利益計画の6ステップ

1 利益予想を立てる

 経理部門(または経営企画部門)が中心となり、利益予想を立てます。

 特に積極的な手を打たず、今までの延長線上で1年後、3年後などの一定年度後に どんな損益状況になるか試算してみます。

 ただし、予想時点で明らかに予測できる経営環境・条件などの変化は推計し、利益額を予想する必要があります。
 利益額を予想する目的は、収益と費用および利益に関わる問題を発見することにあります。

 売上高、製造原価、材料費、外注費、人件費、減価償却費、支払利息などの損益項目の予想を立て、利益額を試算します。
 この損益項目の推移や変化により損益上の問題点を整理します。

 ここで、主な損益項目の予想方法のポイントを見ます。

(1)売上高の予想

 売上高の予想は利益予想の基礎になる重要な数値です。

 データとして、過去3~5年の売上高、年間伸び率、製品別売上高などをベースとして今後を予想します。

 また、販売部門からも情報を人手します。

(2)製造原価の予想

 製造原価は材料費、労務費、製造経費に分けて、過去3年のデータを基礎に推計します。

 材料費は対売上高比率、労務費は対売上高比率、製造部門人員数、1人当たりの人件費、対前年伸び率、製造経費は減価償却費を除いて、対売上高比率より推計します。

 原材料の価格、作業人員の増減、燃料費、運送費の値上げ、決定済みの設備投資などを製造部門に確認します。

(3)販売費・一般管理費の予想

 人件費は、人員数と1人当たりの人件費、対前年伸び率から推計します。この場合、営業部門、総務部門の人員数はそれぞれの部門の情報を入手し予測します。

 経費は、販売費の主なものは営業部門の情報から、一般管理費は過去3年の実績から推計します。

(4)営業外損益の予想

 過去3年の各項目の発生原因を分析してから推計します。併せて金利動向も加味します。

(5)予想損益計算書の作成

 過去3年の損益計算書の実績および各項目の対売上高比率の推移を一表にします。

 そして、(1)~(5)で予想した全損益項目を集計して、予想損益計算書を作成し、対売上高比率を算出します。

 過去の実績と大きく変化するところをチェックし、問題点を確認します。

 

2 目標利益額を設定し、ギャップを認識する

 次のステップは目標利益額の設定です。

 目標利益額が出ると、利益額予想と目標利益額との差額(ギャップ)が確認できます。

 このギャップ、すなわち利益不足額が、具体的利益改善対策を打つべき額になります。

 目標利益額の設定は経営判断であり、経営トップが決定すべきものです。

 経理部門は目標利益額や必要利益額などについて、トップに参考データを提供したり、トップが示す大まかな目標を具体的数値にかえる作業を行います。

 経営トップが目標利益額を示すことにより、全社を挙げて利益改善に取り組む体制ができるのです。

 目標利益額の設定の仕方として、次の方法があります。

(1)前年度実績に上積みする方法

 前年度実績の経常利益に10%増、20%増などの上積みの目標利益額を設定するものです。

  目標利益=前年度利益×(1+目標伸び率)

(2)必要決算資金から決める方法

 業績によって支払う配当金、役員賞与などの必要決算資金から目標利益額を設定します。

  目標利益=(必要配当金+必要役員賞与+必要内部留保額)/(1-税率)

(3)借入金返済額から決める方法

 借入金の返済は、利益から行います。借入金の返済ができる利益を目標利益額として設定します。

  目標利益=(年間借入金返済額-原価償却費(リースを除く))/(1-税率)

 (2)と(3)はいずれも税率は40%を目安とします。

(4)売上高目標経常利益率から決める方法

 売上高経常利益率の業界平均、上位企業の経常利益率や自社の過去3年平均の指標を参考として、目標利益額を設定します。

  目標利益=目標売上高×目標形状利益率

 

3 全社の利益計画を立案し、各部門へ改善案を提示する

 目標利益額が決定したら、予想利益額との差額利益ギャップを、全社的にいかに改善していくか、これを検討するのが全社の利益計画です。

 利益改善は経営課題であり、経理部門だけではどうにもなりません。

 経理部門は、全社の利益計画で収益費用の各項目について具体的な改善目標を算出し、経営トップを通じて各部門に改善の目標・方向を提示します。

(1)利益改善の視点

 利益改善は、損益分岐点の観点から次の3つが考えられます。

 固定費の低減によって、損益分岐点が下がり利益は増加します。

 人件費の低減は簡単ではありませんが、正社員の仕事をパートに切り替えたり、残業の削減などにより低減できないか検討します。正社員と同一の仕事をしているパートなどの賃金を不当に低くすると、パートタイム労働法に抵触する恐れがあるので注意が必要です。
 製造固定経費、販売固定経費、一般管理費などは、各科目について中身を検討し、節減できるものは節減します。

 限界利益率が向上すれば、損益分岐点が下がり、利益が増えます。これには変動費低減があります。

 材料費は歩留まりの向上、材料仕入れ単価の引き下げなどを検討します。
製造変動経費、販売変動経費は各科目について、効率的使用を行います。

 また、販売価格アップ、製・商品(サービス)の構成改善により、限界利益率の向上ができないか検討します。

 売り上げの増加は、新規販売先の開拓、インストアシェア(既存取引先での自社のシェア)や販売価格のアップ、値引きの減少などが考えられます。

(2)損益分岐点と利益図表の活用

 利益改善を全社的に検討する場合、損益分岐点と利益図表の活用があります。

事例 

A社(製造業)の次期の予想損益計算書は次の通りです。
 A社の予想利益は300万円であり、目標利益を1000万円とすると700万円の利益ギャップが生じます。
 この700万円の利益改善のため、具体的改善が必要になります。

 経理部門としてはまず利益改善について、前記1の3つの観点から改善余地があるかガイドラインを示します。

 A社では、すべての固定費について検討した結果、5%の低減が可能となりました。
 変動費については、製造部門と検討して、物流経費の効率化などで変動比率を2ポイント低減できることとなりました。

 さらに、営業努力により、売り上げ増加を8%と見込みました。

 これらによる利益改善額を試算すると次のようになります。

a.固定費低減

 固定費3900万円×固定費低減率5%:195万円

b.変動費低減

 売上高1億円×変動費低減率2%:200万円

c.売上高増加

 売上高1億円×増加率8%×限界利益率44%:352万円

d.利益改善額の合計:747万円

(3)各部門へのガイドラインを提示

 経理部門は、全社の利益計画によって利益改善を検討し、これを利益改善の目標・方向のガイドラインとしてまとめ、経営トップを通じて各部門に示していきます。

 各部門は、この提示を受けて具体的に検討します。

4 利益改善策を各部門で具体的に計画する

 利益改善策は経営課題であり、全社で取り組む必要があります。

 ガイドラインを受けて、各部門が貝体的利益改善策に取り組むことになります。

(1)各部門の利益改善計画を練る

 ガイドラインで「固定費5%の低減を目標」と指示されれば、「修繕費、消耗品費5%低減」などがテーマとなり、各部門で利益改善テーマを設定します。

 「材料歩留率5%アップ」「物流費20%低減」などのテーマに基づいて、全員参加で会議を開き、具体的な利益改善策を検討します。

 これらをテーマごとに、

 1.改善目標

 2.現状と問題点

 3.改善方法、進め方

 4.日程

 5.利益改善効果

 6.利益改善計画推進責任者

などについて決定し、次の「利益改善計画書」にまとめます。

(2)各部門の年度計画、予算の作成

 各部門は検討した利益改善計画に基づいて、営業部門は売り上げ計画、費用予算、製造部門は生産計画、費用予算、開発部門は開発計画、費用予算、管理部門は費用予算を作成します。

 従って、固定費の低減は、各部門の経費予算に織り込まれ、売り上げの増加は営業部門の売り上げ計画に計上されます。

 

5 各計画・予算・経営方針を全社に周知、徹底きせ実施する

(1)利益改善計画のまとめとチェック

 経理部門は各部門の利益改善計画から利益改善効果を抜き出し、「利益改善総合表」で集計します。

 総合表の利益の合計が目標利益と予想利益の差額、つまり、利益ギャップより多くなっていれば、利益計画が各部門の改善対策で裏付けされたことになります。

 部門、テーマ、推進員任者、実施日程などを全社分一覧表にして、スケジュール管理に使用します。

(2)計画・予算をまとめ、年度利益計算書を作成する

 経理部門は、各部門からの年度計画・予算を全社分総合し、年度利益計算書(全社分予想損益計算書)を作成します。

(3)経営方針書をまとめる

 経営方針書は、その期に全社員が一致協力して到達しなければならない目標や その達成に関連する指針、経営トップが会社全体に真に要請し、訴えたい事項などを示します。

 ・経営の現状と見通し

 ・利益目標

 ・販売目標と方針

 ・生産目標と方針

 ・製品開発目標と方針

 ・人事目標と方針

 ・コストダウン目標と方針

 ・そのほかの目標と方針

 経営方針書は、少なくとも幹部全員を集めてトップが説明し、オーソライズします。

 

6 利益改善計画を実施し、管理する

 利益改善計画は実行しなければ、利益に結びつきません。

 日常業務に追われて改善活動がおろそかになり、計画倒れに終わる恐れもあります。

 これを防ぐために、改善計画の管理が必要になります。

 各部門の利益改善計画推進責任者は、定期的に改善の進捗状況報告書を作成し、経営トップに提出するようにします。

 進捗状況報告書は、テーマ推進責任者とメンバーの進捗状況(どれだけ推進しどんな成果が上がったか、当初の計画に照らしてどうか)、推進上の問題点、今後の進め方(計画通りか変更するか)などについて記入します。

 作成に当たっては、3ヵ月に1回程度、各部門長と経理部門、テーマごとの推進責任者が会議を開き検討します。

 状況が変われば、計画を修正する柔軟性も必要です。

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