事業継承における注意点

 事業承継とは、経営者が自身の会社、もしくは事業を後継者に引き継ぐことを指します。株式や不動産はもちろん、役職や経営理念、知的資産など、会社や事業に関するあらゆるものが引き継がれることがポイントです。

 中小企業庁が策定した「事業承継ガイドライン」によると、中小企業の引退年齢の平均は70歳です。事業承継の準備には、後継者の育成も含めて5年~10年程度かかるとされているので、前述の中小企業経営者の平均年齢を考えれば、多くの企業で事業承継へのタイムリミットが迫っているといえるでしょう。早急かつスムーズな対応が求められています。

 

事業承継

1 親族内承継

 親族内承継とは、経営者の子どもや親族への承継のことです。特に小規模企業で中心になっている承継の方法です。

親族内承継のメリット
 ・後継者が従業員や取引先などの社内外のステークホルダーに受け入れられやすい
 ・株式、事業用資産を相続などにより後継者に引き継げる

親族内承継のデメリット
 ・後継者の教育のために時間がかかることが多い
 ・後継者以外の親族との間で相続についての問題が起きやすい

 親族内での事業承継は、後継者に対する経営者としてのしっかりとした教育が必要な一方、周囲による後継者の受け入れがスムーズな傾向があります。
 親族内承継では、株式や、不動産や各種設備を含む事業資産を相続などで後継者に渡すことができます。株式を買い取りの形式で引き継ぐと、資金の関係で会社の所有と経営の分離が起きてしまうことが少なくありません。オーナーと経営者が分かれてしまうと、会社運営のなかでトラブルになりやすいのですが、親族内承継ではこれを避けやすいといえます。
 ただし、相続での事業承継時は、事業を承継しない親族も含めて財産分割などについてきちんと話し合うことが必要です。場合によっては、親族内の望まぬ争いや株式の所有者の分散によるトラブルが起きることもあり得ます。
 また、中小企業の経営者は、事業のための融資に際して、個人保証を付けていることも少なくありません。この場合、個人保証をどう処理するかも検討すべき要素の一つです。事業承継後の経営安定のためにも、税理士など専門家を交えて早めに整理しておくことが重要です。

 

2 従業員承継

 従業員承継とは、親族以外の役員や従業員への承継のことです。現在の経営者が長く一緒に働いてきた社員への承継が多いのですが、取引先・銀行などの紹介で外部から後継者を招き入れるケースもあります。

従業員承継のメリット
 ・後継者教育の手間が少なく済む
 ・後継者の選択肢が広くなり、資質の有無で選びやすい

従業員承継のデメリット
 ・社内での分裂などが起きやすい
 ・後継者の資金力不足が問題になりやすい

 経営者もよく知っている従業員に経営を引き継ぐ従業員承継では、資質を見極めて現経営者の意向を引き継ぎやすいが、社内分裂につながることもありえます。慎重な後継者選択と時間をかけた社内調整が重要です。
 また、従業員承継においては、自社株の買い取りの問題も見落とせません。親族承継では相続など自社株の承継方法は多数あります。しかし、親族外である従業員に自社株を渡す場合、方法は限られます。
 近年、MBO(マネジメント・バイアウト)などの手法で役員・従業員に株式を承継するケースも増えてきていますが、資金面の壁は親族内承継より高いといえるでしょう。個人保証の問題もあるので、専門家を交えての早期の整理を始めるのがよいのです。

 

3 M&A

 M&Aとは、Mergers and Acquisitions(合併と買収)の略です。親族、従業員以外の第三者が企業を買うことを指します。M&Aをすれば買い手側に経営権を譲渡して、自社の経営を引き継ぐことができます。
 近年、M&Aの動きは加速しており、5年以内の事業承継の4割近くがM&Aによるものというデータが出ています。

M&Aのメリット
 ・買い手企業による事業への投資拡大、事業拡大の可能性がある
 ・買い手企業の他事業とのシナジー効果が期待できる

M&Aのデメリット
 ・買い手企業との交渉などで、成立までに時間がかかる場合がある
 ・買い手企業による雇用・労働条件の変更により従業員の離職が起きうる

 M&Aを行う場合、経営理念や従業員の雇用保持のための十分な確認・交渉が非常に重要となります。また、契約成立前に従業員の不信感を可能な限り解消しておくことが重要です。
 このように、さまざまな注意が必要なM&Aですが、これまで培ってきた企業の力をより活かす方向に変革が起きる可能性も期待できます。労働人口が減っていく日本において、有効な事業承継の手段の一つといえるでしょう。

 

事業承継の進め方

 事業承継には3つの方法がありますどの方法をとるにも、自社について客観視し、整理・把握した上で着実に進めていくことが重要です。

STEP1 会社の現状を整理

 スムーズな事業承継への第一歩は、自社の経営状況、経営課題、経営資源などを「見える化」して、現状を正確に把握することです。
 把握した自社の状況や経営課題をもとに、現在の事業の成長性や、商品力・開発力の有無、利益確保の仕組みを見直して自社の強みと弱みを把握していきます。
 また、自社の経営資源とは、貸借対照表に計上されるような資産だけを指すのではありません。知的資産をはじめとする目に見えない資産もきちんと考慮に入れて整理していくのがポイントです。経営資源をどう活かし、強みをいかに伸ばすか、弱みをいかに改善するかの方向性を見出すことが必要となります。
 このような現状把握は、自社の経営状況を把握している顧問税理士などの身近な専門家や金融機関などに協力を求めると、より効率的に取り組むことができるでしょう。

 

STEP2 事業承継の方法を検討、後継者の選定

 自社の現状整理ができたら、事業承継への課題も整理します。後継者候補の有無、候補がいる場合は、候補者の能力や適性、年齢、意欲といった要素を踏まえて、次期経営者として後継者候補がふさわしいか慎重に検討しましょう。
 後継者候補が社内、親族内にいない場合は、社外からの後継者招へいやM&Aの可能性も考えます。浮上した後継者候補に対して、株主や取引先といったステークホルダーからの反発が想定できる場合、対応策を事前に検討しておくことも重要です。
 また、後継者候補が親族内にいる場合は、親族内承継を前提とした相続税額の試算、納税方法などの検討をしておきましょう。税理士への相談が有効です。

 

STEP3 事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)

 事業承継は、経営者交代のみに主軸が置かれがちですが、事業を発展させるチャンスでもあります。経営状態が良いタイミングでの承継が事業発展のカギです。経営状態が思わしくない状態での事業承継では この機会を逃してしまいかねません。
 親族内承継や従業員承継の場合は、相続税や資金面の対策に終始することも少なくありませんが、より良い状態で後継者に事業を引き継げるように経営改善に取り組むことが重要です。

 STEP1で把握した自社の強みを活かして競争力を高めること、経営体制を点検して課題解決をすることで、後継者候補の承継へのモチベーションを上げる効果も期待できます。
 また、M&Aを選択する場合は、企業価値を上げることが買い手企業との良い条件での交渉につながります。経営改善は必須だといえるでしょう。

 

STEP4 事業承継計画書を作成 M&A先とのマッチング

 親族内承継、従業員承継は計画書にもとづいて行っていきます。このときも、事業承継のみで計画していくのではなく、STEP1で把握した自社の状況を踏まえ、事業承継後の成長を見据えながら自社の中長期目標を設定しましょう。そのなかに事業承継の動きを盛り込んでいくことが重要です。後継者、取引先など、ステークホルダーへの告知、情報共有をきちんと行えるような計画を作ることが事業承継成功のカギとなります。

 M&Aでの事業承継は自社のみでは完結できません。専門的なノウハウを有する仲介機関に相談しましょう。仲介機関には、公的機関である事業引継ぎ支援センターや、M&Aの専門業者や取引金融機関、士業など専門家が多数存在します。通常業務での付き合いやセミナーなどへの参加を通じて、信頼できる仲介機関を探すことが必要です。

 仲介機関を選ぶと同時に、経営者自身の承継への希望を明確にしておきましょう。「会社全体を引き継いでほしい」「一部事業だけ残したい」「従業員の雇用・処遇の現状維持したい」「社名を残したい」、といった条件が考えられます。最初に条件を決めておくことで、買い手企業とのマッチング後もぶれずに交渉ができます。
 このように、事業承継を進めていくなかで資金が必要になった場合、条件によっては補助金が利用できる場合もあります。相談している専門家に問い合わせるなどして、経済的負担をうまく抑えて進めましょう。

 

STEP5 具体的アクションをスタート

 STEP1から4を踏まえて、事業承継計画やM&A手続きに沿って資産、経営権の移譲を実行していきます。
 実行段階においては、社会情勢や経営状況の変化を踏まえて、必要であれば随時事業承継計画を修正・ブラッシュアップしていくことが必要です。社内、社外での情報共有・調整も十分に行い、後継者がスムーズに事業を承継し、成長させていく土壌をつくることが最大のポイントとなります。

 

経営の承継と資産の承継

 事業承継は、長期的な企業の存続・発展を図るため、経営の承継と資産の承継をともに行う必要があります。経営の承継とは、経営者の地位の引継ぎのことであり、企業の戦略や方針、また経営者としての心構えや業務の進め方などについての承継を行います。

 資産の承継とは、自社株やその他の財産を後継者に引き継ぐことです。特に、オーナー企業の場合には、経営者の保有する自社株をいかに円滑に引き継ぐかが重要なポイントといえます。
 事業承継対策は10年計画で考えるべきともいわれており、長期的な目線で計画的に進めることが成功のポイントです。次世代経営体制への転換という意味で考えると、場合によっては10年では足りない企業もあるでしょう。経営者は、たとえ日々の業務に追われがちでも、早いうちから事業承継について検討する必要があります。

 

経営者と一緒に仕事しながらマンツーマンで後継者を育成しているか

 最も効果的なのは、経営者と一緒に仕事をしながらいろいろな場面を体験することです。漠然と体験するだけではなく、ある部分の仕事を完全に任せて、その代わり厳しいレポーティングを科すとか、目標を立てさせて、その達成度を厳しくチェックするのもよいことです。しかし、後継候補者が近親者であると どうしても甘くなりがちですので、他社の経営者を見習うとか、小さくても独立した事業のすべてに責任を持たせて経験させることがよい経験になります。事業運営に対して経営者が厳しくチェックをするのは当然です。

 自社内での育成が難しければ他社での経験を意識的に行います。ある種のインターンシップですが、何年か修行を積ませて自社に戻します。外の風にあてることが重要です。そこでいろいろなネットワークも構築できます。

 

外部との窓口役に後継者を積極的に配置しているか

 中小企業内だけで後継者を育てようと考えても、どうしても内部の仕事だけに偏ってしまう傾向があります。経営者の仕事のなかで大きな部分は外部とのつながりです。公私共々、外部とのネットワークをどのように構築できるかによって、受注活動、資金繰りなどに大きく影響してきます。この役割を意識的に後継者に経験させることが、経営を引き継ぐうえで大きな効果につながります。

 ゲートキーパー(窓口役)としての後継者にするわけです。外部とのネットワークの拠点として後継者が活躍するようになれば、情報の流れも変わってきます。そのような外部とのつながりと内部の管理、そして、経営戦略、経営方針の策定への関与などを経ることにより、安心して経営を引き継げる人材へと育っていくのです。

 

 息子を企業の後継ぎにする場合、息子の能力をよく見抜き、その能力で経営できる企業規模の範囲を、よく考えておく必要がある。

 自分の息子の能力では継げない規模になった会社は、人手に渡ると考えなければいけない。

 ある程度以上の大きさになった会社は、「公器」であり、必ずしも個人のものではない。

 幸福の科学大川隆法総裁は、『経営入門』で以下のように説かれました。

「それから、「自分の息子を企業の後継ぎにしたい」と考えている社長は多いでしょうが、その場合には、息子の能力をよく見抜かなければいけません。
 創業者は苦労して会社をつくり上げているので、ある程度、経営能力が出来上がっていますが、息子は甘やかされて育ち、苦労を経験していないことが多いため、二代目が後を継ぐと会社を潰すことがよくあります。
 あるいは、三代目で潰すこともあります。二代目や三代目になると、創業者の苦労を知らないので、会社が潰れることがよくあるのです。
 したがって、自分の息子に後を継がせようとする場合には、息子が経営できる企業規模について、よく考えておかなければなりません。「この規模を超えると、息子の能力では無理だ」というレベルがあるので、そうしたことまで見通さなくては駄目なのです。
 会社が一定の規模以上に大きくなり、自分の息子の能力では継げなくなった場合には、その会社は人手に渡ると考えなければいけません。
 ある程度以上の大きさの会社は、大勢の人がそこで生計を立てているわけなので、「公器」であり、必ずしも個人のものではないのです。そういうことも考慮に入れておく必要があります。」
(173~175ページ)

「大企業では非常に大きなシステムを組んでいるため、中小企業では使えないやり方が多く、中小企業がそのまねをしても、ほとんどは無駄に終わります。ところが、二代目や三代目は、大会社をまねて、新しい設備を入れるなど いろいろなことをし始め、結局会社を潰してしまうことがあるのです。」

 大企業から人材をスカウトした場合も、同様の事態に陥るケースがあります。

 企業には規模相応の考え方や振る舞いがあるのです。

「どの程度の規模が妥当かは、トップの器量や能力によるので、「自分はどこまで持ち堪えられるか。どの範囲までならやれるか」ということを、常に自分に問う必要があります。」(『経営入門』P-177)

 経営者自身の器量、能力、天分がどの程度であるかを見抜くことが大切です。「常に自分に問う」という姿勢が大事になる。トップの宗教修行は、こういう観点からも重要です。

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