リーダーシップ開発  次世代のリーダーを育成する

 新入社員が将来会社を背負うリーダーに成長する過程では、様々な経験を通して多くの要素を吸収していく必要があります。

 企業によっては、見込みある若手に早くからリーダーの役割を期待するところもあるでしょう。リーダーの育成は、多くの企業にとって大きな課題となっています。

 リーダーシップは、天性の資質に委ねられるものではなく、性格、性別、育ってきた環境に関係なく、開発育成により備えることができるものです。

 

カッツモデル

 近年、再注目されているマネジメント育成に対する概念に、1950年代に米国の経営学者ロバート・L・カッツが提唱した「カッツ・モデル」があります。 

 カッツは、リーダーに必要とされる3つの能力を「テクニカル・スキル(業務遂行能力)」「ヒューマン・スキル(対人関係能力)」「コンセプチュアル・スキル」に分類しました。

 1. テクニカルスキル(Technical Skills) 組織において必要な業務をこなす能力

 2. ヒューマンスキル(Human Skills) 組織の中で目標を実現させるために必要な他者との関係を作るためのスキル

 3. コンセプチュアルスキル(Conceptual Skills) 経営に関する問題解決に必要な思考分析能力、コンセプトを作る概念的なスキル(例えば、マーケティング統計データから会社の進むべき方向性を打ち出すといったことが該当する)

 カッツは、人の置かれた階層によって、3つのスキルの重要度に変化があると説きました。

 このモデルは、もともとリーダーに限定せず、大企業のホワイトカラー全般について説明したものです。リーダーシップの主旨とは少々ずれますが、今も人材開発の指針・基本となるものとして活用されている理論です。

 

氷山モデル

 良いリーダーを育成するために、開発すべき要素を氷山になぞらえて表現することができます。特定の人材について他人から目に見える部分は最上部の「行動」部分だけです。

 しかし、その水面下に「行動」に結びつけるためのより大きな要素が目に見えないかたちで存在しています。

 これら各要素の具体例を以下に示します。

 1. 性格・資質 比較的変化しにくく開発が困難な部分であり、採用時や昇格時に適性検査などで判断する。

 2. 意欲・考え方・態度 熱心さや謙虚さ、懐の深さ、寛容さ、公平さ、責任感、厳格さなど、性格・資質よりは育成開発が容易である。

 3. 知識・スキル 洞察力や決断力、説得力、先見性、独創力、人脈の豊富さ、信念の強さなど。

 4. 行動 目標を掲げる、組織内外の人間を巻き込む、部下のやる気を引き出す、部下の能力を引き出す。

 この4つの要素は、それぞれが密接に関連し合っています。そのため、目に見える「行動」は、個人の性質や考え方、知識や能力によって変わってくるものです。

 リーダーシップ開発を考える際には、「行動」だけに焦点を当てるのではなく、その背後にある「意欲・考え方・態度」や「知識・スキル」も含めて、総合的に強化が必要であることを認識しなくてはなりません。

 また、氷山の例えどおり、特にリーダークラスにおいて、通常多くの企業では水面上に見えている「行動」部分で人材の評価は行われると思います。

 どれだけ能力が高く性格が良くても、行動が伴わなければリーダーとしては評価されないということも、この氷山モデルは示唆しているのです。

 

ウォーレン・ベニスのリーダーシップ開発論 

 南カリフォルニア大学のウォーレン・ベニスは、アクセンチュア戦略的変革研究所のロバート・トーマスとともに「こうしてリーダーはつくられる」(2003年)を著しました。

 当時、35歳以下の新世代と70歳以上の旧世代2つの世代において、優れたリーダーを選抜してインタビューを行ったのです。それぞれの世代のリーダーがどのように形成されてきたのかを探り、2つの世代の相違点と共通点を明らかにしました。

 

ウォーレン・ベニスが取り上げたリーダー

 ベニスが旧世代と新世代で取り上げたリーダーの中で、代表的な人物を以下に紹介します。2003年当時、旧世代は、おおむね70歳以上の世代であり、新世代は、20代後半から35歳ぐらいまでの世代がインタビューの対象となりました。

旧世代(氏名 主な経歴)

 ・ジョン・ブラデマス(ニューヨーク大学名誉総長、下院議員)

 ・ジョン・ガードナー(スタンフォード大学名誉教授)

 ・ミュリエル・シーバート(ニューヨーク州バンキングコミッショナー)

 ・ロバート・ガルビン(モトローラ社長)

 ・エドウィン・ガスマン(ジャーナリスト(ピュリツァー賞受賞))

 ・ナサニエル・ジョーンズ(邦判事)

新世代(氏名 主な経歴)

 ・エリザベス・アルトマン(モトローラ副社長)

 ・マイケル・クライン(トランスフォフト社、eグループCEO)

 ・ユング・シン(エンバーク・コムCEO)

 ・タラ・チャーチ(ツリー・マスケティヤー設立)

 ・ダン・カニンガム(ダンス・チョコレートCEO)

 ・スカイ・デイトン(ボインゴ・ワイヤレス設立者) 

2つの世代の相違点

 旧世代の人たちは、第二次大戦を肌で知っています。実際に下士官として従軍経験のある人が多く、軍隊式の指揮命令系統を知っており、上司からの指示は従うものと教えられて育ってきました。

 また、経験を積むことで、リーダーへの階段を一歩一歩登ってきたという感覚が強いことが判明しています。 

 一方、新世代の人たちは、「デジタルの世界の荒野を切り開くために必要なことは、羅針盤で自分の進むべき方向を見定めることと、経験の足かせに邪魔されない新鮮な洞察力である」と考えていることが分かりました。

 そのうえで、2つの世代の人たちが抱いた大志には、彼らが20代後半の時期において、3つの重要な違いがあるとしています。

 1. 新世代の方が野心的で大きな目標を持っている。旧世代は生計を立てることが関心事だった

 2. 新世代は、仕事と家庭やプライベートな生活とのバランスを取ることに、旧世代より大きな関心を寄せている

 3. 新世代は、旧世代ほど英雄が築いた立派なリーダー像に憧れを抱いていない

 

リーダーシップ開発に必須の2要素とリーダー形成に不可欠な4属性

 一方、2つの世代に共通の項目も見出され、これこそがリーダーシップ開発に必須の要素であるとベニスは説いています。

 第一に、過去の「厳しい試練(クルーシブル)」によって強力なリーダーシップが形成されていることです。それは、長期にわたる監獄生活や過酷な戦争体験、人種差別、肉体的なコンプレックス、身近な人間の不幸など、さまざまな体験でした。言い換えると、リーダーになれる人となれない人の大きな差は、障害のマイナス要因をプラスに転換してしまう能力があるか否かだということです。

 第二に、学び続け、適応し続けるという資質です。

 ベニスがインタビューしたリーダー全員が適応能力に優れ、新たな経験を処理し、そこに意味を見出し、人生に取り込む術に長けていたといいます。ある意味、第一の共通項の裏返しで、この資質を持つ人は厳しい逆境も人生の糧とすることができるのです。

 ベニスは、リーダーの形成に不可欠な4つの属性をまとめています。「適応力」「意味の共有化と他者の巻き込み」「意見と表現」「高潔さ」の4つです。

 ・適応力 意志が固い、第一級の認識力を持つ、学ぶ術を身につける、機会を先取りする

 ・意味の共有化と他社の巻き込み 意見の相違を奨励する、共感する、異常なまでに情報を共有化する

 ・意見と表現 目的が明確である、自己を認識し自信がある、EQ(心の知能指数)が高い

 ・高潔さ 大志を抱く、能力を発揮する、倫理性が高い

 

経験学習

 米国で、リーダーシップ開発の研究と実践を永年にわたり行ってきたCCL(Center For Creative Leadership)は、経験学習こそリーダーの能力開発に最良の方法であるとしています。

 経験学習とは、文字どおり仕事の経験からリーダーシップを学ぶことです。CCLによれば、仕事上の経験がリーダーシップ開発にとって有効であることが明確に示されているにもかかわらず、現在主流である研修やコーチングほど注目されていないため、経験という価値が最大限活用されているとは言い難いとしています。

 ハーバード大学の組織行動学者デイビット・A・コルブは、経験学習モデルを構築しました。それは以下の4段階から構成されています。

  経験 → 内省 → 概念化・持論化 → 試行

 この4段階を繰り返すことにより、学習が進んでいくとコルブは考えました。

 ただ、経験の受け止め方は人それぞれであり、そこが違えば、その後の行動も当然違ったものとなってきます。ここで重要なのは、体験から学び取る方法を体得することだと言えるでしょう。

 

成功するリーダーと脱落するリーダー 

 脱落するリーダーの研究には、南カリフォルニア大学のモーガン・マッコールとCCLのマイケル・ロンバードによるものが有名です。

 組織の中で成功しており、将来を嘱望されながら、その期待に応えられず出世競争に脱落してしまったマネージャーに共通の「致命的欠点」を、以下のとおり見出しました。

 1. 対人関係の問題 他人に対する無神経さ、不快で弱い者いじめの姿勢、傲慢な態度、身勝手な態度

 2. チーム指導の難しさ チームにとって適切な人材をあてがうことの難しさ、他人に任せられないことで過剰管理に陥る、チーム間の対立を解決できない

 3. 変化や適応の難しさ もはや効果を失った行動をどうしても変えられない、強みへの過度の依存、流儀の異なる上司に対応できない、戦術から戦略へ思考を転換できない

 4. 事業目的の未達 業績不振、詰めの甘い野心的な計画、組織に対する業務不履行

 5. 過剰な役割適応 組織以外の仕事を管理できない、組織的課題を大局的立場から見ることができない

 また、彼らは、組織のトップに上り詰めた成功者と脱落者の違いを明らかにしました。

 上層部で活躍した成功者にとって有利に働いたのは、経験学習の積み重ねであったことが明らかであると結論付けています。多様なリーダーシップの経験を積み、人脈を広げ、ストレスを冷静沈着に受け止め、過ちには集中して解決に取り組んだことを学習の糧としていたのです。

 

リーダーが脱落するきっかけ

 CCLでは、脱落したリーダーの研究から、脱落の可能性を自覚することの重要性を指摘しています。CCLによると、脱落には4つの主な要因があるとしています。

 1. 「強み」が「弱み」になる

 2. 「隠れていた欠点」が浮き彫りになる

 3. 成功したことで傲慢になる

 4. 不運

 リーダーとしては、脱落の危機を乗り越えて更に成長していかなければなりません。そのためには、周囲から「フィードバック」を得られる環境や仕組みづくりを行うとともに、正しい自己認識を常に持っておく心構えが必要なのです。

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