事業計画書 内容

 事業計画書を作成しようとする時、多くの人が一番初めにつまずくのが、「何から手を付けてよいのか分からない」という点です。事業計画書に「何を書きなさい」「どのように作成しなさい」という決まり(法令やルール)がなく、自由形式なのです。

 決算書を作成する場合、税法や会社法の定めがあるので、誰が作成しても、誰が読んでもそれほど違いはありません。しかし、事業計画書は作成する人によって、全く違う表現がされることもあります。また、事業規模や業界によっては、数枚で作成される場合もあれば、数百枚にもわたる事業計画書が作成される場合もあります。

 しかし、「経営者自身のため」「社員のため」「社外への説明のため」などを考えていくと、それらに必要な事項をまとめていけば事業計画書を作成できます。

 

事業計画書作成の留意点

具体的に書く(6W2Hの視点を意識する)

 記載内容が短すぎたり、抽象的な表現が多かったりすると、協力者など第三者が計画書を読んだときに「どのような事業なのかが、きちんと伝わらない」とったことになりかねません。

 このような計画書にならないようにするには、6W2HのWhen(いつ)、Where(どこで)、Who(誰が)、Whom(誰に)、Why(なぜ)、What(何を)、How(どのように)、How much(いくら)を意識して書くことが大切です。そうすることで、取り組みの内容が正確に伝えることができます。

わかりやすく書く

 計画書を作成するときは、事業についての事前知識がない人が読んでもわかるように書くことが大切です。専門用語やカタカナ用語ばかり列挙した計画書は理解しづらいものになってしまいます。なるべく平易なことばで表現し、専門用語を記載するときは括弧書きや注釈をつけて、説明を加えるとよいでしょう。

 また、よりわかりやすくするために、図表や画像を加えるなどの工夫も有効です。文字だらけの計画書は、読み手が疲れてしまい、内容が十分伝わらない可能性があります。
計画書は関係者に賛同されてこそ意義のあるものになります。「わかりやすく」といったことを常に心掛けて書きましょう。

事業計画書作成がゴールではない 

 事業計画書は様々な目的に使われますが、本来の目的は事業を実行していくためのものです。よって、事業計画書だけ完成しても実行されなければ意味がありません。

 もし、実行に移したとしても、「事業計画書の通りにやっていれば大丈夫だろう」というような受け身では事業を遂行できません。事業計画を実行していく途中で困難にぶつかることがあります。そのときに、「強い意志」を持って、時には「常識の枠を超えた発想」で、事業計画書以上の成果を出す積極的な姿勢が必要となります。

 このように、事業計画書は「作成することがゴール」なのではなく、それを実行して「より良い成果を出していくためツール」なのです。

企画・アイディアの段階 

 事業計画書とよく混同されがちなのが「企画書」です。企画書は、ある一つの企画(アイデア)を提案書としてまとめたものです。一方、事業計画書は事業全体のプランニングです。

 起業時は一つのアイデアで事業を始めるので、企画書と事業計画書との差はあまりないかもしれません。しかし、事業計画書を作成する前段階として、良い企画・アイデアがないと事業そのものが成り立ちません。企画・アイディアをしっかりと考えた上で、それを実行できるまでに落として込んでいくものが「事業計画書」となります。「事業計画書」と「企画書」はここが決定的に違います。

 目的や範疇を考えながら事業計画書を作成していくと、より良い事業計画書となっていきます。

事業についての考え方や経営者の想い 

 事業についての「考え方」や「想い」をまとめていきます。

 この部分が明確になると、事業計画書を読んだ経営者自身の思考をまとめることになりますし、社員の行動の指針にもなり、融資先や取引先などの「社外の人」の融資、取引の判断基準になります。

 事業計画書には決まりがないために、考え方や想いの部分のまとめ方は企業により様々です。使う言葉も、「経営理念」「事業理念」「コンセプト」「ビジョン」など多種に渡ります。それらの言葉の定義もそれぞれ異なる場合があります。

 例えば、経営理念の中にビジョンやコンセプトが混ざっている企業もあれば、同じビジョンやコンセプトという言葉を使用していても、企業によって違う意味で使っている場合もあるのです。

 事業計画書の本来の目的を考えましょう。経営者自身、社員、社外の人が読むことが目的ですので、それらの人に伝わりやすい表現であればよいでしょう。

 この「想い」が強すぎて「思い込み」になってしまうと、事業計画書自体の質が下がることになります。「こうしていきたい」「こうありたい」という想いが強すぎて理想を追い求めるあまり、実現性の低い事業計画書になってしまっては本末転倒です。「想い」が強すぎると「思い込み」になってしまって、実行できない事業計画書や実行できても成果の上がらない事業計画書になってしまう恐れがあるのです。

 この「想い」と「思い込み」は紙一重です。しかし、「想い」を持ちながら客観性も忘れないで、事業計画書を作成していくことが重要です。

全体戦略、状況の分析、データなど 

 事業は「アイディア」や「想い」だけでは上手くいきません。

 次の段階としては、自社の「経営資源」や「取り巻く環境」の分析データなどを駆使し、事業の全体戦略を伝えていきます。

 市場規模や競合他社の状況、SWOT分析(自社の強み、弱み、外部環境分析)などをここで行います。

 この現状把握やデータ分析が「根拠もなく自分勝手に儲かると考えているだけ」なのか、それとも「しっかりと分析できており、その事業の魅力が伝わるか」の差になります。

 

企画・アイディアを出す

 事業計画書は、企画やアイディアを実行するために詳細に計画を作成していくことになります。

 企画・アイディアだけがあっても、行動ができないので成果に結び付きません。しかしながら、事業計画書の前提として、良い企画・アイディアがなければ、そもそも事業として成り立ちません。

 事業計画書を作成する前段階として、企画やアイディアを出す必要があります。

 企画やアイディアはある日突然思い浮かぶこともありますが、それを待っていては企画・アイディアが浮かぶかわからず、実行もできないのでビジネスとして成立しません。

 まずはアイディアを出す方法を見ていきます。

 一人で考えるのもよいのですが、思い切ったアイディアを出すには複数人の力を借ります。その方がアイディアの幅が広がるからです。

 この時に「ブレーンストーミング」という手法を使ってみましょう。

 この方法は、テーマに基づいて複数の人がアイディアを出し合うという方法です。この方法を使うと、誰かのアイディアが「他の人のアイディアを生み出す」という相乗効果が期待できます。ただし注意が必要です。他の人の意見を批判したり、「これは無理だから」と最初から意見を言うことを遠慮したりしないということです。この注意点を最初に決めておかないと、アイディアが広がっていかなくなってしまいます。また、人数が多過ぎても意見が出にくくなります。

 アイディアが出たら、それを少しずつ具体的な企画にしていきます。事業計画書の内容まではいかないにしても、大枠のビジネスモデルを考えていきます。

 「どんな製品・サービスを提供するのか?」「お客様はどんな人を対象にするのか?」などです。そして、それを「どのような流れ(ビジネスモデル)で運転するのか?」までを考えていきます。

 このように具体的にしていくと、次の課題が出てきます。それが「他社との差別化」です。

 他社との差別化ができていないと、お客様に自社を選んでもらえない状態になります。ビジネスの流れはできていても、「販売ができない」という状態です。そこで、他社との差別化を図るために、自社の強みを明確にしていきます。

 経営資源(ヒト・モノ・カネ)の中で、自社にあって他社にはないものを探したり、製品・商品・サービスの提供方法を差別化してみたり、組み合わせで差別化してみたりと、様々な差別化を検討していきます。

 このようにして、企画・アイディアを少しずつ具体的にしていき、それらを次回以降の事業計画でさらに具体的なものにまとめていくのです。

ビジネスモデル、具体的な戦略、戦術

 全体戦略や状況分析が出てきたら、それを具体的なビジネスモデルや戦略、戦術にしていきます。

 ここで製品や商品、サービスの説明をしていきます。 

 前段階の分析と結びついて、自社の製品・商品やサービスが競合他社と差別化ができており、販売の伸びが期待出来ることを示すことになります。よって、前段階の分析が不十分であると事業の魅力が半減します。または、前段階の分析が生かされたビジネスモデルや製品・商品でないと「魅力がない」となってしまいます。さらに、ビジネスモデル、戦略、戦術に基づいて具体的な行動計画まで落とし込みます。これにより、「想い」の部分から始まって、「環境分析」を行い、「ビジネスモデル」を考えた後、実際に行動ができる「計画」となっていきます。

 全体戦略や状況分析が出てきたので、それを具体的なビジネスモデルや戦略、戦術にしていきます。

数値計画

 ここまで来たら「数値計画」にしていきます。売上や利益の計画です。

 事業計画書を想像したとき、この数値計画(売上や利益の計画)を事業計画書と思っている人が多いようですが、上記までの流れを踏まえて数値計画が作成されます。この流れによって、数値計画に根拠がある机上の空論ではない事業計画書となるのです。

 なお、企業規模によっては、人員計画や設備計画、資金計画などの各数値計画も必要となります。このときに、それぞれの数値計画同士の整合性にも気を付けて作成することになります

アクション・プラン(PDCA)

 事業計画書をいくら綿密に作成しても、それが実行されなければ意味がありません。

 そこで、実際に「誰が」「いつ」「どのように」実行するのかを具体的なプランにする必要があります。これを「アクションプラン」といいます。

 さらに、アクションプランは、単に実行するだけではなく、それをチェックして改善までつなげることが求められます。これを「PDCAサイクル」といいます。 

1.計画を立てる(PLan)

2.実行する(Do)

3.評価・検証する(Cheak)

4.改善する(Action)

 アクションプランは、このPDCAサイクルがしっかりと回るように作成されます。

 とは言っても、いきなり一つ一つの作業のアクションプランを作ろうとすると、漏れやダブりが出てしまうかもしれません。漏れなく、ダブりなく作成するためには、最初に大きな分類を作り、ブレイクダウンして徐々に一つ一つのアクションプランにしていきます。

 企業規模にもよりますが、「大分類⇒中分類⇒各項目」という流れがよいでしょう。

 大分類は企業や業種によっても変わりますので、自社に合った大分類にします。飲食業であれば、「仕入、調理、接客、広報、店舗管理、在庫管理、顧客管理、財務」が考えられます。営業会社であれば「仕入、物流、販売在庫管理、人事管理、財務」になるかもしれませんし、製造業であれば「製品開発、製造管理、物流管理、材料管理、広報、人事管理、財務」になるかもしれません。漏れやダブりがないように、大きな分類にすることがポイントです。

 次に、その大分類を基にして中分類に分けていき、最終的に各アクションにブレイクダウンしていきます。

 例えば、飲食店の例で、「仕入」を中分類で「発注」「受け入れ」「保管」としていきます。

 そして、中分類の「発注」を具体的な作業に分けていきます。「見積もり依頼」「相見積もり調査」「発注量決定」「FAXにて発注」などです。

 ここまでが完成したら、その具体的な作業を「いつ」「誰が」「どのように」行うのか、というアクションプランを立てていくことになります。

 これにより、漏れがなく ダブりのない具体的なアクションプランが作成できます。

 アクションプランが作成できると、皆が迷いなく実行することができますし、実行の進み具合もチェックが行いやすいのです。

 そして、このアクションプラン通りに実行できているかどうかをチェックするのが「評価、検証(Cheak)」です。このチェックによって、アクションプランが良かったか悪かったかが評価出来ます。

 さらに、実行の評価を検証をするだけでは終わりません。評価・検証をしたことを、次の対策(次のアクションプラン)を立てる時に役立てます。これが、「改善(Action)」になります。 

リスク計画

 ここで言うリスクとは、「計画通りに進まない可能性」のことです。

 リスク計画とは、もし計画通りに進まない場合に、どのような対処をするのかを初めから検討しておくことです。 

 これによって、もし事業計画書通りに進まないときは すぐに対応策を講じることができ、リスクを最小限に抑えることができるようになります。

 リスク(計画通りに進まない可能性)は、大きく分けると2つに分かれます。自社で「コントロール不可能なリスク」か「コントロール可能なリスク」かです。

 「コントロール不可能なリスク」とは、リスク自体を自社の事業計画の範疇で避けることができなかったり、軽減できなかったりするものです。例えば、「景気の低迷」「地震などの天災」「銀行の倒産」「取引先の倒産」「流行り廃り」などです。これらのリスクは自社でコントロールできません。

 よって、リスク自体を避けたり軽減したりはできませんが、「それらが起きたときにどのような対処ができるか」を考えておくことが大切です。

 「コントロール可能なリスク」は、リスク自体を自社で避けたり、軽減できたりするものです。例えば、従業員の退社、顧客からのクレーム、オペレーションミスによる誤配送、納期の遅れなどです。これらのリスクは社内の取り組みによってそれ自体を避けたり、軽減できたりする可能性があります。さらに、もし起きてしまった場合の対処も検討しておく必要があります。

 「コントロール不可能なリスク」と「可能なリスク」は、不可能なリスクの方が大きな影響を与えやすい。しかし、昨今では、可能なリスクでも大きな影響を与える場合があります。例えば、クレーム対応を疎かにしたことでネット上に悪口を書かれ、大きな売上減につながることなどです。

 よって、どのリスクにも真摯に対応することが求められます。

 なお、リスク計画は「それが起きない可能性」もあるので、売上計画や利益計画などに比べて後回しにされやすい。しかし、それが起きた際に「何も準備していない」のと「準備している」のとでは、対応も結果も全く変わります。

 さらに、銀行や投資家などの第三者に事業計画書を見せる場合には、リスク計画までしっかりと立てられている方が、安心して融資や投資がされやすいというメリットもあるのです。

撤退戦略も考えておく

 事業計画書自体は将来に向けての成長性を記載していくものです。

 事業が予定通り上手くいかなくても、次にどのような対策を立ててそれに対応していくかも重要となります。

 しかし、それでも撤退しなければならない状況に陥る場合もあります。

 そこで、撤退する基準を設けておくことで、ズルズルと引き延ばして赤字の幅を広げてしまい、必要以上に周りに迷惑をかけることのないようにしておきます。

 いつのタイミングで、どのような撤退基準でという撤退戦略を考えておくとよいでしょう。特に社内ベンチャーや別会社での新規事業の場合は、社内向けに撤退戦略を事業計画書の中に盛り込むこともあります。

「事業計画書」の作成 に続く

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