マーケティングとは

 マーケティングとは、顧客の要望を十分に把握し、それに応える商品を適切に提供するために仕入れ、設計、製造、物流、サービスなど会社のすべての機能を見直していくことです。

 アメリカの「マーケティング協会」は、マーケティングを次のように定義しています。

 「マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである」

 マーケティングとは、売上を上げる活動の全てです。「営業・販売」「リサーチ」「販促・プロモーション」「顧客サービス」などを含みます。

 さらに正確に言えば、お客様に価値を提供して対価をいただく全ての行動です。

 お客様に対して、真剣に奉仕し、努力して価値を提供し、そして、それに対する対価を受ける。マーケティングの本質は、「価値の提供」と価値の「対価を受け取る」ことなのです。

 提供側の都合によって好きなように製品を製造・販売するのではなく、マーケット、つまり市場に適合するかたちで製造から販売までを最適化すること。「売れる仕組み」「買ってもらえる仕組み」となるでしょう。

 

フィリップ・コトラーの定義

 「マーケティングとは、価値を創造し、提供し、他の人々と交換することを通じて、個人やグループが必要(ニーズ)とし欲求(ウォンツ)するものを満たす社会的、経営的過程である」

 ポイントとなるキーワードは、「顧客」「価値」「創造」「交換」「必要(ニーズ)」「欲求(ウォンツ)」です。

 マーケティングを定義しなおしてみると、次のようになります。

 「マーケティングとは、顧客にとって必要(ニーズ)で価値のあるモノやサービスを、欲求(ウォンツ)にそって創造し、等価交換によってスムーズに提供できるようにする仕組み。あるいはその過程(プロセス)」

必要(ニーズ)

 人間は、常に何かしらを求めています。それは時と場合によって異なりますが、喉が渇いていれば水を求めますし、お腹がすけば食べ物を求めることでしょう。また、そのような生理的な必要性ばかりではなく、「誰々が所有しているから」ということでブランド品を求めることもあれば、「より便利に暮らすために」車を求めることもあるでしょう。このように、人間がいだく必要性に根ざした感情がニーズです。

 ニーズの特徴は、その対象物が必ずしも個別具体的なモノとは限らないことです。喉が渇いているからといって、必ずしも水が好まれるとは限りません。ジュースやコーヒーを欲しがる人もいるでしょう。

 ビジネスにおいては、顧客の表層的なニーズにだけ着目するのではなく、より掘り下げることが大切です。

欲求(ウォンツ)

 一方、「ウォンツ」とは、そのニーズが実際の商品として具体化されたときに生ずる欲求です。喉が渇いたというニーズに対する水やコーヒ、お腹がすいたというニーズに対するパンやご飯などです。

 顧客のニーズをしっかりと把握することによって、より最適なウォンツを提供することができるようになります。

 ウォンツの対象となるのは、必ずしも現存する商品とは限りません。まだ見ぬ新しい技術を駆使した商品が顧客のウォンツを刺激することは多々あります。だからこそ、企業は新製品を次々に発表しているのであり、ウォンツの追求が企業の競争力に大きな影響力を及ぼす要因となっているのです。

 

「売り込み」とマーケテイング

 売り込みとは、自分が優れていると思う商品を顧客にいかに押し込むか、という活動と捉えることができます。

 売り込みの発想では、もし売れないときは「こんなによい商品なのになぜお客は買わないのか」と顧客に責任を押しつけてしまいがちです。

 一方、マーケティングは、客のニーズをいかに満たしていくかという活動のことです。もし、商品が売れなければ、顧客ニーズを読み違えたか、商品の提供方法などがまずかったということになります。

 売り込みの出発点が あくまで「自分の都合」であるのに対して、マーケティングの出発点は常に「顧客の都合」にあるということができます。

従来型マーケティングの限界

 マーケティングの有用性は疑う余地はありません。

 すでに世の中にはあらゆる商品が溢れかえっており、万人受けする商品ほど他企業との差別化は難しくなります。

 このような状況のなか、多くの企業では特定の顧客ニーズにできるだけ直接的に対応するために、

 ・自社商品の販売可能性がありそうな顧客を分類する

 ・分類した顧客のなかでさらにターゲット層を絞り込む

 ・ターゲット層がもつニーズを分析して商品開発する

という流れで、徹底して市場を細分化する手法を取りました。

 これは、川上から川下に向けて垂直方向にターゲットを紋り込んでいくことから、垂直型マーケティングと呼ばれています。

 こうした垂直型マーケティングの実践は確実に顧客を取り込んでいく手法として、企業にとって不可欠であることは間違いありません。

 緻密な垂直型マーケティングがあるからこそ、ヒット商品・サービスの誕生と育成とが可能になります。

 しかし、競合激化で市場の細分化がすでに著しく進んでいる現在においては、新たに細分化した市場を獲得しにくくなっています。

 

水平型マーケティング

 そこで登場してきたのが、水平型(ラテラル)マーケティング(以下、水平型マーケティング)の考え方です。これは、市場をひたすら「垂直方向に細分化し切り捨てていく」従来型の手法を補完し、「水平方向に広げて新しい市場を創出していこう」とする考え方です。

 水平型マーケティングでは、従来のターゲット層の枠組みからいったん離れて、自社の強みをいかしてどのような市場を創出していくかというゼロベースでの発想が求められます。

 たとえば、これまで特定の限定されたニーズをもつ法人向けの事業を行っていた会社が、自社の強みをいかして一般消費者向けの事業に進出することなども十分に考えられます。

 このように、水平型マーケティングにおいては、豊かで柔軟な発想が求められます。この際には、アイデアを列挙していくという「思いつき」に頼るだけではなく、より効果的・効率的な取り組みが可能になります。

 

経営戦略とマーケティング

 マーケティングは経営戦略の一要素というべき関係性になります。

 根底の定義は「顧客を起点とするビジネス思考」です。マーケティングとは、「顧客を起点とした、ビジネスを維持・成長させるための思考方法」であるといえます。

 マーケティングと経営戦略では、思考を働かせ戦略を策定していく上での「起点」が異なっている。経営戦略は「企業自身」にあり、マーケティングは「顧客」が起点にあります。

 経営戦略では、「ヒト」「モノ」「カネ」の全ての企業の経営資源の最適配分の考えていくことになります。一方、マーケティング戦略では、「商品・サービスや販売チャネル・技術や販売手法」といった、顧客に財やサービスを提供するうえで関連するものの最適配分を考えていくことです。マーケティング戦略は、経営戦略の中の一部に特化したものとみることができ、マーケティング戦略は企業戦略の一部と言えます。

 

企業とマーケティング

 市場環境を分析し、ターゲット顧客の需要に焦点をあてつつ、自社の経営資源や強みをフルに活用しながら、商品、あるいはサービスを開発するプロセスであるマーケティング。

 従来型の企業や工場主体の生産ではなく、顧客が顕在的・潜在的に抱いているニーズからスタートすることによって、新しい価値を提供することができるのです。

 もっとも、マーケティングは単なる座学でもなければ、企業活動の理想でもありません。

 実際に行えることであり、正しい手順を踏むことによって、どの企業や団体、あるいは個人でも実践可能なことなのです。

 意識の方向性を市場や顧客に向けるだけでも、事業活動そのものに良い影響をおよぼすかもしれません。

 企業においては、掲げている経営理念やビジョンも踏まえてマーケティング活動を行う必要があります。

 経営理念とは、企業などの団体が事業活動をするうえで基礎となる考え方であり、社員にとっては行動の指針です。

 一方、ビジョンとは、企業理念やミッションと混同されることも多いのですが、将来に向かってどのような発展・成長を遂げたいかという、構想や未来像のことです。

 「未来はこのように変わると予想する。そのため、当社は◯◯を目指す」というものです。

 これら経営理念やビジョンを念頭において、マーケティングを実践するとなると、それぞれの企業ごとにやり方は異なるのが当然です。

 また、どのような戦略を講じるのか、あるいは既存の製品やブランディングとの兼ね合いなども考慮しつつ、複合的に検討していくことによって、最良の選択ができるようになるでしょう。

 主役は提供側ではなく顧客にあります。だからこそ、顧客にどのような価値を提供できるのかをつねに考え、また、時代の流れや市場の変化にも適時対応していくことによって、より効果的なマーケティング戦略が構築できるはずです。

 社内でマーケティングを実践するとなると、ついつい独立したマーケティング部署の設立を模索したり、あるいは外部のマーケティング関連会社に委託すると考えてしまいがちですが、それでは問題の根本に近づくのは難しい場合もあるでしょう。ビジネスの根幹は、あくまでも現場であり、お客さまと直接対峙しているスタッフが、そのニーズもウォンツも敏感に察知できる可能性が高いからです。

 会社という組織は、それぞれの部署が独立しているように見えるものの、実際には複合的な要素が絡み合い、相乗効果を生み出すことが最大の目的です。だからこそ、全社的なマーケティングを行うことによって、総合的な取り組みをする必要があるのです。マーケティングの担い手は、必ずしも部署として特定する必要はないように感じるかもしれません。しかし、マーケティング専門の部署を設置することにより、社内に意識が生まれるということも事実。大切なのは、それをいかに自分のこととして全社員に広めていくかなのです。

 業績の良し悪しに関わらず、物が溢れている現代においては、競合他社との競争が終結することはありません。

 また、たとえ寡占市場であったとしても、最終的に商品を選ぶのは、あくまでも顧客です。たまった不満が、いずれは他の企業あるいは業種に取って代わられるということも十分にあり得るのです。

 危機感に諭される前にマーケティングを実践することが大切でしょう。

 

マーケティングを実践する

 マーケティングを企業内で実際に行う場合には、社内のさまざまな部署と連携しなければなりません。

 たとえば、生産、営業、開発、財務、あるいは人事などの会社機能を担う組織まで含めて、マーケティングの基本を理解してもらうことにより、はじめて市場や顧客からスタートした営業活動を行えるようになるのです。

 それは、あくまでも、企業が会社組織全体として社会から認知されているということを意味しています。

 各部署がマーケティングを意識することにより、はじめて営業活動全体にマーケティングの要素が付加されることになります。

 それは、流通、販売、サポート、広告、その他顧客との直接的な接点となる調査など、幅広い部分で応用されていくのです。

 これは、企業という組織を考えた時に、あたり前のように感じるかもしれませんが、実際にはできていないことが多いのです。

 管理部門だけがマーケティングを理解して実践しているということが少なくありません。それではマーケティングの効果が顧客に届かないことでしょう。

 いくら研究開発能力とシーズ(技術やノウハウ)があっても、それらをマーケティングをベースとして生かすことができなければ、たとえ製品化できても売れるかどうかは未知数です。

 なぜなら、良い商品・優れたサービスはすでにたくさんありますし、それが必ずしも顧客の求めているものと合致するとは限らないからです。

 シーズを顧客ニーズに適合させるためには、全社的なマーケティングが不可欠なのです。

 社内にマーケティングが浸透することによって、あらゆる場面で効力が生じます。

 市場分析、製品仕様、コスト、価格、あるいは人事などの社内制度、社員、採用者、候補者などの採用活動、それら全体のプログラムなど、すべての部門がマーケティングの恩恵を受けられるようになるのです。

 時間はかかるかもしれませんが、取り組むべき価値は大いにあると言えます。

 

水平型マーケティングを進めるうえでの基本的なステップ

1 製品・サービスの特定

 対象となる製品・サービスを特定する作業から始めます。

 垂直型マーケティングでは、最終的な顧客を知るところから始めなければなりませんが、水平型マーケティングでは川上寄りの視点から検討を始めます。

 まずは、世の中ですでに販売されている製品やサービスや、そのなかでも特に苦戦しているものを選んでみましょう。

 なお、この場合でもベースとなるのは、あくまで「顧客に受け入れられるかどうか」であり、「売り込み」的姿勢は適切ではありません。

2 焦点を当てるマーケティング要素の決定

 次に焦点を当てるマーケティング要素を決定します。

 対象となる部分は、顧客ニーズやターゲット、製品用途などの「市場関連の領域」と、「製品・サービスそのものの領域」、および流通方法や販売促進など「その他のマーケティング要素に関する領域」、という3領域に分類されます。

 ビールを例にすると、ビールを飲む人たちに焦点を当てたのが「市場関連の領域」、品質などビールという商品そのものに焦点を当てたのが「製品・サービスそのものの領域」、工場から小売店までの流通や広告などに焦点を当てたのが「その他のマーケティング要素に関する領域」ということになります。

3 マーケティング上のギャップの抽出

 続いて、焦点を当てたところにマーケティング上のギャップをつくり出す作業に入ります。

 水平型マーケティングでは、このギャップをいかに創出するかが成否の分岐点になるとされています。

 ビールという商品に焦点を当てるのであれば「低カロリー」、「味のキレ」などはすでに、垂直型マーケティングで細分化し尽くされた分類です。ここに割って入って新たな市場を創出することは困難です。そこで、現実的であるかは別にして、たとえば、「目覚めに飲むと頭がすっきりして仕事がはかどるビール」といった、通常ではあり得ないギャップをくり出します。

 常識にとらわれず、実現不可能と思えるほどの大きなギャップを創出する必要がある。

 同様に自動車についてみてみると、「速さ」、「乗り心地」などは垂直型マーケティングからのアプローチですが、たとえば、「観賞用の動かない自動車」などの可能性を探ることなどは水平型のアプローチといえます。

4 ギャップの解消

 最後にこうして創出されたギャップについて、その解消策を検討して実践していきます。

 ビールの例でいえば、まずは完全にノンアルコールであることや、カフェインなどを配合した品質設計などが求められるでしょう。

 また、コーヒショップなど新たな販路開拓やインパクトのあるCMなども必要になってくるでしょう。

 

新たなマーケティング戦略の可能性

 特に成熟化が進んでいる分野では、競争激化に伴って垂直型マーケティングだけでは新たな市場創造が困難な状況にあります。

 緻密なマーケティング計画の立案と実行を進めながらも、提供する新商品やサービスが市場からの支持を得られない場合もあるでしょう。

 そうしたときに、テーマに取り上げた水平思考のマーケティングから、商品・サービス開発のプロセスを見直してみることも有効ではないでしょうか。

 水平型マーケティングはひとつの物の見方を示すものであり、従来型のマーケティングを補完する役割を担っています。

 従来型の市場調査などの緻密な方法と、大胆で柔軟な感性を重視する水平型マーケティングの視点から、新市場を切り開く力強い製品・サービスが生まれる可能性があるでしょう。

 

マーケティングを実践する場合の注意点

 会社は人が集まる組織であり、そこには感情もあります。また、まるで生き物のように繊細な部分もある、ということを理解しておかないと、システマチックであることばかりに気を取られ、機械的・作業的なマーケティング活動に終始してしまいかねません。

組織の特性との兼ね合い

 それぞれの会社には、個別の特性があります。それは、会社の方針であったり、組織文化、組織構造、職務設計、人事システム、あるいは人員配置など、多岐にわたります。それらをあらかじめ理解しておかないと、紋切型のマーケティングを導入することになってしまい、うまく機能するかどうかわかりません。

 そればかりか、最悪の場合には、組織の能力や強みが低下してしまうこともあるでしょう。

 創業当初から掲げている企業理念やビジョン、培われた企業文化を無理に曲げる必要はありません。今までの体制を維持しながら、市場や顧客を中心に企画、開発、販売、およびプロモーションを行うことは可能なのです。

 だからこそ、つねに「自社にとって最適なマーケティング活動は何か?」という問いを持ち続け、くり返し実践することが重要となります。

モチベーションへの影響

 また、社員のモチベーションにどのような影響を与えるのか、考慮することも忘れてはなりません。

 現場レベルでは、短期的・長期的な目標を達成するために、日々尽力している。そのときに、マーケティングを導入するからといって、あるときは目標が売上高の最大化になったり、またあるときはシェアの拡大となってしまっては、混乱してしまうでしょう。それでは やる気が低下してしまっても無理はありません。

 それよりは、大前提として顧客への奉仕を考えるように社員を教育していき、顧客対応へと応用させていきながら、徐々に市場分析の結果を具体化した方が良いでしょう。

 現場の声を聞くだけでなく、そこにデータを加えてより説得力のある営業方針を構築すれば、社員のモチベーションをいたずらに下げることなく、マーケティングを社内に普及させることができるはずです。

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