企業コンセプトを確立する

自社のコンセプト

 会社経営において、コンセプトを確立することは非常に重要です。

 コンセプトが不明確であると、経営における様々な場面でブレが生じる要因となり、営業においても見込み客、新規顧客の心をつかむことが困難となり、リピート客へも不満や不安を与えることになります。

 企業コンセプトの構築に重要なことは、自社の経営理念の本質を理解することです。

 そして、コンセプトの確立は自社ブランドの構築において重要となります。

1 コンセプトの重要性

 コンセプトとは自社の特徴を簡潔な言葉で表現したものです。

 「自社は○○業です」というだけでは、たんに自社の業種・業態を「名刺」のように示したに過ぎません。

 コンセプトとは、その事業を通して「自社は何をやろうとしているのか」が、お客様に対しても十分に伝わるものでなくてはなりません。
 また、コンセプトを明確化するということは、競合他社との違いを理解してもらうことでもあります。

 「その他大勢」に埋没することなく、お客様に関心をもってもらうためには、コンセプトによって「自社ならでは」の特徴を鮮明にする必要があります。

2 自社コンセプトに必要な要素

 たとえば、ある飲食店が「豊かな食生活でお客さまを幸せにする」という方針を掲げていたとしても、それ自体ではコンセプトには成り得ません。

 コンセプトは、具体的でわかりやすく、お客様にとって魅力的でなければならないのです。
 そのためには、「誰に対して」「何を」「どうやって」提供するかという、3つの要素(事業コンセプト)を備えておく必要があります。

誰に対して(ターゲット

 自社はどのような特性をもった顧客層(ターゲット)に向けて事業を行いたいのか、どのようなニーズをもっている人をターゲットにしたいのか。

 市場を同質のニーズを持ついくつかの集団に細分化し、個々の市場にあった売り方が必要になってきたことで、企業は、売り込む先を自社の製品・サービスを最も欲するであろう特定の顧客に絞り込むことができます。「標的市場(ターゲット市場)」が選定できるのです。

 これにより、企業は自社のヒト、モノ、カネ、情報といった経営資源を使って集中的に標的(ターゲット)とする顧客に売り込むことで、効率的により大きな成果が挙げられるようになります。

何を(ベネフィット)

 ターゲットのニーズを自社の商品のもつどのようなべネフィット(便益)で満たすのか、商品にどのような価値を感じてもらうのか。

 自社の事業全体に関する「事業コンセプト」とともに、自社で扱っている個々の商品についての「商品コンセプト」も必要です。

商品コンセプトとは、「この商品はどのようなものか」「今までの商品とどこが違うのか」「誰がいつどこでどう使うのか」「メリットは何か」、等を一言で言い表したものです。

 「A」、「B」、「C」の3つの商品があれば、それぞれの商品を通じて顧客に届けたいベネフィットは異なります。

 コンセプトがまったく同じならば、そのようなラインナップにする必要はあません。

 似通ったコンセプトの新商品を投入すると、カニバリゼーション(自社の商品・サービスが自社の他の商品・サービスとシェア争いをする「共食い」現象のこと)を起こす可能性が高くなります。

どうやって(根拠)

 ベネフィットを可能にする自社独自の技術・ノウハウは何か、競合他社に比べてどの部分に優位性があるのか。

ポジショニング

 コンセプトを明確にする際には、その商品・サービスを、どのような相手に、どのように販売するか、を設定することです。

 自社の考え方を相手に伝える際にもよりわかりやすく表現することができます。

 顧客ニーズが多様化・複雑化している現在、販売の土俵を決めて戦力を集中しなければなりません。

 万人を対象に、あなたの扱う商品・サービスを販売すべきではありません。

 市場のどこで勝負をかけるか、「販売する土俵」(他社と違う土俵)を設定することがポジショニングです。

SWOT分析と事業領域(ドメイン)の決定

 自社の外部環境分析と内部資源分析を行い、強みと弱みを把握します。

 そして自社の事業領域(戦うべき市場)を設定するためには「どのような顧客集団(who)の」「どのようなニーズ(what)に対して」「どのような方法・技術(how to)で」が必要不可欠です。

 中小企業の基本戦略のひとつは専門化です。

 品揃え豊富なデパートを目指すのではなく、専門店を目指します。

 この実現のためにも顧客に提供する製品やサービスの独自性を強めることです。

 ニッチ市場でオンリーワンの地位を築けば、必然的に競争は回避され他企業に対し優位性を確保できます。

 限られた現有資産の中で確実に収益をあげるためにも、場当たりな自己流を断ち切ることが急務です。

 さらに、自社の強みを活かした営業展開も重要です。

 送り先であるマスコミに向け、自社の新製品・新サービスについての情報や記事を無料でメディアに取り上げてもらうプレスリリースの活用です。

 メディアに取り上げられることで、商品・サービスだけでなく、自社のイメージや信用力を向上させることも期待できます。

コンセプトを明確にするポジショニングマップ

 コンセプトを明確にする際には、「ポジショニングマップ」を活用することで視覚的・直感的に捉えやすくなります。

 また、自社の考え方を相手に伝える際にもよりわかりやすく表現することができます。

 ポジショニングマップとは、自社のコンセプトを顧客にどのように理解してほしいのかを示したものです。

 ポジショニングマップを作成することで、自社の「立ち位置(ポジション)」や競合企業の状況も明らかになります。

 

ポジショニングマップの作成手順

1 Key Buying Factor(購買決定要因:KBF)を設定する

 KBFとは、顧客が数ある選択肢のなかから、「この店で買う」「この商品を買う」と最終的に判断する購買決定要因のことです。

 自社にとっての複数のKBFを明確にし、そのなかから重要な2つの要因を縦軸・横軸にとって、ポジショニングマップを作成することが基本になります。

 KBFにはさまざまな種類があります。最もわかりやすいのは、「他店に比べて安い」「類似商品に比べて安い」という「価格」でしょう。価格に敏感な顧客は多少遠くても安い店に足を運びます。自分が必要とするニーズを満たしそうであれば、ほとんど吟味することなくもっとも安い商品を選ぶという顧客も数多くいます。

 また、「品質」も重要なKBFであることはいうまでもありません。

 日頃は価格に敏感な顧客であっても、自分のこだわりがある分野については、多少高くても品質重視で店や商品を選びます。

 自分のニーズをよりハイレベルで満たすために割高の支出を容認するのです。

2 競合状況を探る

 次に、自社だけではなく、競合他社がどのようなポジションにあるのかを書き出していきます。

「敵を知り、己を知る」ために、それぞれの立ち位置を可視化します。

 その際、事業の捉え方によって、競合とみなすべき相手の幅は変わります。

 たとえば、飲食業の場合、事業を広く捉えれば、同業者のほかに、コンビニ、持ち帰り弁当店、宅配専門店、デパ地下やスーパーの総菜売り場なども競合相手になります。

 しかし、自社が得意ジャンルの専門料理にこだわっているのであれば、同じ飲食業であっても、まったく違うジャンルの専門店は競合から除外して考えることもできます。

 ポジショニングマップによる分析で、自社の強みをいかせる有望な空白ゾーンを見つけることができれば、競争を避けた効率的な事業展開が可能になります。競争が激しくない新たな「種目」にエントリーし、独自の技を磨き差別化していくことができるのです。

 一般的に、ポジショニングマップ上に空白ゾーンがある場合、その理由は次の3つに分けられます。

①そのゾーンにはニーズがまったくないことが明白である

②そのゾーンのニーズが高いことはわかっているが、収益性の低さや技術的な困難さなどの理由で未開拓なままになっている

③潜在的なニーズの可能性はあるが、誰も気づかずに手をつけていない

 品質に比べて価格が高すぎる商品は誰も買いません。

 また、極端な「高価格・高品質」ゾーン、極端な「低価格・基本品質」ゾーンについては、ニーズがないのではなく、空白ゾーンが放置されていると考えることもできます。

 「より高い品質が得られるならばもっと高価格であっても構わない」、あるいは「さらに基本品質を絞り込むことで、もっと低価格にしてほしい」という潜在ニーズが眠っている可能性もあるのです。

このように分析していくと、自社の今後の戦略として、

・未開拓有望ゾーン進出に向けて、コストダウンや技術開発を強化していく

・潜在ニーズの可能性を探り、そのニーズに応えられる要件を研究していく

・現在のポジションが厳しい競合にあることは承知のうえで、「同じ土俵」でライバル企業に打ち勝っていくための方策を強化する

といった選択肢を検討することができます。

 

3 さまざまなKBFでポジションを確認する

 ここまで、「価格×品質」をKBFとしたポジショニングマップをみてきました。これ以外にも、「品揃え」「利便性」「機能」「操作性」など多くの業種・業態に共通したKBFがあります。

 これらを軸にしたさまざまなポジショニングマップを分析することで、競合他社との差別化を探ることが可能となります。

それぞれのマップのどこにポジションを置くかは、業種・業態によって異なります。たとえば、高級な専門ブランドショップのような業態に求められるポジションと、手軽なアクセサリーショップに求められるポジションは大きく違ってくるでしょう。
 自社のコンセプトに応じて適切なポジションをとること、さらには、自社がそのようなポジションで事業を行っていると顧客から認識されているかどうかを確認することが大切です。

 また、業種・業態独自のKBFもあります。製造業であれば、「技術力」「開発力」「設計力」「製造力」「納期」など、サービス業であれば、「居心地のよさ」「接客技術」「待ち時間」「予約の取りやすさ」などが重要なKBFとなるでしょう。

 自社のコンセプトを確立することはブランド構築に共通します。

 どんなに素晴らしい商品やサービスであっても、それを提案する従業員の品質レベルが低ければ採用されません。

 

商品のポジショニングマップ

 事業コンセプトとは、自社が「誰に」「何を」「どのように」提供するかを決定することです。

 事業コンセプトは、いかに先行する競合他社と差別化できるコンセプトを発案し、事業規模を拡大していけるのか、というシナリオ(筋書き)を明確にします。

 事業コンセプトは、「顧客ニーズの変化方向」と「事業のイノベーション方向を具体的に予測することで抽出できます。

(1)顧客ニーズの変化方向

 現在、3年後、5年後の顧客ニーズの水準がどうなっていくのかを予測します。プロジェクトメンバーを中心に徹底的に議論します。

(2)事業のイノベーション方向

 顧客ニーズの変化方向を予測すると同時に、業界上位の動向から、事業特性・技術革新・取り組むべきノウハウなどが どのように変化していくのかを予測します。

(3)事業コンセプトの抽出

 顧客ニーズの変化方向と事業のイノベーション方向の両方向から、総合的に事業の中核的考え方(事業コンセプト)を導き出します。

 原則として、3年後または5年後の中核的考え方を選びます。

 どちらを選ぶかは自社の実現可能性によります。

 自社の事業全体に関する「事業コンセプト」とともに、自社で扱っている個々の商品についての「商品コンセプト」も必要です。

 商品コンセプトとは、「この商品はどのようなものか」「今までの商品とどこが違うのか」、「誰がいつどこでどう使うのか」「メリットは何か」、等を一言で言い表したものです。

 「A」、「B」、「C」の3つの商品があれば、それぞれの商品を通じて顧客に届けたいベネフィットは異なります。コンセプトがまったく同じならば、そのようなラインアップにする必要はありません。似通ったコンセプトの新商品を投入すると、自社の商品・サービスが自社の他の商品・サービスといったシェア争いをする「共食い」を起こす可能性が高くなります。これは、食品などの価格差がなく、重複商品が多い業界で発生率が高いといわれています。それぞれの商品コンセプトは、その共通の土台となる事業コンセプトに合致したものでなければなりません。

 それぞれの商品コンセプトには「違い」が必要ですが、「矛盾」してはならない。まずは、自社の事業全体のコンセプトを確立し、それを踏まえたうえでベネフィットの異なる個々の商品コンセプトを固めることが大切です。

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