ブランド戦略

 製品やサービスを製作・販売し、顧客に購入してもらうことで企業活動を持続させている企業。そのような企業の一般的な活動を支えているのは紛れもなく顧客ですが、そうした顧客に対する認知を高めるために、各社ともにさまざまな工夫をしています。

 それこそ、テレビCMやWEB広告、販促キャンペーンなどを通じて、顧客と接点を積極的に増やしている企業も多いことでしょう。

 ただ、そうした活動には必ず経費がかかります。

 斬新な施策を打ち出すのは簡単ですが、それを実行に移すには、相応の時間と労力と経費がかかるのは言うまでもありません。

 企業を成長させるためには、ある程度の投資は必要となりますが、企業の根本的な価値がその収益力にある以上、売上および収益の増大とともに、経費の削減を行わなければならないのは当然です。

 そう考えると、新しいキャンペーンや販促活動は常に痛みをともなうことになります。

 確実に成功するという保証もなく、人員や経費を投下するのは、それなりの覚悟がなければできません。

 できることなら、通常の業務と関連しつつ実践できれば一番ですが、プロジェクトが大きければ大きいほど、支出する企業資産も増えてしまいます。

 人員を割かなければならない場合、それだけ他の業務にも支障がでてしまうのです。

 そこで、企業独自の価値を構築するために、あるいは顧客に差別化されたオリジナルの価値を認識してもらうために利用されるのが「ブランド」です。

 一般的には、ブランドネームロゴマークがその企業のブランドを象徴していますが、それ以外にも、ブランドを想起させるものには次のようなものがあります。

 ・キャラクター

 ・スローガン

 ・ジングル

 ・パッケージング

 ブランドネームとは、企業名や製品名から独自の価値を連想させるために活用する名前のことです。

 同じ企業の商品でも、独自のシリーズでネーミングを変えるなどの工夫をしている例は枚挙にいとまがありません。

 たとえば、いわゆるプライベートブランドであるイオンの「トップバリュシリーズ」や、セブンアイホールディングスの「セブンプレミアム」などはその一例でしょう。

 最近では、キャラクターの役割も大きく変わってきています。かつては企業のシンボルとして、あるいはキャンペーンの一環としてのみ活用されていましたが、今ではキャラクターがメインとなって、各メディアに取り上げられることも珍しくありません。

 一世を風靡した「ゆるキャラ」の中には、すでにPRのをはみ出して独自に活動しているものもいます。

 ロゴやシンボルマークに関しては、言語を介してのコミュニケーション手段ではないこともあり、言葉の壁を越えて周知してもらうために活用されています。

 世界的に展開している「コカ・コーラ」や「マクドナルド」のロゴは、見ただけで判断できる人も多いことでしょう。

 日本を代表する企業である「トヨタ」ブランドのロゴも、今では世界共通語となっています。

 スローガンおよびジングルは、それぞれキャッチコピーや音楽によってブランド認知を高める手法です。

 世界的に有名なスポーツブランド「ナイキ」のキャッチコピーである「JUST DO IT」や「いつか遊びがモノをいう。」などは有名です。

 また、「インテル」のCMでは、常に似たような音楽が採用されています。その音を聞くだけで企業名を思い出してしまうこともあるでしょう。

 パッケージングですが、これは提供している製品の容器や梱包をデザイン・制作する活動のことを指します。

 世界でコーヒーチェーンを展開している「スターバックス」は、容器や梱包のデザインを工夫し統一することで、顧客自らに宣伝効果をもたらしています。町中でスターバックスのカップを持った人を見かけて、そこにオシャレさや憧れを感じるようであれば、企業の狙いは達成できていると言えるでしょう。

 企業は差別化だけで競争優位に立てるとは限りません。むしろ、差別化という根本的な戦略が根底にあり、広告やブランディングによって、より広く周知させる努力が大切でしょう。

 ブランドの価値は、必ずしも企業の利益と直結するわけではありません。

 しかし、長期的な視点で考えれば考えるほど、ブランド力によって競争力は大きく高まるのです。

 どういうターゲットにどのような印象をもたれたいのかを考慮しつつ、キャッチコピーや企業ロゴ、あるいはキャラクターを設定し、ブランドを構築していくことが大切でしょう。

 本当の意味でのブランド力とは、顧客が商品を気に入り、同じ会社の商品を繰り返し購入するうちに、次第に「この会社の商品であれば大丈夫だ」「高くてもこの会社の商品が買いたい」といった気持ちになった状態のことです。

 一方、ブランド力をつけたい会社では、「自社の商品はこんなコンセプトで、こんな人に、こんな風に使ってもらいたい」と訴え続けます。

 買った人が満足してくれれば、さらに磨きをかけた商品を発売し、顧客をさらに満足させたいと考えます。

ブランド力は会社と顧客のどちらかの一方的な働きかけではなく、相互に「こんな商品を提供したい」「こんな商品が欲しい」とメッセージを交わしながら育てていく「信頼関係」のことなのです。

 また、信頼関係は、個々の商品だけではなく、「顧客にとってこんな企業でありたい(企業側)」「顧客にとってこんな企業でいてほしい(顧客側)」といった企業そのもののブランド力構築への源泉となるものです。

 すべての商品がコモディティ化(目に見える品質での開発競争が限界に達して差別化が困難となり、価格のみが価値判断の基準となる状態)の脅威にさらされている昨今、差別化の源泉を「ブランド力」に求める企業が増えているのです。

 

中小企業だからこそブランド力が大切

 経営資源に限りがある多くの中小企業は、大企業のような大規模な物量作戦はできません。

 もちろん、価格競争になった場合にはまず勝ち目はない。

 中小企業の勝負所は狭い分野に絞り込んで、「あの商品ならA社だ」と取引先に選ばれることにあります。

 これは商品のブランド力を育成・強化していくことにほかなりません。

 そして、すでにほとんどの経営者は、この取り組みを日々の業務のなかで意識的・無意識的に実践していると思います。

 その活動をさらに効率的に進めることができれば顧客との信頼関係は一層高まっていくはずである。

 

ブランド構築の意義

「ブランドの構成要素」「ブランドの役割」「ブランド・マネジメント」の3つの視点から考えていきます。

ブランドの構成要素

 ブランドは、ネーミングやロゴ、あるいはキャラクターやキャッチコピーなど、さまざまなシンボルによって顧客に認識されていますが、その他にも、ブランドの構成要素として さらに細かく分類することができます。

 たとえば、ブランドを構成している要素には次のようなものがあります。 

 ・属性

 ・便益

 ・価値観

 ・文化、歴史

 ・個性

 ・ユーザー

 「属性」とは、高い技術力や耐久性など、ブランドを連想させる製品や製品と直接関係のない部分での特徴です。

 「便益」とは、ステータスとしての優越感や生活上の不便が解消されるなどです。

 「価値観」や「文化、歴史」については、日本製だから安心ということや老舗企業だから品質にもこだわりがあるなどが挙げられます。

 ブランドの「個性」としては、イメージ上の差別化ポイントと言ってもいいのですが、高級車であれば高級車の中でも代名詞的存在であったり、パソコンであればクリエイティブ系の人に絶大な指示を得ているものなどがあります。

 「ユーザー」は、とくにエグゼクティブを対象としているものや、あるいは中流家庭向けでもちょっと贅沢をしたいときに選ばれるものなどさまざまです。

 

ブランドの役割

 ブランドの役割についてですが、これには企業側と顧客側とで内容が異なります。

 ブランドを利用する、あるいは生み出す側の企業からみたブランドの役割は、「競合との差別化」や「品質の良さを示すシグナルである」こと、その他にも「安定的な収益を生み出す基盤である」ことなどが挙げられます。 

 一方、顧客の側からみてみるとどうでしょうか。

 「ブランドによる安心感」や「選択の際に判断基準となる」こと、あるいは「社会的な信頼を得られる」などが挙げられます。

 世間に広く認知されているブランドであれば、その製品を所持しているだけで他者からの評価が高まる、注目を集めるということもあります。

 

ブランド力保有のメリット

(1)固定客を維持できる

 ブランド力によって深い締で結ばれている顧客は、簡単には離れていきません。

 自社の商品を心から信頼してくれている顧客は、提供する側の企業がブランド力の源泉となる「約束」を破らない限り、繰り返し注文してくれます。

 これによって長期間の安定売上が見込めるのです。

(2)新規顧客へのアピール材料になる

 固定客をたくさん抱えているということは、自社商品の品質の高さの証明でもあります。

 それらをアピールすることで、新規顧客営業にプラス効果をもたらすことは間違いない。

(3)高価格設定が可能、価格競争に巻き込まれない

 

 「シャネル」や「グッチ」のような超高価格設定はともかく、「多少高くても、信頼できるあなたの会社から買いたい」というレベルのブランド力は、どの会社でも勝ち取ることが可能です。また、同業他社が値下げに走っても、価格競争から一定の距離を置くことができるのです。

(4)さらなるブランド力向上への好循環が生まれる

 一定水準のブランド力を保有しているということは、顧客が何を望んでいるかを理解し、その要望に沿った商品をきちんと提供できているということです。

 そのサイクルを活用して固定客の要望をさらに深く理解し、それにきちんと応えていくことで、ブランドカはますます高まります。

 また、最初は特定の「商品」に対してのブランド力であったものを、「会社そのもの」に対するブランド力に高めることも可能です。

 

ブランド力向上のための視点

 ブランド力を構成する要素としては次の3点が考えられます。

1 商品の品質

 まずは商品そのものの品質です。

 ここでいう品質とは、単純に「精度が高い」とか「耐久性がよい」という企業側の追求する品質ではなく、顧客の要望を満たす品質であることが必要です。

 たとえば、消費者は必ずしも処理能力の高いパソコンを欲しているわけではありません。多くの消費者は、自分の使用目的に応じた一定の処理速度さえ確保できていれば十分で、むしろ「持ち運びしやすい」「壊れにくい」といった使い勝手に対して要望をもっています。企業が技術の粋を結集して他社に比較して圧倒的な処理速度のパソコンを開発しても、それが購買動機となる消費者は限定されているのです。

 顧客が自社商品の何をもって「品質」と評価してくれるのかを見極めることが大切です。

2 社長、従業員

 社長の考え方、社内での日頃からの立ち居振る舞い、取引先との接し方などが会社のブランド力に大きな影響を与えることは間違いありません。

 ブランド力を高めていくためには、

 ・自社は顧客ニーズをこのような方法で把握していく

 ・把握した顧客ニーズにこのような方法で応えていく

 ・そのためには日頃からこのような仕事の仕方をしなければならない

といった姿勢を社長が明確に示す必要があります。

 それによって、営業マンが顧客回りをする際にも、新商品の企画開発や製造現場においても、ブランド力構築に向けた一貫した取り組みがなされることになります。

3 イメージ向上

 いかに顧客ニーズに応える素晴らしい商品を開発しても、それが顧客に十分に伝わらなければ大きな成果は期待で来ません。

 大企業は、イメージ向上のために全国的なテレビCMなどを行いますが、このように莫大な費用をかけなくてもやれることはあります。

 そのなかで、もっともベーシックなのは、「商品案内」や「会社案内」などのパンフレットを見直すことです。

 ほとんどの会社では、扱っている商品についてのパンフレットを作っていると思いますが、その内容は、商品の写真と簡単な仕様を並べただけのものが多いと思います。そこには、この商品で顧客のどのようなニーズに応えようとしているか、あるいは自社がこの商品にどのような思いを込めたのかといったブランドカ構築に必要な「企業の約束」が提示されていません。

 会社案内でも、社名、事業内容、役員紹介、事業所一覧といった必要最低限の情報しか掲載されていないものが多く、自社が顧客や社会に対して、このような影響を与える存在でありたい、といった経営理念まで深く掘り下げているものはあまり見受けられない。

 自社の思いが十分に反映された商品案内や会社案内を準備し、社長や営業マンがことあるごとにそれをアピールしていく、これだけでもイメージ向上は十分に期待できます。

 また、自社のウェブサイトを工夫して、企業の思いをわかりやすく発信したり、双方向性をもたせて顧客とのコミュニケーションの場にすることも有効です。

 

ブランド力向上のためのステップ

ステップ1:商品を認知

 顧客は商品を知っているが、決め手となる情報がなく、最初の購入に至っていない状態です。購入のきっかけとなる情報提供が必要です。

施策例)

 フォローアップ営業、他社商品との比較情報提供、キャンペーンの実施など

ステップ2:商品を熟知

 顧客は商品を購入したことがあるが、評価を決めかねている状態です。顧客満足度の把握や購入者へのフォローアップが大切です。 

施策例)

 アフターフォロー営業、購買客へのお礼ダイレクトメール、満足度アンケートおよびアンケート結果に基づく商品改良など

ステップ3:商品への好感

 顧客が購買した商品に対して好感をもっている状態です。顧客の囲い込みや商品に込めた企業の思いなどを伝えることが重要になる。

施策例)

購買客の会員組織化、会員向けの新商品紹介ダイレクトメール、紹介キャンペーン、他の購買客の感想の提供など

ステップ4:商品の信頼感

 顧客の評価が好感(ちょっといいな)から、信頼感(安心して購入できる)にまで高まっている状態です。顧客にとって、その商品は他社製品を使うよりメリットがあることを丁寧に説明してあげることが大切です。

ステップ5:商品への愛着心

 顧客がその商品に愛着心をもっており、余程のことがない限り他社商品に切り替えることがなくなっている状態です。

ステップ6:提供企業への信頼感

 顧客が提供企業の商品を複数購入し、商品への信頼感・愛着心が提供企業そのものへの信頼感にまで高まっている状態です。

 

ブランド・マネジメント

 ひと昔前と比べて、現代では ブランドによってもたらされる恩恵に変化があらわれています。例えば、かつては絶対的なブランドは、その地位を脅かされることは考えにくかったのですが、インターネットによる情報配信が盛んに行われている今、ブランドの地位が急激に落ち込んでしまうことは少なくありません。たとえば、企業にとっては取るに足らない不祥事でも、インターネット上で拡散してしまえば、顧客の心象はどのように変化するか分かりません。場合によっては、そのブランドに対する不買運動なども起きる可能性があります。そうなると、かつてのブランドの威光はほぼなくなってしまうと言っても過言ではないでしょう。だからこそ、企業側は、ブランドをしっかりとマネジメントしなければならないのです。

 ブランド・マネジメントの対象は顧客だけではありません。環境・地域・コンプライアンスを含めた社会全体に対して行うべきなのです。そうした幅広い分野に対して積極的にコミュニケーションを行うことで、ブランドの地位が確固たるものとして維持されるのです。

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