組織戦略

組織戦略の定義

 組織戦略の定義は明確には定められていない。一般的な法人のケースに当てはめれば、組織戦略とは、「理想とする組織の姿」と「その理想を実現するためのシナリオ」の2点を明確にすることを表す。

 一方、組織戦略に基づいて具体的な施策を計画し、それを実行することは「組織運営」と呼ばれる。企業やケースによって組織戦略・組織運営の捉え方は若干異なる。

 ・組織戦略・・・「理想とする組織の姿」と「実現のシナリオ」を明確にすること

 ・組織運営・・・組織戦略をもとに施策を計画し、実行すること

参考

組織戦略のフレームワーク

 組織戦略とは、組織としてどのような姿を目指すのか、理想を実現するためにどのようなシナリオを持つのかを決めることです。

  組織戦略=「理想的な組織像」+「理想を実現するためのシナリオ」

 経営の中で組織戦略をどのように位置づけるのかは、企業によってさまざまでしょう。しかし、労働力人口の不足が加速する中では、全ての企業において個人の能力だけでなく、組織全体の力を向上させる必要性が生じていると言えます。

 

事業戦略との関連性

 企業は組織戦略と事業戦略のどちらを優位にしていくべきなのでしょうか? この問いに正解はありませんが、両ケースの特徴を把握しておくことは非常に大切です。

 まず、組織戦略を優位に捉える場合、組織の理想像が先に存在し、そのうえでどのような事業を行うかを考えなければなりません。一方、事業戦略を優位に捉える場合、事業やビジネスモデルの理想像が先に存在し、それを実現するためにはどのような組織が望ましいのかを考えます。

 

組織と戦略の関係性において代表的な2つの考え方

 組織と戦略の関係性において、代表的な2つの考え方を紹介します。

チャンドラーの「組織は戦略に従う」

 経営学の世界的権威であるアルフレッド・チャンドラー氏は、1962年の著書『Strategy and Structure』において、「組織は戦略に従う」という考え方を提唱しました。

この考え方では、戦略目的を達成するための手段として組織が存在します。企業は、刻一刻と変化する環境に対応するための戦略を作り、その戦略を実現するために最適な組織を編成していきます。

アンゾフの「戦略は組織に従う」

戦略的経営の父として知られるイゴール・アンゾフ氏は、1979年の著書『Strategic Management』において、「戦略は組織に従う」という考え方を唱えました。

 特に、大企業の場合は、戦略ありきで組織作りを行うケースが多いものです。しかし、たとえば力の弱い中小企業の場合はどうでしょうか? 自らの力量を超えた戦略を策定し、それに合わせた組織を作ろうとしても、失敗する可能性が高いでしょう。組織の力量に応じて戦略を作るほうが合理的な場合もあるのです。

参考

組織戦略を生み出す2つのアプローチ

 戦略を絵に描いた餅とせず、確実に実行していくためには、PDCA(Plan⇒Do⇒Check⇒Action)などのプロセスを整備するだけではうまくいきません。 

 重要なことは、戦略を実行する「組織」を整備しておくことです。

 戦略を実行する際の組織形態や戦略実行に必要な経営資源について、適切な状態を整備することで実行スピードは加速します。

 組織形態は、組織が目的を達成するための手段であり、組織形態の検討に取り組むためには、まず戦略の策定から進める必要があります。これは、経営学者アルフレッド・D・チャンドラーJr.が掲げた「組織は戦略に従う」という言葉に表れています。つまり、戦略やその実行計画の内容に応じて、「どのような組織形態をデザインするか」といったことを状況に応じて検討していく必要があります。

 手順として、戦略に応じた適切な「組織のまとまり」を検討します。戦略上成し遂げたいことを効率的に実現する組織としてまとまるように組織形態をデザインします。

 企業の組織形態には様々な形態があり、採用される経営戦略も企業によって異なりますが、最終的に経営戦略を実行に移すのは組織を構成する「人」そのものです。

 経営戦略の実行結果を決めるのは「組織と人材のマネジメント」にかかっていると過言ではないのです。 

 

 企業組織が戦略を生み出す方法については、大きく2つのアプローチがあります。

 1つめは「トップダウン・アプローチ」、2つめは「ボトムアップ・アプローチ」です。

1 トップダウン・アプローチ

 トップダウン・アプローチは、欧米の企業、特にアメリカの企業によって多く採用されており、トップ・マネジメントであるCEO(最高経営責任者)が戦略を策定して、部下に実行させていくというものです。

 意思決定を行うのは組織のトップ・マネジメントに立つ人間であり、組織を構成するメンバーはその意思決定に従って行動します。

 部下の戦略に対する理解が十分でないと、戦略実行は成功しません。そのため、トップダウン・アプローチを機能させるためには、経営トップが策定した戦略を分かりやすく示し、企業全体に浸透させる必要があります。

 戦略を策定する前提として、外部環境の分析を行い、自社の市場でのポジショニングを確定していきます。

 分析対象である外部環境が同質的なものであれば、その分析結果も似たような結果となり、戦略も同じような戦略になります。

 このようなトップダウン型の意思決定を経た戦略を着実に部下に実行させていくためには、トップ・マネジメントの丁寧な説明が重要なポイントとなります。

 トップ・マネジメントは、メンバーの間に経営戦略の意図が浸透するまで丁寧に説明することが求められます。 

 そして、参入した市場において、「コスト・リーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」の3つのうちいずれかの戦略を採用することとなります。

 戦略の特徴としては、分析的であり、その分析結果から導き出される戦略も定式化されているということです。

 分析対象や分析手法がオーソドックスなものなので、結果的に同じような結論に達しやすくなります。

 トップダウン・アプローチでの戦略実行が実効性を持つためには、戦略がどのようなものか明示し、組織メンバーが誤解することのないように説明していく必要があります。作成した戦略を受け入れ実行していくようにメンバーを説得しなければなりません。

 組織メンバーの戦略に対する理解が不十分であれば、戦略の最初の目的を果たすことが難しくなります。

 そのため、トップ・マネジメントには、組織メンバーに対して十分な説明と説得を行うことが求められます。

 

2 ボトムアップ・アプローチ

 ボトムアップ・アプローチは、現場で働くメンバーが立案し上司へ提案を行い、提案を受けた上司はその提案内容を吟味し、問題ないようであればさらに自分の上司へ提案を行います。

 このようなプロセスを経て、最終的にトップ・マネジメントが提案内容を承認し、組織としての意思決定を行います。

 ボトムアップ・アプローチで策定された戦略については、企業組織の外側からはよく見えないという特徴があり、そのため「日本企業には戦略がない」という指摘がされることもありました。

 また、ボトムアップ・アプローチにおいては、組織の最高責任者が意思決定するのではなく、メンバーの決定を承認するだけであるため、結果責任を誰が取るかが曖昧であるという批判もあります。

 しかし、意思決定に際して、より上位の人間が承認・決定し、オーソライズするという公式の手続きをマネジメントがとることが担保されていれば、こうしたボトムアップ型の戦略策定方法は大いに強みを発揮します。

 環境変化の激しい現代においては、ボトムアップ・アプローチでの戦略立案が重要になってきています。

 ボトムアップ・アプローチの強みとしては、以下の5点が挙げられます。

 ・環境の変化に即した戦略となりやすい

 ・実行者の当事者意識が醸成されやすい

 ・外部から感知されにくい

 ・競合他社から簡単にまねされない

 ・希少性が高い、オリジナリティの高い戦略となる

 ボトムアップ・アプローチから生まれてくる戦略は創発的戦略と呼ばれます。

 特に重要なポイントは、ビジネスの現場に近い人間が意思決定を行っていくことにあります。

 企業組織を取り巻く環境は常に変化していますし、企業組織の内部も常に静的な状態を保つことはありません。

 企業組織が行動を起こせば、その企業組織にとっての外部環境を構成する競合他社や顧客に影響を与え、企業組織自体にも変化を起こします。

 このような変化を常に感じ取る位置にいる現場担当者が、企業組織にとっての方向性についてより的確な提案ができると言えます。

 ボトムアップ・アプローチでの戦略立案を行っていく場合は、担当者が自律的に行動することが期待されています。

 環境の変化を読み取り、そこから何かを判断するためには、問題意識や当事者意識を持った人材が自律的に思考・行動する必要があります。

 ボトムアップ型の意思決定プロセスでは、現場の社員が立案していることから、市場環境の変化が激しい時にその変化への対応を素早く行えるという利点があります。

 ボトムアップ型の意思決定を行っていく上で重要なのは、立案や提案を行っていくメンバーを自ら変化を感じ取り、そこから何をすべきかを判断できる「自律した人材」に育てていくことです。

 「自律」とは、どのように行動すべきか というルールを自ら作り出せることを表しています。「律」とはルールのことです。自らに対してルールを定め、そのルールに従って行動することができる人材が「自律した人材」なのです。

 そして、ボトムアップ・アプローチでの意思決定を行っていく組織にとっては、ミドル・マネジメントが重要な役割を担います。ミドル・マネジメントには、ある程度の実務経験があり、担当業務に習熟しているとともに、会社の内情についてもそれなりに理解しているからです。

 そこでは、担当業務だけの狭い見方ではなく、全社的な視点を取り込むことが期待されます。

 また、ミドル・マネジメントが提案を行っていく際には、部下や同僚とともに情報を共有し、ともに分析し、議論を深めていくことが期待されます。ミドル・マネジメントが戦略提案を行う場合には、実践的経験を通じてある程度確証を得たものを案として作成できるという強みがあるわけです。

 

組織戦略を立てる手順

 組織戦略は、ただ考えるだけではなく、「機能する組織」を作り上げなくては意味がない。

 組織戦略を立てる手順の一例をまとめてみました。

STEP1 発生している人事課題を、現地現物で把握する

 組織戦略は、何らかの目的を達成するために立てるものなので、まずは、すでに発生している人事課題を見極めなくてはならない。人事課題を見極める際には、人伝いに聞いた情報などを参考にするのではなく、「現地現物」の情報で判断をする必要がある。その後は、具体的な施策を立てることになるが、場合によってはこの工程を経て組織戦略を考えても、「今の状態では何かが足りない」などの悩みを抱えることがある。このようなケースでは、「人事の守備範囲へのこだわり」が要因になっている可能性が高いため、人材や組織の守備範囲を一旦度外視したうえで、効果的な戦略や施策を考えてみることが重要である。

STPE2 解決するべき課題に優先順位をつけ、順位が低いものは切り捨てる

 現地現物で組織に関する課題をチェックしたときに、さまざまな課題が浮き彫りになってくる中小企業は多く存在する。このときに発見できた課題は、もちろん、そのすべてを解決することが望ましいが、ひとつの施策に費やせる時間や人材は限られている。そのため、解決するべき課題には「優先順位」をつけ、順位が低いものは思い切って切り捨てることが必要である。たとえば、経営戦略とのつながりが弱い課題や、人材ポリシー・組織方針から外れている課題を切り捨てることで、本当に重要な施策をブラッシュアップしやすくなる。

STEP3 経営課題を解決できる組織戦略かどうかを見極める

 優先順位の高い課題を解決するための戦略を考えたら、「その組織戦略が経営課題の解決につながっているか?」を冷静に見極める必要がある。経営課題との関連性が薄い場合には、組織戦略を最初から考え直さなくてはならない。

 特に、経営陣から伝えられた経営課題を参考にしながら、ボトムアップ・アプローチで戦略を立てる場合には、「策定した経営戦略に自信が持てない」といった状況に陥りがちなので注意が必要である。社内で経営課題の共有が十分にできていないと、このような失敗を招きやすくなる。したがって、経営陣と戦略を立てる人物の意思疎通が不十分な企業は、将来の人材や組織の在り方について、議論するような場を設けるようにしよう。

 

組織戦略を上手に立てるコツ

 組織戦略を立てる際に、前準備として取り組んでおくべきことがある。以下で挙げるコツは、意識するかどうかで組織戦略の質が大きく変わってくるため、自社のケースに当てはめていきましょう。

1 スムーズに意識共有するための管理体制を整える

 トップダウン・アプローチとボトムアップ・アプローチのどちらを選ぶにせよ、経営陣と現場社員の意識共有は必須事項である。組織戦略自体はもちろん、企業の方針や経営理念をしっかりと共有できていないと、効果的な戦略を実行することは難しい。

 そのため、組織メンバーの管理体制を整えて、必要であれば各メンバーをサポートすることが重要になる。経営陣が現場の人材に目を向けるだけで、組織全体の生産力は上がってくるのです。

2 現場社員の不平・不満を解消する

 現場社員に不平・不満が募っていると、効果的な組織戦略を立てにくくなるうえに、施策に取り組んだ際の効果が薄くなってしまう。組織戦略は、組織全体でまとまって実行してこそ効果がある。経営陣は、公平性のある環境を整えることが必要である。

 明確な人事評価制度をつくる、従業員のための相談窓口を設けるなど、不平・不満がたまりにくい状況を作っておきたい。

3 ミドル・マネジメントが重要になることを理解する

 組織戦略を立案・実行していくうえで、「ミドル・マネジメント」は非常に重要なポジションにいる人材である。ミドル・マネジメントとは、経営陣と現場社員の間に位置する人材であり、具体的には中間管理職などが該当する。

 ミドル・マネジメントには実務経験があり、かつ企業の内情もある程度は理解している。全社的な視点で物事を考えられるので、特にボトムアップ・アプローチでは重要な役割を果たすことになる。

 このミドル・マネジメントをどう活かすのかによって、会社全体の意思決定の質やスピードは変わってくる。組織戦略を立てる前にミドル・マネジメントの立ち位置や動き方を見直しておこう。

早いタイミングで組織戦略の見直しを

 本当に効果的な組織戦略は、一朝一夕で立てられるものではない。さまざまな前準備が必要になるうえに、立案後にも調整や修正を加えることになるので、実行に移すまでには多くの手間や時間がかかる。

 したがって、経営危機に直面してから見直すようでは手遅れになる恐れがある。経営がうまくいっているように見えても、細かく見れば、さまざまな経営課題・人事課題が見つかるはずなので、早いタイミングで組織戦略を見直していこう。

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