コミュニケーション戦略の実行

 いくら顧客心理を学んでも、メディアの役割について理解を深めても、実際に企業側からの働きかけがなければ、一般消費者に対してアプローチすることはできません。

 マーケティングそのものの勘所でもありますが、企業は学びだけでなく、実行を通して社会にインパクトを与えなくてはならないのです。

 そのために必要なのが具体的なプロセスです。

 具体的なプロセスとは、顧客とのコミュニケーションを行う一連の流れのことです。

 さらに、その手法についての詳細を決めるために、コミュニケーション戦略全体の立案もあわせて行いましょう。

 各種のメディアやチャネルを活用して顧客とコミュニケーションを行うためには、戦略立案が欠かせません。

 一般的なコミュニケーション戦略の立案ステップは、次のようになります。 

 最初のステップは「コミュニケーション・ポリシーと目標、予算の設定」です。

 ここでは、コミュニケーション戦略全体の基本方針を決めつつ、最終的な目標やそのために使える予算の設定を行います。 

 製品の特性や企業独自の強みなどをしっかりと把握し、より最適なコミュニケーション戦略を立案できるように考慮しなければなりません。

 コミュニケーション・ポリシーや目標、および予算が設定できたら、次に「コミュニケーション・ミックスとメディア・ミックスの決定」を行います。

 基本的には、どのようなコミュニケーション手法を活用するのか、あるいはそのために必要なメディアは何かといったことをより具体的に検討していきます。

 コミュニケーション・ミックスとメディア・ミックスが決まったら、「具体的なコミュニケーションの内容の決定」を行います。

 「メッセージ」「デザイン」「広告出稿の頻度」など、コミュニケーション戦略を実行する際に必要となる詳細部分を決めることで、それぞれの役割についても明確になっていきます。

 そして、「コミュニケーションの実施と効果のモニタリング」です。

 コミュニケーション戦略に関わらず、すべての戦略は実行後の効果測定が欠かせません。

 近年ではインターネットを活用した広告がとても増えてきていますが、このインターネット広告の特長であり重要な機能の一つとして、適切な効果測定が行えるということです。

 今後は、さらにこういったネットを活用したコミュニケーションが増えていくことが予測できますので、効果測定を念頭に置いたコミュニケーション戦略を立案することが重要です。

 たとえ計画どおりに戦略が実行できても、そこで満足せず、より効果的な手法へと移行できないか模索することも大切でしょう。戦略は継続してこそ意味があります。

 

コミュニケーション戦略立案の4ステップ

1 コミュニケーション・ポリシーと目標、予算の設定

 最初に、コミュニケーション・ポリシーと目標、そして予算を設定します。

 「コミュニケーション・ポリシー」とは、基本となる指針のことで、たとえば「ターゲット顧客が普段の生活において体験するあらゆるシーンで活用できるイメージを醸成し、安心と信頼感を与える。コミュニケーションの初期段階ではインパクトを与えるが、チープな印象をもたれないように留意する」などとなります。

 次に、そのコミュニケーションによって、「顧客にどうしてもらいたいのか」や、「どのような印象を持たれたいのか」など、「目標」として具体的に定めていきます。

 もちろん、最終的には購入してもらうことを目指すのですが、認知度やターゲット顧客の購入意欲がどの程度高まっているかによって中間目標は変化します。

 ポリシーと目標を設定したら「予算」を決めていきましょう。

 基本的には、費用対効果によって予算額を算出しますが、短期的な視点ではなく、中長期的な視点をもって予算を組まなければなりません。顧客とのコミュニケーションは短期間で行うものではなく、中長期をベースに継続して行うものだからです。

2 コミュニケーション・ミックスとメディア・ミックスの決定

 ポリシー、目標、予算が決まったら、次にコミュニケーションの手法と活用するメディアを決めていきます。

 たとえば、主婦層をメインターゲットとする製品の場合には、コミュニケーション手法として「広告」を採用し、「テレビ」というメディアでお昼時やゴールデンタイムにCMを放送する、などです。

 ここで注意しておきたいポイントは次の5つです。

 ・消費者の状態

 ・製品の特性

 ・製品ライフサイクル

 ・競合他社の戦略

 ・各メディアの性質

 「消費者の状態」とは、製品に対する消費者の認知度やイメージ、あるいはセグメントごとの特徴などです。

 これらを可能な限り正確に把握することによって、より最適な手法とメディアを選択することができます。

 「製品の特性」や「製品ライフサイクル」については、耐久財や消費財の違い、あるいはその製品が今どのような成長段階にあるのかなどを模索することです。

 取り扱う製品とそのライフサイクルを考慮しつつ、コミュニケーション戦略を立案することが大切です。

 「競合他社の戦略」「各メディアの性質」に関しては、コミュニケーション戦略が相対的なものであることを知り、もっとも効果があがる手法を選択できるよう、テストと改変をくり返すことが求められます。

3 具体的なコミュニケーション内容の決定

 コミュニケーション・ミックスとメディア・ミックスを決定したら、いよいよ具体的なコミュニケーション内容について考えていきます。

 広告を活用する場合には、「コピー」「デザイン」「頻度」などをじっくりと精査しなければなりません。

 社内で考えることもあれば、外部のプロフェッショナルに発注することもあるでしょう。

 テレビCMは15秒程度と短く、そのなかでコミュニケーション戦略全体の目標を達成するのは至難の業です。

 だからこそ、キャッチコピーや映像デザイン、放送時間、頻度などを最適化しなければ、望むような成果をあげることは難しいでしょう。

 費用対効果の面から考えてみても、CM作成にかける労力と時間は多大なものとなります。

4 コミュニケーションの実施と効果のモニタリング

 最後に、コミュニケーション戦略を実施し、効果測定を行います。

 戦略は、一度立案したらそれで終了というわけではなく、実行する中で成長させていかなければなりません。

 当初から望ましい結果が得られるということはほとんどなく、むしろ、あらかじめ改編することを見越して戦略を立案したほうが、柔軟な対応ができることでしょう。

 

顧客の心理変化

 コミュニケーション戦略を実行する際には、その手法や利用するメディアだけでなく、「ターゲット顧客の心理」を理解しておかなければなりません。

 とくに、「顧客の心理がどのように変化するのか」や、「ターゲット顧客の多くがどういった心理フェーズにいるのか」を把握することによって、より最適なコミュニケーション手法を選択できるようになります。

 ただ、ターゲット顧客に関わらず、人の心理を把握するのはそう簡単なことではありません。

 家族や友人・知人、あるいは長年連れ添った伴侶でも、相手の心理状態を完璧に分析することはできないのです。

 そう考えると、不特定多数の顧客の心理を理解することが、どれほど難しいのかお分かりいただけることでしょう。

 そこで活用したいのが「消費者購買行動モデル」です。

 消費者購買行動モデルとは、購買行動に関する消費者の心理変化を一般化したものです。

 すべての人に確実に当てはまるとは限りませんが、不特定多数の消費者という、まさに群集の心理を理解するのにはとても役立つモデルと言えるでしょう。

 代表的なものは次のとおりです。

 ・AIDMA(アイドマ)

 ・AISAS(アイサス)

 ・AISCEAS(アイシーズ)

 消費者購買行動モデルが複数ある背景には、時代の変化、つまり、さまざまな技術革新によって顧客の購買方法が変化しているという実態があります。 

 かつては対面での売買が基本だったのが、今ではインターネットでの売買があたり前のように行われています。また、パソコンという媒体から、タブレット端末やスマートフォンへと移行しているという現状もあります。

 購買方法が変化すると、消費者の心理が変化する段階についても違いが生じます。その結果、顧客の心理状態を把握することが難しくなり、消費者購買行動モデルのような一般化された指標に頼らざるを得ないのです。

 もちろん、完璧なものではありませんが、一般的な心理変化の流れを理解しておくことが大切でしょう。

 経営やマーケティングに関する理論は、多くの場合「机上の空論」として軽視されていることがあります。

 しかし、実際には、教科書的な内容でも応用して活用することにより、有利に事業を展開することが可能となります。 

 

AIDMAからAISAS、そしてAISCEASへ

・AIDMA(アイドマ)

 「AIDMA」とは、消費者が商品を知ってから購買に至るまでのプロセスを、次の5段階で示したモデルです。

 認知段階

  「Attention(認知)」

 感情段階

  「Interest(関心)」 「Desire(欲求)」 「Memory(記憶)」

 行動段階

  「Action(行動)」

 1920年にアメリカで誕生し、それぞれのフェーズにおける顧客の心理状態の頭文字をとって「AIDAMA」となっています。

 たとえば、日用品で言えば、消費者は最初に広告などで商品を知り(認知)、商品を好きになったり欲しいと感じ、あるいは記憶し(関心、欲求、記憶)、最終的に購買(行動)に至るという流れです。

・AISAS(アイサス)

 「AISAS」ですが、こちらは、AIDMAにインターネットでの消費行動を加えたモデルです。

 同じく5つの段階からなります。

  「Attention(認知)」 「Interest(関心)」 「Search(検索)」 「Action(行動)」 「Share(共有)」

 AIDMAモデルと比較してもらえば分かると思いますが、「Desire(欲求)」と「Memory(記憶)」がなくなる代わりに、「Search(検索)」が加わり、「Share(共有)」も追加されています。

 たとえば、ECサイトを利用して商品を購入するシーンをイメージしてみてください。「欲求」や「記憶」よりも、「検索」によって購入の意思決定をしていることが多いと思います。また、購買後はその製品の質や感想をネット上でシェアする人もたくさんいます。それは、インターネットそのものの特徴に検索やシェアが容易という側面があるためです。

・AISCEAS(アイシーズ)

 近年注目されている「AISCEAS」ですが、これはAISASに「Comparison(比較)」と「Examination(検討)」を加えたモデルです。

  「Attention(認知)」 「Interest(関心)」 「Search(検索)」 「Comparison(比較)」 「Examination(検討)」 「Action(行動)」 「Share(共有)」

 AISASが消費者行動の主軸だった時代では、商品を検索するだけで購買に至ることが多かったのですが、近年では、比較サイト等での「比較」やクチコミを中心としたレビューでの「検討」を経てからの購買が増加しています。これは、インターネット上の情報が膨大になり、不確かな情報群の中で安全性を確かめてから購買する人が増えていることを意味しています。

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