ミドル・マネジメントの育成

 ミドル・マネジメントとは、中間管理者層のことであり、一般に部課長レベルのことを指します。 

 ビジネスの成否を左右するのはミドル・マネジメントであり、また、若い人材の教育や指導を現場で行っていくのもミドル・マネジメントになります。

 そのため、人材育成の中でも最も重要になるのがミドル・マネジメントの育成ということになります。

 ミドル・マネジメントをうまく育成することができれば、企業の業績向上にも直接的に影響を及ぼします。

 近年では、特に、ビジネス・スクールなどで学ぶことができる標準的な経営スキルや、業務の「型」や企業文化を伝承する力を磨く必要性が高まっています。

 ここでのビジネス・スクールとは、卒業時にMBA(Master of Business Administration:経営学修士)の学位が与えられる大学院のことをいいます。

 MBAを取得するには通常2年間大学院に通うことになりますが、1年間のプログラムであったり、夜間プログラムや、通信教育で学ぶことができるプログラムも存在しています。企業経営者や管理職を対象に、EMBA(Executive MBA)コースを設けているビジネス・スクールもあります。

 EMBAのコースでは、多忙な経営幹部が短期間で経営学のエッセンスを学ぶことができるようにプログラムが設定されています。

 欧米の著名なビジネス・スクールとしては、ハーバード・ビジネス・スクールやシカゴ・ビジネス・スクールがあり、アメリカでは特に、企業経営者や管理職の多くがMBAを保有しています。

 ビジネス・スクールで学ぶことにより、マーケティングやファイナンスなどの普遍性の高い経営科学を学び、経営者、管理職としてのスキル身につけることができます。それ以外にも、副次的な効果として、他業界のビジネス・パーソンと接する機会を持ち、視野を広げることができ、人脈も広がります。

 日本では、これまではビジネス・スクールの数が少なく、MBAを取得するためには海外のビジネス・スクールに入学するしかないという状況でした。近年、日本国内でもMBAを取得できる大学院が増えてきており、また、経営幹部向けの経営教育を提供する大学や機関も増えています。

 また、企業内の選抜研修において、外部の大学や研修企業を活用して経営教育を提供する企業も増えてきています。

 MBAそのものではありませんが、製造業を中心にその内容を転用した「技術経営(MOT:Management Of Technology)」を取り入れる企業も広まっています。

 これからのミドル・マネジメントを育成していくために、企業組織内部で自ら開発するにせよ、外部機関や研修を活用するにせよ、効果的なプログラムを開発していくことが日本企業には求められています。

 企業間の競争が激しくなり、事業拡大やグローバル規模でのM&Aの活用など、企業経営者に求められる能力は広くかつ深くなってきており、企業組織の将来のために優秀なマネージャを体系的に育成していくことは重要な課題となっています。

 

ミドル・マネジメントに求められるスキル

 ミドル・マネジメントが「型」や企業文化を次世代に伝承していくために求められる具体的なスキルとしては、コーチングや質問力が挙げられます。

 コーチングとは、メンバーの潜在能力や意欲を引き出すために相互のコミュニケーションを通じて指導する方法のことをいいます。  

 質問力とは、相手にロジカルに本質を考えさせるためにコミュニケーションを行動レベルでイメージさせるものです。最近では、役員会に質問力を強化するためのプログラムを導入する企業も出てきています。

 また、複数の相手への問いかけの技術として、ファシリテーション(物事の簡易化)に対するニーズも高まってきています。

 いずれのスキルも、一方的に主張を押し付けようとするのではなく、相手の熟練度や思考の癖等も踏まえたうえで、考えさせながら物事を習得させようとするところに特長があります。

 このようなスキルが求められるのは、雇用形態の多様化や企業組織のグローバル化に伴って、伝承する相手が自社の正社員のみでなく、派遣社員、外注先のスタッフ、外国籍のスタッフなど、対象が広がってきているという事情があります。

 

ミドル・マネジメント育成の戦略

 一方、多くの企業ではミドル・マネジメントの育成について悩みを抱えています。

 どのように能力を伸ばしていくかという方法論の問題もありますが、誰の育成を優先するかという選択と集中の問題も大きいのです。

 本来ならば、全ての社員に平等に機会を与え、育成を図ることが望ましいでしょう。

 しかし、1人の経営幹部候補を育成するには経済的、時間的コストがかかるため、企業組織として保有する資源に限りがある以上、特定の潜在能力がありそうな社員に絞り込まざるを得ないのです。

 そのため、新入社員の時には同じ研修を受けていたのに、途中から育成プログラムに参加できるものと参加できないものが現れるといったことが起こってきます。

 若年層を対象に早期の育成を狙うほど、こうした事態が目立ってくることになります。

 育成プログラムに参加できる者のモチベーションは上がりますが、そうでない者のモチベーションは下がってしまうことが考えられます。

 そのため、マネジメント層が注意すべきことは、誰を幹部候補として選抜するのかを慎重に検討し、メンバーに対して説明できるようにしておくことです。

 誰が経営幹部候補として選ばれたかは、誰の目から見ても明確であるため、組織内に対して強いメッセージを発していることを強く意識しなければならないのです。

 また、幹部候補の選抜から漏れた者へのケアとして、「敗者復活制度」のような仕組みを取り入れることなどがあります。

 実際に目立たないような傍流部門にいたからこそ、トップ・マネジメントの目を気にせずに自由に仕事に取組み、結果としてマネジメント能力が伸びるというケースもあります

 マネジメント側も、大器晩成型の人材がいることを忘れてはならないのです。

 これまでの多くの日本企業においては、育成したいマネージャ像が明確でないまま、何となくさまざまな部門を異動させ、結果的に人が育つのを待つというやり方が採用されていましたが、これは、企業にとっても個人にとっても効率的とは言えないと思います。

 将来的に育って欲しい人材像を示した上で、配置やアサイン(役割の割り当て)を考えるという戦略的な発想が今後の日本企業には求められています。

 

キャリア・ディベロップメント

 キャリア・ディベロップメントとは、社員のスキルや能力をいかに伸ばしていくかを設計し、実行していくことです。

 終身雇用制度が崩れて労働力の流動性が高まると、企業固有のスキルや能力でなく、ほかの企業でも通用するようなスキルや能力を伸ばしていくことができるように、キャリア・プランの設計を行う必要があります。実際、ビジネスの現場でも、広く汎用性のある能力開発を自主的に行うビジネスパーソンが増えてきています。

 キャリアプランの設計に関して、特に計画的な職務異動(ジョブ・ローテーション)や研修を通じて、社員の職能を高めて、将来的に必要性の高い社員に育成していくためのプログラムを「キャリア・ディベロップメント・プログラム(CDP)」といいます。

 CDPでは、社員からの自己申告や目標管理制度を通じて、上長や人事担当者との面談を行い、企業組織側の期待と社員自身の長期的な目標や企業組織側に対する希望とのギャップを埋めるように努力します。

 この計画に従って、社員の出向や人事異動が行われるのです。

 個人の能力を長期的に成長させるCDPは、企業組織からの異動の命令による出向やローテーション以外にも、社員自らが自主的に異動願いを提出したり、研修への取組みを申し出ることができる制度として持ち合わせている企業もあります。

 

社内公募制度

 CDP以外に、社員自身にキャリア開発に取り組ませるための仕組みとしては、社内公募制度があります。

 社内公募制度では、特定の業務遂行にあたって必要な人材を社内から募集するシステムであり、社員自身が自分の仕事を選択することを保証するものです。

 自ら希望した業務に取り組むということには、自己責任を伴うこととなり、社内公募で自ら手を挙げた仕事で失敗した場合には、自らで決着をつけなければならないのです。  社内公募制度は、社員自身に自らの将来のキャリアを考えさせる機会であると同時に、人事部門が保有しているデータだけでは、社員の適性や将来性を考慮して配置することが難しくなっていることを意味しています。どの部署で、どのプロジェクトで、どの職務でどのようなスキルを持った人材が必要であるのかを人事部門が把握しきれなくなっているのです。その理由として、企業組織の規模が大きくなり、人事データが膨大になったことや、その分析に時間をかけることができなくなっていること、業務が高度化・複雑化してきており、人事部門ではその詳細な内容が理解できなくなってきていることが挙げられます。企業組織がメンバーのキャリアを完全にコントロールするという時代はすでに終了しており、むしろ、自らのキャリアをいかに形成するかという意欲を持った人材が必要となってきています。

 

中高年の能力の活用

 これまでの日本企業の多くでは、新入社員やミドル・マネジメントをはじめとするマネージャ教育を作成・運営する一方で、中高年世代の能力開発には注力してきませんでした。

 しかし、日本企業を取り巻く経営環境は大きく変化してきており、その一つに、少子高齢化の進展があります。

 少子化が進むということは、今後日本国内での労働力が確実に減るということを意味しています。

 このような状況から、中高年世代の人材の再活用も検討されるようになっています。

 現在でも、日本企業の多くでは65歳で定年退職するような社内制度となっていますが、その暗黙の前提として、加齢のためそれ以上の能力開発が難しく、新しい技術を身につけることが難しいと思われてきました。

 例えば、社内での連絡ツールとして、電子メールやイントラネットの掲示板が利用されるようになり、それらを使用しなければならない職場環境に拒絶反応を示してしまうようなケースがあります。

 しかし、近年の心理学の研究では、新しいことを学習したり覚えたりする力(流動性知能)は、60代の人でも30代の人と変わらないと言われています。60代の人であっても、新しい知識を身につけることができ、優れた判断力を維持しているのです。

 これまでの日本企業では、そのような能力を持った中高年世代を活用できないままでいました。これまで中高年世代向けの能力開発プログラムは存在していないようです。

 今後予想される少子高齢化社会という環境変化へ対応するという意味でも、中高年世代に活躍の場を提供するという意味でも、新たな視点での能力開発プログラムの開発・展開が求められているということができるでしょう。

 企業組織を動かしていく原動力は人材です。その人材をいかに育成し、活躍のための場を提供していくのか、マネジメント層にはそのための仕組み作りが求められているといっても過言ではないでしょう。

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