計上する必要性は理解していても、ブランド・エクイティを正確に計測するのは難しいのが現状です。そこで、ブランド・エクイティを構成する複数の要素から、ブランド力の総量を推し量ってみることにしましょう。
ブランド・エクイティは、おおむね次の4つから構成されています。
・ブランド認知(Brand Awareness)
・知覚品質(Perceived Quality)
・ブランド連想(Brand Associations)
・ブランド・ロイヤルティ(Brand Loyalty)
「ブランド認知(Brand Awareness)」ですが、これは「そのブランドがどれだけ社会的に認知されているか」ということです。
認知と言っても、「誰に」「どのように」「どの程度」知られているかによって評価は異なりますが、そもそも、一般に周知されていなければブランドとしての価値がないことは明らかでしょう。
「知覚品質(Perceived Quality)」ですが、これは「他の製品と比較した場合に知覚できる品質や性能」のことです。
あのブランドは品質が優れている、性能が安定しているなどの評価がなされているのは、そのブランドの知覚品質が高いということを意味しています。
「ブランド連想(Brand Associations)」とは、購買シーンやあるいはそれ以外の場面において、「いかにそのブランドを連想させるものがあるか」ということです。
キャラクターやキャッチコピーなどはその代表的なものですが、パッケージデザインやロゴなど、ブランドを連想させるツールは多岐にわたります。
ブランド・ロイヤルティとは、「そのブランドがもつ顧客への訴求力」、あるいは「忠誠心や執着心」と言い換えても良いでしょう。そのブランドだったら何も考えなくても購入したいという人がいれば、その顧客は企業に安定的な収益をもたらしてくれる「ロイヤルカスタマー」となります。
一般的に周知されている企業が必ずしも業績好調とはかぎりません。
また、その製品についてのイメージもプラス面ばかりではなく、むしろマイナスに捉えられているということが往々にしてあるのです。
ブランド力を高める場合には、ただ認知度をあげることだけ考えるのではなく、「知覚品質」「ブランド連想」「ブランド・ロイヤルティ」なども考慮することが大切です。
ブランド・エクイティの構成要素
1 ブランド認知(Brand Awareness)
「ブランド認知」とは、そのブランドがどのくらい知られているか、あるいはどのように知られているかを表す指標です。
誰しも知らない商品よりも、知っている商品を信頼し、選択しやすいものです。
テレビCMでくり返し放送されている商品を、他の知らない商品より優先的に選んでしまった経験があることでしょう。
とくに、比較的安価な日用品や買回り品の場合には、この認知度が重要になります。
認知度が高いことがそのまま購買につながるからです。
もっとも、たとえ広く周知されていても、それが悪評ということであれば、むしろ選択を避けられてしまうこともあります。
かつて人気だった居酒屋チェーン店が、風評によって衰退している現状をみればそれは明らかでしょう。
また、ブランドの認知は、「ブランド再生」と「ブランド再認」に分けられます。
ブランド再生とは、「◯◯だったらこの商品」というようなお墨付きであり、ブランド再認とは、「そういえばこの商品は聞いたことがある」というように、ただ知っているという状態です。
高級車や高級ブランド品の場合には、ブランド再生による認知がないとなかなか購買に至りません。
2 知覚品質(Perceived Quality)
「知覚品質」とは、代替品と比べた場合に認知できる優位性や品質、差別点です。
知覚品質があるからこそ、顧客は最終的な意思決定をすることが容易となります。
知覚品質は、「パフォーマンス」「付加機能」「信頼性」「耐久性」「付加サービス」などの要素によって評価されます。ただ、どの要素にこだわるかは顧客によって異なります。
自動車を購入する場合にも、耐久性を重視したいという人もいれば、最新の機能を堪能したいという人もいるでしょう。
また、知覚されている品質と実際の品質とが一致しているとも限りません。
主観や固定観念によって知覚品質が実態と異なる場合がある、ということを意識しておきましょう。
3 ブランド連想(Brand Associations)
「ブランド連想」とは、そのブランドを連想させるようなすべての要素を指します。
キャッチコピーから企業のロゴ、キャラクター、パッケージ、雰囲気や音楽、あるいは商品名やその形状などさまざまなものがあります。
企業側としては、なるべくポジティブに自社ブランドを連想できるように工夫しなければなりません。
たとえば、アップル社製のiPhoneで言えば、シンプルで洗練された形状、ハイセンスのデザインとクールなボディ、スティーブ・ジョブズというカリスマ経営者であり、キャラクター、驚きに満ちたプレゼンテーション、流行の最先端、発売日の店舗での行列などが挙げられます。
4 ブランド・ロイヤルティ(Brand Loyalty)
「ブランド・ロイヤルティ」ですが、これは顧客がそのブランドに対して感じている忠誠心や執着心のことです。
真のロイヤルカスタマーと呼ばれる層となると、新製品が発表された段階で行動を開始する場合がほとんどです。値段や品質に関しては特段気にすることはありません。それだけの忠誠心があるということです。
たとえば、アップルの熱烈なファンがアップル社の製品であれば、無条件で購入してしまうというのも、このブランド・ロイヤルティが作用しているからです。
ブランド・ロイヤルティは、実際にそのブランドを所有した経験があるからこそ生じるものですが、その後の継続購入につながる要素なので、ブランド・ロイヤルティを構成する他の3つの要素よりも重要とされています。
ブランドを保有する企業にとっては、継続的に高収益を確保するための大きな要因となります。